この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを!   作:山田プロキオン

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気付けば30話まで来ました。皆様、いつもありがとうございます


サキュバスのお店と処刑人の逆鱗

『ハァ〜、全く…アクアって本当に女神なのかな?僕にはどうも仕事休みにダラけるおっさんにしか見えないんだけど…』

 

「それは少しばかり同意するよクロっち」

 

 幽霊騒動が片付いた屋敷にて、錬太郎とア○ナ姿のクロっちは頬杖をつきながら、会話の主題となっている人物の1人、暖炉の前でだらしない様子でくつろいでいるアクアを瞳に捉えていた。

 

 少し遡ってのこと。最近ギルドから内職を紹介され、カズマは作業に勤しんでいたが、本格的に冬の季節になったため、手が悴んで思うように進まず、暖炉前のソファにやって来たのだが、そこには暖炉は自分のものとばかりにソファに踏ん反り返ったアクアがいた。

 

因みに借金は全て返済したのに何故カズマが内職をしているのかというと、自身らの借金を肩代わりしてくれた錬太郎へ時間をかけてもお金を返したいという単純な善意からである。まぁ、錬太郎はそのお金は貰わず、カズマに好きなことに費やせと言うつもりでいるのだが。

 

「おい駄女神、何おっさんみたいにソファに座ってんだよ。俺が作業するからちょっと退いてくれ、温まりたいなら暫く布団に戻ってくるまっとけ」

 

「絶対に嫌!ここは私の特等席よ?それにお布団は一度出ちゃうと冷めちゃうじゃない!そんなに私に戻って欲しいなら、お布団をレンジでチンして頂戴!」

 

 屋敷を手に入れてからか、少しばかり酷くなったアクアの自分勝手な物言いに、カズマは頭を抱える。そして説得が無理だと悟ると強硬手段に打って出ることにした。

 

「さっきから聞いてりゃ我儘ばっか言いやがって!いいだろうお前がその気ならカズマさんにだって考えがあるんだからな!」

 

「あら、強気じゃない?でも勝負しようにもステータスなら私の方が遥かに上よ?私の聖域を奪うものなら、例えカズマ相手でもにゅやあああああ⁉︎」

 

 カズマ式必殺、『首筋と背中にダブルフリーズ』になす術もなくアクア、撃沈。カズマ相手だとたかを括っていたのが仇となり、情けない声を上げながらソファから転げ落ち、先程よりもひんやりとした首筋と背中に手を当てて悶えるしかなかった。

 

「フン、口ほどにも無いな!という訳で暖炉は俺が使わせて貰うぞ。ほら、俺の手伝いをしないのなら後ろの奴らに遊んで貰え」

 

「何その扱い⁉︎私犬じゃないんだけど⁉︎」

 

 カズマは右手を靡かせてアクアを追い払うように促し、案の定というべきか、アクアはその扱いに喚き散らかす。

 因みに後ろの広間では、ダクネスとめぐみんがボードゲーム、錬太郎とクロっちがカードゲームをしていて、ゆんゆんは錬太郎達の激戦に目を輝かせていた。

 

ダクネスとめぐみんのボードゲームは、錬太郎とゆんゆんがしばしば遊ぶものと同一であるが、カズマはお気に召さなかったようで、二度とやらないと心に誓ったのはまた別のお話。

 そして錬太郎とクロっちのカードゲームはというと…

 

『ウィ〜ヒッヒ!この状態から逆転は難しいと思うよ錬太郎』

 

「どうかな?アタックステップ、太陽神龍(たいようしんりゅう)ライジング・アポロドラゴンでアタック!そしてフラッシュタイミング!マジック、バーニングサンを使用!」

 

『ウィ⁉︎そんなマジックあったの⁉︎』

 

「手札より夢幻(むげん)天剣(てんけん)トワイライト・ファンタジアをノーコスト召喚、ライジング・アポロドラゴンに合体(ブレイヴ)し、回復させる!」

 

 カズマも知っている日本にもあるトレーディングカードゲーム『バトルスピリッツ』である。なんと始まりの錬金術師達の内の1人、ソラが異界から齎したものらしく、以来アルケミアでは娯楽の1つとして楽しまれてきたのだ。

 

『ライフで受けて、僕の負けか…ていうか、ライジングの指定アタックとトワイライト・ファンタジスタの無限回復は反則でしょ⁉︎』

 

「よ〜し、勝ったから報酬は、プリンにしようかな?」

 

 錬太郎とクロっちが楽しそうにしているのを見て、カズマは今度一緒に対戦して貰おうかなと頭の片隅で考えた。一方、漸く寒さを耐えたアクアが何やら冒険者カードを取り出してカズマに見せつけてきた。

 

「カズマカズマ、これをご覧なさいな、今私のレベルはこのパーティの中でも1番上なのよ?最弱職の冒険者かつレベル20にも満たないひよっこの分際で甚だ図々しいわよ?わかったら暖炉を私に返して頂戴!」

 

 カズマは面倒臭そうにしながらも、突きつけてきたアクアの冒険者カードをまじまじと眺め始めた。成程、確かにレベルは上がっている。屋敷にいる悪霊達を一晩中浄化して回ったのだから、その分経験値も大量に手に入れることが出来たのだろう。カズマはアクアがパーティメンバーの1人として強くなっていることを頼もしく、感慨深く思う一方、一つだけ疑問に思うところがあった。

 

「アクア、お前のレベルの高さはよ〜くわかった。でもな、一つ聞きたい。なんでステータスは一切伸びていないんだ?」

 

「馬鹿ねカズマ、私は女神よ?元からステータスはカンストしているんだからこれ以上上げようがないじゃないのよ」

 

 アクアのステータスはこれ以上上昇しない。この事実はカズマの内職作業への意欲を一気に削ぎ落とした。

 

つまりこれからアクアがどれだけレベルアップしようとも、その残念でお粒レベルな知力しかないオツムは改善されないし、前世でどんな悪行を積んだらこんな数値になるんだという幸運値もどうしようも無いという訳だ。

 知らないという罪と知りすぎる罠とはこのことか…受け止めきれない事実にカズマはカードを取落とし、膝から崩れ落ちてしまった。その後アクアにカードを返却し、暖炉を譲ると、何処かへ出掛けてしまった。

 

そして冒頭に至るという訳である。

 

『ふぁ〜…ん"ん"…また眠くなってきた…最近色んなパーティの助っ人として参加してるから疲れが溜まってるのかな…』

 

「もう一回寝てくれば?クロっち最近働いてばっかりだしさ、休むのも時には大切だよ?」

 

『そうするよ…おやすみ〜』

 

 睡魔が襲ってきたクロっちはその場を後にして自室の寝床と向かう。そして錬太郎も気分転換に散歩に出かけようと、簡単に身支度を始める。

 

「じゃあ僕散歩行ってくるから。あとクロっち寝るらしいからあんまり騒がないようにね、眠っているのを邪魔されると嫌だろうし」

 

「了解だ。それと錬太郎、今日は私の実家から食べ物が送られてくるのだ。なるべく帰宅は早くするようにな」

 

「わかったよダクネス、いってきます」

 

 

 

 

 錬太郎が外に出ると、冷んやりとした風が肌を刺激した。寒さにはそれなりに慣れたつもりだったが、気温も日に日に下がっているのもあってか、シバリングの頻度はどうしても高くなる。ほうっと吐いた息が白い塊となって宙を舞った。その現象を少し面白く思ったのか、錬太郎は何度も息を吐いて、口から無数の白い群れを作り出す。空へ向かって息を吹き出すと、向かい風に押し返された吐息が錬太郎の前髪をくすぐった。

 

 数刻して体も温まってきて飽きたのか、錬太郎は漸く歩みを再開する。頬が緩みに緩みまくっているため、心の底から楽しんだようだ。特に目的地もなくぶらぶらと歩き続けていると、路地裏で誰かと話しているカズマを偶然見つけた。目を凝らして話し相手も確認してみると、この前のパーティ交換の件で交流のあったキースとダストだった。

 キースはともかく、アクセルの街でしばしば悪評を聞くダストと会話しているのは、錬太郎からしても心配になってくる。そして何より、3人ともどこか挙動不審だ。これは何かあるなと感じた錬太郎は、思い切って話の輪に入ることにした。

 

「ねぇ3人とも、こんな路地裏で何やってるのさ」

 

「おん、錬太郎?」

 

「「ゲッ⁉︎」」

 

 

 

 

 

 突然の錬太郎の乱入に、慌てふためくダストとキース。なんとかして誤魔化そうと考えたが、錬太郎相手には通用しないと考えたのか、ギルドに案内されると詳細を話してくれた。

 

「いいか、カズマに錬太郎。今から話すのは男性冒険者達の間での極秘情報なんだが、外部に、特に女性陣に漏らさないって約束できるか?」

 

 重々しくも真剣な顔つきのダスト。その気迫に押されてか、カズマはなんとか頷く。対する錬太郎は…

 

「内容によるかな…それがアクセルの街の滅亡に繋がる可能性があるとするのなら…」

 

テーブルに両肘を立てて寄りかかり、口元を両手で隠しながらダストに負けず劣らずの圧を発して返す。錬太郎としては、アクセルの街は自分にとって第二の故郷のような場所。その街に男性間とはいえ秘密を抱えているとなると、黙っている訳にはいかない。危険は芽の時点で始末すべきと考えているのだ。

 

「お、おい錬太郎…そんな国家転覆みたいな危ないもんじゃねぇよ!こほん、お前ら、サキュバスの見せる夢に興味はあるか?」

 

 朝から騒がしい人々で溢れ返るギルドの中で、ダストはカズマと錬太郎、そしてキース以外の誰にも聞こえないくらいの小さな声で告げた。

 

「その話詳しく」

 

ダストからの見聞にカズマはすぐに食いついた。

 

彼曰く、この街の路地裏ではサキュバスが店を経営しているらしい。サキュバスというのは、男性の精気を吸って生きる悪魔なのだが、なんとそのサキュバスとこの街の男性冒険者達は共生関係を築いているというのだ。

と、いうのもここは駆け出しの街。冒険者達に大したお金はなく、馬小屋暮らしが基本だ。その際、男女問わず寝床を共にするため、男性冒険者達は色々溜まるのだが、当然処理など出来るはずも無い。

そこで、サキュバス達である。彼女達の能力で男性冒険者達はいい夢を見させて貰い、その見返りとしてサキュバス達は精気を戴くという双方にとって大層利益的なことが可能となっているのだ。

 

「成程…性犯罪のない治安の良さと、この街に来た当初はやけに男性冒険者が多いなと思ってたけど、そういうことだったのか…」

 

「そういうことだ錬太郎。てな訳で、お前達も行くか?実は俺とキースもサキュバスのことを知ったのはつい最近でな、今日が初めてなんだ。どうだ?」

 

「いきます!」

 

「…まぁ、一応」

 

 錬太郎は怪しいものの、一応思い立った男児4人。目的のお店へいざ行かんとギルドの酒場を後にしたのだった。

 

「風俗店 みんなで行けば 怖くない

…ってアスラから聞いたけど、本当にそうなのかな…」

 

 

 

 

 大通りから離れた路地裏にて。一見何の変哲もない小さな飲食店だが、少年達は胸をときめかせる。そして代表してダストが店の扉に手をかけて開けると…

 

「いらっしゃいませ〜」

 

 そこには世の男どもの心を鷲掴みにして離さないであろう魅惑の体型をしたたくさんの女性達がいた。しかも殆ど素肌を晒しているため、初心な者なら目のやり場に困ってしまうだろう。

 店の中を見渡してみると辺り全体が桃色の装飾で、鼻腔を刺激する良い香りが漂っている。そしてやはりというべきか、男性客しかおらず、飲食物も殆ど置かれていなかった。さらに男性客達が、アンケートのような紙に血眼で興奮しているかのように何かを書き記しているという奇妙な光景が広がっていた。

 サキュバスの1人が錬太郎達をテーブルへ案内させると、メニューを片手に微笑んで話し始める。

 

「ようこそおいでくださいました。皆様は今日が初めてでしょうか?」

 

 サキュバスの問いにカズマ、ダスト、キースの3人が頷く。錬太郎も彼らに合わせてコクリと首を縦に振った。

 

「わかりました。では、私たちがどういう存在で、ここの街の男性冒険者様達とどのような関係を築いているのかもご存知でしょうか?」

 

 再度頷く4人。その返答に満足したのか、サキュバスはメニューとアンケート用紙を錬太郎達の手元に置いた。

 

「ご注文はご自由にどうぞ。勿論何も注文されなくても構いません。お会計の際に必要事項を記入したアンケートを渡してくださいね」

 

 カズマ達3人は手渡されたアンケートに目を通す。しかし錬太郎だけはメニュー表を手に取り、すぐに注文を行った。

 

「じゃあ、ホットミルク1つお願いします」

 

「かしこまりました、暫くお待ちください」

 

 錬太郎からの注文を受けて、サキュバスは厨房へと向かっていった。男達の理想郷を前にして、いつもと大して変わらない錬太郎の様子を信じられないという目でカズマ達は見ていた。

 

「なぁ錬太郎、お前正気か?」

 

「?いや正気も何も、ここは飲食店だから飲み物頼むのは正当でしょ?」

 

 ぐぅの音も出ない錬太郎からの正論。反論しようにも出来ないこの状況に3人は頭を抱えた。百瀬錬太郎という男には本能というか、性欲が存在しないのだろうか、と。このままではいけないと、ダストが口火を切る。

 

「いや…まあそうなんだけどな?ここでは淫夢サービスが受けれるんだぞ?夢の中だから自分や相手の状態、外見や性別も自由自在に出来るんだぞ?夢だから何でも許されるんだぞ?」

 

 ダストは伝聞ではあるものの、サキュバスの店の素晴らしさを錬太郎に熱弁し、カズマとキースも同調する。しかし錬太郎は難しいそうな顔をして返答する。

 

「う〜ん、よくわかんないんだよな…あんまり女性をそういう風に見たことなんてないし、したらしたで申し訳ないというか…」

 

かなり頑固な自論を展開する錬太郎。これは一筋縄ではいかないと見たカズマも参戦して説得に移る。

 

「まぁお前の言い分もわからんではないが、あくまで夢だ。夢だから別にいいじゃないか。それにお前だって一度は女の子に抱きつかれたいとか押し倒されたいって思ったことくらいはあるだろ?」

 

 カズマは巧みな話術で錬太郎へ訴えかける。錬太郎の意見に一部賛同しつつ、夢だから、と安全のラインを明確に示し、最後には自分の意見にも共感しやすい例をあげる。弁論の構成としては完璧な仕上がりである。

 しかし、錬太郎の続く発言が3人のSAN値を削ぎ落とした。

 

「思うも何も、クロっちに頻繁にやられてたし」

 

「「「は???」」」

 

 錬太郎からの予想外のカミングアウトに呆気に取られるカズマ達。錬太郎はテーブルに届けられたホットミルクを飲み、口を湿らせてから話し続ける。

 

「クロっちに抱きつかれたり床ドンされたりするのは2年前は日常茶飯事だったよ。まぁ慣れてきたけど。あといい匂いするからそんな嫌ではないかな…」

 

 そう、錬太郎はサキュバスに頼らなくとも男の夢を味わっていた。だからカズマ達と比べてそこまでソワソワしていなかったのだ。しかも追加で無意識に惚気てくるのだからカズマ達からしたら溜まったものではない。

 

「お前ェェェェ!!何抜け駆けしてんだよこの裏切り者!」

 

「そうだぞ!見損なったぞ錬太郎!」

 

 怒りと嫉妬の入り混じった形相でテーブルから身を乗り出して迫るカズマとダストに錬太郎はオロオロとしてしまう。

 

「え、ええ…取り敢えず!僕はこのサービスは受けない!居心地悪くしてごめんね!」

 

 錬太郎は席を立つと、レジへと向かい、会計を済ませて店を出ていってしまった。

 

「またのご来店をお待ちしております…」

 

 サキュバスの1人が錬太郎を見送ったのだが、何処か浮かない顔をしていた。その様子にカズマ達は気づいたようで、声をかけて尋ねた。

 

「あの…錬太郎がどうかしましたか?」

 

「いえ…あの人、物凄い量の精気を蓄えてまして…多分年単位かと…このままではいずれ健康に害が出るのではないかって…」

 

 サキュバスから告げられた事実に顔を見合わせるカズマ達。抜け駆けと言ってしまったが、錬太郎も錬太郎で苦労しているのだろうと考えを改めた。そして…

 

「錬太郎の為だしな…カズマ!一つ貸にしといてやるよ!」

 

「ありがとなダスト、でも金いいのか?」

 

「いいってことよ、錬太郎には借りがあるからな!」

 

 男同士の友情か、ダストは錬太郎の分のサキュバスのお代を払ってくれた。カズマも友である錬太郎を思ってのダストの行動に感謝していた。

 

 だが、この一件がよもや悲劇に繋がろうとは…

 

 

 

 

 夜の屋敷にて。今晩はいつになく盛り上がっていた。なぜなら…

 

「実家から霜降りガニが送られてきた!遠慮せずに食べてくれ!」

 

 ダクネスの実家から屋敷への入居祝いと、日頃の感謝を込めた霜降りガニが大量に送られてきたからだ。

 

「高級酒もついてきたわ!シュワシュワ禁止令も解けたことですし、今日は飲むわよ〜」

 

 食卓には沢山のカニがズラッと並べられ、錬太郎達6人はカニの足を取り出しては、忙しなく口の中へ運んだ。それは彼らが今まで食べてきたカニとは一線を画す程の美味さであったという。

因みにクロっちは未だ爆睡中であるため、食事には参加していない。錬太郎がそのことをダクネスに相談したところ、カニはまだまだ沢山あるので明日にでも食べて貰おうといくつか保存してくれると言ってくれたので、錬太郎はダクネスに感謝した。

 

「カニ美味しいですね、錬太郎さん」

 

「そうだねゆんゆん、僕も霜降りガニは初めて食べたよ」

 

「カニ、お酒、天国だわ…あ、そうだ!甲羅酒にしたら絶対美味しくなるわ!カズマさんカズマさん、ちょっと火を貰ってもいいかしら?」

 

 アクアが何かを思いついたらしく、手元にある小さな手鍋の中に炭を入れると、金網を敷いて、その上にカニの甲羅を置いた。

 

「いいぞ、『ティンダー』!」

 

 アクアに言われるがままに、カズマは初級魔法を用いて炭に火をつける。頃合いとみると、アクアは甲羅の中に酒を注いでいき、やがて口をつける。

 

「ほぅ…」

 

 あまりにも美味しそうに飲み干すアクアの様子に皆固唾を飲む。そんな中、カズマは一人席を立ち、食卓から去ろうとした。

 

「どうしたんだカズマ?まさかカニが口に合わなかったのか?」

 

「いや、そうじゃない。カニは美味しかったぞダクネス」

 

 不安を滲ませた声色で聞いてくるダクネスに、若干気まずそうにしながらカズマは答える。彼が席を離れようとしているのは酒の誘惑から逃れるためである。サキュバス曰く、酒を飲んで泥酔すると、夢が見れないというのだ。

 

「ダクネス、カズマは昼に冒険者達と沢山食べちゃったみたいでさ、今日はもう満腹なんだよ、ね?」

 

「え、あ、ああ!錬太郎の言う通りだ!ごめんな、ダクネス」

 

「む、そうだったのか…」

 

 普段と違うカズマの様子に大方サキュバスのことだろうと察した錬太郎は、昼の件の詫びも兼ねて、カズマに助け舟を出すことにした。ダクネスも納得してくれたようで、安堵したカズマは錬太郎にサムズアップを見せて感謝の意を伝え、その場を後にする。錬太郎もウインクをして、どういたしましてとカズマに返した。

 

「お酒で気分良くなってきたわ〜。ではでは、女神アクア様の芸をその目に焼き付けなさいなぁ〜」

 

 酒に酔った勢いでいつもよりも豪華な宴会芸を見せるアクア。その見事なパフォーマンスに、錬太郎、ダクネス、めぐみん、ゆんゆんの4人は目を輝かせたのだった。

 

 

 

 

「今日は色々あったな…そうだ、ダストやキースにも今度ちゃんと謝らなきゃ」

 

 アクアの芸も見納め、食卓の片付けも終えた錬太郎は、自室のベッドで就寝の準備をしていた。凍える体を布団に包ませて、ダストやキースに今日の件で何かお詫びを出来るだろうかと思考を巡らす。

 そんな時だった。何やら外から騒がしい声が聞こえてきたため、錬太郎は寝巻き姿のまま、眠りに入りかけていた重い体を動かして、声のする方へと向かった。

 

「何〜?皆どうしたの?」

 

 錬太郎が外に出ると、そこには怯えるサキュバスを睨みつけるアクア、腰にタオル1枚を巻いたカズマ、そして赤面しているめぐみんとゆんゆんがいた。

 

「私が張っておいた強力な結界にサキュバスが引っかかったのよ。多分カズマと錬太郎の精気を吸い取ろうとしていたんだわ!でも安心なさい、女神の私の手ですぐに浄化してあげるんだから!」

 

 錬太郎は何となく把握した。恐らくあのサキュバスはカズマに夢を見せるためにやってきたのだろう。浄化はさすがに可哀想だと思い、錬太郎は動こうとする。だが、その前にカズマがサキュバスを庇うように前に出た。予想外の行動に女性陣達は目を見開く。

 

「何をしているんですかカズマ、彼女は悪魔なのですよ⁉︎」

 

 めぐみんが訴えてくるものの、カズマは退く様子はない。さらにそこへ風呂上がりと思われるダクネスが激昂した様子で現れた。

 

「皆!カズマはサキュバスに操られている!夢がなんとかと訳のわからないことを口にしていたからな!よくも…よくも私にあのような辱めを…許さん!ぶっ殺してやるぅぅぅ!」

 

あのダクネスがここまでご乱心とは、カズマは何をしたのだろうか。しかしながら憤怒したダクネスを前にしてもカズマの意志は固い。

 

「仕方ないわね、カズマ。女神の私の手で、アンタの目を覚ましてやるわ!」

 

「パーティメンバーと戦うのは心が痛むけど…許してくださいカズマさん!」

 

「やるしかないようですね…カズマ」

 

 女性陣は戦う気満々だ。そしてカズマも拳を構えて咆哮を上げる。

 

「かかってこいヤァァァァァ!!!」

 

 今、対決の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

と、思われたのだが…

 

『五月蝿いな…』

 

 屋敷の方から何者かが低く声を轟かせる。クロっちだ。声色からして明らかに不機嫌である。しかも物凄い殺気を放っていて、先程のダクネスの比ではない。その恐ろしさたるや、アクアを含むその場の全員が恐怖で体を震わせる程であった。

 クロっちは光の消えた瞳でサキュバスを捉えると一言。

 

『君?君が騒ぎの原因なの?』

 

 サキュバスは答えない。否、答えられないのだ。恐怖によって言葉を思うように紡げないのだ。

 そんなのクロっちはお構いなしとばかりに、その手に巨大なハンマーを顕現させると、一気にサキュバスに接近し、

 

『君のせいで…騒がしくなって…眠れないんだ…連日の!クエストの!疲れが!取れないんだよォォォォォォ!』

 

勢いに任せてハンマーを振るう。幸い誰にも命中はしなかったものの、アクアの張っていた結界を見事に粉砕してみせた。

 

「う、嘘でしょ…わ、私の結界が…」

 

結界を破壊し終えてもクロっちは止まらない。ゆっくりと一同の方を振り向いた際に見せたその顔は、いつものおちゃらけたクロっちではない。仕事に追われ、この世界の理不尽に怒りを向ける処刑人そのもの。

次なる攻撃に皆が怯える中、錬太郎は一人、クロっちの背後に回る。

そして…

 

「ごめん、クロっち。こちょこちょ!こちょこちょ!」

 

『ふぇ⁉︎あ、あははははは!あははははは!ちょ、ちょっと錬太郎、やめ、やめてあははははは!あははははは!』

 

全力で脇腹を擽る。クロっちは大声で笑い、やがて脱力してその場に体を預けた。

 

「危ない…擬態したア○ナに引っ張られて暴れ散らされるところだった…」

 

 錬太郎はほっと安堵すると、皆の方にぺこりと頭を下げる。そしてクロっちを背負って屋敷の中へと戻っていった。

 

「クロっちって…怒るとあんなに怖いんですね…」

 

「うん…私も気をつけないと…」

 

残された5人は、二度とクロっちを怒らせないと心に誓った。そして一大事になる前に食い止めてくれた錬太郎に深く感謝するのだった。

 しかし、結界がなくなったこの一瞬、一つの影が屋敷の中へと入り込んだのは、誰も気づいていなかった。

 

 

 

 

「やっと眠れる…」

 

 錬太郎はベッドに戻り、今度こそ就寝しようとする。

その時だった。錬太郎の部屋に誰かが入ってきた。体を起こして確認すると、そこには布面積の少ない、肌の露出の多い衣装のゆんゆんが頬を赤くして立っていた。

 

「へ?な、なんでゆんゆんが…」

 

 錬太郎の質問に答えることはなく、ゆんゆんはベッドに歩み寄り、布団に潜り込んでくる。

 

『カズマさん、サキュバスに洗脳されちゃったんですよね…もしかして錬太郎さんも…』

 

「な、何を言ってるのさ!そ、そんな訳…」

 

『私じゃ…駄目ですか?』

 

 上目遣いと涙声で訴えてくるゆんゆん。悪いことはしてないはずなのに、錬太郎の体中から脂汗が流れ、胸の中が罪悪感に支配される。それにゆんゆんからの質問は非常に返答に困る。錬太郎にとってゆんゆんはパーティメンバーであり、仲間。当然色目で見たことなど一度もない。だが、ゆんゆんは…。

 頭を悩ませている間にも、ゆんゆんは錬太郎に密着し、身体を押し付けてくる。

 

「ちょちょちょちょっと…ゆんゆん⁉︎ん…何だ…頭がクラクラして…」

 

 刹那、視界が歪み始め、ゆんゆんの姿が消える。それに伴って錬太郎の意識も次第に遠のいき、やがて手放された。

 

 そして次に目を覚ました時には、錬太郎は真っ白な空間にいた。そこは見覚えがあった。ソラトスの変身したドレッドとの戦いで、生死を彷徨った際に訪れたあの場所だ。そして目の前には錬太郎もよく知るあの人物がいた。

 

「え、エリス様⁉︎なんで⁉︎」

 

「錬太郎さん、貴方は今、生死の狭間にいます…」

 

 

 

 

「え⁉︎ダストにより派遣された新人サキュバスに適量以上の精気を吸われてカラカラに干からびた⁉︎なんで⁉︎なんでなのダスト⁉︎」

 

 錬太郎は頭を抱えて困惑しながら叫び散らかす。エリスも同情しているのか、五月蝿いであろうにも関わらず文句は一つも言わなかった。

 

「錬太郎さん、安心ください。もうすぐ後ろの門が開くのでそこから戻ってくださいね」

 

「はぁ…エリス様、色々ごめんなさい」

 

「いえいえ」

 

 仲間達の元には戻れるとのことで落ち着きを取り戻した錬太郎。そんな彼を安心したような慈愛の籠った瞳でエリスは見つめた。このまま問題がなく物事が進むと思われた。そう、思われ()のだ。

 

『ザ、サーーーーーン!!!』

 

 聞き覚えのある声が響くとともに錬太郎の周囲を炎が包み込む。まただ。またあの展開である。先程の安堵した表情から一変、エリスは慌てふためき始めた。

 

「え、嘘⁉︎またですか⁉︎待って、やめてください!非正規ルートで戻られるとまた始末書が…お願い、錬太郎さん扉開けます、開けますからそっちで帰ってくださいお願いします!」

 

「へ?え…えーとエリス様…ごめんなさい!」

 

 エリスの懇願虚しく、ザ・サンの炎に包まれ、錬太郎は消えてしまった。その後、呆れた顔をしたアポロスから前回の2倍の量の始末書を手渡され、エリスは泣きながら徹夜したのだった。

 

 

 

 

「錬太郎さぁぁぁん、よかったよぉぉ!私…今度こそ駄目かもって…」

 

 錬太郎が目を覚ますと、滝のように涙を流したゆんゆんが胸の中に飛び込んできた。また心配をかけてしまったなと1人反省し、錬太郎はゆんゆんの背中をさすり、頭を撫でてあげた。

 

「結界を破られた隙にサキュバスに侵入されてたのね…迂闊だったわ…ていうかあのサキュバスはどうして錬太郎のところに来たのかしら?カズマさんでもいいと思うんだけれども…」

 

「エリス様曰く、ダストが向かわせた的なこと言ってたけど…」

 

「…そっか、そうなんですね…」

 

 錬太郎とアクアの会話を聞いたゆんゆんはゆっくりと錬太郎の胸から離れ、ニッコリと笑みを浮かべる。しかし瞳は光を失っていて笑っていない。少しおかしなゆんゆんに、錬太郎とアクアは尋ねる。

 

「ゆ、ゆんゆん?大丈夫?」

 

「なんか、昨日のクロっちみたいな感じがするんですけど…」

 

「大丈夫ですよ…錬太郎さん、アクアさん、フフフ…」

 

 今回の一件により、錬太郎は二度とサキュバスの店には近づかないと強く心に誓った。

 

 一方で、何者かによってボロボロにされたダストが発見されたらしい。




クロっちの中のアリナ、目覚める!
錬太郎、死にかける(2回目)
エリス様、倍の始末書により胃に穴が開く…かもしれない
錬金事変以来戦い続き+クロっちとの過度なスキンシップをずっとしてたからそりゃ溜め込んでるよね…って感じで。

ダストは…次期族長にシバかれました。はい…

次回はいよいよあの機動要塞!個人的に書きたいパートまで来れたのでこれも読者の皆様のお陰です。これからも宜しくお願いします。

次回予告
『ふたりは爆裂魔法使いプリ「言わせねぇよ⁉︎」』

えみりんの再登場は…

  • 早くていい
  • 運命の日までお預け
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