この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを! 作:山田プロキオン
思いの外展開に行き詰まってしまった+学校から出された大量の課題とテストの影響で遅くなってしまいました…ごめんなさい
目の前の現実をガッチャードは到底受け入れることができない。眼前のマルガムはクロスウィザードとパーティの一員であるゆんゆんが結びついた存在なのだと。
戦意を失いかけているガッチャードだったが、そんなのマルガムには関係なし。棒立ちのガッチャード目掛けて、強力な魔法攻撃を叩き込む。
「『ファイア・ボール』」
「なっ⁉︎グハァァァァァ!!」
油断し切っていて、ガッチャードは無数の火球をその身に受けて、地面に倒れてしまう。さらにマルガムの攻勢は止まらない。
地に身を投げ出しているガッチャードに馬乗りとなって、拳を何度も何度も打ちつける。
「(一発一発が重い…でも、なんだかゆんゆんは苦しそう…)」
『(錬太郎、聞こえる?僕だよ、クロスウィザードだよ!)』
相手が相手であるため、中々攻勢に移ることの出来ないガッチャードの脳内にクロスウィザードことクロっちの声が響いた。
「クロっち⁉︎クロっちなの⁉︎」
『(うん…なんとか意識を取り戻して…でもこれもいつまで持つかわからない。錬太郎、ゆんゆんはネガマスクの見せた幻覚で心に深い傷を負って、ロードに封印された僕と強制的に融合させられてしまったんだ…)』
クロっちは掠れゆく意識の中、なんとか力を振り絞って魔法を使い、ガッチャードにゆんゆんが味わった凄惨な地獄を記憶を通じて伝える。
「(これは…僕達の幻覚を見せられて酷いことを言われたのか…ロードの奴…なんて、なんて残酷なことを…)」
『ワ、ワープ!』
一方で、ガッチャードとゆんゆん双方の危機を感じたワープテラは、ガッチャードのカードホルダーから飛び出すと、自慢のワープ能力を使って救援要請に向かった。
キールダンジョン。それはかつて世間にその名を轟かせたアークウィザード、『キール』の名が取られたダンジョン。
このダンジョンが生まれた経緯だが、キールの腕を高く評価した当時の王が、キールに願いを一つ叶えると告げ、キールは王に嫁いでいたお嬢様を要求したのだ。
そのお嬢様は王の機嫌を取るために嫁がされたらしく、愛しては貰えなかったそうだ。そんな彼女に恋情していたキールは、お嬢様を攫い、国を敵に回して愛の逃避行に身を投じた。そして最終的にリッチーとなったキールがお嬢様と共に立て籠ったのがこのダンジョンだった。
そんなキールだが、ダンジョンの奥深くで眠りについていたところを神聖な力を感じて目覚めたらしい。その力の持ち主は言わずもがなカズマと共にダンジョンに同行したアクアである。
キールはアクアに懇願した。自身を浄化して、未練なく天へと旅立ったお嬢様、妻の元へ連れて行って欲しいと。
アクアはキールの願いを聞き入れた。女神の名の下に人間を捨てたキールの罪を許し、安らかな眠りの旅を授けた。
キールは深く感謝し、穏やかな様子で成仏していった。この世を去る直前に、近くにある宝を御礼として持って行ってくれと残して。
こうして、愛に生きた1人の魔法使いの最後を見届け、宝も手に入れたカズマとアクアは外で待機するめぐみんにその話を聞かせ、3人は仲良くギルドへ戻りました。めでたしめでたし
となるはずもなく…
「うわぁぁぁぁぁん!」
「つまりダンジョンの帰りでアクアの力に引き寄せられたアンデッド達を前に、カズマは潜伏スキルを使って1人逃げてきたという訳ですか…」
「あんまりよぉぉぉ!確かに私のせいかもしれないけど置いていかなくたっていいじゃない、せめておんぶしてよぉカスマさぁぁぁぁん!」
「うるせぇ!カスマ言うな!あんな大量のアンデッド前にしたら反射的に潜伏するのは当然だろ!あとお前重いだろうから背負うのは無理だから!」
「うわぁぁぁぁん!カズマが!カズマが言っちゃいけないこと言ったぁぁぁぁ!」
「この男…女子が気にすることをなんの躊躇いもなく言いますね…」
終わりよければ全て良しなのに…、相変わらずコントに移り、締まるところで締まらないカズマ達。その時だった。
『ワープ、ワープ!』
「ん?ワープテラではないですか!そんなに焦って何かあったのですか…」
「ふむふむ…ほぅほぅ…なんですって⁉︎」
「どうしたんだ、アクア?」
「錬太郎とゆんゆんがピンチらしいわ!急いで手を貸して欲しいって!」
アクアにより翻訳されたワープテラからの伝言にカズマとめぐみんは顔を見合わせる。そしてこうしていられないとばかりに、ワープテラの手を煩わせないように一箇所に集まると、
「よし、ワープテラ!頼んだぜ!」
『ワープテラ!』
ワープテラによって赤黒いゲートが出現してカズマ達を吸い込み、一同はダンジョンを後にしたのだった。
一方こちらはガッチャード達。マルガムとなったゆんゆん相手にガッチャードは攻撃する訳にもいかず、防戦一方だった。
それでもなんとかしようと、ガッチャードはウィザードマルガムに馬乗りにされながらも、彼女の肩を掴んで揺らし、必死に訴える。
「ゆんゆん、ごめん!幻とはいえ君に心無い言葉を浴びせて苦しめた…ごめん、本当にごめん!こんな事を言うのは傲慢だってわかってる…でも!絶望に、負の感情に飲み込まれないで!お願い、頑張って!」
「レン…タロ…サ…」
ガッチャードの声が届いたのか、マルガムは攻撃を止める。刹那、ガッチャードの身体から七色に輝く炎がマルガムを包み込み、穢れた姿を洗い流していく。そして…
「あれ…錬太郎さん…私…」
ガッチャードの目前にいたのは、マルガムではなかった。虹の炎によりマルガムの姿から元に戻ったゆんゆんだった。
大切な仲間が戻ったことを安堵したガッチャードは変身解除した後に勢いよくその身を起こし、ゆんゆんを力一杯抱きしめた。
「ふぇ⁉︎ちょ、ちょっと錬太郎さん⁉︎」
突然のことに混乱しながら、熟れたトマトのように顔を真っ赤にするゆんゆん。しかし錬太郎はお構いなしだ。自身の腕の中でモゾモゾ動くゆんゆんをくすぐったく感じながらも、心からの言葉を綴った。
「良かった…元に戻って…君は僕にとって大切な人だから…本当に良かったよぉ…」
「錬太郎さん…それって…」
錬太郎の言葉にゆんゆんの頬は益々赤く染まる。もしかしてこれはそういうことなのではないかと。
「お〜い、錬太郎!ゆんゆん!助けに来たぞ!って…」
しかしタイミングが悪かった。ゆんゆんが錬太郎に真意を尋ねようとした丁度その時、ワープテラにより転移されたカズマ達がやって来たのだ。
細かい事情を知らないカズマ達からしたら、錬太郎にゆんゆんが対面状態で抱きしめられているというどこぞの恋愛マンガのワンシーンのようにしか見えないのだから当然誤解は生まれるもので…
「おいぃ!ワープテラからピンチだって聞いたから急いで来たってのに何イチャイチャしてるんだよお前ら!」
「ま、まさか2人はそういう関係だったのですか⁉︎ゆんゆん、どういうことか説明してください!このことは族長に話さなくては…」
「な、何いってるのめぐみん⁉︎ち、違うから、私と錬太郎さんはその…別に…」
カズマ達の追及の嵐に反論するゆんゆんだが、途中で言葉を区切って俯いてしまう。
羞恥心故に俯いてしまったこともそうなのだが、それとは別にもう一つの思いがあった。しかしゆんゆん自身、この時はその気持ちに気づいてはいなかった。
「ハァ〜感動だね…でも、な〜んか綺麗すぎて気に入らないや…」
突然、どこからか声が聞こえる。聞いただけで嫌悪感を示し、吐き気を催す声が。5人が声の主は何処かと辺りを見回していると錬太郎とアクア、そしてめぐみんの周りにタコのような触手が出現して3人を捕縛した。
「な、なんだこれ⁉︎」
「ぬ、ヌメヌメしてなんか気持ち悪いです!」
正体不明の攻撃を前に戸惑う一同。そんな彼らの前に1人の男と1体の怪物が現れた。
男は一部金色の装飾が施された黒いスーツに身を包み、丸渕メガネを掛けていて不敵な笑みを浮かべている。怪物は鬼のような容姿に身体からタコの触手のようなものを生やしている。
そう、ロードとソラトスの変貌したオーガマルガム クラーケンミクスタスである。
「まさか、賢者の石本来の力である浄化と錬成強化の虹の炎が発現してしまうとは…」
「予想外とはいえ、まだチャンスはあるよ。ソラトス、ゆんゆんちゃんを連れて帰りな。彼女はまだ利用価値があるしね…。私は百瀬錬太郎の中の力を引き摺り出すため最後の作業に取り掛かることにするよ」
「わかりました、念のため百瀬錬太郎の捕縛は強力にしておきます。いくぞ、小娘」
「あ、嫌、錬太郎さ…」
ソラトスに無理矢理手を引かれながら、ゆんゆんはロードによって生み出されたゲートへと姿を消してしまった。
「ゆんゆん!くそっ、身動きが…」
今すぐにでもゆんゆんを追いかけたい衝動に駆られる錬太郎だが、触手の締めつける力になす術もない。
「さて、お話しようか、カズマくん」
ロードは唯一自由であるカズマの方を向くと、下衆じみた笑みで見据えるのだった。
「お断りだ!大和撫子な綺麗な女の人ならまだしも、お前みたいな気持ち悪い奴とお話なんて死んでもごめんだね!」
「ん〜?それは残念。折角女神アクアのせいで人生を滅茶苦茶にされた転生者同士仲良くなれると思ったんだけどね〜、仕方ない…」
ロードのおちゃらけた声が、一瞬にして低くなり場の空気が変わる。次の瞬間、ロードは自身の右手に聖剣を出現させると、地面を勢い良く蹴ってカズマに肉薄し、聖剣を振りかぶった。
「ッ⁉︎」
「カズマ!」
ロードの攻撃にめぐみんが声を上げる。
間一髪、ロードの攻撃を躱したカズマだったが、今の攻撃はまともに受けたら即死していたと本能に告げられた。ロードの方へ視線を移すと、剣の柄を握りしめて再度攻撃態勢に入っている。
「(アイツの攻撃は一発喰らっただけでもまずい…なら武器を奪わなきゃだが…いつものアレでいくか!)」
ロードが自身に再接近したのを確認すると、カズマはロードの足下に向かって魔法を放つ。
「『クリエイト・ウォーター』!からの『フリーズ』!」
そう、カズマの得意分野である初級魔法の合わせ技。一つ一つの魔法は戦闘においても然程役に立たない初級魔法だが、組み合わせるとなると話は別。一瞬にしてロードの体制を崩し、ここを好機とばかりにカズマは右手を伸ばした。
「いっけぇぇぇぇぇ!『
盗賊スキルである窃盗が発動し、カズマの手の中にロードの聖剣が収まる。窃盗は使用者の幸運値に準拠し、高い幸運値を誇るカズマは高確率で目当てのものを盗むことができる(例外あり)。今回はロードの手持ちがないこともあり、あっさりと成功した。
「へっへ〜!どんなもんだ!最弱職の冒険者だからって侮んなよな!俺だってやる時はやるんだよ!」
「わー、カズマさんがなんかかっこいいこと言ってる…」
珍しく活躍するカズマを前にアクアも感嘆と困惑の混じった声をあげていた。しかし、アクアはどうも気掛かりなことがあった。
「(あの聖剣って、あの子に与えた特典だったかしら?)」
「そ、そんな…私の聖剣が…
うっ、うう…
な〜んちゃって!フン!」
右手を前に突き出して握り締めるロード。刹那、無数の巨大な棘が出現してカズマの身体を貫いた。
「ガハッ…な…なん…だよ…コレ…」
「ふふふ、油断大敵。私の転生特典を侮ったね。私の転生特典は…
敵から能力を奪うもの…
今まで数多くの転生者や冒険者から奪って来たよ…」
口から血を垂れ流すカズマを様子を、ロードは気味の悪い笑みを見せながらジロジロと眺める。そして指を弾いて鳴らすと杖を出現させて、天高く掲げた。
「さて、幕引きだ。そうだな…折角だから百瀬錬太郎の母親から奪ったコレにするか…」
「や、やめろ…やめろロード!!!」
ロードの思考を読み取った錬太郎は声を荒げる。しかし、そんなことどこ吹く風の如く、ロードはあっけらかんとしながら告げた。
「やめな〜い♪切断魔法…『スライス』」
ロードの掛け声と共に魔法が放たれた。鋭利な刃の魔法は、カズマの首を一瞬で切り落としてしまった。
「はい、おしまい♪」
「か、カズマァァァァ!!」
火事場の馬鹿力か、アクアとめぐみんは触手による拘束を振り切ると、大急ぎでカズマの亡骸へ走り寄った。
一方で錬太郎は、虚な目のまま、カズマの元へ駆け寄る2人をぼんやりと眺めていたのだった。
心の奥底に、深い闇を溢れ出しながら…
カズマの頭が宙を舞った。血飛沫を上げたかと思うと、鈍い音を立てて地面に転げ落ちる。アクアとめぐみんが慌てて駆け寄ってる。めぐみんは悲しみが大きいのか泣いてる。
まただ…また守れなかった…
力を持つ者としての責務を何一つ果たせていない。
錬金事変のあの日も、ロロ叔父さんのときも、
ゆんゆんも、クロっちも、そしてカズマも…
僕は何も出来ない、守りたいものは
情けない、不甲斐ない、何度、何度後悔した?
許せない、許さない…ロード、ネガマスク!
力、もっともっと力があれば…力が…
「ゔあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」
ロードによって命の灯火を消されたカズマを目の当たりにしたことが最後のトリガーとなり、錬太郎は慟哭を上げた。その悲しみと悔しさ、怒りに大地は圧倒され、恐怖したように震動する。
そして錬太郎の身体から噴き出した黒い炎は、その小さい身体では収まりきらない程の溢れ出す負の感情のままに、拘束していた触手を焼き切ってしまった。
「ヴッ…ア"ア"ア"…」
涙でぐしゃぐしゃになった、されど鋭い視線の顔でロードを睨みつけ、
黒い炎はより一層強く燃えたぎり、カズマの亡骸の前でカズマの復活を待っているアクアとめぐみんに怖気を抱かせた。
「な、何やってんのよエリス!早く!早くカズマを復活させなさい!このままじゃ錬太郎が…錬太郎が…」
「女神エリス様を呼び捨てするのには色々思うところがありますが、言ってる場合じゃありませんね…カズマ、酷なこと言いますが戻ってきてください…お願いします」
傍若無人ないつもの様子など影も形もなく、ただ焦る二人とは対照的に、ロードはケラケラとしながら作戦は成功とばかりに歓喜の声を漏らす。
「素晴らしい、黒い炎がもう少しで覚醒し、マルガムとして引き出させる…さぁ、暗黒に染まれ!百瀬錬太郎!」
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」
錬太郎の中の虹の卵が、爆発するほどの負の感情を受けて最大限にその力を解き放つ。今、賢者の石の力が最悪の形で顕現する…
はずだった。
『ホッパー!』
『スチーム!』
突然錬太郎のベルトに収まっていた2枚のカードが飛び出す。ホッパー1とスチームライナーだ。2体はそのまま錬太郎に取り込まれ黒い炎と共に錬太郎の姿を変える。
ガッチャードとは似ても似つかない醜悪な化け物に。
「まさか…自らの身を犠牲に賢者の石の力を封じ込めたのか…あのケミー達め、せっかくの私のケミストリーを…」
「ロード…ロード… あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
黄金の素体をベースに、両腕に列車を模した武装を装着し、全身が包帯で覆われた飛蝗の怪人ーー
ホッパーマルガム ライナーミクスタス
又の名を…ガッチャードマルガムの誕生である。
錬太郎闇堕ち回でした
原作で冬将軍の時に意外とさらっと流されていたカズマの首チョンパが錬太郎の過去のトラウマを再燃させ、マルガム化の最後のトリガーとなるのは当初から想定しておりました
ガッチャードマルガムは、ガッチャード本編に登場したホッパー1マルガムを金素体にして、両腕にアイアンガッチャードの武装をしているイメージです。
最初、ウィザードマルガムをゆんゆんに戻していた虹の炎ですが、ソラトスの言う通り、浄化と錬成強化が本来の力だったりします。
そしてロードの転生特典は、敵の能力を奪うものです。これまで何人もの転生者、凄腕冒険者やモンスターから強奪しています。
錬太郎の母である舞からも同様に奪っており、舞が冒険者業を退いたのもこのためです。
この先どうなるのか、それはまた次回で
次回予告
「決壊と再臨するヴァルバラド」