この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを!   作:山田プロキオン

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バニルさん、やっと出てきたね!

あとあの人が帰って来ます


アイツの帰還と見通す悪魔に驚愕を!

 ほんの少し曇天に染まる夜空の下、カズマの徒党はキールダンジョンへと向かっていた。ここ最近、キールダンジョンで正体不明のモンスターの出没が相次いでいるとのことで、最後にダンジョンを訪れたカズマ達に疑いが向いたのだ。

 当初こそ疑いすぎだと考えていたカズマだったが、事情聴取のためにパーティメンバー全員が集められた際、アクアがとんでもない証言をした。

 

「キールダンジョンならモンスターが蔓延らないように私がとびきり強い魔法陣を布いておいたわよ!」

 

 全く、カズマの連れである駄女神様は定期的に起爆剤を投下しなければ死ぬのだろうか。

 その発言によってカズマ達に非がある可能性が濃厚となり、ダンジョンの調査兼後始末として検察官セナの手引きの下、ダンジョンへと同行するに至っている。

 

「ところでセナさん、ダンジョンに出没するモンスターってどんな感じなのですか?」

 

「ああ、それは…皆さん、到着しました!他の冒険者さん達も…もう集まってますね!」

 

「ここに来るのも久しぶりだな…むっ、敵感知に反応がある!かなり多いな…」

 

 ダンジョンに到着するや否や、カズマの敵感知が反応する。数が多いことを告げているに、恐らくダンジョン内で跋扈しているモンスター達なのだろう。

 そしてその敵感知に呼応するかのようにダンジョン内からぞろぞろと現れるものが。

 

「ん、あれ?人形?」

 

「変な仮面付けてるけどちっこいし、何処か愛嬌あるなぁ…」

 

 拍子抜けとも取れる魔物の正体に皆間抜け顔になってしまう。まさか警戒していたモンスターがゆるゆるな人形達だったとは。そんな中、アクアはただ1人親の仇を睨むような目で人形を捉え、石を構えた。

 

「女神の勘からして、なんかこの子達気に入らないわ!!」

 

 物騒な物言いだが、人形の1体がそそくさとアクアの元へ駆け寄った。最初こそ戸惑うアクアだったが、その何処か甘える様子に愛着が湧いたらしく。

 

「あ、あらあら。もしかして甘えたいのかしら?やぁね、そうと感じるとなんかとっても可愛いらしく見えて…なんか段々と熱くなってるようなのは気のせいかしら?」

 

「おいお前らアクアから離れろ!嫌な予感がする」

 

 カズマの指示により、皆アクアから距離を取る。そしてその予感は見事に当たり、人形が光り輝き、大爆発を起こした。

 

「ボエバァァァァァァァァ!!!」

 

 到底女神とは思えないくらい情けない悲鳴をあげて、アクアは爆発に巻き込まれた。しかし幸運なことに、持ち前の高ステータスのお陰で死ぬことはなかった。

 

「ほほう、成程成程。確かに厄介なモンスターが量産されているなぁ…」

 

「となると、その元凶の討伐を急がないと取り返しのつかないことになるかもしれないね…」

 

「ちょっと!カズマに錬太郎!何で冷静に分析してるのよ!私爆発に巻き込まれたんですけど⁉︎もうちょっと気にかけてくれてもいいじゃない!」

 

 喚き散らかすアクアをよそに、カズマ達は作戦会議を始める。

ダンジョンの入り口の周りに蔓延る人形の対処に何人かの冒険者は残ってもらい、ダンジョンに向かうのは人形の爆発にも耐えうるダクネス、様々な魔法で支援することが可能なゆんゆん、スキルの組み合わせが多彩で、セナから封印の札を渡されたカズマ、基本的に不慮の事態以外は対応できる錬太郎を中心に編成された。

 めぐみんはザ・サンの加護で爆裂魔法の調整が出来るとはいえ、狭い場所でかつ大勢がいる中での爆裂は危険として待機、クロっちも万が一の事態を考えて地上に待機、アクアは何をやらかすはわからないので何もするなと言われて待機となった。

 

「よし、んじゃあ出発!」

 

 カズマの合図を皮切りに冒険者達はダンジョンへと入っていく。ダンジョンの通路にもやはり人形達がいたのだが、ダクネスのスキルである『デコイ』に引き寄せられ、何故かダクネスの剣が命中することもあって思いの外サクサクと進むことが出来た。

 そして遂にアクアの魔法陣のある場所へと到着したのだが、そこには何やら胡座をかいて座る怪しげな人物が1人。

 高そうな黒のタキシードをその身に纏い、人形達が付けていた仮面と同じものを付けていて、何やら土のようなものを捏ね混ぜて人形を作っていた。どうやら彼が元凶のようだ。

 

「アイツみたいだね、皆」

 

「ああ、幸運なことにまだ俺たちには気づいていないみたいだな…」

 

「ここで激しくしたらダンジョンが崩れるかもしれないですし…」

 

 ゆんゆんからの言葉に皆頭を抱える。そう、ここはダンジョン。下手に強い攻撃を繰り出すとダンジョンそのものが崩壊する可能性がある。悩み悩む中、錬太郎のホルダーからホッパー1が飛び出てアドバイスを送る。

 

『ホッパー!』

 

「そうだねホッパー1。もう少し様子を見て「貴様!こんな所で何をしている!」…どうして出ていっちゃうのかなダクネス…」

 

 折角ホッパー1からの助言を貰ったというのに、率先して仮面の人物へと迫るダクネス。仮面の人物も漸く気づいたようで、ゆっくりと振り向いて徐に腰を上げる。

 遠目から見ても長身なのは明らかで、カズマパーティの中でも背の高いダクネスよりもさらに高い。カズマ達を見据えるや、仮面の人物は怪しげに口角を上げて話し始める。

 

「これはこれは。まさかここまで辿り着くとはな。ようこそ冒険者諸君!我輩の名はバニル!悪魔達を率いる地獄の公爵にして魔王軍幹部が1人である」

 

 

 

 

「魔王軍幹部か、それならここ最近モンスター達が恐怖で活動を控えているのにも納得がいくね…。おまけに地獄の公爵。肩書きから察するにベルディアだけでなくマクスウェルの同胞でもあるのか、アンタ?」

 

「ほう、スケベな中年剣士はアクセルの街に出向いたからまだ分かるがマクスウェルだと?彼奴(あやつ)とも交流があるのか?ふむ…」

 

 バニルと名乗る悪魔は錬太郎の前に手を翳すと、念じるようにして何かを読み取る。暫くすると再び口角を上げ、上擦った声で話し始めた。

 

「なんと!汝らは悪徳領主に利用されていた我が同胞を間接的にとはいえ解放してくれたのか!結果的にマクスウェルは永遠に悪感情を摂取することが出来るようになったとは!

奴の同族として代わりに礼を言おう、となると奴の恩人にあたる汝らとの争いは我輩としては避けたいのだかな」

 

「まさか…アイツ錬太郎の頭の中を読んだのか⁉︎」

 

 バニルの所業に驚愕するカズマ。対してバニルは不敵な笑みを浮かべて自身の詳細を語る。

 

「如何にも!我輩は見通す大悪魔!この世の全てを見通すことなど造作もない!

しかし…錬金小僧、貴様の人生ちと壮絶すぎやしないか?ここまで過酷な人生我輩も見たことないぞ。内心引いている」

 

 余裕そうな態度から一変。どこか錬太郎を労るように声をかけるバニル。地獄の公爵といえども、故郷を滅ぼされ、仲間達を失い、社会から蔑まれ、同族殺しを続けたその半生には動揺を隠せなかったようだ。

 

「まぁ、僕の人生は置いといて。アンタはどうしてここに?何か理由があるんだろう?」

 

「勿論。魔王の奴に変態剣士を倒した漆黒の戦士についての調査を依頼されてな、そして働けば働く程貧乏になるポンコツ店主に会いにこの地に来たという訳だ」

 

 バニルの言葉に錬太郎とカズマは顔を見合わせてヒソヒソと会話する。ベルディアを倒した漆黒の戦士の中の人はバニルの目の前におり、ポンコツという言葉が似合う店主など、アクセルの街のリッチーだけだと分かったからだ。

 

「十中八九ウィズのことだろうな」

 

「どうする?ベルディア倒したのカズマだって伝える?」

 

「やめろ!そんなことしたら俺がどうされるかわからないだろ!」

 

 錬太郎の提案を必死で却下するカズマ。そんな中、今まで静かだったダクネスが口を開くと同時に大剣を構えた。

 

「兎に角、魔王軍幹部かつ悪魔である以上、女神エリス様に仕える騎士として見過ごす訳にはいかん!」

 

「ほぅ?我輩に挑むというのか?魔王より強いバニルさんと定評のある我輩にか?度胸は立派であるな、緑の小僧に風呂場で裸を見られた際に割れた自身の腹筋まで記憶されたか不安で仕方ない娘よ!」

 

「ふっ、ふふふ腹き…ななな何を言うか貴様!カズマ!見間違いだ!私の腹筋は断じて割れてなどいない!!」

 

「いや裸見られたことには突っ込まないの?」

 

 錬太郎の問いもご尤もであるが、ダクネスからしたら腹筋の方が気になるのだろう。慌てふためくダクネスを見てバニルは愉快そうに笑い。

 

「フハハハハハハ!羞恥の悪感情、実に美味である!

まぁ落ち着いて話でもしようではないか。」

 

 

 

 

 バニルの話によると、彼はウィズと同様、魔王城の結界を維持するためのなんちゃって幹部であるらしく、人間の悪感情を主食としている。

バニルにとって、飯を提供してくれる人間を(あや)めることは彼のポリシーに反しているらしく、人間を襲うことはないのだという。

 ちなみに悪感情と言っても、悪魔ごとに好みは異なるとのこと。

 

「そういうことか。でも人間を傷つけるのはナンセンスとか言っていたが、外に溢れている人形達は?ダンジョンから外に出てきて厄介なんだが」

 

「ふむ、我輩としては人形でダンジョンにいるモンスター達を片っ端から倒していたのだが。ということはもうモンスターはおらぬということだな。では次の計画に移るとしようか」

 

「次の計画⁉︎アンタ何企んでるんだ!」

 

 計画という単語にカズマは警戒心と敵意を剥き出しにする。

 

「企みとは失敬な!全ては我輩の夢のためだ!鎧娘の身体に欲情しつつ性格がなぁ…と悩みを抱えている小僧よ!」

 

「は、はぁ⁉︎いやいやいや俺があんな奴に発情するわけございませんし⁉︎おいダクネス、お前もモジモジすんな!」

 

「それで夢というのは…」

 

 動揺して変な言葉遣いになっているカズマに変わってゆんゆんが尋ねた。バニルは相変わらず口元が緩んだまま話を再開する。

 

「フハハハハ!錬金小僧にアタックしたいものの攻め手を決めあぐねているネタ種族の娘よ、それは…」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!れ、れれれ錬太郎さん!違います、これは、その…」

 

「焦る必要はないぞ紅魔の娘。見た所汝は錬金小僧の好みの範疇であるからな。そのまま接していき好機が見えたら攻めるが吉」

 

「何を言っているんだ?」

 

 バニルの言っていることが分からず、錬太郎は首を傾げながら訝しげな視線を送る。

 

「そうではないか錬金小僧!貴様は同年代かつ、母性溢れる女性が好みなのだろう?」

 

「な、ななななな⁉︎」

 

 バニルの指摘に錬太郎は茹で蛸のように顔面を紅潮させていき、口をパクパクとしてしまう。錬太郎がフリーズしてしまっても尚バニルの追撃は続いた。

 

「無自覚だったのか⁉︎ならば根拠も添えてやろう!

錬金小僧!汝は幼少期に母親にべったりで、悲しいことがあったら真っ先に母親の腕の中に飛び込み、朝は『レンちゃ〜ん、朝だよ〜』と言われなければ起きることの出来ない生粋の甘えん坊だったではないか!」

 

「ぬわああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 バニルからの恥ずかしい過去暴露ラッシュに錬太郎は頭を抱えながら地面に膝をついて悶え始める。錬太郎の性癖にカズマ達も少々狼狽した様子。

 

「なぁホッパー1、錬太郎のこと。あれマジなのか…?」

 

『……ホパ』

 

「この反応は…。悪魔の言っていることは本当らしいな、カズマ」

 

「マジかよマザコンだったのかよ。意外つぅかなんつぅか… ププッ、アハハハハ!」

 

「のわああ!笑わないでよカズマぁぁ!!」

 

「……母親っぽいこと、今度やってみようかな」

 

 混沌と化した状況の中、錬太郎の母である舞に謎の対抗心を燃やして1人だけ変なことを口走るゆんゆん。

 その一方で意外なことに、胸中でバニルは何やら神妙だった。

 

「(それにしても錬金小僧のことを見通すのはかなり難しい…。何やら妨害電波のようなものが小僧そのものから流れ出ている…。

一瞬だけ見えた虹の卵…アレの影響であろうか?

未来ともなるとより不鮮明だ…よく見えぬ。

荒廃した街を彷徨う隻眼の錬金小僧の様子と、緑の大地に並び立つ暁色と黄金の人物の様子が交互に切り替わる…。

黄金の方の正体は緑の小僧のようにも感じたが…こんなに我輩が見通すのに苦労するのは久方ぶりであるな…)」

 

 未だ羞恥心で顔を両手で覆っている錬太郎を、バニルは不思議そうに眺めながら物想いに耽るのだった。

 

 

 

 

 

「話がだいぶ逸れてしまったが、もう何年も生きた我輩には大きな破滅願望があるのだ。

ダンジョンを手に入れ、苦難を乗り越えた冒険者の前にそのダンジョンのボスとして我輩が立ち塞がる!そして我輩を倒したその先で見つけた宝箱を開け、中にある「スカ」とだけ記された紙切れに呆気に取られる冒険者達。その時に生まれる悪感情を堪能しながら我輩は滅びたいのだよ!」

 

 途中から腕を大きく広げて自身の夢を熱く語りだしていたのを見るに、それ程本気らしいが冒険者からしたら迷惑もいいところである。

 

「やめてあげろよ、流石にその冒険者が可哀想だ」

 

「僕もそう思う」

 

「やはり貴様はここで仕留めておくべき存在だ!」

 

 案の定カズマ達からの評判は散々だ。しかしバニルはどこ吹く風でニヤリと笑い、話を続ける。

 

「本当はこの地にいる古き友の営業する魔道具店で資金を貯めて巨大ダンジョンを造ってもらおうと思っていたのだが、偶然このダンジョンに通りかかった際にもうここに主がいないことに気づいてな。もうここでいいだろうと思い居座っていたというわけだ」

 

「そっか…。アンタがここで何をしているのかは分かった。迷惑してた人形をもう作らないみたいだしもう何も言わない。

それはそれとして、俺たちは奥の方の魔法陣に用があってさ、色々面倒になってるその魔法陣を消したいんだけど…」

 

「おいカズマ!この悪魔はどうする⁉︎魔王軍幹部なんだぞ、ほったらかすというのか?」

 

 こういう時に限ってダクネスは頑固だ。やはり女神エリスを信仰する者として悪魔は見過ごすことが出来ないのだろう。

 とはいえ、錬太郎やゆんゆん、カズマも含めた4人でバニルが太刀打ち出来る相手かと言われれば、難しい。

 悪魔故、人間より身体能力が優れていることは言うまでもなく、魔王より強いと自負する辺り実力は相当なものと窺える。

 

カズマとしては敵意がない現段階では戦闘に持ち込みたくないのだ。

 

「ふむ、我輩でも厄介に感じていた魔法陣を消すだと?悪魔である我輩に手助けするなど親切極まりないが、汝らに不利益があるとは…興味深い。少しばかり見通させて貰うぞ…」

 

 バニルは見通す力を駆使して、カズマの事情を探る。刹那、カズマは何かを思い出したかのように顔を青くした。が、時既に遅し。

 読み取った事情にバニルは口角を上げて笑い声を上げ始めた。

 

「フフ…フハハ、フハハハハハハハハハハ!!!!そういうことか、地獄の公爵である我輩ですら立ち入ることのできない魔法陣を生み出したのは汝らの仲間のプリーストだったということか!

そのプリーストは魔王軍と遜色なく恐れられるアクシズ教徒の女神と同名のようだが、人智を超える力を見せるということはもしや…!!」

 

 仮面の奥底から赤い瞳を輝かせるバニルに、一同は怖気を抱いた。かつて裁判所で、アルダープの腕をへし折って無邪気に笑うマクスウェルと同じ感覚、各々の本能から警鐘が鳴り響いている。

 

「見える、見えるぞ!そのプリーストが優雅に紅茶を飲む様子が!

ああ、安心するがいい、人間を殺さぬことが信条の我輩は汝らを殺すことはない…人間である、汝らはな!!!」

 

「まさか…お前アクアをやろうってのか⁉︎」

 

「そんなことはさせない!いくぞカズマ、錬太郎、ゆんゆん!」

 

 ダクネスの合図に、一同は戦闘態勢に移る。

 対するバニルは、敵対心を剥き出しにされようと相変わらず飄々とした様子で言葉を綴った。

 

「ほう、大悪魔に挑むとは命知らずであるな。腹筋だけでなく脳まで硬そうな娘よ!そして最近爆裂魔法を駆使する少女で自慰行為をするのが習慣の鬼畜小僧よ、汝なら話がわかるだろう?道を開けてもらおうか!」

 

「わ、わわわ私の脳は固くない!し、思考力は柔軟だとお父様に言われたことだってあるにょだ!」

 

「べ、べべべ別にめぐみんなんかでやってねぇし⁉︎あんなロリっ子でやるくらいならアクアの方がましじゃあ!!」

 

「ダクネス、カズマ落ち着いて!」

 

「そうです、悪魔の言葉に耳を傾けてはいけません!」

 

 取り乱される2人に冷静を装うように言う錬太郎とゆんゆんだが、バニルの口撃はまだ続く。

 

「なら貴様が道を開けてくれても良いのだぞ?学生時代一目惚れした同級生にラブレターを書いた際、不安で不安で仕方なくアスラという名のライバルに添削を依頼した錬金小僧よ!」

 

「だはぁぁぁぁぁ!!やめてくれ、僕の黒歴史を掘り起こさないでぇぇぇ!!」

 

「そして今聞いた錬金小僧の一目惚れしたという少女に嫉妬した紅魔の娘よ!折角なら我輩を通した後に錬金小僧と奥の方で一時を二人きりで過ごしてみればどうだ?」

 

「し、ししし嫉妬って⁉︎はわわわ⁉︎⁉︎」

 

 バニルの見通す力を通じての精神攻撃で、洞窟内は阿鼻叫喚である。見ていられないとばかりに、この場で唯一平常を保っているホッパー1は声を上げた。

 

『ホッパー!!!!』

 

 ホッパー1の鶴の一声は洞窟内に木霊し、羞恥に悶える錬太郎達を我に帰した。

 

「ホッパー1…⁉︎そうだね、心の乱れは敗北の兆し。皆、何としてもバニルを食い止めよう!」

 

「「「ああ(はい)!!!!」」」

 

 一同はバニルの方へ向き直ると今までのお返しとばかりに一斉に攻撃を開始した。

 しかし流石は魔王軍幹部兼地獄の公爵。一番手として攻めかかるダクネスの剣撃をバニルはものともせず、ひらりひらりと躱していく。

 

「やぁーっ、とりゃー!」

 

「フハハハハ!鎧娘の未熟な剣など当たらぬわ!!」

 

「ダクネスさん下がって!『ブレード・オブ・ウインド』!!」

 

「おっと⁉︎中級魔法といえども中々の威力と見た。流石は紅魔族か、だが命中せねば意味はない!

ところで鬼畜小僧の姿が見当たらぬ…、少々厄介であるな…」

 

 バニルの言う通り、カズマの姿がどこにも見当たらない。恐らく潜伏スキルを使って好機を見計らっているのだろう。そして頭の回るカズマが考えなしにスキルを使う筈がない。

 

「カズマが攻撃を仕掛けるチャンスを作る必要がある、乗ってやるか…

『万物は、これなる一物の改造として生まれうく』!!」

 

 行間を読み取った錬太郎は、その手に持ったエクスガッチャリバーの刀身を再錬成すると同時に、後ろのスロットに1枚のカードを装填する。

 そのカードは…。

 

「ホッパー1、頼んだぞ!」

 

『ホッパー!』

 

 歴戦の相棒は、錬太郎の頼みに元気よく返事をしてエクスガッチャリバーに自身の力を流し込んでいく。そして錬太郎は、バニルに向かって瞬い一閃を繰り出した。

 

『ホッパー1!ストラッシュ!』

 

「軌道が単調だ!これもまた…」

 

 ダクネスの斬撃同様、回避態勢に入るバニル。その刹那、己に向かって繰り出された一閃が分散し、(イナゴ)の集団のようになって自身の視界を覆うように群がり始めたではないか。

 

「な、何だこれは⁉︎」

 

 見通す力をしても読めなかった状況に、バニルは明らかに動揺している。今がその時だとばかりに錬太郎は声を張り上げ、あの少年の名を叫んだ。

 

「今だ、カズマ!!」

 

「サンキュー錬太郎!喰らえ!!」

 

 潜伏を解いたカズマが、何処からか出現させた日本刀を握りしめながら現れ、見事バニルの腹部を刺し貫くことに成功した。

 

「な…に…この…我輩が…」

 

 刀にその身を貫かれた瞬間、バニルの体が土のように崩れ去る。顔につけていた仮面もコトッと音を立てて地面に落ちた。

 

「やった、のか?」

 

「なんというか、地獄の公爵という割には呆気ない最後だったな…、それよりカズマ、その不思議な刀は何処から出したのだ?」

 

「ああ、これはアッパレブシドーが俺に力貸してくれたときに出現したものだよダクネス。ありがとな、アッパレブシドー!」

 

「ブシドー!…ブシドー⁉︎」

 

 カズマからの感謝に喜んだのも束の間、アッパレブシドーが驚きと警戒心の籠った声を上げた。そしてその声に呼応するかのようにあの笑い声が聞こえ始める。

 

「フハハハハハハ!!残念であったな!崩れ去った体は所詮人形と同じ土塊!この仮面こそ我輩の本体だ!丁度いい、とっておきを見せてやろう!」

 

 笑い終えると、途端に宙を舞うバニルの仮面。そして行く先のダクネスの顔面に貼り付いてしまった。

 こういう時は大体、『乗っ取り』という相場が決まっている。

 

「だ、ダクネスさん⁉︎ダクネスさん⁉︎」

 

「ダクネス、おいダクネス⁉︎まさか乗っ取られたのか⁉︎」

 

「ダクネス、聞こえる?返事をして!」

 

 各々が仮面の貼り付いたダクネスを心配するかのように尋ねる。次の瞬間、ダクネスはバニルの声で笑い始めた。

 

「フハハハハ!よく聞け貴様ら、鎧娘の身体は我輩のとっておきで(どうしよう皆、身体が乗っ取られてしまった!)大切に思う仲間を攻撃することなど(構わん!上級魔法でもガッチャードでもドンとこいだ!)ええい、やかましい!何なのだ貴様は!」

 

 まるで一人漫才でもやっているかのようなバニル憑依のダクネスに、皆口を開けてポカンとしてしまっている。完全に乗っ取られてはいないようだ。

 個性が強すぎるが故に大悪魔であるバニルでも抑えることが出来なかったのだろう。

 

「何なのだこの(麗しい)娘は…ここまで強靭な精神力だったとは(まるでクルセイダーの鑑のような人物だ!)ええい、一々言葉を挟むな…む?何だこの好ましくない感じは…この娘には常に激痛が走っているというのに(最高だぁ〜〜〜)よ、喜びの感情だとぉぉ⁉︎」

 

 ダクネスの性癖にバニルは当惑するしかなかった。乗っ取る関係上のあらゆる側面でダクネスはバニルにとって相性が悪かったのだ。

 

「仕方ない、錬金小僧か紅魔の娘に移るとするか…」

 

「それはさせないぞ、ていっ!」

 

 カズマはダクネスの身体から抜け出そうとするバニルの前に立つと、セナからもらった封印の札をダクネスの額に貼り付けた。

 

「これでバニルの意識をダクネスの中に封印しといた。さぁ、後は魔法陣を消してアクア達のところに戻ってコイツを浄化させるだけだな」

 

「カズマ…他に方法は…」

 

「もし仮にお前が乗っ取られでもしたら責任取れるのか錬太郎?」

 

「…すみません」

 

 その後、ダンジョンの奥の魔法陣はカズマとゆんゆんによって消され、ダクネスが完全に乗っ取られる前にと、一同は出口を目指して駆け出した。その間にもダクネスとバニルの面白おかしい掛け合いは続いた。

 

「おい貴様ら、この娘には常に激痛が走っているのだぞ(夢心地だぁ!!)時間が経てば経つほど痛みは強くなっていく(まだご褒美をくれるのか⁉︎)このままでは鬼畜小僧、貴様が好ましく思っている娘の精神が崩壊してしまうぞ(ちょっと待てカズマ、どういうことだ?私のことをどう思って)」

 

「取り敢えず急ぐぞ、出口までもう少しだ!」

 

「もうすぐですよダクネスさん!」

 

「後少しの辛抱だよ!」

 

 バニルが読み取った情報に対し、ダクネスはカズマに問いかけるが、強引に濁されてしまう。さらに…。

 

「汝らは一体誰に話かけているのだ?もうこの身体は我輩のもの、支配は完了した!!」

 

 カズマやゆんゆんを払いのけ、一心不乱に速度を上げて走り出すダクネス、否バニル。

 人格がバニルなったこともあって、それまで無駄に活かされることはなかったダクネスの高い身体能力が引き出され、最早走って追いつくことは不可能である。

 

「フハハハハ!さぁあのプリーストに一発入れてやろうではない「『セイクリッド・エクソシズム』!!!」のわぁぁぁぁ⁉︎⁉︎」

 

 バニルがダンジョンから出た直後、出入り口で待ち構えていたアクアが容赦なく浄化魔法を放ち、その神聖な白い光にバニルは包み込まれ、ダクネス共々悲鳴を上げた。そして同時に、カズマ達もバニルに追いついたようだ。

 

「おいアクア、いきなりダクネスに浄化魔法をぶっ放すな、心臓に悪いだろうが!」

 

「何言ってるのよカズマさん、浄化魔法は人間には害はないものよ?というか邪悪な気配を感じたからここに来たのだけど…」

 

「アクア〜、急に走っていったと思ったらどうしたのです…ってダクネス⁉︎なんですかそのかっこいい仮面は!私も欲しいです!」

 

 遠くから駆け寄ってきためぐみんは状況を理解していないためか、バニルの仮面に目を爛々と輝かせている。めぐみんの反応が嬉しかったのか、バニルは口角を上げ。

 

「フハハハハ!流石は紅魔族、我輩のセンスがわかるとは。それにしてもプリーストよ、挨拶代わりに浄化魔法とは手荒い歓迎ではないか。そんなことだからアクシズ教徒は忌み嫌われるのだ!改めて名乗ろう。

我が名は「危ない!」な、何をする錬金小僧⁉︎」

 

 バニルが名乗る直前、錬太郎がバニルを突き飛ばすように覆い被さった。そしてバニルがいた場所を通り過ぎていく閃光が2つ。常人には早すぎて見えるものではないが、錬太郎はその閃光を何とか目で追うことができた。

 あれはウィズと初めて出会った墓場で自身に飛ばされてきたものと同じ、『手裏剣』。

 

「あんな武器を使う人は…」

 

 閃光が放たれた方向に皆が目を向けると、歩み寄る男が一人。

その男は忍の装束に身を包み、新たに黒い外套を携え、覆面マスクを被っている。

 そう、いつぞやの忍者おじさんの天魔悟である。

 

「おおっ⁉︎ダクネスの仮面もいいですが、こちらの覆面も捨て難い!」

 

「何だあのおっさん何処から現れた⁉︎我輩の見通す力では感知できなかったぞ!」

 

「なんで30話以上も前のモブがここにきて再登場するんだよ!!」

 

 忍者おじさんの乱入にカズマはおろか、バニルまでもが驚愕する。めぐみんは相変わらずの平常運転である。

 しかし忍者おじさんは周りの反応など然程興味はなく、錬太郎を指差して低い声を轟かせた。

 

「我が宿敵よ。貴様を倒すために、新たな力を得て戻ってきたぞ!」

 

「何だって⁉︎」

 

「見るがいい!これが生まれ変わった俺の力だぁぁ!!」

 

 忍者おじさんの咆哮と共に、黒い霧が出現して彼の身を覆い尽くす。

 霧が晴れると、そこには金色素体の覆面レスラーのような容姿で、腹部に花のような装飾を携えた怪物、

『レスラーマルガム ラフレシアミクスタス』の姿があった。

 

「ガッチャードライバーなしで種族を超えた多重錬成か…ダクネスのこともあるのにこっちまで対処ってなると…」

 

「れ、錬太郎さんアレ⁉︎」

 

 頭を悩ます錬太郎にゆんゆんが肩を叩いて何かを知らせる。ゆんゆんの視線の先には黒渦が発生しており、そこから現れる純白の戦士が。

 

「ふむ、下界への到着は完了しました。それにここには強い悪意の反応がありますね…。ラーニング完了。悪魔とマルガムですか、丁度いい。私が殲滅してあげましょう!」

 

 悪意を駆逐すべく天界より仮面ライダーゼインまでも参戦する。

 

 バニル、忍者おじさん、そしてゼイン。三つ巴の攻略対象達により、戦場と化したキールダンジョン付近は混沌を極め始めていた。

 

「頭の処理が追いつかねぇよぉぉぉぉ!!!!」

 

 カズマは頭を抱えながら、恐らくこの場にいる全員の心の声を代弁するかのように叫び声を上げるのだった。

 




錬太郎がマザコン気味なのは、過度に重すぎないようにするためなのと、年相応の少年らしさを意識したものです。不快に感じた方は申し訳ないです。
自分で言うのもなんですが、バニルさんでも来るの見通せず、ガッチャードライバー無しで二重錬成出来る忍者おじさんってまぁまぁの強キャラなのでは?

多分戦闘シーンカオスになるので次回の投稿遅くなるかもです

巡った世界の物語で見たいのは?

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