この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを! 作:山田プロキオン
時系列的にこの時らへんにゆんゆんが誕生日かなぁ〜と思ったので
マサオンさん、リクエストありがとうございます。
2月29日。それは地球上の暦である太陰太陽暦において、月の運行を基準にしたことで必然的に生じてしまう季節のずれを補正するため4年に一度訪れる特別な日。そのため、この日に生まれた者は平年では必然的に2月28日か、3月1日に誕生日を祝うのが基本である。
しかし今年は4年に一度の閏年。そして今日、誕生日を迎える者がいる。朝日が東から昇り、アクセルの屋敷を照らす頃、その屋敷の一室で眠る少女のゆんゆんは、大きな欠伸をして目を覚ました。
「う〜〜〜〜ん、ふぁぁぁ…」
未だ眠い目を擦りながら、平衡感覚を何とか保ち、寝起きの身体を引きずって洗面所へと向かう。清らかな水で顔を洗い、その後タオルで顔の水分を拭き取って意識が完全に覚醒するとともに、自然と口角が上がった。
「誕生日…今日は私の誕生日…」
タオルで緩む口元を隠しながら、ゆんゆんは1人ぴょんぴょんと飛び跳ねる。舞い上がるのも無理はない。彼女は故郷である紅魔の里では、生来のぼっち気質故に中々友達を作ることが出来ず、さらに紅魔族長である父とその妻である母は常日頃から忙しく、誕生日の日は1人寂しくケーキをモソモソと食べるだけであった。
しかしぼっち少女だったことは過去の話。今ではパーティを組んで、沢山の仲間達に恵まれている。そしてパーティメンバーには予め自分の誕生日を教えており、何かあるのではと期待せずにはいられないのだ。
「〜♪、おはようございます!」
「おうゆんゆん、おはよう」
「朝から騒がしいですねぼっち。もう少し静かにしてくれませんか?」
ゆんゆんが上機嫌でリビングにやって来ると、先にやって来ていたカズマとめぐみんが迎えてくれた。いつもと少し様子の違うゆんゆんに、カズマは当惑気味、めぐみんはどこか呆れているようである。
「ふふん、ごめんなさいねめぐみん!だって今日は私にとって特別な「はいはい誕生日ですよねおめでとうございます」…へ?」
「それじゃあカズマ、爆裂散歩に行きますよ。錬太郎がまた的を強化錬成してくれたらしいので」
「お、おうわかった。それじゃあな、ゆんゆん」
「はい…いってらっしゃい…」
誕生日なのに特にいつもと変わらず、少しドライな反応のめぐみんと彼女に同伴するカズマに、ゆんゆんは少し寂しそうに手を振ったのだった。
「めぐみん、アレでよかったのか?」
「仕方ないじゃないですか!サプライズパーティをやろうと言ったのはレンタロウなんですし…ちょっと言い過ぎたとは思いますけど…」
「はぁ…」
ゆんゆんは頬杖をついて、退屈そうに溜息を溢す。アクアとダクネスも用事で留守にしていると置き手紙があり、今屋敷に残っているのはゆんゆんと錬太郎、そしてケミー達だけである。
「(錬太郎さんの所にいこうかな…)」
めぐみんの態度を未だ引っ張りながらも、思い立ったゆんゆんは錬太郎を探しに屋敷の中を歩く。思えば屋敷探索をするのは初めてこの屋敷にやって来た時以来だ。懐かしく、新鮮な気持ちでゆんゆんは一室一室を巡る。
数刻程ブラブラと歩いていると、錬太郎の自室から声が聞こえた。
「ダメだ…形が不恰好だ…もう一回!」
『ホッパー!』
「ありがとうホッパー1…『万物はこれなる一物の改造として生まれうく』!!」
錬金術の呪文を唱える錬太郎の声。何かを錬成しているのだろうか。そういえば前に復活したバニルと商売についての取引をしたと聞いたため、その商品開発だろうかとゆんゆんは首を傾げた。何を錬成しているのか、その好奇心に抗うことが出来ず、ゆんゆんは錬太郎の部屋の扉を開けた。
「錬太郎さん!」
「よし完成した…ってわぁぁぁ⁉︎ゆんゆん⁉︎」
突然ゆんゆんがやって来たことに驚いた錬太郎は、慌てて錬成したものをわかりやすく後ろに隠した。そのことにゆんゆんは気づいたようで錬太郎に訝しげな視線を送る。
「錬太郎さん?何を隠したんですか?」
「へっ⁉︎いやぁ…えっと〜、そ、そうだ!今度バニルさんと一緒に話し合う商品だよ!」
「ホントですか?」
知識の高い紅魔族故か、妙に鋭いゆんゆん。その恐るべき直感に錬太郎だけでなく取り巻きのケミー達も冷や汗をかき始める。
「ホントだって!信じてよ!」
「…わかりました、ごめんなさい疑って…」
真剣な声色で話す錬太郎に、少しでも疑ってしまったことを詫び、ゆんゆんは萎縮してしまう。そんなゆんゆんに「そこまで気にしなくていいよ」と錬太郎は告げた後
「ゆんゆんってさぁ!僕のアルケミストリングみたいなの欲しいなぁって言ってたよね?」
と、最後に尋ねるように添えた。
「え?はい、何日か前に言いましたけど…」
「そっか…うん、ありがとう!それじゃあ僕用事があるから…」
「大丈夫ですか?目の下にクマが出来てますけど…」
「だ、大丈夫だから。商品の錬成に手こずっただけだよ…それじゃあ!」
話は終わったとばかりに、錬太郎とケミー達は自室から一目散に退散した。その背中を少しの間ぼぉ〜っと眺めていたゆんゆんであったが、その後、また溜息を溢した。
「今年も…1人なのかなぁ…」
ゆんゆんは瞳に涙を溜めながら、1人寂しく呟いた。
何もすることがないので、気晴らしにとギルドへ向かうゆんゆん。行く途中、雨が降り出し、まるで自分の今の心情のようと自嘲した。
「あ、ゆんゆん!ってどうしたのそんなに濡れて…」
ギルドにいたウィザードのリーンの声に反応して冒険者達の視線が一斉にゆんゆんに集まる。雨粒が染み込み、ずぶ濡れのままギルドに到着したゆんゆんは、皆の注目を集めるのも必然だった。
「あ、いえ…歩いていたら突然雨が降って来ちゃって…」
「と、取り敢えず私の隣に座って…ルナさん!何か温かいものを…」
「は、はい!」
リーンに促されるままゆんゆんはリーンの上着を羽織らされて席に着き、ルナが大急ぎで温かいココアを運んできてくれた。
ゆんゆんは凍えながらココアを一口含み、喉に通す。すると口元から全身に広がるように温かさが満ちてきた。
「おいしいです…」
「よかった…それでさゆんゆん、何かあったの?」
リーンが心配そうにゆんゆんの瞳を覗き込む。自分のことを真剣に気にかけている翡翠色の瞳に嘘は見破られるだろうと感じたゆんゆんは今朝のことを話すことにした。
「そっか…今日誕生日なのに皆がそっけないと…」
ゆんゆんの話を聞いて、リーンは返答に困った。実は彼女、錬太郎がゆんゆんのためにサプライズバースデーパーティを開こうとしていることを知っている。というのも錬太郎は本当にサプライズにしたいがために、アクセルの街の知人達に徹底して情報統制を頼んでおり、寧ろ知らない人を探す方が難しいまである。
「いいんですよ、誕生日だからって勝手に舞い上がってた私が悪いんですから…」
ゆんゆんはココアを一気に飲み干してまた溜息を漏らす。明らかに気にしているらしく、陰鬱なオーラが漂っている。いくらサプライズとはいえ、それまでずっとこの調子なのは流石に可哀想だと思い、リーンは1つゆんゆんに提案する。
「ねぇゆんゆん!私と一緒にクエストしない?」
「え…⁉︎いいんですか?」
「うん!せっかくの誕生日なんだからさ!思い出作りしよう!」
「…わかりました!宜しくお願いします!」
リーンの誘いに、ゆんゆんは満面の笑みで同意を伝える。その後掲示板で最寄りのクエストを探し、手頃なダンジョンを受注して、2人はギルドを後にした。
先程まで降っていた雨はいつの間にか止んでおり、綺麗な虹が空にかかっていた。
同時期、空にかかる虹を見て、ケミー達は感嘆の声を漏らしていた。
『ホッパー!』
『ウィ!虹が出た!ズキュンパイア!虹が出たよ!』
『よし子猫ちゃん達、虹の根本に行って、ホッパー1の渡したいプレゼントの幸せの花を探そうか!』
『ワープ!』
『ブシドー!』
『サボー!』
ホッパー1に続く形で、ケミー達は虹の根本を目指して駆け出していった。
また、ウィズの魔道具店では…。
「これはこれは、最近鬼畜小僧の背中に安らぎを覚え始めている爆裂娘に、最近貧乏店主の身体に欲情している鬼畜小僧よ、いらっしゃい」
「カズマ、あの悪魔一度爆裂させていいですか?」
「やめろ、気持ちはわかるが店や俺も吹き飛ばされっから…」
相変わらずのバニル節に不快そうなめぐみんとカズマ。そんな2人を見てバニルは悪感情を堪能している平常運転だ。
「ところで汝らはここで商品を買いに来たのだろう?見通すにぼっち気質のネタ種族のためか?」
「話が早いですね、では一番品質の良いマナタイトをお願いします」
「ほう、それならうちのポンコツ店主がこの間仕入れたものがある。かなり値はするがいかがかな?」
「いいですよ、別に。最近はあなたの討伐賞金のお陰でお金が大量に手に入ったのですから。実家への仕送りもしましたし、偶にはあの子のために一肌脱ぎましょう」
めぐみんは躊躇いなく財布からお金を取り出してバニルへと手渡し、まいどありとバニルがマナタイトを差し出した。
「なんだかんだめぐみんもゆんゆんのこと好きなんだな…」
「わからぬか小僧、これがツンデレというやつだ!」
「おい、勝手に話を進めているようですが私はあのぼっちに対して特別な感情なんてありゃあしませんからね!」
「フハハ、ほんのり感じる羞恥の悪感情…美味であるぞ!」
そしてアクセルの街から少し離れたお店では…。
「ふむ、ゆんゆんはこういう可愛い感じのぬいぐるみで喜ぶだろうか…」
ダクネスが棚に並べられてあるぬいぐるみ達に目を通して、顎に手を当てて悩んでいる。従来のドMな彼女からは想像もつかないと思うが、意外にもダクネスは少女脳だ。可愛いものやロマンティックなものにも憧れがある。
貴族という身分上、同年代の友達にプレゼントを渡したこともないため、自分の感覚だけを頼りにプレゼントを吟味しているようだが、まだまだ時間がかかりそうである。
そして、錬太郎とアクアはというと…
「ミスアクア!怠けちゃダメよ!クリームは急いでかき混ぜるの!」
「うわぁぁぁぁん、もう手が棒になっちゃうわよ〜」
いつぞやの洋菓子店、『チャーミング』にて、店長の鳳凰寺・ルシファー・グリンホルンにしごかれていた。
「そういう弱音は本当に手が棒になってから言いなさい!ミスターレンタロウ、あーたもケーキだけじゃなくて他にもお菓子を作るんでしょ?もっとテキパキ動きなさい!」
「はい、鳳凰寺さん!」
寝不足の身体に鞭打って、錬太郎は作業を進めていく。生地をカップに注いで運んだり、さらに別のお菓子のために改めて生地を作ったりと忙しない。
「誕生日を祝いたい子のためにこんなに一生懸命になるなんてね…なんだか舞に猛アプローチしてた頃のダンみたいね…」
鳳凰寺は錬太郎の様子を見て、かつての冒険者仲間であるダン・アストロギアを、錬太郎の父の姿を思い浮かべて感傷に浸った。
「っておいミスアクア!クリーム固まりかけてんじゃないの⁉︎」
「もう無理ぃぃぃぃぃ…」
「まだまだ!あと2時間は頑張りなさい!」
「ふぇぇぇぇん!鬼!地獄!悪魔!」
途方もないスイーツ作りにアクアの悲鳴が厨房に木霊したのだとか。
「それじゃあリーンさん、ありがとうございました」
「うん、また一緒にクエスト出かけようね!」
日も暮れかけた時間になり、クエストを終えたゆんゆんを、リーンは屋敷まで送った。そしてまたいつか出かけることを約束し、ゆんゆんは帰り道に沿って去るリーンが見えなくなるまで手を振り続けた。
「…あれ、なんで明かりが灯っていないんだろう?」
屋敷の違和感にゆんゆんは首を傾げる。もうこの時間帯は、普通カズマ達は帰ってきており、夕食当番が台所でせっせと料理している頃である。
それなのに明かりが見えない、即ちまだ誰も帰宅していないであろう状況を不思議に感じた。
「考えても仕方ないわね…」
どこか諦めた様子で、ゆんゆんは屋敷の扉を開く。薄暗く、いつもより少しだけ不気味さを感じる廊下を進んでいきリビングに到着した、その時だった。
急に部屋の明かりが灯ったかと思えば、ゆんゆんに向けて四方八方からクラッカーが破裂する音が鳴り響いた。
「ふぇ?」
「「「「「ゆんゆん!お誕生日おめでとう!!」」」」」
『ホッパー!』
『スチーム!』
『サボー!』
『ウィール!』
突然の状況にゆんゆんは頭の処理が追いつかず、唖然としている。説明すると、サプライズのために予めパーティメンバーは家の中で待機しており、ゆんゆんが帰ってきたタイミングで盛大に祝おうと打ち合わせていたのだ。
「え…、み、皆さん私の誕生日を祝ってくれるんですか?本当なんですか⁉︎ドッキリじゃないですよね…⁉︎」
未だ現実を信じられないのか、ゆんゆんは皆に尋ねた。しかし朝の頃から漂っていた陰鬱な様子は完全に無くなり、嬉しさからか声は上擦っていた。
そんなゆんゆんに対して、めぐみんが呆れたようにため息をついて返答する。
「まったくこれだからぼっちは…。本当に決まっているでしょう?何ならレンタロウは誕生日を聞かされたその日からこのパーティの計画を練っていたんですからもっと素直に喜んでくださいよ」
「ごめんねゆんゆん。サプライズでやりたいっていう僕の我儘を皆に聞いて貰ったんだ…。今日一日、素っ気ない態度をとって…ごめんね…」
サプライズのためとはいえ、一時的にゆんゆんを遠ざけてしまったことに対して、錬太郎は頭を下げて詫びた。
ゆんゆんは言葉を発さない。やはり怒っているのだろうか、そう思って錬太郎が顔を上げると、ゆんゆんは怒ってなどいなかった。ただ、瞳から滝のように涙を溢れ流し、小さく嗚咽を漏らしていた。
「ゆ、ゆんゆん⁉︎ごめん!本当にごめんね!サプライズじゃなくてもっとちゃんと…「違うんです…」え?」
「皆に…誕生日を祝って、ひぐっ…貰えて…嬉しくて、えぐっ…私、幸せで幸せで…わぁぁぁぁぁん!!!!」
抑えきれなくなり、ゆんゆんは大きな声で泣き出す。錬太郎はゆんゆんに歩み寄り、優しく頭を撫でてあげた。初めて会った時と同じように。
「おめでとう、ゆんゆん…」
ゆんゆんが落ち着いて泣き止むと、皆でテーブルに並べられた豪華な料理を食べることにした。特に誕生日ケーキは手が込んでいて、
『どう?私が丹念にクリームを作ったのよ、すごいでしょ?』
とアクアが鼻を高くして自慢して、そんなアクアにゆんゆんは嬉しそうに礼を述べてケーキを平らげた。
「よし、ケーキも食べ終えたことだし、次はプレゼントだな」
「ゆんゆん、皆それぞれ用意したのだ。受け取ってくれ!」
カズマとダクネスの合図を皮切りに、各々のプレゼントがゆんゆんに手渡される。
ケミー達はアルケミアの伝承である虹の根本に咲く幸せの花、めぐみんは魔道具店で購入した高級なマナタイト、ダクネスはベルセルク王国で人気の可愛いキャラクターのぬいぐるみ、アクアは占いに使える水晶、そしてカズマは鍛治スキルを用いて生み出した新しいショートソードだった。
「あれ?そういえば錬太郎、お前は何を用意したんだ?」
「そうですよ、あんなに張り切っていてまさか何もありませんでした〜なんてことはないですよね?」
「勿論だよカズマ、めぐみん。僕のプレゼントはこれさ」
カズマとめぐみんの追求に錬太郎は台所からドームカバーを持参し、ゆんゆんの目の前で開帳した。
「わぁ…」
皿の上にはバームクーヘンとマカロン、そしてカップケーキが乗せられており、その出来にゆんゆんは息を呑んで感嘆した。
「鳳凰寺さんのお陰で作ることができたんだ、ゆんゆんはお菓子が好きだってめぐみんから聞いたから、それと…」
錬太郎は皿を机に置くと、今度は1つの小さな箱を取り出してパカっと開けた。
その中には黒色をベースに、中央部に桃色の矢印の装飾の埋め込まれたアルケミストリングのレプリカがあった。
「ゆんゆんがアルケミストリングみたいな指輪欲しいって言ってたからさ。ゆんゆんっぽい感じにしたかったんだけど…錬成に手こずっちゃって…」
錬太郎は照れくさそうにしながら言葉を紡ぐ。目の下のクマが酷かったのも、納得のいく形状になるまで何度も錬成を繰り返した結果だったのだ。
「こんな感じになっちゃったけど来年頃にはもっと整った形のやつを…ゆんゆん?」
反応がないため、錬太郎は訝しげにゆんゆんに声をかける。ゆんゆんの顔は真っ赤だった、まるで温泉に入ってのぼせた人のように。ゆんゆんだけじゃない。カズマも、ダクネスも、めぐみんもゆんゆんに負けず劣らず真っ赤だ。
「れ、レンタロウ⁉︎あ、貴方つまり…そそそ、そういうことですよね⁉︎」
「意味深なお菓子の後に指輪とは…き、貴族の中にもこれ程のことをやってのけた者はい、いにゃいぞ!」
「れれれ錬太郎、おおおお前…見かけに寄らずロマンティックなんだな⁉︎」
「?どういうこと」
アクアを除くパーティメンバーが赤面している理由が分からず錬太郎は首を傾げる。指輪をそういうことで女性にあげる習慣があることは知っているが、今回はそういう意図はない。だが、とあるもののせいで傍から見るとそういうことの方にしか受け取られないのだ。
「錬太郎、アンタお菓子言葉って知らないの?」
「何それアクア?」
「お菓子言葉ってのはね〜、ーーーーーー」
「いやっ、その、違っ!そ、そそそそうじゃなくて!」
アクアからお菓子言葉について教えられ、錬太郎も漸く皆の反応の理由を理解して、性癖を暴露された時と遜色ないほどに顔を紅くして必死に弁明する。しかし時既に遅く。
「れ、れれれ錬太郎さん!お、お気持ち感謝します!ふ、不束者ですが…宜しくお願いします!」
「いいんじゃないんですか、私は結構お似合いだと思いますよ」
「めぐみんもそう思うか、私も同感だ」
「おい、錬太郎!1人だけ抜け駆けしやがって!」
「だァァァ!皆違うって〜〜〜!!」
ゆんゆん以外の者から揶揄われ、錬太郎は顔を覆って悶えるしかなかった。その後、数日程はギルド内でも錬太郎のプレゼントの件は弄られ続けたのだそう。
「ロード様、頼まれていましたものを持って参りました」
「おう、ご苦労さん。グスティヌス…」
ロードの研究室にて、青いローブと怒りの表情を模した仮面を身につけたネガマスクの『グスティヌス』が、左手にゼインドライバー、右手に空のジョッキを持ってロードの前に現れた。
ロードから労いの言葉を送られると、グスティヌスは手持ちの物を机の上に置いた。
「ところでロード様、何故異世界の戦士のベルトと百瀬錬太郎がギルドで利用したジョッキを?貴方様にはドレッドライバーやスキル、それに我々もいますのに…」
グスティヌスはロードに質疑する。その声色には、若干の戸惑い、そして不服が滲んでいたのだが、ロードが気づくことはなく、グスティヌスの問いに無機質のように淡々と返答する。
「…もうこの世界にやってきて100年近くなる。転生特典として得た力も、おのずと衰えてき始めた。昔は制限なく使えたが、今は一度使うだけでもかなりの魔力を消費する。かといってドレッドライバーは身体の負担が大きいから無闇に使うことは出来ない、そこでそのベルトに目をつけたという訳だ」
ロードは椅子に背もたれながらゼインドライバーを指差すと不敵に笑う。そしてジョッキを手に取ると、さらに気味悪く口角を上げ。
「これから…もっともっと面白くなるからねぇ…フフフ」
怪しく笑いながら、次なる計画のために研究を再開するのだった。
ゆんゆん、お誕生日おめでとう!
ぼっちだった彼女にとって誕生日を祝ってもらえたのはこの上なく嬉しいことでしょう。
ちなみに錬太郎がゆんゆんに送りましたお菓子の意味は
・バームクーヘン→長い年月を一緒に過ごしたい
・カップケーキ、マカロン→あなたは特別な人
ラストにロードが不穏な動きをしていましたが、それはまた後の回で
次回は第3章最終回。
一転してシリアスになりますのでご注意を
次回予告『暗闇』