この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを!   作:山田プロキオン

48 / 89
3章ラストです。
今回は全体的に話の内容が重いです。
ご了承ください。



暗闇

「届け物で〜す!」

 

「あら〜、ありがとうございます♪」

 

 穏やかに陽の光が大地を照らす昼下がり。錬金術師の百瀬錬太郎は、クロスウィザードことクロっちやケミーの仲間達、そしてゆんゆんと一緒に届け屋の仕事を請け負っていた。

 最近はギルド内では特に目立った討伐クエストが無いため、代わりに簡単な人助けである依頼を受ける日々である。それでも、誰かの役に立つという仕事はやり甲斐を感じるものである。

 

「錬太郎さ〜ん、こちらも終わりました!」

 

『僕の方も届け物はこれで全部だったよ〜』

 

『ホッパー!』

 

『ブシドー!』

 

『レスラー!G!』

 

「よ〜し、それじゃ屋敷に帰ろっか!ワープテラ、宜しくね!」

 

『ワープ!』

 

 配達を終え、錬太郎達はワープテラの力によって屋敷へと向かった。

 

一方で屋敷ではというとーー

 

「あったけ〜」

 

「もうこたつから出たくないわ〜」

 

 駄女神と元ヒキニートもとい、アクアとカズマがいわゆるこたつむりの状態でぐーたらとしていた。2人とも数日前から一緒にこたつに入り、アクアおすすめの高級シュワシュワを飲んでそのまま寝るという成金ニートのような生活をしている。

 

「2人とも!弛みすぎですよ!」

 

「そうだぞ!もうそろそろ春だ!モンスターも活発に活動し始める時期なのだぞ!」

 

「いやーよ!まだ寒いしお金にも余裕あるからまだぐーたらしてたいの!」

 

「そーだそーだ!それについこの前も、並行世界でタヌキのライダーに変身する俺たちの所行ってゴタゴタを解決したばっかなんだからもう少し休ませろ!」

 

 2人の怠けっぷりにめぐみんとダクネスは苦言を呈すが、アクアとカズマはああ言えばこう言うといった様子でごねるだけだ。

 

「それはもう1週間も前のことじゃないですか!

わかってますよ、カズマがバニルとの商談で鍛治スキルを覚えてレンタロウと夜遅くまで勤しんでいたことくらい…。

レンタロウの錬成したラジカセという名の魔法のハープや、今カズマ達の包まっているこたつだってそりゃ凄い発明だと思いますよ!

ですが先程言った通り弛みすぎです!昨日のリザードランナーの討伐だってレンタロウやゆんゆんに任せて外に出てすらなかったじゃないですか!挙げ句の果てには寝言とはいえもう商売だけで生きていくなんて!」

 

「え、どうゆうことカズマさん?流石に魔王は討伐してよ私天界に帰れないんだから」

 

「うるせぇな!俺は商売でやっとレンタロウに借りてた分のお金も返すことが出来たんだよ!この前の商談では3億も約束されたんだ!

 

お前なんかに最弱職のコンプレックスと商売人としての苦労がわかってたまるか!

あ、わかんないか〜?どうせ爆裂魔法しか脳がない貧相ロリっ子には〜?」

 

「この男…言ってはならないことを言いましたね!いいでしょう、売られた喧嘩は買ってやりますよ!」

 

 めぐみんは遂に堪忍袋の緒が切れ、額に青筋を浮かべながら声を荒げる。いつ殴り合いが始まってもおかしくない一触即発の空気の中、錬太郎達が帰宅した。

 

「ただいま、って…どういう状況?」

 

「錬太郎達か…実はアクアとカズマの怠けっぷりがどんどん酷くなってしまってな…」

 

「う〜ん、まぁここ最近は商品開発とか異世界で湊翔様と共闘とかで忙しかったからな〜。それにお金にも余裕が出来たから仕方ないって言ったら仕方ないのかも…」

 

「だよなぁ錬太郎〜、お前は話がわかるなぁ〜」

 

「レンタロウ!何甘やかしているんですか!もしカズマが魔王討伐を諦めたら私は誰と一緒に爆裂道を極めればいいんですか!」

 

 怒り心頭な様子は収まらず、めぐみんは鋭い視線を錬太郎に向ける。いつもどこか余裕があるような雰囲気は微塵も感じられず、ゆんゆんさえもこんなめぐみん久しぶり…と動揺を見せていた。

 

「うっ…で、でも偶には休みも必要だろうし…。例えば温泉に浸かって疲れを癒すとか…ちょっと古臭いかな?」

 

「錬太郎、今温泉って言った⁉︎」

 

 錬太郎の温泉というワードにアクアが食いつき、コタツから飛び出してぐいっと顔を寄せる。錬太郎は多少驚きながらも首を縦に数回振ると、アクアは上機嫌になって提案を始めた。

 

「それならぴったりの場所があるわ!温泉と水の都!アルカンレティアよ!最近私もちょ〜っと身体が重かったからちょうどいいわ!明日にでも出発しましょう!信者の子達元気にしてるかしら?」

 

「「げっ⁉︎」」

 

 アルカンレティア、その単語を聞いて思わず錬太郎とゆんゆんの顔が引き攣る。アルカンレティアとは水の女神アクアを崇拝する信者達が住まう集落で、アルカンレティアの街は見栄えも文句なしに美しいのだが、そのアクアの信者達、『アクシズ教徒』達が厄介極まりないのだ。

 隙あらば勧誘、あの手この手で入信させようとしてくる上に、悪気が一切ないのが余計にタチが悪い。さらにエリス教徒を忌み嫌っており、エリス教徒に対する問題行動も数多い。

 行けば間違いなく、旅行時よりも疲れが溜まるのは想像に難くない。ここは他の場所を提案するが吉と見た錬太郎だったが、もう手遅れだった。

 

「ん〜、まぁ?ここ最近の疲れを癒すには温泉はいいと思うし偶には優雅に旅行を楽しむのも悪くないな!」

 

「そうだな、私も賛成だ!」

 

「まぁ私も…いいですよ」

 

 カズマとダクネス、そして少し怪しかったがめぐみんも賛成し、アルカンレティアへの旅行はほぼ確定してしまった。ふと錬太郎が視線を隣に移すと、生気を失った瞳のゆんゆんが「アルカンレティア…あそこに…また…」とお経のように唱えていたため、錬太郎はきっかけを作ってしまったことを心の中で何度も何度も謝罪した。

 

「あ、そういや錬太郎!頼まれといた武器を鍛治スキルで作って置いたからよ。試してみてくれないか?」

 

「え…、ああ。ありがとう!ガッチャージガンとガッチャートルネードだよね?」

 

「おう、ダクネスあたりに頼んで模擬戦でもしてもらえよ」

 

「いいだろうカズマ!さぁ錬太郎!試作品で容赦なく私を蹂躙してくれぇぇぇぇ!!!!」

 

「う、うん…」

 

「私は外で先に待ってるぞ!いってくりゅ!」

 

 久しぶりに攻撃を受けられると喜びを露わにしたダクネスは、頬を紅く染めながら猛スピードで駆け出して行く。そんなダクネスの背中を見送りながら、錬太郎は己の心労を表すように深い深い溜息をついたのだった。

 

 

 

 

 

「さぁ来い!私はいつでも構わんぞ!」

 

「うん、それじゃあいくよ!」

 

 錬太郎はガッチャードに変身した状態でダクネスと対峙する。そしてガッチャートルネードにカマンティスのケミーカードを装填すると、瞬く間にダクネスとの距離を詰めて肉薄し、一撃を喰らわせた。

 

『ケミーセット!ケミースラッシュ!』

 

「はぁん!この感じ!ジンジンすりゅ!」

 

 今回は悪魔で武器の感覚を掴むことが主目的であるため、かなり威力を落としている。だというのに一撃与えた時に聞こえるダクネスの嬌声に、ガッチャードは仮面の下で冷ややかな視線になってしまう。

 

「ぬぅん!仮面の下でゴミを見るような目をしているのが見える!見えるぞ!さぁもっと、もっとだぁ!」

 

「わかったから落ち着いて…」

 

 自分の武器の手慣らしだというのに、何故かダクネスの性癖に振り回されるガッチャード。その後も『もっと威力を上げてくれ!』、『何度も刃で切りつけてくれ!』とせがまれたが、仲間を攻撃すること自体本当は抵抗しかない旨をダクネスに伝えて、渋々納得してもらえた。

 

「うん…大分感覚が掴めてきたよ」

 

「それはよかった、私も仲間として特訓に付き合った甲斐があったぞ」

 

「君は只性癖に忠実だっただけでは?」

 

 ガッチャードの指摘にダクネスは図星なのかそっぽを向いて下手くそな口笛を吹く。そして話題を逸らすように口火を切った。

 

「それにしても錬太郎、お前ほどの実力なら別に王都を拠点に活動するのもアリだったのではないか?その方がお前にとってもケミー達にとっても生活環境は良いというか…」

 

 ダクネスは少し前から抱いていた疑問を尋ねる。以前ズキュンパイアより錬太郎が王都を拠点にしていた時期があると聞いて以来、ずっと不思議に感じていた。

 ダクネスの問いにガッチャードは暫く無言を貫いた後、変身解除して錬太郎の姿に戻ると、重い口を開いて淡々と語り始めた。

 

「嫌になるんだよ…王都の人々から、『正義の錬金戦士ガッチャード』って呼ばれることが…」

 

 

 

「それは錬金事変以来、風評が地に落ちた錬金術師達の評判の風向きを変えたお前への称号だったな。私も貴族世界の中で度々耳に挟んでいたから知っている。だが…それは…」

 

「王都や色んな地域で暴れるネガマスクを…僕の故郷のアルケミアの錬金術師達の死体で生まれたホムンクルス達を倒していって得た称号だ。

かつての仲間を手にかけているのに…自分が、まるで正義の味方のように言われることが嫌で嫌で仕方なかった。

最初は、亡くなった皆が錬金術師の名誉回復になったってきっと喜んでくれる…そう言い聞かせてなんとか耐えてたけど、結局無理だった。

なんというか、世間のイメージに塗りつぶされて自分が自分で無くなるような感じでさ…」

 

「私も…ダスティネス家の令嬢という側面で見られることもあるからな…なんとなくだが、お前の気持ちはわかる気がする…」

 

「王都は人で溢れているから、相対的にケミー達にマイナスな悪意が蔓延る割合も高いんだ。僕がネガマスクを連れてきて自作自演をしているんじゃないかって、陰謀論も囁かれることもあったし…

ダクネスもあるんじゃない?ダスティネス家に対する根も葉もない噂をかけられたこととか…」

 

「まぁ、ないとは言い切れないな…」

 

「王都にいた時、僕は感じたんだ。名のある貴族や冒険者、光の当たる人達をスケープゴートにして、見たくない現実から目を逸らす人達がいる…。そういう人達から悪意は生まれて、やがて伝染していくんじゃないかってね…」

 

 錬太郎の憶測に、ダクネスは黙り込む。暗い話題故に少々空気が張り詰めるが、錬太郎は話を続けた。

 

「それに、僕には冒険者としてのゴールがあるから…そのためには、広く世界を巡って見る必要があるから、あんまり定住地を作るのは向いていなかったりするんだ。

まぁ今はロードや魔王討伐に重きを置いているから皆と一緒にいるんだけど…」

 

「ロードを倒すことがお前のゴールではないのか?私達と一緒に魔王を討伐することが違うというのか⁉︎」

 

 錬太郎の言葉に思わず声を荒げるダクネス。その迫真さに驚いてしまった錬太郎だったが、ハンドサインでダクネスに落ち着くよう促し、続きを語り始める。

 

「いや、ゴールの過程ではロードや魔王の討伐は避けては通れない道だ。それでも…彼らよりも真に打ち倒さなきゃいけないものがある…」

 

「何なんだそれは…」

 

 錬太郎の討伐しようとしている存在が分からず、ダクネスは困惑気味に尋ねる。そして錬太郎の口から話されたその対象の正体は…。

 

「僕が本当に打ち破りたいもの、それは…

 

 

 

 

 

 

世界の矛盾だ」

 

 

 錬太郎の発した言葉に呼応するかの如く、風もない大地で不自然に草木が揺れた。

 

 

 

「世界の…矛盾だと…」

 

 驚きで声を震わすダクネスに、錬太郎は正解の意を込めて軽く頷いた。

 

「魔王を、ロードを倒したとしても、全てが終わる訳じゃない…。

冒険者の手が届かずに彼らの災禍に巻き込まれて焦土になった場所があって、お腹を空かせ親と離れ離れになって泣く子供達がいる…。これは一流の冒険者達によってある程度治安が保たれている王都と比べて大きな矛盾だ。

そして錬金事変以来、ロードの動きが活発になって被害は増すばかりだ…」

 

「だがそれは!錬太郎の責任というわけでは!」

 

 必死に弁明しようとするダクネスだが、錬太郎は首を横に振り、

 

「ガッチャードライバーはこの世に災厄が降りかかる時、適合者に力を与え平和を齎す…アルケミアの教えにはそうあった。錬金事変は、間違いなくロードを倒すことができた瞬間だった…それだというのに…

僕は奴を逃した挙句、故郷すら守り切ることが出来なかった、力を与えられた者としての使命を…何一つ果たせなかった。

自分の責任のような気がして、見て見ぬふりなんか出来ない…

 

 

だから僕はロロ叔父さんと!………ッッッ…」

 

 そこまでで錬太郎は続く言葉を飲み込む。そしてそのまま俯いて小さな声でポツリと。

 

「ロロ叔父さんは…僕のせいで…」

 

 その後、訓練は打ち切られ錬太郎とダクネスは屋敷に戻った。汗をかいたとのことで錬太郎は1人風呂場に向かって身体を洗い清めた。

 そして時刻が進み夕刻。この日はカズマとめぐみんが当番となって晩御飯を作り、皆で食卓を囲んで団欒をしながら食事を進めていた。

 そんな中、カズマが錬太郎に対して口火を切った。

 

「なぁ錬太郎。ダクネスに話していたこと、もっと詳しく聞かせてくれないか?」

 

 カズマを皮切りに、皆の視線が錬太郎へと集まる。錬太郎は少し居心地が悪そうに、しかし視線はカズマから逸らさずに、

 

「やっぱり、いつかは話さないとだよね…」

 

「お前が1人で何か抱え込むと勝手に爆弾にしかねないからな。ダクネスからお前の目標とか王都でのこととか聞いたけど、直接お前の口からも聞きたくてな…傷口を抉るようなことをしてるのはわかってる…でも!同じパーティメンバーなんだからよ、悩みくらい共有させてくれよ」

 

「うわっ、カズマさんが珍しくリーダーしてるわ…」

 

「朝のグータラっぷりが嘘みたいですね…」

 

「おい駄女神に爆裂娘!それ以上言ったらドレインタッチで魔力吸い取ってやるからな!」

 

 手をワキワキとさせながらアクアとめぐみんを睨むカズマ。実家のような安心感すら覚える光景に錬太郎も思わずふっと頬を緩めてしまう。

 

「確かに辛い経験だった…でも、今の僕を形作っている記憶でもある。わかった、話すよ」

 

 神妙な顔つきになり、錬太郎を中心に空気が少し重々しくなって語りが始まった。

 

「錬金事変の後に、僕はロロ叔父さんのいる王都を拠点にしながらケミー達を探して各地を巡り、その中で色々な問題に気づいた」

 

「ダクネスから聞きましたよ、冒険者達の手の回らない混乱にあなたが何か出来ないかと悩んでいたって…」

 

 めぐみんの確認に錬太郎は軽く首を縦に振った。

 

「でも、出来なかった。絶対に表に出てこないけど、裏で糸を引いて真実を捻じ曲げる奴が邪魔をしてきたからね」

 

「アルダープだな。奴はロードとも手を組んでいた。下手にロードによってもたらされた混乱にお前が動くとなると、尻尾を掴まれる可能性があると恐れたのだろう…」

 

「ダクネスの言う通りだ。アルダープにとって僕は敵だ、存在に迫ろうとしていたからな。

ロードやネガマスクと戦う術はあっても、見えない力には全く太刀打ち出来なかった…。マクスウェルの呪いの力は絶大で、錬金術師の評判はガタ落ち、それまでロロ叔父さんを頼りにしていた王都の人々も、皆手の平を返し始めた。

それでも…僕は錬金事変の真実と、世界の惨状について声を上げ続けた。

錬金事変で無念の内に命を落とした、仲間達のためにもね…」

 

 錬太郎は瞼を閉じてかつての兄弟子と姉弟子の勇姿を懐古する。

 

 厳しくも、進むべき道をしめしてくれた、強くて優しいハガネ。

 

 コズミックケミーとファンタスティックケミーによる高度な多重錬成を繰り出し、『高等錬金戦士マジェード』として錬金事変でも最前線で戦ったライラの2人だ。

 

「ロロ叔父さんは、錬金術師の名誉回復を願っていた。でも、現実は残酷で、ロードがネガマスクを組織して破壊活動を始めて、その頃から錬金戦士ガッチャードとしての名も知れ渡り始めて…色々複雑で精神的にも限界だった…」

 

「でも!錬太郎さんは戦い続けたんですよね?」

 

 必死に振り絞ったような声で尋ねるゆんゆんだったが、錬太郎は力無く首を横に振って否定した。

 

「どうして⁉︎」

 

「……クリスさんと一緒にネガマスクからズキュンパイアを解放した日…

 

 

 

 

 

ロロ叔父さんが、マクスウェルの呪いで殺された…」

 

 震えながら語る錬太郎に、皆が驚愕する。

 親族であり尚且つ最後の後ろ盾だった叔父を失い、幼い錬太郎は最早戦う土台にすら立てない状態にあったことに。

 

「じゃあ裁判の時にあんなに怒ってたのって…」

 

「僕は…負けたんだ…」

 

「そんな…錬太郎さんが負けを認めるなんて…」

 

「その後は王都を去った。絶望に囚われないようにするだけで精一杯で…。僕に残されたのはケミー達だけだった…」

 

 語られる失われた2年間の錬太郎の記憶。その壮絶すぎる人生に皆言葉が出なかった。依然として場の空気は重いまま。

 だが、その空気は思わぬ人物によって壊される。

 

「さてと、皆。僕の話、わざわざ聞いてくれてありがとうね。少し楽になったよ」

 

「え、そんな感じ?本当に大丈夫なのか?普通ならなんか後悔みたいなのがあるんじゃないのか?」

 

 意外と普通そうな錬太郎にカズマが心配して尋ねるが、錬太郎は僅かに口角を上げて首を振った。

 

「後悔がないと言えば嘘になるけど…それでも僕は正しいと思ったから行動した。全ては収まるべきところに収まる、無駄なことなんて一つもない…そう、信じているから」

 

「錬太郎は…強いんだな…」

 

「そうでもないさダクネス、僕なんて迷ってばかりだ。前を向いていられるのは、必要としてくれる人が、信じてくれる人が、カズマ達皆がいるからだよ」

 

「お、お前っ…そんなっ、いきなり褒めても何もでねぇからなぁ…」

 

「そっ、そうよ!女神を舐めないでよね!そんな、ちょっと感謝された程度で…チョロくなんかないんだからね!」

 

 錬太郎の唐突な感謝に、カズマ達は照れくさそうにモジモジとし始める。錬太郎はそんな皆の様子に心が温まる感覚がした。

 

 刹那、突如として屋敷の扉をコンコンと叩く音が響いた。

 

「ん?誰だろう。僕行ってくるよ!」

 

 来客かと錬太郎は玄関へ駆け出し、扉を開けた。そこには裁判やバニルの一件でお世話になった検察官のセナがいた。

 

「あ、セナさん!どうしたのですか?」

 

「あ、検察官さんじゃん!」

 

「まさかまたダンジョンやリザードランナーみたいなクエストの依頼かしら?」

 

 錬太郎に続いて、他のメンバーもぞろぞろと集まってきた。そんな中、セナは気まずそうな表情で何やら1枚の紙を取り出し、錬太郎の前に提示する。

 

「アルカンレティアから被害届が出されました…モモセレンタロウさん、貴方を器物損害及び傷害罪の容疑で身柄を確保させていただきます!」

 

「「「「「「ええええええええ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」」」」」」

 

 唐突な逮捕宣言に、一同は驚きの声を上げるしかなかった。




 数日前の夕刻。温泉の都アルカンレティアにある店の数々は、もう時間的に頃合いと見てその日の営業を終えようと閉店作業を開始していた。
 そんな時だった。石で舗装された街道をフラフラと歩く人影が一つ。その者は黒髪黒目で、青い色のローブに身を包んでいた。

 服装こそ違えど、その人物は百瀬錬太郎その人だった。

「ようこそ旅の者!時間的に少し遅いかもしれませんが構いません、アクシズ教への入信手続きは年中無休ですよ!」

「この街は女神アクア様の加護を受けられる最高の場です!是非とも入信書にサインを!今ならお得なキャンペーンもありますよ!」

「アクア様の色である青の服を着てなさるとは!きっとアクア様が貴方を導いてくださったのでしょう!どうですか、こちらの石鹸!なんとこの石鹸、食べられるんですよ!」

 錬太郎がやって来たと同時に、アルカンレティアの住人達は駆け寄って、怪しいセールスマンのようにアクシズ教徒への勧誘を始める。普通の感性の人ならば恐ろしくて逃げ出してしまうほどの迫力であるが、錬太郎は微動だにせず、1人の信者の持つ石鹸へ手を伸ばす。
 そして先ほどの言葉を間に受けたのか、石鹸を自身の口元へ持っていき頬張った。しかし…。

「ウウ…オエッ!」

「ええ!嘘でしょ⁉︎」

「まさか本当に食べるなんて…」

 勿論石鹸なので食べることなど出来ず、錬太郎は顔色を悪くして咽せてしまう。信者達もまさか食べるとはと内心引きながら錬太郎を見つめている。
 が、信者達はこの瞬間に逃げるべきであった。勧誘するべき人物を間違えていたのだ。

「コレ…クイモノ違ウ…オマエラ…騙シタ…
オレ、オコッタ!!!」

 激昂した錬太郎は手に持っていた石鹸を握り潰すと、信者の女性に掴みかかって勢いよく拳を振るう。他のアクシズ教徒の間でどよめきが起こったが、そんなことは気にせず、辺りにいた教徒を片っ端から蹴る、殴る、踏みつけるなどして痛めつけ始めた。

「だ、誰か!助け…ううっ…」

 最後の1人が助けを求めようとその場を離れようと駆け出すが、錬太郎はそれを許さない。何処からか植物の蔓のような物体を出現させてその者の首を締め上げ、その後勢いよく地面に叩きつけた。

クテウ(オレ)クテストヅ(オコッタゾ)〜!!!!



ルオオオオアアアアアア!!!」

 獣の雄叫びにも似た、錬太郎の咆哮が、夕陽の沈むアルカンレティア一帯に響き渡り、アクシズ教徒達に消えない恐怖を刻み込むのだった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。