この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを!   作:山田プロキオン

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やっとダクネスとクリスを登場させることができました



仮面ライダーの称号とお宝(おぱんつ)

 

『ケルベロ!ケルベロ!』

 

カズマ達と共にケミー探索することを約束した翌朝。宿のベッドでぐっすり眠っていた錬太郎は、三つ首が特徴のファンタスティックケミー、「ヨアケルベロス」に朝がきたことを告げられ、目を覚ます。

 

「ふわぁ〜、おはようヨアケルベロス。それにネミネムーンも、昨日はぐっすり眠れたよ。ありがとうね」

 

『ムーン♪』

 

対象者に安眠をもたらすコズミックケミーの「ネミネムーン」は錬太郎から感謝されたのが嬉しかったのか、声に明るさが滲んでいた。

錬太郎はベッドから降りて、歩きながら軽く伸びをすると、窓にかかるカーテンを開けた。

窓の向こう側から、地平線よりやってきた光が滲むように広がり、部屋全体を暖かく包む。

 

「さて、今日も一日頑張るか…」

 

錬太郎は陽の光を浴びながら深呼吸をすると、身支度を始めた。

 

 

 

 

今日はカズマ達と話し合いをするため、昼頃にギルドに集まることになっている。しかしながら現在、約束の時間帯よりも前であるため、宿のほうで暇を潰すことにした。

 

ベッドを椅子代わりにして腰掛けると、自身の鞄から一冊の本を取り出して、膝の上に置く。

この本は旅の最中に買ったもので、昨今の情勢について詳しく記されているものである。本来なら値段はそれなりにするものの、気前のいい商人が格安で売り払ってくれたため、二つ返事で購入したのだ。

錬太郎は表紙を開くと、瞳を左から右に、また左から右にと移動させるのを繰り返し、所々手垢としわのあるページをめくりながら読み進めていく。

そして、とあるページまで来るとめくる手を止めた。

 

【錬金事変】

 

錬太郎はその4文字に苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、その後に続く内容に目を通す。

 

【世界中の錬金術師達があつまる街、アルケミアにて起こった出来事。

錬金術に秘められた可能性で世界を覆さんとする革命派と、錬金術はこれまで通り世界を守るために行使すべきという保守派とで内部分裂が起こり、一夜にしてアルケミアと殆どの錬金術師は滅びてしまった。】

 

錬太郎はその部分だけ読み終えると、それ以上は読む気が失せたのか、本をパン、と音を立てて閉じ、小さくため息をこぼす。そして本を鞄の中に戻すと、今度は一通の封筒を取り出した。

 

それは病院にいる自分の母、百瀬舞(ももせまい)から自分に宛てられたものだ。封を切り、中から折り畳まれた手紙を取り出して広げると、母の字を人さし指でなぞりながら拝読する。

 

『錬太郎へ

 

お元気ですか?

私は最近は体調も良く、目覚めのいい朝が送れています

前の手紙は紅魔の里でのことについてでしたが、

あれからお変わりないですか?

体を壊さず、お腹を空かせず、ケミー達と仲良く過ごせているなら幸いです

これからも冒険、頑張ってね

           

                    舞より』

 

手紙を読みながら、錬太郎は嘆息する。途方もないケミー探しの旅の中で母からの手紙は束の間の安息なのだ。不定期でのやり取りではあるが、それでも、離れている母との繋がりがあることがとても嬉しいのである。

 

錬太郎がちょうど手紙を読み終えた頃、自室の扉がノックされたため、扉の方へと視線を移した。来客だろうか。ベッドから徐に腰を上げ、扉を開けると、そこにはゆんゆんが立っていた。

 

「お、おはようございます!錬太郎さん。あ、朝ご飯をよかったら一緒にどうかなって…」

 

まだ緊張しているのか、ゆんゆんはほんの少し顔を赤くしながら錬太郎を朝食に誘ってきた。昨日の一件でカズマ達と一緒にパーティを組んだのだからもう少し堂々としてもいいだろうにと錬太郎は思ったが、それはゆんゆんには酷である。

プラントケミー達と出会うまでは本物の植物に話しかけるほどにぼっちを拗らせていたのだから。今この瞬間も錬太郎に嫌われてないかと内心びくびくしている。

しかし錬太郎も、勇気を出して朝食の誘いをしてくれた女の子を足蹴にするほど無慈悲な男ではない。寧ろちょうどお腹が空いていたところだ。それを表すかのように錬太郎の腹の虫が可愛らしく音を立てた。

錬太郎は誤魔化すように笑うと、ゆんゆんに言った。

 

「うん、一緒に朝ご飯食べよう。」

 

 

 

 

食堂に移動し、テーブル席を確保すると、錬太郎とゆんゆんはメニューに一通り目を通して注文をした。暫くすると、幾つもの皿に盛られた料理が2人の前に振る舞われる。錬太郎の大食感は相変わらずで、テーブルには彼の頼んだ料理で溢れていた。

 

「ほ…本当に沢山食べるんですね…」

 

「うん。ガッチャードとして戦うようになってからやけにお腹空くんだよね〜」

 

そんなことを言いながら錬太郎は皿の上の食材を一つ、また一つと平らげていく。その様子は昨日の会食の時同様、食堂を利用している人々の視線を釘付けにしたのだった。

 

朝食をとる中、錬太郎はゆんゆんの学生時代の話を聞いていた。

めぐみんと話していた際に、彼女が『学園』という用語を用いため、少し気になったのだ。

まぁ1番の理由は、ゆんゆんが食事中に何度も錬太郎に視線を送るため、何か話をしたいのだろうと感じたからである。

とはいえ、錬太郎は自身の過去について話すことはあまり気が進まないため、ゆんゆんの学生時代はどうだったのかと話題を振った。

 

ゆんゆんは、待ってましたと言わんばかりに思い出話をしてくれた。学舎であるレッドプリズン、『ふにふら』や『どどんこ』という恐らく友達等、紅魔の里での思い出を語る様子はとても輝いていた。

そんなこんなで2人は朝食を終え、食堂を後にする。

 

「朝ご飯食べ終わってまだ時間あるけど、どうする?」

 

「そうですね…あ、ボードゲーム持ってきてるのでい、一緒にやりませんか?」

 

「…そうしよっか」

 

話を終えると、2人は一度各自の部屋へと戻り、一頻りしてからゆんゆんがボードゲームを持って、錬太郎の個室へとやってきた。

 

ボードを広げ、色々な形の駒を乗せると、ゆんゆんは錬太郎に簡単なルール説明をした。錬太郎がルールについて大体把握すると、2人はゲームを始めるのだった。

 

「では、これで」

 

「う〜ん、ここからの打開策は思いつかないや。また僕の負けだ」

 

「やった」

 

「ゆんゆんはこのゲーム上手なんだね、たくさん遊んできたの?」

 

「はい、1人のときが多かったのでそのときに…錬太郎さん?なんで泣きそうなんですか?」

 

さらりとゆんゆんが告げた衝撃の事実に、錬太郎はそこまで孤独に過ごしていたのかと驚愕すると同時に物凄く悲しい気持ちになった。心底ゆんゆんに同情した。1人で対戦ゲームをやり続けるまでにぼっちを拗らせてしまっていたとは…。ケミー達以外の話し相手が植物といい、紅魔の里での交友関係といい、中々に不憫である。

 

「これからはゲームやるときは僕を誘ってよ、クロっちにも頼んどくから…」

 

「いいんですか!ありがとうございます!」

 

ゆんゆんは瞳を輝かせ、感謝の意を述べる。そんな感謝も今は少しばかり錬太郎には辛かった。 

その後も2人のチェスは続いたのだが、暫くして頃合いと見ると、出発することにした。

 

「じゃあ、そろそろギルドに行こうか。」

 

「はい!」

 

ゆんゆんの返事を聞くと、錬太郎はホルダーからゴルドダッシュのカードを取り出した。ちなみにクロっちは酔いが覚めておらず、まだお休み中である。

 

『ケミーライズ ゴルドダッシュ』

 

ケミーライザーにカードを装填すると、ゴルドダッシュが金色のバイクとして姿を現す。

 

「しっかり捕まっててね」

 

『ダーッシュ!』

 

錬太郎とゆんゆんは2人乗りする形でゴルドダッシュに跨る。ゆんゆんが自身の腰に手を回したことを確認すると、アクセルを吹かせてゴルドダッシュを走行させ、ギルドへと向かった。

 

 

 

 

ギルドに到着すると、カズマ達は昼食をとっているようであり、その中に錬太郎達も混ぜてもらった。

 

「そういや錬太郎、昨日はありがとな。あの怪物と遭遇したときマジで終わったと思った」

 

「気にしないでよ、怪物になってたおじさんも衛兵さん達が捕まえてくれたみたいだし、何よりカズマ達が無事でよかったよ」

 

カズマの感謝に、隣の錬太郎は定食を頬張りながら気にするなと返す。同じ席で豪食しているめぐみんやアクアにも負けず劣らずの食欲には呆れを通り越してもはや感心するしかなかった。ゆんゆんも「朝あんなに食べてたのに…」と若干引いていた。

 

「そういえばスキルの習得ってどうするんだ?」

 

食事に夢中になっている3人を他所にカズマが呟く。そう、今回話し合うことはカズマのスキル習得についてである。

 

「カズマさんは初期職業の冒険者なので、誰かにスキルを教えて貰う必要がありますね。対象となるスキルを見て、使用方法を教えて貰いましたらカードに習得可能スキルという項目が出てきます。そこでポイントを使って選択すれば習得完了になります。」

 

ゆんゆんの丁寧な説明を受け、カズマは自身のカードを深く考えるように眺める。初期職業の冒険者は全てのスキルを習得可能らしいので…

 

「つまりめぐみんに教えて貰えば爆裂魔法が使えるってことか…」

 

「その通りです!」

 

カズマの何気ない発言にめぐみんが食いつく。そして、身を乗り出して迫ってくるので、カズマはたじろいだ。

錬太郎もめぐみんの声に驚き、食べていた定食を喉に詰まらせかけ、慌ててコップの中の水を口に流し込んだ。

そんな2人をよそに、めぐみんは意気揚々として話し始める。

 

「その通りですよカズマ!冒険者はアークウィザード以外で唯一爆裂魔法を扱える職業です。爆裂魔法を覚えたいなら是非とも教えてあげましょう。というか、それ以外に覚える価値のあるスキルなんてありますか?いいえ、ありませんとも!さあ、私と一緒に爆裂道を歩もうじゃあないですか!」

 

「めぐみん、熱くなるのはいいけど、せめて口元は綺麗にしてから話そうね」

 

(たぎ)るめぐみんを(たしな)めると、錬太郎は塵紙を取り出して彼女の口元を拭う。拭い終えると、落ち着いた口調でめぐみんに諭すように告げる。

 

「それに爆裂魔法は習得するためのポイントがかなり必要でしょ?多分だけど、カズマはまだ取れないと思うよ」

 

「そうだぞロリっ娘!俺はまだスキルポイントは3しかないんだぞ!」

 

めぐみんはカズマの言葉がかなり心にきたのか、しょんぼりと項垂れると食事を再開した。時々自嘲気味に「この我がロリっ娘…」と言うため、錬太郎やゆんゆんからしたら気まずくて仕方なかった。ここは変に励ますとかえって傷つけてしまう可能性があるため、2人はめぐみんをそっとしておくことにした。

 

「なぁ、錬太郎。お前に教われば錬金術や、仮面ライダーみたいな変身は出来るのか?」

 

カズマが錬太郎に質問をする。錬太郎はこの気まずい空間を作っておいて、何事もなかったのかのように話しかけてくるカズマに少しばかり苦言を呈したくなる気持ちを堪えて返答した。

 

「錬金術はポイントによって習得はできるけど、爆裂魔法ほどではないにしてもかなりポイントを消費するよ。

変身はベルトやケミー達との信頼関係が必要だし、それなりの器量がないと変身解除した後に反動で動けなくなる」

 

「そっか〜」

 

錬太郎の回答にカズマは少し残念そうにぼやく。カズマも年頃の男の子。幼少期にテレビで見たようなヒーローへの変身には憧れるのだ。

 

「ところで仮面ライダーって何?」

 

「ん?仮面ライダーは俺の元いた世界で知られていたヒーロー達のことだぜ!錬太郎の変身した姿はどこか彼らに通じる部分があったからな」

 

「…仮面ライダーか…」

 

錬太郎は顎に手を当て、何度も頭の中で「仮面ライダー」という言葉を連呼する。変身したときは素顔を晒していないし、バイクもゴルドダッシュにおんぶしてもらうことが何度かあるため、確かに自分にも当てはまっているだろう。

 

「仮面ライダー…ガッチャードか…」

 

錬太郎はそう言うとフッ、と口角をあげる。今まで錬金戦士を名乗っていたが、仮面ライダーも悪くないように思えた。そしてカズマの世界で活躍しているであろう本物の仮面ライダー達にも恥じないように頑張ろうと強く決心した。

そんな感じで錬太郎が1人で思いを巡らせる中、カズマはアクアに宴会芸のスキルを見せられたことに怒号を上げていた。相変わらず平常運転である。

 

「あっはっはっ!面白いねキミ!キミがダクネスが入りたがってるパーティの人?有用なスキルが欲しいんだろ?盗賊スキルなんてどう?」

 

突然横からした声にカズマと錬太郎が振り向くと2人の女性がいた。

声をかけた方は頬に小さな刀傷があり、革の鎧を着た、いかにも身軽そうな格好をした銀髪の女の子、もう1人は金髪碧眼で、白と黄色を基調とした鎧を身に纏った正しく騎士の風貌をした美女。

カズマが女性騎士の顔を見るや否や、嫌そうに顔を顰めた。恐らく昨日話していた人物は彼女なのだなと錬太郎は察した。

銀髪の少女のほうに視線を移すと、錬太郎の知り合いなのか、久しぶりとでも言いたげな様子でウインクをしてみせた。

 

「えっと、盗賊スキルってどんなのがあるんでしょう?」

 

銀髪の少女にカズマが尋ねると、彼女は上機嫌に

 

「よくぞ聞いてくれました。盗賊のスキルには罠の解除に敵感知、潜伏に窃盗と持ってるだけでお得なスキルが盛りだくさんだよ。キミ、冒険者なんでしょ?盗賊のスキルは習得にかかるポイントも少ないしお得だよ?今なら、クリムゾンビア一杯でいいよ?」

 

「よし、すんませーん、こっちの人に冷えたクリムゾンビアを一つ!」

 

授業料の安さに釣られ、カズマは銀髪の少女にクリムゾンビアを奢った。

錬太郎もその安価っぷりを意外に思いつつも、よくよく考えてみれば盗賊のスキルを教えたとして、銀髪の少女にリスクはないだろうと考え、1人勝手に納得した。

 

しかし、よもやあのようなことになろうとは、この時は誰も知る由もなかった。

 

 

 

 

「それじゃ、はじめましての人もいるから自己紹介しなくちゃね。あたしはクリス。見ての通り盗賊だよ。それで、こっちの無愛想なのがダクネス。」

 

「うす、俺はカズマって言います。」

 

「僕は百瀬錬太郎です。こっちはホッパー1。ダクネスさんははじめましてだね。」

 

今現在、クリス、ダクネス、カズマ、ホッパー1を抱えた錬太郎の4人+1体はギルドの裏手の広場に集まっている。

ちなみにアクアとめぐみんはカズマの容赦ない口撃に意気消沈してしまっているため、そのままにされている。2人の様子を見ていて欲しいと、ゆんゆんも置いてきてしまったのだが、あの2人の面倒を見て、最悪アフターケアまでしなければならないゆんゆんの様子を想像すると、流石に少し丸投げし過ぎてしまったかもと、錬太郎は1人反省した。

 

「ダクネスさん()?錬太郎、クリスさんとは知り合いなのか?」

 

「まぁ、ケミー探しの旅でちょっと…」

 

「あの時の怪物はかなり強かったよね〜男女問わず骨抜きにして、さらに生命力も吸収するんだから大変だったよ、それで、今ケミー集めはどんな感じ?」

 

「今は35体。残るは65体なのでまだまだ前途多難です…」

 

「やっぱ100体って多いな…あとクリスさんと一緒に戦った怪物の能力も色々突っ込みたいんだが…」

 

カズマは錬太郎とクリスが共同で対峙したマルガムについて関心をそそられるも、今はスキル習得に専念するため、頭の片隅に置いておくことにした。

 

「ていうか、錬太郎は盗賊スキル習得できるのかよ?」

 

「いや、出来ないよ。ホッパー1が盗賊スキルを見てみたいって言ったから…」

 

『ホッパー!』

 

「あはは、相変わらずケミー達の頼みはちゃんと聞いてあげてるんだね。

それでは、まずは《敵感知》と《潜伏》をいってみようか。じゃあ、ダクネス、ちょっと向こう向いてて?」

 

「?…わかった」

 

言われた通りにダクネスが反対側を向くと、クリスは少し離れた場所の樽の中へと入り、上半身だけを出した。

そしてダクネスの頭に小石をぶつけると、その身を樽の中へと隠した。

 

「これが潜伏スキルなのか…?」

 

「なんか思ってたのと違うね…」

 

『ホパ…』

 

三者とも鳩が豆鉄砲を食らったような表情になる。もっと気配を霧のようにフッと消すようなものとばかり思っていたのだが…

そして石を投げつけられたダクネスは無言でクリスが身を隠しているポツンと置かれた一つの樽の方へ向かっていく。

 

「敵感知、敵感知と…ダクネスの怒りをピリピリと感じるよ!…ダクネス⁉︎分かってるとは思うけど、これはスキルを教えるためにやってることだからね⁉︎だからってあああああああああ!いやあああああああああ!やめてええええええええ!ダクネスぅぅぅぅ!」

 

ダクネスは、樽の中のクリスのことなどお構いなしとばかりに樽を横にして、ゴロゴロと転がした。

 

「こんなんで本当にスキル覚えられるのか…」

 

「ちょっと疑ってる…」

 

『ホッパホー…』

 

カズマと錬太郎は不安だとばかりにため息をつくと、転がっていくクリスの樽を遠巻きにして眺めた。

 

 

 

 

「さ、さて。それじゃあ次はあたしのイチオシの《窃盗(スティール)》をやってみようか。対象の相手から持ち物をランダムで奪い取るスキルだよ。奪い取る物は使い手の幸運のステータス依存。色々と使い勝手がいいスキルだよ。」

 

目を回していたクリスがやっと気を取り直すと、今度は如何にも盗賊らしいスキルを説明する。説明からして、中々使えそうである。さらにカズマは幸運が高いらしいので、彼にはうってつけなスキルなのかもしれない。

 

「じゃあカズマくんに使ってみるからね、いくよ!『スティール』ッ!」

 

クリスがカズマの方に手を突き出して叫ぶと同時に、クリスの手には彼の財布が握られていた。

 

「お、当たりだね!まぁ、こんな感じさ。じゃあ財布を…」

 

クリスはカズマに財布を返そうとしたが、何を思ったのか、ニヤリと笑うと

 

「···ねえカズマくん、あたしと勝負しない?さっきの窃盗スキル覚えてみなよ。それで、あたしから何か一つ奪っていいよ。それが何であってもあたしは文句は言わないから。どうかな?」

 

なんとクリスはカズマにスティールでの勝負を仕掛けてきた。対するカズマはその勝負を受けることを示すように冒険者カードを取り出してクリスから教わった盗賊スキルを習得した。

 

「いいぜ、その勝負乗った!何盗られても泣くんじゃねぇぞ?」

 

「いいね!そういうノリ好きだよ。当たりは一つ40万エリスするこのマジックダガー、残念賞はさっきダクネスにぶつけるために拾っておいたこの石ころ達だよ!」

 

「ああ!汚ねぇぞ!」

 

クリスが取り出した石に対してカズマは抗議する。しかしクリスはどこ吹く風である。

 

「コレは授業料だよ?どんなスキルも万能ではないってことさ。それじゃあいってみよう!」

 

 

 

 

「…どうしてこうなった」

 

『ホパ…』

 

錬太郎は頭を抱えていた。結論から言おう。スティール勝負においてカズマはある意味当たりを引いた。クリスが履いていたパンツである。

 

「よっしゃああああああああ!大当たりだああああ!」

 

「いやあああああああ!パンツ返してえええええええええ!」

 

素晴らしい笑顔でクリスのパンツを天高く掲げて、勢いよく振り回すカズマと、甲高い悲鳴をあげてパンツを返して貰うよう懇願するクリス、なぜか頬を紅潮させて興奮しているダクネスといったなんともカオスな光景が広がっている。

 

「自分のパンツの値段は自分で決めろ!もし俺が満足する値段じゃなかったら、もれなくお前のパンツは我が家の家宝として奉られることになる!」

 

調子に乗ってカズマはとんでもないことを言い出している。確かに何が盗まれても文句はなしと勝負前に言っていたし、クリスは小石を多く持って対策していたのだから仕方ないと言えば仕方ない。

しかしカズマの鬼畜な行動に対してあまりにもクリスが可哀想なので錬金術で助けることにした。

人さし指にアルケミストリングを装着すると、いつもの錬金術の呪文を詠唱した。

 

「『下にあるものは上にあるもののごとく 上にあるものは下にあるもののごとく ただ一つたる 奇跡をなさん』」

 

刹那、カズマの持っていたパンツは意思を持ったかのようにカズマの手を離れ、錬太郎の元へと飛んできた。そしてパンツを手に取るとクリスに返却した。

 

「おい、何するんだよ錬太郎、それは俺が勝負で手に入れたパンツだぞ!」

 

「確かにカズマの言い分はごもっともだけどさ、一旦冷静になろう。今自分がやってることを思い返してみなよ」

 

錬太郎の言われた通りにカズマは己の所業を振り返る。スティールでパンツを奪い、白昼堂々振り回す。もしかしなくてもヤバい人である。そして目の前には涙ぐんでいるクリス。

正気に戻ったカズマは一気に青ざめ

 

「すみませんでしたぁぁぁぁぁ!」

 

お手本のような綺麗な土下座をした。

 

その後、クリスはカズマを許してくれたようで4人は再びギルドへと戻った。クリスは稼ぎの良いダンジョンを見つけるために冒険者募集の掲示板へと向かった。

 

「錬太郎さん…」

 

クリスは錬太郎の名を呼ぶと、彼を手招きした。錬太郎も気づいたようで、彼女の元へと向かう。

 

「やっとパーティーに入ることにしたんですね。貴方に新しい仲間が見つかったようでよかったです」

 

「アイツらやケミー達に必死に懇願されたから仕方なくですよ…」

 

先程のくだけた話し方とは打って変わって、丁寧な口調で錬太郎に話すクリス。錬太郎は素っ気なく、しかし僅かに嬉しさを滲ませた声色でクリスに言った。

 

「…貴方はやっぱり、戦い続けるんですか?」

 

「ええ…全てのケミー達を探し出し、アルケミアを滅ぼした真の元凶を叩く…それが、僕なりの、皆へのせめてもの供養ですから。」

 

「そうですか…お気をつけて!」

 

錬太郎は決意の篭った淡々とした声で告げる。彼の決意は拳骨のように固く揺るがないと悟ったクリスは寂しそうに、それでいて激励するように声をかけると錬太郎の元を去った。

 

「頑張りますよ、エリス(・・・)様…」

 

錬太郎はクリスの去って行った方を遠目に見ながら、国教となっている女神の名を漏らし、拳を握りしめた。

 

『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は至急正門に集まって下さい!繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は至急正門に集まって下さい!』

 

大音量でアナウンスが響き、警報の如く鐘が鳴る。

それを合図に冒険者達は正門の方へと向かっていく。

 

「今年も収穫の時期が来たか…」

 

錬太郎の嬉々とした声に反応するように、左腕のホルダーから2枚のカードが飛び出して、彼の手の中に収まる。

 

「お前達も行きたいのか…よし、一儲けするか」

 

『ウィール!』

 

『パイレッツ!』

 

先に正門へと向かった冒険者達を追うように、錬太郎も歩き出した。




次回はいよいよキャベツ戦
色んなフォームの活躍書きたいです。
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