この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを! 作:山田プロキオン
クロっちの提案の下、錬太郎達は風呂を上がった後にババ抜き対決を行った。参加したのは錬太郎、カズマ、めぐみん、ゆんゆん、ダクネス、ウィズ、クロっちの7人。ホッパー1達ケミーが観戦者として見守る中、一発真剣勝負の火蓋は切って落とされた。
と、仰々しく説明しているものの、実際は何の盛り上がりもなく、勝敗は決してしまった。主な理由は3つで、1つはカズマの豪運。生まれてから一度もじゃんけんに負けたことはないと本人が豪語するだけあって、一番先にカズマが上がった。2つ目はめぐみんのイカサマだ。ちょむすけを用いて他の面子の手札を把握して、カズマの次に抜けた。
その後残り5人となったが、ダクネスが抜け、ウィズが抜け、クロっちが抜けてで、いよいよ錬太郎とゆんゆんの1対1となった。結局、対人ゲームに弱い錬太郎はゆんゆんとの心理戦に負けて
「ってことは、水晶で過去を見るのは錬太郎か…。にしても弱すぎんだろ、前に俺とこの世界のチェスした時も負けてたし…」
『仕方ないじゃんカズマ…。ここ2年間で錬太郎に友達らしい友達なんて1人もいなかったし、ゲームしたこともなかったんだから』
「ぐはぁ…⁉︎」
カズマ、そしてクロっちの何気なく溢した言葉が、錬太郎の心の臓を投擲された槍の如く、深く抉った。その痛恨の一撃にはさしもの錬太郎も耐えることが出来ず、力無く地面に身体を預けてしまった。
「凄い連携技ですね…。悪意なし故に切れ味が凄まじいですよ…」
「カズマさん…クロっちさん…」
「こ、これは…カズマとクロっちには言葉攻めの才能があるかもしれないなぁ…わ、私にも今度ぜひ!」
「大丈夫ですか、錬太郎さん…」
めぐみんとゆんゆんはじっとりとした視線をカズマとクロっちへ向け、ダクネスは相変わらずかな、自身の欲望に忠実な様子で罵倒を懇願しており、ウィズは錬太郎のメンタルケアへ移った。
カズマとクロっちは、自身らのせいで図らずしも居心地の悪くなってしまった空気にしどろもどろとしてしまっている。特に紅魔族の女子2人の呆れや失望が入り混じったかのような4つの緋色の瞳には、背筋に寒気が走る程だった。
「と、兎に角!ビリだったんだからさっさと錬太郎の恥ずかしい過去観ようぜ!」
「この男、露骨に逸らしましたよ…」
「や、約束は約束だしね…わかったよ、今から触れる」
むくりと錬太郎は上半身を起こして、クロっちが用意してくれた水晶に触れて、己の魔力を込める。刹那、水晶が錬太郎の魔力の反応を受けて光り輝き、在りし日の過去を映し出した。
「ん?なんかでっかい白い建物が出て来たけど…」
「あ、これ錬金アカデミーだ!懐かしいなぁ〜」
懐古するように故郷の学舎に想いを馳せる錬太郎。そして水晶の映像は、錬金アカデミーの内部のとある一室へ切り替わった。その部屋には整えられた短い赤髪で翡翠色の瞳をした少年が何やら作業をしていた。
「あ、この子アスラじゃん!」
「じゃあこの方が錬太郎さんのライバルなんですね」
「なんか普通にイケメンでムカつく!」
『たのもー!』
突如として水晶から、幼な気のある活発な声が響き渡る。次の瞬間、アスラのいる部屋のドアが蹴り飛ばされ、その向こうから1人の少年が現れる。その少年は黒髪黒目。そしてカズマ達も見覚えのある顔立ちをしていた。
『あん?誰だお前?』
突然の来訪者に、アスラは作業の手を止めて、困惑しながら声を荒げる。対する少年は何も悪びれる様子もなく、意気揚々と話し始めた。
『君が噂に聞くアスラ・ガレットだよね?僕の名前は百瀬錬太郎!唐突だけど、僕を君のライバルにして欲しいんだ!』
『いきなり来て何を言うかと思えば…ていうか、何で俺なんだよ?』
『アスラは伝説の暁の錬金術師ソラの子孫にして、このアルケミアでも随一の天才!しかしその生い立ちと才能ゆえに誰も近づく者はいない!そんなぼっちの君だからこそ、僕がライバルになれる可能性が高いと踏んだんだ!そして僕が君に代わってアルケミア随一の天才の称号を手に入れるんだ!』
『所々失礼だと思うんだが?嫌に決まってるだろ…他を当たってくれ』
時間の無駄とばかりにアスラは溜息を零し、器具を片付けてその場を後にしようと歩き出す。幼き日の錬太郎は、慌ててアスラの足にしがみつき、涙目で懇願し始めた。
『いやいや、そこをなんとか…土下座土下座、土下座するから!今ならアクシズ饅頭もセットでつけるから!』
『いらねぇよ、とっととここから去れ!』
アスラの吐き捨てた言葉と同時に、一時水晶の映像が消えた。過去の一端を覧終えた一同は錬太郎へ視線を集め、
「あんな活発だったのか錬太郎…」
「ズキュンパイアから聞かされた時は私も半信半疑だったが…」
錬太郎の今とは乖離した性格にカズマとダクネスは驚いており、逆にめぐみんはどこか懐かしそうにしていた。
「なんか既視感あるなと思いましたが、昔のレンタロウはゆんゆんみたいですね…。私のように天才の称号を持つ者に構って欲しいとは…ぼっちだったんですかね…」
「ちょっとめぐみん!どうゆうことよ!確かにめぐみんに勝負を挑むところは昔の錬太郎さんと似てるっちゃ似てるけどぼっちじゃないわよ私!」
「そういえば錬太郎さん、アクシズ饅頭を渡そうとしていましたが…」
「ああ。それはですねウィズさん、この時父さんと母さんが慰安旅行でアルカンレティア行ってて、僕にお土産でアクシズ饅頭買って来てくれたんですけど、結構な数買ってて全部食べきれないと思ってアスラに譲ろうと思って」
「あ、次の記憶が始まるぞ」
カズマの合図に、皆は再度水晶へ瞳を向けた。次はどうやらアルケミアの自然広場での一幕のようだ。
『アスラお願い!僕をライバルに!』
『しつこいな!お前いつまで俺に付き纏うんだよ、これでもう1ヶ月だぞ⁉︎』
『僕は一度決めたら頑固なんだよ!』
相変わらずというべきか、錬太郎はアスラの足にしがみついて必死に頼み込んで、それをアスラは鬱陶しそうにしている。1ヶ月という単語に一同の引き気味な視線が錬太郎へと向けられ、錬太郎は恥ずかしいとばかりに頭を掻くのだった。
『ハァ…、んじゃあ錬金アカデミーの特進コースの試験を受けろ。それで合格したらライバルと認めてやる』
『へ…いいの?』
『そこに俺は所属してるからな。今度ある試験で合格すれば普通コースのお前でも編入出来るはずだ。ま、あそこは合格率がかなり低いから精々無駄に足掻くんだな!』
錬太郎の1ヶ月にも渡る説得、悪く言えばストーカー行為に遂にアスラも根負けしたのか、条件付きとはいえ、ライバルとして認めると宣言してくれた。
余程嬉しかったのか、錬太郎は右人差し指をアスラにビシッと向けて声高らかに言った。
『言質とったからな!絶対受かってやるんだからな!』
その後水晶の映像が再度切り替わり、今度は錬太郎の教室が映し出された。しかし教室の片隅の勉強机にいた錬太郎には、先程までの元気で希望に満ちた様子は影も形もなく、目尻に大量の涙を溜め込みながら白紙のままの問題用紙を睨みつけていた。
「錬太郎、この時のお前どうしたんだ?」
「いざ特進コースの問題を解いてみると全く分からなくてね…悔しくて悔しくて行き場のない怒りが湧いてた時だね…」
「そうか…」
錬太郎の話に、カズマは静かに納得したように返す。そして水晶の中の錬太郎は、遂に我慢の限界を迎えたのか、机を両握り拳で叩きながら叫んだ。
『僕には出来ない!畜生!出来ない…出来ない!』
問題用紙をくしゃくしゃに握りしめ、瞳から溢れ出た大粒の涙はしわくちゃで真っ白な問題用紙に幾つもの染みを作った。自分自身に対するどうしようもない怒りと悔しさに、錬太郎は静かに嗚咽を漏らしながら泣いていた。
『そんなんで音を上げるのか?』
『アスラ…』
背後からした声に、錬太郎は振り向く。そこには授業を終えて、偶々錬太郎の教室に立ち寄ったアスラが仁王立ちしていた。そしてアスラは、錬太郎は歩み寄ると、厳しい声色で話し始めた。
『その目は何だ?その顔は何だ?その涙は何だ?お前の涙で、合格を勝ち取れると思うか?』
『僕には…出来ないんだよ!』
『馬鹿野郎!』
弱音を吐く錬太郎の右頬に、鋭い衝撃が伝う。アスラの平手だ。恐らく本気で殴ったのだろう。その証拠に、錬太郎の右頬には手形の紅葉が咲いていた。
『出来る出来ないじゃない!やるんだ!俺のライバルになるんだろ?俺も手を貸す…さぁ、もう一度…』
『アスラ…わかった!』
涙を右腕で強引に拭うと、錬太郎は再度筆記用具を手に取り、問題用紙に視線を移す。アスラもそんな錬太郎に寄り添って、問題を解くためのアドバイスを送っていた。
そうして水晶の中の映像が消えると、カズマ達は只々圧倒されていた。
「あのさ、これって恥ずかしい過去を見せる水晶じゃないの?」
「カズマの言っていることには同意ですが、私は続きが気になりますねぇ…」
「まさか、錬太郎の過去にこれ程までの物語があるなんてな…」
「物語だなんて、やめてよダクネス。まだまだ未熟も未熟、3分の1人前の頃のことなんだからさぁ…」
カズマ、めぐみん、ダクネスとそれぞれの感想に錬太郎は顔を紅くして恥ずかしがる素振りをする。アスラとの記憶、それは錬太郎にとって思い出でもあり、まだ未熟だった頃の自分を象徴する羞恥的なものだったのだろう。故に水晶はこの頃の記憶を映し出しているのかもしれない。
そんなこんなでまたしても映像が映し出される。今度は錬太郎とアスラが一緒に帰路についている。会話の内容からするに、特進コースへの合否の自己分析をしている様子だ。
『錬太郎、筆記試験の方は…』
『あのねアスラ、自己採点したんだけどね…
ぜえったい落ちてる…また1年後だぁぁぁぁ!アスラとやったとこ1つも出なかったァァァァァ!!!!』
錬太郎はその場で崩れ落ち、絶望に満ちた表情と声で項垂れた。そんな錬太郎に対し、アスラはたじろぎながらも何とか慰めの言葉を捻り出して送った。
『え…えええ、あ!でもまだ、実技の試験があるだろ?そこで挽回すれば…』
『筆記受かってなきゃ実技受けられないんだよォォォォォォォォォ!!』
『あれ、そうだっけ?俺推薦だったから把握してなかった…』
『んおぐぅぅわぁぁぁぁぁぁ!オエッ、オウエッ…』
アスラからの言葉で返って大ダメージを受け、錬太郎は汚い声で咽び泣き続けた。
『ま、まぁまぁ…とりあえずご飯食べ行って落ち着こうぜ、俺が奢ってやるから…』
『グスッ…じゃあとんこつ、とんこつ醤油ラーメン…』
『おう…』
『後、めんまぁぁぁマシマシでぇぇ…』
そうして水晶の映像が消えていき、水晶越しに2人の少年のやり取りを見ていた一同はというと…。
「え、こういうのって普通合格って流れじゃないのか?」
「現実はそう甘くないのですよカズマ。それにしても汚い嗚咽でしたね…。アクアで慣れてると思ってましたが、レンタロウもあんな声出せるのですね…」
「話は変わるが、何故かめんまという単語に凄い引き込まれる気がするのだが、気のせいか?」
「錬太郎さん、不合格だったんですかね…?」
「あの〜、皆さん…」
完全に不合格だと皆が確信している中、錬太郎が1人気まずそうに声を出す。皆の視線が集まるや否や、錬太郎は申し訳なさそうにその後の顛末を話し始めた。
「実はその…、ギリギリ筆記受かってました…」
その後も錬太郎とアスラとの一連の思い出が水晶によって映され続けた。
それはテスト返却の日…
『やった、90点だ!予習復習しっかりやった甲斐があった!どうだアスラ!』
『フン、まだまだだな…』
自慢気に語りかける錬太郎をアスラは鼻で笑うと、自身の答案用紙を見せつける。その採点欄には100の字と花丸が記されていた。
『百点満点を取らないようでは、俺と同じ土台にすら立たないということだ我がライバルよ!』
『チックショーーー!!!!』
『今回も俺の勝ち!ブハハハハハハハハハ…ゴホッ、やべっ咽せた…』
またある時の腕相撲対決では…
『あと少しで僕の勝ち…』
錬太郎は自身の腕力を最大限に引き出し、アスラの手の甲を台に触れされるあと僅かなところまで来ていた。
しかし…
『甘ぇ!』
一瞬にしてアスラが巻き返し、逆に錬太郎の手の甲が台に触れてしまった。錬太郎が1人唖然としていると、アスラは嫌味たっぷりな口調で嘲り始めた。
『俺を追い詰めたと思ったか?全然追い詰めてないぜ〜んぜん!赤子と戯れるように遊んでやっただけだよ。
一度磔にされて狂人共の集う街アルカンレティアを一周してこい、少しはマシになるだろう!もっと賢く強くなれ我がライバルよ!』
『チクショーーー!!!!』
その後も勝負を挑んでは悉く敗北する錬太郎の絵面が繰り返され、そしていつの間にか終わってしまった。
「あ、終わってしまったな…」
「恥ずかしい過去を沢山見れると思ったら意外と同じような内容ばかりだったな…コレ」
あまりの退屈さにダクネスは終わったと同時に居眠りから目を覚まし、カズマも拍子抜けとばかりに酷評した。
「でもなんかアスラさんってめぐみんみたいだったなぁ…何というか少し意地悪そうだったし…」
「おおっとゆんゆん、それは喧嘩を売っているということですか?いいだろうその喧嘩、買ってやろうではないか!」
「ちょっ⁉︎待ってめぐみん!痛い⁉︎髪引っ張らないで⁉︎」
ゆんゆんの失言にめぐみんが怒り、いつものように喧嘩が始まる。そんな様子を他所に、錬太郎はクロっちと思い出の日々について語り合っていた。
『どうだった?昔の自分見てみて…』
「恥ずかしくはあったけど、それでいて大切な思い出だったことを再確認できたよ。やっぱりアスラとの日々はかけがえのないものだってね。だからこそ、何で…」
錬太郎は言葉を飲み込むと、苦虫を噛み潰したような顔をして俯く。何故アスラは自分達を裏切ってロードの側についたのか、という疑問を脳内に思い浮かべて。
『裏切る直前にはレベルナンバー10のケミー達を勝手に連れ出して、錬金術における禁術にまで手を出そうとしたからね。あれがきっかけで元々人を選ぶUFO-Xが完全に人間不信になっちゃったし…』
クロっちも腕を組みながらいつになく神妙な様子で言葉を綴った。結局のところ、アスラが裏切った理由は今も尚明らかになっていないのだ。
そんな時、突如部屋の扉が開き、誰かが勢いよく飛び込んできた。
「うわぁぁぁぁぁん!!!!」
聞き馴染みのある泣き声、何故か乱れている青い髪。間違いなくアクアだ。何か嫌なことがあったのか、周りの様子など気にせずわんわんと泣き続けていた。
「お、おいアクア、どうしたんだ?」
「あ、アクア様…神気が、ほぇぇ…浄化されちゃう…」
アクアが泣くのと同時に放出される神気の影響か、リッチーのウィズは弱り果て、身体が消えかかってしまっていた。
「あんまりよぉぉぉ!!私は皆の事想ってやっただけなのにぃぃぃ!!あの子達もその事に気づいて協力してくれたのに何でよぉぉぉ!!!!」
アクアの言っている内容が分からず、一同は首を傾げる。ふと錬太郎がアクアの後ろに目を向けると、そこにはアクアを労っている4体のケミーがいた。
マーキュリン、ドンポセイドン、ギガロドン、ギャンボエール。何も海や水に関連するケミー達だった。
一向に話が進まない…自分の技量の無さが情けないです…