この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを!   作:山田プロキオン

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いよいよ三つ巴決戦の幕開けです


この水の都に激戦の予兆を!

 話によると、アナザー錬太郎の一件以外にも不穏な気配を感じていたアクアは、アルカンレティア中を回っていたのだが、その過程で街中の温泉が汚染されていることに気づいたらしい。そしてその異変にアルカンレティアを拠点としていたマーキュリン、ドンポセイドン、ギガロドン、ギャンボエールの5体も気づいてアクアに協力してくれた。

 しかし、アクアが浄化する際に彼女の特性により、秘湯をお湯へ変えてしまい、管理人のお爺さんに激怒され、誤解を解くべく自身が女神アクアと伝えると笑われてしまい、心に深い傷を負ったアクアは泣きながら戻ってきたとのこと。

 その日はアクアも泣き疲れて寝てしまい、アクアの神気で弱り果てたウィズも寝込んでしまった。

 

「(また面倒ごとか…何で俺達は巻き込まれやすいんだか…)」

 

 就寝時間となり皆が寝静まった中、カズマは1人恨み言のようなことを呟きながら暗い天井を睨みつけたのだった。

 

 

 

 

「ねぇ皆、この街が危ないの!」

 

 翌る日、朝食を摂っていた一同にアクアが机をバンと叩いて告げる。アクアらしくない真剣な声色だが、対してカズマ達は無関心な様子だった。

 

「あっ、そう」

 

「ちょっとカズマ!何よその反応!一大事なのよ⁉︎私の可愛い子達の未来に関わるの⁉︎それに信者の子達に何かあったら私も最悪消滅しちゃうかもしれないの!」

 

「成程、それで俺に協力して欲しいってか…」

 

「うんうん!」

 

「だが断る!俺は湯治目的で来たんだ、クエストごとはごめんだ」

 

「どぉしてよぉぉぉぉ!!そこは協力する流れでしょおおおお!!めぐみん、ゆんゆん!!」

 

「あ、ゆんゆん。今日はどこを観光しますか?」

 

「ええっと、あそこのカフェもいいし、あそこのお店もいいもの売ってるみたいだし…仲間達と観光するって幸せだなぁ…」

 

「話聞いてよぉぉぉぉ!!!!」

 

 カズマの非協力的な態度と、自身の話を無視してゆんゆんと会話するめぐみんに対して遂に我慢の限界を迎えたアクアは、半狂乱になって泣き喚き、机に向かって拳を何度も何度も打ちつける。3人は無理だと見たアクアは、次なるターゲットとしてダクネスの方へと視線を向けた。

 

「ダ"ク"ネ"ス"〜!お願いヨォォォォォォォ!!手伝って!!お願いお願いお願いお願い!!!!」

 

「お、おい!落ち着け!わかったから…あぁ⁉︎こら!私の朝のコーヒーを浄化するなぁ!!」

 

 泣き喚きながら懇願するアクアに、ダクネスは半ば呆れ気味に了承する。その際勢い余ってアクアが指をダクネスのコーヒーに入れてしまいみるみる浄化してしまった。ダクネス曰く、かなり高級なコーヒー豆で淹れたものだったらしく、とても残念そうにしていた。

 いつにも増して子供のように駄々をこねるアクアを横目に、カズマは溜息を溢しながら朝食のウィンナーをフォークで刺して口に運ぶ。

 ふと、カズマが居間にいる錬太郎へ視線へ移すと、何やらアクアと共にやって来たケミー達の話を神妙な顔つきで聞いていた。

 

「まさかとは思うが、錬太郎は…」

 

 カズマは額に手を当てて、再度溜息を溢した。お人好しの錬太郎のことだからアクアの懇願を聞いてやることなど考えなくても想像がつく。結局自分は厄介事から逃れられないのかといつものように憂うのだった。

 

 

 

 

 その後、朝食を終えた一同は錬太郎、カズマ、めぐみん、ゆんゆんのグループとダクネス、アクアのグループに分かれてそれぞれ街を回ることになった。ウィズは昨夜アクアの撒き散らした神気の影響で三途の川を渡りかけた為に部屋で寝かせ、クロっち達ケミーは錬太郎との話し合いの下、アクアの言ったことが真実なのかを確かめる為に再調査へ向かった。

 めぐみんとゆんゆんが事前に印をつけていた観光スポットへ4人は足を運び、意気揚々と楽しんだ。

 アルカンレティア産の料理や、屋敷で楽しむ為の入浴剤等を購入すると次はお土産売り場へと向かった。

 

「う〜ん、こめっこが喜びそうなもの…アクシズ饅頭は定番ですし…アクシズプリンでいいですかね?」

 

「うわっ、女神アクア使徒名義でガッチャードのフィギュアも売ってるぞ。細部や塗装までしっかりしやがって…昨日の今日だろ?手際良すぎないか?」

 

「あ、このブレスレット…懐かしい」

 

 めぐみんやカズマが購入する商品について悩む中、錬太郎は1人白と青の石で構成されたブレスレットを手に取り、何かを懐古するように顔を綻ばせた。

 

「錬太郎さん、そのブレスレットがどうかしたんですか?」

 

「修学旅行の時にアスラにプレゼントしたやつなんだ。友情の証としてね。あ、良かったら皆の分買おっか?僕これ以外に特に買うものないし…」

 

「え、でも…」

 

「いいからいいから、すみませ〜ん!」

 

 遠慮気味のゆんゆんを退けて、錬太郎は5つのブレスレットを手に会計へと進んだ。

 

「これ5つお願いします」

 

「はい、承りました…あら、これはキャンペーン商品じゃないですか!今ならこの書類にサインをいただきますと、15%割引致しますよ!」

 

「本当ですか⁉︎いやぁ太っ腹ですね!それじゃあ早速…」

 

 ペンを手に持ち、いざ自身の名前を記す瞬間、錬太郎は手の動きを止めた。そして受付の差し出した書類をよく見てみると、以下のように注意書きが小さい文字でされていた。

 

『名前を記した暁には、アクシズ教への入信をここに誓います』

 

「…やっぱ割引はなしで」

 

 冷めた目をしながら、錬太郎は割引と入信をきっぱりと断り、4人は店を後にしたのだった。

 

 

 

 

「ったく、アクシズ教徒の勧誘はどうにかならねぇのか…」

 

「今の勧誘スタイルの元凶は目の前にいるんですけどね、カズマさん…」

 

 ゆんゆんの言葉に、めぐみんは露骨に目を逸らす。何を隠そうアクシズ教徒に勧誘方法の提案をしたのはめぐみんで、故郷の紅魔の里からアクセルへ向かう道中にてお金が不足して困っているところをアクシズ教徒に救われ、恩返しとして信者を増やす秘訣を伝授したのがことの真相だ。

 

「ほぉ〜、そうなのかゆんゆん。ありがとうなぁ…。今俺は怒りに燃えている、俺の仲間にそんな愚行を犯したやつがいるなんてな…今度そいつが爆裂魔法を放った後に1人、ジャイアントトードのいる野原に放ってやろうかなぁ…」

 

「うわぁぁぁぁ!!!!ごめんなさいカズマ、まさかアクシズ教徒がここまで過激な方法で勧誘するようになるとは思わなかったのです!!ごめんなさい、私のせいで苦しい思いさせてしまって、だからカエルだけは勘弁してください、あの生温かい口の中はこりごりなんです!」

 

 カズマの腕にしがみつき、顔を青ざめさせながらめぐみんは謝罪の言葉を述べる。彼女も悪気があった訳ではなかった。流石にめぐみんが可哀想に思えてきたのか、錬太郎がカズマを説得してお仕置きは見送られることになった。

 そんな4人の前に、1人の老婦人が鍋を抱えながら現れた。

 

「あらぁ〜、いい天気ねぇぇぇぇ!これもアクア様の加護かしらぁぁぁ???」

 

 あからさまに仰々しい口振り。そして獲物を見つけた肉食獣のような瞳で錬太郎達を捉えると、お年を召されているとは思えない速足で近寄り

 

「それでね、今なら入信するだけでこの鍋が手に入るの!しかもこの鍋焦げないからと〜ってもお勧めよ!」

 

「カズマ」

 

「了解」

 

 老婦人がアクシズ教徒の刺客と分かるや否や、4人は一斉に駆け出した。曲がり道も利用して上手く巻いたかと思ったその矢先、

 

「アクシズ教へ是非入信を!!」

 

「今ならこの石鹸を!!」

 

「アクシズ饅頭もついてきますよ!!」

 

「「「「逃げろぉぉぉ!!!!」」」」

 

 また新たにアクシズ教徒達がわらわらと錬太郎達へと迫ってくる。意地でも入信させたい信者と、カルト教団に身を寄せる気などさらさらない4人。その激しい競り合いはギリギリのところで錬太郎達に軍杯が上がり、またしても逃げ切ることが出来た。

 

「ゼェゼェ…まじふざけんな駄女神の信者共!!」

 

「これはもう狂気とか、そういうレベルじゃないよね…」

 

 息を切らしながら、錬太郎とカズマはアクシズ教徒への苦言を溢す。刹那、近くから民衆の罵声が聞こえてきた。何事かと4人が向かうと、そこではアクアとダクネスがアルカンレティアの住人達から石や鍋、食べ物を投げつけられていた。

 

「何が女神アクア様だ!不届者め!」

 

「髪と瞳の色が同じだからって罰当たりな!!」

 

「コイツはきっと魔王軍の手先だ!磔にして湖に沈めちまえ!!」

 

 アクシズ教徒達の怒りが高まると共に、発言も過激になっていく。大人は勿論のこと、小さな子供達からも石や罵詈雑言を浴びせられながらもアクアは必死に訴えた。

 

「ほ、本当に私はアクアなのよ…、ねぇ、ダクネスも言って!」

 

「か、彼女は…」

 

 羞恥心からなのか、ダクネスはいつになく小さな声しか発さず誰も聞き入れる者はいなかった。殺気に満ちた信者達の様子に、カズマとめぐみん、そしてゆんゆんは介入することを躊躇った。

 

「ど、どうするよ…」

 

「ここは余り接触しない方が無難かと…」

 

「どうしましょうか錬太郎さん…錬太郎さん?」

 

 ゆんゆんが声かけるが返事はなく、3人が辺りを見回しても錬太郎の姿は何処にも見当たらない。

 

「な、何だ⁉︎」

 

「魔王軍の手先の2人が浮かんだ?どんなトリックだ⁉︎」

 

 同時に、信者間でまた違う意味でのどよめきが起こった。なんとアクアとダクネスが宙に身を預けているのだ。驚愕の光景に、カズマ達も思わず呆けた顔をしてしまった。その直後、目にも止まらぬ速さでダクネスとアクアは風に攫われるかのように民衆の中を掻き分けて何処かへと消えてしまった。

 

「もしかして…」

 

 一連の出来事にゆんゆんは1人勘付いた様子。ダクネスとアクアを助けたのは、空間錬成で己の身を光学迷彩の如く眩ませた錬太郎だったのだ。

 その一方でカズマ達も観光に疲れたらしく、宿へと蹄を返すのだった。

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

 カズマ達が宿に戻ると、アクアが布団に顔を埋めてかつてないほどの声量で泣き喚いていた。信者の事を想って行動したというのに空回りした挙句、魔王軍の手先と誤解されて石を投げつけられて心身共に限界な様子だ。錬太郎もアクアとダクネスを助ける際に民衆の投擲を幾つか受けたらしく、体中に小さな痣やこぶが出来ていた。

 

「なぁアクア、もう帰ろうぜ。ここにいたっていい事ないぞ…」

 

 今までに見たこともない弱り果てたアクアに、流石のカズマも同情したのか一緒に帰るよう声をかける。しかしアクアは布団から顔を上げると、涙で真っ赤に腫らした瞳でカズマを睨み返して首を左右にぶんぶんと振った。

 

「いやよ!このままじゃ私の信者達が酷い目に遭わされちゃう…なんとしても守りたいのよ、私にとっては可愛い子供も同然なんだから!!」

 

 予想以上にアクアの意思は固かった。どんなに虐げてこようが、どんなに馬鹿にしてこようが、この街の人々はアクアには自分の子供に等しい。彼らが自身を想って営み、発展させてきたこの街を何が何でも守り通したいのだ。

 アクアの話を一通り聞いた錬太郎も立ち上がって、同調するかのようにアクアの肩にポンと手を置いた。

 

「僕も、この街の人々を守るために戦うよ。アクア、微力だけど手を貸すよ」

 

「あ"り"か"と"お"〜!!ほ"ん"と"う"に"〜」

 

 再度涙を瞳から滝のように溢れさせながら、アクアは錬太郎に抱きつく。そんなアクアに、錬太郎は嫌な顔一つせずに、赤子を慰めるように彼女の背中をさすった。

 

 その後、温泉を狙う犯人が次に目星をつけるであろう場所についての話し合いで、源泉のある山が上がった。アクアが浄化作業や演説を大胆に行なったこともあり、恐らくではあるが犯人の耳にもその情報は届いていると思われる。汚染してはアクアに浄化されるのは効率が悪く、埒もあかないので源泉を潰して一気に片をつけるだろうと答えを出した。

 流石に今は街中の人々がアクアを見つけてとっ捕まえようと徘徊しているため、夜にでも行動を開始しようと最後に添え、作戦会議はお開きとなった。

 

「なぁ、錬太郎。ちょっといいか?」

 

「ん?どうしたの、カズマ」

 

 話し合いが終わり、各々自由となった後にカズマが錬太郎に声をかける。何やらカズマの不服そうな表情に、錬太郎は色々と察しながらも話を聴くことにした。

 

「あのさぁ…本当にアクシズ教徒達を助けるんだよな?この街にはそこまで思い入れもないし、俺としてはその…」

 

 そこから先は、喉から声を出すのを躊躇ってしまった。カズマからしてみればこの街の人々に散々苦労させられてきた上に、本来の目的だった湯治もままならず、さらにあろうことか疲れを癒せてもいない中でクエスト紛いのことに手を出す…。見返りもなしに好きでもない街の為にボランティアをするのは流石に気が引けるのだ。

 カズマの言い分を聞いた後、錬太郎は俯いて暫く沈黙してから口を開いた。

 

「カズマの言いたいこともわかるよ。旅行に来てから嫌なことばっかりだったもんね。でも、僕は手の届く命が脅かされる危機を見て見ぬフリをするのにどうにも性が合わなくてね。

もし仮に源泉を汚染されれば、この街の人々はアルカンレティアを捨てなければならなくなる。それは僕のように故郷を失うことと同じだ。そんな想いは、絶対にさせたくない…」

 

 錬太郎は顔を上げると、カズマの瞳を己の黒い瞳でじっと見つめて話を続ける。

 

「守りたいと思うには、守ると決めたものを知らなくちゃいけない…。その美しさも、強さも、醜さも、弱さも…。カズマはアクシズ教徒の悪いところばかり見てきてるから今すぐにでも良い面を見ろとは言わない。でも僕は、この街を、ここで生きる人々を守るべきものだって思ってる…それだけは、わかって欲しい」

 

 話を終え、錬太郎は重い腰を起こすとカズマに背を向けてその場を後にした。錬太郎の背中を見送るとカズマは己の右手へと視線を移し、問いかけるようにぼんやりと眺める。当然ながら答えは返ってこない。憂いからか諦めからなのか、カズマは何度目かの溜息を溢しながら大の字に広がり、天井を無関心に見つめるのだった。

 そんな時だった。何やら外の様子が騒がしい。カズマがカーテンを開けてみると宿の前で数多の松明を掲げた人々が呪詛のような言葉を紡いでいた。

 

「「「「「魔王しばくべし、悪魔滅ぶべし!!」」」」」

 

「おいおい、マジかよ…」

 

 鬼の如き形相で行進を続けるアクシズ教徒達に、カズマは思わず後退する。このまま宿にいては危険だと己の本能が告げている。今にも宿をぶち壊して中に侵入してこようとする信者達の姿に、一刻も早く逃げるように皆に声をかけた。

 

「皆、今すぐ逃げるぞ!!」

 

「言われなくてもそのつもりですよカズマ!」

 

「待ってよ皆!きっと私の事を女神と信じてくれたのよ!だから逃げる事なんてないわ!ちょっと行ってくる!」

 

「おいよせ、アクア!!」

 

 カズマの呼び止めも聞かず、アクアは1人窓を開けて外の信者達の前に顔を出した。皆わかってくれた、そう一縷の希望を胸にアクアは先程の泣き顔が嘘のように満面の笑みで信者達へ手を振った。

 

「皆、安心して!この街を汚す奴は私がガツンと成敗して「魔女が出たぞ!!」…魔女?」

 

「アクア様を語る不届者め!」

 

「この街から出ていけ!」

 

 鋭い視線と罵詈雑言の連鎖がアクアを胸中を無慈悲に貫く。部屋の向こう側からも信者達の怒声が響いてきている為、最早一刻の猶予もない。

 

「ワープテラ、今すぐ僕達を源泉の山地に飛ばして!!」

 

『ワープ!!』

 

 錬太郎の焦りを孕んだ声に、ワープテラも慌てながらワープゲートを展開して荷物を纏めたカズマ達を吸い込んだ。間一髪、信者達に拘束される危機を脱した一同は、作戦通り源泉のある裏山の中を進んだ。

 

「ううっ…私女神なのに、なんでなんで…どぉしてぇ……」

 

 散策の最中、アクアは再び泣きじゃくっていた。まだ心の傷が完全に癒えていない中で、更なる追撃を受けたのだから、何より自分が大切に想っている信者達から言われたことが一層辛かったのだ。めぐみんとゆんゆんがなんとか慰めると、アクアの涙は怒りへと変わり、その矛先はまだ正体のわからぬ犯人へと向けられた。

 

「絶対に犯人とっ捕まえてやるわ!!ゴッドブローを3発、いえ30発叩き込んで強制成仏させてやる!!」

 

「お前それ自分が女神である事を自覚してて言ってる?完全に悪役の台詞なんだが…と、話しているうちに着いたみたいだな…」

 

 一向の目の前には山にあるとされる源泉。しかし世間一般が思い描くような清らかな熱湯ではなく、禍々しい黒色に染まっていた。

 

「これは毒ね。もうとっくに源泉にまで手を回してたなんて…」

 

 遅れたと、アクアは下唇を噛み締めて悔しそうに俯く。毒に汚染された源泉は異臭を放っており、カズマ達は思わず鼻を摘んだ。一体どのように過ごせばこのような行為に及べるのか、犯人の思考を一同は恐ろしく感じた。

 

「ん?源泉の奥に誰かいる…」

 

 千里眼スキルを用いて見渡していたカズマは、ふと源泉の近くに人の気配を察知し、他の面々もカズマの後に続く。立ち昇る湯気の中から目を細めて人影を見つめると、それは混浴で錬太郎達が出くわしたいつぞやの男だった。

 男は辺りを見回して確認した後、己の右手を躊躇うことなく毒で満ちた源泉へと浸し始めた。

 

「ッ⁉︎何してるのよアンタ!!」

 

 男の行動に、アクアは思わず声を荒げて割って入った。このままでは男の体が毒で蝕まれてしまう、一刻も早く自身の浄化魔法でなんとかさせねばと。しかし対する男はというと、アクアの大声に驚きこそしたものの、体に異常は見られず、呆けた表情でアクアを見つめていた。

 

「これはこれは、観光ですか?それならば貴方達はお目が高いですね…こちらのアルカンレティアの温泉は様々な効用を齎すとされており…げっ⁉︎」

 

 懇切丁寧に説明を始めた男だったが、アクアの後ろにいる錬太郎を見て、まるで道中で天敵に見つかったかのように激しく動揺した。

 

「な、なんでここに切断魔が?まさか…俺の作戦が筒抜けだったとでもいうのか…」

 

「あ、思い出した!ハンスさん、貴方はデッドリーポイズンスライムのハンスさんですね!」

 

 時同じくして、ウィズが両手を叩いて男をハンスと呼んだ。男はさらに顔を青くしてあからさまにしらばっくれた態度を取り始める。

 

「い、いやぁ〜ハンス?知らない名前ですね…」

 

「私です!リッチーのウィズです!貴方と同じ魔王軍幹部の…」

 

 魔王軍幹部。その単語に錬太郎達の視線は鋭くなって、一斉に男の方へと集中する。もう言い逃れが出来ないと悟ったのか男は、ハンスは荒々しい口調になって観念したように己の正体を打ち明けた。

 

「あぁ、そうだよ!俺がハンスだ!ったくウィズ!余計な口出ししやがって…。てめぇがいなけりゃ正体がバレることなかったってのに…。

あとお前、何魔王軍間で危険認定されているそこの切断魔と一緒にいるんだよ⁉︎リッチーになってならポンコツ具合に拍車かかりすぎだろ!人を見る目さえも失いやがって、そんなんだから商売も上手くいかずに貧乏暮らしになるんだろ!」

 

「ひ、ひどい!私だって頑張ってるのに…」

 

 ハンスの辛口な指摘にあんまりとばかりにウィズは涙ぐんだ。

 

「まぁいいわ!とどのつまり、アンタが元凶ってわけね!私の信者達の街を汚した罪、償ってもらうわよ!」

 

 アクアはハンスを見据えて腕を鳴らしながら、闘気を激らせた。

 

「面白そ〜う、俺も混ぜてよ〜」

 

 刹那、天空から声が響き渡った。不思議に思った全員が空を見上げると、また新たな人影が空中から落下し、勢いよく地面に着地した。その勢いたるや、地面に足がついたと同時に突風と土埃が舞うほど。

 

「(めぐみんは黒でゆんゆんはピンク、ウィズは紫か…誰かは知らんがありがとう!!眼福!!)」

 

 因みに突風のおこぼれか、一部女性陣のスカートが風によって捲れ、カズマにとっては役得だったのだとか。やがて土埃が収まると、乱入してきた者の姿も露わとなる。黒髪黒目でほんの少し血の滲んだ青いローブを纏った少年。

 

「せ、切断魔が、2人…⁉︎」

 

「そんな…お前は僕が倒した筈…」

 

 現れたアナザー錬太郎にハンスと錬太郎は戦慄しながら言葉を綴る。対してアナザー錬太郎は気味の悪い笑みを浮かべながら飄々とした様子で話し始めた。

 

「俺にはジャマー心臓があるからね〜。それが無事なら何度でも復活できるんだ〜。オリジナルの頑張り、無駄骨だったね〜。それにしても…」

 

 アナザー錬太郎は生気の全く感じられない瞳をウィズとハンスに交互に向けると、舌なめずりをして

 

「魔王軍幹部が2人…。1人はスライムで、もう1人は見た目の割に結構年取ってる熟年の魔法師か…、激アツだよ、これは…」

 

「くそう…また邪魔な奴が追加されたか…っておいおいウィズの野郎…」

 

「ん?何だ…ヒェ…」

 

 ハンスの慄く様子に、カズマもウィズの方を向くと恐怖のあまり変な声を漏らしてしまう。黒い陽炎のようなものを背後から立ち上らせ、怒気を孕んだような言葉だけでは形容し難い雰囲気。年を言及されたことが余程癪に触れたのか、ウィズはかつてない程怒りに震えていた。その姿を、ハンスは知っている。かつて冒険者だった頃の、容赦情けを知らず、モンスターを蹴散らしていたアークウィザードとしてのウィズだと。

 

「どうなるんだよコレ…」

 

 思ってもいない方向へ進む事態に、カズマはそう溢さずにはいられなかった。




ウィズさんに対して年齢の話をするのはタブーな気がします、個人的に。
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