この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを!   作:山田プロキオン

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ハンス戦多分この1話で終わります。

戦闘で結構グロ描写がありますので注意。

熱中症の影響で投稿遅れましたことをお詫び致します。




この漆黒の戦士に恐るべき進化の序章を!

「思う存分楽しもうよぉ…」

 

 無邪気な笑みを浮かべながらアナザー錬太郎は告げる。カズマ一行やハンスの間で醸し出されている緊張感も彼には関係ない。ノワールガッチャードライバーを懐から取り出し、2枚のレプリケミーカードを左右のスロットへ装填した。

 

『ホッパー1…DARKNESS!』

 

『スチームライナー…DARKNESS!』

 

 カードの装填が完了すると共に、ベルトから気味の悪い待機音が木霊す。アナザー錬太郎はストレッチとばかりに首を鳴らし、淡々と言葉を発する。戦士として生まれ変わるための言葉を。

 

「へ〜んしーん…」

 

『ガッチャーーンコ…』

 

 ベルトの操作と共に黒い霧がアナザー錬太郎を覆う。やがて霧は黒い外骨格のような鎧を形成していき、アナザー錬太郎の姿をノワールガッチャードへと変化させた。

 

『NOIR OF ALCHEMIST…スチームホッパー…』

 

「偽者は僕が引きつける。その間に皆はハンスを…」

 

「おっとオリジナル。お前の舞台はここではないよ?」

 

 錬太郎が身を乗り出し、ガッチャードへ変身しようとしたその時、ノワールガッチャードが待ったとばかりに右手を前に突き出し、チッチッチと人差し指を左右に振った。

 

「何だと?」

 

「お前と遊びたいのは山々なんだけど、グスティヌス兄さんがどうしてもって言うから…ワープテラ、飛ばしちゃって」

 

『ワープ…』

 

 ノワールガッチャードは手元にレプリワープテラのカードを取り出して、錬太郎へ見せつける。刹那、錬太郎の背後に赤黒いワームホールが出現して、錬太郎を丸ごと吸い込み、何処かへと誘ってしまった。

 

「おい、錬太郎⁉︎くそっ、よりによって…」

 

「錬太郎さん⁉︎そんな…」

 

「安心しな、サトウカズマに時期紅魔の族長…君達の徒党はスライムと魔導士を倒した後のメインディッシュ、最後のお楽しみに取っておくからさ…」

 

 動揺するカズマ一行に、ノワールガッチャードが告げる。そしてノワールガッチャードはハンスへと視線を移して低重心の戦闘態勢へ入った。ハンスは面倒だと溜息を吐いたが、最早戦闘は避けられないと見て、闘気を激らせ始めた。

 

「ったく、もう少しで源泉を汚染して全て終わりだったってのに。仕方ねぇ、お前ら全員食ってやる…」

 

 その瞬間ハンスの肉体が肥大化していき、やがてノワールガッチャードやカズマ達を見下ろすまでの液状の巨体に変化する。全身から漂う毒々しいオーラは、二つ名であるデッドリーポイズンスライムをこれでもかと体現していた。

 

「アハハハハ!!激アツだねぇ!!そうこなくっちゃ!!」

 

 ノワールガッチャードは自身の能力で地面から触手を発生させると、ハンス目掛けて攻撃を仕掛ける。カズマパーティ、魔王軍、そしてノワールガッチャードの三つ巴の激戦の火蓋が今まさに切って落とされたのだった。

 

 

 

 

「なぁ、俺達完全に蚊帳の外だがどうする?頑張れば漁夫の利いけるか?」

 

「そんなの無謀もいいところですよカズマ。偽者レンタロウはよくわかりませんが、スライムは物理攻撃が通用せず、体に巻き付かれたら引き剥がすのは困難で、なす術もなく顔を覆われて窒息死なんてこともあり得ます」

 

「マジで…?スライムってドラ○エみたいに最初期で出てくる弱い系じゃないの?」

 

「めぐみんの言うとおりですカズマさん。それに源泉を汚染出来る程の毒なら、触れたら即死ですね…」

 

「え…無理ゲーでは」

 

 ハンスやノワールガッチャードから距離を取って作戦会議を始めるカズマ達だったが、ハンスのあまりの無法っぷりにカズマは意気消沈してしまう。かつて自分がいた世界のゲームのようにスライム相手ならなんとかなると思っていたのだが、そんなことはなかった。そもそもキャベツが飛び、秋刀魚が畑に植えられているような世界だ。今更自身の元いた世界の常識など通じる訳がない。錬太郎の偽者も、ガッチャードの力に加えて先程の会話から察するに、驚異的な再生力を誇ると読み取れるので正しく勝った方が我々の敵になるだけです状態である。

 

「ねぇカズマ!なんかいい方法ないの?早くしなきゃ源泉の汚染が進んじゃうし、信徒達が来て…あ"あ"〜ッ!!今源泉に偽錬太郎の攻撃で飛び散ったスライムの破片がァァァァァァ!!」

 

 アクアは悲鳴を上げながらまっしぐらに源泉へ駆け寄り、源泉に片手を突っ込んで自身の特性で浄化を始めた。

 一方でダクネスは、隣で死んだ魚の目をしてノワールガッチャードに殺意を向けているウィズに震えていた。

 

「な、なぁウィズ…そこまで気にすることではないと思うぞ?た、確かに女性に歳のことを言うのはそのぉ…」

 

「大丈夫ですよダクネスさん…私ち〜っとも気にしてなんていませんから…熟年の魔法士って言われたことくらいぜ〜んぜん…」

 

「(絶対怒っている…)」

 

 笑顔を浮かべてダクネスに対して気丈に振る舞うウィズ。しかしダクネスには見えていた。ウィズの背後からユラユラと激るドス黒い陽炎を。大丈夫など真っ赤な嘘だ。しかも目を凝らして見ると額に青筋も浮かんでいた。

 

「リッチーになった時点で私は永遠の20歳なんです…歳なんて取らないはずなのに、偽者さんはおかしいですね〜。後でしっかり教えておかないと…」

 

「カズマ助けてくれ!私だけじゃウィズを鎮められそうにない!」

 

「無茶言うな!ただでさえ八方塞がりな状況の打開策を難産してるってのにメンタルケアもしろってか⁉︎俺万能の天才ダヴィンチちゃうぞ⁉︎」

 

 次から次へと湧き上がってくる課題に痺れを切らし、カズマは声を荒げる。そうこうしている内にも、ノワールガッチャードとハンスの戦いは激しさを増していた。

 

「オラオラオラオラオラオラ!!」

 

 ノワールガッチャードの力によって出現した植物状の触手が縦横無尽に動きながら、ハンスへ猛撃を仕掛ける。不規則な軌道かつ目で追うことも困難な速さの触手に、ハンスは対応出来ず、全てその身に受けてしまう。否、厳密には、対応する必要がないのだ。

 ノワールガッチャードの触手は、ハンスに触れた途端、見るも無惨に溶かされていく。ハンスの全身を駆け巡る猛毒には、ジャマトの蔦といえども耐性は皆無のようだ。

 

「俺に触れたら猛毒で腐り果てるだけだ。お前の攻撃は通らん」

 

「わかってるよ、俺の狙いはアンタに攻撃を通すことじゃない…」

 

 意味深なことを述べて仮面の下でノワールガッチャードは笑う。そしてレプリホッパー1の力で強化された脚力と跳躍力で地面を蹴ってハンスへと肉薄し、右拳を振り上げる。ノワールガッチャードの拳には青白い光が集まっていき、その光の正体にハンスは息を飲んだ。

 

「まさかそれは…」

 

「驚いた?『フェイクゴッドブロー』!!!!」

 

 浄化の力を帯びたノワールガッチャードの打撃がハンスへ炸裂した。大したダメージこそなかったが、その一撃はハンスの体に嫌な痺れを齎した。

 

「体が少しピリピリするな…まるで上級プリーストの浄化魔法を受けた気分だ…」

 

「まぁ、本家と比べれば俺の威力なんて月とすっぽんだけどね…」

 

「身を挺して俺に攻撃を繰り出すとは…だが代償は大きいようだな」

 

 痺れを堪えながら、ハンスは勝ち誇ったようにノワールガッチャードへ言い放つ。ノワールガッチャードが己の右腕へ視線を移すと、肘から下が無くなっていた。

 

「間抜けない奴め!俺の体に触れれば猛毒の餌食になるなどわかりきっていただろうに!」

 

「ん?ああ…別に腕の1本くらいアンタにやるよ。だって…」

 

 ノワールガッチャードが力み、欠損していた右腕部分が隆起し出す。そして腐り落ちた肘から下の右腕が瞬く間に再生した。

 

「な、なんだと…⁉︎」

 

 想定外の事態に、ハンスは思わず驚愕した。

 

「俺は再生能力は一級だからね。まだまだ本番はこれからさ…」

 

 

 

 

 ハンスに攻撃してはノワールガッチャードが再生を繰り返すというイタチごっこが展開される中、カズマは頭を抱えていた。ハンスを撃退するには、幾つか突破しなければならない問題があるのだ。

 1つは、ハンスとノワールガッチャードを撃破するための場所を確保しなければならないこと。肉体が液状であるハンスは物理攻撃が効かないが、熱攻撃には滅法弱いと考えられるため、めぐみんの爆裂魔法で焼き尽くすことが出来れば勝機はある。そしてノワールガッチャードの驚異的な再生能力も、レベリングで強化されためぐみんの爆裂魔法の前では焼け石に水だろうとして攻略法はほぼ定まった。しかし、それはケミー達の加護を受けた全力の爆裂魔法であればこそのこと。加えてその全力を出すに支障のない場所が必要不可欠なのだ。下手に山の中で爆裂しようものなら、ハンスやノワールガッチャードを源泉諸共吹き飛ばしかねない。そしてそんな都合の良い場所など、この付近にはどこにもない。

 もう1つは、源泉の浄化だ。アクアの浄化魔法を持ってしても、戦況を窺いながらではハンスによる汚染を完全に堰き止めることは出来ない。このままでは汚染された源泉からの湯が街中の温泉へ行き渡ってしまう。アクアが浄化に専念するために、ハンスやノワールガッチャードを引き付けておかなければならないのだ。

 

「課題は2つだけ…とはいえその2つが全然思い浮かばねぇ…。マジでどうすりゃいいんだよ…」

 

「あの、カズマさん…1ついいでしょうか?」

 

「なんだゆんゆん?」

 

「前に、別世界で戦ったトラウトハデスは異空間を生み出して錬太郎さん達を密閉していましたよね?マルガムだった時に出来た技をケミーの時でも使うことが出来れば…」

 

「そうだそれだ!!ナイスゆんゆん!!」

 

 ゆんゆんの提案にカズマは手槌を打ってビートルクス、リクシオン、ゼグドラシル、テンフォートレス、エクシードファイターのカードを取り出すと、彼らに可能かどうかの確認をする。

 

『ビート!』

 

『リクシオーン!』

 

『ゼーグドーラシール!』

 

『フォートレース!』

 

『エクシード!』

 

「いけるって。でも一箇所に固まって力を集めなければいけないみたいだから、バレたりしたら回避されるかもだって。おまけに力を集めてる時は身動き1つ取れないとよ…」

 

「なら、少し離れた場所で異空間を生み出すといいかもですね。そこで私は爆裂魔法の準備をして待機しておきます。あとは、そこまで誘導する方法さえあれば…」

 

「めぐみん、私を忘れていないか?」

 

 ここまで静かだったダクネスが声を上げた。しかもドヤ顔をしながら自信に満ちた様子だ。

 

「私のスキル『デコイ』を使って奴らを目的地まで誘導しよう。そうすれば、後はめぐみんとケミー達の爆裂魔法で片付くはずだ」

 

「おおっ、そうだった!お前敵を寄せ付けるスキルがあるんだったな!よし、希望が見えてきたぞ!じゃあ一旦整理だ。めぐみんはレベルナンバー10のケミー達と異空間生成する場所で待機」

 

「はい!」

 

「そしてその場所までダクネスがデコイで引き寄せる!」

 

「任せろ!」

 

「俺とゆんゆんはダクネスが誘導している時に万が一毒の破片が散った時の処理!俺は狙撃スキルでやるから、ゆんゆんは魔法で頼む」

 

「わかりました!」

 

「それとウィズ…あれ、ウィズは…」

 

 作戦会議の最終案でウィズにも役割を振り当てようとしたカズマだったが、近くにウィズの姿は無かった。まさかと思ってハンス達の方へと視線を移すと、ウィズはそこにいた。

 

「なっ…⁉︎」

 

 しかし視線の先にいるウィズにカズマ達は震えた。いつもの朗らかなウィズではない。生気の失った、伝承で聞くリッチーのような冷たく、怖気を抱くようなオーラを身に纏い、ノワールガッチャードを見据えるウィズの姿が、そこにはあった。

 

 

 

 

 遡ること数刻前、もう何発目かも分からない打撃や蹴りを繰り出しては腐り落ち、再生させるを繰り返していたノワールガッチャードにハンスは苛立ちを募らせていた。

 

「ハァハァ…鬱陶しい…」

 

「ハハハ…もう大分慣れてきたかな?毒の巡りも遅くなってきた。身体に抗体が生成されてきたようだ」

 

「もう持久戦はごめんだ…!」

 

 ハンスは己の身体から粘液の波を繰り出す。毒に耐性が出てきたのなら一気に飲み込んでしまい、消化して終わらせようと画策したのだ。ノワールガッチャードも突然のことで反応が遅れ、毒の波は目と鼻の先まで迫っていた。

 

「やっべ…でも備えあれば憂いなし…」

 

 ノワールガッチャードは、徐にレプリワープテラのケミーカードを取り出す。次の瞬間、ノワールガッチャードは背後に出現したワームホールに身を隠し、代わりにその黒穴からアクア達を追っていたアクシズ教徒達が入れ替わるように出てきた。

 

「ん?ここは…」

 

 言葉を最後まで紡ぐ間も、悲鳴を上げる間もなく、信者達はハンスによって飲み込まれてしまった。間一髪、危機を脱したノワールガッチャードは額の汗を拭うような動作をして、安堵の溜息を漏らした。

 

「危なかった…飲み込まれたらひとたまりもなかったよ」

 

「運のいい奴め…だが、小腹を満たしてくれたことは感謝しておいてやる。あの管理人のジジイだけじゃ足りなかったんだよ…」

 

「そうかいそうかい。じゃあ続きを…」

 

「『カースド・クリスタルプリズン』…」

 

 ノワールガッチャードが戦闘続行の合図をしようとしたその瞬間、いつの間にか背後に迫ったウィズが魔法詠唱を行い、一瞬にしてノワールガッチャードの半身を氷漬けにしてしまった。

 

「な、なんだこの氷の塊⁉︎どっから現れた⁉︎」

 

「偽者さん…貴方は自分が何をしたのかわかっているのですか?」

 

 静かな怒りを孕んだ、淡々としたウィズの声が鋭利な針のように一同の鼓膜を揺らす。まるで氷姫の様な声色には、敵味方問わず畏怖の念を抱かずにはいられなかった。

 

「冒険者はモンスターから命を奪い、そこから生計を立ててますから、逆に命を落としても仕方のないことです。しかし貴方はあろうことか、冒険者とは無関係な一般人を何の悪びれもなく盾にした…自分の保身のために…貴方には冒険者の、人としての誇りはないのですか⁉︎」

 

 全身を駆け巡る怒気のままに、ウィズは声を荒げる。ウィズの豹変ぶりにノワールガッチャードは動揺こそしたものの、自身を拘束していた氷塊を砕くと、気怠そうに話し始めた。

 

「冒険者?誇り?何のことだか…ジャマトの俺に人間の倫理観語ってんじゃねぇよ…

 

アイツらは近くまで迫っていた。オリジナルの細胞の記憶から読み取るに、アクシズ教徒達は自身らの女神の判別もつかない愚かで頭のおかしい連中の集まりのようじゃないか。そんな奴らが戦闘に割り込んでくるのは目に見えている。俺は邪魔が入る前にその芽を潰してやったんだ!おまけにスライムの腹も満たしてやったんだ!それの何が悪い?遅かれ早かれ結局は死ぬ奴らだ

 

 

俺は悪くない」

 

 一方的な暴論を振り翳し、ノワールガッチャードは己の行いを正当化する。その瞬間、ウィズの中の1本の糸がぷつんと切れてしまった。目の前の異物は話の通じることのない獣だ。己の所業を悔いも恥することもないだろう。ならば、情け容赦は必要ない。

 

「そうですか…もう、いいです」

 

 ウィズは己の身体の中に秘められた殺意の波動を余すことなく解き放つ。空気がウィズへと吸い寄せられ、草木もカズマ達の恐怖に同調するかのように揺れ始めた。

 

「…本当はマスターが求める錬成のためのエネルギーをスライムとの戦闘で集める予定だったけど…まぁいいや。遊ぼうか、氷の魔女さ…」

 

 ノワールガッチャードが話し終える前に、御託は結構とばかりに言葉の先は封じられた。地獄の業火宛らの獄炎が間髪入れずにノワールガッチャードへ迫った。

 

上級魔法『インフェルノ』

 

 荒れ狂う烈火が大魔導士の命の下に対象を焼き尽くす高位の魔法。本来は詠唱が必要な程の魔法なのだが、魔導を極めたリッチーのウィズにはそんな制約など関係ない。

 

「カズマさん、アクア様…ここは私がなんとかします…作戦については聞こえておりましたのでハンスさんをお願いしますね…」

 

「あ、ああわかった。いくぞ3人共…」

 

「……」

 

 ウィズに押されるがまま、カズマ達は決行した作戦を開始するに移った。その一方で、アクアは少しばかり複雑そうな顔をしながら両者の背中を見送った。

 

 

 

 

「『デコイ』!!さぁ来いスライム!!猛毒が無ければ飼ってやりたかったのだが、残念だ!!」

 

「変なこと言ってねぇで走れ変態!1発勝負なんだからな!」

 

「ひぅん!走りながら来る言葉責め…これも中々…」

 

 ダクネスのスキル『デコイ』に反応したハンスは、その巨体で進撃しながらダクネスを追う。カズマとゆんゆんはそれぞれガッチャージガンと杖を手に、ダクネスの護衛に回った。

 追いつかれれば一巻の終わりではあるものの、ケミー達の加護により上昇した身体能力と、ハンス自身が巨大化した影響で機動力が低下したこともあってその距離は依然として縮まることはなかった。

 遂に痺れを切らしたハンスは、毒の触手を用いて3人を仕留めようと強硬手段に打って出た。

 

「毒の触手か…いくぞゆんゆん!」

 

「はい!」

 

 迫り来る毒の触手に、カズマはガッチャージガンを、ゆんゆんは魔法の杖を構えてそれぞれ迎撃を始めた。

 

『バレットバーン!ガッチャージバスター!』

 

「『狙撃』!!」

 

「行こうデンジちゃん、『ライトニング』!!」

 

 ガッチャージガンの弾丸と、魔法による雷撃は見事に触手を貫いた。同時に、地平線の方に準備をしているめぐみん達の姿見えてくる。ラストスパートとカズマ達は一気に駆け抜けて、目的地にハンスを誘導してみせた。

 

「今だぁぁぁぁ!!!!」

 

 カズマの合図と同時に、レベルナンバー10のケミー達がハンスを囲うようにエネルギーを発し、やがてそれはドームを形作ってハンスを飲み込み、めぐみん諸共異空間へと追いやった。

 

「あとは、頼んだぞめぐみん…」

 

 

 満天の星が輝く夜空を見上げ、カズマは切り札であるめぐみんに全てを託すのだった。

 

 

 

 

 辺り一面岩だらけの殺風景な空間。ここは何処とハンスは首を傾げるが、身体が思うように動かない。その様子を遠くから見ていためぐみんは、しっかりと効いていると確信して口角を上げた。

 

「この空間特有の強大な重力!私には効かないように調整されているみたいですが、スライムには効果覿面のようですね!さぁ、水の都を汚した悲しきスライムよ、我が爆裂魔法でその身を焼き尽くし、悠久の眠りの旅を捧げましょう!!」

 

 紅きマナタイトが煌めく杖を天高く掲げ、めぐみんは魔法の詠唱を開始する。詠唱が進むにつれて、マナタイトを中心に魔力が凝縮していき、さらにインフェニックス、ザ・サン、フレイローズといったケミー達の莫大なエネルギーも蓄えられていった。ハンスを覆い尽くす程の巨大な魔法陣が展開され、めぐみんは照準を定めると、猛々しく声を響かせた。

 

「『エクスプロージョン』ッッッッ!!!!」

 

 紅魔族随一の天才が繰り出した爆裂魔法は、魔王軍幹部のスライムの肉体を焼き尽くし、完全に撃破した。その後異空間から戻り、地面に身体を預けながら満面の笑みで自分達の勝利を伝えためぐみんに、カズマ達は賞賛の声を贈ったのだった。

 

 

 カズマ達やウィズがそれぞれ戦っている頃、アクアは1人源泉を浄化し続けていた。ハンスの汚染は凄まじく、女神である自分の力を持ってしてもそう簡単に浄化は完了しない。そして浄化が中々進まないのには、アクアの心の中の陰にも原因があった。

 

「(偽者の錬太郎が言ったこと…本当に本当に頭に来ることだったのに…でも、何処か無意識の内に納得しちゃった自分がいるような気がする…)」

 

 自分達の女神を信じることすら出来ない信者。アナザー錬太郎の行動には腑が煮え繰り返ることばかりだったのだが、これだけはアクアも心の奥底で感じるものがあった。

 鮮やかに今朝の信者達の自分に対する態度が脳裏に蘇ってくる。女神であることを誰にも信じて貰えず、石や鍋を投げられ、さらには魔女とも罵られた。そんな彼らの為に一生懸命になることに意味はあるのか。

 

『ポセイドーン!』

 

『マーキュリン!』

 

 思い悩むアクアに、ドンポセイドンとマーキュリンが現れて語りかけた。錬金事変の後にアルカンレティアへ身を寄せた自分達に、アクシズ教徒達はアクアの化身として居場所をくれたこと、アクシズ教徒達は毎日アクアに手を合わせてきたこと、そして何より皆、アクアのことを愛して信じてきたことを伝えた。

 

「皆…」

 

 2体の話に、アクアは一筋の涙を零した。そして一度深呼吸を挟み、瞳を見開いた。その曇りなき青い瞳には、もう迷いなどなかった。

 

「そうよ、信者の皆は女神としての私をずっと信じてくれた…なら私が信じてあげなくてどうするのよ!!絶対に源泉を浄化してみせるんだから!!ピュリフィケーション! ピュリフィケーション!」

 

 迷いを完全に断ち切ったアクアは、浄化魔法の発動を再開させる。ドンポセイドンやマーキュリンも力を貸して、浄化魔法は強化され、徐々に源泉も元通りになり始め、後一息というところまで迫った。

 

「ッッッッ…あと少しなのに」

 

 長時間源泉に触れていた影響か、アクアの両手は火傷し、感覚を完全に失ってしまった。

 

「『ヒール』!!」

 

 その時、何者かが魔法を使ってアクアの火傷を回復させてくれた。アクアが振り向くと、そこには前に自分に石を投げ、糾弾した信徒達の姿があった。

 

「源泉が汚染されていると君が必死で言っていたことは真実だったようだな。アクア様の恵みの源泉を浄化してくれてありがとう、そしてすまなかった」

 

 信者の1人の男が深々とアクアに頭を下げる。アクアはそんな男の肩に手を置くと、首を左右に振った。

 

「謝らなくていいの。この街を守りたいと思う気持ちは一緒なんだもの。私を信じて、絶対になんとかしてみせるから!!」

 

 アクアは再度源泉に向き直ると、浄化作業へと戻る。アクシズ教徒達もアクアにヒールをかけたり、声援を送ったりした。

 

「さぁ、いよいよ最後よ!」

 

『アクシズ教、教義!

 

アクシズ教徒はやれば出来る!出来る子達なのだから上手くいかなくても貴方のせいじゃない!上手くいかないのは世間が悪い!

 

嫌なことから逃げてもいい!逃げる事は悪くない!逃げるが勝ちという言葉があるから!

 

迷った末に出した答えはどちらを選んでも後悔するもの!どうせ後悔するのなら楽ちんの方を選びなさい!

 

汝老後を恐れるなかれ!未来のあなたが笑っているのか、それは神ですらも分からない、なら今だけでも笑いなさい!!

 

 

エリスの胸はパッド入りぃぃぃぃぃぃ!!』

 

 

 アクシズ教徒達は水の女神の教えを口に、浄化の最終段階に移るアクアを鼓舞する。そしてアクアは信徒、ケミー達を通じて得た力を最大限に発揮して最後の浄化魔法を放った。

 

「ピュリフィケーション!!」

 

 

 

 

「はぁはぁ…」

 

「どうします?今自分の過ちを悔いるのなら楽に逝かせてあげますよ?」

 

 ウィズの圧倒的強さの前に、ノワールガッチャードは肩で息をしていた。詠唱もなしに繰り出される上級魔法の連撃に加え、リッチー特有の魔法防御の影響で攻撃を碌に通すことも出来ず、防戦一方であった。再生能力で何とか喰らい付いているものの、その再生も攻撃を受けすぎたせいで徐々に回復が遅くなっていた。

 

「は…ハハハ。俺はマスターの命を受けてここにいる。賢者の石を完成させる使命を果たすまで…死ぬ訳にはいかない…」

 

「反省する気はないということですか。ではさようなら。『カースド・クリスタルプリズン』」

 

 ウィズは右手を翳し、魔力を集中させて冷気と吹雪を放った。瞬く間にノワールガッチャードへ迫り氷漬け、遂に勝負は決した

 

 

——かに思われた。

 

「…やっと俺にも来たか、黒い炎…」

 

 魔法が命中する直前、ノワールガッチャードから黒い炎が噴き出し、ウィズの攻撃を防御した。かつて破壊神が賢者の石を取り込んだ際に手に入れた破壊の力を宿した炎がノワールガッチャードにも発動した。その事実はほんの少し、けれども確実に流れが変わった瞬間だった。

 

「エネルギーを錬成に使うからマスターに怒られるけど、まぁいっか…」

 

 ノワールガッチャードは空に手を掲げ、ハンスとの激闘で手に入れた戦闘エネルギーを発現させ、その周囲にウィズの魔法が生み出した氷とハンスの毒を集合させた。

 

「黒き炎よ、俺に錬成強化の力を!『万物はこれなる一者の改造として生まれうく』」

 

 ノワールガッチャードが錬金術発動の詠唱を行うと同時に空中を漂っている氷と毒、そしてエネルギーが混ざり合って錬成され、やがて中央部に黒色のXの装飾が施され、全体が白く彩られた剣型の武器へと変化した。

 

「ミラージュガッチャリバー…これが俺の新たな力…」

 

 ミラージュガッチャリバーを手に取ると、ノワールガッチャードは早速変形させてベルトへと取り付ける。

 

『ミラージュオン…』

 

 その後レプリクロスウィザードのカードを取り出してミラージュガッチャリバーのスロットへと装填した。

 

『マスタージョブ・フェイク』

 

 カードが読み取られたと同時に白い魔導服のような鎧がノワールガッチャードを覆い尽くした。先程の漆黒の容姿とは打って変わり、純白の魔法士を思わせるその姿は黒い魔導士であるウィズと対を成しているようだった。

 

『クロスウィザード…ミラージュ…』

 

「字は、ミラージュガッチャード…行くぞ、魔導士…」

 

 

 

 

 ミラージュガッチャードとなってからのウィズとの戦闘は、先程の実力差がまるで嘘かのような互角な戦いが繰り広げられた。ミラージュガッチャードの戦い方は、ノワールガッチャードの時と全く異なっていたのだ。

 

「『インフェルノ』」

 

 ミラージュガッチャードへ向けてウィズの豪炎が炸裂する。しかし、インフェルノはミラージュガッチャードの白いローブへと吸収され、

 

「『インフェルノ』」

 

 威力そのままにウィズへと跳ね返された。魔法防御によりダメージこそ入らなかったが、それでも自身の魔法が再現されて弾き返されたということにウィズは内心驚いていた。

 

「こういうことも出来るんだぜ?」

 

 ミラージュガッチャードは掌をウィズの方へと向けて、魔力を集中させる。その構えからどの魔法を使ってくるのかはわかった。自身の最も得意とする技。ウィズも瞬時に魔法発動の態勢へと移り、ミラージュガッチャードの魔法を迎え打つ。

 

「「『『カースド・クリスタルプリズン』』!!」」

 

 強大な魔力によって生み出された2つの氷の波が、勢いのままにぶつかり、せめぎ合う。

 

「ハァァァァァァァ!!!!」

 

 激しいぶつかり合いの結末は、ウィズが優勢であったものの引き分けに終わった。両者の氷の間で大爆発が巻き起こり、吹雪が辺り一面に砂埃のように舞った。

 

「今回はここまでにしておくよ。戦闘エネルギーも消費しちゃった分まで取り戻せたし、マスターから帰ってくるようお告げが来た。それじゃあまたどこかで…」

 

 そう言葉を残し、ミラージュガッチャードは姿を消した。残されたウィズは、なんとも言えない表情でただ拳を握り締めていた。

 犠牲となったアクシズ教徒達の無念を晴らすことは出来ず、ミラージュガッチャードに目的を達成されて勝ち逃げされたという事実に、遺憾を抱かずにはいられなかった。




後味悪いですが、ハンス戦は以上になります。
次回は錬太郎サイドの出来事です。
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