この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを!   作:山田プロキオン

62 / 89
ウルトラQや世にも奇妙な物語見てたら書きたくなった話です。
なので今回はいつもと少し毛色の違う話になります。


これが本当の4章ラストです…


この邯鄲(かんたん)の悪夢に怪奇心を…

 物語。

 

 それは創造主たる筆者の筆によって生み出されたいくつもの命が、文字の上で動かされることによって形作られる何気ない日常、冒険、SFである。

 物語は筆者の経験や知識、価値観や主観といったものに作用され、物語の中に生きる命は、筆者の匙加減により行動、知性、言動を統一され定められた役割をこなす。

 生み出された命は筆者の分身でもあるため、筆者の脳内の範疇以外の動きをすることは基本はない。

 

そう、基本は。

 

 もし仮にだ。筆者である貴方に役目を与えられた命のうち、自我を持つ個体が生まれ、さらにはその個体が物語の世界という境界線を破って私達の生きるこの三次元の世界に現れたとき、貴方ならどうしますか?

 

 

 

 

「いってきま〜す…」

 

 朦朧とする意識を覚醒させて一時間弱。今日も大学の講義に参加すべく、休み明けの重い身体に鞭打って、山本は寝癖の少し目立つ頭をポリポリと掻いて、玄関から外へと足を踏み出す。

 時刻は午前8:30。もうすっかりお天道様も顔を出して爛々と街と大地を照らしている。その様子に否が応でも1日が始まったのだと実感させられる。

 

「はぁ…、今日という日が始まってしまったか…」

 

 今日が憂鬱な日になるのか、それとも胸躍らせる日となるのか。漠然とした不安に山本は溜息を漏らしながら大学へと向かう。歩く中で耳に挟む小鳥たちの囀りがほんの少し憂いに沈んでいた耳に心地よかった。

 

 

 

 

「で、あるからにして鎌倉幕府の将軍は三代で途絶え、その後執権の北条氏が…」

 

 教授の話す内容に、山本は頬杖をついてつまらなそうにしている。というのも、この教授の講義内容は小中高と何度も耳にした内容ばかりで飽き飽きしているのだ。

 そのため山本の脳内は、講義の内容とは全く別の内容のことで埋め尽くされていた。

 

「(小説、次の展開どうしよう…)」

 

 小説、ここ最近の山本の悩みである。彼は趣味の一環として小説投稿をしているのだが、その小説の次の展開にどうも行き詰まっていた。4章を終え、5章に差し掛かる直前、どのような内容なら自分の満足する形に収めることができるのか。模索しても模索しても答えの出ない状況に、山本は静かに苛立ちを募らせる。

 そんな中、講義室のチャイムが鳴り響き、退屈な時間の終わりを告げた。今日はこの一コマだけだったので、山本は荷物を纏めると教室を後にするのだった。

 

 

 

 

「フラッペ、美味しい〜」

 

 自宅の勉強机にノートパソコンを広げて椅子にどっかりと腰を下ろしながら、山本は読書をしつつ時折購入したフラッペを飲んで喉を潤しながら優雅な午後のひと時を過ごしていた。

 山本の手にある小説は『この素晴らしい世界に祝福を!』であり、二次創作をしている作品の一つだ。1ページ1ページに記された文体を読みながら自分の作品へどう昇華するか、山本は思考を巡らせた。

 

「アクアはもうちょっと馬鹿っぽくするべきか?めぐみんの爆裂好きやゆんゆんに対する意地悪さを最近出せてないなぁ、それはカズマの鬼畜さもそうか…」

 

 小説本と睨めっこしながら、山本は考える。どのように描いて、どのように表現するべきなのか。自身の想い描く形にするにはどうするのが一番よいのか。

 

「例え私がこの人物はこうだと解釈しても、他の人から見たらそれは違うって場合もあるからなぁ…。原作に忠実って真面目にやればできるように見えて難しいんだなぁ。

ああ…キャラ達が個性そのままに勝手に動いて物語を紡いでくれれば楽なのに…」

 

 叶いもしない願いを溢し、山本は本を本棚へと戻して天を仰ぐ。パソコンに開かれた執筆ページは未だ真っ白。まるで今現在虚無のようになっている山本自身を表しているかのようだった。

 

 刹那、山本の部屋の空気が変わる。形容し難い圧迫感に襲われる感覚。それは自室の仮面ライダー専用のディスプレイスペースから漂っていると感じた山本は恐る恐るそこへ視線を向ける。

 

「え…?」

 

 自身の瞳に映った者に山本は思わず息を飲んだ。自室に人は自分以外いなかった。なのに今はいる。そしてそこにいる人物が明らかにおかしいのだ。

 

 短い黒髪と黒目、そして青い色のローブを纏った少年。不気味に口角を上げ、ニヤニヤとしながらこちらを見つめている。間違いない、自身の小説の中の人物、アナザー錬太郎である。

 

「は、ハハハ。オリキャラの幻影を見るなんて…疲れてるのかな」

 

 驚きと同時に渇いた笑いが溢れる。現実は小説より奇などと言うがこれは夢だ、夢に違いない、山本は自分にそう言い聞かせた。

 狼狽える山本の様子に、アナザー錬太郎は薄気味悪い笑みを浮かべたまま、ディスプレイスペースに置いてある玩具のガッチャードライバーを手に取り、山本の視界へと差し向ける。

 

「うっ⁉︎」

 

 途端、電流が走るような感覚の頭痛が山田を襲う。頭を両手で押さえ呻き声を上げた山本だったが、やがて意識を手放して、床に倒れ伏した。

 

「…フフフ。創造主の中にある感情エネルギーは複雑かつ濃ゆくて凄いなぁ、これならネガマスクや人体の媒介なしでかつてない強力なマルガムが作り出せそう!マスターも面白いケミストリーって喜んでくれるかもなぁ…」

 

 アナザー錬太郎は懐から1枚のケミーカードを取り出す。それはファンタスティックケミーレベルナンバー7にして戦の神の化身、『ハオーディン』の封印されたカードであった。

 

 

 

 

 

「錬太郎さん、起きてください!」

 

『ウィ〜、もうそろそろ昼だよー!起きなよ〜!』

 

『ホッパー!』

 

「う〜ん…」

 

 段々と意識が浮上していく。重い瞼を何とか開けて視界がクリアになっていくのがわかる。

 

 山本の瞳に映ったのは女の子2人と飛蝗と思しき生物、否その生物はテレビ番組『仮面ライダーガッチャード』に登場した主人公一ノ瀬宝太郎と苦楽を共にした相棒というべき存在、ホッパー1だ。

 

 さらに女の子2人もよく見てみると、1人は長い黒髪に翡翠色の瞳、制服のようなものを着用していて、見た目は『ギルます』のアリナ・クローバーだが、口調からして恐らくレベルナンバー10のケミークロスウィザードが擬態した姿なのだろう。

 

 もう1人は黒髪赤目の整った顔立ち、幼さの残る容姿とは対照的に出ているところは出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいる抜群のスタイル。山本が愛読している『このすば』の登場人物のゆんゆんだ。

 

 何故空想上の存在である彼女達がここにいるのか。というよりここは一体どこなのか。山本の心の面積が徐々に不安の色で染められていく。

 

「錬太郎さんどうしたんですか?怯えたような顔して…」

 

『もしかして怖い夢でも見たのかな?』

 

『ホッパー?』

 

 ゆんゆんとクロっち、ホッパー1はこてん、と首を傾げる。何故だ、何故彼女達は自身のことを錬太郎と呼ぶのか。狼狽する山本を額から滲み出る汗が煽るように伝う。ふと、視線を下へ移すと山本はまたしても動揺した。

 服が先程まで着ていたものと違う、寝巻きだ。まさかと思い、山本は咳払いを挟む。明らかにそれは自分の声ではない。

 

「(まさか…)」

 

 山本は慌てて部屋から飛び出して、何処かにあるであろう洗面所を探す。そして漸く見つけた洗面所にある鏡にて自分の顔を見ると、山本は言葉を失った。

 

「(え…どういうこと…これ…)」

 

 姿見が写していた己の顔は、いつも見慣れた自分のものではない。いつもの寝癖で多少ボサついた髪型ではなく、綺麗に整った短い黒髪、幼なさの残る黒目に健康的な唇。

 その容姿は、自身の描く小説の登場人物、百瀬錬太郎その人だった。

 

「(なんで私が錬太郎に…⁉︎これは…一体どうなってるの…?)」

 

 山本は恐る恐る右頬をつねる。摘んだ部分からヒリヒリとした痛みが伝わって来る。夢ならば痛くないとはよく聞くが、ならばここは現実なのか。

 山本の胸中に一抹の不安が過ぎる。これから自分は、この世界で百瀬錬太郎として生きていかなくてはならないのかと。

 

「(どうしよう…無理無理、無理だよそんなこと…)」

 

『錬太郎〜、大丈夫〜?』

 

 ふと、洗面所の入り口からクロっちが心配するように尋ねて来た。その声に驚き、山本は勢いよく振り向く。その様子に、クロっちは眉を顰めて、訝し気な視線を送った。

 

『錬太郎、何か隠してることない?明かに挙動不審だよ?』

 

「え…いやぁ、なんでもないよクロスウィザード…」

 

『クロスウィザード?』

 

「あぁ!!いやぁ…クロっち…。えと、君の言ったとおり怖い夢見ちゃって…ちょっとまだ気持ち引きずっちゃってるというか…」

 

 変に勘繰られては不味いと思い、山本はちんけな頭を全力回転させて、なんとか言葉を並べて誤魔化す。その言い分に、クロっちはまだ疑いの晴れない様子だったが、なんとか納得してくれた。

 

『ふ〜ん、そういうことにしといてあげるよ。それよりウィズのお店に行かなくていいの?』

 

「へ?お店に?」

 

『うん、今日はバニルと商談する日でしょ?』

 

 

 

 

「錬太郎本人の記憶は共有されているってことなのか…」

 

 クロっちの言われた通り、山本はウィズの魔道具店へと向かった。本物の錬太郎ではない自分は魔道具店への道のりなど知らないために、また面倒くさいことになると思っていたのだが、意外にも本物との記憶は共有されているようで、記憶を頼りに歩みを進めた。

 数刻程歩いて、漸くアニメでよく見る魔道具店が見えてきた。見慣れているのにどこか初めて。なんとも言葉では形容し難い気持ちに高揚するまま、山本はお店の扉に手をかけた。

 

「お邪魔しま〜す…」

 

「いらっしゃいませ〜。あら、錬太郎さん!」

 

「お、錬太郎も来たか!」

 

「ど、どうも…」

 

 店に入ると、店主のウィズと既にやって来ていたカズマがよっ、と手を振って出迎えてくれた。カズマの隣にはめぐみんもおり、恐らく爆裂散歩の帰りだったのだろう。

 初対面故、どのように返していいのか分からず、山本はおずおずと頭を下げた。

 

「なんかよそよそしいな…まぁそんなことより聞いてくれよ錬太郎!めぐみんの野郎、ここに来る前に立ち寄った鍛冶屋で頼んでおいた俺の日本刀によぉ、めっちゃくっちゃダサい名前つけやがったんだよ!ちょっと目を離した瞬間に銘に名前を買って刻んで貼り付けやがったんだ!!」

 

「何を言いますかカズマ!!私のおかげで唯一無二の名刀に仕上がったではありませんか!!」

 

「ああ確かに唯一無二だよ!!ちゅんちゅん丸なんてセンスの欠片もない名前つけられた刀なんて持ってるのはこの世界でも日本でも俺くらいだよ!!」

 

「おいセンスの欠片もないとはどういうことですか⁉︎」

 

 そういえば原作でもカズマはこの頃に日本刀を手に入れていたなぁ、と山本は振り返る。そんな山本をおいて、カズマとめぐみんは口論していた。やはり一般的感性と紅魔族の感性では大きな差があるようだ。

 そんな混沌とした場に、タキシードと独特な仮面を纏い、愉快そうに笑う男が1人、ふらりと現れる。

 

「フハハハハ、悪感情美味であるぞ鬼畜小僧に爆裂娘。それより錬金小僧も来たことだ、早速商談へ移ろうではないか」

 

 仮面の男、バニルの鶴の一声によって渋々口論を終えるカズマとめぐみん。山本はカズマとバニルを見ながら、2人に合わせるように移動し、カズマの隣に来た。

 

「それでは…ん?錬金小僧…汝何処かいつもと違うのではないか…」

 

 バニルの指摘に、山本の心の臓がどきりと跳ねる。そうだ、バニルは見通す大悪魔。自身のことに何か気付かれてもおかしくはない。自分から正体バレの危機に足を突っ込んでいたとは、山本は盲点だったとばかりに、大量の冷や汗を流した。

 

「ん?確かにいつもとなんか違うような…」

 

「え⁉︎ええっ…」

 

「鬼畜小僧の言う通りだ。精神と肉体が釣り合っていないと言うべきか…」

 

 顎に手を当て、まじまじと山本を覗き込むバニル。隣にいるカズマも心配するように見つめている。

 

 その時。

 

「うっ⁉︎」

 

 山本の頭に、電流が走るような衝撃がまたしても訪れた。衝撃の影響か、次第に意識は遠のいていき、やがて視界は闇の中へと包まれていった。

 

 

 

 

「はっ⁉︎え…」

 

 次に山本が目が覚めた場所は、見慣れた自室だった。自分の体勢から考えるに、椅子に座ったまま、机の上で腕枕を作ってそのまま寝てしまったのであろう。椅子から立ち上がり、窓の外を眺めて見ると、もうとっくに日が暮れており、ネオンライトが夜の街を照らしていた。

 

「それにしても…妙にリアルな夢だったなぁ…あ、夢のこと忘れないためにパソコンにメモ残しておくか…」

 

 思い立った山本は、執筆に用いるノートパソコンを持ち出し、机の上に置いて起動する。

 同時に、ポケットの中のスマホから電話の着信音が響きもしたため、山本は応答した。

 

「なんだ斯波(しば)か…」

 

「おいおいなんだってなんだよ〜。つれねぇなぁお前…」

 

 山本に電話をかけたのは斯波という男性。山本の大学の同級生で、山本と共に創作活動をしたり、アニメ等のイベントに参加したりする程の仲だ。偶に創作アイデアを出し合うために今回のように電話をすることもある。

 

「それでさ〜、今度出すマルガムは何にすんの〜?」

 

「…そうだな」

 

 斯波の質問に、山本は額に手を当てる。残るケミーは半分を切った。数も少なくなっている中で、どのような敵を出すか、悩ましい問題である。そんな時、ふと1体のケミーが頭の中で過った。

 

『ハオーディン』

 

 ファンタスティック属性のレベルナンバー7にして、北欧神話の軍神のケミー。そのケミーのマルガムともなれば、相当な強さかつ、インパクトにも期待出来るだろう。

 

「ハオーディンかな……」

 

「マジ⁉︎まだファンタスティック属性のマルガムってキツくない?」

 

「いや、錬太郎もファイヤーやスターに変身出来るし。いい感じの着地点を見つけるよ」

 

「う〜ん、わかった。あ、そういえばさぁ、カズマが真のゴージャスに気づくのって大体どれくらいの予定なの?」

 

「あぁそれは…ん?」

 

 電話をしながら、パソコンのキーボードを打ち込む最中、山本は執筆ページに見覚えのない下書きを見つける。不思議に思いながらも、好奇心に抗うことは出来ず、マウスをクリックしてその下書きページを開いた。

 

「はっ…?」

 

 ページを開いた瞬間、山本は固まった。そのページには膨大な文字数を誇る小説の下書きがあったのだ。しかも内容をよく読んでみると、それはいつもと様子の違う錬太郎を中心に繰り広げられる物語であり、山本が見た夢と酷似していた。

 

「あ…ああ…あぁぁぁぁぁぁ⁉︎⁉︎⁉︎」

 

「どしたん山本?」

 

 山本は斯波の声に耳を傾けることなく、慌ててその下書きページを削除する。何故自分が見た夢の内容が既に下書きページにあるのか、一体誰が記したものなのか、怖くて怖くて仕方なかった。

 その後、半ば一方的に斯波の電話を切ると、山本は一目散にベッドへと潜り込み、今すぐにでも寝て忘れてしまおうと、掛布団の中できゅっと目を瞑った。

 

「(何なんだよ、何がどうなってんだよ…)」

 

 

 

 

 一方、ウィズ魔道具店では、元の様子に戻った錬太郎が、落ち着かない様子でバニルに何かを訴えていた。

 

「聞いてくださいよバニルさん!僕に何が起こったかというとですね!!

 

 

あーでこーであーなって!!んでそうなってあーなってこうなって!!ここでこういう感じにこう展開して!!かくかくしかじか!かくかくしまうま!うんぬんかんぬんで!!そして今に至る訳なんですけど…」

 

「錬太郎、それ伝わんないと思うぞ…」

 

「興奮しているのはわかりますけども…」

 

 大雑把かつ、だいぶ簡略化した錬太郎の説明に、カズマとめぐみんは呆れた視線を送る。バニルは、そんな2人とは対照的に納得したように首を縦に振り、ポンと手を打った。

 

「ほぅ、成程。錬金小僧の身に何が起こったのか、把握したぞ」

 

「ええっ⁉︎あんな説明で分かったのか⁉︎」

 

「我輩は見通す悪魔だぞ鬼畜小僧?これくらい朝飯前である。ずばり、錬金小僧は

 

 

 

高次元を生きる存在と入れ替わっていたということだ」

 

「高次元の…」

 

「存在…?」

 

「何ですかその紅魔族の琴線に触れるような展開はぁぁ…⁉︎⁉︎」

 

 錬太郎とカズマは、バニルの話す意味が分からずに首を捻り、他と感性が少しずれているめぐみんは、紅い瞳を爛々と輝かせていた。

 

「錬金小僧の精神と身体が釣り合ってないと話したであろう。その際精神の部分に何処かで感じたような既視感を覚えてだな。しかしそれはこの世界の人間達でも、天界の女神共や地獄の悪魔達のものとも違う。数百年も昔、我輩がほんの一瞬だけ感じ取ることの出来た高次元の世界のそれと似ていたのだ」

 

「つまり高次元の存在と錬太郎との間で前前前世的なことが起こってたって訳か…」

 

「それでバニルさん、高次元の世界って一体…」

 

「それがわかるのなら苦労はせんぞ錬金小僧。そもそも高次元はこの世界はおろか、天界や地獄からも隔絶されている。我輩や汝らの仲間であるアクシズチンピラプリーストでさえ、存在そのものは認知することは出来ても、干渉することは出来ない。そんな場所だ」

 

「バニルさんやアクア様でも踏み入ることが難しいんですよね?それじゃ、どうして錬太郎さんは…?」

 

 途中から話を聞いていたウィズも、首を傾げる。女神や大悪魔ですら立ち入ることの厳しい場所に、何故一人間の錬太郎が行けたのか、あまりにも不思議すぎるのだ。

 

「知りたいか?真実を…」

 

 考え込む一同の前に、低く轟く声が1つ。振り向いた全員の前には、不敵に笑うアナザー錬太郎の姿が。

 

「お前…いつの間に…⁉︎」

 

「フフフ…この世界は、虚構だ。見通す悪魔の話す高次元の世界に存在する者達が夢見る、1つのシナリオでしかない…」

 

「は…?」

 

「何だよ…それ…」

 

 アナザー錬太郎の語る世界の真相に、錬太郎やカズマは動揺する。その様子を下衆染みた笑顔で堪能しながら、アナザー錬太郎は話を続ける。

 

「お前達は勿論、俺も与えられた役割の下、統制された知能で行動し、定められた台詞を喋っているに過ぎない…が、この世界に生まれ落ちて間もない命は、役割が不明瞭故、存在そのものが不安定だ…故に俺は短時間ではあるが高次元へ立ち入ることが出来る…」

 

「成程。貴様はその不安定な存在である特性を利用し、女神や悪魔ですら立ち入ることの出来ない高次元へと向かったということか…」

 

「ピンポーン。流石見通す悪魔だ。ま、かく言う俺もやがてはこの世界の一部となり、高次元の世界へ行くことも出来なくなり、行った記憶も消えてしまうのだがね…」

 

「何のためにその世界に行ったんだ…」

 

「何って…この世界の創造主の願いを聞き入れてやる為さ…創造主は自分の夢見る世界で、実際に動くお前達を見たいと思っていた。だから俺がマスター直伝の人体を入れ替える術を使って、オリジナルと体を入れ替え、その夢を叶えてやった。まぁ、本命は創造主の中にある、高濃度の感情エネルギーなんだけどね…

あの世界の人間は、この世界の人間よりも感情エネルギーの質が大変良くてね、お陰で人体を媒介にせず、強力なマルガムを生み出せたよ…」

 

「……言っている意味がさっぱり分からない…この世界が虚構なら、僕は一体何なんだ、カズマは!めぐみんは!アクアは!ダクネスは!ゆんゆんは!ケミーの皆は!!」

 

 声を荒げる錬太郎を前に、相変わらずの気味の悪い笑みで、アナザー錬太郎は告げた。

 

「お前達はお前達であって、お前達ではない…」

 

 

 

 

「ハッ!!……ハァハァ…夢か…」

 

 またしても訳の分からない悪夢に叩き起こされるように目覚める山本。一体自分の身に何が起こってしまったというのか。病院に行った方がいいのだろうか、それともまだ様子を見るべきなのだろうか。しかしこんな夢が何度も続くようならば、精神的に苦しいかもしれない。

 

「ん…着信来てる、斯波か…」

 

《今日創作兼オタク友達の雅臣(まさおみ)とくららと次のこのすばイベントの予定を立てようと思うんだけど、お前も来ない?昨日の話の続きもしたいしさ》

 

 スマホの示す時刻は朝。そしてホーム欄を見るとメールが届いており、斯波からのものだった。断る理由もなかったため、山本は急いで支度をして、ノートパソコンを鞄に入れると、待ち合わせ場所へと向かった。

 

 

 

 

「おはよう山本!!」

 

「おはよう、待ってたよ〜」

 

 待ち合わせのフードコートに行くと、斯波以外にも到着していた雅臣とくららが出迎えてくれた。4人は見つけた席を陣取ると、幾つかメニュー表から注文をし、早速話し合いに移った。

 

「このすばのイベント楽しみだよね〜」

 

「そうだよね雅臣くん!私めぐみんやアイリスのグッズ欲しいな〜」

 

「いいよなぁその2人も。あ、山本は?」

 

「え…えぇっと…」

 

 斯波に話を振られ、硬直する山本。普段なら饒舌に自身の好きなものについて語るのだが、今回は昨日の一件による心労もあってか、中々喋ることが出来ずにいた。

 

「まぁ、そんな簡単に決まりはしないわな。あ、そうだ!昨日話してたオーディンマルガムの能力なんだけど、天気を操ったり、原因不明のオーロラ現象や日食を起こすとかどう?昨日から世界中でそういうことが起こってるっていうニュースを下に考えてみたんだけど」

 

「あ、斯波くんも今朝のそのニュース見たのかい?なんか物騒だよね」

 

 今朝のニュースの話題に、雅臣も反応する。世界中でそのような現象が昨日のうちに多発しているなど不思議でしかないが、今の山本にそのようなことを気にする余裕はなかった。

 

「大丈夫、山本さん…」

 

「昨日から様子は変だったから心配してるけど…」

 

 くららが心配そうに山本に尋ねる。他の2人も同様に、山本を気にかけるように視線をむけてくる。優しい3人になら話していいかもしれない、そう思えた山本は昨日のことを打ち明けることにした。

 

「夢を…見たんだ。私と、私の書く小説の登場人物の百瀬錬太郎と入れ替わる夢を…夢の中で、私が錬太郎になって、アクセルの街にいて…それから錬太郎の姿のまま動いて…妙にそれがリアルで…」

 

 ぽつぽつと話す山本の言葉を、3人は一言一句逃さずに聞いていた。そして話を聞き終えると、今度は雅臣が山本に話し始めた。

 

「何だかそれは、胡蝶の夢みたいだね」

 

「胡蝶の夢…?」

 

「中国の思想家、荘子の事実談だよ。ある日荘子は蝶の夢を見て、目覚めた後に自分が荘子なのか、それとも蝶が自分になった夢を見ていたのかが分からなくなった出来事のこと。それに似てるなぁって思って…」

 

「へぇ…ゔっ⁉︎」

 

 雅臣の話を聞き終えると同時に、山本を頭痛が襲う。この感覚、自身が錬太郎と入れ替わる時と同じ。となるとまたしても入れ替わってしまうのか。心配する友達の顔が、視界と共にぼやついて行き、やがて山本は意識を手放した。

 

 

 次に目を覚ますと、山本は錬太郎の姿となっていた。そして目の前には、小さくほくそ笑むアナザー錬太郎がいた。

 

「ど、どういうことなんだ…」

 

「お前は夢の中でオリジナルと入れ替わり、夢に遊ばれているんだ…胡蝶の夢のように…

マルガムの性質は、媒介する錬成用のエネルギーに強く左右される。お前を高次元とこの世界を行き来させれば、お前のエネルギーによって生まれるマルガムも同様の性質を手にする。

その目論見は成功した…現にお前の世界各地で異常現象が相次いでいるだろう?」

 

「斯波や雅臣が見たニュースは…私の、マルガムのせい…?う、嘘だ…そんなこと!!」

 

「嘘ではない…刮目しろ、これが『現実』だ…」

 

 アナザー錬太郎が指を鳴らすと同時に、アクセルの街に激震が走る。何事かと外に飛び出した山本は、目に映る光景に驚愕する。

 

 オーロラの広がる暗雲から、大粒の雨が降り注ぐ。高貴な鎧を身に纏い、右手に大槍、左手に大盾を携えた、見上げる程の大きさの巨人が地ならしをしながらアクセルの街を進んでいる。

 あれが自分のマルガムなのか、山本が戦慄していると、腰に備えているケミーライザーにダクネスからの着信が入った。

 

『錬太郎、大変だ!今ベルセルク王国各地で原因不明の大雨や干ばつ、オーロラ現象に日食が相次いでいるのだ。恐らくだが、またロード達によるマルガムの仕業に…聞いているのか錬太郎⁉︎』

 

 ダクネスの話の途中で、ケミーライザーを手の中からぽとりと落としてしまう山本。そして力無く地面に両膝を突いて項垂れた。

 

「そんな…私のせいで…」

 

 

 

 

「山本、おい山本、大丈夫か?」

 

「はっ、ここは…」

 

 斯波に揺さぶられ、意識を失っていた山本は目を覚ました。

 

「どこだ…僕は一体…」

 

「僕?山本は一人称私じゃないのか?」

 

「え、は?え…山本って…」

 

「ていうか、あなた本当に山本さん?」

 

「確かに、いつもと様子は違うな…」

 

 いつもと違う山本の様子に、くららを始め、皆探りを入れるように問いただす。山本の体の者は、これは誤魔化しても見抜かれるだろうと観念し、真実を、ありのままを話すことにした。

 

「僕は、百瀬錬太郎です…」

 

 

 

 

「マジか…やっぱ雅臣の推測は正しかったって訳か…」

 

「本当にこんなことがあるのね…」

 

 錬太郎から話される詳細に驚きつつも、どこか感心する様子を見せる斯波とくらら。一方で錬太郎は、雅臣からこの世界について聞かされ、自身が山本の小説の登場人物であること、そしてこの世界こそがバニルの言った高次元の世界なのだと理解した。そして今は、山本が書いた自身の登場する小説を読み進めている。

 

「確かに、山本さんが書いている内容は、どれも僕が経験したこと…。話している言葉も、確かに同じ…」

 

 山本の記憶の共有と、アルケミアでの日本語学習の賜物も相まって、錬太郎は15分程で流し見を終えた。やはりアナザー錬太郎の言う通り、自分のいる世界は作られたものであると、嫌でも納得するしかなかった。

 

「あれ、てなると山本は今錬太郎の身体にいるってことか?」

 

「そういうことになりますね。僕が山本さんの身体にいますから…ん、これは…」

 

「どうしたどうした?」

 

 山本の小説ページに、まだ投稿されていない話が1つ。錬太郎はその話のリンクを開いて、斯波達と共に読み進めた。

 

「《世界中で原因不明の大雨や干ばつ、オーロラに日食が発生…》」

 

「《その超常現象を発生させたるは、オーディンマルガム…》」

 

「《めぐみんの爆裂魔法、ウィズとゆんゆんの上級魔法を持ってしても決定打には至らず八方塞がり…》」

 

 小説の中で繰り広げられる激闘に、固唾を飲む一同。しかし、そこから先は、文が続いていなかった。まるで打ち切られたかのようにそれ以降の物語が展開されていないのだ。

 

「ここから先は、まだ山本さんが書いていないってことか…?」

 

 錬太郎は山本が書き終えていないのだろうと納得してパソコンを閉じようとしたが、直後に斯波の口から恐ろしい推測が溢れ落ちた。

 

「ちょっと待て…、今山本本人は小説の世界の錬太郎の中にいるんだよな?もし仮にさ、今カズマ達と一緒にオーディンマルガムと戦っているんだったら…」

 

 

 

 

「くそっ、上級魔法が束になってもダメージが通らねぇのかよ…」

 

「屈辱です…私の爆裂魔法は世界最強なのに…」

 

「どうしましょう…」

 

 出す手を尽くして、それでも尚存外余裕なオーディンマルガムを前に、カズマ達は頭を悩ませる。そんな中、バニルは見通す力によって何かを見抜いたようだ。

 

「成程。此奴はまだ高次元の者によって行末を定められていない存在。故に我輩達の攻撃をいくらぶつけても効果がないという訳だな…」

 

「じゃあその高次元の奴が結末を書けば…」

 

「無論、倒すことは出来るだろう。しかし、それが出来る者は…」

 

 バニルとカズマは、激しい雨に打たれながら、力無く俯いている錬太郎もとい山本を見つめる。作者である山本がオーディンマルガムの撃破を描いていないために、どう足掻いても現段階では倒すことは出来ない。加えて、その山本は今、錬太郎の中におり、高次元を生きる者として物語を描く事が出来ず、事態は絶望的。

 

「私の夢が…この世界を…」

 

 完全に意気消沈しており、カズマ達も声をかけようにもかけることが出来ない。そんな時、ふと山本の脳内に声が響いた。

 

《山本さん、聞こえますか?》

 

 何処からか聞こえてきた声。そしてそれはこの場にいない筈の元の身体での自分のもの。となると声を送ってきたのは今山本の身体の中にいる——。

 

《今、貴方の原稿に僕の伝えたいことを書き込んで間接的に話しかけています。僕はそちらの世界に今干渉することが出来ません。しかし貴方は今、僕の身体と入れ替わっています。そして身体能力も僕と同じ状態かつ、ガッチャードにも変身できる筈です!だから…》

 

 山本は錬太郎の意図を察した。今この場にいない錬太郎に変わってマルガムを倒して欲しいのだと。しかし…。

 

「無理だ…。私は、君のように冒険者でも錬金術師でもない…しがない只の学生だ…」

 

《山本さん、無理を承知なことは分かっています。でも、僕を信じてください!貴方の友達と、ガッチャードが勝利するシナリオを必ず完成させますから!!》

 

「…わかった」

 

 山本は錬太郎の言葉を信じて、懐からガッチャードライバーを取り出す。同時に錬太郎も、斯波や雅臣、くららからのアドバイスの下、ノートパソコンのキーボードを打ち、小説を執筆していく。

 

《山本は、恐る恐るガッチャードライバーを腰に装着し、懐から2枚のケミーカード、『ドンポセイドン』と『マーキュリン』を取り出し、ベルトへと装填する。》

 

『ガガガガッチャーーンコ!マーキュリーポセイドン!』

 

《山本は仮面ライダーガッチャード マーキュリーポセイドンへと変身。単身でオーディンマルガムへと立ち向かう。》

 

《オーディンマルガムの槍から繰り出される容赦ない落雷や、突風の連撃。ガッチャードは華麗に躱すと、ガッチャーイグナイターをベルトに接続する。》

 

『ガガガガッチャーーンコ!ファイヤー!』

 

《蒼炎を纏い、ファイヤーガッチャード マーキュリーポセイドンへと強化を果たす。》

 

『マーキュリーポセイドン!アチー!』

 

《背中に備えられた推進器、『ファイヤードッカーン』が火を噴き、瞬く間に超加速したかと思えば、ファイヤーガッチャードは一瞬の内にオーディンマルガムの懐に潜り込み、間髪入れずに必殺技を放った。》

 

『マーキュリーポセイドン!バーニングフィーバー!』

 

《遠心力を利用して繰り出される力強い回し蹴りが、オーディンマルガムを貫いた。オーディンマルガムが消滅したと同時に、世界中で発生する異常気象は鳴りを潜め、暗雲も晴れてお天道が顔を出す。1つの脅威が去ったアクセルの街とガッチャード達を、陽光は優しく照らし、包み込むのだった。     終》

 

 

 

 

 アクセルの街は今日も平和だ。緑が広がる大地で小鳥達が歌い、川では子供達が楽しそうに遊び、ギルドでは、朝から冒険者達が酒を飲んで喧騒し、時に冒険話に花を咲かせる。

 そんな中、ギルドの片隅にて錬太郎は浮かない顔をしながら1人、ハオーディンのケミーカードを眺めていた。錬太郎の様子を見兼ねたのか、ゆんゆんがとことこと歩み寄り、話しかけてきた。

 

「どうしたんですか錬太郎さん?」

 

「ああ…なんか、長い夢を見てた気がしてさ…でも実際に経験しているみたいな…ちょっと変な感じの夢…」

 

「錬太郎さんもですか?私も昨日そんな感じの夢を見ました。そういえばカズマさんやめぐみんも言ってましたよ」

 

「ふぅ〜ん、奇妙なこともあるもんだよね…」

 

「おいお前ら〜、今日のクエスト受けるぞ〜」

 

 カズマの声に振り向き、錬太郎とゆんゆんは共にクエスト掲示板へと向かう。彼らの見た夢は、果たして本当に夢だったのかそれとも…。

 

 

 一方、大学から帰宅した山本は、テレビでニュースを見ながらレポート作成に勤しんでいた。

 

「…かくして時政は息子の義時と、娘の政子に追放された、と。よし、レポートも終わったことだし、ちょっと睡眠とるか…」

 

 課題を終えた山本は、テレビを点けたまま、机の上を片付けずにベッドに入ってそのまま眠りについてしまった。

 

『それでは、次のニュースです。一時鳴りを潜めた異常気象ですが、つい先程からまたオーロラの発生や干ばつ、大雨に日食など、世界中で事例が確認されています。また、異常気象の確認された地域では、巨大な人影のようなものが確認されたとの報告も相次いでおり——』

 

 

 

 

 




オーディンマルガム
・山本の中の高濃度の感情エネルギーを元にして産まれたマルガムで、依代となる人間やネガマスクが存在しない。
 オーロラ現象や暦にない日食といった因果を操ることが出来る。また、錬太郎達から見て高次元の存在にいる者達によって結末を描かれない限り、何度でも復活する。



いかがだったでしょうか?
二次元と三次元的世界が交差する、こういうsfチックな話も書いてみたいですね。
ラスト、オーディンマルガムが引き起こした災害が再び現実世界で起こっていましたが、その後どうなったのかは皆さんの想像にお任せします。

次回、いよいよ紅魔の里
めぐみんが、ゆんゆんが、そしてあの子が動きます。
 
第5章:紅伝説、きませい最後の紅魔族

お楽しみに


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。