この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを!   作:山田プロキオン

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ゲ謎と変な家久々に見返してみましたが、どちらも面白過ぎました。

追記:紅魔の里編を見返して、ひろぽんの台詞を大幅に修正致しました




この紅き魔法使い達の故郷に帰還を!

 紅魔の里。それは魔王軍がアクシズ教徒と並んで恐れる種族、『紅魔族』が住処としている集落。その紅魔の里に危機が訪れているとの伝聞を受けて、里へと向かうべく、里へと通じる草原を進む5人の若者(+例外1人)がいた。

 

「ちょっと!なんか私誰かからハブられた気がするんですけど⁉︎」

 

「わっ⁉︎びっくりしました…」

 

 徒党の1人であるアクアは、不意に青空を見上げて声を荒げる。一体何に怒りの矛先を向けているのやら。彼女の様子に、ゆんゆんは驚き、ダクネスは困惑と心配の混在したような声で尋ねた。

 

「ど、どうしたのだアクア…急に声を上げて…」

 

「アクアがおかしいなんていつものことじゃないですか。それよりダクネス、ゆんゆん。あのままじゃカズマとレンタロウの貞操が…」

 

 ダクネスの肩を叩き、めぐみんはアクアと反対方向を指差す。めぐみんの示すその先では、まさに地獄としか形容出来ない光景が広がっていた。

 

「あんぎゃあああああああああ!!!!」

 

「忘れてたァァァ⁉︎⁉︎紅魔の里に続く道にはヤツらがァァァァ!!!!」

 

 カズマと錬太郎は、全速力で走っていた。普段生身で走る機会など皆無に等しい2人が息を切らしている。それ程までに男児共が本能的に怖気を抱く存在は、2人の後ろから雪崩のように迫っていた。

 

「お待ちなさぁぁぁい!!!!」

 

「貴方達、よく見たら幼さが残る顔で可愛いわね、嫌いじゃないわぁぁぁぁ!!」

 

「お兄さん達、私達といいことしなぁぁぁい???」

 

 透き通る凛とした声に、グイグイと迫る性格。ここだけを切り取れば、世の男共は速攻で堕ちてしまうこと間違いなしだろう。後はその見た目が怪物でなければの話だが。

 先述の通り、カズマと錬太郎を追いかけ回す集団は人間ではない。がっしりとした逞しい身体つきに、豚を想起させるような顔立ち。その姿は伝承や物語でよく耳にする者も多いであろうオークに違いない。そしてそのオーク達は軒並みメスであり、アクア達女性陣には目もくれず、カズマと錬太郎に狙いを定めて発情していた。

 

「ていうか、何でオークはメスしかいねぇんだよぉぉ⁉︎⁉︎」

 

「カズマ、逃げながら説明するなんて呑気だって思われるかもしれないけど僕が説明するねぇぇ!!!!オークの雄は随分昔に絶滅して、生き残った雌は種族存続のために縄張りに入った男を捕えてえげつないことをするんだって!!」

 

「ァァァァァァァァ!!!!こんな化け物共に童貞奪われてたまるかァァァァ!!!!」

 

 錬太郎からの解説に、カズマは顔を真っ青にして咆哮する。種族存続のためにすることといったらわかっている。そしてそのために、自分の肉体を一生分オーク共へ捧げるなど、カズマにとっては死ぬことよりも恐ろしかった。

 対するオーク達も、せっかくの獲物を逃すまいと執拗にカズマと錬太郎を追い回した。

 

「2、3日中ウチの集落でハーレムよ!この世の天国を見せてあげる!!」

 

「どんなプレイがいいかしら?優しく?激しく?激しく⁉︎一緒に楽しみましょうよぉぉぉ!!!!」

 

「「おことわりしまぁぁぁぁす!!!!」」

 

 オークの誘いを必死になって断る錬太郎とカズマ。その間も足を止めることは許されない。止めたら最後、生き地獄であるのだから。

 

「ゆんゆん、何をぼさっとしているのですか。私の爆裂魔法ではあの2人とオーク纏めて吹き飛ばしちゃうかもなので貴方しか頼れないのですよ」

 

「わかってるわよ!!早く錬太郎さんとカズマさんを助けないと。で、でもオーク達の動きも速くて魔法の照準が…」

 

「な、なぁ2人とも…オークといえば女騎士の天敵というのが基本だろう…?も、もしかしたら私もカズマや錬太郎と共にヤツらの巣窟に連れて行かれ…」

 

「それはありませんよダクネス、雄のオークは絶滅してもういません!!」

 

「なぁ…⁉︎しょ、しょんな…」

 

 めぐみんの返答に、自身の望む仕打ちは万に一つも得られないと悟るや否や、ダクネスは両膝を突いてしまった。その後、放心状態のまま、鈍重な鎧の音を響かせながらゴロゴロと転がり去った。男共の一大事だというのに、この聖騎士(クルセイダー)は欲望に忠実過ぎである。

 そして、逃げ惑う2人のうち、カズマは既に限界を迎えていた。

 

「錬太郎、俺…ヤバいかも…」

 

「待ってカズマ⁉︎頑張ってよ!!」

 

「まぢ無理…脇腹痛ぇし、は、吐きそう…」

 

「わぁぁぁぁぁぁ⁉︎⁉︎⁉︎あ、アクア!!カズマの介抱をして!!お願い!!」

 

「いいの?カズマさんの分までアンタ相手にしなきゃいけないわよ?」

 

「カズマにリバースさせるわけにはいかん!!それに戦闘態勢に移れば僕やクロっちで何とか出来るから!!」

 

「あ〜、わかったわ。気をつけなさいよ。んじゃ、力貸してね!!」

 

『ケミーライズ!ジャングルジャン!』

 

 錬太郎の意図にどこか他人事のように共感出来ない様子ながらも、アクアは腰のケミーライザーにプラント属性のレベルナンバー9、『ジャングルジャン』のカードを装填して起動する。

 

「な、何だ⁉︎って、おわぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 刹那、アクアの正面から無数の蔦が出現してカズマを捕縛し、あっという間にアクアの下へと連れてきた。

 

「あら?緑の坊やが消えたわ」

 

「先ずは目の前の子に集中しましょう!!」

 

 運良くオーク達もカズマのことを見逃し、一旦集中を自身に集めるという錬太郎の作戦は成功した。そしてカズマがいなくなった瞬間に多少の動揺でオークの動きに隙が生まれたことを見計らい、懐から取り出したガッチャードライバーを腰に装着した。

 

「よし、ベルトを着けれたのならこっちのもんだ。いくぞ…」

 

 左腕のガッチャードローホルダーを展開する錬太郎。続け様に、飛び出した2体のケミーの内包されたカードを手に取り、左右のスロットに其々装填していく。

 

『ゴルドダッシュ!』『メカニッカニ!』

 

「変身!」

 

 カードの装填が完了すると、錬太郎は勢いよくベルトのレバーを操作する。一瞬の内に眩い光が錬太郎を包み、その姿を戦士の姿へと変化させた。

 

『ガッチャーーンコ!!ゴルドメカニッカー!!』

 

『錬太郎、僕も力貸すね!』

 

 黄金の鎧を纏った巨軀の戦士、仮面ライダーガッチャード ゴルドメカニッカーと、ケミー姿のクロっちことクロスウィザードが、オークを撃退すべく並び立った。

 

「クロっち、速攻で決めよう!!」

 

『ウィ、了解!!』

 

 これまでの共闘経験で培った阿吽の呼吸で、ガッチャードとクロスウィザードは互いの作戦を瞬時に合わせると、即座に攻撃へと移った。ガッチャードはベルトのレバーを操作し、己の黄金の装甲である『ゴルドシェル』に電流を激らせ、宛ら帯電状態を形作る。そして強化足部にあたる『ベクトソウル』に体重を乗せた後に、勢い良く地面を蹴り上げてオークの群れへと突進した。

 

『ゴルドメカニッカー!!フィーバー!!』

 

 その大きすぎる体躯からは想像もつかない電光石火の如き速さ。残像さえ見えてしまうガッチャードの激突は、瞬く間にオーク共を蹴散らした。

 

『やるね錬太郎、なら僕も!!』

 

 さらに追撃と、ガッチャードの後方にいたクロスウィザードが自身の周囲に無数の魔法陣を展開させる。ガッチャードの攻撃を何とか掻い潜り、残ったオーク達を包囲網のように捕らえて退路を断った。

 

『いけぇぇぇぇ!!!!』

 

 魔法陣からは無数の短剣が顔を出し、クロスウィザードの合図と共に、篠突く雨となってオーク共を撃滅させる。しかしそれでも尚、オークの数は多く、全てを仕留めるには至らなかった。

 

「ハァハァ…」

 

『ウィ〜、数が多すぎるなぁ…』

 

「成程〜、こっちの坊やは可愛いだけじゃなくて強いのね」

 

「嫌いじゃないわ!!」

 

「あの魔法使いの方は狙いじゃないから、これは俄然坊やの方を取っ捕まえてやりたくなっちゃった!!」

 

 ガッチャードの強さを前に、オーク達は俄然やる気に満ち溢れた様子。追い払うつもりが、逆に火に油を注いでしまう結果となってしまった。しかしこの間、無防備となっていたオーク共を見逃さずに魔法を放つ者が1人。

 

「『ボトムレス・スワンプ』!!」

 

 凛としつつも芯のある声が詠唱を奏でると同時に、オーク達の足下が沼状に変化して、ずるずると引き摺り込んで行く。突然の事態に慌てふためくオークを他所に、魔法を発動した少女は、ガッチャードとクロスウィザードの下へと駆け寄った。

 

「錬太郎さん、クロっちさん!」

 

「ゆんゆん!ありがとう、助かったよ」

 

『それじゃ、そろそろ幕引きにしないとね』

 

 クロスウィザードの合図に、ゆんゆんは並んで次なる魔法の準備へと移る。ガッチャードも新たに2枚のケミーカードを取り出して、ベルトに入れ替えるように装填した。

 

『マーキュリン!』『ドンポセイドン!』

 

『ガガガガッチャーーンコ!!マーキュリーポセイドン!!』

 

 荒波を模した群青の装甲を身に纏い、三叉の槍を右手に携えるその姿は神話にて伝わる海の王——

 

仮面ライダーガッチャード マーキュリーポセイドン

 

『マーキュリーポセイドン!フィーバー!』

 

「ハァ!!」

 

 ベルトを操作し、必殺態勢に移ったガッチャードが、得物の槍を天高く掲げる。刹那、ゆんゆんの魔法によって生み出された沼から無数の水柱が出現し、オーク達を上空へと誘った。

 上空では大して身動きの取れないオーク達は、強力な魔法を撃ち込むのには最適の的。ゆんゆんとクロスウィザードは照準を定め、オーク目掛けて特大の魔法攻撃を叩き込んだ。

 

「『ライト・オブ・セイバー』!!」

 

「『ライトニングバスター』!!」

 

 ゆんゆんの手元に生成された幾つもの光の剣は、彼女の手の動きに合わせて水柱上のオーク共を無慈悲に斬りつける。さらにクロスウィザードの雷電を蓄えた無数の光球も後に続き、残るオーク達の肉体を貫いていき、雲一つない青空にて、爆炎を巻き起こした。

 

「ふぅ、何とかなった…」

 

 ガッチャードは変身解除して錬太郎の姿に戻ると、ぐっしょりとかいた額の汗を右手の甲で拭った。激戦の余韻で僅かに吹く風は、錬太郎を静かに労うように彼の髪をそっと仰いだのだった。

 

 その一方で…

 

「な、何よあの爆発⁉︎ま、まさかあの紅魔族達、またとんでもないことしているっての?」

 

「我々の奇襲にも気づかれた可能性が…シルビア様、ここは一旦退却しましょう!!」

 

 遠くから聞こえるガッチャード達とオークの戦闘での爆発音に恐れ慄いた魔王軍が誤解をして一時撤退したのだとか。

 

 

 

 

「うぅ…怖かった…怖かったァァァァ…」

 

「よしよしカズマさん、大丈夫だからね〜」

 

 オーク達を全滅させて尚、心に負った深い傷は癒える気配を未だに見せず、カズマは恐怖に震えていた。そんなカズマに膝枕をしながら頭を撫でてあやすアクア。偶には女神らしいことも出来るのか、普段なら無駄に感心する素振りを見せるところだが、今だけはそんなアクアがカズマには有り難かった。

 

「というかレンタロウ!!空中にオークを誘い出せるのなら言ってくださいよ!!それなら私も爆裂魔法を撃ちましたのに、折角の経験値が…」

 

「ごめんごめん、緊急事態だったもので…ほんとにごめん!!」

 

 錬太郎は両手を合わせてめぐみんに謝罪をする。対してめぐみんは未だご立腹とばかりに頬を膨らませてぷいっとそっぽを向いたまま。いつになく子供らしいめぐみんの様子に、ダクネスやゆんゆんは苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「里の近くの草原より嵐の予感を察知して来て見れば、旅に出た我が同胞と共に並ぶ姿が4つ。先程の強大な力を魅せていたのは、一体その中の内の誰なのかな?」

 

 突如背後からする声に一同が振り向くと、そこには黒いローブに身を包んだ1人の男性がいた。重厚な声色からして威厳すら感じるその威容に、錬太郎は警戒心を見せながらも対話した。

 

「さっきのは僕と徒党に属する2人の魔法だ。うち1人はかなり張り切っちゃって今は寝ているし、もう1人は立てはすれどもう連続して強力な魔法は放てない…相手になら、僕がなってやる。仲間達に手出しはさせない…」

 

 ローブの男に、錬太郎は啖呵を切って見せる。しかしかく言う錬太郎も戦闘出来るほどの体力は残ってはいない。ファンタスティックとコズミックの属性による高度な錬成とオークとのイタチごっこの末に体力をごっそりと削られており、精々通常の多重錬成一回分程である。そして錬太郎の述べる通り、クロっちは左腕のホルダーに収納され、ゆんゆんも魔法を多用出来るほどではない。アクアは傷心中のカズマの看病につきっきりで、めぐみんは爆裂魔法しか使えず、共闘出来るのはダクネスのみ。

 再度降り掛かる危機に、錬太郎は額から冷や汗を流していた。ここで相手がどう出るのか。それに賭けるしかなかった。しかし、この錬太郎の賭けは、あっけない形で終了することとなる。

 

「あの〜、ぶっころりーさん…何してるんですか…?靴屋の仕事は…まさかまたサボっているんですか?」

 

「へ⁉︎ちょ、あぁもう!!折角盛り上がる展開だったのにぃ…」

 

 恐る恐る、そして呆れたような口調でゆんゆんがローブの男に尋ねる。ゆんゆんの言うぶっころりーに図星を突かれたとようで、男は一時慌てふためいたものの、観念して頭のフードを下ろした。その容姿は青年顔で、めぐみんやゆんゆんと同じく紅く煌めく瞳をしていた。

 

「我が名はぶっころりー!!紅魔族随一の靴屋のせがれにして上級魔法を操る者!!」

 

「郷に行っては郷に従えと言うしね、こっちも返さなきゃ無作法というもの…僕の名は百瀬錬太郎!!ケミーや仲間達と共に夢に進み続ける錬金術師だ!!」

 

 ぶっころりーの名乗りを聴き終えると、錬太郎も普段からは想像も出来ない洗練された上半身の動きを見せて紅魔族風の名乗りを上げる。初めて見る錬太郎の名乗りに、カズマ、アクア、ダクネス、ゆんゆんは意外すぎたのか呆然とし、めぐみんとぶっころりーは両者共に紅い瞳を煌めかせて感動していた。

 

「ま、まさかレンタロウが私達紅魔族の名乗りをやってくれるなんて…それに所々違う部分はありますが、ちゃんとかっこいいじゃないですか!!」

 

「里の者以外でこんな親切な返しを見れるとは…感激だ…それに引き換えゆんゆん!!どうして君は俺達紅魔族の伝統的文化を疎むんだ!!そんなんだから友達が出来ないんだろう!!」

 

「ひっ、ひどいですぶっころりーさん!!少なくともここにいる5人は私の友達ですよ!!」

 

 ずびし、と人差し指をゆんゆんに差し抗議するぶっころりーにゆんゆんは涙目になりながら反論する。片や元ぼっち、片やニートに片足を突っ込んでいる成人男性の言い争いは、見ている側も虚しくなると感じたのか、錬太郎が2人の間に入って諍いを中断した。

 

「ところで、紅魔族の貴方が何故ここに?魔王軍によって里が一大事なら、上級魔法を使える貴方は戦力として加勢する方がいいのでは?」

 

「ん??里の危機?何のことだい?」

 

「何って、手紙には里が大変だと記されていたではないですか!!」

 

「そうですよ、ぶっころりーさん!!」

 

 めぐみんとゆんゆんからも是非を尋ねられ、オロオロするぶっころりー。しかし暫くして合点がいったのか、手を打つと2人を宥めて話し始めた。

 

「まぁ詳細は里に着いてから話すとして。折角だから俺がテレポートで送ってあげるよ。それと…」.

 

 ぶっころりーは錬太郎に視線を移すと、どこか気まずそうに質問した。

 

「さっき君錬金術師って言ってたけど、もしかしなくても君が…ガッチャード?」

 

「あ、はい!!」

 

「そ、そうか…王都で目撃されていたって話だし、ゆんゆんやあるえの創作かと思ってたけど、やっぱそうかぁ、族長なんて言うんだろうなぁ…」

 

 懸念を示すような顔色のまま、ぶっころりーはテレポートを発動し、一向を紅魔の里へと誘った。

 

 

 

 

 どこか田舎を感じさせる建物や風景に富んだ地、紅魔の里。テレポートをしてくれたぶっころりーに御礼を述べた錬太郎達は、手紙の詳細について聞くべく、ゆんゆんの実家へと向かったのだが…。

 

「お、お父さん…もう一度言ってくれる?」

 

「なぁに、あれはただの近況報告だよ」

 

 はっはっはと大らかに笑いながら返答するゆんゆんの父『ひろぽん』に一同は目を丸くする。確かに見たところ里は崩壊した様子も、侵攻された様子も皆無で、どちらかといえば長閑で平和としか言いようがない状態だったのだからおかしいとは皆感じていたものの、まさかの真相に開いた口が塞がらなかった。

 

「もうこの世にはいないだろうって…」

 

「紅魔族恒例の決まり挨拶だろ?学校で習わなかったのか?あぁ、ゆんゆんはめぐみんと並んで優秀だったから習うことなく卒業しちゃったんだったな」

 

「魔王軍が前哨基地を作って、取り壊すのは困難だって…」

 

「あぁ、外観と内装があまりにもカッコよかったから取り壊すのが勿体なく感じてね」

 

 ひろぽんの言い分に、皆は思った。イカれていると。折角里の危機を案じて戻って来たというのに、真偽な程から殆ど無駄骨だったとは。

 

「ゆんゆん、悪いけどお前の親父さん一発殴っていいか?」

 

「いいですよカズマさん、ついでに錬太郎さんもどうぞ」

 

「えっ⁉︎僕も⁉︎いやいやそれは…」

 

「ゆ、ゆんゆん⁉︎まさか実の父を見捨てるなんて…ってあぁ!!」

 

 ひろぽんがゆんゆんに声をかけたその瞬間、カズマがひろぽんに飛びかかり、馬乗りになりながら胸ぐらを掴んだ。

 

「俺はぁ、俺はなぁ!!道中で死ぬかもしれなかったんだぞ色んな意味で!!ゆんゆんとめぐみんの故郷が大変だって聞いたからしょうがなく着いて来てやったのに!!こんなふざけた理由だったなんて聞いちゃカズマさんは黙っちゃいねぇ!!」

 

「カズマカズマ、落ち着いてください!」

 

「気持ちはわからないでもない。だが殴るならせめて私に…」

 

「お前を殴ったところで鬱憤が晴れる訳ねぇだろマゾ聖騎士(クルセイダー)!!」

 

「にゅうん!!どさくさに紛れての言葉責め…」

 

 鬼の形相で荒れ狂うカズマを、何とかして押さえつけるめぐみんとダクネス。その後錬太郎やアクアも参入してカズマを落ち着かせたことで大事には至らなかったが、カズマの機嫌は優れなかった。

 

「え〜こほん。手紙の件はすまなかった。本当に」

 

「あ〜その、これからは気をつけてくださいね…」

 

「了解した。ところで、君がモモセレンタロウなのかい?」

 

 ひろぽんはカズマの隣に座っている錬太郎に尋ねる。どこか探りを入れているようにも感じたが、ゆんゆんの父であるため警戒はしなくても良いだろうと、錬太郎は正直に答えた。

 

「はい、僕が百瀬錬太郎です」

 

「ほぉ、そうかそうか…

 

 

 

 

 

 

君がゆんゆんの…」

 

「⁉︎⁉︎」

 

 一瞬の内に空気が張り詰め、自身に殺気に近い圧が向けられていることを錬太郎は感じ取る。身体中に鳥肌が浮き立ち、目の前のひろぽんは笑顔を作っているものの、怒りに満ちているように見えた。ついでに言うと目が全く笑っておらず、瞳孔は見開きっぱなし。

 ひろぽんは懐をゴソゴソと漁ると、いくつかの手紙を取り出し、錬太郎の前に見せた。

 

「これは娘からの手紙でね。前まではパーティメンバーのことが満遍なく書かれていて、里の外で友達に恵まれていたようで父としても嬉しく感じていたのだが…とある日を境に君に関する内容が8割を占めるようになってね…」

 

「お、お父さん!!〜〜〜ッッッッ」

 

 羞恥で顔を真っ赤に染めて、ゆんゆんはその場にうずくまる。ゆんゆんの様子を横目に、カズマ達はヒソヒソと話し始めた。

 

「あ、やっぱそうなんじゃないゆんゆん」

 

「好意は明らかでしたが、まさかここまでとは…」

 

「とある日とは一体いつ頃なのだろうか…」

 

「そりゃあダクネス、イグナイターの件だろ?」

 

 錬太郎は助けを求めるべくカズマ達に視線を移したが、会話中のようで頼みの綱にはなってくれそうもない。対するひろぽんの瞳は炎のように紅く滾り、錬太郎を獲物のように捕らえて離さなかった。

 

「いやぁ、妻は意外と乗り気ではいたが、私はどうも簡単には納得がいかなくてね……もしかして、娘性格を利用して依存させているのではと……」

 

「お、落ち着いてください!!ゆんゆんとは友達件仲間なのは本当なんです!!」

 

「レンタロウくん、覚悟は出来ているのだろう?」

 

 話が通じず事態が複雑化していく現状に、錬太郎は頭を抱える。どうすれば信じてくれるのか、このままでは族長と一対一の決闘となってしまう。そんな時だった。

 

「お父さん…」

 

 鶴の一声、否、それよりもドスの効いた低い声が、部屋一帯に静かに轟く。声を発したのはゆんゆん。普段の彼女からは到底想像も出来ない声色に、各々は戦慄し、怖気を抱いた。

 

「いい加減にして…」

 

「ヒェ…す、すまない…」

 

 実の娘に叱られ、ひろぽんは先程の威勢が嘘のように萎縮してしまう。ゆんゆんは怒らせてはいけない、カズマ達はそう心の奥底で思うのだった。

 

 

 

「失礼しました…」

 

 ガラガラと音を鳴らしながら、錬太郎はゆんゆんの家の戸を閉めて溜息を1つ挟む。あの後、ゆんゆんは恥ずかしい小説を書いたあるえに報復に、カズマ達4人はめぐみんの実家へと移動することとなり、残る錬太郎はひろぽんの誤解を解くべく1人残って話し合いをすることとなった。しかしいかんせん居心地の悪い空気の中で会話が弾むはずもなく、仕方なく家を後にして今に至るという訳だ。

 

「どうしようかなぁ…めぐみんの家は貧しいみたいだし今更来客が来たら迷惑だろうなぁ…めぐみんの性格からして両親も優しいだろうし、僕が断ってももてなしてくるだろうし…あ、ならあるえに久々に顔を見せに行くか…」

 

 思い立った錬太郎は、ゆんゆんのケミーライザーの反応を頼りに、紅魔の里の道を1人歩く。程なくして、ゆんゆんと、縦ロールの髪型の少女が揉めているのが見えた。

 

「お〜い、ゆんゆん。何してるの?」

 

「あ、錬太郎さん!!」

 

「久しぶりだというのに乱暴なんて酷いじゃないかゆんゆん…って、レンタロウ⁉︎どうしてここに…」

 

「やぁあるえ、1年ぶりかな?」

 

 

 

 

「成程。族長の手紙を受けてここに来たというわけか。合点がいったよ」

 

「まぁ、見た感じ案外大丈夫そうだけど…」

 

「そりゃあそうさ。なんせ紅魔族の魔王軍迎撃部隊が一方的に追い払っているんだから。それにしてもゆんゆんの手紙通りだったんだね。君がパーティになってくれたって」

 

「そうだけど、何で知っているの?」

 

「族長が里の皆に言いふらしていたからね。ゆんゆんに男が出来たぁ、大変だぁって。あの慌てぶりはちょっと面白かったなぁ」

 

「だからゆんゆんとはそんなんじゃないって。後、誤解を招くような小説は書かないようにね」

 

「ふふっ、善処するよ。あ〜あ、折角前に君が話したアルケミアの歴史の要素とかも織り交ぜた自信作だったのになぁ〜」

 

 残念そうに言いながらも、あるえは笑みを浮かべながら錬太郎と会話を楽しむ。これは反省していないなと呆れながらも、錬太郎も悪い気はしてないようで、あるえとの話に花を咲かせていた。

 

「……」

 

 その光景にゆんゆんは、今朝のアクアの件を聞いた時と同様、複雑そうな様子。まるで胸の内を焦がすような、言葉で言い表せない感情にゆんゆんの心には僅かに影が差していた。

 

「そうだレンタロウ、今日泊まる宛がないならうちにどうだい?」

 

「え⁉︎いやいや、年頃の女の子がそんなこと言うんじゃありません!!」

 

「大丈夫だよ、親には話しておくし。新しい冒険話も聞いて小説のネタにもしちゃいたいし。それに、レンタロウになら別にそういうこと…」

 

 本気なのか冗談なのか、本当に分からないギリギリを攻めながらあるえは瞳を潤ませ、上目遣いで錬太郎を見つめる。

 その時、ゆんゆんの中で一本の糸のようなものがプツンと途切れ、我慢出来なくなったのか、咄嗟に錬太郎の手を掴んだ。

 

「へ⁉︎ゆんゆん?」

 

「大丈夫だからあるえ!!錬太郎さんは私のパーティメンバーだから私の家に泊まるのが当然だから!!あるえの家より部屋だっていっぱいあるし、お父さんだって説得してみせるから!!」

 

 あるえに対抗する形で、ゆんゆんはとんでもないことを口走ってしまった。きょとんとしている錬太郎とあるえの様子に、漸く自分が言ったことを理解したゆんゆんは、みるみる顔を紅潮させると、一目散にその場を立ち去ってしまった。

 

「あ、待ってよゆんゆん!!」

 

 走り去るゆんゆんの後を追うべく錬太郎もいなくなり、その場に残されたのはあるえのみとなった。

 

「これは、面白いことになりそうだね…」

 

 左目の眼帯にそっと手を当てると、あるえはにやっとほくそ笑むのだった。




オークの台詞の一部は京水さんの語録を参照に致しました。



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