この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを! 作:山田プロキオン
今更なんですけど、ドラマCD版のカズマさんって、鬼滅の妓夫太郎の逢坂良太さんなんですね。
演技の振り幅凄いですね。
錬太郎達が案内されためぐみんとゆんゆんのかつての学舎、『レッドプリズン』。赤を基調とした寄棟屋根に、煉瓦で築かれた外壁、無数の窓が取り付けられた外見は、宛ら元いた世界の洋風建築を想起させ、カズマは心の中で感嘆した。同時に来訪者である一行を歓迎するかのように学園の鐘が揺れ、荘厳な音を響かせた。
「にしてもピンク系のシャツの上に赤のネクタイにローブって…魔法使いらしい服装だが赤系が多いんだな…」
「我々にとって赤は切っても切り離せない色なのですから至極当然ですよカズマ!!それに、この里の由緒正しい歴史のある学園を紹介するのです!!正装に着替えなければ無作法というもの!!」
ふふんと得意気に語り、胸を張るめぐみん。無い胸を張るなど少し虚しくも感じる光景ではあるが、深く考えてはいけない。深入りしたら最後、追及した者の身は、爆裂魔法という名の
「では、こちらを。この銅像はこの学園の守り神、炎の魔神を象っております。」
めぐみんが手を差し向ける場所には、メラメラと燃えたぎる炎の中に聳え立つ球体のようなものを象った銅像があった。
「かつてレベルアップための養殖授業を行っていた際に、出会した強力な悪魔!!生徒ばかりで周りに大人がいない中、突如一筋の炎が悪魔を貫いたのです!!里の者達は皆、炎の魔神の加護と崇めました!!」
「むぅ、水の女神の私を差し置いてこの里でちやほやされてるの、なんか複雑…」
アクアは銅像に近寄ると、不服を現すように顰め面をして、人差し指でつんつんと銅像をつつく。そんなアクアにカズマはやめろと言いながら、保護者のように宥めた。
「学校の守り神か…なんかファンタジーチックでいいな。きっと昔からこの里の子供達を見守ってきたのかもな…」
「いえ、この銅像が作られたのと悪魔の件は1年くらい前ですよ」
「へ?」
めぐみんから告げられる斜め上の事実に、カズマは素っ頓狂な声を出してしまった。
「ちなみに私とゆんゆんは当事者です」
「ちょっとでもうるっときた俺が馬鹿だったよ。さっきまでの観光名所と大して変わんねぇじゃねぇか」
「学校か…、懐かしいなぁ。昔は錬金アカデミーの制服も着てたっけ…」
『ウィ〜、あの頃はまだ錬太郎も初々しかったもんね〜』
『ホッパー♪』
レッドプリズン内を軽く歩き回りながら、錬太郎は在りし日の自分を思い出し、僅かに頬を綻ばせる。そんな錬太郎に、クロっちとホッパー1も微笑ましそうに目を細めた。
刹那、校舎の扉が勢いよく開き、3つの人影が現れる。都合よく差し掛かる逆光が3人の顔を隠しているが、めぐみんとゆんゆんは彼女らか、と心当たりがあるようだ。
「我が名はあるえ!!紅魔族随一の発育にして、やがて作家を目指す者!!」
「我が名はふにふら!!紅魔族随一の弟思いにして、ブラコンと呼ばれし者!!」
「我が名はどどんこ!!紅魔族随一の…随一の…えっと、何だっけ?」
現れた少女達は、それぞれ紅魔族特有の名乗りを上げる。それがまぁ我の強いこと。随一の発育に、随一のブラコン、そしてまだ随一が無いもの。
「これまた随分強烈な随一を持つ人ばかり…」
「てかブラコンて…」
「そ、それはまだかっこいい二つ名が見つかってないだけよ!!」
冷めた目を向けるアクアとカズマに、ふにふらは弁明する。そして3人のやり取りが終わると、錬太郎とめぐみんが口火を切った。
「久しいですね、ふにくらにどんどこ。魔法学院以来ですが元気にしてましたか?」
「こんにちはあるえ。昨日ぶりだね」
「ちょ⁉︎めぐみんアンタ、わざと間違えてるでしょ⁉︎」
「どどんこ!!私どどんこだから!!」
「やぁレンタロウ。落ち着きなって2人とも、どうどう」
めぐみんのあからさまに嫌味を込めた名前の間違いに、ふにふらとどどんこは声を荒げる。あるえはそんな2人を獰猛な野良犬を宥めるような調子で背中をポンポンと叩いた。
「全く、こういう旧友との再会の場でも落ちついて話せないのかお前は…」
「まぁ、昔はめぐみん喧嘩早かったですし…」
「あの3人はめぐみんとゆんゆんの同級生ってことね。どうもどうも、私はアクア。アクシズ教徒の御神体にして水を司る女神よ」
「あ、コイツの言ってることは真に受けなくていいんで」
「なぁんでよぉぉぉぉぉ!!!!」
紅魔の里でも相変わらずの調子であしらうカズマに、アクアは涙目になって喚き散らすのだった。
「というか、手紙のとおりゆんゆんにパーティメンバーいたのね」
「うんうん。イマジナリーフレンドを妄想してるのかと思ってた」
「ちょ⁉︎ふにふらさんとどどんこさん信じてなかったんですか?」
「「だって友達欲しさに悪魔を召喚しようとしたゆんゆんだし…」」
「…あぅ〜」
ふにふらとどどんこの言葉がジャブやボディーブローのようにゆんゆんに炸裂し、呻き声を上げながらゆんゆんはしおれてしまう。ふにふら達の話に、カズマ達は少し引いた様子で、めぐみんとあるえに真偽を尋ねた。
「マジなのか…」
「マジです。ゆんゆんは動物は愚か、植物にすら避けられてましたからもう悪魔でもいいやって…」
「あの時のゆんゆんは見てて痛々しかったよ」
「うわぁ…壮絶なぼっちエピソードねぇ」
4人は憐れみの視線をゆんゆんに向け、それによりゆんゆんはさらに陰気に沈む。そんな中、流石に可哀想だと感じた錬太郎はクロっちやホッパー1と共にゆんゆんを励ました。
「大丈夫だよゆんゆん」
『そうそう、それに今は僕達がいるでしょ?』
『ホッパー!』
「錬太郎さん、クロっちさん、ホッパーちゃん…ありがとうございます…」
錬太郎達からの慰めに、ゆんゆんは涙ながらに礼を言う。そして話はめぐみんとゆんゆんの話となり、あるえ達は興味津々とばかりに紅の瞳を輝かせた。
「成程。魔王軍幹部を3人も倒したんだ…一癖も二癖もあるパーティなのに良くまとめているね。リーダーシップがあると記されていたけど、凄いねカズマさん」
「いやぁ、俺を褒めたって何も出ねぇぞふにふら」
「この男、一丁前に鼻の下伸ばして!!何ですかあの胸ですか?ゆんゆんやアクアに負けず劣らず発達している胸ですかあぁん⁉︎」
「いや褒められたら嬉しいに決まってんだろ…」
いい気分になっていたカズマを害するように、めぐみんはじっとりとした瞳で睨みを効かせる。
「(めぐみん…)」
めぐみんのいつにも増して近い距離に、カズマは不思議に感じていたが、ゆんゆんはそれが嫉妬故に来る行動と勘づいていた。一方あるえとどどんこは、錬太郎と会話を弾ませていた。
「で、ゆんゆんはパーティとの連携とか上手くやってるの?」
「ええ、ゆんゆんの上級魔法に毎度助けられていますよ」
「上級魔法?ゆんゆんってモンスターからこめっこちゃんを守る為にスキルポイントを使って中級魔法を取得したんだから上級魔法はまだ使えなかったんじゃ無いの?」
「もう!どどんこさん!それは前の話ですから!!」
中級魔法の件に関してはあまり触れてほしくなかったのか、ゆんゆんはぷりぷりとしながらどどんこに苦言を呈した。そして次はあるえの番だ。
「じゃあ次は、レンタロウとゆんゆんの関係を窺うとするか…」
「??うん…」
錬太郎はあるえの意図を理解していないのか、首を傾げながら了承する。錬太郎の承諾を得られるや否や、にやりと口元を歪ませ、あるえの質問が始まった。
「では、2人はどこまで進展したのかな?馴れ初めは?運命の導きか、前世の因果か、どんなストーリーがあったのかな?」
「ちょ⁉︎あるえ!!」
「あのさぁ、昨日も言ったけどゆんゆんとはそんな関係じゃないよ。そんなんじゃなくて…」
「そんなんじゃなくて、何だい?そこからの続きは?因みに昨日の夜はゆんゆんの家で一夜を明かしたそうだけれど、年頃の男女が1つ屋根の下!!何も起こらない筈がないだろう!!」
鼻息を荒くしながら、作家魂に火がついたあるえは怒涛の質問攻めを繰り出す。しかし何処か錬太郎は違和感を覚えた。まるで昨日の1件を見透かされているような、とても奇妙な感覚だ。
「いやだから…ていうか、何でそこまで食いつくの?僕何度も違うって言ってるんだけど…」
「⁉︎そ、そりゃあ尋問みたいなものさ。根気強く続ければ話してくれるかもしれないじゃ無いか」
「…ふぅ〜ん」
あるえが一瞬動揺した。これは何かある、と確信した錬太郎は、こっそりと1体のケミーカードを腰に携えたケミーライザーに装填し、起動した。あるえが何を知っているのか、何を隠しているのか明らかにする為。
「実を言うと昨日ゆんゆんとレンタロウと話した後偶然ゆんゆんのお母さんと会ってね。2人のことについて案外盛り上がっちゃって、絶対2人は友達以上の仲なのにお互い無意識なんじゃないかって話になってさ。夜にはレンタロウがゆんゆんの家に泊まるってことを話すと、ゆんゆんのお母さん張り切っちゃって、本音を吐露する効用のあるポーションを、感情の矢印の向きが大きいゆんゆんの夕飯に仕込んでおこうみたいなこと言って、私もいいんじゃないかな…って待って⁉︎何でこのことベラベラ喋っちゃったんだ⁉︎」
「…あるえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
喋るつもりもなかったことをベラベラと話してしまったことに当惑するあるえ。そしてことの真実を知ったゆんゆんは、昨夜の一件が仕込まれていたことを知り、抑えていたものが火山の噴火の如く爆発し、あるえの肩を掴んでグワングワンと揺らした。
「何てことお母さんと話し合ってるのよ⁉︎小説の件といい今回の件といい!!」
「ゆ、ゆんゆん落ち着いて…め、目が回る…」
「落ち着ける訳ないでしょ!!それにお母さんもお母さんよ!!何でよりにもよってあるえと!!そのせいで!そのせいで私は…ァァァァァァァァ!!!!」
話している途中で昨夜の件を思い出し、ゆんゆんはあるえの肩から手を離し、その場に崩れ落ちると羞恥に悶え始めた。流石に小説の件は手紙を最後まで読んでおらず、早とちりしたゆんゆん側にも非があるが、今回は明らかにゆんゆんが被害者なので、誰もゆんゆんを止めることはしなかった。
同時にカズマとめぐみんを除く紅魔族組は、錬太郎とゆんゆんの間で何かあったのだろうと察し、それがどのようなことか気にはなりつつも、この場で探りを入れることは野暮であると判断し、踏み込む者はいなかった。
『それより錬太郎、あるえに何したの?』
「ダイオーニに頼んで神通力を発動してもらって無意識のうちに白状させたんだ。話しているうちに怪しいと感じてね」
『オニオーニ!!』
クロっちにカラクリを説明し、錬太郎は懐からダイオーニのカードを取り出す。一仕事やってやったぜと、ダイオーニはカードの中でえっへんと誇らしげに胸を張っていた。
その時だった。耳の鼓膜を強く揺らす轟音が鳴り響き、一同は音のした方向を一斉に振り向く。すぐさまカズマが千里眼のスキルを発動し、ダクネスや紅魔族達がゴブリンと戦っている様子を確認し、魔王軍が侵攻していると分かると、錬太郎達は現場へと急行した。
「さぁ来いゴブリン共!私は一歩として退かぬぅ!!」
いつものように頬を上気させ、荒い息遣いでゴブリン達の猛攻をその身に受けるダクネス。持ち前の耐久力に加え、レスラーGとゴリラセンセイの加護によって強化されたその強靭な肉体は正に難攻不落の動く要塞。下っ端のゴブリン達の攻撃など通る筈もなく、ダクネスにゴブリン達が気を取られている隙に紅魔族達の容赦ない魔法攻撃が発動した。
「気高い騎士殿が惹きつけている今のうちだ!行くぞ我が同胞達!!」
「夢を奪う悲しい魔王軍共よ、我らが魔法で永遠の眠りの旅を捧げよう!!」
「内なる魔神よ、我に魔法の力を!!」
「GO…TO…HELL…」
「『カースド・ライトニング』!!」
「『ライトニングストライク』!!」
「『ライト・オブ・セイバー』!!」
統率力など微塵も感じられないバラバラの魔法。しかし故に不規則かつほぼ不可避の上級魔法の嵐に、ゴブリン共はなす術もなく次々と撃破されていく。数を一気に減らされたゴブリン部隊は、隊の長とされる赤いドレスを身に纏った女性を庇うように前に出た。
「シルビア様、お下がりください」
「ここは撤退を視野に入れるのも宜しいかと」
「いいえ、もうすぐに援軍が到着するわ。それまで持ち堪えるのよ」
シルビアと呼ばれる赤いドレスの女性は、援軍が来るまで持ち堪える、数が増えればまだ勝機はあると一縷の希望に賭けていた。しかし、その希望は、全く想定もしていなかった人物にあえなく打ち砕かれることとなる。
「援軍?あぁもしかして西の方角からこっちに向かってたゴブリン共のことか…?そいつらなら…俺が全員倒して食っちまったぜ…?」
低く威圧感の孕んだ声に、魔王軍紅魔族両方の注目が集まる。両陣営の視線の先には、右手に骨つき肉を持ち、左手で瀕死のゴブリンの足を掴んで引きづり回しているアナザー錬太郎の姿があった。同時に錬太郎達も到着し、現場の混沌とした状況に困惑を隠せない様子だった。
「おぉ、オリジナルじゃないか。それにサトウカズマとその仲間達も…」
「何ですって⁉︎サトウカズマ⁉︎ベルディアを単独で撃破して、バニルやハンスまで倒してその上切断魔を手懐けているってあの⁉︎でも切断魔はあっちにいるし、ていうか切断魔2人いない⁉︎どういうこと?」
「お、おう…俺もついに魔王軍にまで知られるに至ったか…」
シルビアの話に、カズマは驚き半分、嬉しさ半分といった感じで腕を組んで首をコクコクと縦に振り、感慨深そうにしている。そして紅魔族達も、錬太郎とアナザー錬太郎を交互に見渡し、生き別れの兄弟か?邪悪なる科学者によって生み出された模造品か?と紅い瞳を煌めかせていた。
その一方でシルビアは、援軍もアナザー錬太郎に潰され、紅魔族に加えてカズマパーティまでいるとなると部が悪いと判断したのか、直様退却態勢に移った。
「流石にこれはまずいわね…総員、全面退避!!」
シルビアの合図と同時に、ゴブリン達は脇目も降らずに駆け出した。
「ケケケッ…魔王軍はいなくなっちまったなぁ…んじゃあ紅魔族とオリジナル達と遊ぼうかなぁどうしようか…」
「あ…ああ…待って、シルビア様…みんな…お、おれも連れてって…し、死にたくない…」
不敵に笑いながら、骨付き肉を頬ばるアナザー錬太郎。その場に残された瀕死のゴブリンは、去って行く同胞達に向かって届く筈もない手を伸ばして助けを乞うた。しかし足首をアナザー錬太郎に掴まれて尚且つ体力も限界を迎えており、逃げることなどできなかった。
「おいおい…誰が喋っていいと言った?今俺が話している途中なんだ…弱い奴がピーピーギャーギャーと、騒いでんじゃねぇよ…」
アナザー錬太郎はギロリと鋭い視線でゴブリンを睨みつけた。右手に残った骨を握りつぶして粉砕し、左足でゴブリンの背中を踏みつける。そして徐に出現させたミラージュガッチャリバーを右手で逆手持ちし、ゴブリン目掛けて勢い良く振りかぶった。
しかし、その一閃は鋼鉄をも超える耐久に弾き返された。すんでのところで持ち前の高ステータスを珍しく活かし、瞬く間に間合いへ入ったダクネスが自慢の耐久力でゴブリンを抱えて、斬撃から守ったのだ。
「おん?どういう風の吹き回しだ?ソイツは魔王軍、助けるなど道理ではないだろ?」
「確かにそうかもしれない。だが、例え敵であっても戦意を喪失している者を前にして非道な振る舞いは騎士として、いや人として見過ごすことは出来ない!!」
いつもの性癖を優先するへっぽこ
「クハハッ、かっこいいねぇ!!でもぉ、ソイツを助けれたと思ってんなら、甘いよ?」
アナザー錬太郎の言葉に、ダクネスは勿論その場にいた紅魔族達やカズマ一行も懐疑の表情を浮かべる。含みのあるその言葉の答えは、すぐにわかった。
「なっ⁉︎」
次の瞬間、ダクネスの顔に血飛沫が舞った。それはダクネスが咄嗟に庇ったゴブリンのもの。ゴブリンの胸部には、抉られたような一本の斬創が刻まれ、さらに両手首も切り落とされており、ぱっくりと割れた3つの断面からは血が無尽蔵に溢れていた。
「何で?ダクネスの身体に偽者錬太郎の剣は弾かれたでしょ⁉︎」
「いや、違うよアクア…多分アイツは、瞬きする間に4回腕を振っていたんだ…ダクネスが防いだのは最後の4回目。つまり残り3回は…」
錬太郎の言いたいことを察した一同の間に戦慄と悪寒が走る。紅魔族達でさえも、目の前の人の
アナザー錬太郎は、そんな恐怖の感情をたんまりとご馳走したとばかりにニチャリと口角を上げ、右手にこびりついたモンスター達の血を舐めとった。
「カッカッカッ…これからもっと遊びたいところだが…生憎もう満腹だし、感情エネルギーも手に入ったし一先ずお跡させてもらうよ。また今度戦おうね、オリジナル…」
最後にそう言い残し、アナザー錬太郎は風を切る音と共に姿を消してしまった。残された者達の間には、閑散とした妙に居心地の悪い空気だけが残されるのだった。
その後、一同はその場で解散し、ゆんゆんは実家に、カズマ達4人はめぐみんの家へと戻った。ただ1人、錬太郎は「ちょっと体動かしてくる」とだけ言い残し、どこかへと行ってしまった。
そして時刻は夜。日が沈み月が顔を出し、ゆんちゃむとゆんゆんが夕飯の準備をしている間も錬太郎は一向に帰ってくる様子はなかった。
「錬太郎さん…」
錬太郎の身を案じ、憂いの滲んだ顔で自分の胸に手を当てるゆんゆん。そんな娘の感情の機微に母はいち早く気づいたのか、料理をする手を止めてゆんゆんに歩み寄った。
「ゆんゆん、晩ご飯の支度は私がしておくから、レンタロウさんを連れて来てくれない?」
「へ⁉︎え、ええっとでも…」
ゆんゆんはテーブルを台拭きで拭いているひろぽんへ視線を向けた。
「私も構わんぞ。ゆんゆん、行ってきなさい」
「お父さんも⁉︎あれだけ反対してそうだったのに…」
「いやぁ、あれは娘が連れてきた男に対して、父親としては一度はやりたくなる典型的な頑固親父の演技さ。しかしあの時はゆんゆんも本気になってしまって背筋が冷えたぞ…まるで母さんのようで…」
「あなた?」
「こひゅ⁉︎…ナ、ナンデモアリマセン…」
ハッハッハッと大らかに笑い、冗談を交えて話すひろぽん。しかし余計な一言のせいで、静かに怒るゆんちゃむは、笑っていない瞳でひろぽんを捕らえて圧をかけた。
「まぁ、こんな感じでお父さんも気にしてないから大丈夫よ。あ、もし遅くなるなら2人でねりまきちゃんの居酒屋で食べてきてもいいわよ?ここで仕掛けないと一気にチャンスを失うって紅魔族の運命の勘も言ってるからね」
「ま、またそんなこと言って…ていうか、あるえから聞いたけどお母さん昨日私の夜ご飯にポーション混ぜたって本当⁉︎」
ゆんゆんの質問に、ゆんちゃむはそっぽを向いて知らんぷりをする。母を信じたいが故に嘘であって欲しいとは思っていたが、この反応から見るに、あるえの話は真実味を帯びてきた。
「ねぇ⁉︎本当なの⁉︎だったら何してるの⁉︎私すっごく恥ずかしかったんだからね!!そのせいで朝も錬太郎さんとまともに会話できなかったんだから!!」
「ま、まぁまぁそれは置いといて、早くしないと真っ暗になっちゃうわよ!」
「ちょ⁉︎絶対誤魔化そうとしてる!!」
「ほらほら、時は金なりよ。レッツゴー!!」
勢いに身を任せ、ゆんちゃむはゆんゆんの背中を押して外へ追い出す。1人取り残された暗がりの中、ゆんゆんは色々な感情の籠った深い溜息を溢した。
「もう…お母さんったら…」
色々言いたい気持ちはあるものの、今はその気持ちを押し殺し、ゆんゆんは錬太郎を探すべく里の中を駆け回った。しかしいくら探し回っても錬太郎は見つからず。ケミーライザーで連絡を取ろうとしても繋がることはなく、探索は困難を極めた。
「いない…心当たりある場所は全部探したのに…残る場所は…」
ゆんゆんは荒い呼吸をなんとか整えると、その場所へ向かって月明かりと街灯を頼りに駆け出した。
ゆんゆんの心当たりのある場所である『魔神の丘』。この丘の上で告白したカップルは、丘に宿る魔神の強力な呪いで生涯結ばれるという、ロマンチックなのかホラーなのかよくわからないパワースポットだ。そこで錬太郎は1人、体術と剣術の鍛錬に励んでいた。昼に開始してからもうとっくに4時間は過ぎていた。額を流れる汗を拭い、まだまだやれる筈だと、錬太郎は腕を、脚を動かし続ける。
何かに取り憑かれたように自分を追い込む錬太郎。その様子を感心と呆れ混じりに木陰から眺めていた者が1人。彼は機を伺って木陰から身を乗り出すと、錬太郎を前にして口を開いた。
『錬太郎、もう休んだらどうだい?』
「ズキュンパイア…いや、まだ大丈夫」
『暗示をかけて特訓することは向上心を維持するのに最適だけど、かえって毒になりかねないよ?』
ズキュンパイアの忠告に、錬太郎は鍛錬を一時中断してズキュンパイアの方へと向き直った。
『焦ってるんでしょ?アナザー錬太郎の成長速度に』
「…うん、正直驚いてる。アイツの素早い斬撃に、鳥肌が立った。それに、背後から音もなく忍び寄る蔦に絡まれるような、とぐろを巻いていた蛇に急に近づかれて雁字搦めにされるような感じもあった。多分だけど、僕はアイツに恐怖を感じてる…」
『錬太郎は頑張ってる。でも時にはリラックスも必要だ。もう日も沈んでるし、ゆんゆんの家に戻ろうよ』
「一生懸命だけじゃ意味ないよ。守れるだけの実力がなきゃ、それで終わりだ」
『でも熱くなりすぎて、大切なことを見落とすのはもっと良くないんじゃないかい?』
ズキュンパイアの指摘に、錬太郎は心の臓を貫かれたかのように分かりやすく動揺する。図星かな、とズキュンパイアはクスリと笑い、話を続けた。
『君の悪い癖だ。ウィザードマルガムの件でハガネの前であんなに威勢よく啖呵を切ったのに、ちょっと肩に力が入るとまた1人で抱え込もうとする。
まぁ、錬金事変からの2年間の苦しみを完全に乗り越えるなんて難しいのは重々承知だ。でも、自分のありのままを曝け出して、苦しみを分かち合える人が身近にいるだろう?』
「ゆんゆん…」
『そう。カズマくん達に全部は難しくても、君の苦しみを共に背負うと言ってくれたゆんゆんちゃんなら…辛い時くらい、彼女に相談しても良いんじゃないかい?』
『マルス!!』
突如としてズキュンパイアの背後から炎の球体のようなものが飛び出す。唐突に現れたその存在に、錬太郎は驚きの声を漏らした。
「うわぉ⁉︎ズキュンパイア、その子は…⁉︎」
『ああ、レッドプリズンの守り神として祀られていた炎の魔神っていただろう?それがこの子猫ちゃんさ。彼も君達のことを見ていたらしくてね。こう言ってるよ。
《辛い時に辛いと言えないと、誰かの痛みや苦しみに鈍感な人間になっちゃうぞ!!だから、遠慮せず
「……うん、ありがとう。ごめんね、ズキュンパイア」
深々と頭を下げて錬太郎は礼を告げる。ズキュンパイアは漸く錬太郎が落ち着きを取り戻した様子に、にこりと微笑んだ。
『おや、お客さんのようだね…』
ズキュンパイアが錬太郎の後ろを見ながら告げる。錬太郎が振り向いた先には、両膝に手を置いて肩で息をするゆんゆんがいるのが見えた。
アナザー錬太郎がゴブリンを刻むシーンは、鬼滅の童磨がしのぶに邂逅した際に信者の女性を切り裂いたシーンをイメージしております。
レッドプリズンの外見をあまり把握できなかったので、見えた感じに文章にしてみましたが、詳しい方はご指摘ください。
魔王軍がカズマの名前を把握しているのは、ドレッドに変身してベルディアを単独撃破したことと、誤解とはいえ切断魔として恐れられるアナザー錬太郎を手懐けていると広まっていることが遠因です。
前にアンケートをしました、錬太郎がキュウビマルガムに飛ばされた世界に関する話はネームを進めております。もうしばらくお待ちください。