この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを! 作:山田プロキオン
時の流れは速いですね
「はいこれ、喉渇いたでしょ?」
息を絶え絶えにした様子で魔神の丘へとやって来たゆんゆんに、錬太郎は自身の水筒の中の水を錬成したコップに注いで手渡す。ゆんゆんは芝生に腰掛けて、錬太郎から貰った水を噛み締めるようにごくごくと飲み干し、ほぅと一息吐いた。
「あ…ありがとうございます、錬太郎さん…」
「それにしてもよくここがわかったね。集中するためにケミーライザーの通信切ってたんだけど…」
「あ!そうですよ、通信切っておくなんてひどいじゃないですか!!そのせいで私里中を走り回ったんですからね!!」
「…申し訳ないです」
頬を膨らませ、明らかにご機嫌斜めという様子でぷりぷりとするゆんゆんに、錬太郎は萎縮してしまう。
「その…身体を動かせば頭が整理できるかもと思いまして…いや、こんな言い訳するんじゃない」
ズキュンパイアとファイアマルスに言われたことを思い出し、逃げては駄目だと心に強く言い聞かせると、錬太郎は自分の本心をゆんゆんに話した。
「昼間の、僕の偽者との件でさ…予想以上に強くなっているアイツに、少し怖くなっちゃって…かっこ悪いよね…」
「錬太郎さんもそんなふうに思うことがあるんですね…」
錬太郎の吐露に、ゆんゆんは意外そうに目を丸くする。そんなゆんゆんの様子を前に、錬太郎は自嘲気味に笑った。
「そりゃ僕だって人間だもの。人並みに恐怖や緊張を感じるよ。でも…どうしてもその心の弱さを曝け出すのは、まだ怖い。カズマ達も気にしないって言ってくれたけど、それでも僕の件で過度な心労になってしまうと思うと…心苦しい」
鈍色が差す瞳を揺らしながら声を震わせる錬太郎に、ゆんゆんは胸が締め付けられるような苦しさを覚えた。周りに馴染めず、1人で思い悩むことの多かった彼女だからこそ錬太郎の考えが理解出来た。ゆんゆんは芝生から立ち上がり、錬太郎の両手を優しく包んだ。
「錬太郎さん、前にも言いましたけど1人で抱え込まないでください!私は相棒として一緒に背負うって決めたんです!きっとカズマさんやめぐみんだって気にしませんよ!!それに錬太郎さんも言ってくれたじゃないですか、
『欠けた部分を埋め合いながら進んでいく、それがパーティだ』
って!!」
ゆんゆんの言葉に、錬太郎は目を見開く。ゆんゆんの真っ直ぐな紅い瞳はひどく煌めいていて、月下に燃え盛る炎のようだった。同時にズキュンパイアとレッドプリズンの守護神との会話が脳内に過ぎる。仲間の支え、それを再認した錬太郎の心の影は完全に払拭され、青天の如く晴れ渡っていた。
「…な〜んだ。自分で答えをもう言っちゃってたのか…。でも、ゆんゆんのお陰で思い出せたよ。ありがとう」
「いえいえ。あ、それと錬太郎さん…」
「ん?」
「あの、昨日はごめんなさい…」
「全然大丈夫、気にしてないよ。ふふっ、ていうかまだ気にしてたの?」
「なっ⁉︎笑うことないじゃないですか⁉︎」
笑う錬太郎に釣られて、表向きは怒りながらも、ゆんゆんの口角も自然と上がる。悩みが解消されたことを祝福するかのように、丘の上にそよ風が流れ、2人の髪を優しく薙いだ。
「はっ…⁉︎そういえばここって魔神の丘よね…?い、一緒に背負うって言い方、丘の魔神に告白って受け取られたりしないわよね…、て、ていうか私錬太郎さんと付き合ってるわけじゃないし⁉︎で、でも万が一そういう風にみなされたら…」
どういうことか、錬太郎の問題が解決したと思った途端、ゆんゆんが百面相をし出した。困惑や動転の入り混じったような、顔を赤くしたり青ざめさせたりして忙しなく表情が変化する様に、錬太郎も驚いた様子。
「ど、どうしたのゆんゆん?」
「⁉︎あ、にゃんでもにゃいです⁉︎ちょ、ちょっと熱っぽいというか…」
「それは良くないよ。まだ走った時の疲れが溜まってるんだ、水筒の水飲む?」
ゆんゆんの身を気遣い、錬太郎はコップに再び水を注いでゆんゆんは手渡す。察しの悪い錬太郎に、ゆんゆんは安堵しながらコップを受け取り、しかしどこか歯痒さを感じながら喉を潤すのだった。
「おお、これは…やはりあの2人の関係は目を見張るものがあるね…」
魔神の丘の岩の裏に隠れる3つの影。そのうちの1つの主であるあるえは、左手の眼帯に手を当てながら興奮を抑えきれない様子で手元の用紙にメモを記していた。
「相変わらずね、あるえ」
「こんな時にも小説のことなのね…」
残る2つの影の主達は、あるえの一心不乱っぷりに呆れたような視線を送っている。そんな2人に対して、あるえはニマニマとしながら自論を語り始めた。
「いいだろう別に。些細なところにアイデアは転がっている。それをメモしておくことで思わぬひらめきに繋がることだってある。小説のネタとはそんなものだよ。それに私は2人の関係は特に気になっているんだ。ゆんゆんは手紙でレンタロウのことについてよく触れていたし、ふにふらとどどんこもそうだろう?」
「それは、まぁ…否定はしないけど…」
「だってあのゆんゆんに男友達よ⁉︎里で万年ぼっちだったゆんゆんに、よ?」
「だからこそ気になるのさ。何がきっかけでゆんゆんはレンタロウに夢中になったのか…」
話を終えると、あるえ達は息を殺してゆんゆん達の様子を見守った。どうやら今は、ゆんゆんが思い出話をしているようだ。
「実はこの丘、パワースポットなんですけど、私の思い出の場所でもあるんです」
「そうなの?」
「はい。私、小さい頃から友達いなかったので…友達が欲しくてこの丘で泣いていたらある日、同い年くらいの男の子が現れて一緒に遊んでくれたんです。その子は別れ際にお札の様なものを5枚友達の証にくれて、また遊ぼうって約束したんですけど、結局その日以来会うことはなくて。お父さん達は丘の神様が憐れんで来てくれたんじゃないかって…錬太郎さん?」
「…うん、不思議なこともあるんだね…」
錬太郎が話に相槌を全く挟まず、静かな様子にゆんゆんは錬太郎の方を振り向く。錬太郎は黙ったまま、しかし何処か驚いた様な表情をして固まっていた。数秒程して、漸くゆんゆんに声をかけられたことを理解した錬太郎は、明らかに取り繕った様子で話を再開したのだった。
「……」
魔神の丘での錬太郎とゆんゆんのやり取りの一方、カズマはまたしても昨日と同じ状況に陥っていた。めぐみんの部屋にて布団に寝ているめぐみんと2人きり。扉はめぐみんの母ゆいゆいによって魔法で塞がれており、一緒に居候させてもらっているダクネス、アクアは同じくゆいゆいの策略によって眠らされた。
アクセルの街といい、アルカンレティアといい、自分に安息の地はないのか(原作でもweb版でもアニメでもそうそうない)と1人悲観し、もうどうなってもいいんじゃないかと悪い方向に思考が傾き始めていた。カスマ、ゲスマ、クズマなどと蔑称をつけられるも、元々己は流されやすく、ヘタレな性格だということは自認している。現に先程も魔王軍に名前が知られていることに内心恐怖し、安全策のためにアクセルへ戻ろうと提案したばかり。めぐみん達からは最低だの、誇りがないだの散々な言われようではあったが。
さて、話を戻して。獣状態に振り切れてしまっているカズマでも、流石に勢いのまま飛びかかるのはナンセンスだとわかりきっている。そして窓に目をやると、そこはゆいゆいの管轄外。また昨日の様に逃げられる可能性も十二分にある。
理性と本能の狭間で思考を巡らせるカズマ。そんな彼の企みは思わぬタイミングで阻害されることとなる。
「いつまでそんなところでうだうだしているのですか。今日もまだ寒いのですから布団に入ったらどうですか?」
「は…?」
声をかけたのはめぐみんだった。眠っていたのではないのか、と素の声で驚くカズマだったが、寝たふりかと頭を抱えた。どうしてその可能性を視野に入れなかったのだろうか、このままではめぐみんに言われるがまま布団の中で一夜を共にして…待てよ、とそこでカズマは一度冷静になって尋ねた。
「お前、俺に布団に入っていいって言った?」
「そうですよ、それにまだこの時期は寒いですから」
「マジで言ってんの?また今日みたいに悪評を振り撒くんじゃねぇのか?」
腕組みしながら、疑り深くカズマは探りを入れる。こういう上手い感じに話が進む時こそ裏があるのだと。カズマの睨みにめぐみんは申し訳なさそうにしながら今朝のことを弁明した。
「それは…申し訳ないと思っています。その、私の沽券が脅かされたと突発的に感じたが故の過ちでして…。本当はヘタレのカズマのことです。そんなこと易々としないことはわかってました。獣ならアクセルの屋敷でダクネスを襲うことくらい容易いですもんね」
「貶してんの褒めてんの?」
「それは自分で考えてくださいよ。布団、入るんですか?」
「…お邪魔させてもらいます」
めぐみんにうまいこと言いくるめられたカズマは渋々とした様子で、しかし内面ではひゃほうと歓声を上げる勢いで喜びながらめぐみんの隣にお邪魔した。
「おいめぐみん、ちょっと近い気が…」
「先程も言いましたがカズマはヘタレですし、何もしないのでしょう?ならば別にいいじゃないですか」
めぐみんの言葉にカズマは複雑そうに額に青筋を浮かびかける。信頼されているのか、煽られているのか、本当にわかりにくいギリギリを突いてくるのが本当にややこしい。まぁ、いいんだけどね?と自分に言い聞かせ、なんとかカズマは平常を保った。
「それと…」
カズマの右手に何かが触れる。包み込まれるような感触に、めぐみんが小さな両手で握っていることがわかった。突然のことに動揺し、カズマがめぐみんの方を振り向くと、めぐみんは何処か緊張したような顔で瞳を潤ませ、白い頬を紅く染めた様子で話し始めた。
「今更になりますが、アクセルの街で路頭に迷っていた私を…爆裂魔法しか使えない私を見捨てないでくれて…ありがとうございます。本当にありがとう…」
いつになく素直に御礼を申し上げるめぐみんに、カズマは喜び半分、困惑半分といった様子でお、おうと返した。
「あの〜、めぐみんさん?その、御礼を言ってくれるのは嬉しいんだが、その…手を握りながらというのはなんというのかなぁ〜?急にされるとドキドキするというか…年頃の若い娘さんがそう積極的になるのは流石のカズマさんもどうかな〜って…一応言っておくけどお前の部屋に俺と2人監禁されてる様なもんだよ?1週間絶食させた野獣の檻に美味そうな仔羊を投げ込んだ様な状況に等しいんだぞ⁉︎」
「カズマのことだから何もしないって信じてますから。大丈夫です。それよりもうそろそろ寝ませんか?明日には帰るのですからゆっくり休みましょう」
またも誤魔化されたことになんとももどかしい感じが胸の中を擽る。これ以上追及しようとものらりくらりと躱されることなんて目に見えているので、カズマは諦めて就寝することにした。
「って待てい!何でひっついてくるんだよ⁉︎」
「布団が狭いですから。それに、少し寒いです」
色っぽい声で身を寄せるめぐみんに、カズマの理性もゴリゴリと削られていく。どういうことなのだ。ヘタレを理由におちょくっているのか。はたまためぐみんも自分と一緒で満更ではないのか。
カズマが自分1人では答えの出ない問いに悶々と悩む中、突如として耳をつんざく様な轟音のサイレンが里中に響き渡った。
『魔王軍襲来!魔王軍襲来!既に一部が里内部に侵入した模様!!』
サイレンの知らせは、魔神の丘にいた錬太郎達の耳にも入った。魔王軍を撃退すべく、錬太郎とゆんゆんも急いで丘を後にする準備に移る。
「行こう、ゆんゆん!!」
「はい!!」
支度を終えた2人は、魔王軍の元へと直行しようと駆け出す。しかし事は中々上手くはいかないようで、曇天の夜空を裂いて地面に着地し、黒い戦士が2人の前に立ち塞がる。
「魔王軍が来ているらしいなぁ。氷の魔女より歯応えがなくてウズウズしてんだ…付き合ってくれよ、オリジナル…」
「こんな時に…」
錬太郎は歯軋りをしながら、乱入してきたアナザー錬太郎もといノワールガッチャードを睨む。相対するノワールガッチャードは仮面の下で不気味に笑うと、装甲により研ぎ澄まされた触覚で何かを察知した様で、後ろを振り返った。
「まぁ、いらぬ気散らしがあるのは俺も望んじゃいねぇから退いてもらうとするか…」
ノワールガッチャードは、右手にミラージュガッチャリバーを携えると、昼間に見せた時よりも素速い斬撃を背後に飛ばす。錬太郎はそこで漸くあるえ達がいることに気がついた。
「⁉︎不味い、間に合え…」
『サボニードル!』『ホークスター!』
『ガッチャーーンコ!ニードルホーク!』
咄嗟に懐から取り出したガッチャードライバーを腰に装着し、左右のスロットへ2枚のケミーカードを瞬時のうちに装填すると、全身を覇王樹の装甲が包む仮面ライダーガッチャード ニードルホークへ変身する。自慢の機動力を駆使してあるえ達の前に回り込むと、右手にエクスガッチャリバー、左手にガッチャートルネードを持って光刃を飛ばし、何とか相殺することに成功した。
「大丈夫あるえ?ふにふらさんにどどんこさん?」
「ああ、大丈夫だとも…レンタロウ前!!」
ガッチャードがあるえの叫びに前方を向くと、ノワールガッチャードは既に懐付近にまで肉薄していた。何という速さ、この間合いに入られては、ほぼ不可避。せめてあるえ達に攻撃が当たらない様、ガッチャードは防御姿勢に移った。しかし攻撃はすんでのところで撃ち止められた。
「『ブレード・オブ・ウインド』!!」
ノワールガッチャードの後ろにいたゆんゆんが、中級魔法による風の刃を見事に命中させた。
「ナイスだゆんゆん!!」
ガッチャードは怯んだノワールガッチャードに、遠心力を利用した右足の回し蹴りを炸裂させ、左方向へと飛ばす。続け様に、左腕のガッチャードローホルダーから飛び出してきたプラントケミーのヴェノムダケとバグレシアの進言を瞬時に把握して、攻勢へ移った。
『ヴェノム〜』
『バグレシ〜』
「…わかった!!一緒に行こう!!」
ガッチャードはエクスガッチャリバーにヴェノムダケ、ガッチャートルネードにバグレシアのカードをそれぞれ装填すると、大地を蹴り、左右の羽を羽ばたかせて瞬く間にノワールガッチャードへと接近する。
『ケミースラッシュ!!』
『ヴェノムダケ!!ストラッシュ!!』
間合いに入ったと同時に、鋭い刺突攻撃を両手の武器から繰り出し、ノワールガッチャードを再び後退させた。
「突き技か…二刀流で来るのだからどんな技かと思ったが拍子抜け…」
余裕綽々とした様子が一変。ノワールガッチャードは口元を抑えると、地面に膝を突いて咽せてしまう。口から吐き出された血は、緑色に紫色が混じっていた。
「ゴバァ…ア…アア…こ、これは…毒?しかも…かなり強力な…人間が喰らえば、たとえ耐性のあるララティーナでも即死ものだなぁ…」
分析を混ぜつつ、肩で息をするノワールガッチャード。しかし暫くしてフラフラとした足取りではあるが、なんと立ち上がった。
「あっれぇ…?毒、分解しちゃったみたいだぁ…ごめんねぇオリジナル…」
「まぁ、そうなるか…搦め手じゃ無理ってことか…想定内だよ」
毒の分解の異常な速さに、内心少しは驚くも、ガッチャードは両手の武器を構え、再度迎撃態勢を取る。そんなガッチャードにノワールガッチャードは嬉々としながら、ミラージュガッチャリバーをユニット状に変形させると、漆黒のベルトへと装填した。
「俺も少しだけ、本気を出すとするか…」
『ミラージュオン…』
『インセクトキング・フェイク』
取り出したレプリビートルクスのケミーカードをミラージュガッチャリバーのスロットに読み込むと、純白の外骨格のような装甲がノワールガッチャードに覆い被さるように武装される。
『ビートルクス…ミラージュ…』
偽りのレベルナンバー10の力を上乗せしたミラージュガッチャードは、空手の正拳突きのような構えを取り、ガッチャードと同じく攻撃態勢に移った。
「さぁ、始めようか…楽しい楽しいショーの幕開けだ…」