この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを!   作:山田プロキオン

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70話…それにもう少しで投稿開始から一年…早いもんですね




迫り来る脅威に迎撃を!

「やるしかない…」

 

 紅魔族の少女達を庇うようにミラージュガッチャードと対峙するガッチャードは、徐にガッチャーイグナイターを携え、正面の『イグナイトチャッカー』を操作して起動する。

 

『ガッチャーイグナイター!!ダーボオン!!』

 

 ガッチャードライバーに装着が完了すると、今度は左腕のガッチャードローホルダーより2枚のケミーカードを取り出し、ベルトの左右のスロットへと装填した。

 

『レスラーG!イグナイト!』

 

『アントルーパー!イグナイト!』

 

 ベルトを通じてカードが認識され、ガッチャードの全身にケミーの力が漲っていく。ガッチャードがベルトのレバーを操作し、その秘めた力が装甲となって全身に装着された。

 

『ガッチャーーンコ!!ファイヤー!!』

 

『アントレスラー!!アチー!!』

 

 蒼炎を宿した紺碧の戦士、ファイヤーガッチャード アントレスラーは、腰を下ろしたどっしりとした構えを取り、ミラージュガッチャードを見据える。

 互いに互いを睨み合い、火花を散らす両者。そして魔神の丘の雑草達を木枯らしが優しく薙いだと同時、2人の戦士は地面を蹴って瞬時に肉薄した。電光石火の速さで拳と拳、脚と脚が幾度と無く交じり合い、その度に魔神の丘に衝撃波が木霊する。

 紅魔族と魔王軍との戦いとはまるで別次元の戦いを前に、ゆんゆんを除くあるえ達はあんぐり口を開けて呆然としていた。

 

「す…すごい。こんな速さで戦うなんて…」

 

「全然目で追えないわ…」

 

「もしかしてこのレベルの戦いにゆんゆん達付き合ってるの?」

 

「そうだよどとんこさん。それより、私も錬太郎さんに加勢しないと」

 

『ケミーライズ!ナンバー10、クロスウィザード!』

 

 思い立ったゆんゆんは、右腰に携えたケミーライザーに1枚のカードを装填して起動すると、戦火の中へ飛び込んで行った。

 

「ゆんゆん、変わったね…」

 

「里にいた頃は結構遠慮しがちだったのに…」

 

 ゆんゆんの背中を見送ったふにふらとどどんこは、魔法学園に在学中の引っ込み思案でどこか頼りない様子だったゆんゆんが成長した様子に、驚きと感嘆を隠さずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

「いい動きだ…なるべく消耗を抑えようと小回りを利かせながら立ち回る…やはり人間の戦い方は面白い…」

 

 軽口か称賛か、あるいはその両方か。高速の戦闘の中で、ミラージュガッチャードはファイヤーガッチャードの戦術について分析する。ミラージュの指摘の通り、ファイヤーガッチャードは背部の推進器『ファイヤードッカーン』の出力を低めにしつつも加速を繰り出し、攻撃に集中している。

 

「(イグナイターは元来必殺用の強化武装。今までは速攻で決めるから気にせずに最初から全力でいけたけど…。相手はスーパーの出力でも敵わない、ファイヤーでやっと喰らい付ける強さ…

だから、必殺技を放つまでになるべく無駄な動きは避けなきゃ…。必殺も一発放ったらイグナイターはオーバーヒートするからその後はファイヤーでの戦闘続行は不可能に近い、確実に当てる!!)」

 

 ミラージュガッチャードの攻撃を捌きながら、ファイヤーガッチャードは必殺の一撃の機会を虎視眈々と狙う。とはいえ、その好機を見出すことはそう容易ではない。

 

「どうした?攻勢だったのは最初だけか?守りの動きになっているぞ、オリジナル!!」

 

 やはり侮ることの出来ない順応速度。毒の時といい、すぐにミラージュはファイヤーガッチャードの動きに対応し、さらには攻撃速度を上げてきた。加えてミラージュから繰り出される猛攻は驚く程に正確無比。ガッチャードが攻撃を捌くたびに否応にも生んでしまう僅かな隙に、磁石のように吸い付き、拳や脚技が飛んでくる。なんとか防御出来ているガッチャードではあるが、これも錬金事変以来の2年に及ぶ戦闘経験で培った触覚が無ければ厳しかっただろう。

 驚異の速さと的確さ。それはガッチャードに瞬きを挟む間すら許さない。ほんの一瞬、体勢を立て直そうとする僅かな休息を入れるだけでも攻撃に吹き飛ばされてしまう。

 長く続いた攻防戦。停滞していた状況を破ったのはミラージュだった。

 

「そこだッ!!」

 

 ファイヤーガッチャードの目を(はかば)り、拳技に見せかけて懐に潜り込み、右脚で顎を蹴り上げた。

 

「ぐっ⁉︎」

 

 予想外の攻撃にファイヤーガッチャードは受け身を取れる訳もなく、空中に身を投げ出してしまう。防御姿勢もない相手など、丸裸の赤子同然。

 

「ぶっ飛べ!!」

 

 ファイヤーガッチャード目掛け、ミラージュは虚空に無数の拳による乱撃を打ち込み、拳圧を飛ばす。その数およそ10。ニードルホーク等の形態ではないと勝手の効かない空中において、この数の攻撃を避ける、もしくは相殺することは至難の業。

 それでも、可能な限りダメージを抑えなくては、と空気抵抗の中で必死に迎撃に移ろうとするガッチャード。拳圧は既に目と鼻の先にまで迫っている。ガッチャードの仮面の下で冷や汗が額から頬を伝う。

 しかし拳圧による乱打は、思わぬ介入によりガッチャードに命中する前に撃ち落とされることとなる。

 

「『ウインド』!!」

 

 魔法発動の呪文を詠唱すると同時に、ゆんゆんがガッチャードとミラージュの戦いの間に割って入る。その姿は、キールダンジョンでの共闘時と同じくクロスウィザードの青い魔法装束を身に纏っており、めぐみんのものよりも上質なマナタイトを備えた杖も右手に収まっている。

 ゆんゆんが発生させた魔法による突風が彼女を中心に渦を作り、その風圧によってミラージュの拳圧は全弾打ち消された。

 

「ゆんゆん、それにクロっちも…ありがとう!!」

 

「いえ、それにまだ…」

 

 ガッチャードの御礼を受けたゆんゆんは後ろを振り向き、未だ攻撃に移ろうとしているミラージュの方を見つめる。今度のミラージュの技は確実に己も対象としてくるであろう。

 

「動きを封じます。『ボトムレス・スワンプ』!!」

 

 ゆんゆんが更なる魔法を発動し、ミラージュの足下が沼状に変化し、両脚を引き摺り込む。攻撃に夢中になっていたミラージュは、完全に足下を疎かにしており、対応が出遅れた。

 さらに…

 

『ケミーライズ!ナンバー10、ゼグドラシル!』

 

 追撃の手を緩めず、ゆんゆんはゼグドラシルのケミーカードをケミーライザーに読み込ませ、ケミーの力を解放すると同時にミラージュの身体に普段の何倍もの重力が降り掛かる。経験したことのない押しつぶされるような感覚に、ミラージュは両腕を地面に突いてしまった。

 

「ぐ…ぎぎぎ…動…けない…」

 

 動くことは愚か、立つこともままならない状況にミラージュは仮面の下で顔を顰める。形成逆転した今こそ、ガッチャードにとって絶好の好機だった。

 

「今です!錬太郎さん!」

 

「ああ!!」

 

 ガッチャードはベルトのレバーを操作し、ファイヤードッカーンの出力を急激に上昇させる。同時にファイヤードッカーンからは無数の鎖の『ガッチャーアンカー』が射出され、必殺態勢が整うまでの間のガッチャードの体を支えた。

 ファイヤードッカーンから噴き出す炎の色が青白くなった瞬間、ガッチャーアンカーは弾け飛び、同時に先程の戦闘時と比ではない疾風迅雷の速さで、ガッチャードはミラージュに迫る。懐に潜り込んだガッチャードは、今までのお返しとでも言うように乱舞の如く連続して打撃や蹴りを繰り出してミラージュを翻弄した。

 

「これで決める!!」

 

 最後は体重の300倍の荷重に耐えうる強靭な脚部、『ファイヤーアップレスラートループ』に力を集中させて空中に飛び上がると、両脚を前に出し、炎を纏った蹴りをミラージュに炸裂させた。

 

『アントレスラー!!バーニングフィーバー!!』

 

 強固なミラージュの装甲といえども、加速や炎を通じて強化されたガッチャードの必殺技に耐えうる堅牢性は流石に無く、遂に弾けるように爆炎を巻き上げた。勝利の女神が微笑んだのは、ガッチャードとゆんゆんの2人だった。

 

「よし、次は魔王軍の元へ…」

 

 休む間はない。ミラージュことアナザー錬太郎だけでなく、紅魔の里には魔王軍が侵攻している。皆が寝静まった時刻に襲撃が起きたのだから防御がままならない場所も必ずや存在しているだろう。早くしなければ里が火の海と化すことも時間の問題。

 

「急ぎましょう!!」

 

 ゆんゆんの合図と共に、ガッチャードは丘を後にせんとする。しかしミラージュ同様、またもガッチャードの進行は阻まれた。

 

「あるえ?」

 

「ふにふらさんにどどんこさん?あの…どうしたんですか?」

 

 己達の前に立ち塞がったあるえ、ふにふら、どどんこの3人の意図が分からず、おどおどとした様子で尋ねるゆんゆん。ガッチャードも心配そうに3人の顔を覗き込んだ。

 

「あ、ゆんゆん。これ大丈夫なやつだよ」

 

「へ…?」

 

 ガッチャードの憶測に、ゆんゆんは思わず素っ頓狂な声を漏らす。改めてゆんゆんが3人の方を見てみると、紅魔族特有の深紅の瞳を輝かせ、半ば興奮しているかのようであった。

 

「凄い!!凄すぎるよレンタロウにゆんゆん!!こんな戦いを私は今の今まで見たことがなかった!!同じ姿の相手と対峙しているというだけでも燃えるというのに、ピンチの状況に協力して撃退…今すぐにでも紙に書き起こしてみたいけれど上手に纏まらない!!」

 

「そ、そうなんだね…」

 

 紅魔族特有の独特の感性と作家魂に火がついたあるえに、ガッチャードはグイグイと迫られる。一方でゆんゆんも同様に、ふにふらとどどんこに言い寄られていた。

 

「レンタロウさんがやってた変身?ってやつあれどういうことなの?それにゆんゆんも!!何だったのあの魔法?スキルポイントで取得できるやつじゃないわよね?それにその魔法服かなり質がいいじゃない!!」

 

「ねぇゆんゆん、さっきの魔法教えて?必要な条件は?前世の自分かぷっちん先生の言ってた魔神との契約?親友なら教えてくれるわよね?」

 

「え…ええっと…」

 

 怒涛の質問攻めという名の拷問に、ゆんゆんはおろおろとしてしまう。紅魔族は琴線に触れられるとマシンガントークとなってしまう傾向があるとかないとか言われている為、同じ紅魔族でもぼっち気質で話すことがあまり得意ではなかったゆんゆんは全く対応出来ず、マシンガントークを前に上手く出来もしないであろう聞き手に移るしかなかった。

 

『ホッパー!!』

 

 事態を見兼ねたホッパー1の鶴の一声によって漸く場が静まり返ると、ガッチャードは質問は後で、と締め括られた。

 

「じゃあ行こう!!」

 

「はい!!」

 

「私達もついていってもいいかい?これでも皆それなりに強いよ?」

 

「いや、でも…」

 

「我が里を攻め落とさんとする魔王軍には思うところもあるんだ。お願い!!」

 

 ガッチャードとゆんゆんだけでなく、あるえ達3人も同伴したいと申し出る。命を賭けた戦いにあるえ達も連れて行くのは少し気が引ける思いだったが、彼女達の故郷を守りたいという思い故だろうとガッチャードは同行することを許した。

 

「わかった、一緒に向かおう!!ワープテラ!!」

 

 ガッチャードの合図に呼応し、里の警備をしていたワープテラが飛来する。そして能力で赤黒いゲートホールを生み出すと、5人を吸い込んで魔王軍のいる場所へと誘った。

 因みにだが、あるえ達がついていった真の理由が間近でガッチャードとゆんゆんの戦闘を見たいからだということを、ガッチャードとゆんゆんは知るよしもなかった。

 

 

 

 

「ハァハァ…ホント…何なのよあの紅魔族達…頭おかしいんじゃないの?」

 

 紅魔の里に侵略を仕掛ける魔王軍の幹部『シルビア』は、肩で息をしながらフラフラとした足取りで紅魔の里の中を彷徨う。夜は警備網が弱くなると見込んで奇襲を仕掛けてみたのだが、ものの見事に失敗した。

 そもそもの前提として、昼に比べて里の警護が薄くなっているであろうという憶測事態が間違いで、里には錬太郎の仲間のケミー達が徘徊しており、里への襲撃は開始早々に知れ渡ってしまった。

 その後は、いつも通り紅魔の里の警備隊による魔法の嵐を受ける展開だった。朽ち果てろだの、魔法の実験台になれだの言われ、まるでどちらが侵略者なのかわからない展開もあったが、魔王軍は壊滅。残ったシルビアは誰もが恐れ慄く幹部とは程遠いまでに疲弊した様子だった。

 

「こうなったら…あの魔術師殺しを手に入れるしか…」

 

『魔術師殺し』

 紅魔の里の謎施設に封印されたと言われる古代兵器。それを手に入れることが出来れば一発逆転も見込めるかもしれない。伝説の存在に賭けるなど魔王軍幹部としてどうなのかと思う気持ちはあるものの、もう後には引けないと、一縷の望みに託した。

 

「やっと着いたわ…ここが…」

 

 地平線から出てきた目的地を前に、シルビアは歩を止めた。奇跡的に道中で紅魔族やケミー達に出くわすこともなく、謎施設に到着することが出来た。心の内から湧き出てくる達成感と安堵に、シルビアは思わず一筋の涙をほろりと流した。しかしこの束の間の幸福も、来訪者によって次の瞬間には粉々に砕け散ることとなる。

 

「あーーっ!!見つけたわ、魔王軍幹部!!」

 

「ここにいたか!!」

 

 謎施設周辺を見回りしていたアクアとダクネスがシルビアを発見する。数刻前までめぐみんの母、ゆいゆいの手によって眠らされていたのだが、里一帯に響き渡った襲撃警報のサイレンで目が覚めたようだ。そして少し遅れてカズマとめぐみんもやって来た。こちらもゆいゆいを説得させ、何とか現場に駆けつけることが出来たようだ。

 

「これは…不味いわね…ん?」

 

 絶体絶命の事態に、分かりやすく眉をひくつかせるシルビア。どうしようかと辺りを見回す中、何かが横切るのを感じた。シルビアはその存在の逃さず、自分の腕の中に閉じ込めた。

 

『フェ、フェニ〜⁉︎』

 

「あらぁ、こんなところに子猫ちゃん、いやこの場合は鶏ちゃんかしらね?迷い込んじゃったのかしら?」

 

 シルビアに捕えられたのはファンタスティック属性のレベルナンバー5のインフェニックス。必死に抜け出そうとばたばたと踠くインフェニックスだったが、背後のシルビアの幹部としての圧を前に慄き、自前の発火能力を発動できず、悲痛な叫びを上げることしか出来ない。

 

「インフェニックス!!」

 

「おっと、近づかない方がいいんじゃない紅魔族のお嬢ちゃん?それに仲間の3人も、この子の命が惜しかったらあの施設までの道を開けてちょうだいな?」

 

 インフェニックスを助けようとめぐみんが駆け出そうとするが、そのインフェニックスを人質としてシルビアに利用されてしまい、動こうにも動くことは許されない。ふと、囚われのインフェニックスとめぐみんの目が合う。助けを懇願しているその瞳に、めぐみんは胸が締め付けられるように感じた。

 インフェニックスは、今までめぐみんの爆裂魔法に手を貸してくれた、自身が山よりも高く、海よりも深い愛を抱いている爆裂魔法へ理解を示してくれる数少ない同士だ。そんな友の危機に、震える声でめぐみんは呟く。

 

「インフェニックス…私の大切な同士なのに…」

 

 今にも泣き出しそうな様子で俯くめぐみんに、アクアやダクネスも居心地の悪そうな雰囲気になってしまう。そんな中、カズマは1人頭を掻きむしると、『しょおがねぇなぁ』といつものように挟み、一歩前に踏み出た。

 

「おい、魔王軍幹部さんよ。あの施設に行くまでの人質が欲しいんだろ?だったら俺が代わってやるよ」

 

「はぁ?カズマさん本気?」

 

 まさかのカズマの人質を代わり出る発言に、アクアは目を丸くして正気を疑う。めぐみんも同じく、自ら死への道を踏み出すのか、あの臆病でヘタレで安全策に迷わず手を伸ばすカズマが。と思っていたのだが、当のカズマの方を見てみると、軽く右手を払う動作をして見せたのち、ポキポキと指を鳴らしている。カズマのこの動作は、最近クエストの中でスキルを発動する際に偶に見かけることがある癖だ。それにカズマは土壇場の中でも意外と頭はキレる方であると、それなりにそばで見ているめぐみんは知っている。

 一方でシルビアも、人質をカズマに乗り換えることには賛成寄りだった。

 

「(ふぅん、ウォルバクの持ち帰った情報からしてあの子、サトウカズマは徒党の主で間違いなさそうね。そんなパーティの支柱が人質に取られるとなると、例えあのガッチャード(切断魔)がやって来たとしても問題ないわ。これであの兵器を手に入れられる)」

 

「カズマ、馬鹿な真似は寄せ!!こういう時こそ騎士である私の出番だ!!そ、そのまま幹部に連れていかれ、魔王城で魔物達にあられもない姿を晒してしまってあんなことやこんなこと…」

 

「うんマゾネス、こういうシリアス全開な時は性癖控えましょうね」

 

「はひぃん!!遂にアクアからも罵倒が…」

 

「駄目だわこの人、無敵の人だわ…」

 

 どんな場面でも躊躇いもなく己の性癖を曝け出すダクネスに、流石のアクアも額に手を当てる。なんだかんだ問題を抱えつつもそれなりに母性のあり、あやすのが上手なあの(・・)アクアですらこれなのだから、もうダクネスは誰にも止められない。きっと天が落ち、地が裂けようともダクネスはダクネスのままなのだろう。

 そしていつものカズマ達のノリにシルビアはついていけず、1人完全に蚊帳の外状態となっていた。

 

「話は終わったかしら?この鶏ちゃんの命が惜しかったら、人質希望の坊やはゆっくりこっちに来なさい?」

 

 痺れを切らしたシルビアの脅しに、漸くことの重大さを思い出した一行。これ以上神経を逆撫でする前にと、カズマはシルビアに近寄る。

 手を伸ばせば届く距離までにカズマが迫ったことを確認すると、シルビアはインフェニックスを放し、カズマを抱き寄せた。

 

「むぐぅ⁉︎」

 

 その刹那、事故なのか意図なのかは定かではないが、抱き寄せられた衝撃でカズマはシルビアの双丘に顔を埋めてしまう。

 

「ふふっ、可愛いわね…」

 

 自身の胸の中でくぐもった声を響かせるカズマの頭をそっと撫でるシルビア。その途端、苦しみもがいていたカズマの動きがスンと止んだ。

 

「どういうことですかカズマ⁉︎普通ならそこでドレインタッチかフリーズをかまして抜け出すところでしょう⁉︎」

 

「めぐみん…あれを見ても同じことが言えるか…」

 

 荒ぶるめぐみんの肩を叩いてカズマを指差すダクネス。ダクネスの人差し指の先のカズマは、だらしない様子で顔を綻ばせ、シルビアの胸を堪能していた。

 

「お構いなく。俺もうちょっとこのままでいいかも」

 

「この男!!最低です!!少しでも頼りになると思った自分が大馬鹿でした!!」

 

 やはり胸なのか、所詮男は胸の大小で簡単に意識が傾くものなのか。めぐみんはシルビアと、シルビアの胸に挟まるカズマを鬼のような形相で睨みつけた。

 

「お取り込み中悪いけど隙ありまくりよ!!『セイクリッド・エクソシズム』!!」

 

「えっ?何…ってギャァァァァァァァァァァァァ⁉︎⁉︎⁉︎」

 

 マイペースなアクアが不意打ち気味に割り込み、派手な浄化魔法をシルビアに放つ。アクアの両の掌から放たれる神々しい白い光はあっという間にシルビアを包み込んで、その身体を炙った。しかし流石は魔王軍幹部。ベルディア同様、身体から黒い煙を上げたものの何とか耐え切った。

 

「やっぱりアンタ悪魔だったわね。くっさい臭いがプンプンしてたわ。でも私の浄化魔法で消えないのは癪だわね」

 

「ハァハァ…こんな強い浄化魔法を使ってくるなんて…。私が元の純粋な悪魔だったら即死してたわ…でも今の私はグロウキメラのシルビア。ありとあらゆる生物の部位を吸収、移植しているから浄化魔法だけじゃ死なないわよ!!」

 

「流石っすねシルビア姐さん。自分の弱点を補うために努力するなんて…。どっかの拘りを捨てきれずに爆裂魔法に執着するロリっ娘とは大違いですなぁ」

 

「おい今私を貶しましたねカズマ⁉︎いいでしょうシルビアを潰した後に半殺しにしてやりましょうか⁉︎」

 

「落ち着けめぐみん!!」

 

 幹部側に味方するだけでなく、ナチュラルに自分を馬鹿にされたと感じためぐみんは烈火の如く怒り狂い、ダクネスが慌てて宥めに回った。一方でカズマに太鼓持ちされたシルビアは嬉しそうに語りを続ける。

 

「坊やとは何だか気が合いそうね。色々大変だったのよ〜。元は男だったから女に憧れてこの胸も取り付けたし、振り返ると懐かしいわね…」

 

「おうおうそれはまた…ん?今男って言いました?」

 

 シルビアの口から零れた聞き捨てならない言葉に、カズマは恐る恐る聞き返す。頼むから違ってくれと、心の中でカズマは何度も祈る。しかし無情にもその祈りは届くことなく、あまりに残酷な事実がカズマの心の臓を締め付けた。

 

「そうよ。私は元々男。何なら今も下半身にその名残があるのだけれど…」

 

 上擦らせたような甘ったるい声でシルビアの話す全容に、カズマの背筋がぞくりと冷える。そして自分が男に欲情していたと悟るや否や、カズマは目尻に涙を浮かべ、未だかつて無い大声で叫び散らした。

 

「たぁーすけてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 




※今更ながらのミラージュガッチャードのスペック
身長: 207.5cm
体重:92.7kg
パンチ力:35.2トン
キック力:41.5トン
ジャンプ力:一飛び42.4メートル
走力:100メートルを4.6秒
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