この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを! 作:山田プロキオン
ここまで続けてこれましたのも、ひとえに読んでくださる皆様のお陰です。
これからも宜しくお願いします。
「たぁーすけてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
紅魔の里の謎工場の周辺で、カズマの絶叫が響き渡る。先程までシルビアの色気に入り浸り、虎の威を借る狐だった姿は影も形もない。シルビアが男であり、自身が見惚れていた双丘も改造して取り付けたもので、加えて男性だった頃の名残は下半身に残っていると告げられ、気分はまさに絶望のどん底。
何故か、どうしてなのか。自分は平凡なステータスの中で唯一幸運値が優れている筈ではなかったのか。そりゃ狙撃での命中率や、
一方で対人関係、その中でも女運に関しては全くといっていい程機能してくれない。パーティメンバーや昨日のオーク、そして現在進行形でシルビア。例を並べるだけで頭が痛くなってくるし、泣きたくなってくる。
しかしそんなことはどうでもいい、今はシルビアから抜け出すことを考えなくては。カズマは冷静でいられない脳で可能な限りで思考してみるものの、シルビアの男発言が相当ショックだったのか、全身に力が入らず、触れることによって発動するドレインタッチ及びフリーズは使用不可。出来ることは精々喉が枯れるほどに叫び散らすことだけ。
そんなみっともないリーダーの姿に、シルビアと対峙しているアクア達は…。
「うわぁ…なんかカズマさんご愁傷様…」
「自業自得ですよ!!あんな偽者の胸に騙されるなんて、それに加えて私達を裏切ろうだなんて!!最低です!!」
「まぁまぁめぐみん。私も思うところはあるが…まぁ取り敢えずカズマを助け出すぞ。こんなでも、私達のリーダーなのだからな!!」
憐れみ、軽蔑、呆れ。仲間達から向けられた視線に孕んでいる感情は、どれも好意的なものとは言えない。中でもめぐみんは大層ご立腹のようで、般若のような形相をしている。ダクネスはそんなめぐみんを慰めると、得物の大剣の柄を両手で力強く握りしめて、シルビアへ向かって駆け出そうとした。
「あら、攻撃しようってのかしら?人質がどうなってもいいの?」
「くっ、卑怯な…」
自身へ攻撃を仕掛けようとしていると理解したシルビアは、人質であるカズマの頭を撫でながらダクネスへ警告する。そのぬるっとした撫で方と、今にも殺されるかもしれない恐怖に、カズマはひいっと悲鳴を漏らし、涙目でダクネスに視線を送る。カズマの乞うような視線に、ダクネスは悔しそうに唇を噛み締めた。決断が出来ず、思い悩むダクネス、そんな彼女の肩を、3人の中で意外にも冷静さを保っているアクアがポンと叩いた。
「大丈夫よダクネス、気にせず突っ込みなさい」
「いや、しかしだなアクア…」
「万が一カズマさんが死んじゃっても大丈夫よ」
攻撃を渋るダクネスと対照的に、アクアは攻撃をするように促した。さらに死んでも問題ないとの発言には、アクア以外のその場の全員が大きく目を見開いた。
「なっ⁉︎お前って奴は!!例えクズで意気地なしでヘタレであってもカズマは私達の仲間であることには変わりないだろう⁉︎」
「そうですよ!!これまでもカズマの機転に私達が救われることが何度もありました!!それだというのに!!恩を仇で返すつもりですか⁉︎」
「落ち着きなさいって2人共。私、リザレクション持ってるんだけど」
「「あ」」
アクアの指摘に、めぐみんとダクネスの2人は思い出したかのように顔を見合わせる。
『リザレクション』
それは一流のアークプリーストでも取得困難な蘇生魔法で、クエスト等の負傷で死んだ者を一度だけ復活させることが可能である。しかもアクアが言うには、自身の場合は回数制限がないらしく、やろうと思えば何回でも蘇生出来るとのこと。
こんなにも凄まじくバランスブレイカーなアクアの魔法をめぐみんやダクネスが忘れていたのは、今まで使う機会がなかったからというのが理由だったりする。
「まぁ2回目以降の蘇生はエリスの始末書が増えるけど、まぁ言っちゃえばそれだけだし…」
「お、おい…まさか人質の俺を無視して特攻するとかじゃないよな⁉︎やめろよ⁉︎生き返れるにしても俺死ぬのは怖いからな⁉︎」
「ねぇ、あの子達って本当にあなたの仲間なの?なんか人質取った意味ないような気がしてきたんだけど…」
カズマが死ぬことを前提として話を進めるアクアに対して、カズマは声を荒げ、そしてシルビアも内心引いていた。仲間を救出するためにそんな倫理観で大丈夫なのか、と。
その時だった。完全に油断してていたシルビアに背後から攻撃が炸裂したのは。
『バレットバーン!バンバンブー!ガッチャージツインバスター!!』
「『ファイア・ボール』!!」
シルビア目掛けて、不規則な軌道を描いて迫る二対の弾丸と魔法による火球。アクア達に気を取られていたシルビアは反応が遅れ、全て被弾してしまう。
「グッ…不意打ちなんて、あら?」
手元に目を移し、シルビアは漸く気がついた。人質に取った筈のカズマがいない。慌てて辺りを見渡すと、カズマはアクア達の場所へと連れ戻されていた。シルビアが攻撃を受けた時、ガッチャード スチームホッパーとゆんゆんがカズマを攻撃の合間に救出していたのだ。
「大丈夫だった?カズマ…」
「あ…ああ…オークに続いてトラウマになるとこだった…」
「…そうか。魔王軍幹部…よくもカズマを…」
普段から想像もつかない程にやつれていたカズマの姿に、シルビアを仮面の下から睨み静かに闘志を燃やすガッチャード。右手に得物であるエクスガッチャリバーを携えた後、強靭な脚力で地面を蹴り込むと、一瞬のうちにシルビアへと肉薄した。
「えっ⁉︎ちょっ⁉︎はや…」
その速さたるや、シルビアでも追うことが出来なかった。スチームホッパーの力を構成するスチームライナーの蒸気機関を彷彿とさせる瞬間的な高エネルギーと、ホッパー1によって強化された足腰によって繰り出される移動速度は、音の速さをも超える。
そしてシルビアが自身の間合いまでガッチャードが移動したと理解した時には遅かった。シルビアの脳処理が完了する前に、ガッチャードは4発の剣撃を炸裂させた。
『ファイヤマルス!ストラッシュ!』
繰り出された斬撃はシルビアの首や腰、胸や腹に傷をつけ、さらに剣傷は裂けるように広がっていき、シルビアの皮膚や肉を持続的に焼き始めた。
「グッ…アア…な、何よこれ…凄く…痛いんだけど…」
ファイヤマルスによって強化された斬撃は、数多の生物を取り込み抗体を生み出しているシルビアであっても悶える程の激痛であった。
「ねぇ、めぐみん。錬太郎はカズマさんのことで怒ってるのかしら…」
「そうですね、実際はカズマの自業自得なんですが…全部終わったら本当のことを話しますか…」
そう、事の真相を全て知っているアクアやめぐみんからすれば完全にシルビアはとばっちりを受けているのだが、途中参戦したガッチャードはそんな事知る由もない。ましてやカズマがシルビアに捕らえられていた状況も災いしてか、敵意は全てシルビア向けられてしまっている。とはいえシルビアを倒せる状況に好転したが故にアクアとめぐみんが現段階でガッチャードの誤解を解こうと動くことはなかった。
一方、激痛で体を強張らせるシルビアに好機とみたガッチャードはさらに攻撃を仕掛けようと、再度接近する。しかしそこは魔王軍幹部の1人。すぐさまガッチャードから距離を取ると、背中から大量の針を出現させ、反転攻勢へと移った。
「残念だったわね…私はグロウキメラ、様々な生物の能力を取り込んでるのよ…この攻撃に耐えられるかしら、ねッ!!」
シルビアは背部から無数の針を目にも止まらぬ速さで射出し、ガッチャードだけでなく、カズマ達の方へも攻撃を仕掛けた。
「ここは私がッ!!」
「私もいきますダクネスさん!!」
ダクネスとゆんゆんがカズマ達の盾になるべく前に出て、ゆんゆんは魔法で、ダクネスは自身の身体で攻撃を受け止めていく。
「ダクネスさん、無理はしないでください!!」
「大丈夫だゆんゆん、この程度、全然足りぬわ!!」
シルビアの針の雨に鎧が弾け飛び、頬に掠り顔に傷が出来て血を流すダクネスに、ゆんゆんは懸念の声を上げる。ダクネスは生来の性癖により気にも留めていないが、それでもゆんゆんは、仲間が傷つく姿を見ていて辛く感じる部分があるのだろう。
ガッチャードもなんとかして助太刀に向かおうと試みるが、自身に迫り来る針の群れをエクスガッチャリバーで捌くので手一杯。中々反撃に移る機会を掴むことが出来ない。
「…くそ」
「アハハハハ!!この里がアンタ達の墓場となるのよ!!」
勝ち誇ったように高笑いを上げるシルビア。高揚するシルビアに呼応して攻撃の速度はまた一段と上がる。次第に反応も遅れ、ガッチャードやゆんゆんも攻撃をその身に受け、装甲が火花を散らし、身体中に切り傷を作ってしまう。
「ッ…⁉︎」
「ゆんゆん⁉︎どうすれば…」
「お困りのようだね!!」
突破口を見出せないガッチャード達に向けて、高らかな声が発せられる。一同が声のした場所を振り向くと、ガッチャードやゆんゆんと一緒について来た紅魔族の少女達——。あるえ、ふにふら、どどんこの姿があった。
「あるえ、それにくにふらとどんどこまで⁉︎」
「ちょ⁉︎なんでこのタイミングでも名前間違えるのよめぐみん!!ふにふらよ!!」
「私はどどんこ!!もう絶対わざとよね⁉︎」
「まぁまぁ、2人共落ち着きなよ。気持ちの乱れは魔法の乱れ。これからピンチの仲間を助けるという、我々紅魔族からしたら最高の展開じゃないか!!ここは一旦水に流してカッコよく決めようよ」
いつものようにめぐみんに名前を間違えられ、突っかかろうとしたふにふらとどどんこをあるえが宥める。あるえの説得に、2人共渋々しながらも横一列に並んで、3人は一斉に右手を翳した。
刹那、あるえ達の右手に魔力の渦が収束していき、同時に魔法陣が展開される。紅い瞳を煌めかせさながら口角を上げると、3人は各々の名乗りを上げながら魔法を発動した。
「我が名はあるえ!!紅魔族随一の発育にして、やがて作家を目指す者!!『カースド・ライトニング』!!」
「我が名はふにふら!!紅魔族随一の弟思いにして、ブラコンと呼ばれし者!!『インフェルノ』!!」
「我が名はどどんこ!!いずれ紅魔族随一の称号を手にする者!!『ライトニングストライク』!!」
紅魔族お決まりの名乗りと共に、3人の放った魔法が四方八方に分散する。魔法が生成した雷と獄炎によって針は全て焼き落とされ、シルビアの攻撃は完全に止まった。
「嘘⁉︎私の攻撃があんな子供に…しかも、杖無しでこの威力だなんて…」
「今だ、レンタロウ!!」
「ありがとうあるえ!!これで決める!!」
「騙された恨み、ここで晴らしてやる!!」
「ついでに私の浄化魔法も喰らっときなさい!!」
ガッチャードはすぐさまベルトのレバーを操作して、群青のバッタ形態、『ワイルドモード』となって上空に飛び、再び人型に戻ってシルビア目掛けて右足を前に突き出す。同時にカズマがガッチャードから渡されたガッチャージガンを構え、アクアも、神聖な白い光を自身の身体から放出しながら、両手をT字に組んだ。
『スチームホッパー!フィーバー!』
「『狙撃』!!」
「『セイクリッド・エクソシズム!!ストリウムバージョン!!』」
空中から急降下して放たれたガッチャードの蹴りがシルビアを勢いよく吹き飛ばす。次いでカズマの正確無比な射撃とアクアの浄化魔法が見事に追撃し、シルビアは身体中から黒い煙を噴き出した。
「ギャァァァァ!!!!な、なんて強さ…身体が、崩れていく…」
「嘘でしょ、まだ耐えるの⁉︎」
女神である自身の浄化魔法を二度も受けて生きているシルビアにアクアは驚愕する。下界に落とされ、弱体化はされているにしろ、同じ魔王軍幹部のウィズは一撃で瀕死になっているというのに。尚も、目の前のシルビアは覚束ない足取りながらも立ち上がるのだ。
しかしシルビアも限界が近いようで、身体の一部は炭のようになってボロボロと崩れている。それまでなんとか保っていた闘志も、もはや風前の灯。このまま戦い続けても敗北するのは目に見えているので、ひとまずここは退散しようと考えた。その時だった。
「おやおや、これまた面白いことになっているねぇ…」
一難去ってまた一難。シルビアとの戦闘の最中に、ガッチャード達の下に現れた男が1人。
金色の装飾が施された黒いスーツに身を包み、丸渕メガネを掛けたその容姿は、ガッチャードやカズマ達とも因縁のあるロードだった。
「ロード…お前まで…」
「思いの外ノワールがあっさりやられてしまったからねぇ。まぁあと少しで完全再生するだろうが。それまでの時間稼ぎとして戦闘エネルギーを回収出来るいいケミストリーを起こせそうなものがあったのでわざわざ出向いて来たという訳さ…」
ロードはいつものように不敵に笑うと、謎工場の方へ向き直り、金色のルービックキューブを持った右手をゆっくりと前に出した。
「『そは地より天に昇り 再び地へと下る この世の創造もまた かくありき』」
ロードの唱える錬金術の呪文に呼応し、キューブから怪しげな光が溢れ出す。同時に、謎工場に巨大な渦のようなものが出現し、その中から蛇のような巨大な機械が現れた。
「あ…あれは…」
その機械を目にした途端に、あるえが声を震わせて戦慄する。あるえだけではない。ふにふらやどどんこ、果てはめぐみんやゆんゆんも蛇に睨まれた蛙の如く怯えている。
紅魔族達がまるで細胞に刻まれた根源的恐怖の対象を目にしたように震える姿と、里の観光で得た情報から、頭の回るカズマは機械の正体を瞬時に導き出した。
「まさかあれが…魔術師殺し…」
「ピンポーン、流石カズマくんだ…察しがいい。それじゃあ幹部さん、面白いケミストリーを期待しているよ…」
ロードはカズマを讃え、飄々とした様子で風のように姿を消す。残された機械に、シルビアは血眼になって駆け寄り、一心不乱に自身の身体に取り込み始めた。
「これは…嬉しい誤算ね…あのロードって子には感謝しておこうかしら…」
「…不味い!!」
機械を取り込ませてはならないと、シルビア目掛けてガッチャードは駆け出す。しかし遅かった。シルビアは完全に魔術師殺しを我が物し、見上げる程の高さにまで巨大化する。そして下半身は、吸収した機械の名残か蛇のように変質していた。
「アハハハハ!!今日が紅魔の里の最後よ!!」
歓喜のあまり狂ったように笑い叫ぶシルビア。それはこれから起こるであろう紅魔族の存亡を駆けた戦いを知らせるかの如く、里一体に響き渡るのだった。
魔術師殺しをシルビアが吸収したその頃、暁の炎の紋様が刻まれたゴルドダッシュに跨り、紅魔の里へ向かうトンガリ帽子を被った少女がいた。
「漸く、前の時間改変で動いた分の傷が癒えました。運命の日までに間に合うかは賭けでしたが、なんとかなって良かったです。ワープテラに先に行って見張ってもらってますが取り敢えず、ロードが師匠を戦闘不能にする前に到着を…ゴルドダッシュ、お願いします!!」
『ダーーッシュ!!』
少女の要請に、ゴルドダッシュは力強く応えて自身の速度を上げる。緑色のローブをはためかせ、右手の人差し指のアルケミストリングに視線を移した少女は、その瞳を赫く燃え上がらせるのだった。
ちょっと短めですが、今回はここまでです。
紅魔の里編はあと3、4話で終わります。
そしてあの子も動き出し、いよいよクライマックスなので頑張ります