この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを! 作:山田プロキオン
面白すぎてあっという間の時間でした
今回かなり長いです
「アハハハハ!!最高の気分だわ…取り込んだこの魔術師殺しの力があれば、紅魔族なんて恐るるに足らないわ!!」
魔術師殺しを吸収したシルビアは、意気揚々とした様子で高笑いを上げる。そしてひと笑い終えると、口元に多量のエネルギーを収束させていき、カズマ達目掛けて勢いよく熱線を放射した。
「危ない!!」
『ヤミバット!』『レンキングロボ!』
『ガッチャーーンコ!!バットキングロボ!!』
シルビアの熱線にいち早く反応したガッチャードは、反射的に皆の前に出て、ガッチャードライバーに2枚のケミーカードを装填して姿を変化させた。
見上げる程の屈強な巨体に、機械的な濃紫色の鎧と蝙蝠のような翼を携えた形態
——仮面ライダーガッチャード バットキングロボ ワイルドモード
ガッチャードはその強靭な肉体による防御力を活かし、シルビアの火炎を大胸筋で迎え撃つ。
肉薄する猛火は、ガッチャードの胸壁にぶつかると同時に火の粉となって崩れ去り、ガッチャードは見事カズマ達を守ってみせた。
「ちっ、防がれたか。まぁいいわ、今はアンタ達よりも私を散々コケにしてくれた紅魔族の迎撃部隊を相手してやりたい気分だから見逃してあげる。この里が消えていくのを見てなさい」
口惜しそうに舌打ちを挟むも、シルビアはすぐさまガッチャード達に背を向けて蛇のようなうねる尾で進んでいく。そして大きな体躯にそぐわない速さで一瞬のうちに遠ざかり、何処かへと去ってしまった。
「何処へ行く…?」
等身大に戻ったガッチャードは、立ち去るシルビアを己の瞳に捉え、睨みつける。ガッチャードの視覚情報を基に、頭部の王冠型武装の『バットキングロボダイアデム』が作用し、超音波を発する。同時に超音波の反響を解析して、シルビアの行先を瞬時に特定した。
「方角は西北西、あの場所は特に紅魔族達の警護が厳重な場所だ…そこを潰して一気に侵略を進めようという魂胆か…」
「この場所から西北西って…めぐみんのお家のある場所じゃない⁉︎」
ガッチャードの分析に対してゆんゆんの発した情報。聞くや否や、めぐみんの顔は真っ青に変わり果てる。父が、母が、そしてこめっことちょむすけが危機に晒されているということに動揺を隠せなかった。
「ど、どうすれば…こめっこが、私の家族が…」
「お、落ち着きなってめぐみん!!」
居ても立っても居られず、めぐみんはすぐにでもシルビアの後を追おうと駆け出す。そんなめぐみんの手を、咄嗟にあるえは掴んでめぐみんに冷静になるように宥めた。
「こんな状況で落ち着いていられると思いますか⁉︎魔術師殺しですよ⁉︎伝承によれば上級魔法でさえ無効化してしまう強力な兵器なんですよ⁉︎腕っぷしはそこらの冒険者より上でも、魔法特化の種族である我々が相手じゃ結果なんて目に見えているじゃないですか!!
離してくださいあるえ、私はこめっこのところに…」
「だから落ち着いてって!!こめっこちゃんも里の皆も守れるかもしれないものを思い出したんだ!!ぷっちん先生が言っていた対魔術師殺し用の秘密兵器が…」
秘密兵器、あるえのその一言に一同の注目が集まる。そしてふにふらとどどんこ、ゆんゆんも思い出したように手鎚を打った。
「確か私達のご先祖様達に天から授けられたって伝わっている兵器のことよね?でも古代文字で記されていて解読出来ないから誰も使えないって…」
「何だよ八方塞がりじゃねぇか…」
上げて落とすとはまさにこのことか。魔術師殺しへの対抗策は存在こそするものの、取得することは極めて困難。今から古代文字を解析しようものなら日を跨いでしまうだろうし、その間に里は滅んでしまうだろう。
そんな陰鬱な空気の中、ガッチャードは1枚のケミーカードを左腕のガッチャードローホルダーより取り出した。
「それなら大丈夫。スマホーンがいるからね。あらゆる言語を解析出来る特技があるから、それで使い方を導き出せば…」
「本当ですかレンタロウ⁉︎」
「勿論だめぐみん、いけるよね?スマホーン」
『スマスマ!!』
ケミーカードの中のスマホーンは、ガッチャードに力強く応答してカズマの手元へと渡る。その後ガッチャードはカズマへと歩み寄ると、ポンと優しく肩を叩いた。
「カズマ、秘密兵器を見つけ出して。それまで僕が幹部を引きつけるから…」
「なっ⁉︎お前正気か⁉︎」
「そ、そうだぞ錬太郎!!幹部の猛攻を凌ぐために前線に出るなど羨ま…無謀だ!!ここは是非とも私をお供に…」
「マゾ騎士、ここで性癖は出すな。今大分シリアスな展開なんだからさ」
「にゅうん!!」
ガッチャードの話す作戦の際にも相変わらずダクネスは通常運転であった。故にカズマがストッパーとして口を出す、いつもの流れだ。しかしカズマからの注意喚起も悦びに打ち震えるようで、ダクネスは頬を染め、荒く息をする。そんなダクネスに、一同の視線は凍える吹雪のように冷たく向けられた。
「まぁ話を戻して、カズマ達が秘密兵器を見つけ出すまでに僕が時間を稼ぐ。バットキングロボの時に解析してみたけど、解呪魔法さえも無力化するみたいだからアクアでも対処しようがない。ダクネスは耐えられるかもしれないけど、1人だと途中で性癖出して幹部を煽って結果被害を拡大させる可能性があるから却下」
「ほれみろ」
「ぐっ…」
カズマや他一同もガッチャードと同意見だったらしく、ダクネスはバツが悪そうに下を向く。因みにアクアも「女神の魔法が効かないなんて…」と口を尖らせて若干拗ねていた。
「それでシルビアを足止めするには多くの手数と耐久力を備えている必要がある。ダクネスは確定として多重錬成による強化装甲と、形態変化で柔軟に対応出来るガッチャードの僕が囮になるのが最適解かなと思うんだけど、いいかな?」
「…ああ」
カズマは希望の灯った新緑の瞳でガッチャードを見つめ、深く頷く。そしてガッチャードとダクネス、他全員とで別れ作戦は決行した。
「錬太郎さん…」
別れ際、ゆんゆんは不安そうに声を震わせてガッチャードに尋ねる。ガッチャードは仮面の下で優しく微笑んで屈むと、ゆんゆん頭の上に手を乗せた。
「大丈夫。僕達は、負けない」
その言葉を最後に、ガッチャードはダクネスと共に西北西の方角へと向かった。遠くなる背中を見送りながら、やるべきことを果たすのだとゆんゆんは己に強く言い聞かせ、カズマ達と共に秘密兵器の探索へと移った。
「壊れろ、消えて無くなってしまえ!!」
紅魔の里を1人進軍するシルビアは、立ち並ぶ紅魔族達の家屋を次々と薙ぎ倒し、里を火の海へと変えていく。これまで散々紅魔族達に煮湯を飲まされ続けた鬱憤晴らしをするかの如く、破壊衝動に駆られるその姿は正に修羅としか形容しようがない。
しかし、里の惨状を紅魔族達が黙って見過ごすはずがなかった。すぐにシルビアの破壊活動は自警団達の耳に届き、族長ひろぽんとその妻ゆんちゃむをはじめとする腕利きの紅魔族達が現場へと駆けつけた。
「そこまでだ、魔王軍幹部!!」
「あら、来たのね…」
自身を呼ぶ声に、ぬるりと振り向くシルビア。見回してみれば自分の周囲は紅魔族達に囲われており、分かりやすく四面楚歌状態である。紅魔族の長は、そんな飛んで火に入る夏の虫を指差すと威勢よく啖呵を切った。
「我らが里をよくも!!ここで会ったが万年目!!先祖代々から連なりし因縁に終止符を打ち、そして!!未来へと…「やかましい!!一々一々長ったらしくてイタい文言を連ねないとアンタら紅魔族は死ぬわけ?御宅はいいわ、さっさとかかってきなさい!!」…つれないなぁ…」
「大丈夫、まだ名乗りがあるから落ち込まないのお父さん」
紅魔族お決まりの見え切りが冷たく一蹴されてしまったことに、ひろぽんはしょんぼりと肩を落とす。気落ちする夫をゆんちゃむが優しく励ますと、先程のどこか緩い空気は一転。
ひろぽんとゆんちゃむは手を前に出し、その手のひらに高濃度の魔力が集結し渦を巻く。そして他の者達も倣うようにして同様の所作をし、全員の手の中で魔力による光が輝きを増していく。
「我が名はひろぽん!!紅魔族の長にして、娘に友達が出来たことを喜ぶ者!!」
「我が名はゆんちゃむ!!紅魔族随一の主婦にして、夫と共に紅魔族を導く者!!」
「我が名はぶっころりー!!紅魔族随一の靴屋のせがれにして上級魔法を操る者!!」
「我が名はねりまき!!紅魔族随一の酒屋の娘にして上級魔法を操る者!!」
紅魔族1人1人が声高らかに各々の名乗りを上げ、呼応するかのように手のひらの魔力が高まっていく。やがてその高まりが最高潮に達した瞬間、紅魔族達は紅い瞳を煌めかせると同時に、シルビア目掛けて一斉に魔法を放った。
「『ライト・オブ・セイバー』!!」
「『カースド・ライトニング』!!」
「『ライトニング・ストライク』!!」
「『インフェルノ』!!」
眩い光と同時に、あらゆる魔法が四方八方からシルビアを仕留めんと迫り来る。対するシルビアは、魔法の嵐を前に全くと言っていいほど微動だにせず、堂々とした様子で佇んでいる。上級魔法は他の魔法と比べて威力が段違いな上、それを魔法の扱いに長ける紅魔族が行使しているのだから、その身に受けるのならば致命傷は免れないであろう。
尤も、魔法を無力化する対抗策があれば話は別であるが。
「その上級魔法の乱れ打ち、もう見飽きたわ。『エンシェント・ディスペル』…」
シルビアが詠唱すると同時に、取り込んだ魔術師殺し特有の領域が展開される。領域はシルビアを中心として広範囲に展開し、その領域に入った途端、紅魔族達の魔法はまるで霞のように消えて無くなってしまった。
「ば、馬鹿な…」
「私達の魔法が、無効化された…」
予想外の事態に、その場にいた紅魔族達は動揺する。今までモンスターや魔王軍を一撃で仕留める程はある魔法攻撃がいとも容易く無効化されたという事実に、驚きを隠せない。
困惑に歪む紅魔族達の表情をシルビアはまじまじと堪能し、逆に煽り返すように話し始めた。
「これが魔術師殺しの力よ…今の私の前ではどんな魔法も無意味。全力で放った上級魔法も無駄だったわね…」
「魔術師殺しだと⁉︎バカな、まさか施設の封印を解いたというのか⁉︎」
「そのまさかよ。今まで調子に乗って私を逃していたことが仇となったわね、滑稽だわ。さぁ、こっちの番よォォォォォォ!!」
形成逆転し、シルビアは下半身の尾をうねらせ、地を張って進む。なす術がない紅魔族達は、一時退却すべく全速力で走り出した。シルビアの領域が展開されている以上、退避手段のテレポートも使用不可であり紅魔族達にとっては絶望的に部が悪かった。
対照的にシルビアは、恍惚に浸りながら逃げ惑う紅魔族を追いかけている。今まで散々紅魔族達にコケにされ、毎度毎度部下を魔法で殺され、苦行の日々だった。しかし今はどうだ。自分を下に見ていた者達は、強大な力を手に入れた自分を前に逃げてばかり。シルビアにとってこれ以上気持ちの良いことはなかった。
「あいたッ⁉︎」
そんな中、逃げ惑う紅魔族の幼女が足を躓かせて転げてしまった。その幼女はめぐみんの妹で、シルビア迎撃に参加したひょいざぶろーとゆいゆいに同行していたこめっこだった。
「あらぁ、ここに逃げ遅れた仔猫ちゃんがいるわね…丁度いいわ、先ずは貴方からあの世に行かせてあげる…」
運の悪いことに、こめっこがこけた場所はシルビアの近く。獲物を見つけたシルビアは、舌舐めずりをしてジリジリとこめっこに迫る。
「…ッ⁉︎た、助けてお姉ちゃあああん!!!!」
逃げ出そうにも、膝を擦りむいて動くことが出来ず、目尻に涙を浮かべながらただ声を上げるしかないこめっこ。大人達もこめっこを助けようと向かうが、シルビアはこめっこの目と鼻の先にまで近づいており、もう間に合わない。
「さようなら」
こめっこ目掛けて右手の手刀を振り下ろすシルビア。繰り出される手刀が鈍い音を立てると同時に、赤い血飛沫が舞う。
「なっ⁉︎」
しかしその血飛沫はこめっこのものではなかった。シルビアが視線を移すと、右手首が斬り落とされており、目の前にはガッチャードと大剣を携えたダクネスがいた。
「間に合った…スパイクルの力で加速して、カリュードスの力で何とか斬ることが出来た…」
「ダクネス、こめっこちゃんと他の紅魔族の人達の警護をお願い。いざとなったらダクネスの耐久力が頼りだ」
「心得た」
ダクネスはこめっこを抱き抱えると、ガッチャードに任せて紅魔族達の下へと向かう。その間にシルビアは自身の右手首を再生させてガッチャードと対峙する。2人は互いに睨み合い、静かに火花を散らしていた。
「またアンタね…しつこい坊やは嫌われるわよ?」
「僕は諦めが悪くてね。守ると決めたものは何がなんでも守るつもりだから」
最初に口火を切ったのはシルビアだった。ガッチャードをおちょくる意図で言葉を交えるが、ガッチャードにはどこ吹く風。揺さぶりは無意味だと悟ったシルビアはすぐに戦闘態勢へと切り替えた。
「こんな里の奴らを守る義理がどこにあるのか、理解しかねるわ…いいわ、アンタもこの里の異常者達と一緒に滅ぼしてあげる!!」
シルビアは、ガッチャードに対して未だかつてない程にドス黒い圧を放つ。その威圧感たるや、魔王軍幹部の一角に相応たるものである。しかし相対するガッチャードも、臆することなく息巻いた。
「理解しなくてもいいよ、守りたいから守る。そこに理屈はいらない。
この里には、めぐみんとゆんゆんの、僕の仲間達の、そして紅魔族皆の思い出が沢山詰まっているんだ、帰る場所があるんだ。僕の故郷のように、帰る場所を失わせるわけにはいかない」
ガッチャードは闘気を激らせ、新たに取り出した2枚のケミーカードを装填してベルトを操作する。
『ゲキオコプター!』『ダイオーニ!』
『ガッチャーーンコ!!オニコプター!!』
刹那、眩い光がガッチャードを覆い、その身を新たな姿に変化させる。
鬼の角を彷彿とさせる装飾の備わった紺青の武者鎧に、背面には巨大な推進器が武装されているその姿——
仮面ライダーガッチャード オニコプターである。
「いくぞ…『万物はこれなる一者の改造として生まれうく』」
早速ガッチャードは錬金術の呪文を詠唱し、地面に転がっていた小石達が集まり始め、液状に変化する。やがて液体から目的の形を形成し、ガッチャードの手に収まる。それは身の丈以上にも迫る2本の棘に覆われた棍棒を、長い鎖で繋いだもの。
ガッチャードは棍棒を繋ぐ鎖を手に持つと、鎖を通じて棍棒を振り回し始めた。
「何かと思えば随分と頓珍漢な武器ね、そんなんで私と戦えるとでも…」
肩透かしを喰らったような様子で、シルビアはガッチャードの錬成物を嘲ろうとするも、寸前で言葉を飲み込んだ。
ふと感じる、自身を中心に渦巻く空気が何処かへと吸い寄せられるような感覚。その何処かとは、今まさにガッチャードが振り回している棍棒の方角。引き寄せられる空気に圧迫されるような感覚に、シルビアの本能が警鐘を鳴らしている。
次の瞬間、ガッチャードの手元から二対一体の棍棒は勢いよく投擲され、シルビア目掛けて一直線で迫る。間一髪避けることには成功したものの、あまりにも一瞬のこと過ぎてすぐには対応出来ず、シルビアの赤い毛髪が幾つか抜け散っていた。
「(次が、来る…ッ)」
シルビアが上を向くと、自身の頭上にガッチャードが鎖で振り上げる棍棒が切迫していた。同時にガッチャードは、地面が減り込む程の脚力で鎖を踏み付け、その反動で棍棒は落下速度と勢いを増す。シルビアは上半身を大きくのけぞることでこれを回避、しかしそれもガッチャードの想定の範囲内。
「なっ…後ろから…⁉︎」
もう1本の棍棒が、ガッチャードの後方から鎖を靡かせてシルビアへと命中する。
棍棒の鋭い棘がシルビアの皮膚を穿ち、傷口から鮮やかな赤血が流れ出る。痛覚も強く刺激しているようで、シルビアは苦痛で顔を歪ませ、追撃を受けぬようすぐにガッチャードから距離を取った。
「あ、あんな攻撃を仕掛けてくるなんて…でもまだこれで終わりじゃないわよ!!」
今度はこちらの番とばかりに、シルビアは衝撃波を放ち、ガッチャードを後退させる。その間にシルビアは、背部から荊のような無数の管を出現させ、目にも止まらぬ速さでガッチャード目掛けて振るい始めた。
「これは…不味いかもな…」
仮面の下で、ガッチャードは一筋の冷や汗を流す。シルビアの振り回す触手は常に長さが変化し、間合いを把握しづらい。捨て身で近づこうものなら一瞬のうちに斬り刻まれてしまう。今は何とか棍棒を自分の周囲で振り回して触手を弾き続けているが、いつまで持つかわからない。現に棍棒の棘もいくつか折れ始めており、限界は近しい。ほんの一瞬、一瞬でもシルビアの隙が出来るのなら攻勢に転じることが出来るというのに。
「錬太郎、待たせたな!!」
同時期、ダクネスがガッチャードの下に合流した。紅魔族達の避難を無事終えたようで、ガッチャードに助太刀せんと大剣を携え馳せ参じた。
「ダクネス⁉︎ごめん、シルビアの注意を引いてもらえないかな?攻撃に移りたいんだ!!」
「任せろ!!盾になるのは私の得意分野だ、さぁ私をボロカスのように見捨てて…」
「そんなことしないから。でもありがとうね」
ダクネスが参戦し、ガッチャードに対するシルビアの注意が鈍った。その瞬間、ガッチャードは触手による猛攻を掻い潜り、シルビアとの距離を縮めていく。
「(よし、相手はダクネスに構ってる…)」
「コイツ…何で触手弾くのよ、どんだけ硬いのよ!!」
「こ、こりぇが触手攻撃…身体にジンジンくりゅ…」
シルビアの触手の嵐を前に、ダクネスは涎を垂らしながら破顔している。今までスキルポイントを振り切った耐久力が存分に発揮され、攻撃をものともしていない。加えて、自身の攻撃を悦びに還元しているダクネスの様子は、シルビアに苛立ちを募らさせた。
そうして完全にダクネスに気を取られていたシルビアは、もう懐付近にまでガッチャードに詰められていた。
「(いける、これで!!)」
気配を完全に殺しながら、棍棒を振るうガッチャード。棍棒は風を切ってシルビアの胴へと入る、かに思われた。
「甘いわね…」
一瞬だった。シルビアは、尾からも無数の管を出現させて接近していたガッチャードを貫いた。錬金術によって生成された強固な装甲も易々と貫通し、ガッチャードの全身が血の赤で深く染まる。やがてガッチャードは光の粒子となって消えてしまった。
「私が気づいていないとでも思ってた?最初からここで仕留めるためにワザとフリをしたのよ。哀れねぇ…」
「なっ⁉︎錬太郎!!」
予想外の事態にダクネスも声を震わせる。シルビアは勝ち誇ったように口角を上げて、残るダクネスに集中攻撃を仕掛け始めた。
「残念、それは分身だよ」
『『ガッチャージツインバスター!!』』
突如2つの光弾が放たれ、シルビアの背中に命中する。攻撃を受けて振り向いたシルビアは、自身の瞳に映る人物に愕然とした。先程仕留めたはずのガッチャードが、先程とは別の姿となって背後にいたからだ。
蝶とガンマンを模した暁色の鎧に身を包み、両手にガッチャージガンを1丁ずつ携えた姿
——仮面ライダーガッチャード バレットチョウチョ である。
シルビアに全身を貫かれる寸前、ガッチャードはオニコプターからバレットチョウチョへと姿を変え、バレットチョウチョに宿るゲンゲンチョウチョの力で出現させた幻と入れ替わっていたのだ。
「小細工ばかりして…あぁ、イライラする…」
「持ち堪える…カズマ達が見つけるまで…」
一方その頃、カズマ達は秘密兵器の詳細を理解し、とある場所に向かっていた。そのとある場所とは、今朝紅魔の里の観光で立ち寄ったちぇけらの服屋である。
「いやぁ〜、まさかウチに代々伝わる錆びない物干し竿が魔術師殺しに対抗するための秘密兵器だったとは…」
困惑したように笑うちぇけらを他所に、カズマは黙々とちぇけらから渡された物干し竿、否、レールガンの調整を行っていた。
「カズマカズマ、石碑には何で書いてあったのですか?」
「言わない」
「教えてくれたっていいじゃないですか⁉︎」
「言いませんから、ゆんゆん」
「釣れないこと言うなよ、もしかしたら小説のネタになるかもしれないじゃないか」
「いいかいあるえ。世の中には知りすぎると心に深い傷を負ってしまいかねないこともあるんだ」
めぐみん、ゆんゆん、あるえと続く紅魔族女子達からの質問を、カズマはのらりくらりと躱す。秘密兵器の手がかりとして訪れた猫耳スク水女子のフィギュアを御神体として祀っていた神社、そこにあった石碑には魔術師殺しと秘密兵器、そして紅魔族出生についての秘密がこと細やかに記されていたのだが。
「まぁ1つ言えるのは、お前ら紅魔族誕生には駄女神アクアが関わってるってことだけだ」
「ええ…」
「あ、あのアクシズ教徒の御神体の…」
アクアの名を出した途端、ふにふらとどどんこは心底嫌そうな表情になり、釣られてめぐみんやゆんゆん、あるえも顔を顰めた。
「ちょっと!!何で皆嫌そうにしてるのよ⁉︎ていうかまたカズマ駄女神って言ったぁぁぁぁ⁉︎⁉︎」
皆の芳しくない反応にアクアはムキになって声を荒げた。世間的に評価が好ましくないアクシズ教徒。その女神が自身らの原点にあるのだと知ると当然な反応であると言えるだろう。とはいえ世間的評価はアクシズ教徒も紅魔族も五十歩百歩なのだが。
「(まさか紅魔族を生み出したのがデストロイヤー開発者、つまり転生者だったとはなぁ…)」
カズマは1人、石碑に記されていた内容を思い返す。開発者が技術大国ノイズに身を寄せてデストロイヤーを開発するより昔、とある辺境の国の王が魔王を退ける兵器の開発を命令したらしい。開発者が嫌々ながらも何とか頭を回転させて生まれた案が改造人間であり、それがめぐみん達のご先祖様だそうだ。
しかし改造人間達は少し、いやかなり感性がズレており、紅い瞳にして欲しい、機体番号を1人1人に与えて欲しいなど色々注文してきたという。
開発者も途中から楽しくなってきたようで、適当に『紅魔族』と種族名を与えた暁には、それはそれは喜んだとのこと。
そして同時期に開発していたという対魔法用の兵器、後世に『魔術師殺し』と伝わったものを、紅魔族達は天敵と呼び恐れた。開発者は来るべき日の為に対抗策を作って欲しいと彼らに頼まれ、内なる厨二心を刺激されて面白半分で物干し竿のような兵器を開発し、『レールガン』と名付けた。これが紅魔族誕生の真実なのだそう。
「(はっきり言ってイカれてやがる…脳味噌に爆弾でも溜まってたのか…)」
心の中で、開発者に苦言を呈すカズマ。デストロイヤー、魔術師殺し、紅魔族にレールガン。一癖も二癖もあるものを生み出し、結果としてその尻拭いの一端を自分が担っていることに無性に腹が立ってくる。そしてこんな奴をこの世界に送り込んだアクアに対してもイライラが募っていく。
しかし今はシルビアの撃退が先だ。胸の内で激流する気持ちを飲み込み、調整を終えたカズマはレールガンを肩に担いで立ち上がった。
「よし、いくぞお前ら」
ダクネスの誘導の下、避難していた紅魔族達は、遠くからガッチャードとダクネスの戦闘を見守っていた。魔法が無効化される以上、自身らの出る幕はない。そして自身達の故郷を外の者達に守ってもらうことに対して申し訳なくも感じていた。
「不甲斐ない…紅魔族を纏める立場にありながら、逃げてしまうとは」
「お父さん…」
下を向き、悔しさで唇を噛み締めるひろぽん。いつになく弱さを見せる族長に、他の紅魔族達も陰鬱に沈んでしまう。
『大丈夫ですよ、錬太郎達は絶対に負けない』
暗い雰囲気に一石を投じるかの如く、1人の男性が紅魔族達の前に現れる。魔王を思わせる黒を基調とした高貴な服装と王冠を纏っており、額にはケミーたらしめる赤い矢印の紋印があった。
『錬太郎達はね、1人で戦っちゃいない。今戦うことの出来ない紅魔族皆の想いも背負って戦っている』
「私達の、想い…」
『そうです。貴方達やこの里を守りたいと強く思っている。そして紅魔族皆のこの里を愛する気持ちを信じている。信じる力は、それだけで人に大きな力を与えてくれる。
貴方達は逃げているんじゃない。今この瞬間も、一緒に戦っているんだ。だから、自分を責めないでください。ひろぽんさん』
男性——ズキュンパイアは、ひろぽんの肩を優しく叩いた。ズキュンパイアの言葉で憑き物が取れたのか、ひろぽんは先程の沈んだ気持ちが嘘のように柔和な表情になる。そして遠くで戦っている錬太郎や実の娘に対して力強い声援を送った。
「頑張れ、錬太郎くん!!ゆんゆん!!負けるな!!」
ひろぽんの腹の底から轟かせた声は、空気を震わせ夜の空へと響いた。ひろぽんに次いで1人、また1人と声援を送る人数は増えていく。
「頑張れ、ガッチャード!!勇者カズマ!!」
「俺たち応援してるぜ!!」
「教え子達よ、折れるな!!」
「こういう王道展開も琴線にビンビン来る!!いけ〜、外の英雄達!!」
活気の湧く紅魔族達の姿を、ズキュンパイアは嬉しそうに眺める。もうそこには、打ちひしがれていた紅魔族達の姿は微塵も残されていなかった。
『さぁ錬太郎、ここからが正念場だよ。ズッキュン』
「感じる…紅魔の里の皆の想いが…ガッチャードドライバーを通じて、血液のように僕の全身を駆け巡る…穏やかで温かい。でも、凄い力が溢れてくる」
紅魔族達の声援は、戦闘中のガッチャードにも届いた。人々の声援に宿る善意が、ガッチャードライバーの中に眠る虹の卵と共鳴し、ガッチャードの力を限界値以上に引き上げる。
同時に、ガッチャードの全身からは虹色の炎が噴き出し、かつてない程に清らかに燃え滾っていた。
「錬太郎、カズマ達が秘密兵器を見つけたそうだ。ケミーライザーで私達のいる座標を送ったからカズマ達が来るまでもう少し持ち堪えるぞ!!」
「わかった…」
「あらあら⁉︎私を足止めしようと?そんなこと出来るわけないでしょ!!!!」
ダクネスの知らせにシルビアは不可能と一蹴し、右手を空高く振り上げる。その瞬間、無数の火球が出現し、ガッチャードとダクネス目掛けて降り掛かった。
不規則な軌道で、隕石の如く天を裂いて迫り来る火球にガッチャードは動ずることなく仁王立ちで待ち構えた。
『バクオンゼミ!』『テレヴィ!』
『ガッチャーーンコ!!バクオンテレヴィ!!』
その間際、ガッチャードライバーに新たに装填されたケミーカードによってガッチャードは姿を変化させる。
松葉色の装甲に、画面を思わせる武装を両肩と頭部に備えた姿——
仮面ライダーガッチャード バクオンテレヴィ
「ダクネス、耳を塞いで」
「?わかった」
『バクオンテレヴィ!!フィーバー!!』
ガッチャードはすぐさまベルトを操作して、迎撃態勢に移る。腰を下ろしてどっしりと構えたと同時に、両肩と頭部の画面から爆音量が響き渡る。
その爆音により発せられる音圧は相当なもので、シルビアの仕向けた火球を1つ残らず粉砕してみせてしまった。
「私の攻撃を…ならこれはどう?」
シルビアは背面の触手を振り回して再度攻撃を仕掛ける。対するガッチャードも新たに取り出したケミーカードを掛け合わせ、更なる姿へと変貌する。
『グレイトンボ!』『ブッサソーリ!』
『ガッチャーーンコ!!グレイトサソーリ!!』
深紫色の装甲に、蜻蛉のような羽根と蠍の如き鋏と毒の尾を備えた幾分禍々しい姿——
仮面ライダーガッチャード グレイトサソーリ
『グレイトサソーリ!!フィーバー!!』
ガッチャードは、毒の尾を音速をも超える程に振り回し、シルビアの触手に対抗せんと鋭い刺突攻撃を繰り出す。
触手と毒の尾、威力は互角。瞬きする間のコンマ1秒の間に何十も交わり火の粉を散らす。あまりの激しさに空気は常に歪み、大地は強く震動を繰り返し、生じる衝撃波が波紋のように広がる。両者一歩も引かない死闘はまだ続くのだった。
戦いが激化する中、カズマ達はダクネスから送られた座標の場所に到着していた。カズマはレールガンを構え、照準をシルビアへと定める。狙撃スキルもいつでも発動可能な状態だ。後は念には念を入れてアクアの支援魔法を受けるだけだ。
「アクア、支援魔法頼むぞ。外したら後がないんだからな」
「わかってるわよ、『パワード』!!」
カズマの指示通り、アクアは支援魔法を唱える。しかしアクアの発動した魔法は、カズマに作用する前に粒子となってレールガンへと収束されてしまった。
「ありゃ、どうなってんだ?支援魔法の効果がないぞ」
「なんか3%ってレールガンに表示され出したけど…」
アクアの指摘に皆がレールガンに目を移すと、確かに先程までには表示されていなかった『3%』という数字がある。
魔法が発動しない、光の粒になって収束、3%…。不可思議な状況の最中、これだけの証拠からどどんこは何か閃いたかのように言った。
「もしかして、レールガンって魔力を収束させて一気に放つものなんじゃないの?」
「そうだ、それよどどんこ!!」
「となれば、もっと沢山の魔力が必要になってくるな…」
カズマはチラッとめぐみん、ゆんゆん、あるえ、ふにふら、どどんこの5人に視線を向けた。アクアの魔力はカンストしているものの、支援魔法に振り切りたいがため、レールガンの魔力は紅魔族である彼女達から貰いたいのだ。
「めぐみん達、いいか…」
「まぁ、里の緊急事態ですしね。特別にいいですよ」
「なんかこういう土壇場で力を集める展開ワクワクするわね!!」
カズマの申し出を、5人は二つ返事で了承した。何より紅魔族の琴線に触れたようで、杖まで取り出してとても張り切っていた。
「『エクスプロージョン』!!」
「『ライト・オブ・セイバー』!!」
「『カースド・ライトニング』!!」
「『ライトニングストライク』!!」
「『インフェルノ』!!」
少女達が各々の杖から次々と放つ上級魔法は、レールガンの中へと吸い込まれてエネルギーに返還されていく。あっという間に充填率は100%に到達し、表示は『FULL』へと変化した。
「『パワード』『パワード』『パワード』『パワード』『パワード』、おまけに『ブレッシング』!!」
魔力の充填が完了すると、アクアは支援魔法をカズマに施した。紅魔族、そして水の女神の力をふんだんに受け取ったレールガンを構えたカズマは、千里眼を用いて虎視眈々と機会を窺う。
「照準は、まだだ…まだだ…」
レールガンのスコープを覗きながら、カズマは心を落ち着かせる。この1発に全てがかかっていると言っても過言ではない状況。シルビアの撃破の重責がのし掛かって心拍数が上がり、引き金にかける指がガタガタと震える。その都度深呼吸を挟み、経過すること数分、遂にスコープのカーソルはシルビアを捕え、『LOCK ON』の文字が表示される。
「ここだ!!『狙撃』!!」
合図が出たと同時に、カズマは反射的に引き金を引いた。瞬間、レールガンから光と紛う程の速さで魔力を凝縮した弾丸が発射される。
魔力の渦はまるでドリルのように勢いよく回転し、圧倒的な貫通力でシルビアの胸に大きな風穴を開ける。それだけにはとどまらず、シルビアの後ろに聳えていた山にまで命中し、その一角を木っ端微塵に消し飛ばしていた。
あまりの威力に、カズマ達はあんぐり口を開けて只々呆然とするしかなかった。
「そ…そんな…こんな、ところで…」
口から血を流しながら負け惜しみを綴るシルビア。その後力無く地面に横たわり、微動だにしなくなった。
久々のフォームチェンジ祭りでした。如何でしたでしょうか?
原作ガッチャードで未登場のフォームも色々出していけたらと思っております。
ガッチャードが応援によって強化される展開は、原作のガッチャードでも度々熱く描写されてましたので、取り入れてみました。
あとレールガンは原作よりも魔力充填率低めです。
シルビアの最後が原作と同じく割と呆気ない感じだと思いますが、映画を観た方ならこのままでは終わらないことはご存知でしょう。
それはまた次回で