この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを! 作:山田プロキオン
「う〜ん…」
シルビアのまどろむ意識が覚醒する。開けた瞼の先は、見渡す限り霞がかっており、先程までいた紅魔の里ではない。
「お〜い、こっちこいよ…」
「綺麗になっちまったよ…」
遠くから聞こえる誰かの声がシルビアの鼓膜を揺らす。聞き覚えのある声、声質からして2人。シルビアが目を凝らして、声が飛んできた方角をよく見てみると、そこには目測7尺程の巨躯を誇る首なしの鎧と、毒々しい紫色の液状の生命体が確認出来た。
「ベルディアに、ハンス…⁉︎」
震える声で死に別れた仲間達の名を呼ぶシルビア。目の前にいたのは、冒険者との戦いで命を落とした魔王軍幹部の仲間の2人で違いない。しかし何処か様子が変だ。
言い方は悪いが、ベルディアとハンスは知性と理性がしっかりとあった。しかし目の前にいる2人は、同じ言葉をただ反芻するだけの傀儡同然になってしまっている。
「こっちこいよ〜」
「綺麗になっちまったよ…」
「え…どういうこと?どうして死んだ2人が…。なんで同じことを繰り返し言ってるの…それよりここってまさか…」
シルビアは思い出した。昔まだ自分が純粋な悪魔であった頃に聞いた話、死んだ魂はあの世へと送られ、生前に悪行の限りを尽くした魂は三途の川へ引きづり込まれる。その際、先に死んだ親しい者達が出迎えに来ると。
ふと、シルビアが足下に視線を移した。先程まで足にかかるくらいだった筈の水位が上昇し、腰まで浸かっている。もう既に三途の川が己を飲み込もうとしている事実にシルビアの全身に鳥肌が浮き出る。
さらに最悪なことに、ベルディアとハンスが一瞬の内に移動してきたと思えば、シルビアの両脚を掴み、川と共に引き摺り込んできた。
「ちょ、何するのよアンタ達!!離せ、離しなさいよ!!」
「こっちにいこうぜ〜、こっちの奴らとは妙に気が合うんだ…きっとお前も仲良くなれるぞ…」
「石鹸石鹸石鹸石鹸石鹸石鹸石鹸石鹸石鹸石鹸石鹸石鹸石鹸石鹸石鹸石鹸洗剤洗剤洗剤洗剤洗剤洗剤洗剤洗剤洗剤洗剤洗剤洗剤洗剤洗剤洗剤洗剤…
ノメル」
「ひっ⁉︎嫌、絶対嫌!!離せって、この!!」
手足を動かして暴れ踠くシルビア。しかしそんな彼女の抵抗を無駄と嘲笑うかの如く、1人では到底逆らうことの出来ない強い力が、徐々にシルビアを川底へと誘っていき、遂には顔まで完全に水に浸かってしまった。
「(終われない…こんな、ところで…私はもっと!!生きて、生きて、生きて……紅魔族とあの冒険者のガキ共…許さない…絶対に、許さない!!)」
川床へと沈むシルビアの脳裏に過ぎるは、紅魔族やカズマ、錬太郎達の顔。胸の中を占めるは、湯水のように無限に湧き出る生への渇望と、自身を死に追い遣った者達への強い怒りや憎しみといった負の感情。
シルビアの中で渦巻く強大な心情はグロウキメラとしての力と共鳴し、シルビアの身体から大きな影のようなものが放出された。やがて影は、シルビアを飲み込もうとしていた三途の川を逆にベルディアとハンスごと丸呑みにしてしまった。
「大丈夫ですか、錬太郎さん。沢山ケミー達との合体を繰り返してましたけど…」
「うん、元気元気。ありがとうねゆんゆん」
その頃、紅魔の里ではガッチャードもとい錬太郎とダクネスの2人の下へカズマ達が合流し、共にシルビアが倒れた場所へと向かっていた。カズマが近寄ってシルビアの鼻と口元に手を当てて確認すると、呼吸はしておらず、完全に息絶えていた。
「よし、死んでるな。討伐は完了ってことでいいのか?」
「そうですね、では里の皆に報告するとしますか。そしてこれからは我が名乗り文句に魔王軍幹部を屠りし者を加えてやるのです!!」
「いやお前は俺のレールガンに魔力提供をしただけであって、仕留めたのは俺だからな?」
「私が魔力を預けたからこそカズマはレールガンを使用できたのですから実質私が仕留めたも同然です!!」
「おっと、めぐみんそれはいただけないな…魔力提供したのは君だけではない。この紅魔族随一の作家も手を貸したのだから私の手柄でもあるんじゃないのかい?」
「それを言うなら私やとどんこだって!!」
「そうよそうよ!!」
カズマとめぐみんの言い争いを皮切りに、あるえやふにふら、どどんこも乗っかって途端に喧しくなる。激戦の後で疲れているだろうというのにくだらないことで元気に喧嘩するカズマ達の様子に、錬太郎とダクネスは苦笑いを浮かべ、ゆんゆんはおろおろとするしかなかった。
「こらこら、私の魔力を分けてあげたとはいえ、めぐみん達はあまり暴れちゃダメよ。いやぁ〜それにしてもこれで倒した幹部は4人目ね!!またお金がガッポガッポと入って…シュワシュワ、高級お肉…」
「おいそこの駄女神、お金の使い道は皆で決めるからお前の要望が通るとは限らないぞ」
「なぁんでよぉぉぉぉ⁉︎⁉︎⁉︎」
カズマの一言にアクアが喰いついて喚き散らかし、場の空気はより一層忙しなくなる。もうそろそろこの諍いを終わりにして、他の紅魔族の皆に知らせなければと、錬太郎が仲介に入ろうとした、その時だった。
『ホッパー!!』
「どうしたの、ホッパー1?」
突如、錬太郎の左腕のガチャードローホルダーから姿を現したホッパー1が、落ち着かない様子である一点をじっと睨み始めた。ホッパー1の視線の先には、倒れているシルビアの姿。ケミー故に純粋で勘が鋭い性質を持つホッパー1の反応に、錬太郎は嫌な前兆を肌で感じた。
「まさか…」
その予感はすぐに現実となった。一瞬の内にシルビアの肉体が彼女から出現した影のようなものに包み込まれ、やがて見るも悍ましい怪物が露わとなる。
蛇のような下半身はそのままに、魔王の加護を受け、魔法及び物理攻撃に耐性を持つベルディアの鎧、触れたものを一瞬で腐敗させてしまうハンスの猛毒スライムの髪、そして初心者殺しのような鋭い牙を携えた姿となってシルビアは復活を果たした。
「許さない…私は、生きて…生きて…」
「おいおい、これって第二形態ってやつか…?53万の帝王みたいに変身隠してたってやつか…?」
『いや、違うよカズマ。確かにあのキメラはカズマに狙撃されたときに完全に死んでいた。それにキメラの中にある気配…ベルディアに、ハンス…』
ホッパー1に続いて現れたクロスウィザードことクロっちの告げた憶測は、皆の間に激震を齎す程には十分だった。
1人でさえ苦戦した幹部が目の前に3人もいるという状況を前に、先の戦いで力を出し切った一同に成す術など到底なく、カズマの合図と同時に全員が踵を返した。
「走れお前らァァァァ!!!!」
悲鳴に近いカズマの大声と共に、大地を蹴り付け逃げ出す錬太郎達。その後を追うように、シルビアは迫って来る。巨体からは想像も出来ないような速さを出しつつ、ハンスの特性で液状化した肉体で周辺の木々や家屋を次々に飲み込んで肥大化しながらじりじりと距離が詰められていく。
「危なかった…危うく三途の川に引き釣り込まれるところだったわ…もう容赦しない、紅魔の里も坊や達も今夜潰す…皆殺しにしてやるわ…」
「やべぇやべえ、完全に目と言葉がイッてやがる…足止めたらまじで殺されるぞ」
「そんなこと誰もがわかっていますよ!!それよりカズマ、いい方法は無いのですか?このままでは皆お陀仏ですよ!!」
「何で一度倒したら前にやっつけた幹部引き連れて復活するのよ⁉︎あんまりだわ!!カズマさぁん何とかしちゃってよリーダーでしょ⁉︎」
「めぐみんにアクア、お前ら揃いも揃って無茶言うな⁉︎逃げるしかないこの状況で考えろってか⁉︎出来るわけないだろ、出来るんなら今この内にも指示出してるっちゅーの!!」
「⁉︎おい、シルビアが毒を出してきたぞ!!」
混乱してまたも言い争いに発展仕掛けていた3人をダクネスの鶴の一声が鎮める。ダクネスの言う通り、シルビアの体より放出された毒の波が逃げ惑う一行目掛けて荒れ狂う。
毒はハンスのもので、触れれば一瞬で体内を猛毒が駆け巡り、骨も残らず死に至る。前回の戦いにてそれを知っていた一同はさらに足の回転速度を上げて走り続けるのだが、毒の波の速さは想像以上で、遂に背後にまで迫っていた。
「マズい、このままじゃ…」
「『カースド・クリスタルプリズン』!!!!」
万事休す、錬太郎達が諦めかけていたその時、魔法の呪文を詠唱する声が響き渡り、一瞬の内に毒の波諸共シルビアが氷結する。魔法が発動された場所に一同が視線を移すと、そこにはほっと一息つくウィズと、彼女の付き添いとしてやって来たであろうバニルがいた。
「ウィズさん、バニルさんも。来てくれたんですか⁉︎でも、どうして…」
「何故って錬金小僧、それは貧乏店主が汝と鬼畜小僧のアイデアグッズを商品化するためにこの里の職人に会いに来たからだ。とはいえ貧乏店主の感性だ。類は友をなんたらとも言うし、我輩は懸念して同行して来たという訳だ」
「ああ…成程な」
「確かにウィズ1人だけだと悲惨な結果になっちゃうかもだわね」
「ひっ、酷いですよカズマさんにアクア様⁉︎わ、私だってしっかり商売で稼いでいけますよ⁉︎」
「そうか?見通す力によると我輩がいなければ再び借金地獄に陥り、最終的には身売りにまで手を染めるしかなくなると…」
「バニルさんんんん!!!!」
「フハハハハ!!悪感情美味であるぞ!!」
皆からの散々な言われように、涙目になりながら抗議するウィズ。そんなウィズが放出する羞恥の悪感情を、バニルはいつものようにニマニマとしながら堪能した。
そんな中、毒の波を凍結していた氷が一部砕かれ、シルビアが顔を覗かせた。
「ウィズ⁉︎それにバニル⁉︎ウィズはともかく、バニルは死んだんじゃなかったの?」
「おお、誰かと思えばモンスターと融合を繰り返して本来の自分を見失い、残機機能を失った我輩の後輩悪魔ではないか。気配からして中年騎士と猛毒スライムも取り込んでいるとみた」
「前回の魔王城での会議以来ですね。お久しぶりですシルビアさん。どうかここは穏便に…」
「ふむ…魔王の奴に我輩が生きていると知られては色々と面倒であるな…」
「「「裏切り者!!!」」」
シルビアのバニルへ怒りに同調し、ハンスとベルディアの声色の混じった咆哮が響く。その様子を愉快とばかりに楽しみながら現れた人物により、場の混沌はさらに加速した。
「いやはや、面白いことになっているねぇ…魔王軍幹部が3人まとめて復活。こいつはいいケミストリーが期待出来そうだ…」
「ロード…何をするつもりだ⁉︎」
「何って、実験だよ百瀬錬太郎。上質な素材を媒介にしたファンタスティックケミーの多重錬成というね…」
鋭い視線を向けながら問う錬太郎に対して、薄気味悪く口角を上げるロードは懐から3枚のケミーカードを取り出す。それらは始祖のケミー、『ドラゴナロス』の属性ファンタスティックに連なるギガバハム、マケンタウロス、ギングリフォンの3体が封印されたものだった。
「『暗黒に、染まれ…』」
ロードの呪文と共にカードの中から解き放たれた3体のケミーは、シルビアへと引き寄せられると、無理矢理融合を始めた。
「ァ…ァァァァ…な、何よこれ…力が溢れて破裂しそうで…く、苦しい…」
「おいおいおい、魔王軍幹部なんだからもう少し根性見せなよ。順応出来たなら更なる強さを得られるんだから。ま、その後に君の意思が残ってるかは分からないけどね、アハハ」
かつてない程の強大な力の奔流に、シルビアは耐えられずに呻き声を上げる。ウィズによって凍り付けられていた毒の波もシルビアの中へと収束していき、またもシルビアの姿が変貌する。蛇のようだった下半身が、馬のような四足のものに変化し、背筋は裂かれて、そこから銀色の翼が出現する。さらに胴体は黒い鱗のようなものに覆われ、顔面も龍を思わせる爬虫類系のものとなり、眉間からは鬼ような2本の角まで生えてきた。
「グォォォォォォォォォォォォォ…」
「おお…実験は成功だなぁ。名前は、シルビアマルガム ファンタスティックミクスタスとでもしておこうか」
右手で顎をさすりながら、ロードは少年のように瞳を輝かせる。その瞳の中で咆哮を上げる怪物には、最早魔王軍幹部のシルビアの面影は一欠片も残ってはないなかった。
「我輩の嫌な予感はこれであったか…錬金小僧に鬼畜小僧は仲間を連れて一度退け。もう十分に暴れられる体力も残っておらぬであろう。ここは我輩と貧乏店主が受け持つ」
シルビアマルガムの相手を買ってやろうと、ウィズとバニルが錬太郎達の前に出る。対して芳しくない反応のロードは、2人の前に人差し指を立てると、チッチッチッと左右に振った。
「う〜ん、ここで魔王軍幹部同士の戦闘は錬成に必要なエネルギーになってくれるんだけど、氷の魔女と見通す悪魔相手なら割と早く終わっちゃいそうだからなぁ…2人の相手はこの子にしてもらうよ」
パチン、とロードが指を鳴らす。その音に反応するようにモノクロの人影が上空から飛来して勢い良く地面に着地する。その勢いたるや、着地点が地割れを起こし、突風と土埃が舞う程だった。
「(めぐみんは黒でゆんゆんは白、ウィズはパープルか…あれ?なんかデジャヴ…)」
いつの日と同じように、突風のおこぼれで捲れた女性陣のスカートの下をしれっと堪能し、目を保養するカズマ。しかしその束の間の癒しの時間も、土埃が晴れると共に露わとなる乱入者の正体と共に終わりを迎える。
先刻、ゆんゆんと錬太郎により倒された筈のノワールガッチャード。爆炎の中で粉砕された筈の肉体と装甲には傷一つ無く、完全に再生し終えていた。
「久しいなぁ、氷の魔女…それに今回は見通す悪魔もいるのか…これはいい。楽しめそうだなぁ…」
「貴方ですか。アルカンレティアでの不始末は、ここでつけさせていただきます」
因縁の相手であるノワールガッチャードに、氷の魔女の異名に違わぬ凍てついた視線で目を据えるウィズ。そのウィズから溢れ出さんとする闘気に、ノワールガッチャードは嬉々として拳を握り締めた。
「そうそう、そう来なくては。だが、ここじゃ場が悪い…広いところで俺だけと朝まで遊ぼうか!!」
ノワールガッチャードは両手を広げ、その後ウィズとバニル目掛けて力強く押し出す。その際に発生した衝撃波がウィズとバニル、ついでに近くにいたダクネスをも吹き飛ばし、3人を後を追うようにしてノワールガッチャードもその場を後にした。
「ウィズ!!バニル!!ダクネス!!」
カズマは遠くへと流されてしまった仲間達の名を叫んだが、返事は返って来ず、早々に主戦力が削られてしまうという最悪の事態に陥ってしまった。
「さて、シルビアマルガムには紅魔の里で暴れ散らしてもらおうか。いつ人のいる場所へ攻撃が飛んでしまうのか見ものだねぇ…」
ロードの指示を受け、シルビアマルガムは紅魔の里への攻撃へと乗り出す。マルガムの背中を見送るロードに錬太郎は1人、気になっていたことを尋ねた。
「ロード、1つ聞かせろ。ギガバハムは僕の父さん、ダンの変身するウインドの力を引き出すケミーの1体だ。それをどうしてお前が持っている?父さんは、どうなったんだ…?」
「あぁ、錬金事変で君とアスラくんが戦っていた裏で百瀬舞と一緒に私をイラつかせていたダン・アストロギアのこと?邪魔だったから時空の狭間に追放しちゃった…アハハ。
でも最後の最後まで彼はしぶとかったよ。本当はダンを追放した後にケミーカードを全て集めて破壊神復活の儀式に移ろうと思っていたのに、彼はそれを見越してケミー達の封印を解き放って世界各地に散らばらせた。で、あの時のことにムカついたから息子の君を苦しめてやってるのさ。恨むのなら、諦めの悪い父親を恨むことだね…」
話すことは話したと、ロードはそれ以上口を開くこともなく一瞬の内に姿を消した。ロードに語られた真実に、錬太郎は静かに俯く。父はこの世界にもういない。もしかしたら、見果てぬ世界で息絶えたのかもしれない。予想はしていたが、心の中にぽっかりと虚空のような穴ができたような気分である。
「錬太郎さん…」
自身を心配するようなゆんゆんの声に、錬太郎はハッとした。そうだ、今ここで落ち込んでいても仕方がない。今マルガムを止める方法を、今ある命を全力で守る為の策を見つけ出さなくては。
頬を軽く2回叩き、錬太郎はカズマを中心とする作戦会議の輪へと参加した。
「で、どうする?あのマルガム、生半可な攻撃じゃ倒せねぇぞ」
「魔術師殺しの影響で魔法も殆ど通じないでしょうし、本当にどうしたら…」
策略に長けるカズマと紅魔族随一の天才であるめぐみんが頭を捻っても中々にいい案が浮かばず、行き詰まってしまう。錬太郎やゆんゆん、あるえも知恵を絞るがそれでもいい案は出て来ない。出口の見えて来ない状況の中、会議参加者の1人であるどどんこが何か閃いたようだ。
「ねぇ。レールガンの時のアレでいけないかな?」
「何を言っているのですかどどんこ。レールガンは我々の魔力の反動に耐えきれずにもう壊れてしまったじゃないですか!!ここに来て頭がおかしくなりましたか?」
「めぐみんアンタ本当に言い方キツいわねぇ〜!!まぁ、今はいいわ。そうじゃなくてレールガンみたいに、私達5人で魔力を集中させて貫くのよ。それなら魔術師殺しを突破しつつ倒すことも出来るかもしれないじゃない?」
どどんこの作戦に皆成程と納得した様子で手鎚を打った。確かに人力でレールガンのような攻撃を再現することが出来れば撃破は夢ではないかもしれない。それでも課題は未だ多くある。
「でもドリルみたいに魔力を調節することとか出来んのかよ…それにあんなデカブツを倒すには大量の魔力がいることは目に見えてる。カンストしてるアクア以外にも提供者は必要だろ?」
「問題ありませんよカズマ。魔力操作など、我ら紅魔族達には造作もありません。そしてアクア以外の提供者もこの里にごまんといるではありませんか!!」
『成程。紅魔族の人達の協力を貰うってことか。そこに僕達ケミーの力も加えれば、あのマルガムからギガバハム達を分離することだって出来るね』
「流石クロっち、理解が早いですね!!そして魔力の受け渡しはカズマのドレインタッチ!!勝利の譜面は完成しました!!魔王軍幹部など最早恐るるに足りません!!」
完璧な作戦とばかりに、めぐみんは勝ち誇ったように腕を天高く掲げる。しかし、一番肝心な部分をアクアの一言がピンポイントで突いてきた。
「でも…そうなるとマルガムは誰が相手取るの?もしも気付かれでもしたら一瞬で終わりよ」
アクアの指摘にめぐみんの表情は笑みを消し、苦いものへと変わる。紅魔族達の魔力を集めるにはかなりの時間を要する。それまでの間に囮となる存在は必須となるだろう。
勿論、シルビアマルガムを単騎で相手取るなんて出来るはずもない。また別の方法を考えねば、と皆が意気消沈する中、1人だけ手を挙げる者がいた。
「錬太郎、お前…」
「僕が囮になるよ。マルガムの注意を引きつつ、魔法の射程範囲内で持ち堪えるからその間に…『ダメ!!』」
話し終える前にクロっちが錬太郎に割って入り、強い口調で却下を下す。クロっちが声を荒げる様が珍しいがために、皆何も言えずに驚いていたが、そんなのお構いなしにクロっちは話を続ける。
『もう多重錬成を何度もやっているんだし、今日は出来てスーパーガッチャードあと1回くらいだよ⁉︎
それくらいにもう身体は悲鳴を上げてる。加えて殆どのケミー達はめぐみん達の協力で君の手元にいないんだ!!自分がどれだけ無茶なことを言ってるのかわからないの⁉︎』
「わかってるよ…でも、それしか方法がない。折角どどんこさんが見つけた突破口なんだ。なんとしても持ち堪える…出来る出来ないじゃない、やらなきゃここで皆死ぬんだ!!退く訳にはいかない!!もう、誰かに大切な場所を失う苦しみは味わってほしくないんだ…」
力強く言い返す錬太郎に、今度は逆にクロっちが圧倒される。炎のように滾るその瞳には、鋼鉄のように堅い意志が見て取れた。この男は、自分の体が壊れようとも、めぐみんやゆんゆんの、大切な仲間の故郷を守りたいと強く望んでいる、その決意を前にクロっちは折れた。
『わかった…でも変身するならクロスウィザードにして?僕が可能な限り補助するから』
「うん…」
作戦は定まった。錬太郎はホッパー1、スチームライナー、クロスウィザードを除く全てのケミーカードをカズマ達に預けると、1人シルビアマルガムのいる場所へと向かって駆け出す。エクスガッチャリバーをベルトユニットに変形させて装着し、3枚のケミーカードをベルトへ装填した。
『ホッパー1!』『スチームライナー!』
『クロスオン!マスタージョブ!』
ベルトが装填したカードに宿るケミーの名前を読み上げるとともに神秘的な待機音が鳴り響く。その間に錬太郎は両手で円を描いて両手を重ね、その手を反転させて矢印の先端を形作り、正面に突き出して声を響かせ、ベルトのレバーを操作した。
「変身!」
『ガッチャーーンコ!!エーックス!!』
眩い光が錬太郎を包み込み、群青の装甲に紺碧の魔法装束を纏った戦士、仮面ライダースーパーガッチャード クロスウィザードへと変化させる。
『クロスウィザード!!スーパー!!』
スーパーガッチャードは、自身の両足に風の魔法を付与して飛翔すると、シルビアマルガムの注意を寄せ付けるために接近した。
「こっちだ、マルガム!!」
同時刻、カズマ達は紅魔族達の下へと集まり、魔力を提供してもらうよう頭を下げて回っていた。紅魔族達の反応は悪いものではなく、寧ろ皆乗り気であった。未知なる敵を前に、ドレインタッチという闇のスキルで全紅魔族の力を結集させるというのは彼らの琴線にどうもグッと来たらしい。その中でもひろぽんやゆんちゃむ、ゆいゆいにひょいざぶろーが嬉しそうにしていた。
「まさか私の娘達が魔王軍を倒す切り札になろうとは…立派になったものだなぁ…」
「族長、お互いの娘の成長を祝って今度晩酌でもいかがでしょう?」
「ちょっと貴方⁉︎ごめんねゆんちゃむ、うちの旦那が…」
「いえいえ、ふふ。今から楽しみね」
パーティメンバーの親達の会話を耳に挟みながら、カズマは魔力を集めていく。魔力と共に紅魔族達の想いも吸い取っているのか、カズマの中のこの里を守りたいという気持ちも膨らんでいった。
「カズマ、まだですか?」
「はいただいまぁ…うぷっ、魔力多すぎ。早くめぐみん達に渡さないと俺が破裂しちまう…」
紅魔族全員から魔力を受け取り終えたカズマは、重い足取りでめぐみん達の方へと向かう。しかしその時、状況確認のために用いていた千里眼スキルで映った景色に思わず息を呑んで足を止めてしまった。シルビアマルガムの攻撃を受けて、錬太郎が倒れしまっていたその光景に。
カズマが魔力回収をしている頃、スーパーガッチャードはシルビアマルガムと攻防を繰り広げていた。攻防とは称しつつも、実際は途方もないシルビアマルガムの攻撃をスーパーガッチャードが魔法防御や体術で捌くだけの防戦一方に近いものだった。
「(技が尽きない…毒の触手に口からの火炎放射。加えて弓による狙撃と大剣による斬撃…こっちが攻撃しようにもデュラハンの鎧で悉く無効化される…
ヤバい、目が回る…身体中の筋肉も強張り出してきている…攻撃を受けてないのに五臓六腑が殴られているみたいに痛い…四肢の感覚も…なくなってきた…)」
連戦に次ぐ連戦、多重錬成を繰り返す変身は、錬太郎の肉体に想像以上の負荷を及ぼしていた。次第に手足の動きが鈍り、釣られて蓄積した疲労が足枷となって思考も鈍る。遂には酸欠で視界が失われ、同時にシルビアマルガムの無慈悲な大剣による一撃がスーパーガッチャードを弾き飛ばした。
「ァァァァァァァァァァァァ!!!!」
吹き飛ばされたガッチャードは、岩の壁に強く叩きつけられ、弱々しく地面にその身を預け、変身が解除される。それでも尚立ちあがろうとするも耳鳴りは止まず、視界ははっきりとしない。先の強打で肋や鎖骨、左腕の骨は折れて、全身に激痛が走る。
「あ〜あ、無駄なのに頑張っちゃって…」
満身創痍の錬太郎を嘲るかの如く、シルビアマルガムの肩の上にロードが現れ皮肉を綴る。身体の痛みに顔を歪ませ、地面に膝を突いてしまった錬太郎に対して容赦ない言葉を吐き続けた。
「全く、どうしてそんなに足掻くのかなぁ?何かを守る為に自分が傷つくなんて馬鹿馬鹿しいことこの上ないだろうに…」
「傷つく?それが何だ?そんなこと…百も承知だっての…」
痛みに耐え、ロードの言葉を跳ね除け、錬太郎は立ち上がる。まだ余力があるのかと、ロードは内心驚きながらも、錬太郎の言い分に耳を傾けた。
「力が足りなくても、皆から後ろ指をさされて馬鹿にされても…それでも、ゆんゆんや、カズマ達とかけがえのない日々を過ごしたこの世界を守りたいから…皆が笑顔でいられる場所を守りたいから…だから、僕は…何度でも、立ち上がる!!」
変身出来ずとも闘志は消えず。錬太郎は両目でロードを見据えて睨みつけた。その姿は、ロードに昔の記憶を想起させた。
まだ自身が純粋無垢な転生者の
守る、救う、身の丈不相応なことばかり約束する井の中の蛙同然であった自分を見ているようで、不快極まりなくなったロードは、自身の額に青筋を浮かべた。
「百瀬錬太郎…お前は不愉快だ…もう、いい。やれ」
今までにないロードの冷淡な声での指示に従い、シルビアマルガムは弓を構え、錬太郎目掛けて矢を放つ。光をも超える速さで迫る矢は、瞬く間に錬太郎の眼前へと迫り、最早回避することも出来ない。
「「「「錬太郎(レンタロウ)(さん)!!!!」」」」
カズマ、アクア、めぐみん、ゆんゆんが悲鳴に近い声を上げるももうどうにもならない。
筈だった。
『ガイアード!!エクストラッシュ!!』
刹那、空中から飛来した何者かによって繰り出された一太刀が矢を斬り裂き、寸前で錬太郎への直撃を免れた。弾かれた矢は地面に落ちたと同時に火を上げる。その火の粉の舞う中から、人影の全貌が明らかになる。
トンガリ帽子に長い黒髪と茶色の瞳、緑色のローブを羽織っていて、右手には赤いエクスガッチャリバーを携えた1人の少女。初めて見る冒険者に、ロードは威圧しながら問い出した。
「何者だ?」
「我が名はえみりん…紅魔族随一の上級魔法の使い手にして、
最後の紅魔族」
第73話 最後の紅魔族
やっと、やっとここまで来れた!!
遂にえみりん完全合流です。
長かった…ここまで読んでくださった皆様には感謝してもしきれないくらいです。本当にありがとうございます。それしか今伝えたいことが見つかりません!
おまけ
シルビアマルガム ファンタスティックミクスタス
身長:55メートル
体重:4万4千t
素体:金
詳細:あの世で彷徨っていたベルディアとハンスの魂を取り込んだシルビアに、ロードが術を施すことによってギガバハム、マケンタウロス、ギングリフォンが融合した姿。
シルビアの生きたいと強く思う気持ちと、紅魔族とガッチャード達への憎悪を力の源としているが、力に飲み込まれてしまったがためにシルビア、ハンス、ベルディアの意識はほぼ無いに等しい。
始祖のケミー、『ドラゴナロス』に通ずるファンタスティック属性のケミーを3体を媒介にしていることや、魔王軍幹部3人分の力も合わさり、他のマルガムとは一線を画す強さを誇る。
翼による飛翔、馬の下半身による疾走など高い機動力を誇る他、火炎放射、弓による射撃、全身から毒の触手を射出、大剣による斬撃など攻撃手段も豊富。加えてベルディアの鎧や瞬間再生能力もあるため、攻撃を通すことは至難の業。
初期の予定ではここにハオーディンを加えて、天候操作能力も付与しようと思いましたが、流石に強すぎるので没になりました。