この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを! 作:山田プロキオン
時系列は本編の5年前、錬太郎10歳、ゆんゆん9歳の頃のお話です
アクセルの街に聳え立つ巨大な屋敷。この街でそれなりに名前の知れ渡っている最弱職の冒険者にして、魔王軍幹部を4人撃破するという目覚ましい活躍を続けている徒党の主、サトウカズマが拠点としている場所である。
彼の他には人々から疎まれるアクシズ教徒の女神や、性癖が特殊な女聖騎士、感性が独特な爆裂魔法を愛する魔法使いに、内気で友達欲しさに悪魔を呼び寄せようとした少女など、メンバーは揃いも揃って個性派揃いである。
そしてもう1人、彼等のパーティに在籍する冒険者が1人いるのだが…。
『錬太郎〜、もう朝だよ〜』
『よしなよクロっち。まだ紅魔の里での疲れが取れていないんだろうし、ゆっくりさせてあげなよ』
『ホッパー!!』
『まぁ、それもそうか…でももうすぐ昼前だし、生活リズムくらいはなんとかした方がいいんじゃない?』
その冒険者、百瀬錬太郎の個室に集まる影が3つ。1つは錬金術によって生まれた奇跡の人工生命体『ケミー』のその頂点に君臨するレベルナンバー10が1人『クロスウィザード』、2つ目は吸血鬼を思わせる風貌をして、ただならぬ色気を醸し出すオカルトケミーの一体『ズキュンパイア』、最後は飛蝗のような見た目で桃色の瞳と額の矢印が特徴的なインセクトケミーの『ホッパー1』。
彼等が錬太郎の部屋の前に集まった理由は1つ。もうとっくに日が天頂を陣取った時間帯になったのにも関わらず、錬太郎が起きる可能性が微塵も見えないからだ。普段の錬太郎なら、東から太陽が顔を出して暫くした頃には目を覚ますのだが、最近の紅魔の里での激戦で疲労が予想以上に蓄積していたようで、まだ元の習慣での生活をするには支障をきたすようである。
そんな錬太郎は絶賛爆睡中。現実と幻想の狭間。微睡む意識は夢の中の最深部へ囚われている。
鮮やかに眠る脳内を彩る景色。それは在りし日の記憶、度重なる戦いの日々で錬太郎が忘れかけていた大切な思い出の一欠片だった。
「うーん、ここに置いたら…こう? いや、でも…」
紅魔の里の外れ、魔神の丘と呼ばれる雄々しい岩岩に包まれた小高い丘。夕陽が茜色に空を染め、緩やかな風が草むらを優しく撫でる中、ぽつんと座る小さな影があった。
彼女の名前はゆんゆん、紅魔族族長ひろぽんとその妻ゆんちゃむの一人娘で9歳の少女だ。
宝石のような赤い瞳を爛々と輝かせ、地面に引いた線で枠組まれた表をじっと見つめては、眉をひそめ、首を傾げ、睨めっこをしている。
ゆんゆんが1人興じているゲームは三目並べ。自分で○と×を交互に置き、勝ち負けを想像しては1人で頬を綻ばせ、またある時は1人で悔しそうに唇を尖らせていた。しかしゆんゆんの一挙一動はどこかぎこちなく、楽しげな笑顔の裏に、ほんの少し陰りが混じっていた。
「ふふっ、勝った!!さすが紅魔族の天才、ゆんゆん!! 次は…うぇ⁉︎負けた…ううっ…でも次は絶対…」
心にぽっかりと開いた空洞を無理矢理払拭するように独り言を呟きながら、ゆんゆんは小枝を握り潰す勢いで右手に力を込める。引っ込み思案な彼女としては珍しく、紅魔族独特の仰々しい高揚ぶり。その証拠に、ゆんゆんの発する言葉1つ1つが丘一帯に響いていた。
しかし悲しきかな、そんな彼女の声に耳を貸す者は、同郷の紅魔族達はおろか、魔神の丘を住処とする小動物の中にもいなかった。
ほんの少し、皆と同じ紅魔族らしい振る舞いをすれば誰かやって来てくれるかもしれない。そんな淡い期待を打ち砕かれたゆんゆんは、しょんぼりと肩を落としながらも、再び1人遊びに取り掛かった。
「じゃあ次は…」
突如として背後の木陰の茂みから漂うかすかな気配に、ゆんゆんは手の動きを止めた。明らかに人為的な葉擦れの音に、ゆんゆんの心音がどくりどくりと大きく脈打ち始める。熊か悪魔か、あるいはめぐみんやあるえ、将又魔王軍の手先か。
深呼吸を1つ挟み、覚悟を決めたゆんゆんがゆっくりと振り向くと、そこには自分と同い年くらいの少年が立っていた。短く切り揃えられた黒髪に、感情の機微が全く読み取れない黒曜石のような瞳、紅魔族の魔法学校、『レッドプリズン』の派手な赤色を基調とした制服とは正反対の黒色のローブを身に纏っていた。
「ひ、ひゃっ⁉︎だ、誰⁉︎」
ゆんゆんは手の中から小枝を取り落とし、慌てて立ち上がっては後退りする。興奮して眩い光を放つ紅い瞳がじっと少年の姿を捉え、少年もまた網膜の中で像を結んだゆんゆんの百面相を、感情の機微こそ見せなかったが、興味深そうにして覗き込んでいた。
「紅魔の里で見たことない…よそ者⁉︎ま、まさか魔王軍の刺客⁉︎うう…で、でも私戦闘魔法まだ使えないし…」
未知なる存在に溢れ出る困惑の情を取り除くことが出来ず、遂にはしゃがみ込んでしまうゆんゆん。そんなゆんゆんの動揺をよそに、少年は静かに小さな喉奥を揺らした。
「何、してるの?」
感情の起伏が少なく、淡々とした抑揚のない声。それはまるで風のよう。先程までの震えがぴたりと止み、ゆんゆんは呆気に取られたような面持ちで少年を見上げる。
「ねぇ、何してるの?」
ゆんゆんが一向に答えないので、少年はこてんと首を傾げて再度尋ねる。心無しか、語気が先ほどよりも強い。悪意など微塵もなく、それが一層怖気を誘う少年の声にゆんゆんはびくりと身体を震わせて、しどろもどろとした様子で話し始めた。
「え、えっと! こ、これは丸バツゲーム…三目並べっていって、面白い戦略的ゲームなの!!ほ、ほら、こうやって9かけ9のマスを作ってそのマスの中に◯と×を交互に書いていって先に縦か横か斜めに三つ揃えたら勝ちで…」
ゆんゆんは地面を指差し、必死に少年へ説明する。少年はゆんゆんが小枝で書き記したマスの方へと歩み寄ると、膝を屈めてマス目をじっと凝視した。
「ふむ…」
少年は、白い右手を柔肌に覆われた顎に這わせて小さく唸った。時折成程、納得とこくこくと首を縦に振り、やがて一通り地面に刻まれたマス目に目を通し終えた少年の視線が、ゆんゆんの方へと移る。感情を全く読み取ることの出来ない少年の瞳を前に、またしてもゆんゆんの鼓動は緊張に蝕まれ、高鳴った。
「楽しいの? 一人で…」
不意に少年の口から零れた疑問。その言葉に、ゆんゆんは一瞬、心臓が蔦で雁字搦めにされたかのように感じた。
紅い瞳が左右を流れ、華奢な体躯と唇が小刻みに震える様子から、動揺しているのは見た明らかだ。
「う…うん!!楽しい、よ!!うん、すっごく楽しい!!」
「本当に、そうなの?」
取り繕うようにして気丈に振る舞い、少年に言い張ってみせるゆんゆん。しかし全て見通しているかのように真偽を問う少年に何も返すことが出来ず、ゆんゆんは俯いてしまう。
「…一人は、楽しくない…」
弱々しく小さな呟きがポツリと零れた。その瞬間に心の枷が外れて我慢出来なくなり、ゆんゆんは膝を抱え、目尻には湯水のように熱いものが込み上げてくる。
「みんな…私と一緒に遊んで…くれないの…里の中で……変な子扱いされていつも一人で…。本当は誰かと遊びたいの……」
絞り出すようになんとかして綴られる言葉。ゆんゆんの本心を、少年は一言一句聞き逃さなかった。
「友達、欲しいなぁ…」
その言葉を最後に、ゆんゆんは話すのをやめた。否、話せなかった。紅眼から絶え間なく大粒の涙が溢れ出し、嗚咽も漏らした。少年が見ているであろうことも気にかけずに。頬を伝う無数の涙は、地面へと零れ落ち、雑草を揺らす。少年は何も言わなかった。数分の間、無言を貫いた。
どのくらい経っただろうか。未だに泣き止む気配のないゆんゆんに、流石の少年も居心地が悪くなったようで、ゆんゆんの方へと歩み寄る。そして彼女の目線に合わせるように膝を折って屈むと、今まで聞き手に徹して閉じていた口を開いた。
「俺、君と一緒に遊びたい」
「えっ⁉︎」
少年からの思いがけないカミングアウトに、ゆんゆんは顔を上げ、目を大きく見開いた。
夢か真か、他の人間と比べて知能が高い紅魔族であるというのに情報を脳内で上手く処理出来ない。驚きと歓喜が渦巻いた感情の奔流は、流石のゆんゆんでも初めての経験であったらしく、その状態で受け答えをしろということ自体酷な話と言われてしまえばそれまでではある。
ゆんゆんからの返答がないため、少年は無表情を崩し、僅かに不安の色を帯びた瞳をして、再びゆんゆんに尋ねた。
「だめ、かな?」
「だめじゃない!!だめじゃないよ!!やったぁ、友達できた!!初めてのお友達!!」
ゆんゆんは飛び上がって喜んだ。内気な彼女としては珍しく、両手を大きく振っていつになくはしゃいだ。そんなゆんゆんの姿に少年も嬉しく思ったのか、硬いままだった頬が僅かに緩んだ。
「じゃあ、何して遊ぶ?」
「えっとね〜、じゃあ…」
あれから数刻経っても、少年とゆんゆんは楽しそうに魔神の丘の上で楽しそうに遊んでいた。三目並べに始まり、かくれんぼにかけっこ、そして今は鬼ごっこをしている。
「今度こそ、捕まえた!!」
ゆんゆんは紅魔族所以の高ステータスで野を駆け回り、少年との距離を詰めていく。そしてゆんゆんの手は、少年の背中にまで迫った。しかし…。
「『偽りなき真ニテ げに真なり』」
青色の矢印の装飾の施された指輪が人差し指に取り付けられている右手を目の前に翳して少年は呪文のようなものを詠唱する。刹那、空間が歪むと同時に少年の姿も溶けるように消えてしまった。
「また⁉︎んもぅ!!」
あと一歩のところで逃してしまい、ゆんゆんは悔しさのあまり地団駄を踏む。これでかれこれ6回目。追いつかれそうになっては少年が摩訶不思議な術を発動して姿を隠してのイタチごっこの繰り返し。流石に焦ったく感じたようで、ゆんゆんは頬を膨らませて少年に抗議した。
「もうその魔法禁止!!ずっと捕まえられないもん!!」
「魔法じゃない、錬金術」
再度空間が歪み、中から少年が姿を現す。不機嫌そうに眉を顰め、ずかずかと靴音を響かせながらゆんゆんに近寄る。錬金術を魔法呼ばわりされたことが余程お気に召さなかったようだ。
「誰でも覚えることが出来て、生活から戦いまで幅広く支えてくれるのが魔法。使える人が限られて、無から有を編み出す技が使い手の技量に関わるから扱うのが難しいのが錬金術。全然違うもの、一緒にするの、よくない」
「ふぅ〜ん、じゃあ他の錬金術も見せてよ」
紅魔族元来の勝ち気な部分が表に出てきたようで、少年を煽るようにゆんゆんが迫る。ゆんゆんの売り言葉に少年も買って出て、指輪の嵌められた右手を掲げ、錬金術発動の呪文を発した。
「『下にあるものは上にあるもののごとく 上にあるものは下にあるもののごとく ただ一つたる 奇跡をなさん』」
詠唱が終わると同時に、少年を中心として付近に散っていた花の花弁達が意思を持っているかのように天高くに誘われると、桜吹雪の如く一斉にひらひらと舞い散る。
啖呵を切ったゆんゆんも、その美麗な景色に思わず見惚れて言葉を失い、ただただ感嘆して紅い瞳を煌めかせた。
「凄い…凄い凄い凄い!!凄いよ、君の錬金術!!」
感極まるあまり、語彙力すらままならない状態でゆんゆんは称賛を贈る。彼女の言葉に少年は頬を緩め、しかし何処か寂しそうに瞳を揺らしながら口火を切った。
「でも…俺なんてまだまだだよ……父さんやハガネ兄さん、ライラ姐さんはこんなもんじゃない…俺、要領悪くてそんなに頭良くないし……」
「凄かったよ!!」
卑屈になって自虐を続ける少年に耐えられなくなったゆんゆんは、思わず少年の両手を優しく包む。ゆんゆんの行動が予想外だったようで、少年は口をぽかんと開けて、わかりやすく唖然としていた。
ゆんゆんの方も、後から我に帰ったのか、急速に頬を紅潮させる。しかし手を離すことはなかった。寧ろ先程に比べて握る手に力が籠っていた。
「はじめてだ…俺のこと、こんなに褒めてくれる人…」
今にも泣き出しそうで、しかし心の底から嬉しそうに少年は破顔した。釣られてゆんゆんも、目を細めて笑った。
ありがとう
そう言葉を連ねようと少年が口を開こうとする。その時だった。
「レンちゃん?」
ふと背後から聞こえた声に、少年は口を摘んで振り向いた。そこに居た人物を前に、少年は肝を冷やしたかのように顔を青く染める。
紫を基調とした流麗な長い髪、制服のような臙脂と青のマント付のジャケットを羽織り、丈の少し短いスカートを履いている女性は、腰に手を当てて仁王立ちをしながら少年を眼前に捉えている。
眉間に皺を寄せるその様子から怒っていることは明らかで、少年は蛇に睨まれた蛙のように萎縮しながら唇を震わせた。
「ら、ライラ姐さん…」
「姐さんじゃ、ないわよ!!」
少年からライラと呼ばれた女性は、少年の手を取るとゆんゆんから離し、説教を始めた。
「またワープテラに頼んで勝手に街の外に出たんでしょ?錬金術師の教え、忘れたの?」
「……学校を卒業するまで許可なく街の外に出てはいけない……未完成な錬金術を許可なく他人に見せびらかしてはいけない……」
「ちゃんとわかってるじゃない。どうして約束が守れないの?」
「……ごめんなさい」
押し寄せる炎の如く詰め寄る様は当に鬼のようで、少年はライラの口煩い話に頷くしかなった。ゆんゆんは遠目からしか少年とライラの様子を見ることが出来なかったが、怒られる少年を心底気の毒そうに感じた。
何か言ってやろうとも思ったが、2人の事情に部外者の自分がとやかく言ってはいけないのだろうと気持ちを押し留め、ただ見ることしか出来なかった。
「はぁ…。アルケミアに帰ってから説教の続きをするから。ダンさんも舞さんも心配してるのよ?後、あの
「あ……」
少年はゆんゆんのいる場所へと向かうライラの裾を掴んだ。ライラは気にせずに歩を進めようと試みるが、少年の裾を握る力が思いの外強かったため、観念して少年の方を振り向いた。
「何?どうしたの?」
「俺がやる…姐さんは見てて…」
「?錬金術が稚拙なレンちゃんじゃ記憶消去は出来ないでしょ?」
「出来る、前に学校で習った。それに…俺がやったことだから、けじめは自分でつけたい……」
少年は真剣な眼差しでライラに訴えかけた。その瞳の色に嘘偽りは一切ないと根負けしたライラは、特別に少年に後始末をすることを許可した。
少年はゆんゆんの元へとやって来ると、懐から5枚の札のようなものを手渡した。
「ごめん、俺そろそろ帰らないといけないから…これ、あげる」
「なぁに?これ?」
ゆんゆんは珍妙なものを見るようにまじまじと札を眺める。札を全てゆんゆんが受け取ると、少年が札の詳細を話始めた。
「俺の街でのお守り。ケミー…街の守り神達の為に使うお札。全部あげる」
「いいの?大切なものなんでしょ?」
「街にいっぱいあるから平気…それに、離れていても…友達だから……」
少年の声が次第に小さくなっていく。様子がおかしい少年を不思議に思い、ゆんゆんが顔色を伺うと、少年は両瞳から止めどなく涙を溢れさせていた。声をなんとか抑えていたようだが、やがて我慢出来ずに啜り泣きを始めた。
「あわわわ⁉︎だ、大丈夫⁉︎お腹痛いの?具合悪いの?」
突然泣き始めた少年にゆんゆんは慌てふためきながら気遣う。しかしそのゆんゆんの優しさも、少年にとっては肺胞をナイフで抉られるように苦しかった。
「ごめんよ…ごめんね…」
少年は右手をゆんゆんの目の前に翳し、小声で詠唱を始める。呪文が終わると同時にゆんゆんの意識は切れた糸のようにプツンと途切れ、倒れた身体を少年が優しく受け止めた。
「さよなら……」
ゆんゆんを地面に寝かせると、少年は振り返ることなくライラの後を着いて行き、何処かへと姿を消してしまった。
陽の光が沈み、代わりに星々が姿を見せ始める。星々の放つ光は、少年を沈んだ心と対照的に、ひどく爛々とした様で輝いていた。
「あ、もう昼か……」
窓から差し込む陽光に照らされて、漸く目を覚ました錬太郎は、何故か自分が泣いていたことに気づいた。右頬に冷たい感触が残っていたからだ。紅魔の里での語らいで確信した。
あの日出会った女の子はゆんゆんだったのだと。離れていても友達、その約束は叶えられたというのに、心を埋め尽くすのは記憶を消去してしまった罪悪感。
自分が未熟故に記憶はゆんゆんの中で中途半端ではあるが残っていたようだが、それでも心に落とされた陰は拭えるものではない。
溜息を挟み、また自己嫌悪に陥ってしまったその時、自室の扉が開いてゆんゆんが姿を現した。
「錬太郎さん、体調どうですか?お昼ご飯作ったので皆で食べませんか?」
「……うん、今行く」
笑みを浮かべて、錬太郎は重い腰を起こして自室を後にする。過去は巻き戻すことは出来ないし、易々と変えられるものではない。けれども、今この瞬間、そして未来ならば、自分次第でいくらでも変えられる。
あの日交わした約束を、必ず守り抜けるように。錬太郎は心に強く誓うと、ゆんゆんと共にカズマ達の待つ食卓へと向かうのだった。
「あの少女は…目的の時代に…辿り着いただろうか…」
時空の狭間。過去と未来と今が混在する空間を、黒衣の男が1人、漂っていた。無数に枝分かれしている時空の道の中の1本を鋭い視線で見据え、時間の波を掻き分けながら人知れず歩を進めていく。
「待っていろ錬太郎…俺の…息子よ…」
補足
何故お互いのことを覚えていない、若しくは結びつけられないかというと
ゆんゆん…当時の錬太郎の一人称が「俺」であることと、一部記憶を消された、加えて当時の錬太郎は初対面の相手に対しては素朴な感じで接する故に今と乖離していたが故に結び付けられていない。因みに錬太郎のこの性格は一年程で矯正され、後にアスラの前で見せた活発な感じになりました。
錬太郎…それなりに覚えてはいたが、錬金事変や王都でのいざこざで記憶の片隅に追いやられていました。
さらなる補足
昔のケミーの封印方法は、カードではなく札でした。万が一誤ってアルケミアを抜け出してしまったケミーの保護のために用いられた手段でした。
札にケミーが封印されるとケミーカードに変化する仕組みなのですが、持ち運びが面倒臭く、カードの方が手軽とのことでブランクカードが生まれ、札の存在は次第になくなっていきました。
部外者であるゆんゆんにこの札を錬太郎が渡したことが明らかになると大騒ぎになり、錬太郎はこっぴどく叱られました。ゆんゆんは貰った札を宝物のように大切にしており、後にその札で5体のプラントケミーをガッチャしております。
アルケミアの教えの中に、善意や悪意両方に引き寄せられる性質のケミー達はアルケミア以外の人間と過度な接触を禁止するものがあり、思うところはケミー達もあるものの、それでも人間達が大好きなので受け入れていました。錬太郎が当初、ケミー集めからカズマ達を遠ざけようとしたのは、ロードとの戦いに巻き込みたくないというのと、この掟もあったからです。幸い、アクセルの街や紅魔の里の人々は基本善意の塊なので、ケミー達は殆ど不自由なく行動出来ています。
因みに錬太郎は、記憶消去の錬金術が1番苦手で(上手くいったゆんゆんでも中途半端に覚えていたのはこのため)、今でも完璧に扱うことが出来ません。故に、錬金事変後に広まった錬金術師の悪評を打ち消すことが出来ませんでした。
先述のアルケミアの理念を重んじている部分もあるためか、錬太郎は本家ガッチャードの宝太郎のようにケミーと人間の共生にそこまで重きは置いておらず、あくまで適切な距離を維持して両種族の平穏を心掛けています。6期鬼太郎の人間と妖怪の関係に対する考えに近いです。