この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを!   作:山田プロキオン

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錬金見聞録:序章 

太古の時代

神々と悪魔、天界を二分する大戦争あり。

果てなき諍いの最中、神々が用いし切札。

創造と破壊を司る禁忌の一品。

その名を、「賢者の石」


第6章:王女様とオロチ様⁉︎王都攻防戦と父の帰還
この招待状に新たな一悶着を!


 ウィズ魔道具店。アクセルの街にある売り上げが赤字塗れの常に閉店という名の危ない綱渡りをしているある意味で有名なお店だ。しかしながら今現在、店長であるウィズは商品の仕入れに向かっているため不在である。

 店に訪れた百瀬錬太郎は、ほぼ副店長である見通す悪魔のバニルと錬成ポーションの話し合いをしており、バニルが錬太郎より提供されたポーション入りの瓶を細部までまじまじとチェックしている。

 

「ふむ。これまた高純度のポーションであるな。疲労及び魔力の回復は勿論、軽度な状態異常も無効化する。この歳にしてここまで出来るとは。流石、錬金小僧。頭のイかれた種族達の集う地で忘れられない夜を過ごしただけはあるではないか」

 

「後半全く関係ありませんよね?あとゆんゆんとの出来事を語弊を生む表現にしないでいただきたいのですが?」

 

 いつものようにバニルは商売仲間である錬太郎相手であっても冷やかしを入れ、錬太郎はバニルの言ってくることなど分かっていながらも、眉をひくつかせながら声を僅かに荒げた。

 しかしそんな錬太郎の反応も想定内であったようで、バニルはにちゃりと口角を上げて再度口火を切る。

 

「ふむ?吾輩はぼっち娘と何があったとは一言も言っておらぬぞ?」

 

「あっ…」

 

 バニルの指摘で会話を思い返し、漸く錬太郎も自爆したことを理解したようで、みるみる顔を紅く染めていった。

 

「フハハハハ!!墓穴を掘ったな!!汝の羞恥の悪感情大変美味であるぞ!!」

 

 悪感情なる好物を平らげ、有頂天のバニルから繰り出される容赦ない口撃。錬太郎は地団駄を踏み悔しがるが、その際に放つ錬太郎の感情も、新たな悪感情となってバニルへと提供されてしまう。

 ガッチャードとして過酷な戦い重ねており、同年代と比べて精神は成熟しているものの、それでも錬太郎は15歳。まだまだ未熟な部分はあるようだ。

 

「おっと、話は変わるが錬金小僧。汝に伝えておかねばならぬことが2つある」

 

「伝えておかないこと?」

 

 先程のおちゃらけたような雰囲気から一変。バニルは神妙な様子で錬太郎に話し始める。真剣なバニルを相手に、錬太郎も一言一句聞き逃してはならぬと感じた。

 

「汝の中にはベルトに付随して虹が渦巻いたような、我輩もあまり探りを入れることを躊躇うようなものが眠っている。それが何であるか、錬金小僧はわかるか?」

 

「はい…、昔アルケミアの歴史の授業で習いました。ガッチャードライバーはあるものの欠片から錬成したもの。そのあるものというのは……、『賢者の石』」

 

「ふむ、意外と知っているようであるな。ではその賢者の石がどのようなものであるか、汝は知っているか?」

 

「少しくらいは…亜空間で始まりの錬金術師の1人が見つけて、その賢者の石を媒介に、錬金術でケミー達が生まれた、そして大部分を破壊神に強奪されたということくらいしか…」

 

「まぁそれくらいしか知らないことは仕方ない。それ以前の歴史において賢者の石は、我輩達悪魔と神々の間における一種の汚点であるからな」

 

「どういうことですか?」

 

 バニルの言う汚点の意味が流石に分からず、錬太郎は首を傾げながら疑問を零す。錬太郎の問いに珍しくバニルはどこか躊躇うような素振りを見せ、しかし踏ん切りがついたのか、溜息を1つ挟んでから話し始めた。

 

「それは遥か昔。まだ我輩やアクシズ教のチンピラ女神や、幸福を司るパッド女神が生まれるよりもさらに昔、天界では悪魔と神々とで一大戦争が起こっていた。終わりの見えない戦いの果て、神々は秘密兵器を用いた。それが賢者の石だ」

 

 バニルの口から語られる衝撃の真実に、錬太郎は目を大きく見開き、わかりやすく動揺を見せる。そして錬太郎の脳裏に新たに疑問が生まれる。そんな秘密兵器と称されるほどのものを使って天界は大丈夫だったのか、そしてその秘密兵器を部分的に使っている自分はどうなってしまうのかと。

 情報の奔流に惑う錬太郎の心をバニルを見通したようで、直様錬太郎の疑問に答えを出した。

 

「無論、天界もただでは済まなかった。賢者の石によって悪魔と神々の世界とで二分され、地獄、そして天界となった。戦いの最中に賢者の石は行方不明となり、恐らくそれを見つけたのが始まりの錬金術師達だったのだろう。

錬金小僧、心配するでない。汝が扱っているのはほんの一欠片。それに百年以上前に汝の祖先達によってベルトという形で制御が完了しておる。

まぁ、それでも強大な力ということに変わりはないがな」

 

「……そうですか」

 

 バニルからの説明に、錬太郎はほっと胸を撫で下ろす。ガッチャードの力は自分の手に余るものかもしれない、そして何れ自分の制御に収まらなくなり、取り返しのつかない危険を招くかもしれないと、話の中で僅かながらに感じていた。

 それを見通すことに定評のあるバニルから無いと告げられたことは、精神的に大きな余裕になった。

 

「しかし油断するでないぞ。あの爆裂娘に似た少女が現れてからというもの、我輩でも見通すことの出来ない事態が多々ある。この写真もまた然りだ」

 

 安心したのも束の間、より一層これからの戦いに気を引き締めるように錬太郎を鼓舞するバニル。そして錬太郎は、バニルから2枚の写真を手渡された。

 1枚は紅魔の里に向かう寸前に、魔道具店でパーティメンバー達と撮ったもの、もう1つは以前お世話になったエミとその父母の住んでいた家にて発見した血のようなものが染みているもの。年季の違いはあるが、どちらも同じ写真である。

 

「前に頼まれたこの2枚の関係性であるが、我輩も詳しくは分からなかった。ただ1つ言えることは、大分時空が歪み始めている」

 

 

 

 

「結局、バニルさんでも分からなかったか…でも分からないことにウジウジ悩んでても仕方ないか…」

 

 バニルとの話し合いを終え、帰路に着く錬太郎。緑に覆われた道を進み、カズマ達の待つ屋敷はもう目と鼻の先にまで見えている。

 帰って商売の件や、バニルから聞いた話をすぐにでも皆で共有しようと、錬太郎は途中から走り始めたが、何やら屋敷の玄関の方から騒ぎ声が聞こえてくる。喧騒というわけではないが揉めているようには見える。さらに目を凝らしてよく見ると、言い争いをしているのはカズマとダクネス。ダクネスの隣には見かけない老紳士がいるが、身なりからして貴族の、恐らくダクネスの関係者だろう。

 とはいえ喧嘩は見過ごす訳にはいかない。脚の回転をさらに早くして屋敷との距離を一気に詰め、錬太郎はカズマとダクネスの間に割って入った。

 

「どうしたの2人とも?いつになく喧嘩してるけど…」

 

「れ、錬太郎!!いい所に来た!!頼む!!なんとかカズマを説得してくれ!!このままでは、このままではぁぁぁぁ!!!!」

 

「錬太郎、ダクネスの言うことになんか気にするな!!これは千載一遇の好機だ!!やっと俺の苦労が報われるんだ!!」

 

「いや、あの…順を追って説明して欲しいかなぁ…」

 

「でしたら、私がお話ししましょう」

 

 カズマとダクネス、両者から迫られて状況を飲み込もうとしても飲み込めず、しどろもどろとしてしまう錬太郎に、老紳士が優しい口調で語りかける。老紳士、もといダクネスの家に使える執事であるハーゲンの話に、錬太郎は耳を傾けた。

 

 

 

 

「…というわけでありまして」

 

 ハーゲンの話によると、カズマ達の立て続けに魔王軍幹部達を屠ってきた実績は、王都の中の指折りの冒険者達及び貴族間の間でも知れ渡っているようで、遂にはベルゼルグ王国の現王女、『ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリス』の関心をも惹きつけ、実際に会ってみたいと王女直々に手紙が送られたのだそう。そして手紙の送り先が、カズマパーティに所属しているダクネスの実家のダスティネス家であり、その手紙をハーゲンがカズマ達の屋敷へ持ち寄ったのだという。

 王女の手紙には食事会への誘いについて記されており、開催場所は王都にあるダスティネス家の別荘で、開催日は来週。カズマからしてみれば自身の活躍を声高々に話せる上、尚且つ王族とも繋がりを持てるという一石二鳥どころか一石百鳥くらいに喜ばしいことこの上ない。そしてそれはめぐみんやゆんゆん、アクア達も同調している。

 しかしダクネスは違う。王家の懐刀と称されるダスティネス家の令嬢として、貴族社会の厳しさを18歳ながら嫌と言う程知り尽くしている。もしも万が一、パーティメンバーの中で無礼を働く者がいようものなら、全員処刑、斬首は免れないかもしれない。よって、喜びよりも先に惑いと焦燥が募るのだ。

 

「くっくっくっ…遂に私めぐみんの名が王都に轟いたようですね!!ダクネス!!この食事会の参加を決定しましょう!!そして私の武勇伝を語り尽くしてやりますよ!!」

 

「わ、私もパーティって初めてだなぁ…ど、ドレスとか着飾るのはちょっと恥ずかしいけど……」

 

「やめろぉぉぉぉ!!賛同の意を示すなぁぁぁぁ!!特にめぐみん、あ、アイリス様に無礼を働くような真似は絶対によせ!!カズマは勿論だが、めぐみんとアクアも礼儀作法については心配なんだからなぁ!!」

 

「な、なにおう⁉︎この紅魔族随一の頭脳を誇る私が礼儀作法を知らないとでも⁉︎いいでしょう、その喧嘩買ってやろうではないか!!」

 

「そうよ、失礼ねダクネス!!これでも私は手際はいい方なの。宴会芸も練習してるし、王女様に見せる準備はバッチリよ!!」

 

「それが余計なことなんだぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「お嬢様、お気を確かに。お気持ちは察し致しますが、もしも辞退の行動を無礼と捉えられてしまわれれば、我々ダスティネス家も没落の危機に…」

 

「ァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 珍しく嬌声ではなく悲鳴を上げるダクネスの様に、屋敷の中は阿鼻叫喚と化す。結局のところ、王城での食事会は多数決で参加する方針に決まり、ダクネスの悩みの種は少なくとも1週間続くことが確定した。

 流石にダクネスを可哀想と感じた錬太郎は、ウィズの魔道具店にて珍しく安値で売られていた胃薬をダクネスに手渡したのだった。

 

 

 

 

 時刻は夜。食事も入浴も終え、パーティメンバー達は各々就寝した。ただ1人、錬太郎を除いて。

 

「王都か…」

 

 左手で顎を刺さりながら、しかめ面をして天井を睨む錬太郎。王都とは少なからず因縁に近いものがある。

 アクセルの街、アルカンレティア、紅魔の里と違い、錬金事変による錬金術師達に対する偏見や悪い印象が色濃く残っている場所。今でも王都の2文字を聞くだけで2年前のことが、まるで昨日のことのように色鮮やかに蘇る。

 人々から寄せられる軽蔑の混じった視線と中傷の数々、かつての仲間達の肉体を媒介にして生み出されたネガマスク達と戦わされ続けた苦痛の日々。

 否が応にも思い返してしまう苦い過去に、錬太郎はこめかみを軋ませ、親指の爪を噛んだ。そんな錬太郎の様子を案じたホッパー1とクロスウィザードは、ケミーカードの中から飛び出して声をかけた。

 

『錬太郎、やっぱり今からでも君だけでも辞退しない?僕達は、君のことが心配なんだ…』

 

『ホッパー…』

 

 懸念するかのような、悲しむようなケミー達の声色に、錬太郎も瞳を僅かに濁らせる。しかし、頬を2回ぺちぺちと両手で叩き、深呼吸を一度挟むと、ホッパー1達に笑みを向け、優しく言葉を綴った。

 

「ありがとう。でも、僕1人の事情でカズマ達に迷惑をかけたくはない。折角のカズマの晴れ舞台なんだ。僕もシャキッとしないでどうする?だから、心配はいらない、僕は大丈夫だから」

 

『錬太郎…わかった。でも、本当に辛くなったら遠慮せずに言ってね』

 

『ホッパー!!』

 

「うん、じゃあそろそろ寝ようか」

 

 錬太郎の言葉を皮切りに、漸く個室の灯りが消える。ベッドに身を預けた錬太郎とケミー達は、先程までの強張っていた雰囲気が嘘のように規則正しく寝息を立てていた。

 部屋の窓から一筋の青白い月の光が差し込む。それはまるで、決意を新たにした錬太郎達を鼓舞するかの如く、彼らを優しく包み込んでいた。

 

 

 

 

 薄暗い研究室のような場所。ロード達ネガマスク及びアナザー錬太郎達が住処としているアジト。そこでロードは、気難しい顔をしながら、右手に収まるゼインプログライズキーと睨み合いをしていた。

 

「どうしたんだマスター?紅魔の里からやけに不機嫌だけど?」

 

「ノワールよ、私は今気味の悪い感覚に蝕まれている。歯車が狂い、足場が徐々に崩壊していくような、不快極まりないものに…」

 

 アナザー錬太郎の質問に、ロードは額に青筋を浮かべ、右手に込める力を強める。紅魔の里にて突如現れた正体不明の紅魔族、えみりんの存在は、ロードの中の潜在的無意識が警鐘を鳴らす程。

 見たところ大した障害になり得る気配もなかった筈なのに、どこか恐れている。そんな自分に困惑を隠せていないのだ。

 

「じゃあどうするんだ?俺がオリジナル含めて全員ぶっ飛ばせばいいのか?それともこの前捕まえた原初のケミー、ドラゴナロスのマルガムを生み出すのか?」

 

「それでは錬成のエネルギーを集める暇がない。あくまで私がこの世界を壊すことに意味があるのだ。その為には錬成エネルギーは必要不可欠。そして始祖のケミーは切札。使うのは最後の最後にしておく。代わりに…

 

 

 

 

この1枚で作戦を練る。もうおちおち遊んでもいられないからな…」

 

 左の懐からロードが取り出した1枚のカード。左手に握られていたのは、オカルトケミーのレベルナンバー8、8つの首と石化能力を備える『ジャマタノオロチ』のケミーカードだった。

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