この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを! 作:山田プロキオン
第13章86節
数多の錬金術師 ロードの奇術にて惑い 殺し合う
ロードの支配に抗う者 アスラ
されど身体の自由は戻らず
ヴァルバラド マジェードを滅す
アスラ 犯した誤ちに嘆き 慟哭す
舞い上がる炎 絶え間なく流れる血
アルケミアが 絶望の赤に染まる
「アハハ…力が漲ってくるわ…私と遊びましょうよォォォォォォ!!!!」
カズマ一行とアイリス王女の会食に乱入して来たネガマスク、フィーラーはドレッド弐式に変身するや否や興奮状態となり、左手に収まった巨大な棍棒型の武器である『ブラッディーDO』を振るい、一瞬の内にアイリスの方へと肉薄する。その速さはまるで稲妻。アイリスが気づく頃にはドレッドの得物は既に眼前に迫っていた。
「危ない⁉︎」
錬太郎は戦いの日々で磨いた反射神経で、瞬時にアイリスとドレッドの間合いへと入り、その身をもって王女の盾となった。
ダンテアクチュエーターによって、常人の何倍にも強化された腕力で振るわれたブラッディーDOは、錬太郎の腹部へと命中し、易々と壁の方へと吹き飛ばす。そのまま錬太郎の身体は壁に強打ち付けられ、尚も勢いは収まる様子はなくそのまま壁を打ち破り、身を投げ出された錬太郎は地べたを転げ回った。
「ふぅ〜ん?咄嗟に受け身を取ったようね…」
仮面の顎部を右掌でさすりながら、ドレッドは関心したように呟く。咽せながら立ち上がる錬太郎の腹部にはガッチャードライバーが巻かれており、ブラッディーDOを打ち付けられる瞬間に装着して、ダメージを抑えたのだろう。
咳込みが終わると、錬太郎は口元を右手の甲で強引に拭い、目線の先にいるドレッドを力強く睨んだ。
「……もう、隠し通すことは出来ないか…」
立て続けに巻き起こる想定外の事態。そしてドレッド弐式による襲撃に遂に踏ん切りをつけた錬太郎は、懐にしまっていた『ガッチャードローホルダー』を左腕に装着した。そしてドローホルダーを展開し、その中から2枚のケミーカードを選び、ベルトの左右のスロットへとそれぞれ装填する。
『バーニングネロ!』
『ゴリラセンセイ!』
ベルトによるケミーの認識が完了すると、錬太郎は追加武装となる『ガッチャーイグナイター』も取り出す。起動スイッチである『イグナイトチャッカー』を下方へとスライドし、ガッチャードライバーへ取り付けた。
『ガッチャーイグナイター!ターボオン!』
全ての下準備を終え、両手で円を描く錬太郎。その後両手を重ねた後に反転させて矢印の先端を形作り、正面に突き出すと雄々しく声を響かせ、ベルトのレバーを操作した。
「変身!」
『ガッチャーーンコ!ファイヤー!』
刹那、錬太郎を中心に立ち昇る蒼い火柱。燃え盛る豪炎の中で錬太郎を錬金戦士たらしめる鎧が錬成されていく。
『バーニングゴリラ!アチー!』
胸に蒼炎を宿し、炎の刻印の施された両腕の打撃強化武装『ファイヤードラミングバーナー』を備えた馬力特化の戦士
仮面ライダーファイヤーガッチャード バーニングゴリラ
「いくぞ……」
大地を蹴り上げると同時に、ガッチャードの背部の『ファイヤードッカーン』が火を噴く。同時にガッチャードは、疾風迅雷の速さでドレッドへと迫る。戦いの火蓋が、今切って落とされた。
「何だ…姿が、変わった…⁉︎レン殿の……」
脳内の情報が洪水の如く奔流する様に、クレアはまたも狼狽した。ダクネスによるアイリスの平手打ちから始まり、錬太郎が錬金術師であったこと、ネガマスクの乱入、そして今度は錬太郎の変身。今まで王女の護衛として様々な事態に遭遇したことはあれど、ここまで思考の追いつかないことは生まれて初めてであり、困惑を隠せないのだ。
「錬金術……奇怪な鎧……まさか⁉︎」
僅かに残る理性の中で思考を巡らすクレアの脳内で、今まで点として散らばっていた様々な情報が線を結び、1つの解答へと辿り着く。そしてその真偽を確かめるべく、先程の一件故に恐る恐るといった様子でダクネスへ尋ねた。
「ダスティネス卿…レン殿が……錬金戦士ガッチャード、なのか…⁉︎」
「……ええ。彼がその錬金戦士です。私達と共に様々な冒険を乗り越え、魔王軍幹部や、悪しき錬金術師達との戦いにも身を投じています」
クレアの問いに、ダクネスはどこか誇らしげに答える。一度訓練の合間に交えた錬太郎との会話で垣間見えた、ロードの情報操作によって王都の人々から忌諱され続けたという彼の過去。それはダクネスにとって仲間としても、一般人達の上に立つ貴族としても心苦しいものだった。しかし今、望むべき形ではないにしても錬太郎の真実を理解して貰えるかもしれない、好転しかけている事態に喜びを隠さずにはいられなかった。
そしてダクネスは話を終えると、クレアの下を去りアイリスの方へと近付く。歩み寄るダクネスに、先程叩かれた頬を押さえるアイリス。また王女の身に危険が及ぶのではとクレアは僅かに警戒したが、同じく側近であるレインがアイコンタクトで静止を促した。
「アイリス様、先程は失礼しました。身分の差も弁えず、王女たる貴方を叩くなど、無礼極まりないことでした」
深々とアイリスに頭を下げるダクネス。長いお辞儀の後に、ダクネスは叩いてしまったアイリスの頬を撫で、子供に優しく話を聞かせる母親のように言葉を連ねた。
「しかし危険を承知としながら精一杯戦い、ベルゼルグ王国のために貢献している冒険者達に『嘘付き』はいけません。
そして魔剣の勇者がカズマとレンのどこに一目置いているのか、それは魔剣の勇者自身にしかわからないのですから、それを2人が説明する必要もありませんし、それ故に彼が罵倒されるいわれもありません」
ダクネスの話に、次第にアイリスの瞳が潤んでいく。ああ、自分はなんて酷いことをしてしまったのだろう。すぐさまカズマの側へと駆け寄り、先程のダクネス同様、深々と頭を下げた。
「か…カズマ様。ひ、酷いことを言ってしまい、ご…ごめんなさい。また冒険話を聞かせてくれますか?」
今にも泣き出しそうな、震える声色で謝罪を述べるアイリス。王族かつ、まだ幼い故に謝る機会も然程なかったのだろう。不慣れな様子でぎこちなく、所々不安に感じているのは見て明らかだった。
しかし、それでもアイリスの誠意は伝わった。過去に囚われ、いつまでもそれを咎める程、カズマは器の小さな男ではないと自負している。アイリスの勇気に、カズマは優しく微笑んで、口を開いた。
「もちろんですよ、アイリス様」
カズマの反応に安堵した王女は頬を緩め、一筋の涙を流す。そんなアイリスの頭を、カズマは慈しむように優しく撫でた。
『バーニングゴリラ!バーニングフィーバー!』
空気を引き裂き、蒼炎を纏ったファイヤーガッチャードの剛腕がドレッドの装甲へと炸裂する。拳を打ちつけた所を中心に強い衝撃波が発生し、ドレッドも後退る。しかしそれでも有効打にはなっていないらしく、ドレッドは余裕綽々とした様子で首を軽く回していた。
「ハァハァ…どういうことだ…攻撃が、全く通用しない……」
肩で息をしながら疑問を零すガッチャード。ファイヤーガッチャードの必殺技は、背部の推進器『ファイヤードッカーン』の高出力から繰り出される超高速移動に乗せて攻撃を繰り出すもので、並のマルガムやモンスターはその威力に耐えられない。反面その分制約も存在しており、長時間のファイヤーガッチャードの形態の維持、あるいは短時間における2回以上の必殺技の使用は、ガッチャーイグナイターがオーバーヒートを引き起こしてしまう、まさにハイリスクハイリターンの短期決戦特化の力。
しかしそのファイヤーガッチャードの猛攻も、ドレッドには通用しなかった。
動揺を隠せないガッチャードに、ドレッドは仮面の下でほくそ笑む。
「驚いた?これがドレッド弐式の力、『鬼化』よ。戦闘に不必要な痛覚を遮断して圧倒的な攻撃力や強固な防御を発揮する…
しかも…
私は前2人とは違って優秀なネガマスク。だから鬼化と特別相性が良くてね… 相手から受けたダメージを蓄積して攻撃力に転換することも出来るようになったの。だから魔法だろうがファイヤーだろうがスーパーだろうが、私の前では全て無駄」
フィーラーの語る通り、ドレッド弐式の性能は戦闘特化の能力。しかも攻撃を吸収し、その威力を転用させることも出来るときた。これまでの相手の比べても、一際厄介である。
「(もうファイヤーガッチャードの必殺技は使い切った。これ以上の形態維持は危険…残るはスーパーやスター、その他の派生形態。ファイヤーで仕留め切れなかったのは残念だったけど、まだ策はあるはず……考えろ…)」
『ガッチャーーンコ!スチームホッパー!』
何とかして突破口を見出せないかと、ガッチャードは一度通常のスチームホッパーの姿に戻ってドレッドの動向を窺う作戦に移った。
「あらあら⁉︎急に怖気付いちゃった?でもぉ、そんなことしてる余裕あるのかしら?」
しかしそれは安直過ぎた。ここを好機と見たドレッドは、ブラッディーDOを地面に叩きつけ、舞い上がった小石達を錬金術を用いて巨石へと変化させる。
「そぉれぇ!!」
その後、ブラッディーDOをバットのようにして力強く連続で振るい、ガッチャード目掛けて巨石の
「不味い……」
ガッチャードは手元にガッチャートルネードを出現させ、ジョブケミーのレベルナンバー8、アッパレブシドーの封印されたカードを、ガッチャートルネードのスロットへと装填した。
『ケミースラッシュ!!』
繰り出される渾身の横一閃。瞬きする間に迫り来る岩石の群れは、切り裂かれ、砕け散る。しかし全てに対処出来たわけではなかった。ガッチャードを通り抜け、いくつかはアイリス及びカズマ達の元へと接近していた。
「「「アイリス様!!」」」
アイリスの近衛兵にあたるクレアとレインは率先して前に立ち、王家の懐刀と称されるダスティネスの一員のダクネスも怯まずその身を持って盾となる。
レインは魔法で、クレアも自慢の剣で応戦するが、錬太郎の錬金術によって刀身を失ってしまったが為に上手いように戦えない。そんなクレアを援護したのがダクネス。極限までスキルポイントを防御にだけ振り切り、カンストしているために、要塞に等しいその強靭な肉体はドレッドの仕向けた巨石達をものともしない。ドレスが破れ、皮膚が裂かれ鮮血が流れようが、ダクネスが一歩も退くことは無かった。
「も、申し訳ない。ダスティネス卿……」
「案ずるな、クレア殿。私は
「よし、いいぞダクネス!!お前が盾になって俺達を守ってくれ」
珍しく今日は一段と頼もしいダクネスに、カズマも期待を寄せて激励を送る。しかしながらその肝心のリーダーと他のメンバー達はアイリスと共にダクネスの後ろに隠れていた。
威勢の割に情けない様子を晒しているカズマに、ダクネスは溜息を零しながら口火を切った。
「おいカズマ、そこは私1人に頼らず皆で錬太郎と共に戦うべきだろう?爆裂魔法しか使えないめぐみんはまだしも、ゆんゆんやアクア、そしてスキルを豊富に持つお前は動けるだろう?」
「いやいや考えてみなお前?俺達、パーティ衣装だから普段と比べて動きは制限される。でもお前、前に立って壁になるだけ。鎧なくても防御と腹筋には自信あるって言ってたんだからこれが一番合理的だろ?」
「そうね。これなら私も楽しつつ、アークプリーストとして後ろから援護出来るからいい作戦ね」
「というわけだダクネス。俺はリーダーとして常に最善の策を……」
その先の言葉を続ける前にカズマは胸ぐらを掴まれ、締め上げられた。掴んだのはダクネスだ。涙目になりながらハムスターのように頬を膨らませる姿は普段とのギャップで可愛く見えるだろうが、彼女の握力はそんな可愛さを帳消ししてしまう程に凄まじかった。カズマは踏んでしまったのだ。ダクネスが触れてほしく無かった地雷を。
「ふっ…腹筋のことは言うなァァァァァァ!!硬さは自信あると言ったが腹筋は言ってなぁぁぁい!!アイリス様やクレア殿、レイン殿の前で!!お前という奴はァァァァァァ!!ぶっ殺してやるぅぅぅぅ!!」
「お、おいダクネス⁉︎やめろ!!落ち着け!!話せばわかる!!」
「ストップ!!ダクネスストップです!!このままじゃカズマが死んじゃいます!!ゆんゆん、反対側からダクネスを抑えてください!!」
「わ、わかったわめぐみん!!ダクネスさん、お、落ち着いて……」
腹筋の件で荒れ狂うダクネスを、めぐみんとゆんゆんが2人がかりで止めに入る。全体的にステータスの高い紅魔族2人相手でもダクネスを静止させることは容易ではなく、その間にカズマは幸運の女神エリスが見えかけたのだとか。
「ほ、本当にこのパーティは大丈夫なのでしょうか…」
初めてカズマパーティを目の当たりにしたレインは、チームワークのちの字すら感じられない、カズマ達からすればいつもの光景に戦闘中にもかかわらず、呆気に取られずにはいられなかった。
「あ〜あ。弾かれちゃったか…鎧なくてあの硬さ、渡り蟹くらいあるんじゃない……」
「余所見は良くないんじゃない?」
ダクネスの防御力に感心するドレッドの見せたその隙を見逃さず、ガッチャードは懐へと潜り込む。距離は詰められ、零に等しい。
『トルネードアロー!!』
ガッチャードは得物であるガッチャートルネードの弦へ指をかけ、ドレッドの腹部へ錬成した矢を放った。しかしそれでもドレッドへの有効打にはなり得なかった。
「だからぁ、そんな生半可な攻撃じゃあ、私の攻撃吸収は超えられないから」
反撃とばかりに、ブラッディーDOを振るうドレッド。先程ドレッドとの距離を詰めたが故に、高速で振り回される長い棍棒からは逃げる術はない。
その状況下でもダメージを抑えるべく、ガッチャードは2枚のケミーカードを新たに取り出してベルトへ装填した。
『サスケマル!』『エナジール!』
『ガッチャーーンコ!!エナジーマル!!』
咄嗟にエナジーマル ワイルドモードへと姿を変えるガッチャード。そして固有能力の液状化でブラッディーDOを水と化した身体で受け止めた。
「(今の発言、"吸収を超えられない"と言っていた……ということは、吸収には上限があるはず。なら、奴を倒す最適解は……)」
ガッチャードはドレッドから距離を取り、ガッチャートルネードを捨てて新たにエクスガッチャリバーを取り出した。
「皆、力を貸して!!」
ビートルクス、リクシオン、ゼグドラシル、テンフォートレス、エクシードファイター達レベルナンバー10の力が集約されたカードを取り出して、『エクスクロスリーダー』にてケミー達の力を抽出する。
『スターガッチャード!エクストラッシュ!』
ドレッド目掛けて放たれる眩い五連撃。ドレッドに回避する時間も与えず、全て装甲へ命中し、激しく火花と土埃が舞う。
今度こそ決まったか。そう期待を込めて一同が視線を向けた先でドレッドは……
「ん〜、これもダメだったわね〜。どんどん私が強くなっていくだけ」
蚊に刺された箇所を軽く掻くように、装甲についた土を払っていた。ガッチャードの渾身の一撃も通用しないという現状に、残る有効策と考えられるのは最早めぐみんの爆裂魔法だけ。しかしそれでは、ケミー達の力を借りて威力を調整してもらうにしても、王都で使用するには齎す被害が計り知れない。
「明らかな雑魚形態のまま無闇矢鱈にレベルナンバー10の攻撃を叩き込んで私に得をさせている、そんな一縷の希望に託す戦い、愚かだわ。そんなんならスターガッチャードにでもなればいいのに」
「そう、見えるか……なら1つだけ忠告しておく」
勝ちを確信し、慢心し切っているドレッドに対して、ガッチャードは重々しい口を開き、煽るような忠告するようなことを述べた。
「お前は鬼化の力を過信しすぎている。1つのことに凝り固まれば、大事なものは見えなくなる…自分の瞳に映る場所以外にも世界はある…自分以外の世界を見ようとしなければ、お前は負けるよ?」
思った以上に余裕のあるガッチャードに、ドレッドは僅かに怒りを滲ませる。そしてガッチャードの言葉に、アイリスはどこか引っ掛かるようにしながら2人の戦いをその目に焼き付けていた。
「…………言ってくれるわね。じゃあ、アンタが視野が広いってんなら戦いでアタシに証明して見せてよ。まぁ?今までの攻撃の威力を転換したこの必殺技を耐えられるのならね?」
ドレッドはベルトのレバーである『ネクベトヴォーク』を操作して、これまで受けた攻撃をエネルギーに錬成し、自身の右拳に集約させていく。
ドレッドの右拳から立ち上る熱気からして、この一撃を喰らえばいくらガッチャードといえども爆散しかねない。
『ドレッドブレイキング!!』
『ダンテデパニッシャー』によって強化された脚力にて、ドレッドは地面を力を込めて蹴って駆け、一瞬の内にガッチャードへと肉薄する。
「散れぇぇぇぇ!!!!」
ドレッドの全てを込めた握拳が、ガッチャードへと狙いを定めて襲い来る。
「今だ!!」
『エナジーマル!フィーバー!』
ドレッドの必殺に対してガッチャードが、ベルトのレバーを操作してケミー達の力を解き放った。その瞬間、ガッチャードの肉体は再び液体と化し、ドレッドの一撃を完全に遮断してみせた。
「な、何よコレ⁉︎」
予想もしなかった対応に、ドレッドは困惑を隠せない。そうして液状化したガッチャードの肉体を通じて分散された衝撃は、今度はガッチャードの右拳へと集約していった。
「今まで受けたダメージ全て込めた一撃を、吸収してさらに倍にして跳ね返しても耐えられるかな?」
「しまっ…⁉︎」
ガッチャードの狙いに漸く気がついたドレッドは情けない声で取り乱す。一度に吸収しきれない程の一撃、そしてその為に相手の攻撃すらも取り込む。
皮肉にもドレッドは、自身の能力を相手に利用されていたのだ。
「『反転倍返しの術』!!」
ガッチャードの右拳が、ドレッドの胸部へと炸裂し衝撃波が発生する。ふわりとドレッドの身が宙に投げ出されて数秒、耳を貫くような轟音と共に大爆発が発生し、変身を維持出来なくなったドレッドはフィーラーの姿へと戻り、膝をついた。
「クッ……この……クソガキ……」
しかし優秀なネガマスクと自負する彼女は尚も立ち上がり、戦闘を継続しようと試みる。
刹那、上空に赤黒い渦のようなものが出現し、それを見たフィーラーの顔はみるみる青ざめた。
「あ、ああ…あああ……」
渦はフィーラーを一瞬のうちに吸い込んで姿を消した。戦闘を終えたガッチャードは錬太郎の姿へと戻り、渦のあった場所を見つめた。
「逃げた…のか?」
「かもね。でも、どこか怯えていたように見えたな……」
「本当に申し訳ない、レン殿。いや、錬太郎殿!!」
事態が収束するや否や、クレアは錬太郎へと歩み寄り深々と頭を下げた。
「錬金術師の名誉回復のためにも、国の方からすぐに真実を広めるように国王様へ報告を……」
「いえいえいえ⁉︎⁉︎そ、そこまでしなくても大丈夫ですよ⁉︎」
誠意あるクレアの行動に、錬太郎は嬉しく思いながらも手をパタパタと振って大胆な処置を施してもらうことを拒んだ。
「し、しかし…」
「失われた錬金術師の信頼は、私が行動で示して取り戻してみせますから」
その後も何度か揉めたが、錬太郎の曲げない意思にクレアも折れたらしく、国王への報告は会食とネガマスクの一件、そして錬金事変の真実は少しずつ伝えていくこととして合意された。
「れ、錬太郎様!!その…嘘つきだなんて酷いことを言ってしまい、本当にごめんなさい……それに、助けていただいて、ありがとうございます……」
クレアとの話し合いを終え、今度はアイリスがカズマに対してと同様、非礼を詫びた。
「いえ、そう言われましても仕方のない振る舞いをしたのは自分ですから。こちらこそ、騙すような真似をして申し訳ございません」
錬太郎は特にアイリスの態度について咎めることはなく、逆に自分も嘘をついてしまったことを謝った。
会食による蟠りは、これをもって完全に無くなった。
「では、我々はそろそろ。皆様、今回はご迷惑をおかけしました」
「いえいえ、国王様に宜しくお願いします」
レインとダクネスが最後に挨拶を交わし、解散となった。アイリスとクレアは、レインが魔法により展開させた魔法陣の上に乗って、彼女の詠唱終了を待っていた。
その間を見計らい、カズマと錬太郎は前に出てアイリスに最後の別れの告げることにした。
「アイリス様、次またお会いした時はまた俺達の冒険話をお聞かせしますので。な、錬太郎?」
「ああ。王女様、またいつか」
「何を言ってるの?」
アイリスはぐいっと2人の手を引いて、強引に魔法陣の中へと入れる。同時にレインの詠唱は完了し、魔法陣が強く光を発する。
「『テレポート』」
『ワープ!!』
レインが完全に魔法を発動し終える寸前、錬太郎の左腕のホルダーよりワープテラが飛び出し、自身の能力で錬太郎、カズマをアクア達の下へと移動させた。
その際近くにいたアイリスも一緒に……。
「⁉︎⁉︎な、何が起こったんだ⁉︎何でアイリス様がここに⁉︎」
「も、もしかして……さっきワープテラが咄嗟に現れてレインさんよりも早く転移能力を使って助けてくれた時に、近くにいたアイリス様も巻き込まれて……」
錬太郎達の視線の先にあった魔法陣は既に消えており、クレアやレインはいなかった。
「待ってこれ……俺達王女様誘拐しちゃったことになるなんてことないよなぁ⁉︎」
カズマの懸念に、一同の顔色が真っ青に染まる。王族の問題について人一倍詳しいダクネスにはその重大さがボディーブローのように炸裂し、鈍い音を立てて地面に身を預けた。
「あ、あば……あばばばばばばば」
「あのレインよりも早くテレポートするなんて……錬太郎様のお友達は凄いのですね!!」
カズマパーティの不安とは対照的に、王女アイリスはケミー達の可能性に目を爛々と輝かせるのだった。
ファイヤーやスーパーが目立ってはいるものの、基本派生形態も今回みたいに活躍させていけたらなと思っております。
裏話:錬太郎の言葉の真意
「1つのことに凝り固まると、見逃してはならないものも見逃す」→基本派生形態のエナジーマルへの無警戒、自分の能力を逆手に取られるという発想がないフィーラーに対する皮肉。またソラトスとグスティヌスは、ドレッドの生贄機能を利用して戦闘していたが、フィーラーは鬼化に頼りきりで、一度も生贄機能を使用していない。
自分の力を過信しすぎたが故に、ドレッドの力を全て引き出そうともしないフィーラーは負けるべくして負けた感じです。
そして皆様、長らく休んでしまい申し訳ありませんでした。年内投稿は以上になるかもですが、来年もまた読んでくださると嬉しいです。
今年一年ありがとうございました、良いお年を。