この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを!   作:山田プロキオン

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こぼれ話:えみりんと黒衣の男

 時空の狭間。時の流れが混在し、過去と今、未来といったあらゆる時間が交わり合う場所。その異空間を、えみりんは紳士服を着飾った紅い時計のようなケミーである『タイムロード』と共に駆け抜けていた。

「マクスウェルとの契約は無事なんとか出来ました……。あとは、過去に行って歴史を変えるだけ……」

 タイムロードの手引きの下、荒波の如き道を掻き分けて進むえみりん。歩を続ける中、ふと自分のいた時代での出来事が脳裏に過ぎる。自身の計略をレジスタンス内で報告し、意見が真っ二つに割れてしまったこと。そしてその隙を突かれて襲撃を受け、多くの仲間達が重傷を負ってしまったこと。
 思い出しただけでも腑がぐつぐつの煮え繰り返り、えみりんの額に青筋が浮かぶ。怒りで我を見失う寸前、その時…

『タイム!!』
 
 タイムロードの一喝が時空の狭間で響き渡る。我に戻ったえみりんはゆっくりと振り向いた。

「そうでした……私は……」

 タイムロードの厳しく、それでいて優しい目の色に、えみりんは改めて自分の中の覚悟を思い出す。一度決めたことならば、何が何でもやり遂げる。そう、強く誓ったことを。
 小さな両平手で、頬をペチペチと叩いて深呼吸を挟む。正面を見据える少女の赤みがかった瞳には、もう迷いはなく、再び足を前へ前へと進める。

「っ⁉︎」

 刹那、えみりんの右横を1発の銃弾が通り過ぎる。間一髪で、音を突き破りながら迫る弾丸を回避し、後ろを振り向いた。自身の網膜に映し出される集団に、えみりんは軽く舌打ちを挟む。
 返り血を浴びたような紅く染まった強固な装甲に身を包み、黒々とした大きな瞳孔の中で水晶体の如く不気味に光る紅い瞳。ある者はライフルを、ある者は短剣を構えるその様は、正に量産型兵士。
 
「ドレットルーパー、まさか…ここまで追ってくるなんて……」

 予想外の追手に、焦りを隠しきれないえみりん。やむなしと、懐にしまっていた杖を取り出し、いつでも戦闘に移れるよう強張りかけている全身の力を抜いた。
 互いに睨みを利かせ、静かに火花を散らす両陣営。えみりんが杖を前に翳したと同時、ドレットルーパー達のライフルの銃口より弾丸が発射された。




「『下にあるものは上にあるもののごとく 上にあるものは下にあるもののごとく ただ一つたる 奇跡をなさん』」

 眩い速さで風を切り、えみりん目掛けて進む無数の弾丸。しかし突然時空の狭間にて轟いた錬金術の詠唱と共に、えみりんの目の前の空間が歪み障壁が錬成され、ドレットルーパー達の銃撃は全て弾かれてしまった。
 声のした方へ、敵味方問わず視線が飛び交う。その声の主であろう者は、ボロボロとなった黒衣で長身を包み、深く被ったフードによって素顔は全く確認できなかった。

「れ、錬金術……⁉︎なんで、それに…貴方は…?」

 恐る恐る、得体の知れない人物に対して口火を切ったのはえみりんだった。返答次第では、黒衣の人物の相手もしなければならない。冷や汗を一筋流し、ごくりと固唾を飲み込んだえみりんに、黒衣の人物は小さく口を開き答えた。

「俺は…ダン…」

 黒衣の男、ダンはそう語った後、それ以上自身のことは話すことなく、その後えみりんを庇うようにふらっと彼女の前に立った。

「これで話は…終わりだ……さぁ…とく……いけ……」

 えみりんに目的の場所へ急ぐように促し、ダンはフードの中から覗かせる炎のように紅い瞳でギロリとドレットルーパー達を睨む。思いもしなかった助太刀にえみりんは困惑を隠さなかったが、ぺこりとダンに一礼すると、タイムロードと共に時空の狭間の中を駆け出した。

「(しかし、あの人は何故こんな場所に?普通の人間は、タイムロードの助力無しで時空の狭間に入れば時間の流れに押しつぶされて消えてしまう筈なのに……)」

 




  

「あの少女…元いた時代で…過去に向かうと…言っていた……そうか…そこに……錬太郎が……俺の息子が……」

 えみりんの向かった方角を、ダンは忘れないようにとしっかりと目に焼き付けた。そして1人で軽くドレットルーパー達を撃破した後に、その道を沿って後を追うのだが、それはまた別のお話。


新たな絆に素晴らしい兆しを!

「それで、力を貸すっていってもどうすれば……」

 

 絶望と化した未来の世界を変えるべく現れたカズマとめぐみんの娘、えみりんからの共闘要請に対して、具体的には何をすれば良いのか錬太郎は尋ね、ゆんゆんやケミー達も、錬太郎とえみりんの話に耳を傾けていた。

 

「簡単なことです。私がこれから改変すべき出来事が発生するたびに招集をかけます。私も師匠……未来の錬太郎さんから受け継いだケミーライザーがありますから連絡は可能です」

 

「ちょっと待って⁉︎今僕のことを師匠って言った?」

 

 懐から年季の入ったケミーライザーを取り出し、淡々と話を進めるえみりん。しかし「師匠」という、どうしても聞き逃せない内容があったようで、錬太郎が慌てた様子で話を一度遮り、えみりんに質問する。

 

「ええ、魔法や基礎的なスキルは両親やウィズさんから教わりましたが、錬金術については全て貴方から教わりました。だから錬太郎さんは師匠なんです。それに、両親がいなくなった後も、私のことを本当の娘のように大事にしてくれて……」

 

「……」

 

 錬太郎の問いに、えみりんは懐かしむようにつらつらと自身が多種多様なスキルを身につけた顛末を語り始める。その声色には優しさを帯びていて、しかしそれと同時に深い悲しみも混じっていた。

 次第に悲しみの波はえみりんの心に押し寄せてきたのか、声は小さくなっていき、かすかに震えていた。

 

「いけないいけない、今は過去に浸っている場合では……」

 

 気を取り直し、えみりんは頭を勢い良く振って精神を落ち着かせようと努めた。

 

「あっ、ここが過去でした⁉︎いや、この時代の師匠やゆんゆんさんにとっては未来のことで……」

 

 しかし聡明な紅魔族の血を引いているとはいえ彼女はまだまだ未熟な13歳の少女。不意に自身の発言のおかしな部分に気がつくと、まるでショートした機械の如く1人コントのようなことを始めた。

 

「い、一旦落ち着こうか」

 

「はっ⁉︎すみません、私としたことが取り乱してしまい……」

 

 錬太郎が宥めることで、えみりんは漸く落ち着きを取り戻した。先程の陰鬱な居心地がまるで嘘のように消え去り、それとはまた別に微妙な空気が場を支配する。

 系統は違えど、何処か抜けているように感じる部分はカズマやめぐみんに通じる部分があり、本当に親子なのだなぁと錬太郎は心の中で溜息を吐いた。

 

『ねぇねぇ錬太郎、もしかしなくてもえみりんってちょっとポンコツなんじゃない?』

 

『ホパァ〜』

 

 ひょこっと錬太郎の左腕のケミーホルダーより覗く顔が2つ。クロスウィザードとホッパー1だ。純粋故にまったく悪気なく2体は思ったことを述べたようだが、それはそれとしてデリカシーの無い発言に、錬太郎は慌てて叱った。

 

「こ、こら!!そんなこと言わないの!!」

 

「どうかしましたか?」

 

「あぁいや⁉︎な、何でもないよ」

 

「……そうですか」

 

 こてんと首を傾げるえみりんに、しどろもどろとしながらも何とか錬太郎は取り繕うことに成功した。安堵の一息を吐き、冷や汗のかいた額を錬太郎が強引に拭ったと同時に、えみりんもこほんと咳払いを挟んで話を再開した。

 

「では、まず第一に変えるべきターニングポイントはオロチ事変ですね。このオロチ事変は、2人の義賊がベルゼルグ王国の王城へ盗みを働いたタイミングを見計らって、ロードが王都へ進軍した出来事です。その際に暴れたのは巨大なオロチマルガムで、たった一夜にして王都を石に沈めたとあります」

 

「あ、あの……一晩で王都を陥落させる強さなら、もっと協力者を増やした方がいいんじゃないでしょうか?」

 

 恐る恐るとゆんゆんが小さく挙手をしながら、えみりんの話に提案を出す。確かにその通りだと、錬太郎やケミー達も同意を示すようにうんうんと首を縦に振った。

 

「そうしたいのは山々なのですが、あまりこの時代の人達と多く関わりすぎますと、その分時間改変の負担が私に降りかかりまして……その負担で私が死ぬようなことがありましたら、マクスウェルとの契約が強制破棄されてしまい、結局私のいる時代は救われません」

 

 えみりんの言い分に、ことはそう簡単ではないのだと思い知らされ、ゆんゆんは眉を下げて困り顔に、錬太郎も腕を組んで唸ってしまった。せめて自分達のパーティメンバーなら……と淡い期待が脳裏に過ぎったが、続くえみりんの話にその考えも潰れることとなる。

 

「そ、それに……水の女神アクアや聖騎士ダクネスは両親の話ですと面倒くさ…少々癖の強い人達と聞いておりますし、両親はその…マクスウェルの辻褄合わせでないとは思うのですが、万が一あまり勘繰られ過ぎると未来の私の存在に関わってくる可能性があるといいますか……特に母は父以上に鋭い時がありますから接触するのも怖くて……」

 

「ああ…だから初対面の時あんなに突き放していたのか」

 

「本当は嫌だったのですが……」

 

 しょんぼりと肩を落とすえみりんに、錬太郎は歩み寄ると励ますように優しくえみりんの左肩に右手を乗せた。顔を上げるえみりんに微かに微笑むと、錬太郎は己の決断を伝えた。

 

「話はわかった。僕は君に力を貸すよ」

 

「いいのですか?」

 

 意外とすんなり協力を受け入れてくれた錬太郎に、えみりんは喜びと同時に驚きを隠せていない様子。そんなえみりんに、錬太郎はこくりと頷いた。

 

「うん、これは僕の問題でもある。ロードとの因縁に決着をつけないとアルケミアの皆の無念も、ロードの破壊活動で苦しんでいる地域の情勢も変えられない」

 

「わ、私も錬太郎さんと一緒に頑張ります!!えみりんさん、不束者ですが、宜しくお願いします」

 

『勿論僕達も、ね?ホッパー1達』

 

 錬太郎に続き、ゆんゆん、そしてクロっちを始めとするケミー達も同意を示す。自分のことを信じてくれた錬太郎達の優しさに、えみりんの視界が霞み、瞳から一筋の涙が零れる。

 しかしそれは、かつて絶望感と共に流したものではない。かつての師と再び目見え、共に戦うことの出来る喜びと希望に満ちたものだった。

 

「ありがとうございます。私も全力を尽くします」

 

 涙を拭い、太陽のような明るい笑みを見せた少女は、過去の世界の師匠と共に絶望に争ってみせると強く心に誓うのだった。

 

 

 

 

 一方その頃、アクセルのギルドにてカズマ達はアイリスの冒険者登録を行っていた。流石に王族としての名前で登録してしまえばギルド内の大混乱は避けられないため、『イリス』という偽名を使うこととなった。

 そして迎えた冒険者登録。冒険者としてのステータスを出力する水晶にアイリスが手を翳して数秒。開示されたステータスにギルド中は騒然としていた。

 

「い、イリスさん……すごいですよこのステータスは……。全ての項目において高水準……アクアさんに次いでまたこんな人材が現れるなんて……」

 

 アイリスの冒険者登録の担当となった受付嬢ルナは、動揺で声を震わせながら言葉を綴る。アイリスのステータスにギルドの顔馴染みは勿論、普段は酒場の隅の席で黄昏ているような者達でさえ興味を惹きつけられ、ぞろぞろとアイリスの下へとやって来た。

 

「アイリスってそんな強いのか……?」

 

「アイリス様達王族は、代々勇者の血を引く一族だ。当然のステータスだろう」

 

 アイリスのステータスに若干引いているカズマに、ダクネスは後方で腕組みをして何故か得意気にしている。王家とその懐刀として両者の間でそれなりに関係と交流がある都合上、ダクネスはアイリスのことを身分上の立場を弁えつつも、どこか妹のように感じているのだろう。

 そうして冒険者登録を終え、カズマ達はクエストを受注する。今回は魔王軍幹部を撃退し続けてきたパーティらしく高難易度のクエスト

 

 

 

 

ではなく、アクアと因縁深い(?)ジャイアント・トードの討伐クエストだ。

 

 故に、一同はいつもの草原に来ている。

 

「ま、まぁ実戦となればまた変わってくるだろうし……⁉︎まずは基礎的なクエストからにするか。どっかの奴らみたいにならないよう俺がしっかりアシストしてやらねぇとなぁ!!」

 

「おい、何で私達をチラチラと見ながらいうのですか⁉︎喧嘩売ってるんですか⁉︎」

 

「ちょっとカズマ!!私そんな弱くないわよ!!もうあんなカエル共なんて楽に倒せるわよ」

 

 カズマから問題児とばかりに視線を飛ばされためぐみんとアクアは喚き散らし、アクアはカズマからの指示を待たずにジャイアント・トード目掛けて走って行ってしまった。

 まぁ、いつものことである。

 

「覚悟しなさいデカガエル!!女神の愛と勇気と誇りと……あと色々すごいエモーショナルなものとかが宿りし聖なる一撃!!」

 

 アクアが闘気を激らせ、神聖な青白い光が右拳へと集中していく。ジャイアント・トードとの距離が目の鼻の先にまで迫ったその瞬間、アクアの拳は空気を切り裂き、狙いを定めた腹部へ一直線に振るわれた。

 

「ファイナル・デストロイ・ゴッドブロぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 ファイナル・デストロイ・ゴッドブロー。アクアの用いる鉄拳技『ゴッドブロー』の強化版であり、アクア曰く禁断の奥義。喰らった相手は死ぬとのことらしいが…

 

「へぷぁ⁉︎」

 

「何でまた食われてんだ⁉︎学習しろやこんの駄女神!!」

 

 やはり駄女神。散々ジャイアント・トードの腹部には多量の脂肪が蓄えられており、打撃技は効きにくいと何度も何度もカズマに忠告されていた筈なのに、結局また同じ失敗を繰り返し、ジャイアント・トードの長い舌に捕えられると、ペロリと一口で飲み込まれてしまった。

 

「全く……仕方ありませんねアクアは。ここは私の爆裂魔法で!!」

 

「待て待て待てい⁉︎⁉︎」

 

 アクアの学習能力に呆れていたのも束の間、今度はめぐみんは爆裂魔法に移ろうとしたので、カズマは慌てて止めに入る。

 

「なぜ止めるのですか⁉︎折角アクアが身を挺して隙を作ってくれたのです!!ここで爆裂しないでいつするのですか⁉︎」

 

「いやいやそれじゃアクアが巻き添え喰らうだろうがぁ!!!!」

 

「心配無用!!アクアは高ステータスなので死にはしませんから!!」

 

「答えになってねぇからな⁉︎ドヤ顔でそれっぽい理由みたいなこと言ってるけど答えになってねぇからなお前⁉︎」

 

「ずるいぞ!!爆裂魔法を打つなら私もアクア同様カエルに飲み込まれてからにしてくれ!!ああ…ヌメヌメとしたカエルの口の中に加えてあのズドンと来るような思い一撃……わ、私は…どうなってしまうのだろうか」

 

「アイリスがいるからってお前に少しでも期待した俺が馬鹿だったよ。カオスな状況をよりカオスにすんなや!!」

 

 めぐみんが暴走し始めている状況に連鎖して、ダクネスも性癖を曝け出して来た。最早お決まりの流れだが、それでもややこしくなる事態にカズマは頭痛を感じずにはいられない。加えて…。

 

「ぬぅん⁉︎やはりお前の罵倒は癖になるなぁ…」

 

 ダクネスへの注意喚起は意味を為さない。生粋のドMである彼女には、カズマの放つ言葉の暴力は全て至福の一時にしかなり得ない。

 パーティとしての統率など微塵も感じられないようなこの状態。そんな彼らを絶好の獲物だとジャイアント・トードの群れがぴょこぴょこと跳ねながらジリジリと迫って来る。

 絶体絶命の危機に、アイリスが腰に携えた剣を鞘から抜刀する。王城より持ち出した彼女の得物にして王家より代々受け継がれて来た伝説の聖剣『なんとかカリバー』。その力が、王家であるアイリスのスキルと共に解放される。

 

「『セイクリッド・ライトニングフレア』!!!!」

 

 刹那、凄まじい突風と稲妻を纏った斬撃が、アイリスの力強い腕の振りと共に放たれる。瞬く間にジャイアント・トードの集団は、柔い豆腐のようにいとも簡単に切り裂かれ、飲み込ませていたアクアも無事救出された。

 

「大丈夫ですか、アクアさん?」

 

「ひっぐ、えっぐ、ア”イ”リ”ス”!!!!あ”り”がどう”ね”ぇぇぇぇ!!!!」

 

 歩み寄ったアイリスに、アクアは嗚咽を漏らしながらアイリスに抱きついた。しかしながら、カエル特有の粘液に全身を包ませてしまったアクアに触れられるのには流石の王女様も嫌悪感があったようで、苦い表情をしてまった。

 

「あぁ、いえいえ…」

 

「よさないかアクア、アイリス様が汚れてしまうだろう」

 

 仲裁役に入ったダクネスがアクアをアイリスから引き離し、懐から取り出したハンカチで、アイリスの服に付着した粘液を拭き取る。ダクネスの厚意に、アイリスはお辞儀をして礼を述べた。

 

「ありがとうございます、ララティーナ」

 

「いえいえ。むっ、まだまだいるな……」

 

 アイリスの礼を受け取り、再びダクネスが辺りを見渡すと、先程のアイリスの斬撃の衝撃にて目を覚ました無数のジャイアント・トードが地面から湧き出ていた。

 

「ならば今度こそ!!我が爆裂魔法の出番です!!」

 

 待ってましたと、めぐみんは自身の目の前に己の杖を構え、魔法の詠唱を開始する。めぐみんの杖に取り付けられた魔法石マナタイトに魔力が集約して渦になると同時に、頭上には巨大な魔法陣が生成された。

 

「黒より黒く……」

 

「ま、待ってくださいめぐみんさん!!」

 

 詠唱が完了する前にアイリスは中断を促し、一目散にめぐみんの攻撃圏内の場所へと走り出した。そして何かを発見するや否や、また元の場所に戻ろうと踵を返した瞬間、アイリスの眼前にはジャイアント・トードが迫っていた。

 

「しまっ⁉︎」

 

 距離からしてどう足掻いても逃げることは困難。ジャイアント・トードが口から長い舌をアイリス目掛けて伸ばし、内から湧き上がる恐怖に、アイリスは瞼を強く閉じる。

 

「『フリーズ』!!」

 

 しかしアイリスがジャイアント・トードに丸呑みされることはなかった。ギリギリのところでカズマが駆けつけ、初級魔法であるフリーズを用いてジャイアント・トードの舌を凍らせたのだ。

 

「カズマ様……⁉︎」

 

「今だ!!」

 

 カズマが作ってくれた好機をアイリスは逃さず、自身の得物である剣に力を集約させる。その時、アイリスの背後から2つの光が飛び出した。

 

「貴方達も……わかりました、一緒に!!」

 

 アイリスは光の正体を悟り、刀身へ光も誘う。空気をそして魔力を吸い寄せ、聖剣による強大な一撃が、草原で跋扈するカエルの群衆へと勢いよく放たれた。

 

「『セイクリッド・エクスプロード』!!」

 

 

 

 

「一時はどうなるかと思ったが、これで一件落着だな」

 

 クエストにて規定された数以上の討伐を完了し、アイリスの初クエストは無事終了した。

 

「それより!!なんですかさっきの技は!!名前からして爆裂魔法のパクリじゃないですか!!」

 

「え、えっとぉ……」

 

 アイリスの聖剣から放たれた技が余程癪だったのか、めぐみんは大人気なくアイリスに詰め寄る。困惑するアイリスを助けるためか、カズマは2人の間に割って入ると、めぐみんの右肩にポンと手を乗せた。

 

「めぐみん」

 

「な、なんですかカズマ⁉︎」

 

「卒業、おめでとう」

 

「おいなんだその生暖かい目は!!喧嘩売ってんのかおらぁ!!辞めませんから!!辞めませんからね!!」

 

 カズマのおちょくりは火に油を注いだようで、めぐみんは紅蓮の炎の如く喚き散らし始めた。カズマはめぐみんと対照的に、そんな彼女の様子を楽しんでいる。やはりクズマである。

 

「ところでアイリス様、先程は何故めぐみんの爆裂魔法を静止したのですか?」

 

「ああそれは……」

 

『ライガー!!』

 

『ケラケラ!!』

 

 ダクネスの問いにアイリスが答えようとしたその瞬間、アイリスの背後より2つの光が飛び出した。1つは藍色の体表をした3本角を携えた竜のようで、もう1つは強固な鎧に身を包み、鋭い爪とキバを携えたネコ科生物のような見た目をしていた。

 

「コイツら、ケミー達じゃないか⁉︎」

 

 カズマの指摘通り光の正体はケミーで、エンシェントケミーレベルナンバー8『トライケラ』と、同じくエンシェントケミーレベルナンバー5『サーベライガー』であった。

 

「恐らく散歩をしているところだったのでしょう。そこにジャイアント・トードが迫っていて……踏み潰されるか、爆裂魔法に巻き込まれでもしたら危ないと思いまして……」

 

 姿を表し戯れてくる2体に、アイリスはくすぐったそうにしながら頬を綻ばせていた。

 

「でも、私だけじゃどうにもなりませんでした。すんでのところでサポートしてくださったカズマ様のお陰です」

 

「いやぁ、それほどでも……」

 

 アイリスからの賛辞に、カズマは照れ臭そうに顔を紅くしながら後頭部をポリポリと掻く。喜びを隠しきれないカズマに尚もアイリスは続ける。

 

「なんだか、先程のカズマ様は、私のお兄様のようで…とても頼もしかったです」

 

 

 

 

 

「ごめんアイリス、もう一回言ってくれない?」

 

「え?私のお兄様のようで…?」

 

「もうちょっと砕けた感じにしてもらってもよろしい?」

 

「?お兄ちゃんのようで……」

 

「アイリス、きみに決めた!!」

 

 アイリスのお兄ちゃん呼びにカズマは心臓のある左胸を押さえながらサムズアップを送る。

 褒められた上に王女の口からお兄ちゃん発言は、カズマのハートをものの見事に撃ち抜いた。

 

「不敬者ぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 その後、ダクネスの力加減無しの拳骨がカズマに炸裂し、カズマはエリス様の下へ一度召されたのだとか。




裏設定
今回のこぼれ話で黒衣の男であるダンとえみりんが邂逅しましたが、ここでダンの運命も大きく変化することとなります。というのも、本来ならばダンは時空の狭間の出口を見つけることが出来ずに、時間の波の中で朽ち果ててしまう筈だったのです。えみりんと偶然出会ったことで、出口への道のりの手掛かりを得られたので、結果的にえみりんは錬太郎の父も救っております。

皆様、大遅刻をしてしまい大変申し訳ございません。年明けからずっと忙しいことが続いており、更新が滞ってしまいました。まだ忙しい日々が続きますので、また遅くなるかもしれませんが、宜しくお願いします。
 メモリアルガッチャードシリーズ楽しみです。
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