この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを!   作:山田プロキオン

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 今回の話は、このすば原作に登場しますデストロイヤーに対して過度な独自解釈がございます。災害の被害についても触れる描写がございますので、苦手な方はブラウザバックを推奨します。

追記:一部描写を追加・修正しました。


秘密の楽園

 ベルゼルグ王国、王都。腕よりの冒険者や、国の政治を担う多くの貴族達が集う場所。

 サトウカズマと同じく日本より転移し、女神アクアより魔剣グラムを授かりし勇者のミツルギキョウヤもこの王都に身を寄せている。そんな彼は現在、クエストの帰り道でパーティメンバー達と共に最寄の甘味処に訪れていた。

 

「う〜ん!このお店の最新パフェ凄く美味しい!!流石王都随一のスイーツ店よね!!」

 

 パフェの味を堪能しているのは、ミツルギのパーティメンバーの1人にして桃色の髪が特徴の盗賊職の少女フィオ。緩めた頬に手を添えて舌鼓を打つ様子から、大層お気に召したのだろう。その一方で、もう1人のパーティメンバーである流麗な翡翠色の髪を持つ少女クレメアも、注文したパンケーキに目を輝かせていた。

 

「このパンケーキも生地がふわふわで、口の中でとろけるような感触がたまらないわ…。ねぇ、キョウヤも食べてみてよ!!」

 

「あ、ずるいわよ!!キョウヤ、先に私のパフェ食べて!!」

 

 クレメアとフィオは左右からミツルギを挟んで、自身が注文したスイーツを押し付け合う。瞳をメラメラと滾らせてミツルギを取り合うその様に、ミツルギ本人は苦笑いを浮かべながらも楽しそうにしていた。

 そんないかにもリア充まっしぐらなミツルギの様子に、青春や恋愛なんてものとは基本縁もゆかりもない男性客及び男性冒険者達からは、憎悪や妬み、殺意の籠った視線が集中していたが、ミツルギが気づくことはなかった。

 

「おお〜、お熱いね勇者さん」

 

 かっかっかっ、と活力のある笑い声を上げながらミツルギ達の輪の中へやって来た男が1人。ガタイの良い体躯の上にエプロンを身につけている白髪混じりの壮年に、ミツルギはいつものように爽やかな笑顔で挨拶をする。

 彼の名はアルバ。この甘味処にて約40年現役で菓子作りに励んでいるベテランとされている。因みに店の店主よりも年齢は上らしい。

 

「これはこれは、どうもアルバさん」

 

「いやぁ、若いっていいなぁ〜。体力もあって度胸もあって。そりゃあ可愛い女の子もついてくるさぁ」

 

「いえいえ、僕なんてまだまだですよ。今度またアクセルの方で依頼を受けたので、2人と一緒に頑張る予定です」

 

「そうかそうか。んじゃあ、俺も気合を入れてもてなさんとな!!待っとけ、おまけでジャルバラ特製杏仁豆腐も持ってきてやるさ!!」

 

 かっかっかっ、とまた特徴的な笑い声を響かせ、アルバは厨房へと向かう。

 

「あ、あのぉ、アルバさん?」

 

「なんだい、クレメアの嬢ちゃん?」

 

「その、前から言ってるジャルバラっていうのは…?」

 

 恐る恐るとした様子でクレメアはアルバへ気になったことを尋ねる。クレメアの質問に、店の中の客や店員達は始まったとばかりに皆溜息を吐き、呆れて天を仰いだ。反対にアルバは瞳孔を大きく開いて良くぞ聞いてくれたとばかりに意気揚々として口を踊らせた。

 

「ジャルバラは、俺の故郷。空に浮かぶ黄金の島、年中涼しい風が吹いていて、寒くも暑くもない快適な場所だ。

大きな塔や風車があってな、商店街にはこの世のものとは思えないくらい美味しいもので溢れている。

島に流れる清らかな川の上には蓮の花が咲いていて、その川の水には不老不死を齎すとも言われているんだ。

東から西に生温い風が流れる時は終日の合図で、その風が吹いたら、大人も子供も皆家に帰るのさ」

 

「は、はぁ…」

 

 アルバの話す内容が予想の斜め上をいっており、クレメアは質問した当人でも関わらず、呆けたような相槌しか返せない。しかしそんなことはお構いなしにアルバの話は続く。

 

「俺がここで働いてんのも、この味を知るジャルバラの人が現れて、いつか一緒に帰ることが出来るかもしれないって思ってるからなんだ。

もう歳なもんで、帰り道も忘れちまったんだ。いやぁ困った困った」

 

「そ、そうなのですね…」

 

「あ、いけないいけない。今杏仁豆腐作るで!!」

 

 アルバは今度こそ厨房へと戻った。話を聞き終えたフィオとクレメアは、どこか気まずそうにしながら、パフェやパンケーキの残りをもそもそと食べ始めた。

 そんな中、ミツルギはというと

 

「(なんだろう…魔剣グラムの僅かな反応からだが、なんだか話をしている時のアルバさんから普通じゃないものを感じた……折角だ。アクセルの街に立ち寄る際にアクア様達に相談でもしてみようかな。アクア様と共にいるサトウカズマや百瀬錬太郎なら信頼出来るし…)」

 

 冒険者としての勘に従い、アルバについて探りを入れようとアクセルの街のとあるパーティを頼ろうと1人考えていた。

 

 

 

 

 

「ふむ、ライターとやらの補充品も悪くはないな。今回の商談は以上としよう」

 

「どうも」

 

 数日後、アクセルの街のウィズ魔導具店に訪れたカズマは、店の店員にして見通す悪魔のバニルと商談を行っていた。クエスト帰りだったということもあり、同行していたアクアとアイリスも一緒である。

 

「それにしても、あの少女は見通しにくい。身体中を駆け巡る魔力が我輩が苦手とする高純度の神聖の類故か…」

 

「やっぱ王族なだけあってアイリスは特別なんだなぁ…」

 

 バニルとカズマは、共に会話に華を咲かせているウィズとアイリスの方へ視線を向ける。王女故に外の世界を本や勉強のみでしか知らなかったアイリスの探究心は凄まじく、ウィズからは魔法やアンデッドについて教えてもらっているようだ。

 

「まぁ、見通し辛いのは錬金小僧も同じなのだがな。それに貴様もこれから見通しが難しくなることを我輩のセンサーが告げている。何やら煌びやかな黄金色のモンスターのような何かが、我輩の目の前を遮るような感じの…」

 

「なんじゃそりゃ」

 

 バニルの言うことの意図が分からず、カズマはこてんと首を傾げる。そしてその間にウィズの話も終盤へと差し掛かっていた。

 

「そうなんですよ、アンデッド、というより魂の中にはこの世への未練故に突然変異する個体もあって、そういう魂は死後も生きている人間のように成長することもあるんです」

 

「ありがとうございますウィズさん、勉強になりました」

 

「いえいえ」

 

「それにしても、ウィズさんは20歳なのに物知りですね。凄いです!!」

 

「イリスさんったら、そんな風に褒められると照れちゃいますよ〜」

 

 アイリスのお世辞ではないまっすぐな尊敬の眼差しに、ウィズは照れ臭くなって頭をポリポリと掻く。

 ウィズが嬉しそうにしている光景が気に入らないアクアは、大きな舌打ちを1つ挟むと、店の中にいる全員に聞こえるように遠慮のない溜息を吐いた。

 

「全く…リッチーの癖に調子に乗っちゃって。な〜んかムカムカしてきたから浄化しちゃおうかしら」

 

「やめとけ。それにアクアもウィズとそんな変わらんだろ」

 

「はぁ?どういう意味よ?」

 

 カズマの言い分にカチンときたアクアは、噛み付くようにして声を荒げる。

 

「この世界の神っていうのはその神を信じる人達の想いから生まれているんだよな?」

 

「…まぁ大まかに言えばそうね」

 

「俺前にアクシズ教が誕生した時期を調べたんだが、そこから逆算するとお前も十分ババア…」

 

「みゃあああああ⁉︎⁉︎デリカシー!!デリカシーに欠けることカズマが言ったぁぁぁぁぁ⁉︎⁉︎⁉︎ババアじゃないもん、お肌ピッチピッチの若者だもん⁉︎⁉︎⁉︎」

 

「俺容姿じゃなくて年齢の話してるんだけど?論点ずらすのやめてもらっていいですか?

 

 

“アクアお婆さん”」

 

「ああああああああああああ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

 

 カズマのおちょくりに、いつものように顔面を崩壊させて滝のように涙と鼻水を溢れ出しながらアクアは喚き散らす。お婆さんと言われたことはアクアにとっては相当ショックだったようで、アクアは両腕を車輪の如く勢い良く振り回しながらカズマへと迫った。

 

「おい店の中で暴れんなよ!!」

 

「許すまじ!!鬼畜のクズマ!!女神の制裁をその身に受けなさい!!」

 

 縦横無尽に店の中を獲物と捕食者のように駆け巡るカズマとアクア。その2人の様子をバニルは咎めることもせず、寧ろ楽しんでいるようだった。

 

「フハハハハ!!悪感情美味であるぞ。女神からの悪感情は少々癖があるが、それもまた良し…」

 

 好物である悪感情を堪能し、高笑いを始めるバニル。流石は悪魔といったところか。刹那、魔導具店の扉に備え付けられた鈴が快い音色を奏で、新たな客を到来を告げる。

 

「すみません、サトウカズマ殿がこちらにいらっしゃると聞いて…」

 

 やって来たのは、ミツルギと取り巻きであるクレメア、フィオを含む3人。要件は先日の甘味処の店主について。信頼のおけるアクアやカズマに相談してみようと踏んだのだ。

 しかし来たタイミングが悪かった。否、悪かったどころの話ではない、最悪である。

 

「『アルティメットゴッドブロー』!!」

 

 間一髪、カズマがアクアの剛拳をしゃがんで躱し、代わりにカズマの後ろにいたミツルギが的になった。神聖な青白い光を纏った女神の右ストレートは、勇者の顔面に勢い良くめり込み、そのあまりの威力にミツルギは意識を手放して倒れ込んでしまった。

 

「あっ、マツルギ」

 

「「キョウヤぁぁぁぁぁ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」」

 

 きょとんとするアクアを横目に、鼻血を流し白目を剥いて横たわるミツルギの姿を目の当たりにしたクレメアとフィオの悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 その後、アクアの回復魔法によって、ミツルギは意識を取り戻した。ミツルギの回復にクレメアとフィオは安堵し、アクアとカズマは、後からやって来ためぐみんやダクネスからきつくお灸を据えられることとなった。

 そして夕刻を過ぎた頃、両パーティは久しぶりにギルドへと集い、会食を楽しんでいた。

 前回の最初は蟠りがあったが今はそんなものは微塵も無く、会話が弾みグラスを交わし合い、酔ったアクアが宴会芸を披露するなど、とても和やかな空間となっていた。

 テーブルに並んだ数多くの料理に舌を踊らせる中、ミツルギは漸く例の事をカズマ達に話し始めた。

 

「黄金の楽園?」

 

 カエルの炙り肉を口に運びながら、カズマはミツルギの話した内容を聞き返す。ミツルギは肯定の意味で首を縦に振り、詳細を続けた。

 

「うん…王都の甘味処のアルバさんがよく口にするんだ。帰り道を忘れてしまった自分の故郷だって…。話によると空に浮かぶ快適な島らしくて、大きな塔や風車に商店街、不老不死を齎す水が流れる川があったりするのだとか…」

 

「ふむ、内容の1つ1つが私の心を揺さぶりますね……是非とも行ってみたいです!!」

 

「とはいえ、流石に荒唐無稽すぎないか?」

 

 アルバの語る『ジャルバラ』の存在に、めぐみんは自身の琴線に触れた故か、瞳を星のように蘭々と輝かせる。一方で冷静なカズマはジャルバラが実在するのかどうかについては懐疑的に感じながらミツルギに尋ねる。カズマの意見にはミツルギも同じように思っているらしく神妙な顔つきで本題へと移った。

 

「そう思うだろう?それに、そんな宝島のような場所をギルドが放っておくとは思えないし……僕も調べてみたいのだけれど、生憎王都での依頼があってね、その…サトウカズマ。君達にお願い出来ないだろうか?君達は僕も信頼がおける冒険者だ、どうか頼む」

 

「は?いやだよ。その調査をして俺達になんのメリットがあるんだよ」

 

 ミツルギの申し出を快く引き受ける…なんてことはするはずも無く、面倒ごとを嫌うカズマはあっさりと断ってしまった。

 カズマからの返事にミツルギはぽかんと口を開けて固まってしまう。魔王軍幹部達を次々と撃退して来たパーティならば、それに自分が信頼を(一方的に)寄せている者達ならこれくらいの依頼はすんなり承諾してくれると信じて疑っていなかったため、動揺を隠せずにはいられなかった。

 さらに不幸なことに、カズマに次いでがめついめぐみんとアクアがミツルギへ追い討ちをかける。

 

「カズマの言うとおりですよ、この紅魔族随一の私を動かすにはそれ相応の対価があるに決まってるんですよね?」

 

「報酬は?高級シュワシュワ?それとも高額報酬?」

 

 遠慮のない3人の態度に、ダクネス、ゆんゆん、錬太郎は呆れたようにじっとりとした視線を向けるが、当人達はお構いなし。真面目な部分があるミツルギは、めぐみんやアクアの言い分を素直に聞き入れてしまい、慌てて対価とするものを考え始めた。

 

「も、勿論だ。例えばそうだな……」

 

 頭を捻るも良い案が浮かばない中、何故かアクアがミツルギの方へと身を寄せる。好意を寄せているアクアに迫られたミツルギは、いつに無く頬を紅潮させ、目を見開いた。尊敬し、慕っていた人物が自身の目と鼻の先にいるのだから無理もないことだが、そんなミツルギの心の内のいさ知らず、アクアはミツルギの胸の部分に顔を近づけると

 

「くんくん…」

 

「あ、アクア様⁉︎」

 

 なんと酔った影響か、ミツルギの匂いを嗅ぎ始めたのだ。アクアに近寄られただけでもキャパオーバー寸前だったと言うのに、このような事をされてはたまったものではない。先程から鼓動が速まっていた心臓はさらに脈打ち、額からは大量の汗がだらだらと流れ、さらには身震いまで起こしてしまうほど、ミツルギは限界でこのままでは自分の身が爆発するのではとまで錯覚し始めた。

 そしてミツルギへ好意を寄せているクレメアとフィオは、アクアの行動に目を血走らせながら歯軋りする。後ろに黒い陽炎さえ見えてしまいそうなその状態はまるで般若か地獄の鬼のよう。

 しかし一歩間違えれば修羅場間違いなしのこの状況も、我らが駄女神の一言によってあっけなく破壊されることになる。

 

「マタタビ!!あんた匂うわよ!!アンデッド特有のくっさいやつの上に、出来損ないの香水をかけて誤魔化したようないや〜な匂いが!!」

 

「なぁ⁉︎」

 

 顔を顰め、鼻を摘んだアクアが開口一番に漏らした言葉に、ミツルギは間抜けな声を漏らす。そして他の面子も呆気に取られた様子で暫くの間、なんとも言えない沈黙が続く。数秒ほどして、誰よりも早く平常を取り戻したフィオが口火を切り、静寂を破った。

 

「あれ?でも私達って最近アンデッドの討伐したっけ?」

 

「してないと思うけれど……、まさかキョウヤだけソロで⁉︎」

 

 フィオとクレメアからの疑問と視線に、ミツルギは首を左右に振った。

 

「いや、僕は1人でクエストは受けていないよ。だから最近はアンデッドとの戦闘はない…妙だな……」

 

 身に覚えのないアンデッドの件くだりにミツルギパーティ一同は、頭の上に無数の疑問符を浮かべる。ここ最近の出来事を思い出し、何か手掛かりはないかと3人で話し合うも、結局謎は解けぬまま。

 そんなミツルギ達を見て、依頼に前のめりに出たのはアイリスだった。

 

「お兄様、この依頼受けましょう!!」

 

「アイリス⁉︎」

 

「昨日こういう困っている人を助けるのも冒険者の仕事だって教えてくれたじゃないですか。それに、そろそろ王都に帰らないとお父様やクレアも寂しくなっちゃうかもなので…駄目ですか?」

 

 妹属性とは恐ろしい。改めてそうカズマは感じた。王城の中に籠りきりだった自分より歳下の王女が、外の世界を知って好奇心旺盛となって自分に懐き、どこで覚えたのか上目遣いで頼み込んでくる。幾ら鬼畜だのクズだの言われるカズマでも、アイリスに対して反対することは出来なかった。

 面倒臭さは否めないながらも、カズマは後頭部を数回掻きむしった後にミツルギの方を向いた。

 

「しょおがねぇなぁ……みみたぶ、その依頼受けてやるよ」

 

「本当か⁉︎流石サトウカズマ。恩に着るよ、後ミツルギね」

 

 嬉しそうに自身の手を握ってくるミツルギに、馴れ馴れしいと思いながらも引き攣った笑みで返すカズマ。一体コイツは自分の何を信頼しているのか、そう思わずにはいられなかった。

 

「ところで何故アイリス様が君達の下に?そして何故お兄様と?」

 

「まぁその、うんぬんかんぬんだ。察してくれ」

 

「いや察せるような部分ないけど⁉︎」

 

 

 

 

 

「でさぁ、ジャルバラには目を見張るような宴会集団もいてさぁ、皆が酒を片手にいい娯楽になるんだよ」

 

「お、おう。そうなのかおっちゃん……」

 

 数日後、甘味処ではアルバが来客に自身の故郷について声高らかに話していた。もう常連や店員は大体慣れて来たのか、アルバの話にはほとんど耳を傾けようとはせず、目の前の菓子に集中しようと努めていた。

 

「いやぁ、いつかまた帰りたいなぁジャルバラ。空島だから雲に隠れちゃったりもするからなぁ」

 

「探す必要ないだろ。ジャルバラってやつ、あんたの頭の中にあんだからさ」

 

 我慢の限界を迎えたのか、客の1人が不意に漏らした言葉。店の中の人々はよく言ってくれたと心の中で静かに親指を立てた。しかし、その瞬間からアルバの様子がおかしくなった。

 

「ジャルバラが…俺の…頭の…中……?お、俺の…妄想…?ぜ、全部……嘘………」

 

 妄想、嘘、唇を振るわせながらそう何度も反芻する。1人の客の言葉はアルバの心を抉り、大きな陰を落としていた。次第に息は荒くなり、額からは脂汗が大量に湧き出る。遂にアルバは胸を抑えて静かに倒れ込んでしまった。

 

「お、おい。おっちゃん、おっちゃん!!」

 

 

 

 

 その頃、王都を再び訪れていたカズマ達はグループに分かれてアルバについての情報収集を行なっていた。カズマ、アクア、めぐみんの3人が甘味処に、錬太郎、ゆんゆん、クロっちは店主の履歴についてスマホーン、テレヴィ、ミテミラーらと共に調べていた。因みにダクネスとアイリスは王城に向かったために不在である。

 

『ウィ〜、変だね。テレヴィやミテミラーでもそのアルバさんの過去を全部見れないなんて…』

 

『ヴィ〜』

 

『ミラー…』

 

 持ち前の探索能力を持ってしても、全ての情報を導き出すことの出来なかったことを申し訳なさそうにしながら、テレヴィとミテミラーはがっくりと肩を落とす。そんな2体を宥めつつ、錬太郎はスマホーンと共に幼少期にアルバの過ごした地を割り出そうとしていた。

 

「錬太郎さん、アルバさんはその楽園?の出身じゃないってことですよね?」

 

「うん、テレヴィやミテミラーが見せた記録では、幼少期のあの人がいた場所は明らかに地上だったしね。それに、出生記録も王都の方にしっかり残ってたみたいだ。

アルバさんの生まれは今から60年くらい前……後は、アルバさんが子供時代を過ごした場所さえ分かれば……」

 

『スマスマ!!』

 

「あ、スマホーンが先に見つけ出してくれたみたい。ありがとうね。えっと……」

 

 

 

 

 ワープテラの力を貸り、錬太郎達はアルバが幼少期を過ごしたとされる場所まで転移した。そこは雑草が生い茂る荒れ果てた廃村であり、かろうじて形を保っている家屋がいくつか確認できるくらいであった。

 

「ここは……」

 

「元魔道具の街、ヴァルガルド跡地。50年程昔に、機動要塞デストロイヤーによって滅ぼされた街の1つ……。街が滅んだ後も生き残った人々はいたみたいだけど、極度の飢餓に苦しめられたみたいだ…。確かこの時はクロっち達は眠ってたんだっけ?」

 

『うん、破壊神との戦闘による負担はかなり大きかったからなぁ……。皆ダンによって再び起こされるまで70年くらい眠ってたよ…。もしも僕達が起きていたらこの街も消えずに済んだのかなぁ……』

 

 クロっちは悔恨するように唇を噛み締めて地面を睨む。そんな彼を気遣ってか、錬太郎もゆんゆんも特に言葉はかけず、辺りの探索に移った。錬太郎の左腕のドローホルダーの中にいたケミー達も一斉に解放され、全員で捜査に取り掛かる。

 

『ブシドー!!』

 

『カマカマ!!』

 

 カマンティスやアッパレブシドーが自慢の刀捌きや鎌捌きで、行手を塞ぐ草の道を切り開く。

 

『ピカピカ!!』

 

『マーズ!!』

 

『ルーパー!!』

 

 さらにピカホタルやファイアマルスらの力で視界を照らし、無数に分身したアントルーパーが広範囲を散策。さらに

 

『エクシード!!』

 

『ホーク!!』

 

『グレイト!!』

 

 エクシードファイター、ホークスター、グレイトンボといった飛行能力を持つケミー達が上空からも情報を収集し、そのデータをスマホーンやテレヴィに伝達。

 そのおかげで僅か数分にしてアルバの家を割り出すことに成功した。

 

「恐らくここがアルバさんが幼少期を過ごした家だと思う。テレヴィが映してくれた風景の面影もある……」

 

 錬太郎達の訪れた家は、家としての原型を留めてはおらず、屋根の瓦は砕け、柱は老朽故にボロボロになっており、床は板材が腐敗していて今にも抜けそうである。部屋全体が蜘蛛の巣で覆われていることから、長い間人が住んでいないことは見て明らかだ。

 探索を続ける中、錬太郎は家の部屋の中で見つけてしまったとあるものに対して息を呑んだ。

 山座りをしたまま、ぴくりとも動かない人影……否、幼子の人骨を。

 

「これは……まさか……」

 

 錬太郎は恐る恐るスマホーン、テレヴィと共に、その人骨と幼少時代のアルバの整合認証を行う。数秒程して結果は出た。人骨は、アルバのものと高い一致率を示していた。

 

「れ、錬太郎さん…ということは…」

 

「アルバさんの正体は幽霊でその魂は自分が楽園の住人だって思い込んでしまって、現世を彷徨っていた…のかもしれない……でもそれじゃ、死後成長しないはずの魂の理論とは合わないはず……」

 

 その後人骨の埋葬を終え、一旦の結果を皆に報告しようと、錬太郎は懐のケミーライザーを取り出して操作を始める。刹那、不意に風が巻き上がるような感覚に錬太郎とゆんゆん、そしてケミー達は上空へと視線を向ける。そして瞳に映る巨大な何かに、一同は息を呑んだ。

 

「なんだろう、あれ。雲と砂が吸い寄せられて渦を巻いてる……まるで空島のようだ……」

 

 

 

 

 

「いやぁ、勇者さんの友達もお揃いでやって来るとは……。俺って人気者だなぁ。はっはっは」

 

 甘味処に訪れた際、店主が倒れたと聞いたカズマ達は、急いでアルバの搬送された病院へと向かった。クエストを迅速に完了したミツルギ達も魔導具によるテレポートを使って来ていたようで、賑やかとなった病室にてアルバは嬉しそうに笑っていた。

 

「命に別状がなくて良かったです。これ、見舞いの品で……」

 

「おお、ありがとさん。美味しくいただくよ」

 

 ミツルギはクエストより帰還する最中に買った手土産をアルバへと手渡し、アルバもまたそれを丁重に受け取る。最後に別れの挨拶を告げると、ミツルギとカズマ達は病室を後にすることにした。

 

「いくぞアクア……アクア?」

 

「どうしたんだい嬢ちゃん?」

 

 しかしどういう訳か、アクアだけはアルバのベッドの前に仁王立ちをしていた。カズマが呼びかけても、アルバが問いかけても答えようとはしない。次の瞬間、アクアは両掌を前へ突き出し、己の身から青白い光を発すると共に強力な力を解き放った。

 

「『ターンアンデッド』!!!!」

 

 発動されたのは浄化魔法。一瞬にして病室が純白に包み込まれ、窓からも光が漏れ出す。慌ててミツルギとカズマが止めに入り、アクアをアルバの前から引き剥がした。

 

「ちょちょちょちょ⁉︎アクア様⁉︎」

 

「こんの駄女神!!すみませんうちの馬鹿が…」

 

 カズマはアルバに向かって何度も何度も頭を下げ、アクアを引きずりながら急足で病室を離れた。病院から出て、漸くカズマとミツルギからの束縛から解放されたアクアが、いつものように喚き散らかす。

 

「おかしいわ、カズマさん、カマシスギ!!手応えがないわ⁉︎」

 

「馬鹿かお前、相手は人間だぞ⁉︎」

 

「ツエスギの匂いの元がアイツだったわけよ。私のターンアンデッドで倒せると思ったんだけど……でも変な感覚だったわ。アイツ生きている感じとも死んでいる感じともなんだか違うみたいだったわ……」

 

「お前の勘違いだろロリ婆女神が…」

 

「ああ⁉︎また言っちゃいけないこと言ったぁぁぁぁぁ⁉︎⁉︎」

 

 元々うるさかった声をさらに荒げ、アクアは地団駄を踏みながらカズマの肩を掴んでぐわんぐわんと揺らす。その様子に道行く人々から白い目を向けられ始め、耐えられなくなっためぐみんが両者の仲裁に入った。

 

「落ち着いてくださいよアクア。カズマの言うことに対して少しは聞き流せるようになってください」

 

 

 

 病室にてまた1人となったアルバは、憂う顔で開いた窓の外の夕暮れの景色を眺めていた。頭の中では、客に言われた言葉が再び過ぎる。

 

「幻…ジャルバラが幻か…」

 

 渇いた笑いを零し、項垂れるようにして俯くアルバ。そんな時、ふと一筋の風が窓を伝って流れ込んで来た。その風にアルバは顔を上げる。

 

「……この風……まさか……」

 

 髪と頬を優しく撫でる暖かな感触。鮮やかに蘇る自身の中の思い出。そう、それはまさしく彼が探し求めていた故郷特有の風。

 ベッドから重い身体を起こし、窓の外を眺めたアルバは、目に映る光景に思わず涙を零した。

 

「あった……ジャルバラが……。嘘じゃなかった……」

 

 アルバは先程の身体の倦怠感が嘘のように病室を飛び出し、壮年とは思えない脚力でジャルバラのもとへと走る。

 途中、帰路に着いていたカズマ達を横切り、何事かミツルギは思わずアルバを呼び止めた。

 

「アルバさん⁉︎どうしたんですか⁉︎」

 

「ジャルバラだ…、ジャルバラが!見つかったんだ!!帰れる、これで帰れる、ふるさとへ……」

 

 鼻息を荒くして興奮しながらアルバは上空を指差す。アルバの指の先に視線を移す一同だが、その対象は些か楽園とは到底思えないようなものだった。

 

「え……あれですか?私には風と砂が渦巻いた大きな雲にしか見えないのですが?」

 

 めぐみんの意見に、他の者達も同調した。どうして他のものより大きな雲が楽園のように見えるのか、皆そう思って仕方なかった。その間にアルバは過ぎ去り、雲の方へと疾走してしまった。

 

「ちょ、アルバさん⁉︎まだ安静にしていないと…」

 

 アルバを1人、ミツルギは心配しながら追い始めた。しかし幾ら走れどもアルバとの距離は縮まらず、寧ろどんどん差が開いていく。冒険者であるミツルギが息を切らしているというのにアルバは存外余裕そうで、改めてミツルギはアルバに対して違和感を覚えた。

 

「(速い…速すぎる…グラムの加護がある僕よりも遥かに速い……。アルバさんのどこにあんな力が…)」

 

「ジャルバラ…ジャルバラよう…」

 

 やがてアルバは小さな山を登り、僅か数分にて頂上に辿り着く。刹那、アルバから大きな雲へと流れ込むように温暖な風が吸い寄せられる。アルバは悟ったように柔和な表情を浮かべると、再び両目から涙を溢れさせた。

 

「東から西に生温い風が流れる時は終日の合図。大人も子供も皆家に帰る…俺を迎えに来てくれたのか……」

 

 風が強まり、夕陽に照らされた草木が揺れる。夕陽に照らされた雲の縁が、まるで黄金色の光を放つかのように見えた。そして風は次第に弱まり、遂には風そのものが消える。肩で息をしながら漸く山頂にミツルギが辿り着いた時、巨大な雲やアルバの姿はなく、残っていたのはアルバが履いていた服と靴、そして静けさだけだった。

 

 

 

 

「まさかジュピッタが雲と風と砂を引き寄せてあんな島みたいな状態になっていたなんて……」

 

「自然でもたまに起きる現象なんですよね。確か50年に一度くらいの頻度で、角度によっては黄金色だったり島のように見えたりするって聞いてます」

 

 上空に現れた巨大な空島のようなものについて、錬太郎達はコズミックケミーのレベルナンバー2――ジュピッタの影響ではないかと推測した。

風を操る特性上、無意識のうちに砂や雲を纏って大きくなってしまった可能性もあるらしい。

 

『解放していたコズミックケミー達に引き寄せられたのかもね』

 

 新たなケミーとも出会い、ひとまずの結論を得た錬太郎達は帰路に着く。来客の帰りを見送りながら、かつてのヴァルガルドは再び風と砂の中に人知れずその姿を隠すのだった。

 

 

 

 

 翌日の王都のギルドにて。真昼間なのだというのに、ミツルギは浮かない顔をしながら窓際の席で溜息を漏らす。あの日以来、アルバの姿を見た者はいない。甘味処にも出勤していないようで、完全に行方不明扱いである。

 

「(アルバさん……一体どこに行ってしまったんだ……)」

 

 物思いにふけながら、ミツルギはぼんやりと窓の外を眺める。東から西へと流れる風が、周辺の草木を優しく撫で、同時に風に運ばれるかの如く、上空を重厚な様の入道雲とその後ろに隠れた大きな島のようななにか(・・・)が通り過ぎたような気がした。




久しぶりのSF会でした。店主さんの正体が楽園の住人だったのか、それともまた別の何かだったのか、ご想像にお任せします。
今回のお話のモチーフはウルトラマンガイアの「遠い街ウクバール」です。
ミツルギをメインに添えるのはどこか新鮮でしたが、よりみちのダストやリーンみたいにサブキャラの視点で描くのは、メインキャラの視点とまた違った見え方が出来て楽しかったです。

次回からはカズマパーティが本格的に王都で活躍していきます。
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