この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを!   作:山田プロキオン

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大変遅くなりました。
新生活に慣れず、更新に時間がかかってしまいました。



この入れ替わりに一苦労を 前編

「(クリスが言ってたのって、このアクセサリーのことだったのか――ッッ!!)」

 

 頭を抱え、カズマは胸中で後悔と嘆きの入り混じった叫びを上げる。

 先程、読み上げてしまったアイリスの首飾りに刻まれた日本語。それは首飾りの秘めた力の発動の呪文だった。そのことを知らなかったカズマはまんまと術を発動させてしまい、カズマとアイリスの中身が入れ替わってしまったのである。

 

「と、ととととにかく、一旦おおおお、落ち着こう」

 

「お前が一番取り乱してんぞ、錬太郎」

 

 仲間思いゆえか、術の被害を受けた当人達以上に動揺を隠せていない錬太郎。そんな彼をカズマが逆に宥めるのだが、アイリスの姿で腕を組みながら、カズマそのままの口調で喋るその様は、なかなかに異様だった。もしクレアあたりがこの場に居合わせていたなら、彼女にとってこのアイリスは解釈不一致であるとして卒倒していただろう。

 

「お兄様の言う通りです。錬太郎様、どうか落ち着いてください。今のところ、特に問題はありませんから」

 

「う、うん……わかった」

 

 カズマの身体となったアイリスの言葉に漸く錬太郎は落ち着きを取り戻す。とはいえ落ち着いたはいいものの、やはり中身が違う故の違和感を錬太郎は拭えなかった。

 

「なんか……甲高いカズマの声って……その、変だね……」

 

「喧嘩売ってんのか?」

 

 身体がカズマであっても、精神が少女のアイリスである以上、声の出し方にどうしても高く澄んだ響きを帯びてしまう。小馬鹿にされたのではと身を乗り出すカズマだが、そんな彼を無視して錬太郎は話を進める。

 

「とにかく、元に戻る方法を考えなきゃ」

 

「俺としてはこのままでもいいっちゃいいんだがな。転生したら王国の王女だった件、って感じでゼロから人生再開するのも悪くねぇし……とはいえ、今まで苦楽を共にしてきた自分の身体を手放すってのも、なんか違うんだよな」

 

「結局カズマはどうしたいの?」

 

「元に戻る方法探そうぜ」

 

「了解、流石に一生カズマの身体だとアイリスが可哀想だからね」

 

「お前、ところどころ失礼だよな……」

 

 錬太郎の何気ない一言が、カズマの胸に刺さり、少し抉った。対して当の錬太郎はそれに気づくことなく、すぐさまケミーライザーを起動する。

 王都を巡回しているケミー達の中に、奇術の解呪に精通した者がいるかもしれない可能性に賭けて、一旦彼らを招集した。

 だが、

 

「えっ、できないの?」

 

『そうみたいなんだ。僕の魔法や、エンジェリードの神聖な術、ダイオーニの神通力で似たことはできるんだけど……今のところ、この魔道具の力を上回れなくて。ごめんね』

 

『エンジェリー……』

 

『オニオーニ……』

 

 ケミー達の力をもってしても、解呪は不可能のようだ。錬太郎やカズマの期待に応えられなかったことがよほど堪えたのか、クロスウィザード、エンジェリード、ダイオーニ達は目に見えて落ち込んでいた。

 

「ううん、仕方ないよ。来てくれただけでも十分だよ、ありがとう。また別の方法を考えてみるね」

 

「ケミー達でも無理となると……他に誰ができるんだ?解呪なんて大層なことできる冒険者、そうそう…」

 

 腕を組みながら唸るカズマの脳裏にふと1人の人物が浮かんだ。

 流れるような青髪と抜群の容姿を備え、強力な回復魔法と解呪を使いこなしながら、その全てを傲慢さと穀潰しぶりで台無しにしているアークプリースト。

 そう、アクアである。

 

「駄女神がいるじゃん。アイツ、大抵の呪いなら消せるって前言ってたし、このネックレスも何とかなるかも」

 

「じゃあ、アクアを探さなきゃだね」

 

 善は急げとばかりに、錬太郎はケミーライザーの位置共有機能を起動した。

 

「場所は市街地みたいだ。それじゃ、行ってくるね」

 

 アクアの位置を割り出し、すぐさま踵を返して駆け出そうとする錬太郎。その時だった。

 

「あ、あの……」

 

 おずおずとした声が、彼を引き留めた。振り返るとアイリスが小さく挙手をしていた。思いがけない呼び止めに、錬太郎とカズマの視線が同時に向けられる。

 自身へと集中する四つの瞳にアイリスは少し肩をすくめたが、やがて意を決したように口を開いた。

 

「よ、よろしければ……私も着いて行ってもよろしいでしょうか?」

 

 数秒、静寂が訪れた。2人がアイリスの意図を理解するまでに沈黙が続き、ようやっと意味を把握できた錬太郎がアイリスに対して口火を切る。

 

「えっと…アイリス?、その…どうして急に?」

 

「……ッそれは…」

 

 錬太郎からの疑問にアイリスは言葉を詰まらせ、視線を揺らす。余程言いにくい理由なのだろうか、しかしやがて覚悟を決めたように顔を上げると、カズマの翡翠色の瞳で二人を真っ直ぐ見つめて声を届けた。

 

「お兄様の身体で見える景色に、少し興味がありまして……。外の世界を、自分以外の目で見るなんて……きっと、今後もうない経験だと思うんです」

 

「アイリス……」

 

 アイリスの言い分に錬太郎はすぐには返せなかった。気持ちはよく分かる。

 王女であるアイリスは、王都の外の世界に強い憧れを抱いている。アクセルの街に来訪して冒険者としてのひと時を過ごして以降、自分の目で見て、自分の足で歩いて知ることを大切にしているのだ。

 だが同時に、不安もあった。普段とは違う身体。違う感覚。思わぬ事故だってあり得る。それに、まだ元に戻れる保証もない。

 

「……まあ、いいんじゃねぇのか?」

 

 中々進展しない状況を見兼ねたのか、カズマの鶴の一声が入る。そして意外にも、カズマの口から出たのは許可の意だった。

 慎重な彼にしては珍しい言葉が判断に、錬太郎は驚き、対照的にアイリスは目を瞬かせる。

 

「錬太郎、しっかり面倒見てやれよ」

 

「ありがとうございます、お兄様」

 

 嬉しそうに飛び跳ねるアイリス。カズマはそんなアイリスを見て大らかに笑った。

 傍から見れば、年相応の男性が乙女のようにはしゃぐ様を、年端もいかない少女が保護者のように眺めているという、なんとも奇妙な光景だ。

 だが錬太郎には、その二人がどこか本当の兄妹のようにも見えた。

 

「どうせアイリスの身体じゃ、俺は外に出られねぇしな。アクア見つけたらよろしく」

 

「……」

 

 カズマが優しく笑い、親指を立てる。普段なら錬太郎も同じような動作をして返すのが普通。しかし何故か今回は小さく頷きながらも、どこか訝しげな視線を向けた。

 

「な、なんだよ?」

 

「……いや、別に」

 

 探るような瞳を変えることなく、どこか引っかかるものを残したまま、錬太郎はアイリスを連れて王城を後にした。

 二人の姿が見えなくなると、カズマは安堵して大きく息を吐いた。

 

「ふぅ……危なかった」

 

 そしてカズマが額の汗を拭った瞬間、アイリスの顔で実に下卑た笑みを浮かべる。それはカズマが元の身体で良からぬことを思いついた際に作る笑顔と瓜二つのもの。

 

「さて……アイリスも俺の身体で楽しむみたいだし、俺もちょっとくらい羽目を外したって、バチは当たらねぇよなぁ?」

 

 王女の身体。鬼畜と呼ばれる男が、それを利用しないはずがなかった。幸い錬太郎やアイリス、さらにはアクア達やクレア達もいない。この好機をしめしめと噛み締めながら、カズマの脳内で妄想が膨らんでいく。

 

「(クレアさんやレインさんと一緒にお風呂入っちゃうとか、王女として色々命令しちゃったりとか……これは夢が広がるぜ……!)」

 

『ウキウキのところ悪いけど、それは無理だねぇ』

 

 ふと背後から聞こえる声に思わず振り向くカズマ。彼の後ろにはオカルトケミーのレベルナンバー5、ズキュンパイアの姿があった。

 

「ズ、ズキュンパイア!? なんでいるんだよ!?」

 

 いつの間にか背後を取られて狼狽するカズマに、やっぱりと言いたげにズキュンパイアは溜息を溢すと、自身がいる理由を語り始める。

 

『カズマが変なことしないか見張っておいてって、錬太郎に頼まれてね』

 

 その一言で、カズマは膝から崩れ落ちた。

 

「終わった……」

 

 彼の脳内に広がっていた華やかな妄想は、一瞬で粉々に砕け散った。錬太郎の方がどうやら一枚上手だったらしい。パーティメンバーとして苦楽を共にし、お互いの性格についてそれなりに知り合っていることがここで裏目に出る結果になるとは。

 

「ちくしょおおおお!!」

 

 アイリスの小さな拳が床を何度も叩く。尚もカズマの悔恨は収まらず、アイリスには絶対に似合うはずもない大きな怒号を上げた。

 

「おのれ錬太郎――ッ!!」

 

 悲痛な叫びは王城に響き渡ったと思いきや、虚しく木霊してやがては消えていった。

 ちなみにその声はクレアとレインの耳にも届いていたらしく、

 

「あ、アイリス様が……錬太郎様に……?」

 

「まさか、あのアイリス様の怒りを買うとは……錬太郎殿には悪いが……」

 

「待ってクレア、落ち着きましょう⁉︎」

 

 

 

 

「あ、そうそう。忘れちゃダメだった…」

 

 王城の門をくぐる直前、錬太郎はふと思い出したように一時足を止めた。そして右手の人差し指へと視線を落とし、装着されていた銀色に縁取りに青い矢印の装飾が特徴の指輪、アルケミストリングへとそっと触れる。その後そそくさと錬太郎は指輪を外し、懐へと仕舞い込んだ。

 

「……?」

 

 その一連の動作は、アイリスにしっかりと見られていた。どこか周囲の目を気にかけるかのように指輪を外す様は、アイリスにとって気に掛かる。何より錬太郎は自分に錬金術師について話してくれた際、アルケミストリングは錬金術師の証であると話していた。それ程に大切なものを何故外すのか、理解ができなかった。

 そんな謎や疑問を抱えるアイリスだったが、王城の外に広がる雄大な景色の方へと目移りした。

 

「わぁ……」

 

 アイリスから思わず漏れる感嘆の声。無理もない。王都の中心部に広がる繁華街。王女としてその光景を窓から眺めることはあれど、足を踏み入れたことはなかった。だからだろう、目に映る風景全てが輝いて見えるのは。

 石畳の通りを行き交う冒険者や行商人の波、四方に並ぶ商店から響く威勢の良い呼び込みの声、焼き立てのパンの香ばしい匂い、露店に並ぶ色鮮やかな果実、職人達によって奏でられる激しくも心地のいい金属音。

 それら全てが混ざり合って生み出される活気、まるで『王都』という街を突き動かす巨大な心臓の鼓動のように感じた。

 

「すごい……」

 

 カズマの身体を通して見る景色は、いつもよりも少し高くて、少し広かった。その新鮮さにアイリスは胸を躍らせた。

 

「あ、ホッパーちゃん」

 

『ホッパー!!』

 

 生気溢れる街路に、小さな影が舞う。アイリスの方へ寄ってきたのはホッパー1。丁度繁華街辺りを巡回していたのだろう。

 

「パトロール中かな?お疲れ様」

 

 錬太郎は柔らかな笑みを浮かべ、ホッパー1を労った。それを皮切りに、スケボーズ、サボニードルといったケミー達も飛び出してきた。

 

「あ、スケボーちゃんにサボちゃんも」

 

『スケボー!!』

 

『サボーー!!』

 

「えへへ、くすぐったいよぉ」

 

 無邪気で屈託のない様子でじゃれてくるケミー達に、アイリスははにかみながら口角を上げる。

 なんとも心温まる光景なのだが、とある事情により周囲の人々は、不思議そうにしながらアイリス達を眺めていた。より正確に示すとなると、『何もない空間に向かって一人で笑っているカズマ』を見て。

 

「あの〜、アイリス…」

 

「どうしましたか?」

 

 まだ気が付いていないようなので、気まずさを押し殺してアイリスに声をかける錬太郎。そしてそっと顔をアイリスの耳元へと近づけると、自身らを取り巻く周囲の状況を簡潔に伝えた。

 

「その…王都をパトロールしているケミー達は皆、クロ立ちの魔法で透過していて、周りからは姿が見えないんだ。だから……」

 

 錬太郎の説明にハッとしてアイリスが辺りへと視線を向ける。そこには、ひそひそと囁きながら己を凝視しては過ぎ去っていく通行人達の姿があった。

 

「ッッッッ……⁉︎⁉︎⁉︎」

 

 ようやく状況を理解したアイリスの顔が、熟れたトマトのように一瞬で真っ赤に染まる。先程までの純粋な笑顔から一転、その心中は羞恥一色に塗り替えられてしまった。

 

「あ、カズマさんに錬太郎じゃない」

 

 街にやって来て早々、思わぬ苦労をした2人に声をかける者が。2人が振り向いた先には、朝から王都の繁華街を満喫しているアクアとダクネスの姿があった。余程王都の売店を満喫したのか、アクアの口周りには食べかすが残っており、さらにお腹もさすっている。そんなアクアの様子にダクネスは呆れて息を吐いた。

 

「まったく、アクアの豪食っぷりには困るものだな…それに、カズマ。やっと起きたのか。お前のことだから、城の中でだらけていると思っていたのに」

 

 アクアついでにダクネスはアイリスにも言葉を投げかける。とはいえ、ダクネスからしてみれば目の前にいるのは錬太郎とカズマであるがため、普段の砕けた口調になるのも無理はない。

 

「あ…ええと……」

 

 基本丁寧口調で接するダクネスの普段の話し方に戸惑っているようで、アイリスは言葉を詰まらせ、錬太郎へ視線を送る。

 アイリスの視線から助け舟を求めているのだろうと察した錬太郎は、すぐさまフォローに入ることにした。

 

「やぁアクア。突然なんだけど、アクアって魔道具とかによる術の解呪って出来る?」

 

「そりゃあ勿論可能よ。解呪の魔法を使えばちょちょいのちょい、なんてったって私は女神なんだから」

 

 ふふんと威勢のいい鼻息を鳴らし、どんと胸を叩くアクア。どうやら未知なる魔道具の機能でも、アクア程のプリーストであればなんとかすることが出来るようだ。

 

「そっか、よかったねアイリス。これでもとの身体に戻れるよ」

 

「はい!!」

 

 アクアからの報告に、錬太郎と一緒にアイリスも声を出して喜びを露わにする。

 と、同時にダクネスの頭の上には無数の疑問符が浮かんだ。

 

「へ?アイリス…なぜ、カズマが…?」

 

「あ、まだ説明してなかったね。実は……」

 

 

 

 

 錬太郎はダクネスとアクアに向けて、王城にて起こった入れ替わりの顛末について話した。説明を聞き終えるや否や、ダクネスの顔面が物凄い速度で青ざめていく。脳裏に過ぎる、先程自分は目の前にいるカズマ(アイリス)に対して、貴族としてではない、冒険者として接する時の口調で話してしまったこと、そして父からは王族に対しては如何なる時でも目上の人として言葉を話すよう言われていたこと。

 そこからのダクネスは早かった。直様アイリスの前へ近寄ると、跪いて見事に綺麗な土下座をして見せた。

 

「只今の(わたくし)の不敬をどうかお許しください!!責任はこのララティーナが全て背負いますから、どうかダスティネス家の者達には……」

 

「あ、いえ…知らなかったのなら仕方のないことです。顔を上げてくださいララティーナ……」

 

 額が地面にめり込むほどぐりぐりと頭を擦り付けるダクネスに、アイリスはおろおろとしてしまう。

 そんなこと気にせずアイリスに迫りまじまじと注視するアクア。入れ替わりという稀有な事象には対して驚いている素振りもなく、一通り観察し終えると淡々と自身の見解を語り始めた。

 

「この入れ替わりの魔法、後ちょっとで解除されるわよ?」

 

「そうなの?」  

 

「私の勘に間違いはないわ錬太郎。どうやら時間制限つきのものみたいね。長くてあと30分ってところかしら?」  

 

「そ、そうか……。とはいえ元に戻れるようで何よりだよ」

 

 ほっと胸を撫で下ろす錬太郎に続いて、アイリスも安心して柔和な顔になる。

 

「それにしても、カズマさんの見た目でも中身が変わるだけで結構印象変わるわねぇ〜」

 

「それは僕も思ったよ」

 

 面白いもののようにカズマの身体となったアイリスをニマニマと見つめるアクア。刹那、アクアの束ねられた髪の部分がぴょこぴょこと揺れる。何かを思いついたようだ。

 

「ねぇアイリス、せっかくだからカズマさんの身体でここら辺の商店街を探検してみましょうよ。きっと楽しいわよ」

 

「なぁ⁉︎おいアクア、流石にそれは……」

 

 アクアの提言を、王家の懐刀としての一面からダクネスは静止する。幾ら見た目こそカズマとはいえ中身は王女。何かあろうものであればただでは済まない。

 

「いいのですララティーナ。私もこの身体から見える外の世界にとても興味がありますから」

 

「あ、アイリス様⁉︎」

 

 とはいえそこは豪胆な部分が目立つアイリス。アクアの提案を簡単に受け入れ、王都の商店街を巡ることを決定しまった。

 

「アクア様、案内よろしくお願いします」

 

「任せときなさい!!」

 

 姉貴分のようにアクアがアイリスを引率し、街の人混みの中へと消えていく。アイリスの大胆さに対するダクネスの動揺っぷりは凄まじかった。額から脂汗をダラダラと流し、心音を刻む拍動は激しくなる一方である。

 

「ハァァァァァァァ………」  

 

 絞り出すような疲れを帯びた声を漏らし、心臓部分を抑えるダクネス。そんな彼女を労ってか、錬太郎はダクネスの右肩にポンと軽く左手を添えた。

 

「なんというか、お疲れ様……」




次回こそは早めに投稿できるように頑張ります。
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