この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを! 作:山田プロキオン
嫌悪感を抱く可能性がございますので、苦手な方はブラウザバック推奨です。
アクアに手引きされるまま、アイリスは人混みを避けて王都の店を転々とする。アイリスの身に何か起きないかと、気が気でないダクネスとそんなダクネスを労る錬太郎も後に続き、今は服屋に滞在していた。
「これなんてどうかしら?」
「はい、風通しも良くて着心地も問題ないです!!お兄様にも勧めてみます!!」
アクアがアイリスに提供したのは、通気性の優れた綿麻製と見られる緑色の上着。カズマのいた世界の服で言い表すのならば、Tシャツだろう。あまり庶民的な服に袖を通す機会のないアイリスには新鮮ではあったものの、大層気に入った様子だ。
「やめときなさいな、これはカズマさんのかっこした貴方だから似合っているのよ?オリジナルカズマがこれを着たって似合わないし服に着られるまだあるわよ」
「そ、そうなんでしょうか?」
「そうよそうよ。ねぇ、次はあれなんてどうかしら?」
さりげなくカズマを貶しながら、アクアは次から次へと試着用の服をアイリスへと勧める。その様子を遠目から見ていたダクネスは、潤みを含み宝石のようになっている碧眼から滝のように涙を溢れさせた。
「うぅ……」
「だ、ダクネス⁉︎」
急に両目を覆い、手を仰ぐダクネスに、錬太郎は心配するように声をかける。鼻を啜り、なんとか絞り出すようにしてダクネスは言葉を綴った。
「アイリス様が…あんなに伸び伸びと……」
「あ、感動だったのね」
「そして純粋無垢な様がどんどんカズマやアクアの色に染められていく……」
「憂いもあったのね……」
王家の懐刀としてアイリスを護衛しなければならない都合上、カズマやアクアといったパーティメンバーのアイリスへの吹き込みは、ダクネスの心臓にすこぶる悪い模様。現に紅魔の里の一件までの頃と比べると幾分か痩せた、否やつれたようにも見える。
「錬太郎様!!」
ダクネスを気にかけていた錬太郎に、とことこと歩み寄るアイリス。またアクアに勧められた服だろうか。薄灰色を基調とし、動きやすやに焦点を置いているのか見ている分にはいくらか伸縮性の高いパーカーを着用していた。
「どうでしょうか?お兄様にはこの服はあっていますでしょうか?」
「灰色のパーカーって珍しいでしょ?ジャージ以外に日本要素が感じられそうでカズマさん少しは喜ぶんじゃないかしら?」
どやぁ、という効果音が聞こえてきそうになるほどアクアは鼻を高くして胸を張る。どうしてパーカーから日本要素が感じられるのか、アクアの変な理屈に首を傾げる錬太郎。そしてどういうわけか、アイリスのパーカーから妙な気配を感じ取った。
「ええっと……ちょっと待ってね?」
腰部に取り付けられていたケミーライザーを取り外し、アイリスの前に翳す錬太郎。刹那、ケミーライザーが反応を示し呼応するかのようにアイリスのパーカーから快活な声が響き渡る。
『パーカー!パーカー!』
アクアとアイリスが見つけたものはパーカーではなかった。錬金事変にて世界中へ散らばったケミーの一体、アーティファクトのレベルナンバー5、パンパカパーカーだったのだ。
「やっぱり、君はパンパカパーカーか!!」
久しぶりの新たなケミーの発見に、錬太郎も声を弾ませる。その後、パンパカパーカーを新たな仲間として迎え、いくつかの服を物色し、アイリス達は次の店へと向かった。
その後もアクアの案内の元、アイリス達は王都の繁華街を転々とした。珍しいマナタイトや魔具の取り揃えられた百貨店、貴族や冒険者分け隔てなく迎え入れるレストラン、と様々でアイリスは終始瞳を輝かせていた。
そして今はある程度巡り終わり、一同は路地裏付近のベンチに腰掛けている。王都の中でも人気なベーカリーのパンをいくつか購入して食べている最中だ。
「そういえば今更なのですが、錬太郎様が錬金戦士になる際に力を貸してくださるケミー達は、持っている数字を足すと10になりますよね?あれって何か意味があったりするのですか?」
繁華街の中で購入したパンを頬張りながら、アイリスは錬金術に関する疑問を錬太郎に尋ねた。
「ああ…あれね…」
アイリスの問いに、錬太郎は気まずそうに眉をハの字にして躊躇う素振りを見せる。そして錬太郎の口から出た答えは…。
「実はあまり僕もわからない……」
錬太郎の回答に、その場は何とも言えない様子で静まり返る。アイリスは錬太郎ならば錬金術に関して何でもわかると勝手に期待し過ぎていた節があり、申し訳なさそうに肩をすくませていた。
居心地の悪い空気の流れになっていることを察した錬太郎は慌てて補足を語る。
「一応多重錬成における調律の波数が基本10になるからそれが由来だと思うんだけどなぁ……」
『ちなみにレベルナンバー10は少し特殊だよ』
どこからともなくクロっちがひょっこりと現れて錬太郎に続いて解説を始めた。
『エクスガッチャリバーは僕達レベルナンバー10の力を調律して、多重錬成に安全に組み込むためにはじまりの錬金術師達によって錬成されたんだ。
破壊神との闘いに備えて生み出されたんだけど、破壊神封印後はUFO-Xに預けられていて、それが今は錬太郎に渡ったってわけ』
「成程、勉強になります」
錬太郎とクロっちの話を一通り聞き終えたアイリスはふむふむと首を縦に振った。アクアはというと、原理についてはどうやら頭が追いつかなかったらしく、クロっちの話が終わりに向かう頃には頭の上に無数の疑問符が浮かんでいた。
そして次に口を開いたのはダクネスだ。王都巡りがひと段落して余裕が出来たからか、幾分か顔色は良くなっていた。
「それにしても、頑固な錬太郎がケミー達を王都で自由にするなんて意外だったなぁ。行く前はダメな一点張りだったのに……」
「いつロードや魔王軍の襲撃があるか分からないからパトロールしたいって皆譲らなかったから……クロっちに透明化させてもらって人々と接触しないことを条件にして許可を出したよ。まぁ、ケミーライザーで悪意に晒されていないか、逐一確認はしてるけど……」
「結構厳しいのだな……だが、気にしすぎではないか?ほら、さっき見つけたパンパカパーカーも王都にいながら大丈夫だったわけだし……」
錬太郎が懸念する様子に、肩の力を抜いてはと間接的に伝えるダクネス。しかし錬太郎は了承や受け入れるような素振りを見せることはなく、右手に持っていたパンに勢いよく齧り付いた。
晴天の下、活気に満ち溢れ誰も彼もが笑顔の絶えない光景が続く王都。しかし、そんな束の間の安寧は、突如として出現した黒い異物によって崩壊へと進み始める。
「「「キャーーー!!!!」」」
恐れ慄く人々の声が王都中に響き渡る。悲鳴を聞きつけた錬太郎達はすぐさまベンチを後にする。
その頃現場付近では一部店が瓦解し、逃げ惑う群衆か襲撃者の影響か複数の椅子が倒れ転がり、場所によっては炎や煙が上がっていた。
絶望の色へと染まった王都に佇むは、漆黒の鎧を身に纏い、仮面の上から強奪した食料を貪り食らうノワールガッチャードだった。
「味はまぁイマイチだが……どこか癖になる感触だ……これも人間の食い物という感じで悪くはないか……」
腹はある程度満たされたのか、ノワールは破壊活動を再開する。力強く地面を踏み締め、足下から無数の巨大な蔦が出現する。ジャマト由来の力を行使し、鞭のようにしなる蔦の連撃が、容赦なく店や家屋を破壊し、人々の慄く音色はより一層激しさを増した。
「悪いなぁ……こんなんでも恐れ慄く姿は、魔力に変わって錬成に必要な感情エネルギーになるんでなぁ……俺とマスター達の糧になってくれやぁ…」
逃げ遅れた住民の首を締め上げ、脅すように言い聞かせるノワールガッチャード。その締め上げられた王都民は、恐ろしさから涙を滲ませ、歯をカチカチと鳴らす。
『ガッチャーーンコ!!スチームホッパー!!』
刹那、本物のガッチャードとダクネスが乱入し、ノワールガッチャードに重い右拳を炸裂させ、住民は死の恐怖から解放された。そのまま一目散に立ち去る住民を無関心に見つめた後、ノワールはガッチャードへと視線を移した。
「ほぉ、こんなところで会うとはなぁ……オリジナル、ララティーナ……」
「だからララティーナと呼ぶにゃ⁉︎」
「お前こそ何故ここに……」
王都へと進撃したノワールに殺気を洩らすガッチャード。ダクネスも普段着故に鎧や剣等を持ち合わせていなかったが、近くの武器屋から一時的に拝借した大剣でガッチャードと共にノワールを迎撃する模様。
対するノワールはそんなものに怖気付くことなく、どこか気怠そうにしながらガッチャードの問いに答えた。
「偵察だよ、次に壊す場所の……」
「れ、錬金戦士ガッチャード……」
「2人いたのか⁉︎」
そしてガッチャード達とノワールの戦いの火蓋も切って落とされた。地を蹴ってダクネスとガッチャードに肉薄したノワールは、右手を刀の形にしてすれ違いざまに容赦なく振り下ろし、高速移動と共に何度も何度も手刀を振り下ろした。
鋼鉄をも容易く打ち割ってしまうであろうチョップを、ガッチャードは反射的に躱し、ダクネスは避けることもなくその身に受けたが、そこは鎧なしでも硬いといわれるダクネスの耐久力。寧ろノワールの手刀を押し返し、嬌声を上げる余裕すらあった。
「はぅん、前に比べて威力が段違いに上がっている!!イイっ!!もっと、もっと来てくれ!!」
「ちっ、面倒くさい硬さだ……」
幾ら手刀を受けても涎を垂らしだらしなく破顔するダクネスに痺れを切らし、ノワールはミラージュガッチャリバーを取り出し、錬金術によって刀身を伸長させる。
今度は真剣がダクネスに襲いかかる。ノワールがミラージュガッチャリバーを振り上げたその瞬間、ガッチャードはノワールとダクネスの間に入って錬金術の呪文を詠唱した。
「『万物はこれなる一者の改造として生まれうく』!!」
ガッチャードの呪文に呼応し、ノワールによって崩れ落ちた瓦礫の数々がガッチャードとノワールの間に集まり、頑強な防壁を錬成する。防壁の硬さは凄まじく、ミラージュガッチャリバーの刃を見事に遮った。
「ああっ、何をする錬太郎⁉︎せっかく重い一撃を貰えるところだったにょに……」
「いや流石にガッチャリバーは危ないって!!」
戦いの最中でも通常運転のダクネスに、若干声を荒げて注意を促すガッチャード。ミラージュガッチャリバーの斬撃は錬金術によって強化されており、下手すればダクネスの皮膚や肉を裂いていたかもしれない。ダクネスの強靭さからしてまだ余裕かもしれないが、ガッチャードは念には念を入れたというわけだ。
「そう来るか……ならば、これならどうだ?」
再びノワールは地面を踏み締め、足下より無数の蔦を仕向ける。以前よりも太く、加えて黒く禍々しい炎のようなものを帯びており、ガッチャード
「何故だ⁉︎何故私に攻撃してこない⁉︎」
「どうしたオリジナル?お前も虹の炎で対抗して見せろ!!」
遂にダクネスの反応を無視して、ノワールは攻撃を避けてばかりのガッチャードに対抗するよう促す。ガッチャードも黒の炎に対抗するには、賢者の石に秘められた想像を司る力の虹の炎しかないと薄々勘付いてはいた。しかしガッチャードは虹の炎を発現しない、否発現できなかった。
「どうした?まさか、完全に制御が出来てないなんて……言わないよな?」
ノワールの指摘は図星であった。今までガッチャードが虹の炎及び黒い炎を発現出来たのは、感情が昂っていた時のみ。発動させることは出来ても完全に制御することは未だなし得ずにいた。
ガッチャードの沈黙から理解したノワールは攻撃を完全に停止し、残念そうに首を回し始めた。
「……興醒めだ。もう戦うつもりもない……次はもう少し強くなっておくんだな」
覇気のない声で言い残し、ノワールは一瞬にして姿を消した。先程までの戦いがまるで嘘のように静まり返ったが、あたりから鼻腔をくすぐる煙の匂いが、嫌でも破壊と戦闘の事実を突きつけてくるのだった。
「あっ……」
ノワールの破壊の被害があった街を見渡す中、ガッチャードは壊れた店の片隅に隠れていた少女を発見した。
「大丈夫?」
すぐさま少女に駆け寄り、優しく手を差し伸べるガッチャード。少女も手を伸ばしたが、突然ガッチャードの手は乱入してきた1人の女性に叩かれてしまった。
「触らないで!!錬金術師の分際で…私の娘に!!」
女性の言い分に、アクアとダクネスはすぐに理解した。アクセルの街やアルカンレティア、紅魔の里と違って、王都には錬金術師への恐れや怒りが根強く残っている。そう錬太郎は言っていた。
戦いが終わって、物陰からぞろぞろと姿を現した王都の人々はガッチャードに一斉に視線を向ける。ある者は忌諱、ある者は恐れ。いずれも気持ちのいいものではない。
やがてガッチャードを捉える瞳の数は多くなっていき、遂にはヒソヒソとガッチャードに対する罵言を口にする者もいた。
明らかに陰気を帯び始める空気。その様子に耐えかねた1人の冒険者が飛び出した。
「やめてください!!」
ガッチャードの前に立ったのはカズマの肉体のアイリスだった。これにはアクアやダクネス、ガッチャードも驚きを隠さなかった。
「こ、この方は破壊行為をしてた悪い錬金術師を止めようとしてくれたんですよ⁉︎それなのに、そんな……」
民衆の前に立ったアイリスは、錬太郎の仲間として声を張り上げて必死に弁明を試みた。王女でありなからまだ幼い彼女は、人前に立つことはなく、緊張もしていた。それでもガッチャードに対する不当な扱いにいてもたってもいられず、勇気を出して足を踏み出したのだ。
しかし、現実は非情だった。
「錬金術師なんて皆同じだ!!」
「同族達で争い合うだけに留まらず、その戦火を王都にまで向けた!!忘れもしない、あの2年前のことを……」
「そうだそうだ、俺の店も錬金術師に壊された!!」
「2年前は王都を救ってくれたから信じていたのに……全部自演だったんだろ!!」
アイリスの勇敢な行動は、結局は民衆という名の火に油を注いだだけだった。2年前のロード一味のネガマスク達による破壊活動の記憶を掘り起こされ、さらに先程の戦闘からあらぬ憶測まで立てられた民衆達は剥き出しの敵意をガッチャード、そしてアイリスへと向ける。
そして群衆の中にいた1人の少年が、地面に転がっていた石を手に取り、ガッチャードとアイリス目掛けて投げ始めた。
「出て行け、錬金術師!!」
少年を皮切りに、老人や主婦、あらゆる人達が鬼気迫る表情で石を投げ始めた。ガッチャードは石をぶつかられぬよう、アイリスを抱き庇い投石の雨を1人で受け止めた。
『ホ…ホッパ……』
『スチーム……』
人々からガッチャードへと向けられた悪意はとてつもなく、ガッチャードライバーの中のホッパー1とスチームライナーは引き寄せられかけ、あわやマルガムへと変質してしまう寸前である。
このままでは危険だと、ダクネスは民衆を止めるべくガッチャードとアイリスの下へと走る。
『ワープ!!』
その時、間一髪ワープテラが駆けつけ、ガッチャードにアイリス、ダクネスやアクアを一瞬で王城へと送った。民衆の怒りは止まることを知らず、消えたガッチャード達を炙り出してやろうと意気込み、王都の中はひりついた空気に包まれた。
「人間ってのは醜いもんだな。惑わされて憎み合い、争いの火種を振り撒き続ける……成長も学習もしない困った奴らだ……」
変身解除をして遠くからその一部始終を観察していたアナザー錬太郎は、骨付き肉を貪り、民衆の悪意を焚き付けた当人でありながら、まるで他人事のように皮肉を零すのだった。
「はひぃ〜、物凄い剣幕だったわね……」
何とか王城の中庭へと転送された錬太郎達。アクアは一時的にとはいえ魔女呼ばわりされたアルカンレティアでのトラウマを思い出して僅かに身震いをしていた。
「大丈夫ですか?アイリス様……」
ダクネスは心配してアイリスへ声をかけるが返答はない。完全に怯えきってしまっており、瞳には生気を感じられない。唇は青白く、痩せこけているようにも見える。
「錬太郎様……」
漸く口を開いたアイリスは、震える声で錬太郎を呼んだ。
「貴方は……王都にいた頃は、いつもあんな風に石を投げられていたのですか……?」
「いつもって訳じゃない……けど、汚いものを見るような視線や陰口は日常茶飯事だったかな……」
「そう…ですか……だから城の門を出る時に、錬金術師の証の指輪を……」
「うん……ケミー達が王都では透明になってパトロールしてたのも……」
アイリスの中の疑問が全て解明した。王城の人々から聞いていたアルケミアの崩壊と錬金事変。その後王都を襲撃された出来事から王都では錬金術師に対する評判は地の底まで落ちていた。わかってはいたが、よもやこれほどまでとはアイリスも思っていなかったようだ。
「私は、怖いです……人々からあんな視線を向けられることなんて初めてでした……外の世界を、こんなに恐ろしく感じたことはありません……」
「アイリス……」
「アイリス様……」
アクアとダクネスは戸惑い恐怖するアイリスに同情する。それは錬太郎も同じだった。
「今までとはまた違う人々の姿が見えちゃったんだ……無理もないよ……問題は、それを受け止めてどうするか……」
だからこそ、これからどのようにすればいいのか。簡易的にではあるがアイリスに示した。それが錬太郎なりの優しさだった。
「錬太郎様、そんなものどうやって受け止めるのですか?」
「それは僕に聞いてわかる答えじゃない……自分のことだよ……」
その言葉を最後に、錬太郎は城の中へと去っていった。錬太郎にしてはあまりにもドライな対応にダクネスとアクアは眉を顰めた。
「錬太郎……気持ちはわかるけどさぁ……」
「まだ世間に関しては疎いアイリス様にあのような言い方は……」
『まぁまぁ、2人とも』
不満を見せるダクネスとアクアの前に、クロっちが姿を見せる。そして錬太郎に変わって彼の意図を説明してくれた。
『錬太郎は冷たい訳じゃないよ。むしろ、すごくアイリスを心配してると思うんだ』
「なんで、そう思うの?」
『錬太郎はね。王都での迫害に疲れ果てて、ロードの襲撃に合う人々を本気で見捨てようとしたんだ。全て投げ出して、終わりにしたいって。
でも錬太郎は、自分のように故郷や仲間を失う辛い思いをさせたくないって気持ちに嘘はつけず、人々を守った。
それに僕達ケミーも、全ての人達に簡単に受け入れられないとわかっていながらも、人間の可能性を信じて錬太郎に手を貸し続けた……
錬太郎は迷い続けて、自分だけの答えを出した。だから、これから国を引っ張るアイリスにも、揺るぎない自分だけの答えを出して欲しいんじゃないのかな?
まぁ、とはいえ伝え方が下手くそすぎるけど……』
「錬太郎様……」
クロっちの話を聞き終え、アイリスはそっと自分の胸に手を当てる。刹那、アイリスは自身の肉体がふわりと何かに引き寄せられる感覚に見舞われる。理解するよりも前に、意識は身体を離れて、残った抜け殻には、代わりに本来の人格の持ち主が舞い戻った。
「ありゃ?元に戻っちまったか……」
「あ、可愛らしさが消えた…アイリスの時の上品さや乙女らしさのかけらもない……あなた、カズマさんね!!おかえりなさい!!」
「ぶっ飛ばすぞ駄女神!!」
元の身体に戻っても大して歓迎もされず、アイリスの身体で好き勝手出来ずに鬱憤の溜まっていたカズマは、猛獣の如くアクアへ飛びかかった。
「ったくアクアのやつ、思いっきり殴ることねぇだろ……それに色々あって街に出られないとか……余計なことしやがってあのアマ……」
喧嘩の末、拳骨を受けて出来たこぶを撫でながら不貞腐れるカズマ。そんな彼の腕を何者かが引っ張った。
「うわぉ⁉︎」
不意のことに対応は出来ず、カズマはそのまま物陰へと引き込まれる。また泥棒かと身構えた彼の前には、先程衛兵に引き渡した筈のクリスが笑顔で仁王立ちしていた。
「く、クリス⁉︎」
「やぁカズマくん。さっきぶりだね?」
「お、おま…ろ、牢屋は…?」
「あ〜、さっき抜け出してきちゃったよぉ〜。ちょおっと苦労したけどね!!」
口調は柔らかいが、声は幾分か低く目は笑っていない。額には青筋を浮かべており怒っているのは一目瞭然。怒りの矛先は完全に自分に対してだとカズマは自覚し、顔はみるみる青く染まっていく。
「あ、あのぉ……俺のことどうするつもり……⁉︎」
動転しているのか所々声は裏返りつつも、カズマはクリスに尋ねる。
「別に焼いて食おうだなんてことはしないよ。ただ、王城で話した通りにあたしの秘密を知ってしまった君にに協力して欲しいだけ」
「はっ⁉︎いやいや、俺はそんな面倒くさいこと……」
「因みに拒否権はないよ?もしも拒むようなら、可憐な女の子を保身のために躊躇いなく売った最低の冒険者として君のことを王都中に言いふらしてあげようかな?」
断られることを想定済みだったようで、クリスはカズマに脅しをかける。無理にでも協力をしてもらうようだ。それほどまでに衛兵に売られたことが癪だったのだろう。まだ躊躇いを見せるカズマにクリスは慈悲なく追い討ちをかける。
「王都での拡散力を舐めないでね?速くて半日、遅くて1日で広まると思うよ?そして王都の情報はあらゆる場所へと伝達される。勿論、アクセルの街にもね……」
「……しょうがねぇなぁ……」
流石に折れるしかなかった。危険に飛び込むよりも、社会的に死ぬことの方がカズマには恐ろしかった。
カズマから言質を得られたことにより、クリスは満面の笑みを浮かべた。
「契約成立だね」
「クリス、お前は悪魔だよ……」
「自業自得じゃないのかな?それにあたしを薄汚い下水の鼠以下の悪魔共なんかと同等に言わないで欲しいなぁ……
反吐が出る」
先程脅しをかけた時よりも、さらに威圧感のある声で愚痴を溢すクリスに、カズマは鳥肌を立てた。クリスがここまで怒りを見せるとは、今後彼女の前で悪魔の話題は出さないとカズマは固く誓った。
「…す、すんません」
「わかればいいんだよ。んじゃ、また召集かけるからよろしくね」
カズマへ軽く手を振ると、クリスは盗賊職特有の身軽な身のこなしで王城を去った。
「(おいおいおい……押される形で引き受けちまったけど、これ本当に大丈夫か?)」
一難去ってまた一難、また自分は厄介ごとに巻き込まれるのかとカズマは心の中で嘆いた。
お久しぶりです、そして申し訳ございません。
発表やら試験やらでまた忙しくなりまして、更新遅れてしまいました。
王都編は後3話です。
7章はオリジナルが強くなります。あのゴージャスな戦士も遂に登場しますのでお楽しみに