この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを! 作:山田プロキオン
申し訳ございません。またリアルでの予想外の数々に追われておりまして、更新が大幅に遅れてしまいました。
クリスに脅迫という名の約束を交わされてから数日が経った。その間も魔王軍から王都を防衛したり、ミツルギ一味と再会したり、魔王軍をミツルギやゆんゆんの無双で撃退し、流れに乗っかって手柄を得たりと色々あった。
そんな濃密だった日々を思い返しながらカズマは、憂いを帯びた表情で窓の外へと視線を向ける。しかし先述のクリスとの約束はそんな日々をも塗り潰すほどにカズマの心身へと響き、考えれば考えるだけ胃が悲鳴を上げる。
「お兄様?お兄様!!」
「うおっ⁉︎」
目の前で振られる小さな手に、カズマは漸く我に返る。向かいの席のアイリスと彼女の側にいた数体のケミー達は、心配するようにカズマの顔を覗き込んでいた。
「どうかしましたか?困り事でしたら聞きますよ?」
「いや…その…」
口を開きかけたカズマだったが、言葉を綴る前に閉じた。流石にクリスとのことを王女へ相談するわけにもいかない。
「王女だからと遠慮はいりませんよ」
中々口を割らないカズマに、身を乗り出して迫るアイリス。その曇りなき眼が余計にカズマの胸を抉る。
「もしかして……入れ替わっていた時の……」
アイリスは苦い記憶を思い起こし、しおれた花のように気落ちしてしまう。
「違う違う違う⁉︎大丈夫、本当に大丈夫だから……」
カズマは無理矢理話をを打ち切った。これ以上その件を掘り下げては、カズマも辛くなって耐えられなくなる。
「そうですか……」
引っかかる部分はまだありそうなものの、淀んでいたアイリスの表情は明るさを取り戻した。そして彼女の視線はチェスの盤面へと向けられる。
「では、この盤面をどう攻略しますか?」
「う〜んと、そこは……」
アイリスに続いてカズマも盤面へと目を移して内心やべぇ、と唸りながら腕を組む。アイリスの駒は盤面の大部分を制圧しており、絶体絶命である。
しかし。
「こう、だな」
カズマは1つの駒を手に取って動かした。続いてアイリスも駒を進め、そこからは一進一退の攻防だった。駒が減るたびに盤面が緊張を帯び始める。
そして。
「ほい、これで詰みと…」
勝利の女神が微笑んだのはカズマだった。
「むぅ…負けてしまいました…」
アイリスはガックリと肩を落とす。いい勝負だっただけに負けたことが余程こたえたらしい。
「これは経験の差だな」
「むぅ……」
今度は頬まで膨らませる。
可愛い。カズマは率直に思った。王女としてのアイリスは、大人びて見えるというのにこういう時は年相応だ。
「まぁ俺はいつもこれで強いやつに負かされてたし」
「お兄様でも勝てない人がいるのですね」
「いるいる。世界は広いんだぞ?野菜は宙を舞うわ、上級魔法を駆使する人造人間の末裔がいるわ、商売にうるさい悪魔がいるわ、あと女神とは思えない穀潰しがいるわ……」
「なんかいくつか心当たりのある人がいたような……」
碁盤から自身の右手へと視線を移し、カズマは指を折ってこの世界の不条理をアイリスへと説く。その中にはカズマにとっても馴染みのある面子の要素も少なくなく、アイリスも苦笑いを浮かべた。
「では、そろそろお勉強が始まりますので。お兄様、対戦ありがとうございました」
『ケアケア』
『マーキュリン!』
『ハピ〜』
アイリスがチェスの盤面と駒を片付けて、ぺこりとカズマにお辞儀をして踵を返す。彼女に続くように、同席していたケアリーにマーキュリン、ハピクローバーといった面々も出口の扉の前へ向かう。
「それとお兄様。今日の晩餐会ではおめかしをお忘れなく」
ウインクを挟んでそう言い残すと、アイリスは部屋を後にした。1人部屋に残されたカズマは、閑散とした空間に身を委ねながら、先程のアイリスを思い浮かべて悶々とする。特に笑顔とウインク、その2つはカズマの心に鋭く刺さったようだ。
「アイリス……恐ろしい子だ。変な輩が寄ってこないか……お兄様は将来が心配だぜ……」
その頃、錬太郎とゆんゆん、そしてめぐみんの3人は、爆裂散歩の帰りに人目の付かない一軒家に身を寄せて休息をとっていた。そこは王家の別荘であり、アイリスを通じて使用許可が降りたため、特別に利用している。
「なーお!」
『ホッパー!!』
ホッパー1とちょむすけが晴れやかな顔で芝生を駆け回る。解放感に満ちた別荘は、ケミー達のお気に召したらしく、各々が羽を伸ばしていた。
『パクパク〜』
『オジ〜』
パクラプターとオジーラカンスが仲良くおやつを食べたり、
『ブシドー!!』
『カマカマ!!』
『ライガー!!』
アッパレブシドー、がマンティス、サーベライガーが模擬戦を行ったり、
『ウィール!!』
『スケボー!!』
『オコオコ!!』
マッドウィール、スケボーズ、ゲキオコプターらが広い敷地内で駆動音を響かせたりしていた。
「よかった、皆楽しそうで…」
錬太郎が家の窓から外の様子を眺める。久しぶりに好き放題遊び回るケミー達を見て、錬太郎は思わず頬を緩めた。王都では人目を避けるため、ケミー達は透明になって自由に遊ぶこともできなかった。だからこそ、好き放題走り回る皆の姿が妙に嬉しい。
「アイリスには感謝しないとね」
誰に聞かせるわけでもなく呟くと、錬太郎はリビングへ戻った。
「むぅ…」
「まぁまぁめぐみん……」
リビングではめぐみんが体育座りをしながら、頬を膨らませてそっぽを向き、そんな彼女をゆんゆんが宥めている。外とは一転、錬太郎が先程部屋を出た時から何一つ変わっておらず、なんとも居心地の悪い。
「めぐみん、少しは機嫌直したら?カズマとアイリスはあと少ししか一緒にいられないんだから」
「むぅぅぅ…」
アイリスがカズマの身体と入れ替わっていた時の一件で、王都に滞在できる時間はあと僅かに迫っていた。そのためカズマは王都にいられる時間を、出来るだけアイリスと共に過ごそうと考えていた。
しかし、それはカズマに好意を寄せるめぐみんにとっては面白いものではなかった。
「わかっています、ええわかっていますよ。けれど毎日爆裂散歩という約束を蹴ってまで王女との触れ合いを優先するのは、私といえどもですね……」
理屈では理解しているが、納得はしていない。乙女の恋心というやつだろう。
なるべくめぐみんを傷つけぬようゆんゆんは言葉を探り、しどろもどろとしてしまう。錬太郎も同様で、考えた末に、勇気を出してなんとか話しかける。
「じゃあ、アクセル戻ったら埋め合わせしてもらうとか、どう…かな?」
「勿論です!!」
渇いたスポンジが水を吸収したかの如く、勢いよく立ち上がるめぐみん。先程の萎れていた姿が嘘のようにつらつらと言葉を連ね始める。
「あの浮気者に刻み込んでやりますよ!!自分が誰のものなのかを!!爆裂散歩生涯同伴だけでは生温いです!!毎朝爆裂5つの誓いと爆裂魔法の魅力を10個語らせるくらいは当然です!!
ふふふ…‥待っていてくださいねカズマ!!」
すっかりいつもの調子に戻り、威勢の良い高笑いが部屋中に広がる。漸く立ち直っためぐみんに驚きながらも、錬太郎とゆんゆんは内心安堵していた。
「(ていうかゆんゆん、思いっきりめぐみん惚気てなかった?)」
「(まぁ…めぐみんはカズマさんのことが好きらしいので……まぁ、めぐみんの方からの矢印が大きいように感じますけど……)」
「あはは…」
めぐみんのカズマに対する好意は明け透けているため、幾分か鈍い錬太郎もなんとなく察していたらしい。自重を微塵もしない様には流石に苦笑いをするしかなかったが、それでも錬太郎はめぐみんが元気になってくれて嬉しかったようだ。一方で、錬太郎に向けるゆんゆんの笑顔はどこかぎこちなかった。
刹那、錬太郎とゆんゆんのケミーライザーが音を立てる。2人が内容を確認しようと画面に視線を移すと、両者のメールの差出人は同じ名前だった。
『えみりん』
その4文字に錬太郎とゆんゆんは顔を見合わせた。意を決してメールを開くと、前々からえみりんより伝えられていた王都に迫る危機についてが記されていた。
「(今夜決行。オロチ事変を食い止めるべく夕刻に一旦集合……か)」
簡潔にまとめられた文章。それだけで十分だった。錬太郎の表情が僅かに引き締まり、ゆんゆんも真剣な面持ちで頷く。
「おや、2人同時に連絡とは珍しいですね。誰からですか?」
二人の間の空気が変わったことに気付いたのか、めぐみんがじっとこちらを見る。こういう時に限って妙に聡いのは、爆裂狂といえども紅魔族の天才といったところだろうか。
「いや、別に大したことは……」
「そうそう、めぐみんには関係ないわよ」
めぐみんに色々と知られては、後々のことが面倒。何とかして錬太郎とゆんゆんは誤魔化そうとするが、めぐみんの探りは収まることを知らない。
「大したことないなら話せますよね?それにゆんゆん、私を部外者のようにあしらうとは、少しばかり躾が必要みたいですね……」
紅い瞳を煌めかせ、にやりと口元を歪ませる。自分と勝負をする際によく浮かべていた下衆地味ためぐみんの笑みにゆんゆんは思わず身震いする。次の瞬間、めぐみんはゆんゆん目掛けて獣の如く飛びかかった。
「ちょっと⁉︎なんで私に攻撃してくるのよ⁉︎痛い痛い、やめてめぐみん!!」
「古来より自然は不意に牙を剥いてきました。それと同じです。私は時として湧き上がる怒りの矛先を貴方に向けただけです」
「理屈になってないわよ⁉︎お願いやめて!!」
容赦なく振りかぶるめぐみんの小さな手が、ゆんゆんの胸を叩く。めぐみんのはたきに応じてゆんゆんの両乳が暴れるため、非常に目のやり場に困る光景だが、涙目になって抵抗するゆんゆんが可哀想に思えたので、錬太郎が仲介に入った。
「わかったから落ち着いて!!ダクネスから筋トレの誘いが来たってだけだよ!!」
「……ほぅ、そうなのですか?」
ぴたりとめぐみんの暴走が止まる。ゆんゆんは胸を押さえながら錬太郎の後ろへと隠れ、小動物のように身体を縮める。
「そうそう、最近僕達もダクネスに勧められたらハマっちゃってさ。時折3人で一緒にトレーニングしてるってわけ」
錬太郎はなるべく自然な口調を装い、つらつらと話す。めぐみんも一見裏表のない錬太郎の話し方に警戒を解いて、完全に聞き入っていた。
「ちなみに、ダクネスさんのメニューは結構ハードよ」
錬太郎の話に合わせて、ゆんゆんも援護射撃を放つ。ゆんゆんの話に、一瞬めぐみんは気難しい表情を作った。恐らくだが、ダクネスのトレーニング内容を想像したのだろう。
「そうですか。では私はトレーニングは遠慮しておきます」
めぐみんはこれ以上の追及を止め、えみりんとの作戦については誤魔化すことに成功した。
「錬太郎さん、ありがとうございます」
ゆんゆんは錬太郎の耳元で、心の底からの感謝を伝える。そんな彼女に錬太郎も小さくサムズアップを送った。
夕闇がなりを顰め、月と星が空で輝き始めた頃、王城では晩餐会が催された。スーツやドレスに身を包んだ一流の冒険者や高貴な身分の人々が挨拶を交わし、近況や冒険譚などを交わし合っている。
「あむあむ!!うん、美味しい、美味しいわ!!アクセルの料理も美味しけど、こっちはさらに美味しいわ!!」
「
「めぐみん、行儀悪いわよ!!」
こんな時でも
「はぁ……」
問題児その1、その2から目を逸らし、カズマは第3の問題児であるダクネスの方を見る。こちらはこちらで数多の貴族の男性から声をかけられていて大変そうだが、カズマが驚いたのはそこではなかった。
「ダスティネス卿、貴方様とここでお会い出来るとは」
「まだお若いのに冒険者として魔王軍との戦いで前線に立ったと聞きましたぞ。流石イグニス様の娘様ですな」
「もったいなきお言葉。
Who is she?あの上品で清楚な様。身なりや言葉遣いの影響もあるだろうが、普段のダクネスからはまったくと言っていいほど想像出来ない。カズマも思わず目を点にして、あんぐり口を開けてしまっている。
しかしよく見ると、笑顔のダクネスの口元はわかりやすく引くついており、かなり無理をしている様子。
一通りダクネスの方も観察し終えたカズマは再度溜息を溢した。改めて考えても自分が場違いのように感じる。
アクアやめぐみん、ゆんゆんは食べ物に夢中で気づいてないが、見た目の良さや上級職故に周りから好奇の目を向けられている。今か今かと声をかけようとしている輩の姿も確認できる。そしてミツルギもパーティ慣れしているようで、近寄る女性達に紳士的に対応している。
対して自分はどうだ。カズマは己に問いただす。自分は皆と違い最弱職の冒険者。声をかけられる立場でも、かけようとも出来る立場でもない。
「(こんな時錬太郎がいてくれたらなぁ…)」
天井を仰ぎ、カズマはパーティメンバー唯一の男仲間のことを思い浮かべる。錬太郎がいれば幾らか心持ちは楽だったかもしれない。しかし彼の姿はパーティにない。
ゆんゆんからの言伝で、錬太郎はパーティへの参加を辞退したらしい。
万が一錬金術師であることを知られて、カズマ達に迷惑をかけることはあってはならないという錬太郎なりの配慮なのだろう。
「そういえば、ダスティネス卿のパーティのリーダーはあの男と聞きましたが……」
ふと、ダクネスと話している貴族達の視線がカズマに集まる。カズマもその視線に気づくと、彼らはわかりやすく鼻で笑った。
「最弱職の冒険者の彼がリーダーですと?」
「不釣り合いにも程がありますな。ダスティネス卿、悪いことは言いません。貴方は王都に拠点を移し、そこで新たなパーティに入るべきです」
好き放題言ってくれる、自分の苦労も知らないで。心の底でそう思いながらカズマはグラスの中の水を一気に飲み干す。流れる水が、いつもより喉に突っかかる。
「先日王都に現れた錬金術師を庇ったとも聞いております。錬金術師はベルゼルグ王国全体で危険視されているという常識も知らない田舎者と見受けられます。
そんな男に着いていくなど貴方にとっても家柄にとっても傷がついてしまいましょう」
なんとなく、錬太郎が王都を避けようとしていた理由がわかった。王都はアクセルの街に比べて悪意に満ちている。ケミー達への問題もそうだが、守るべき人々からの陰口には、耐えられなかったのだろう。事実、カズマもそれによる居心地の悪さを実感している。
カズマは空になったグラスをテーブルへ置くと、せめてもの抵抗とばかりに貴族達を睨みつける。そのまま華やかな音楽と談笑を背に、カズマは人混みの中へと消えてしまった。
「おや、立ち去りましたな。図星だったのでしょうな」
「やはりダスティネス卿にはミツルギ殿のような心技体を兼ね備えた一流の冒険者の方がお似合いですよ」
立ち去ったカズマに、貴族たちは勝手に得心したように頷き合って尚も品定めを続ける。
その間、ダクネスは一言も発さなかった。カズマへの罵倒を静かに聞き、視線を下へと向けた。
「ダスティネス卿?」
会話に入ってこないダクネスを不思議に思い、貴族達はダクネスの顔色を伺う。
呼びかけに、ダクネスはゆっくりと顔を上げた。先ほどまで浮かべていた令嬢らしい微笑みは跡形もなく消え失せている。
右手のグラスには、今にもへし折れそうなほど力がこもり、宝石の如き碧眼には、貴族の令嬢としてではなく、1人の騎士として仲間を侮辱された者だけが宿す静かな怒りが燃えていた。
「くっそ、あの小太り貴族どもめ!!好き勝手言いやがって!!嫉妬ってやつか?一回あの問題児達の中に放り込んでやりたいくらいだぜ!!」
佐藤和真16歳、路地裏にて本気で地団駄を踏みながら貴族達への愚痴をつらつらと吐き出す。会場ではなんとか堪えていたものの、カズマの腸は相当煮え繰り返っており、今にも暴れださんとする勢いだ。
「随分とお怒りだね」
グッドタイミングというべきなのか、そんな彼に声をかける者が1人。中性的なその一声にカズマはなんとか理性を保ち、首を向ける。
「クリス⁉︎」
「やっほ。その様子じゃあ、今日のパーティは楽しめなかったみたいだね」
「……おう。つうか、なんのようだ?」
ぶっきらぼうにクリスに要件を尋ねるカズマ。対するクリスは臆することなくカズマへ質問を返した。
「何って、あたしが君にお願いしたことを忘れてしまったのかい?」
クリスの頼み事、漸くカズマも察した。まさかと思いクリスへ視線を向けると、彼女は肯定するように口角を上げた。
「後2時間もすればパーティも終わって後片付けに入る。そこが王城の警備の一番弱い時間帯だ」
「おいおい、今日やるってのかよ……」
「勿論。そのためにあたしは君を迎えに来たんだ」
にこりとカズマに笑みを向けるクリス。しかしその笑顔の裏に何とも言えない圧があることはビリビリと伝わってくる。勘のいいカズマは自分に拒否権はないのだと悟り、受け入れる以外の選択肢はなかった。
「じゃあ、よろしくね。カズマくん♪」
「さぁて、そろそろ頃合いかな?」
薄気味悪い研究所の一室にて、読書に耽っていたロードは、パンと音を立てて本を閉じ、地下の牢屋の部屋へと向かう。鉄格子の奥には、8つある首を鎖に繋がれ、苦しそうに呼吸を紡ぐ怪物、マルガムの姿があった。
「フィーラーをマルガムにしてからまる3日間は研究室に閉じ込めておいたが、暴れたくてウズウズしているようだな。だが、もう少し待っておけ。お前の仕事は今からたっぷりとあるのだから……」
右手で自身の顎を撫で、ロードは不気味に笑う。盗賊と怪物、2つの影が王都の夜へ迫ろうとしていた。
大変遅くなって申し訳ございませんでした。投稿ペースが不定期になっていますが、失踪はしませんので。
あと話のボリューム的に、王都編はこの話含めて4〜5話必要かもしれません。計画性もなくて本当にすみません