暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
アトリエ内の整理をしていく。
あたしは、基本的に自分の生活スペースと、何処に何があればいいかで、別に考える方だ。
特に錬金術の素材は危険な事もある。
コンテナを作って、素材を詰め込むと。
後は、大きなスペースの中を整理して。
更には結界も展開。
防爆用の処置をして。それから、色々な道具類を並べていった。
コンテナについては、解析が済んでいるので、何時でも何処にでも作れる。
内部は冷凍保存する事が出来るので、格納したものが痛む事もない。
黙々と作業をしている内に、夜中になって。
おなかがすいたので、外に食べに行く。
例のカフェに足を運んだのは、単純に視察の意味もある。
此処での仕事を引き受けてほしい。
そういう話だし。
やっておく必要があるだろう。
感じがいい女性店長、それも凄く若い人が受付をしている。荒くれ相手によくやっていられるなと思ったが。
見ている感じでは、多分この人自身が元傭兵だ。
王都近辺でも傭兵の需要はある。腕利きの戦士は、騎士にでもなり。或いは爵位を得られるかも知れない。
軽く食事にするが、やっぱり値段が恐ろしい。
しばらくは稼ぎに徹しないと危ないな。
そう思いながら、高すぎて美味しいはずなのにあんまり味がわからなかった食事を終える。
そして、バレンツ商会に足を運んだ。
バレンツ商会にいたのは、恰幅の良いおじさんだったが。あたしがクラウディアに貰った印章を見せると、すぐに対応してくれた。
周知はされているらしい。
一瞬で表情が卑屈になったので、個人的には色々と言いたいこともあったが。
クラウディアについては、事前の情報通り、近くの集落での問題解決に動いているらしい。
戻って来たら、ここに来て欲しいと。
今住んでいる居住区の住所を伝えておく。
それで恐らくは伝わる筈だ。
夜になっているので、一度アトリエに戻る。とりあえず、今日やるべき事は、全て終わったと判断して良いだろう。
宝石だかの調査は、明日だ。
鍵を掛けて、さっさと寝ることにする。
疲れは別に溜まっていない。
散々足腰は鍛えているし、今更である。
ただ、やっぱりなんというか。
三年前の冒険をしていたときのような、鋭い感覚がどうしても戻って来ていないのは分かる。
あの頃は色々と、思いつくのも早かったし。
決断も色々と鋭く出来た。
だが、そもそも肉体の最盛期を過ぎたわけでもないのにそんな事を考える時点で、あたしはどうかしている。
なんだろう。
この頭にもやが掛かったような感覚。
今日だって、本当にベストを尽くせていたのだろうか。
魔力だって、伸びが鈍化している。
努力を怠ったつもりはない。
それなのに。
気がつくと、眠っていた。起きだしてからも、ずっともやもやが晴れない。伸びをして、眠気を取る。
水を確保するのも一苦労だ。
共同井戸まで行って、事前に水を汲んでおかなければならない。
飲む場合は当然湧かす必要もある。
案の定というか、水を湧かして稼いでいる魔術師が彼方此方を回っているようで。あたしが出来ると聞いて、近所にいる住民が揃ってたのみに来たほどだ。
当然、駄賃程度でやっておく。
周囲の住民には、今後迷惑を掛ける可能性もある。
それもあるから、先にこうやって良い関係を構築しておいた方が良い。
湯沸かしをするだけではなく、一瞬でついでに冷ましてあげる。
熱操作の魔術は極めた、まではいかないにしても。ここ三年で技量を上げているのである。
これくらいは余裕だ。
三年前も出来ていたし。
「すごいね、一瞬で湧かして、しかも冷やせるのかい」
「いつも家にいるとは限りませんが、家にいるときは風呂の湯沸かしもしましょうか」
「いや、風呂は共同風呂を使っているんだよ。 でも、いざという時は何か頼むかもしれないから、よろしくね」
「はは、そうですね」
下の階を丸々住居にしているおばさんは、そんな風に言った。職人区と呼ばれる地区で仕事をしているらしい人だが。
それもあって、ちょっとごつめだったかもしれない。
軽く体を動かしてから、まずはタオとボオスと学園区で待ち合わせる。
ボオスはかなり疲れている様子だ。
一応アトリエに移動。あまり人目が着く所で、話したい内容では無いからだ。
アトリエで茶を出す。茶は昨日のうちに錬金術で作った。茶菓子も近いうちに作る予定だが。
問題は砂糖で、果実を手に入れないといけないだろう。
基本的に砂糖は果実から作る。この辺りでもそれは同じらしい。リンゴなどから取る事が多いそうだが。やはり取る効率はあまり高くなく、砂糖はかなりの高級品のようである。
錬金術だと段違いの効率で作れるが、あたしが直接売るよりも、バレンツ商会に持ち込んだ方が良さそうだ。
「ボオス、大丈夫?」
「あんまり大丈夫じゃねえな。 疲れが取れなくてまいったぜ」
「ふーん、見た感じ運動不足ではなさそうだね」
「運動は嫌になる程している。 何しろ稼ぎの一つだからな」
あまり直接的な肉体労働はしないそうだが。それでも用心棒としてタオと一緒に魔物狩りはしているらしい。
魔物の肉なんかが売れるのもあるし。
何よりも、魔物を仕留めて戻ると警備から金が貰えるそうである。
だからある程度の腕自慢は魔物を仕留めて稼ぐそうだが。
それでも、魔物があれだけ出ると言う事は。とてもではないが、それでは追いつかないという事なのだろう。
「それで、その宝石が父さんが言っていた奴か」
「うん。 あんまり人前では見せられないからね」
「ふむ、ちょっと見せて」
タオが興味を持ったので、見せる。
卵のような形をした宝石だ。時々光ったり熱を帯びる。
そういう話をすると、タオはしばらく上から下から見ていたが。
やがて、ぼそりと呟いた。
「軽すぎる」
「ああ、それはあたしも思った。 ちょっと鉱物としては軽すぎるんだよね、これ」
「だとすると何だ。 中身は空っぽって事か」
「何とも言えない。 いずれにしても、宝石にしては透明度が低すぎるから、内部は見えないし。 幾つか特徴をメモしておきたいけど、貸して貰って良いかな」
頷くと、タオは秤とかを使って、重さを調べ始める。
他にも色々な特徴を手早くメモしていた。
タオのメモ帳は、更に分厚くなっているようだ。
「そういえば、タオの研究って建築と遺跡両方なんだっけ」
「遺跡がメインで建築は趣味だよ。 どうしても遺跡を調べていると、建築については知識がついてしまうんだ」
「俺はどっちかだけでも一杯一杯だけどな。 タオの頭の良さは、この世界でも最上位に入ってくるらしいぜ。 学園の教授のお墨付きだ」
「ボオス、駄目だよ。 そんな褒め方したら駄目になる」
淡々というタオ。
苦虫を噛み潰し気味のボオスがちょっと面白い。
いずれにしても、これは近々何かしら薬でも差し入れするか。
タオが細かい分析をしている間に、ボオスとも話しておく。
「剣術の鍛錬は順調?」
「ああ。 どうしても実戦経験からして、お前らに勝てるとは思えないけどな。 ガキ大将気取って、調子扱いてた無駄な時間が今になって思うと痛いぜ。 ずっとレントと剣術の鍛錬してたら、こんな事にはならなかっただろうにな」
「少し遠征して強い魔物とやり合って見る?」
「そうしたいんだが、残念ながらそんな事をしている時間がない」
学業でも一杯一杯なんだと、ボオスがぼやく。
なるほど、学問に使う頭と、実践で用いる頭は別とか聞くけれども。ボオスが手こずるほど、難しい事をやっているのか。
或いはタオに対する負けん気を発動しているのだろうか。
だとすると、ちょっと相手が悪すぎるかも知れない。
タオは水を汲んできた桶に、宝石を浮かべたりしている。
あたしは大丈夫かなとちょっと不安に思ったけれど。しっかり拭っているので。まあ大丈夫だろう。
それに、遺跡の研究をしているのだったら。
こういった珍しい宝に対する扱いも、以前より慣れている筈だ。
「どう、タオ」
「寮に戻ったら調べて見るけれど、多分宝飾品じゃないよ。 巨大な宝石については幾つか歴史的に名前が残っているものもあるんだけれども、このサイズのものとなると殆ど国宝になるようなものだけなんだ。 それにしては加工が雑で、とても王宮に出入りするような職人がやったとは思えない。 かといって、これが何かは全く見当がつかないんだよねえ」
「ふうん……」
「まあ、タオがいうならそうなんだろう。 或いは宝石っぽいだけのただの石だったりしてな」
若干ヤケクソ気味のボオスだが。
これは疲れているのもあるのだろう。
多少偉そうではあったけれど、クーケン島にいた頃のボオスは、もっと頭脳明晰だったような気がする。
いや、それはあたしもか。
どうにもあたしは、気力だけで立っているような感触が抜けない。
もう少しどうにかならないのか。
そう思っても、どうにもならない状態だ。とにかく、この三年ずっとそうだったし。タオやボオスにあってもそれが抜けない。
これは重症だな。
そう思う。
「それはそうとライザ、調査を一緒に頼みたいんだけれどいいかな?」
「遺跡?」
「うん。 調べていたんだけれど、王都の周囲には複数の遺跡があるんだ。 いずれもが調査はほとんどされていない。 調査が出来ないんだよ」
王都の戦士達は、王都を守るので精一杯。
何しろ、財源になる鉱山すら、魔物が出て手放す程度の戦力しか持っていないのである。
ヴォルカーさんのような武闘派貴族はほとんどおらず。
ヴォルカーさんが街道で魔物を退治する以外は、殆ど有志を募って魔物を駆逐するくらいしか出来ていない。
王都の警備が出来るのは。
城壁の内側の安全を守ることだけ。
それすらやりきれていない。
王都の警備が優秀という言葉は、完全に揶揄なのである。
それについては、もう来る途中に見て知っている。
王族も貴族も。
壁の中の安寧を謳歌しているだけの、ただの蛙だ。
「僕だけで調査に行く事も考えたんだけれど、ちょっと戦力が足りない。 パティも誘おうかと思ったんだけれども、遺跡だとどんな魔物がいるかわかったものじゃないからね」
「俺は遠慮しておく。 足手まといにはなりたくないからな」
「ボオスも来てくれると手数が増えるんだけどな」
「あのパティってお嬢さんは俺と同等かそれ以上の力量の持ち主だ。 現時点でな。 そのパティを誘わないって事は、タオがそれだけ危険な場所だと判断しているんだろ」
まあ、それもそうか。
遺跡から、危ない目に遭ってもあたしやタオだけなら生きて帰れる。
だけれども、パティやボオスを守りきれる自信は、確定とはいえない。
ドラゴンが出たりしたら、かなり危ないかも知れない。
せめてリラさんとアンペルさんがいれば良いのだけれども。
あの二人は、数ヶ月前に門を閉じたらしいのだけれど。それ以降消息不明だ。手紙もくれない。
もう少し弟子を頼ってほしいと思う事もあるが。
あの二人は、責任感の強い大人だ。
いざという時には、あたしにしっかり声を掛けてくれると思う。
「それはそうとタオ、パティのことはどう思ってる?」
「真面目で努力家だと思うよ」
「あー、そういうのじゃなくて、容姿とか」
「パティは容姿をどうこう言われるのが大嫌いらしくてね。 貴族としての最低限の身だしなみは整えているけれど、最初にあった時に容姿をどうこう言わないようにって言われているんだ」
ああ、なるほど。
やっぱりこいつ気付いていないか。
パティは、タオだけには可愛いとか綺麗だとか言って欲しいのだろうが。
筋金入りの本の虫である此奴は、今も朴念仁だ。
ボオスも会話の意図を理解したらしく呆れたが。
まあ、タオはそれでいいだろう。
パティには、あたしがタオに気がないこと。
タオがあたしに気がないこと。
それを時間を掛けて示して行けば良い。
あたしも恋愛沙汰に時間を取られるくらいだったら、オーリムと門や、フィルフサの正体に迫りたいし。
一つでも不作法に放置されている門を閉めたいのである。
「それがどうかしたの?」
「いや、いい。 とりあえず、早速調査にいこうか」
「フットワークが軽くて助かる。 僕は準備に一度戻るよ。 城門で待っていてくれる?」
「了解」
さて。
パティの気配がある。多分タオがあたし達と合流したのに気付いたな。明らかに此方を伺っている。
タオは身体能力強化型の固有魔術の持ち主だから、熱操作のあたしに比べて周囲の探索が苦手なのだろう。あたしも音魔術のクラウディアほど周囲の探索は得意ではないけれども、それでも不調なりに魔力は磨いてきたし、実戦も積んで来たのだ。
まあ、無理をしない程度なら、放置で良いだろう。
とりあえず今は。
遺跡の調査が、先だった。
(続)
拠点を得て、本格的な調査を開始するライザ。
まだパティとの関係構築は上手に出来ていませんが、急ぐつもりもありません。
すっかり成長したタオとまずは組んで、遺跡の調査に取りかかります。
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