暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
少しばかり、後ろ暗い話です。
クラウディアは酒を既に嗜むようになっているが、飲酒量は極めて少ない。今は、である。
ライザと一緒にいる時は、楽しくて仕方がない。
それが、どれだけ危険な冒険の間でも、同じ事だ。
砂漠から戻ってきて、アトリエでミーティングを終えて。
バレンツ商会に戻って来てから、風呂に入る。
使用人は何人かいるが、全員まとめてフロディアの足下にも及ばない。
例のメイドの一族が、人員を派遣しようかと言ってきている。それについても、前向きに考えたくなるほどだ。
風呂に入るときは、使用人の手は借りない。
やはり鋭い砂が衣服の彼方此方に付着していて、それを除去するのが大変だ。ライザが危険だから気を付けてと言っていたが、時々肌を切ってしまう。その度に、貰っている薬をねじ込んで、すぐに直さなければならなかった。
風呂に入って疲れを取る。
しばらくはぼんやりとして、その後は寝るまで執務だ。
少し前までは、愚かな貴族達の残務整理で、本当に忙しかった。
王都という井戸を出てしまえば、ロテスヴァッサの貴族なんてただのカエルに等しく。皆、のたれ死ぬのは確実だ。
何人かは恥を捨てて泣きついて来たが、最低限の世話だけしかしない。
連中は、バレンツの事を見下していたし。
貴族以外の人間の事を人間だとも思っていなかった。そんな連中の世話などする理由が何処にあろうか。
いずれにしても、資産を整理した後は。
バレンツにも、少し平穏が戻って来た。
世界のダニが少し消えた。
それだけでも、可としなければならない。
少しだけワインを嗜みながら、残務を片付ける。
ライザには見せない裏の顔だ。
あのクーケン島の冒険を経て、クラウディアは幾つもの商談を行い。それで人間がどれだけ醜いかよく分かった。
大きな金が動く商談ほど、騙された方が悪いという理屈で人間は動く。
そういう連中を如何にして排除するか。
それがクラウディアの当面の目的となった。
音魔術を更に磨いたのもそれが理由で。
相手が嘘をついているか、音魔術で今では手に取るように分かる。
どれだけ嘘が巧みな人間でも、クラウディアの前ではそれを通せない。
だから、今では。
クラウディアは、白の魔女とか言われて。商人の間では怖れられているらしかった。
どうでもいいことだ。
書類を処理していると、またか。
父であるルベルトから、また縁談の話が来ている。
相手はどうでもいい青びょうたんだ。
せめてライザくらいの活力と甲斐性がないと話にもならない。
即座にお断りの手紙を出しておく。
こういうのは、クラウディアの財産が目当てか、そうでなければ体が目当てだ。
男というのはそういう要素がどうしてもあるのは分かっているが。
だったら、せめて相応の活力なり甲斐性なりを見せて欲しい。
エネルギッシュに世界の危機に立ち向かっているライザを見ると。
生半可な男なんて、ゴミかカスにしか見えないし。
ましてや会食の時に口説いてくるような男なんて。
蠅か何かとしか思えなかった。
ため息をつくと、決済を続ける。
そして適当な時間で休む。
一段落した事もある。
今日は、それほど疲れは溜まっていないし。しっかり眠れるだろう。
だが、急な事態が起きて、夜中に叩き起こされることはどうしてもある。
だから、そういうときに備えて深酒はしない。
ライザは相変わらず天真爛漫だと思っていてくれるかも知れないが。
もうとっくに。
クラウディアは、この腐った社会に染まっているし。
それを自覚もしていた。
朝、起きだす。
朝の業務をさっさと済ませる。更には、バレンツの商人達と、朝のミーティングを軽く行う。
ライザとのミーティングの前にこれをやっているから。
朝一番に、ライザの所にいけない。
それがまた、クラウディアとしてはもどかしい。
いつも朝一番にパティが行っているのを知っている。
あの子は極めて真面目で、それで誠実だ。自分の力を高めることにも、本当に真摯だ。
だからこそ、時々苛つかされる。
あの子はクラウディアがこの三年でうしなったものをみんなもっているような気がする。
だけれども。今後更に厳しい世界にあの子は進む。
ライザは、腐った場合は首を貰うという条件で、正直になれる薬を作って渡したそうである。
それを。
三年前、私も欲しかったな。
クラウディアは、そう思って。
今、とても悔しい思いを時々しているのだった。
ドス黒いもやもやが、どうしてもある。
大人だったら、それがあるのは当たり前だと言う事も分かっている。
自分から見たら戦闘力もずっとおとり、経験だって足りない子供を相手に嫉妬している自分が情けない事だって分かっている。
だけれども、クラウディアはそこまで上手に感情を制御出来なかった。
だから、時々夜に酒を飲んで。
それで、発散している。
誰にも言えない事だ。
きっと、墓まで持っていくことになるだろう。
朝の業務を終えたので、ライザの所に出向く。
案の定。パティが既に来ていた。
気付いているだろうか。
理屈をつけて、菓子を持ってきていることに。ライザは菓子を持っていくと、ぱっと明るい顔になる。
それが見たくて、クラウディアは菓子を作っている。
勿論、ドス黒い考えもあるが。
レント君やタオ君の事は大事な仲間だと思っている。
ボオス君もそうだ。
クリフォードさんは今では信頼しているし、セリさんだってそれは同じ。
リラさんは戦闘の師匠として本気で尊敬しているし。アンペルさんだって、錬金術師という欲望に飲まれやすい仕事をしていながら。他と違って、ついに欲望に飲まれなかった事を凄いとも思っている。
ドス黒い自分がいると同時に。
皆と本気で仲間だと思っている自分もいる。
どっちも本当のクラウディアだ。
だからこそに、クラウディアはいつも悩みが消えないのだった。
「んー、絶品だね!」
「一応たしなみとして菓子はたまに焼くんですが、素材も新鮮ではないし、何より此処までの技量はとても……」
「ふふ、趣味だから上達するんだよ。 パティさんも、趣味にしてみて」
「……分かりました。 むしろそのくらい気を抜いた方が、上達が早いのかも知れないですね」
まあ、追いつくことは出来ないだろう。
パティが使っているのは、壊れかけの神代技術のオーブンだ。これは既に見て確認しているが、細かい焼成の時の温度などが調整し切れていない。ライザが手を入れて直すかも知れないが。
クラウディアは釜の温度を音魔術で確認して、それで焼成などを完璧に仕上げている。
これも散々工夫して、温度を音魔術で測る方法とかを編み出したのだ。
今では勘では無く、論理的に菓子作りをしていて。
そしてクラウディアは、それが故に。菓子作りでは、誰にも負けるつもりは無い。
暗い笑みが浮かんできそうになるが。
同時に、菓子を喜んでくれるライザを見ていると、それで単純に嬉しくもなる。
そんな二面を持つ自分を。
クラウディアは、嫌いになりはじめているのかも知れなかった。
(続)
砂漠での調査は大詰め。
遺跡に辿りつくまで一苦労ですが、もうすぐなんとか目処が立ちそうです。
最後の遺跡は、原作だと何度も行き来させられる上にエンカウントが非常に鬱陶しかったのですが。
本作では……
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