暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

101 / 150
遺跡に向けてライザは砂漠を調査します。

灼熱の砂漠に加えて、当然対人用のトラップも仕掛けられている場所。

当然です。

この遺跡を作った人間達が警戒していたのは、当時を魔物をものともしていなかった人間……古代クリント王国なのですから。


守護者は座する
序、天然迷路


まずいな。

 

あたしは足を止める。右手を横に。それで、全員が止まる。

 

うだるような暑さ。

 

蜃気楼で周囲が歪んでいる中。

 

砂が、流れている。

 

流れている先には、穴のような地形。

 

流砂だ。

 

これが幾つもあって、道を阻んでいる。この砂漠は、想像以上に危険な場所なのかもしれない。

 

これだったら、古代クリント王国の人間が、「北の里」にたどり着けなかったのも納得出来る。

 

そもそもこれでは、ここに入ろうという発想さえなかったのかも知れないが。

 

「くそっ! 此処もダメか!」

 

「レントくん、おちついて。 少しずつ、地図を埋めて状況を整理していこう。 どうしても駄目な場合は、砂漠を時間を掛けて迂回するとか、色々考えるしかないよ」

 

「……」

 

クラウディアが、レントをなだめている。

 

論理的な言葉に、何より死線をともにくぐり続けた仲間の言葉だ。レントもため息をつくと、頷いていた。

 

あたしは、地図作りをタオに任せて、跳躍する。

 

この砂漠は砂が多い地点と少ない地点が極端であり。なんだか作為的だ。

 

ともかく跳躍して、周囲だけは確認しておく。そうしないと、見落としがあるかも知れないからである。

 

一度水たまりまで戻る。

 

その過程で、脇道も調べて行く。

 

蜃気楼で視界が完全に狂っているので、とにかく総当たりで調べて行くしかない。

 

そういう意味では、「深森」よりも厄介かも知れない。

 

それに、この砂漠を抜ける道を見つけたとしても。

 

道中の強力な魔物。

 

更にはこの先にいるワイバーン。

 

両者が、いつ襲ってくるか分からないのである。

 

森に魔物がほぼいなかった「深森」とも、その意味で違っているし。より厄介なのかも知れなかった。

 

水たまりに戻ると、すぐに水を汲んで、あたしが煮沸し、更に冷やす。順番に皆で水を使って手を洗って顔を洗って貰う。

 

あたし自身は最後だ。

 

最後に手を洗っていると、タオが厳しい表情をしていた。

 

「皆、地図を見て欲しいんだ」

 

「何か問題があるのか」

 

「うん。 流砂について、流れている方向なんかを調べて見た。 そうしたら……」

 

地図の中に、巨大な流砂が描かれている。

 

ぐるりぐるりと回って、やがて中心点に流れ込んでいるそれは。

 

さながら砂漠の中にある巨大な渦だ。

 

人食い渦である。

 

あたしも漁師の話は聞いているから。潮の流れで出来る渦の恐ろしさは、良く知っているつもりだ。

 

陸上で、そんなものの恐怖に曝されるとまでは思っていなかったが。

 

「ことごとく道をふさいでやがるな、この流砂」

 

「うん。 だから、大回りで行くのが正解かも知れない」

 

「確かにな。 この流砂の大きさは異常だぜ」

 

クリフォードさんも賛成か。

 

しかし、地図を見る限り。

 

この砂漠突破は。相当に厳しそうだ。

 

少なくとも、直進路はほぼ不可能。或いは、何処かに隠し通路みたいなのがあるのかも知れないと思っていたのだが。

 

ひょっとするとだが。

 

封印が出来た後、何かしらの方法で流砂を作り、道を塞いでしまったのかも知れない。

 

可能性としてはゼロではない。

 

事実、古代クリント王国に封印を知られたら。

 

どうせ碌な事にならなかったのだから。

 

北の里の存在そのものは、既に知られていたはず。

 

だったら、そこに辿りつかれていたら、終わりだっただろう。

 

「流砂を潰す方法はないかな」

 

「簡単に言わないでよライザ。 この巨大な地形と、それ以上に巨大な自然現象だよ」

 

「そもそもどうしてこんな風に砂が流れているんだろうね」

 

「考えられるのは、地下に鍾乳洞がある事だろう」

 

タオが言う。

 

そもそも、この辺りの水流からして、地下に大きな空洞があっても不思議ではないだろうと。

 

或いはだが、其処を昔は通っていたのかも知れない。

 

確かに砂漠を通っていくよりも、その方が遙かに楽だ。

 

腕組みして、考え込む。

 

もしもあたしが北の里や。古代クリント王国に滅ぼされた国の人間だったら。そんなもの、入口を爆破して塞いでしまうだろう。

 

今更、それが見つかるとは思えない。

 

逆に言うと。

 

今でも、北の里には人がいる可能性もある。

 

それはそれで厄介ごとの臭いがするが。

 

まあ、それはもういい。

 

ともかく、現実的な対処を考えなければならない。

 

「砂漠の大きさからして、この流砂はとんでもない規模だよ。 下手をすると、今後どの道もふさがれているかもしれない」

 

「……一度戻ろう。 あたしとしても、ちょっと考えたい事がある」

 

「ライザさん……また無茶苦茶を?」

 

「この状態が既に無茶苦茶なんだよパティ。 そして、今すぐに封印が解けることはないだろうけれども。 それでも、時間制限はあるんだ」

 

それに、だ。

 

封印が仮に健在だったとしても、フィルフサが内側で大人しくしてくれているとは限らない。

 

あの「深森」の五感を狂わせる仕組みだって。

 

何百年もフィルフサを閉じ込めておけるだろうか。

 

あのフィルフサである。

 

既に、幻惑の仕組みを克服している可能性だって、否定出来ないのだ。

 

「ともかくライザ、仮に何か手段があるとして、どうするの?」

 

「ええとね……」

 

「爆破とかしたら、もっととんでもないことになるかも知れないよ」

 

タオに釘を刺される。

 

まあ、そうだろうな。

 

あたしも、そんな風に釘を刺してくると思った。

 

大丈夫、やろうとしているのは爆破じゃない。

 

架橋だ。

 

 

 

アトリエに戻ると、地図を見て状況を検討する。

 

とにかく砂漠は入り組んだ地形だ。×をつけているのは流砂を確認した地点。一度パティが足を取られて、流されかけた。

 

クリフォードさんが即応したのもあるが、フィーが警告の声を上げたので、あたしがとっさに冷気の熱槍を投げつけて、下流の砂を凍らせた。

 

それでパティは一瞬だけ出来た氷の足場を使って脱出成功。

 

冷や汗が流れた。

 

流砂は想像以上に危険だ。

 

底無し沼より危ないかも知れない。

 

「地図が×だらけですね」

 

「ミスが許される場所で、ミスをしておくのは大事な経験だよ。 勘違いした「現実主義者」が、ミスをするような無能はいらないとか言うらしいけれど。 ミスをしない人間なんていない。 ミスをしないと人間は覚えないから、如何にリカバーするかが大事なんだよ」

 

「お父様も殆ど同じ事を言っていました」

 

「流石はヴォルカーさん。 まああの人もたたき上げだし、似たような経験はたくさんあるんだろうね」

 

ヴォルカーさんが爵位をもてたのは、この王都が破綻寸前だからだ。

 

人材なんて皆無に等しく、街道の安全すら確保できない「首都」。

 

警備の人間が優秀なんて言葉もあるが、それは揶揄以外のなにものでもない。

 

実際、今王都に絶対に必要な防衛戦力であるアーベルハイムを良く思わないアホが何度も排除を目論んだようだし。

 

この王都は、どうして今までもっていたのかが不思議すぎるほどだ。

 

いずれにしても、である。

 

ミスは誰でもする。

 

その辺りは、経験を積めば誰でも理解出来る。

 

それを理解出来ない人間は。

 

逆に余程のぬるま湯に浸かって生きてきた人間だ、ということだ。

 

「いずれにしても、これは多分隙間なんかないぞ。 魔物だって多いし、流砂がどれだけ広いかもわからねえ」

 

「とりあえず、流砂は避けて明日は午前中だけ探索しましょう」

 

「大丈夫ライザ。 時間、あまりないかも知れないんでしょう?」

 

「大丈夫だよクラウディア。 なんとかする」

 

この流砂。

 

明らかに意図的に作られた物だとあたしは感じている。

 

クリフォードさんの話によると、流砂というものは自然にも生じるという話である。同じように危険だそうだ。

 

だが、元々岩石砂漠が多く、砂だってそれほど多く無い砂漠である。

 

もっと規模が大きい砂漠は巨大な砂丘というものが出来るそうで、一日で木が砂に埋まってしまうこともあるらしい。

 

更には風も強く吹いていて、あんなに水たまりが多いのも不可解だそうだ。

 

やはりあの砂漠。

 

人の手か、もしくはエンシェントドラゴンかも知れないが。

 

何かしらの手が加わっているとみて良い。

 

地下については、今の時点では考えていない。

 

あれだけ水があるのだ。

 

多分地下には水脈がある。

 

恐らくだけれども。

 

「北の里」は、利害関係でフィルフサの封印に協力はしたのだろうけれども。それだけしかしなかった。

 

同盟関係ではあったが。

 

属国ではなかった。

 

だから、古代クリント王国との戦闘には参加しなかったし。

 

恐らくは、興味もなかったのだろう。

 

残酷なようだが。

 

この地にあった国が、古代クリント王国と同じ穴の狢だったことを知っている今としては。

 

やむを得ないから協力した、という北の里の事情も透けて見えてくる。

 

あたしとしては。それを責めるつもりにはなれなかった。

 

それにしても、だ。

 

毒竜との戦闘以降、フィーの勘が鋭くなってきている。

 

それと同時に、更に魔力を大食いするようになって来ているようにも感じる。

 

何かしら、安定して多くの魔力を食べさせてやれないものか。

 

それも質が高い魔力を、だ。

 

無言で考え込んでいると、タオが挙手した。

 

「ライザ、いい? 砂漠で、攻めてみたい地点があるんだ」

 

「明日? 別に良いけれど、どこ」

 

「この辺り」

 

タオが指したのは、恐らく流砂の最上流と思われる地点だ。発生地点を確認しておきたいというのだろう。

 

個人的にもそれは賛成だが。

 

あたしとしては、むしろ一旦荒野を突っ切って、砂漠の全体的な大きさを具体的に把握するのも手に思えている。

 

ただ荒野を通るルートの場合、恐らくはワイバーンが何度も仕掛けてくる筈だ。

 

相当大きいワイバーンがかなりの数見かけられた。

 

あれといちいち戦うのは、あまり得策とも思えない。

 

サメやらラプトルやらとはレベル違いの相手なのだ。

 

それも、縄張り関係無く、一気に多数が襲ってくる可能性も、考慮しなければ危ないだろう。

 

「分かった。 明日の調査で、其処は確認するけれど。 タオは、荒野を突っ切るルートはどう思う?」

 

「僕は反対だね」

 

「タオさんがそこまで明確に反対するのは珍しいですね……」

 

「実は僕もワイバーンの動きは観察していたんだ。 どうもワイバーンは、僕達を認識しているのに攻撃して来ていない。 あれはひょっとすると、番犬と同じなのかもしれないと思ってさ」

 

番犬。

 

ワイバーンが。

 

そこまで思って、あっと声が出た。

 

北の里は、エンシェントドラゴンがいたらしいと言う話を、タオもクリフォードさんも調べてきてくれている。

 

もしもそうだとすると。

 

番犬として、幼体のドラゴンであるワイバーンを使っていてもおかしくは無いのか。

 

ちょっとこれは盲点だったかも知れない。

 

もしも番犬としてワイバーンが動いているのだとすると。

 

北の里に害を為す存在を見抜いて、それを叩くつもりなのかも知れなかった。

 

だとすると、余計に乱暴な真似は無理か。

 

なるほど、確かに一利はある。

 

「よし、予定通り明日は午前中だけ調査しよう。 タオが探してみたい地点を重点にやってみよう」

 

「どうせ手詰まりだしな。 それでいいんじゃねえか」

 

レントの言葉に、皆が同意する。

 

咳払いしたのは、ボオスだった。

 

「俺の方からも良いか」

 

「どうしたの。 何かあたしの技術が必要?」

 

「いや。 こつこつお前色々やってきただろ。 最近はお前の名前を彼方此方で聞くようになってきたからな。 一応、念の為だ」

 

なるほど。

 

確かにそれは、重要かも知れない。

 

具体的な話を聞いてみると。職人、商人、庶民、戦士達。子供達や、学生。そういった人々からの噂が好意的らしい。

 

一方、貴族からは畏怖が籠もった呼ばれ方をしているそうだ。

 

概ね想定通り。

 

王都を実際に動かしている人達。王都の未来を担う人達に、好意的にとられていれば、それでいい。

 

逆に、王都に巣くう寄生虫である現在の貴族や王族なんぞに、好かれたいとも思わない。

 

もしもしつこいようだったら、王宮ごと吹き飛ばすだけだが。

 

今の時点では。その必要は無さそうだ。

 

「子供達の間での噂って……」

 

「前にクソガキ共を助けただろ。 それでな」

 

「へえ……」

 

「レントも人気になってるぞ。 巨人みたいな大きさで、ドラゴンを捻り殺すくらい強いらしいってな」

 

レントはそれを聞くと苦笑い。

 

レントも単騎でドラゴンを倒すのは無理だ。

 

ワイバーンだったら、小型のだったらいける可能性が高いが。

 

以前交戦したドラゴンや、この間戦った毒竜の強さを考えても。まだ流石にレント単騎では厳しい。

 

「他には?」

 

「主にバレンツと商売をしている商人が、ライザの話題を時々出しているらしい。 何人か街道で助けたのもあるんだろうな」

 

「そういえば前に救助したことがあったね」

 

「いずれにしても、このまま続けてくれ。 クーケン島のブランドってやつがお前そのものになってくれれば、島に戻った後俺もやりやすい」

 

まあ、その時はバレンツ商会を介して売り買いはするのだが。

 

それについてはいい。

 

一度解散する。

 

フィーが小首を傾げている横で、あたしは地図とにらめっこしていた。

 

「フィー?」

 

「橋に必要な石材がどれくらいだろうかな、と思っていてね」

 

「フィー!」

 

「まあ、こればっかりは計算しないと無理か。 それに、流砂の向こう側にいくのに、どれくらいの幅が必要かも、考えないとまずい」

 

今の時点では皮算用だ。

 

もう一つ、砂漠に拠点を作らなければならないかもしれない。

 

いずれにしても、大規模な工事をするマンパワーはないし。砂漠の強力な魔物とやりあいながら、工事をするのも非現実的だ。

 

タオがいう地点を調べて、それでどうするかを考えたい。

 

あたしは。

 

この世界が、フィルフサに蹂躙される事を。

 

よしとはしていない。

 

この世界の今の文明は、古代クリント王国の残骸だ。

 

その文明は、残虐非道という史実と。罪という言葉を一身に背負っている。

 

だから滅びた。

 

同じ過ちを繰り返してはならない。

 

どうせタオがどれだけ頑張って、過去の過ちを告発したところで。数世代もした頃には、人間はすっかりわすれさって同じ過ちをどれだけでも繰り返す。

 

あたしもクーケン島に伝わっていた童歌なんて、煩わしくて仕方がなかったし。

 

タオが具体的にどういう理由でこれをやったらダメだ、という説明をしても。結果は同じだろう。

 

今の世界を滅ぼされるのは困るが。

 

あたしは人間に期待もしていない。

 

だからアンチエイジングで人間を止めるのは、別に吝かでは無いと思っている。

 

後の世代で、錬金術を悪用する奴が出たら、それを仕留めるためだ。

 

あたしがずっと君臨して、権力や富を独占するつもりはこれっぽっちもない。

 

だけれども、この世界の錬金術師がやってきた事を知った身としては。

 

後の世代に託して、なんていう脳天気な事を口にも出来なかった。

 

そんな風に考えているから。

 

あたしは、北の里を調べるつもりだ。

 

そうして、封印をどうにかする。

 

まずは、差し迫った危険であるフィルフサをどうにかする。そのフィルフサにしても、古代クリント王国が爆発的に増やした奴らでは無く、恐らくはもともとオーリムにいた種族だ。その自然種の強さがどれだけかもよく分からない。

 

だから、最悪の最悪を常に想定しなければならない。

 

考え込んでいると、結構時間が経ってしまった。

 

あたしは公衆浴場に行くと、汗を流して。

 

後は。

 

さっさと眠る事にした。

本作の次に連載する作品はどれが良いですか?

  • 暗黒!アトリエシリーズのまだ未掲載の作品
  • 真女神転生Ⅲの二次創作(真Ⅴ要素なし)
  • 流行り神二次創作
  • その他二次創作
  • オリジナルの長編
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。