暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
余談ですが、西遊記の沙悟浄は、この流砂の神だという説があります。
あくまで説の一つですが。
荒野と並ぶ砂漠の深奥。
タオが探してみたいと行った地点に到達。目的地点があると、それだけ到着は早かったりする。
足下では、凄まじい勢いで砂が流れていて。
とても通る事などは不可能だと言う事が、一目で分かるのだった。
「凄まじい光景だな……」
「……」
タオが、遠めがねを使って、じっと流砂の流れを見ている。
この辺りの流砂は流れが速く。
足を踏み外したら、濁流に呑まれるようにして、あっと言う間にあの世行きだと考えて良い。
あたしも水への恐怖は克服したが。
水を全く怖くないと思考するようになったわけじゃない。
むしろ水に対する適切な恐怖を獲得したから。
水に入れるようになった。
この流砂も、そんな意味では。
しっかり適切な恐怖を持って、見る事が出来る。
「どうだ、タオ。 分かったか」
「蜃気楼が邪魔だな。 なんとか出来ない、ライザ」
「あまり長くは消せないと思うけれど」
詠唱をして。
その後、冷気の熱槍を叩き込む。何カ所かに叩き込んだ熱槍は、それだけで砂を激しく冷やして、強烈な蒸気を噴き上げた。
砂漠の灼熱と蒸気がぶつかり合って、しばらくは濛々と煙幕を作り出したが。
そこに更にあたしが熱槍を叩き込んで、熱をコントロールしていくと。
しばしして、蜃気楼が消える。
ただし、消耗も小さくない。
「とりあえず、どう?」
「ありがとう。 なるほどね……」
自分なりにカスタマイズした遠めがねを、カチカチと動かして調整しているタオ。これで距離を測れるらしい。
なんでも此方に来てから大枚をはたいて購入した、距離を測れる遠めがねであるそうで。
当然古式秘具だそうだ。
ただ調子が決して良くないので、あたしにその内修理を頼みたいとか。
「分かってきた。 ごめん、もうちょっと調査いい?」
「まだ少し時間あるから、別にかまわないよ」
「ありがとう。 次はこの辺りを調べるよ」
地図を示して、そしてタオが先頭で行く。
砂を踏みながら、急いで移動。
砂がじゃりっと音を立てた。岩石砂漠になってきた。つまり、砂漠の辺縁に来ているという事だ。
無言で移動しながら、様子を確認。
手をかざして蜃気楼の様子を見るが。この辺りは温度がそれほど凄まじくはないからか、多少は蜃気楼もマシだ。
パティが小走りに移動しながら、疑問を呈してくる。
「どうして岩石が砂になるんですか?」
「それは温度差よ」
「温度差」
「そう。 昼と夜の温度差が激しいから、岩にどんどんダメージが蓄積していっているのね。 ここまで極端ではないけれども、オーリムにも気候が厳しい土地はあって、それで似たようなものは見た事があるわ」
もう隠すことでもない。
セリさんが、そんな説明をすると。
パティは考え込む。
「なるほど。 オーリムとは違う事も多いですが、同じ事も多いんですね」
「本来はそこまで此方の世界と変わらない……変わらなかったわ。 フィルフサが全てを無茶苦茶にする前まではね」
「重ね重ね、先祖が本当にすみません」
「いいのよ。 少なくとも、そう本気で考える貴方は、彼奴らとは違う」
周囲に敵がいないから、そんな話も出来る。
タオが手を振る。
此処だ、というのである。
そのまま、タオのいる地点まで移動。
確認をする。
この辺りから、砂になっているが。
此処がどうしたのだろう。
タオは砂に棒を立てたりと、調査を始める。砂は風に噴かれて、棒の側にすぐに溝みたいなものが出来た。
しばらく、タオはそんな風にして調査を続ける。
それが必要な調査だったら、別に予定を変えることは吝かじゃない。
しばしして、タオが顔を上げていた。
「よし、分かってきた」
「じゃあ、一度戻るけれど、かまわない?」
「うん。 アトリエで相談しよう」
「よしきた」
すぐに後は帰路につく。
帰路にて、以前見た大型ラプトルの群れが此方を伺っていたが、それは完全に無視させて貰う。
相手も、此方が戦闘するのを、何度か見ていたのだろう。
仕掛けては、こなかった。
今日は、大物に襲われることはなかったか。
ともかく、これでいい。
砂漠を抜けて、橋を通って。そしてしばらく走ると、街道に出る。
こんなに近い場所に、人跡未踏の地がある。
それが、どれだけ人間の生存圏が狭まっているかという良い証拠。
今の人間は、あたし達みたいな特異戦力がいなければ、魔物に対する防衛が精一杯なのである。
アトリエに戻って、砂を払ってから。
タオが説明を始めた。
「確認できたけれど、やはりあの流砂は自然に出来たものじゃない」
「それについてはその説が強かったけれど、今日確認できたって事だよね」
「そうなるね。 今日は、砂漠の風の動きや、それで生じる砂の流れについて調べて見たんだ」
なるほど、それで遠めがね。
それで、タオは結論を出していた。
「砂漠をこのまま突破するのは不可能だ。 あの流砂だけではなくて、他にも仕掛けがあるとみて良い」
「そうなると困るな。 ライザの話だと、フィルフサがいつ封印を喰い破っても不思議じゃないんだろ」
「ライザの先生達も調査をしてくれているらしいが、情報を合同してみるのはどうだ」
「アンペルさんとリラさんも調査はしてくれているけれど、情報を待つよりもまずは自分で出来る範囲は調べるつもりだよ」
クリフォードさんの提案に、あたしはそう応えておく。
そうかと、クリフォードさんは帽子を掴んで下げていた。
なんとなくだけれども。
ある程度好意的にとってくれたことだけは分かる。
「それでライザ、どうするつもりだったんだ」
「流砂の薄い部分に、架橋するつもりだった」
「それも対策されていると思う。 ただ……」
「ただ?」
流砂のだいたいの大きさは、既にタオは掴んでいるという。
地図を拡げると、タオがぐるっと指を回していた。
「恐らく、この範囲が流砂。 そして、何か隠されているなら、この辺りだと思うね」
「流砂の先……もし行くとしたら、荒野から迂回して行く方が早そうですね」
「だけれども、そうすると多分ワイバーンが嫌になる程襲ってくる」
「手詰まりか」
レントが腕組み。
ワイバーンの一体や二体だったらどうにでもなる。だけれども、それが二十三十となると話は別だ。
それだけじゃあない。
ワイバーンだけで済む保証は、どこにもないのだ。
「それでタオ、何か考えがあるんじゃないの?」
「流砂は人工的なものだと判断して良い。 それだったら、流砂をとめる方法があると思ってね」
「ふむふむ」
「クラウディアが音魔術で調べてくれていたけれど、時々へんなものが地下にあるって言っていたでしょ」
そういえば、言っていたな。
タオがメモを取っていたから、それについては考えていなかった。
タオが、その変な物の地点を示して行く。
あたしは、あっと声を上げていた。
「僕も多少は魔法陣については分かるけれど、ライザはもっと分かるでしょ」
「うん、これ超巨大な魔法陣だ。 多分だけれども、水の動きを操作しているとみて良いだろうね」
「水の動きを?」
「要するに地下に巨大空洞を作って、砂を流し込み続けているんだよ」
魔法陣については、この図だと。
中心点は、想定される場所がある。
今まで、完全に無視していた、流砂とも全く関係がない場所だ。其処に多分、何かしらあると見て良さそうだ。
ガーディアンがいる可能性も高い。
これは、一度戻って正解だった。
「ガーディアンがいる可能性が高いと思う。 明日、装備を調えて出かけよう」
「何百年も経てるガーディアンだと、あの毒竜並みの強さだと考えて良いのか」
「なんともいえない。 だけれど、砂漠を活用して襲いかかってきたら、ちょっと面倒だろうね」
「……」
一度、解散とする。
あたしは少し考えてから、爆弾を増やしておく。更に、調合で薬も作る。
淡々と調合していくと、雑念を払える。
根こそぎエーテルを体から絞り出すから、雑念を抱いている暇もない。更に錬金術を使って、要素をエーテル内部で組み合わせていると。
頭を全力で活用する事になるので。
雑念なんて抱く暇はないのだ。
「フィー!」
顔を上げる。
フィーが引っ張っているので、そっちを見ると。ドアが叩かれていた。
錬金術を一度停止。
様子を見に行くと、クラウディアだった。
時間的には、夕方前か。
「どうしたの?」
「機械の修理。 急いで頼めないかな」
「その様子だと、訳あり?」
「うん。 王都から追い出した貴族の一人の資産を調べていたら、うち捨てられていた機械が見つかってね」
なる程ね。
それも、結構大事なものの可能性があると。
調べて見た所、金属加工をする機械であるらしい。
職人が作るものほど精度は高くない……と言いたい所だが。実際にはまったく分からないそうである。
一度錬金術をきりが良い所までやって、クラウディアについていく。
機械の話について、クラウディアが途中で話してくれる。
護衛らしい戦士数名は、距離を取って周囲を常に警戒していた。随分と鍛えられていると思う。
「今の時代には、どうやって作ったのか分からないパーツがたくさんあるの。 特にネジや何かの細かい部品は顕著よ」
「あたしが錬金術で再現した奴、結構あるよね」
「そう。 そういったものをもしも機械で作れたら……」
「確かに、地力での機械修復がある程度可能になるかもね」
今まで直してきた機械は、どれも酷かった。
確かにネジなんかは、完全に潰れてしまっているものも多くて。場合によっては、崩れてしまうケースもあった。
形だけ真似ても強度が全然足りなかったり。
或いは経年劣化に耐えられなかったりしたのだ。
だから、機械でそれらを作れるとしたら、大いに意味がある。
ただ、機械の破損が酷くて、元がなんだったのか。今の時点では分からないと、クラウディアは悲しそうに言う。
そうか、それならばあたしが確かに見ないとダメだろうな。
そうとも思った。
貴族の屋敷の跡地は、がらんとしている。
資産は殆ど、バレンツ商会などが持ちだしたのだろう。
醜聞一つでこれである。
「優秀な血筋」だの「伝統ある家」だのが、どれだけ脆いのか、これをみるだけで明らかである。
家は空っぽになっていて。内部はかなり痛みが早いようだが。
いや、これは。
今まで誤魔化していただけで、実はとっくに痛み始めていたのだろう。
基幹技術が駄目になっているから、こんな建物一つ、まともに直す事が出来ない。
この井戸の中のカエルの住処である王都。
それそのものを、示しているかのような建物だ。
「そういえば、パティの家もこんななのかな」
「例のメイドの一族が色々と誤魔化しているみたいなの」
「ああ、なるほど……」
で、いなくなればこうなると。
ともかく、家財などがなくなって処分された後を通ると本当に建物が傷んでいるのが分かる。
倉庫に移動して、確認。
確かに機械ではあるが。
腰をかがめて確認するが、これだけだと何とも言えない。ともかく、部品全てを集めないと分からない。
「情報が足りないね。 他の部品は?」
「うん。 彼処に集めてあるわ。 分からないものはすぐに捨てようとする人が時々いて、そういう人がまとめて処分しようとしていたから、あわててとめたの。 全部残っていると良いのだけれど」
まあ、どこにでもそういうのはいるか。
タオの家でも、タオの両親がそうだったな。タオが死守しなければ、クーケン島の操作マニュアルは、全部燃やされていた可能性も高い。
そういう感じで、「分からないから」という理由で燃された知識や技術は多いのだろう。
そして燃した側は、自分に分からないのが悪いと開き直るわけだ。
これは、人類がずっと進歩しないのも納得である。
「なるほど、これとこれと……これと……」
「それなりに大きな機械よ。 痛みが激しくて、錆びて壊れてしまっている部分も多いみたいでね」
「何となく分かった。 これはね、あらかじめ加工しておいた薄い金属を加工して、家財道具を作るものだね。 何種類か作れると思う」
「さ、流石だね……」
あたしとして見れば。
まあ、空間を把握して、それを理解しただけだ。
似たようなものも見ているから、分かったと言う理由もある。
もうクラウディアに頼まれて十個以上機械を直したが。
その過程で理解した構造というのは、結構多く。
それで分かったと言うべきだろう。
ともかく、これを修理するのはかなり時間が掛かる。
部品類は、一通り把握。足りない物もあるが、それはあたしが造れば良い。
問題は、これは恐らく、特殊な合金を材料とする。
中核部分を調べて見る。
なるほどね。
どうやらこれは、家庭用の調理器具を作るものらしい。
フライパンなどの何種類かだ。
ただ、これは合金の強度などが問題になってくるし、何よりも今の時代。調理器具に必要な金属が作れるかどうか。
フライパンなどの調理器具は、例えば金属が漏れ出して食品と混ざったりしたら、洒落にならない健康被害を生み出す。
長い年月使っていると、それだけで体をむしばんだりする。
そのため、金属にしてもまざりっけがないものにしなければならない。
低品質の合金だったりすると、鉛とかが入っている場合もあるし。
そんなものを使ったら、寿命をもりもり縮めていくことになる。
少し考え込んでから、あたしは解答しておく。
「これは直せるけれど、機械だけではだめだね。 ……ゴルドテリオンとまではいわないにしても、あたしが作るくらいの高純度の金属を大量に安定して生産出来るようにならないとダメだと思う」
「それは厳しいね。 今の時代、金属だっていちいち炉で作ってるくらいだし」
「残念だけれど、これは使うのは諦めた方が良いと思う。 見た感じ、数百年は使っていないようだしね」
多分だけれども。
その数百年前にすら、まともに素材の金属を用意できず。
乱暴に使った結果、壊してしまったのだろう。
或いは用途が分からなくて、苛立って壊してしまった可能性もある。
そういう人間は幾らでもいる。
王都の貴族でも、それは当然例外では無い。
「分かったわ。 それで、どうしようかしらね、これ」
「直すなら、一日ちょっとで出来るよ」
「分かった。 じゃあ、合間を見て少しずつお願い出来る? 直した後は、バレンツで保管するわ」
「それならば、部品を運び出しておこう。 ここにおいておくと、価値を理解していない人が捨てたりするだろうし」
後は、バレンツの人を呼んで、部品を移動させる。
夕方を過ぎて、夜になりつつあった。
作業が終わった後は、バレンツの商会で夕食をいただく。
正直、貴族の食べているものよりこっちの方が美味しいかも知れない。王都の農業区を馬鹿にしていたりしないから、普通に新鮮な食材が使われていて。結果塩漬け、砂糖漬け、香辛料漬けになっていないのだ。
「ふー、ごちそうさま」
「相変わらず豪快に食べるね。 それだけ食べてくれると、作ったがわとしても気持ちがいいわ」
「まあ、その分消費しているからね」
食べた分は、全部魔力に変換して、エーテルにしてしまう。
残りも体を動かす分で全て消耗してしまう。
あたしはここ三年で、錬金術に集中していた時期もあったけれど。そういう時期でも、太る事は一切なかった。
エーテルを毎日絞るだけ絞っていたからである。
魔術師は大量にご飯を食べるケースが多いのだけれども。
あたしはその典型だ。
かといって、クラウディアが大食いなわけでもない。
これは、体質なのかも知れなかった。
「じゃあ、明日。 厳しい戦いかも知れないから、今日はしっかり休んでおいて」
「分かってる。 それじゃあね」
満面の笑みを浮かべるクラウディアの所を離れて、アトリエに戻る。
やはりフィーは水を少し飲むくらいで。
栄養は全く、口にする気配がない。
あたしの魔力で充分なのだろうか。
少しずつ元気がなくなっているように思えるけれども。
いずれにしても、このままだと。
あまり良い結果には、なりそうになかった。
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