暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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4、白い夢

夢を見る。

 

でも、感応夢じゃないな。

 

飛んでいるフィー。フィーに似た同族じゃない。

 

あれは、フィーだ。

 

「おかあさん」

 

声が聞こえる。

 

フィーがあたしをそう認識していることは分かっている。一種の刷り込みだけれども。そもそもフィーは下手な人間の子供より賢い。

 

だったら、もう自分で納得しているのだろう。

 

この夢は、なんだ。

 

砂漠に関連する感応夢じゃない。

 

そもそもあたしはどこにいる。これは、水の底か。だとしたら、どうしてフィーが飛んでいる。

 

普通の夢じゃあない。

 

それはすぐに、あたしにも分かった。

 

水の中のような不思議な空間。

 

フィーはあたしのところまで降りてくる。

 

水の中なのか。

 

いや、違うな。

 

これは非常に濃い魔力の中だ。

 

確かエーテルをあまりにも大量に放出すると、しばらくの間水たまりのように溜まる事があるという話を聞いたことがある。

 

あたしは錬金釜にエーテルを溜めて。それを制御する事があるから、あり得るとは思う。エーテルを放出した存在が凄まじい、あたしなんか比べものにならない魔力を持っていて。魔力をある程度残そうと思っていたなら、それは起きうるだろう。例えばエンシェントドラゴンとか精霊王とかが、そうしようと思えば起きるかも知れない。

 

「おかあさん……」

 

「フィー……」

 

「ぼく、遺跡で色々見て来て知ったんだ。 ぼくの一族は、たくさん此方の世界に連れてこられて、たくさん使い潰されたんだって」

 

「そうだね。 あたしも残留思念をみたよ」

 

これは、感応夢ではないな。

 

普通の夢でもない。

 

普通の夢にしては、あまりにもおかしな事が多すぎるからだ。あたしはフィーに、続きを促す。

 

「おかあさんは、ぼくの故郷の世界の事を知っているんだね」

 

「オーリムって場所だとは仮説を立てているけれど、断言は出来ないよ」

 

「セリさんやリラさんのいた場所だというのなら、それで正しいと思う。 ぼく達は、神代と呼ばれた時代から、たくさん狩られたんだ」

 

「そうか……」

 

何とも言えない。

 

神代の人間も、古代クリント王国と同じ穴の狢である可能性が高い。それはあたしも分かっている。

 

だけれども、裏付ける資料がない。

 

フィーが、空を見上げる。

 

あたしも見上げて。気付く。

 

さっきは気付けなかったけれども。

 

そこには、明確な壁があった。

 

「なんだろあれ……」

 

「ここはおかあさんの精神世界。 おかあさんには、今二つの力が働きかけて来ているの。 一つはとても小さいけれど、これからとても大きくなる。 もう一つはとても大きいけれど、悪意はないみたい」

 

「フィー……」

 

「おかあさん、ぼくは少しずつ弱ってきているけれど、きっと平気。 おかあさんの魔力は、この世界のどの生物よりも強くて、僕の元気になる。 ただ、この世界の空気がぼくにはちょっとあわないのかもしれない。 オーリムに行きたい……」

 

ぎゅっと、あたしに抱きついてくるフィー。

 

そうか、そうかも知れないな。

 

いずれにしても、興味深い話を聞かせて貰った。

 

二つの力があたしに働きかけている。それはきっと、なんだか不意にスランプになったのと無関係ではないのだろう。

 

ぱっと目が覚める。

 

フィーが苦しそうに呻いている。あたしが起きたのに気付くと、フィーも目を開けたようだった。

 

「フィー……」

 

「今のは妄想とか記憶の整理じゃないな……」

 

「フィー」

 

フィーは、言葉を喋らない。ただ。少し疲れた様子で、笑ったように思えた。

 

オーリムの方が過ごしやすい、か。

 

あたしはフィーを抱きしめると、告げる。

 

「ごめん。 二つの世界のためにも、まずは門が封印されている場所を特定して、門の側にフィルフサがいるなら叩き潰さないといけない。 あたしには今それが出来る。 だからやらなければいけないんだよ」

 

「フィー……」

 

「それまで頑張って。 それが終わったら、クーケン島に戻って、それでオーリムに行こう。 丁度オーリムであたしが足を運んでいるグリムドルに行くタイミングだし。 後……」

 

もしも門があるのなら。

 

オーリムの素材を手に入れる事が出来るかも知れない。

 

そうなれば、トラベルボトルを調整して、オーリムに近い環境を作り出すことが可能になるだろう。

 

それで恐らくは、空気も。

 

オーリムの空気は、少なくともあたしが呼吸できる程度に、この世界と近い筈だ。だとしたら、きっとあたし達が忘れてしまった知識の中に、フィーが苦しくなる要素があるのだと思う。

 

事実、オーレン族の二人は、此方に来て体を害している様子がないのだから。

 

一つずつ、目標に向けて進んでいく。

 

それは、あたしの為じゃない。

 

この世界全てのため。

 

オーリムのためでもある。

 

悪いけれど、そのためには、斬り捨てなければならない事だってある。

 

あたしだって、フィーには相応の情は湧いている。

 

それでも、優先できない事はあるのだった。

 

 

 

リラさんとアンペルさんが、朝一番に来る。

 

殆ど顔を合わせたことがないパティは、丁寧に礼をしていた。あまり良い気分はしない様子のアンペルさん。

 

それはそうだろう。

 

ロテスヴァッサには、あまり良い思い出がないのだから。

 

アンペルさんは、これで結構子供っぽい所があったりする。感情が激すると、口調が荒ぶったりするし。

 

だけれども、それでも。

 

少なくとも、パティは今まであってきたロテスヴァッサの王族やら貴族やらとは違うと判断したのだろう。

 

やがて、丁寧に礼を返して名乗り返していた。

 

パティもほっとしたようだ。

 

「前にちょっとだけ顔はあわせましたが、緊張しますね。 ライザさんの錬金術と戦闘におけるそれぞれの師匠ということですし」

 

「正確にはリラさんの前にアガーテ姉さんって人に基礎は叩き込まれているから、戦闘面での師匠はリラさんだけじゃないんだけどね」

 

「羨ましい。 複数の別流派の達人に教えて貰うなんて、すごい贅沢ですよ」

 

「そうだね。 あたしはとにかく運がとても良かったのだと思う」

 

軽く体を動かしておく。

 

リラさんに、パティが頭を下げて、軽く動きを見てもらっていた。それにしても、強くなったと思うのだが。

 

リラさんの何百年も磨き抜いてきた肉は、今見ても凄まじい。錬金術の装備によるパンプアップがなければ、とてもではないけれど勝てる気なんてしない。オーレン族は人間と時間の感覚がだいぶ違うようだけれども。

 

それでもリラさんの肉は、全く鍛錬をさぼっていないことが分かる。

 

軽く動きを見た後、リラさんが幾つかアドバイスをしている。

 

パティは正直にそれを吸収して、見本を見せてもらった後、すぐに練習にとりかかっていた。

 

「なるほど、力を入れるタイミングと同時に、踏み込みをもう少し強くする方が良いんですね」

 

「お前の体格はどうしても小さい。 だが、逆にそれが故に、体の隅々まで力を丁寧に伝導することが出来る。 棒立ちで力を振るうのと、体全てを使って斬撃を繰り出すのでは雲泥の差があることは知っているだろう。 かなり鍛えているようだが、まだ体全てを使い切れていない。 そこを意識すれば、更に強くなれる筈だ」

 

「はいっ! 的確な指導、有難うございます!」

 

ばしっと頭を下げるパティ。

 

こんなに素直な弟子がいたら、それは気持ちが良いだろうなと思う。

 

あたし達の時は、どういう風に鍛えろというだけで、殆ど放し飼いみたいな感じだったリラさんだけれども。

 

パティの場合は、あたし達と会った時よりも、更に伸びしろがあると思ったのかも知れない。

 

丁寧に指導していて、それがあたしからも分かるのだった。

 

皆が集まってきた。

 

クラウディアがドーナツを持ち込んだので、アンペルさんが喜ぶのが分かる。

 

ただ、アンペルさんがこれで頭に栄養が行き渡るといいながらムシャムシャしているのを見て。

 

流石にパティも呆れていた。

 

皆が揃った所で、タオが咳払い。

 

アンペルさんは旺盛な食欲で、ドーナツをたくさん平らげた後だった。

 

「それでは、今日は遺跡のガーディアンである「数多の目」の案内を受けながら、恐らく最後の遺跡である「北の里」への到着を目指すよ」

 

「人間から見れば受けつけない姿の相手と、良く交渉を成功させたな」

 

「はい、ありがとうございます」

 

タオにとっては、あたしと同じでアンペルさんの方が師匠の割合が強い。

 

アンペルさんはもうタオの方が学者として上だというような事を言っているけれど。

 

アンペルさんは全体的に自己評価が低い。

 

まだまだ、経験や豊富な知識で言うと、アンペルさんはあたし達にとっての大事な師匠である。

 

「北の里は砂漠の中にあり、流砂と蜃気楼、何より多数のワイバーンで守られ、古代クリント王国の攻撃すら退けた事があるようです。 今はどうなっているか分かりませんが、もし人がいるのなら……話は早いと思います」

 

「その可能性は低いと思うぜ」

 

クリフォードさんが言う。

 

というのも、クリフォードさんが本を出してくる。何処かで見つけて来た古い本であるようだ。

 

タオが見せて、と飛びついた。

 

それは、どうやら古代クリント王国時代よりも、更に古い言葉で書かれているもののようだった。

 

「これは……何処で見つけたんですか」

 

「俺には独自の情報網があってな。 ……と言いたい所だが、偶然だよ。 俺の蔵書の一つに、これがあった。 まさかと思って調べて見たら、大当たりだった。 どうも北の里の人間が書いたものらしくてな」

 

書いた場所は、王都では無く更にずっと北の方。

 

それが流れ流れて、クリフォードさんの手に渡ったらしい。

 

重厚な装丁がされている本だが。中身は日記のようだ。

 

「中身は既に確認済みだが、皆で里を離れたってある。 使っている言葉からして、恐らくは北の里で間違いねえ。 ただ、北の里のことを知られたくなかったんだろうな。 どうして里を離れたとか、そういう事はほぼ書いていないが」

 

「そうですね……。 後は当たり障りがない話ばかりだ」

 

「だとすると、里の中は魔物とトラップだらけの可能性も高いんだね」

 

「覚悟はしないとまずいと思う」

 

そうか。

 

まあ、何もない所を荒らすよりは、ずっと気分も楽だ。

 

ボオスが一応、念押しに言う。

 

「リラさんとアンペルさんも行くとなると、もう救援を頼める相手もいないな。 とにかく、皆生きて戻って来てくれ」

 

「私達は今日だけは一緒に行くが、明日以降は別行動を取る。 他の遺跡に、まだ調べたい場所があるのでな」

 

「そうか。 じゃあ、遭難した場合のセーフティは健在と言う事だな」

 

「そうなる」

 

アンペルさんの解答は明快で。

 

ボオスも頷くだけだった。

 

さて、後は行くだけだ。

 

あたしは手を叩いて、今日の目標。遺跡への到達と、大まかな調査を告げる。

 

いくぞ。

 

恐らくは最後の遺跡。

 

此処でしっかり情報を集めないと。

 

封印の具体的な位置が分からない。

 

もしも分からない場合は、最悪総当たりで調べて行かなければならなくなる。

 

ただ、あたしにはある程度予想がついている。

 

古代クリント王国が発見できなかったと言う事は、少なくとも王都にはない。

 

多分だが。

 

今まで廻って来た遺跡のどれかにあるとみて良い。

 

しかし、今まで探索してきた遺跡の中で、最深部までいけていないものなんてあっただろうか。

 

いずれにしても、厳しい調査になるのは。

 

覚悟しなければならなかった。

 

 

 

(続)




ついに開けた最後の遺跡への道。

遺跡を守るガーディアンとの戦闘も避けられましたが。しかしながら、まだ封印の状況、具体的な位置は分かっていません。

全てが手遅れになる前に。

ライザは調査を終える必要があります。

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