暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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2、体内遺跡

喉の骨だろうか。

 

いや、これは石畳だ。

 

石畳に高度なテクノロジーが込められている。それを、淡々と、一段ずつ降りて行く。

 

カンテラを照らす。

 

今回は地底遺跡の可能性が高いから、最初から持って来ていた。それにしても、此処は。ドラゴンの体内を摸していると見て良さそうだ。

 

かなり深くまで潜ると。

 

いきなり、周囲に空洞が拡がった。

 

虚空に縦横無尽に伸びているのは、通路。でも、骨のように見える。骨のようになっている石畳。

 

全てがドラゴンの骨のような通路、いや虚空に架かった橋だ。

 

徹底しているな。

 

これは、エンシェントドラゴンがどんな気持ちで住んでいたのだろうか。ちょっとそれを聞きたい。

 

人間が、骨格模型だらけの中で暮らしたいだろうか。

 

いや、そういう人もいる。

 

或いは、エンシェントドラゴンには、独自の価値観が合って。

 

これがとても心地よい場所だったのかも知れないが。

 

「灯りはあるが、底の方は見えないな」

 

「……全体的に魔力が弱いかも知れないね」

 

「同感だ」

 

あたしが周囲を見回すと、クリフォードさんが呟く。この遺跡そのものが、既に死にかけているのかも知れない。

 

見た所、此処で暮らしている人はいないだろう。

 

タオが言っていたとおりだ。

 

既に、此処は放棄されたのだろう。

 

一番の懸念は。

 

エンシェントドラゴンがまだ生きていて。あたし達に敵意剥き出しで襲いかかってくる事だったのだが。

 

そんな強烈な存在の気配はない。

 

欺瞞工作もされていない。

 

この様子だと、本当にいないのだろう。既に死んでいる、と考えるのが妥当だ。

 

これは楽観ではなく、客観的な分析の結果である。

 

「崖になっているよ。 気を付けた方がいいと思う」

 

「しかも灯りが心許ない。 クラウディア、音魔術を常に展開してくれるか」

 

「うん、大丈夫。 そのつもり」

 

「足下がとにかく危ないね。 少しずつ、調査していこう」

 

まずはランタンを何カ所かに置く。

 

その間に、タオとレントが一度戻って、退路の確認。これについては、どの遺跡でもやるべき事だ。

 

最悪の場合、あたしが天井をブチ抜いて脱出、と行きたいが。

 

この規模の地下遺跡だと。

 

それも出来るかどうか。

 

黙々と調査していく。ランタンを置いて、少しずつ測量。手慣れた様子で、クリフォードさんが地図を埋めていく。

 

何カ所にも伸びている、骨の道。

 

どれも触ってみると、石畳で。

 

明らかに重力を無視して浮いている。

 

都市を浮かせる技術。

 

それをある程度、継承していたのか。それともエンシェントドラゴンが、教えた技術なのかも知れない。

 

「鼓動みたいなのが聞こえるよ」

 

「……あれかな」

 

クラウディアの指さす先を、あたしは確認。

 

でっかい球体みたいなのがある。

 

うっすら光ってはいるけれども、なんともか細い。

 

乾期が終わって涼しくなると出てくる虫の一種があんな光を放つ。なお、儚い光だけれども、夜にはそれなりに目だって。

 

寄って来た他の虫を食べてしまう。

 

このため、何も知らない内はキレイキレイと喜べるが。

 

その性質を知ってしまうと、何とも言えない気持ちになる光。

 

それに似ていた。

 

「多分だけれども、この遺跡は動力がかなり危ない状態まで減ってる。 クーケン島と同じようにね」

 

「それで、補給の当てはあるのかしら? このままだと遺跡のギミックが殆ど機能しないと思うけれど」

 

「三年前だったら、ちょっと当てがありませんでしたけれど。 今だったらどうにかできそうですね」

 

「そう……」

 

三年前だったら。

 

フィルフサのコアを素材にして、爆発的なエネルギーを産み出すことを考えなければならなかったが。

 

今だったら、現在研究中のセプトリエンがある。

 

セプトリエンはまだ純度が低い品しか手に入れられていないので、未知数ではあるのだが。

 

その未知数の品ですら、以前使ったフィルフサのコアに近い性能を持っている。

 

伝説の鉱物と言われるだけの事はある。

 

とにかく、動力があれだと確信できたら、多分動力の補給は出来る。

 

三年前に比べて、色々どうにも頭は鈍い気がするが。

 

それでも、出来る事が増えたのは事実だ。

 

タオとレントが戻って来た。

 

入口については、少なくとも機構は問題無さそうだという。いきなり閉じるようなことも無さそうだ、ということだ。

 

問題は操作を音声でやるしかない、ということで。

 

それだと、そもそも常に見張りがいないと、何がいつ侵入してきてもおかしくない。

 

だとすると、動力に加えて。

 

この地下遺跡から、直接地上を監視できるシステムが、昔はあったのかも知れない。

 

縦横に伸びている石畳。クリフォードさんが乗って見るが、案の場だ。一部が剥落しているらしい。

 

「これは厄介だ。 一度縄ばしごで、一番下まで降りた方が良いかも知れねえ。 この橋をいちいち渡ってたら、命が幾つあっても足りないぜ」

 

「ふむ……」

 

「どうした、ライザ」

 

「いや、この遺跡まだうっすらと生きています。 セキュリティで、そういう近道を封じている可能性があるかもって思って」

 

一応、先にクラウディアに音魔術を展開して貰う。

 

あたしは石を崖下に落としてみて、反響音を確認。高さを調べておく。

 

下の方で、ドボンと音がした。

 

下は水か。

 

だが、ドボンと音がするまでかなりタイムラグがあった。これは落ちたら、まず助からないだろう。

 

そもそも水が、有害な物質まみれの可能性もある。

 

とにかく、慎重な行動が必要だ。

 

灯りを確保しながら、タオとクリフォードさんが、クラウディアと組んで地図を作ってもらう。

 

その間、あたし達はいける範囲を見て回る。

 

魔物は幸い今の時点では遭遇しない。

 

幽霊鎧の残骸らしいものがあったが。

 

それも既に機能停止してしまっている。

 

というよりも、これは魔物にやられた傷には思えない。恐らく、古代クリント王国との戦いで壊されたのだ。

 

それに、今までの遺跡などで目撃してきた幽霊鎧とまた型式が違う。

 

やはりこの遺跡は、別文化圏にあって。

 

別の技術で、この幽霊鎧も作られていたのだろう。

 

「この幽霊鎧は、今まで見てきたものと違って、鈍器を武器として使っていたようですね」

 

「恐らくは対幽霊鎧のものなんだろうね」

 

「え?」

 

「剣や槍よりも、鈍器の方が鎧には有用だったらしいんだよ」

 

鎧というものをガチガチに着込む文化が失われてしまった今だから。こういう、鎧そのものを自走させて戦う時代の事は良く分からない。

 

だが、タオなどの研究によると。

 

本来鎧というものは、急所への攻撃から身を守るもので。

 

適切な防御力が担保できている時代には、首だとか腹だとか、ダメージを受けると致命的な部分は鎧で防ぐ事が出来ていて。

 

如何に鎧の隙間を縫って攻撃を通すかが、特に対人戦では必須だったらしいと言う文書が見つかっているそうだ。

 

ただし今は、鎧の防御を上から叩き潰してくる魔物との戦闘が主体になっている。

 

そう、丁度鈍器のように。

 

強烈な鈍器による一撃は、魔物の攻撃と同じように、鎧そのものを粉砕してしまうのである。

 

だから今はパティやクラウディアが身に付けているような、胸鎧のような軽装のものが主体になり。

 

魔術による防御をガチガチに固めて、それでも重装鎧は実用的では無いという時代になっている。

 

そしてその結果、剣や槍などが対人戦での主役に返り咲いている。

 

そもそも、鎧が衰退した結果。

 

これらの武器が、戻って来たとも言えるのかも知れない。

 

これも鎧の再研究が進み。

 

魔物とやり合えるくらい防御力が上がって。

 

更に鎧の素材となる鉱石を、安定して入手でき。

 

加工技術も進歩したら、展開が変わってくるのかも知れないが。

 

いずれにしても、これは今とは状況も魔物との力関係も違った時代の武装だ。あたし達は、過去の資料を見て。

 

それを元に判断するしかないのだ。

 

「ライザ、こっちに来てくれ!」

 

「分かった!」

 

レントが呼んでいる方に行くと、比較的無事な橋があった。

 

ドラゴンの頭骨を思わせる橋の入口。石で出来ているのが分かるから、本物ではない。橋の途中は、多少剥落しているが、それでも石がしっかり浮いている。これならば、補修すればどうにかなるか。

 

いずれにしても、ロープがたくさん必要だ。

 

錬金術で作るのもいいが、ロープくらいはそのまま買ってしまってもいいだろう。

 

ロープを命綱にしながら橋を渡り、途中を補修して、一つずつ通れるようにしていく。

 

視界が塞がれている今。

 

いきなり地下に降りるのは自殺行為だ。

 

ここには魔物がいないが、下にいないとは限らないのである。

 

とりあえず、此処は先に進むための有力候補とする。

 

その他にも、行ける場所は全て調べておく。

 

一度、外に出て、情報を整理。

 

その間、クラウディアとタオが連携して、入口の機能を確認。

 

他の面子で地図を囲んで、状況を整理しておく。

 

「現在、入口付近の大地に直結している橋は四つ。 更に下の方に通っている橋が、七つ確認されていると」

 

「文字通り縦横無尽だな」

 

「そうだね……」

 

今あたしが宿を借りている中央区の辺りはともかく。

 

建物の背が低い貧しい人達が暮らしている辺りは、洗濯を干すための縄が縦横に行き交っている。

 

それらの地区に炊き出しに出た事があるから、見ている。

 

クーケン島よりも、更に貧しいのが一目で分かった。

 

あれでは王都の狂った物価ではやっていけないだろうと言う事も。

 

アーベルハイム主導で炊き出しを行い、仕事の斡旋もしているようだが。

 

ともかく皆餓えて心が荒んで。

 

どうにもならない人も多いそうだ。

 

あの義賊の三人組は、その貧民区に顔が利くらしく。

 

三人はとても慕われているそうで。

 

三人とアーベルハイムが連携している事で、かなり犯罪が抑えられているらしい。

 

皆、農業区にでも移るべきではないのかと思うが。

 

そう簡単には行かない問題なのだろう。

 

「どうしてこんなに橋ばかり渡しているのかしら」

 

「セリさん、恐らくだがそれは、守りを固めるためだろうな。 遺跡に侵入されたとき、そうやって敵を分散させ、攪乱するんだ。 死地って奴でな」

 

「そう……。 此方の世界の人間は、本当に互いで殺し合いばかりしてきたのね」

 

「オーレン族は数が少ないから、そういう事にはならなかったんだな」

 

セリさんはしばらく黙った後、言う。

 

実は、オーレン族同士でも諍いはあるそうだ。

 

ただし人間がやるような、特に古代クリント王国が崩壊する前の、アーミーがいたような時代の規模とは比べものにならないほど小さく。

 

もしも諍いになった場合は、長老などが出て来て、仲裁をし。

 

戦いも、相手が死ぬまでやる事はまずないのだとか。

 

そういう意味では、自然とともにある種族ではあっても。

 

こっちの世界の人間とは、比較にならない程温厚な種族なのだとも言える。

 

一見すると自然と共にある荒々しい種族のようだが。

 

人間よりずっと温厚で、好戦的では無いと言うことか。

 

ただ、セリさんやリラさん、キロさんなんかの実例を見ていると、感情もあるし心だってある。

 

もしも、フィルフサがばらまかれず、オーレン族が増えに増えていた場合。

 

此方の世界と同じように、いずれは大規模な戦争が起きていたのかも知れない。

 

それは、あたしが考える最悪のIF。

 

ただそれは、現実には起きなかった。

 

それだけだ。

 

「確認は終わったよ。 それで、どうする。 今日は一旦引き上げる?」

 

「うん。 まずはロープと、それにカンテラ。 後は補修用の建築用接着剤、それに石材が必要だね。 それも、相応の量が必要になってくる」

 

「だとすると、砂漠に拠点を作って、ピストン輸送しないとできないのかな」

 

「そうするしかなさそうだね。 ただ「数多の目」には、何度も此処と往復して貰う事になるから、できるだけその回数は抑えたい。 何らかの方法で、一度で物資を運びきりたいけれど」

 

しばし考えてから。

 

パティが挙手。

 

「アーベルハイムで、大型の馬車を提供できます。 馬は流石に危なすぎて街道の外には連れ出せませんが、荷台だけなら」

 

「いいのかい、パティ」

 

「私はまだ戦力的にも未熟で、知識もそうです。 たまに思いつきが役に立つ事はあるみたいですけど、やっぱり役に立ちたいです。 これは世界の命運が掛かっているプロジェクトです。 これくらいは、手伝わせてください」

 

「よし……」

 

計算をする。

 

建築用接着剤、ロープ、カンテラ。これらについては、それほど量は必要ない。勿論、今確認できている橋を全て補修して、なおまだまだ橋がたくさんある可能性。更には、奥にある動力と思われる鼓動への道の確保。

 

これらを考えると、予想より多めに物資を運ぶ事が必要となる。

 

それはそれとして、問題は石材だが。

 

橋を安全に通すのなら、何も石材である必要はないか。

 

踏んでも壊れず、体重を充分に支えられる素材。

 

あるな。

 

ただ、ちょっとばかり調合がいる。それに、手に入れるのも、一手間だけではない。

 

「トラベルボトルに潜る必要があるかな。 それも一日がかりで」

 

「そういえばそれ、時々話題に上がっていましたね」

 

「明日は遺跡の探索は一度中止かな。 トラベルボトルに潜って、皆で素材集めになると思う」

 

「分かった。 いずれにしても、魔物も出るんだろ」

 

頷く。

 

トラベルボトルの中に擬似的に作る世界は、魔物が内部に普通に出現する。

 

これは、理由はよく分かっていない。

 

あたしもトラベルボトルは解析したつもりだが。

 

それによると、どうもそもそもとして、内部に欲しいものだけが出来るわけではなく。

 

世界を擬似的に作る関係上、どうしても不純物がたくさん湧いてしまうものであるらしいのだ。

 

結果として、あたし達が敵として認識している魔物も発生する。

 

そういう事であるらしい。

 

まだ時間は早めだが、この時点で遺跡の奥に進むことが難しいので、戻る事にする。勿論、遺跡の入口は閉じておく。

 

きちんと「数多の目」は迎えに出てくれた。

 

タオが、明日は来ない旨を説明すると。

 

幾つかの言葉を、返答していた。

 

「なんだって?」

 

「律儀に知らせてくれてありがとう、だって。 とても真面目で頼りになるガーディアンだね」

 

「見かけがちょっと怖いですけど、少しずつ信頼出来る事が分かってきました」

 

「相変わらず線が細いな」

 

レントがバンバンとパティを叩いたので、埋まるんじゃないかと心配になったが。

 

まあ、いいだろう。

 

ともかく、今日は帰路につく。

 

夕方よりだいぶ早めにアトリエについたので、先にトラベルボトルについて、皆に機能を説明しておく。

 

ついでだから、先に入ってもおく。

 

内部に擬似的な世界を作り出す、超ド級の古式秘具だ。これがあたしのアトリエには、まだ何個かある。

 

セットする素材によって、内部の世界も変わる。

 

これは古代クリント王国時代ではなくて、もっと古い時代のものである。

 

クーケン島を浮かすことも出来なかった古代クリント王国のテクノロジーでは、これは作れなかったのだ。

 

内部に入ると、皆驚く。

 

クリフォードさんは、特に子供みたいにはしゃいだ。

 

「おお、すげえな! これぞロマンの極みだぜ!」

 

「クリフォードさんにはお世話になっているので、クーケン島に来てくれたときには何回でも内部に入れるようにしますよ」

 

「マジか。 そうだな、俺のコレクションをセットして、どうなるか見てみてえ」

 

「……」

 

パティはもう言葉もないようで、呆然と内部を見回している。

 

セリさんが大丈夫かと声を掛けて。それで真っ青なまま、何度か頷いていた。

 

この初々しい反応、可愛い物である。

 

フィーが元気そうに、周囲を飛び回っている。

 

この中は、魔力の密度が高いのかも知れない。

 

ちなみに、周囲は薔薇畑だ。

 

此処で大量に採れる薔薇。デルフィローズ。

 

これが、次に使うものである。具体的には、補修用の繊維の素材にする。

 

実の所、もっと強力な繊維も作れるのだが。それには更に複雑な素材が必要になってくる。

 

何よりも、強力な魔物の毛皮も素材に用いるので。

 

コストが掛かりすぎる。

 

これで充分だ。

 

「この薔薇を摘んで、外に運び出すよ。 調合はあたしがやるから、ただ摘んで荷車に積み込むだけで大丈夫。 ただ棘が鋭い上に、もの凄く頑丈だから気を付けて」

 

「気を付けてパティ。 棘が本当に危ないからね」

 

「分かりました。 斬ってしまっていいですか」

 

「大木を相手にすると思えよ。 これ、本当に危険な薔薇なんだ」

 

レントが、大剣を振るってばっさばっさと斬り始める。

 

それほど広くない庭園だが。

 

それでも、簡単に採集できるほど、この薔薇は柔な代物ではない。

 

そのまま、無心で散って皆で集めていく。

 

パティも、数度刃が弾き返されて、それで認識を変えたらしい。本気で斬り、それで棘に気を付けながら集め始める。

 

「ライザ、これを確か布に出来るんだよね。 それで、布で補強するの?」

 

「まずはロープを渡して、それで大丈夫そうな石材は建築用接着剤で固定。 むしろデルフィローズで作る繊維は紐にして、橋の強度をそれで補強する」

 

「なるほどね。 着込む訳じゃないから、加工時の手間も減ると」

 

「そう。 それにこれで作る布は、もう散々作ってるから、頭に徹底的に叩き込んであるしね」

 

ある程度デルフィローズを刈って集めていると。

 

凄い臭いが周囲に漂う。

 

薔薇の素敵な香り、とはいかない。

 

香水が強すぎると、正直あまり良い気分はしないものだが。

 

それに近い印象だ。

 

「ライザさん、凄い香りですねこの薔薇……」

 

「ごく一部でしか採れない希少種だからね。 普通の薔薇とは、生命力も臭いの強さも違うよ。 色々調べて見たんだけれど、葉っぱが強すぎて虫も殆どつかないんだ」

 

「それは、庭師が色々な意味で驚きそうです」

 

「庭師の鋏なんて、多分手に負えないよこれ」

 

セリさんが顔を上げる。

 

つづいてクリフォードさんも。

 

来たな。

 

とんでもなく巨大な芋虫が、此方に来る。このトラベルボトル内に発生した魔物というわけだ。

 

明らかに此方に敵意がある。

 

排除しなければならないだろう。

 

「とにかく気を付けて! 薔薇のとげを貰ったら、腕くらい飛ぶよ!」

 

「足場が狭いな。 とにかくやりづれえ」

 

「来る!」

 

巨大な芋虫は、器用にデルフィローズで傷つかないように無数の足を動かして、此方に突進してくる。

 

此奴自身も凄い臭いをまき散らしているので、それこそ失神しそうな状況だ。

 

質量ももの凄いのが一目で分かったが。

 

レントが踏み込むと同時に、一撃をあわせる。

 

絶技レベルのパリィだ。

 

そのまま、互いに弾きあう。

 

あたしは横っ腹に、熱槍を叩き込み。更に。身をよじった芋虫が、こっちをむいた瞬間に。

 

その巨大な頭に、クリフォードさんのブーメランが直撃。

 

セリさんが地面に手を突くと、一気に成長したデルフィローズが、芋虫を真下から直撃。

 

いきなり成長したデルフィローズに対応できなかった芋虫が、ばきばきと凄い音を立てて成長して行くデルフィローズに飲み込まれ。

 

やがて、大量の体液をまき散らしながら、潰れていた。

 

「ライザ、ちょっと無理かも」

 

「分かった、一度撤退」

 

クラウディアがギブアップしたので、一度外に。外に出るのは、それほど難しくはない。

 

相応の量のデルフィローズは回収出来た。

 

これでも野外で回収するより質は落ちるが、それもまた仕方がないと言える。

 

外に出ると、クラウディアは真っ先にトイレに直行。まあ、とめる理由は無い。パティは青ざめたまま、座り込んでじっとしていた。

 

声を掛けない方が良いだろう。

 

「とにかく、明日の午前中くらいで、デルフィローズを集めておこう。 調合はあたしがやるよ」

 

「それならば、使い方だけ教えてくれないか。 俺たちだけでもこれは充分だろう」

 

「……それもそうかな」

 

クリフォードさんは、案外平気そうだ。

 

それに、見た感じ魔物がそんなに多いわけでもない。あたしがいなくても、採取だけなら大丈夫だろうし。

 

魔物との交戦を避けて、さっさと戻る選択肢もある。

 

クラウディアが戻って来て、ハンカチで口を何度も塞ぐ。

 

あたしが冷やしておいた水を渡すと、クラウディアには珍しく、ぐいぐいと豪快に飲み干していた。

 

まあこれは、余裕もなかったのだろう。

 

「しっかし便利な道具だな。 内部に世界を作るなんてな」

 

「あまり喜んでばかりもいられないんですよね」

 

「ん? どうしてだよ」

 

「恐らくですが、これ門を作る為の技術の元になった代物だと思います。 そうでなくても、同系統のテクノロジーでしょうね」

 

つまり、悪用の限りを尽くされた、ということだ。

 

元々トラベルボトルは、入手できる素材しか増やせないし。増やすにしてもジェムが大量にいる。

 

古代クリント王国の錬金術師達は、全員が全員あたしの技術を越えていたわけでもないだろうし。

 

以前見た資料では、普通にアーミーの人にフィルフサの群れの中に放り込まれていた。

 

つまり青びょうたんだった、ということだ。

 

危険地帯にそんな奴らが出かけていけるとは思えず。

 

あたしや皆が普通に出来る事が。

 

あのカスどもに出来るとは思えない。

 

それでいながら、万能感をどうして拗らせるのかもよく分からないが。

 

いずれにしても、トラベルボトルを利用して、エネルギー資源を回収しようとか、そういう事は出来なかったのだろう。

 

全員が落ち着いた頃にボオスが来たので、ミーティングを行って、解散とする。

 

後は、あたしは無心に調合をする。

 

フィーはトラベルボトルをじっと見ていた。

 

また入りたいのだろう。

 

だけれども、あたしは明日は調合で一日を回すつもりだ。

 

中には連れて行く事は、出来そうにない。

 

ちょっと可哀想だが。

 

それは我慢して貰うしかない。

 

そして、機械の修理を実施。これも残りは少なかったので、順当に終わり。稼働も確認。問題なく動いた。

 

クラウディアもかなり体調が悪そうだったが、とりあえず機械がまた一つ直った。それだけで、きっと後の時代に、財産になる筈だった。故に、喜んでくれた。だから、あたしも嬉しかった。

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