暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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3、基礎を固めて

翌朝。

 

今日は珍しく、クラウディアが最初にきた。

 

昨日の解散時のミーティングで、ロープを頼んでいたのである。勿論お金はあたしが払った。

 

普段から大量に布やインゴットを納入しているからいいのにと言われたけれども。

 

それでも、一応こういうのはしっかりしておきたかったのだ。

 

それで、荷車一杯にロープがとぐろを巻いている。これだけあれば、ちょっとやそっとは大丈夫だろう。

 

パティは馬車を用意するのに、明日一日かかるという。

 

まあアーベルハイム……特にヴォルカーさんは、ますます今忙しく街道での魔物退治をやっているそうだ。

 

この間の大粛正で貴族が複数いなくなったのは、全く問題がない。実際王都で、何か困っている人を誰も見ていない。

 

ヴォルカーさんの行動は。今後のために、王都の民の信頼を集めるため、なのだろう。

 

とにかく街道で魔物を退治して、街道の安全を確保。そして、王都に物資が通りやすくする。

 

周囲の治安も確保する。

 

また、あたし達が見つけた治安が著しく不安定な集落の幾つかにも直に足を運んで、援助もしているそうだ。

 

その辺りはありがたい。

 

指導者として、やる事をしっかりやっているということだ。

 

まったくロテスヴァッサの玉座にだけ座っている王族とは偉い違いである。

 

ただ、そんなヴォルカーさんだって、年を取ってしまえばどうなるかは分からない。

 

それについては、パティも同じだ。

 

王族が最高の地位にいて、常に誰も脅かすことが出来ないという状況は、絶対に堕落を招く。

 

それを防ぐためにも。

 

常に、いつでもその気になれば王座なんてひっくり返せる状況は、必要なのかもしれない。

 

それは魔王とでも言うべき存在なのだろうか。

 

もしそうなのだとしたら。

 

あたしはいずれ、魔王になるべきなのかも知れなかった。

 

皆が集まったので、トラベルボトルを調整して。あたしは、引き続き調合にはいる。

 

基本的に主体になるのはデルフィローズだが。これだけで繊維を作る事が出来るわけではない。

 

幾つもの素材を混ぜ。調合で調整して。

 

少しずつ繊維を作る。

 

糸繰りや機織りの仕事をしている人に仕事も回したいところだが。

 

残念ながら、これの繊維は普通の糸繰り車だと、バラバラにしてしまうくらい危ないものだ。

 

だから、錬金釜の中で。

 

エーテルを使って、調整していくしかない。

 

肯定を経て、順番に繊維にして。

 

やがてロープに結っていく。

 

糸だと細いし危ない。

 

というか、戦闘用の糸に出来るくらい危険な切れ味があるのだこれは。

 

無言で調合をしていると、昨日集めて来たデルフィローズが見る間に減っていく。大量の繊維を作っているのだから、それも仕方がないのだが。

 

トラベルボトルから、荷車ごと皆が出て来た。

 

真っ青になっているクラウディアが、無言でトイレに。

 

パティも、外にでると、深呼吸を何度もしているようだった。

 

まあ、それも仕方がない。

 

アトリエの窓も開け放しにしてある。

 

調合の時に、どうしてもデルフィローズの臭いが篭もる。

 

薔薇の素敵な香りも。

 

煮詰めすぎると、もうそれは兵器と化すのだ。

 

「どう、集まった?」

 

「ああ。 またあのデカイ芋虫が出て来たから、丁度良いって一旦引き上げてきたぜ」

 

こう言うときは、年長者のクリフォードさんが主導してくれる。

 

ありがたい。

 

セリさんの方が年長なのだが。セリさんはそういうのにはあまり興味がないらしいので、クリフォードさんに頼む事にする。

 

皆も、自然にリーダーシップを受け入れてくれていた。

 

クラウディアが戻って来たので、水を渡す。

 

今日は大量に水がいる事がわかっていたので。

 

朝一番で水は井戸から大量に汲みおいて。それで湧かして、更に冷ましておいたのである。

 

それでも、みんなでがぶがぶ飲んでいたら、あっと言う間になくなるだろうが。

 

「ライザ、水を汲んでこようか」

 

「助かる。 タオ、休憩中に調査とか出来る事しておいて」

 

「それじゃ休憩にならないよ。 僕もちょっとあの臭いは無理……」

 

比較的平気らしいレントが水を汲みに行ってくれるので。任せるが。

 

他の皆はセリさんを除いてグロッキーだ。

 

セリさんは平気そうだが。

 

実際には、不愉快なのに。顔に出ないだけかも知れない。

 

「よし、また行くぞ」

 

「ライザ、後どれくらい必要?」

 

「今のペースだと、最低でもあと四セットかな」

 

「……」

 

絶句したパティが膝から崩れ落ちそうになるが。

 

それでも必死に立て直したようだった。

 

ばかみてえな社交界だので香水まみれのドレスは見慣れているだろうに、それでもきついということだ。

 

ともかく、皆には採集にいってもらって。

 

あたしは必死に調合に集中する。

 

糸を作り出した後は、コーティングだ。

 

そうしないと、危なくて仕方がないからである。素材は。デルフィローズが足りないが、それ以外は大丈夫。

 

今まで外に出たときに、集めて来た素材がわんさかある。

 

無心に調合しているうちに、皆が戻ってきた。荷車に、さっきより多めにデルフィローズを積んでいる。

 

手慣れてきたらしい。

 

これならば、予想よりも早く、素材を集めるのは終わるかも知れない。

 

「ライザ、臭いを防ぐもの、何か作れない?」

 

「ごめん。 そもそもトラベルボトルの中の世界は、空気からしてデルフィローズの成分に満ちていると思うし」

 

「薔薇が嫌いになりそうです……」

 

「パティ、水は用意してあるから、ぐっと飲んでおいて。 疲れたなら、横になっていいからね」

 

あたしも調合をずっと続けているのを見て、パティも何も言えなくなったのだろう。

 

少し休憩してから、またトラベルボトルに戻っていく。

 

フィーが袖を引いた。

 

昼か。

 

とりあえず、きりが良い所まで調合を進めてしまう。

 

皆が戻ってきたところで、昼を告げた。

 

カフェにでも行くかと思ったが。

 

今日は、クラウディアが、昼を用意してくれると言う事で、バレンツに向かう事にする。

 

ただし、その前に。

 

あたしが用意した消臭剤を使って、薔薇の臭いを消す。

 

此処まで臭いが強いと、薔薇の中で泳いだようである。防犯の問題もあるから、アトリエの窓も戸も閉じなければならないが。

 

案の定、近所の住民は、此方を見ていた。

 

「臭いが漏れるのはどうしようもないね。 これは、今後出張するような事態の時は、周囲に家がない場所にアトリエを作るかな……」

 

「それがいいと思う。 というか、この臭いどうにか出来ないの?」

 

「クラウディア、珍しくお冠?」

 

「うん。 仕方がないことだってのは分かっているけれど、良い気分はしないかな。 でも、ライザに怒っている訳じゃないからね」

 

そっか。それはなんというか。

 

逆に申し訳がない。

 

バレンツ商会に、臭いを落としてから出向くと。既に料理人が料理を終えていた。テーブルに、それなりに豪華な食事が並ぶ。

 

クラウディアの賓客だという話があるのだろうし。

 

何よりパティの事は知っているのだろう。

 

使用人は、丁寧に対応してくれて。

 

それでまあ、不愉快ではなかった。

 

大きめの肉の塊が出てくる。この街の農業区で育てた牛らしい。一部は使っているが、それでも農業区にいる人間は負け組というような風潮があるから。作っている人は、色々肩身が狭いだろう。

 

早速ナイフで切り分けていただく。

 

これは、多分もう潰すしかなくなった乳牛の肉だな。

 

それは分かったが、わりと悪くは無い。しっかり処理をした上で、丁寧に仕上げている。料理の腕が良いのである。

 

「んー、おいし」

 

「早く食べないと、ライザに全部食われちまうぞ」

 

「確かに、本当にあれだけよく食べるわね」

 

「ちょっと、そんなに食べないよ」

 

だけれども、レントが声を掛けると、セリさんもクリフォードさんもあわてて食べている。

 

呆れ気味のパティ。

 

「いや、ライザさんはとても健啖だと思います……」

 

「そうかな。 でもあたし、そんなに太ってないけど」

 

「それはあんなに大きな魔術を連発して、毎日エーテルを極限まで絞り出して、あれだけ激しく戦えば、太りようがないと思いますけど」

 

「うーん、そんなものかな」

 

ただ、クラウディアはあたしが食べる分を見越したのか。

 

かなり多めに用意してくれているようで。

 

それを見て、安心してあたしも食べる。確かに、今日はちょっとおなかが減っているので、それだけ体の中に肉が入っていく。

 

飲み物にジュースが出た。

 

これは。クーケンフルーツか。

 

鮮度が若干落ちるが、味のアクセントに入っている。

 

こっちだとリュコの実だかいう名前で呼ばれて売られているんだっけ。

 

確か魔術で冷凍して、こっちに運んでいる。

 

バザーでも見かけたが。

 

生産者が跳び上がるような値段だったな。

 

苦笑いして、ジュースを飲み干す。

 

この味はちょっと懐かしいが、ジュースにするのはまた不思議な食べ方だなとも思う。

 

ともかく、これが貴重な外貨になっていて。

 

クーケン島を潤しているのも事実。

 

有り難くいただく。

 

パティを見ると、随分と丁寧なテーブルマナーで、音なんて一切立てていない。

 

貴族との交友だろうが関係無いのだろう。

 

ただ、外でもパティはちゃんと食事をしているし、その時は野戦料理にも抵抗がないようだから。

 

場所によって、単に食べ方を変えているだけだ。

 

テーブルマナーなんて、所詮は貴族の間の身内での約束事にすぎず。現在ロテスヴァッサの貴族なんて、王都の中にしか影響力を持たない。

 

そんな身内での約束事なんて馬鹿馬鹿しい限りだろうが。

 

それを緩和することが出来るのなら。

 

いずれパティも、それをやるのだろう。

 

デザートにアイスクリームが出てくる。

 

魔術を誰でも使える人間がいる今の時代。アイスクリームくらいは、普通に何処でも出てくる。

 

相応に裕福であれば、だが。

 

あたしも熱魔術が固有という事もあって、たまに子供の頃から料理店でアイスを作ってくれと頼まれる事があって。

 

それがいい小遣いになっていたっけ。

 

ミルクが主体のアイスのようで、随分と上品な味だ。

 

うん、おいしい。

 

満足出来た。

 

食事を終えると、クラウディアに礼を言って、アトリエに戻る。みんな満足していたし、食事中何も殆ど言わなかった。

 

それは、美味しかったから、だろう。

 

本来食事中は、みんな静かになるのが一番正しいのかも知れない。

 

食後に、むしろ騒がしくなるくらいが、いいのだろう。

 

「いや、美味かった。 俺は俺で野戦料理の方が好きなんだが、今日のは普通に美味かった。 ありがとう、クラウディア」

 

「すっかり野営が板についたんだねレント君。 どういたしまして」

 

「それにしてもいい料理人を雇っているんですね」

 

「ううん、あの料理人には頑張って腕を上げて貰ったの。 人材なんて湧いてくるものじゃないからね。 うちでは救貧院や孤児院から人を雇って、技術を仕込んで働いて貰っているんだ。 技術が伸びてきたら、どんどん任せる事も増やしているの。 貧しい集落で、人も募っているんだ」

 

随分柔軟なやり方だ。

 

だけれども、魔物に押される一方で。人口がどんどん減っている今。

 

クラウディアのやっている方法が正しいのは、言うまでも無い事だ。

 

これくらいやれないと、多分人間は反撃に出られない。

 

パティも、少し考え込んでいた。

 

「そのノウハウ、此方でも共有出来ませんか?」

 

「育成プログラムはあるけれど、ただでは教えられないよパティさん」

 

「う、そうですよね……」

 

「ふふ。 でも、そうね。 今後もうちと取引をしっかりして、それで誠実に振る舞ってくれるなら、少しずつノウハウの共有を考えます」

 

頷くパティ。

 

こういう商談は、ありなのだろう。

 

アトリエに戻ると、すぐ調合を開始。窓を開けてから、だが。

 

皆も、トラベルボトルに戻る。

 

とにかく、あの巨大な芋虫が出現するまでに、どれだけデルフィローズを手際よく集めるかが肝だ。

 

薬も渡しておく。

 

デルフィローズの棘は指くらい簡単に吹っ飛ぶ危険なものだ。

 

渡しておく薬は、指くらいならすぐにつければなんとかなるくらいの強力なものである。

 

それも、出来れば使わなくても良いことを祈るしかない。

 

調合を続けて行く。

 

どんどんデルフィローズが減る。

 

あたしも、油断すると怪我をしかねない。それだけ危険な植物なのだ。

 

危険な方向に環境に適応して。

 

それで己の身を守ることに成功した植物。

 

だからこそ、強靭な繊維を作れる。

 

そうして、夕方まで、調合を続けた。一度、お菓子休憩を挟んだが。クッキーの素敵な香りは、今日は全く感じられなかった。

 

 

 

夕方のミーティング少し前に、素材の確保は終了。

 

後はあたしが調合しておしまいだ。

 

糸をコーティングしたものを、レントに渡しておく。

 

繊維を束ねて糸にして、更にその上からもコーティングしてある。そうでないと、触っただけで手がみじん切りになるような代物なのだ。

 

レントが手袋をして、繊維を掴んで引っ張り、強度を確認。

 

レントの筋肉が盛り上がり、それでもびくともしない様子を見て、皆驚嘆していた。

 

「すげえな。 流石にあのあぶねえ薔薇の繊維だけの事はある」

 

「野生の芋虫の糸と、それに強力な魔石を素材にもっと強い繊維も作れるんですけれど、コスト面で今回はこっちでいいと思いました。 ただ、今の技量なら、むかしのその強い繊維よりも、今のこの薔薇の繊維の方が性能が上ですね」

 

「ともかく、これなら橋の補修は出来るね。 後は空でも飛べれば万全なんだけど」

 

「流石にそれは厳しいかな……」

 

今、空を飛ぶための仕組みは研究している。

 

古代クリント王国の連中も、それを研究していた。だったらあたしでも出来そうなものなのだが。

 

問題は理屈が分からないのだ。

 

鳥などは、体をばらしてどうやって飛んでいるのかは理解している。

 

だが、古代の都市が浮いていた仕組みは、それとは根本的に違うはず。

 

レアな固有魔術の中に、飛行というものがあるらしいが。

 

飛行魔術を使える人間は、ほぼそれしか出来ないらしい。しかも極めたところで、鳥に飛行速度で遙かに及ばないそうだ。油断すれば普通に墜落もするし、人間の魔術ではその程度が限界らしい。

 

あたしも空中で熱操作による爆発を起こして、強引に空中機動することは出来るのだが。それも限定的な機動であって、ずっと浮いている事は不可能だ。

 

「フィー!」

 

「うん、フィーにいざという時は助けて貰うね」

 

「フィー!!」

 

自慢げなフィー。

 

まあ、確かにパティを助けた実績がある。

 

今はあの時より力も増しているかも知れない。

 

ただ、それでも。

 

フィーに頼るようではアウトだ。ともかく、順番にこなせる事を、一つずつやっていかないといけないだろう。

 

ボオスが来たので、ミーティングを開始。

 

既に消臭剤を撒いておいたので、薔薇の匂いはもうなくなっていた。

 

だが、ボオスはそれでも此処の悪評を聞いていたようだった。

 

「なんかすげえ悪臭が、って噂になってたぞ」

 

「ごめんボオス。 もう今日でこの作業は終わりだから」

 

「分かった。 ともかく俺の方で、どうにかしておく。 それよりもどうなんだ。 出来たのか」

 

「触ってみて」

 

どれと、ボオスもデルフィローズの繊維を掴んで見る。それで、その頑強さに驚嘆したようだった。

 

しばらく無言になった程である。

 

「すげえな。 これ、量産出来たら、クーケン島の産業にできないか」

 

「残念だけれど、素材が結構色々いるんだよ。 それにこの悪臭がね……」

 

「そうか。 ただ、少量を作るぶんには問題ないだろ。 俺の方で、これが使える場所を探してみる。 多分売り物になる筈だ」

 

確かに、各地の死んでいるインフラを復興する工事などで、頑強な素材はそれこそ幾らでもいる。

 

ただあたしは。

 

これは布にして、戦闘用の衣服に使いたい。

 

その方が。戦士の生存率が上がるし。何より着た戦士の能力をパンプアップして、魔物に対抗させることだって出来る。

 

今回は、あくまで限定的な使い方だ。

 

それは、ボオスにも説明しておいた。

 

「一通りは分かった。 それで、明日からが遺跡探索の本番、ということだな」

 

「そうなるね。 一つずつ橋を復旧しながら、深部を目指していくということになると思う」

 

「ともかく、かなり疲れそうだ。 軽業は俺が担当するが、それでも絶対は無いから、それは覚悟してくれ」

 

クリフォードさんがそんな風に言う。

 

分かっている。

 

厳重に注意しながら、少しずつ進めていく事になるだろう。

 

ともかく、明日からが本番。

 

非常に厳しい遺跡調査になるが。

 

此処が最後の可能性。

 

封印の場所を正確に把握するには、此処しかもう残っていないのだ。

 

ミーティングを終えると、あたしは残りの分の調合をすませる。残りは大した量でもない。

 

それが終わると。

 

なんだか酷い臭いをずっと嗅いでいて疲れたからか。

 

もう、何もする気になれず。

 

出来合いを適当に買ってきて食べると。

 

後は公衆浴場だけ入って、眠ってしまった。

 

 

 

セリは畑で、ずっと作業を続けている。この間見つけて来た、川岸の浄化能力を持つ植物。

 

調査を進めていくと、どうにもこれの潜在力が高いことが分かってきたのだ。

 

借りている畑を利用して、セリの固有魔術で成長を促進。様々な方法で畑を汚染して、それを浄化させる。

 

仮に、だ。

 

超強力な浄化能力を持っていたとしても、フィルフサそのものをたたき出さないと、意味がないのだが。

 

それでも、フィルフサをたたき出した後。

 

復興に使える植物には大きな価値がある。

 

だから植物を短時間で育て。

 

そして種を収穫し。

 

形質のうち強力なものを選抜して。

 

更に更に先を目指して、品種改良をしていた。畑が傷むのも、当然早い。何十倍。何百倍も成長速度を高めて酷使しているのだから。

 

無言で畑を弄っていると、真夜中になっていた。

 

光がなくても、無理矢理魔術で補うが。

 

それもそろそろこの時間だと限界か。

 

セリの魔力は、ライザをもしのぐ。

 

此方の世界に来てから、ライザが凄まじい魔力の持ち主だと言う事で感心したのだが。正直オーレン族にはあれくらいの魔力の持ち主なんて幾らでもいる。長老に至っては、今のライザの三倍程度の魔力はある。既に全盛期は過ぎているのに、だ。

 

ライザはまだ魔力が伸びると思うが、それでもまだまだだ。

 

ただセリはそれだけの魔力があっても、相応に酷使はしているし。

 

何よりも、そもそもとして、回復が遅い。

 

一晩寝て回復する人間と比べると、どうしても回復力が劣る。

 

こう言う作業は、自分の回復力と計算して行わなければならなかった。

 

月が出た。

 

無言で、此処までにする。

 

住処にしている安宿に引き上げると、眠る事にするが。

 

今後どうやって、品種改良をしていくかを考えている内に、いつの間にか眠ってしまっていた。

 

起きだして、それで。

 

アトリエに向かう。

 

ちょっと朝遅くなってしまった。朝の畑を見ている余裕がない。

 

不覚ではあるのだが。

 

実はそれほど、今は焦りは無い。

 

あの植物を見つけられたことは大きい。

 

ライザと一緒にいることで、更に何かの発見がある可能性もある。

 

少なくとも今は。

 

セリは、ライザを殺そうとは思っていない。

 

アトリエにつくと、すでにパティとクラウディア、それにタオが来ていた。

 

幾つかの相談事をしているようだったので。

 

セリは無言で挨拶だけして、隅っこの方でぼんやりする。

 

畑仕事をしているときはかなり頭を使うのだが。

 

今は専門外の話をされている。

 

会話に加わろうとも思わなかった。

 

やがてレント、クリフォードも来る。ボオスも揃った所で、いつもの朝のミーティングが始まる。

 

ボオスは議事録をアンペルとリラの所に持っていく。

 

それだけのためにいるのだが。

 

この集団の窓口も務めている。故に、時々ライザに口出しをして。それでライザもやりやすいようだった。

 

「では、これから行う架橋作業についてですが、セリさんも頼みますね」

 

「分かっているわ」

 

まずは安定している橋から順番に作業をしていくのだが。

 

橋の背骨になっている部分を、植物でも補強する。

 

全員の力を使って、一つずつの橋を復旧しながら、今度の遺跡では奥へ進んでいく事になる。

 

下がどうなっているか分からない以上。

 

最大限の注意を払わないといけないのである。

 

ライザ達は事前に打ち合わせをしていた事もあって、動きに本当に無駄がない。

 

遺跡に行くのに、パティの借りてきた大型の荷車を使って、大量の物資を一気に運び込む。

 

「幾多の目」に、一度の往復で物資の運び込みも終わると告げていたようだ。

 

遺跡についても、作業は怒濤の如し。

 

ライザ達はどの橋から攻めるか、既に決めていて。

 

順番に対応を開始する。

 

最初にクリフォードが命綱をつけて、それで橋を渡りきり。向こう側で、縄を結びつけていた。

 

「どうだった、クリフォードさん」

 

「案の定というか、途中の幾つかの石が駄目になってるな。 縄は通したから、まずはこれから安定するように直してくれ」

 

「分かりました。 タオ、クリフォードさんと向こう側に渡って、地図を作って。 レントはこっち側の見張り。 パティはタオとクリフォードさんの支援。 セリさんはあたしを手伝ってくれますか」

 

こくりと頷く。

 

そのまま一緒に橋を渡る。

 

クラウディアは、ずっと音魔術を展開していて、かなり魔力の消耗が激しいようだけれども。

 

それでも、時々耳元に情報を届けてくれる。

 

「タオくん達、橋を渡るのに成功。 その少し先の石が駄目になっているよ」

 

「了解、セリさん、手伝って貰えますか」

 

「分かったわ」

 

少しずつ、思う事がある。

 

最初どうにも考えが鈍くなっているように見えていたライザが。少しずつ勘もなにもかも鋭くなってきているように思う。

 

セリは問題になっている壊れた橋の部品の所まで辿りつくと。

 

手元から植物を召喚して、それで補強。ライザが、頑強な繊維を用いて、修復する間、ぶらんぶらんと浮いている石を支えておいた。

 

ライザの手際もいい。

 

やがて、最小限の繊維だけで、しっかり宙ぶらりんになっていた橋を修復し終える。

 

更に、建築用接着剤と言うのも手際よく使って、欠けたり壊れたりしている橋の部分を修復してしまう。

 

この辺りの手際は、熟練の人間がやるものだ。

 

真似は簡単にはできないだろう。

 

「よし、次に行って」

 

「分かった。 クラウディア、今の所魔物は……」

 

「出たけれど、問題がない程度の小物よ。 即座にパティさんが斬り伏せたわ」

 

「そう。 パティも頼もしくなって来た。 良いことだね」

 

そのまま、橋の修復を進めていく。

 

ドラゴンの長い首をそのまま骨にして。更にそれを石にしたような構造をしている橋は。

 

まるでドラゴンの喉を通っていくかのような不思議な錯覚を生じさせる。

 

この遺跡は、エンシェントドラゴンが知恵を授け。

 

それによって栄えた都市だと言う事だが。

 

それにしても、どうしてこんな構造にしてしまったのか。エンシェントドラゴンが、己の体をモデルにして、都市計画をさせたのだろうか。

 

可能性は、否定出来ないか。

 

無心で橋の修理を続ける。

 

虚空から植物を召喚するのは、土がある状態に比べて魔力の消耗が非常に激しく、更に言えば呼び出せる植物も力が弱い。

 

充分な詠唱をした後だと、切り札級のものも出せるが。

 

こう言う場所で作業用の魔術となると、セリもあまり得意ではない。

 

だけれども、役には立っておきたい。

 

ライザの働きぶり。

 

古代クリント王国の、エゴしかなかった錬金術師とは全く違う。だからこそ、その働きを支援したいのだ。

 

そうすれば。

 

いつかきっと、オーリムをフィルフサから取り返せるかも知れない。

 

何百年も、この世界を彷徨ってきた。

 

希望なんて、なかった。

 

今や、浄化のための植物も出来ようとしていて。

 

更には、此処に希望の権化が存在している。

 

だったら、セリは。

 

その希望に、賭けてみたいと、思うのだった。

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