暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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微笑ましい嫉妬心(本人はそうとも気付いてもいない)を抱くパティ。

それに勘付きながらも、ライザは完全に放置。

そんな遺跡の調査が、不意に妙な結果をもたらします。


卵が孵る
序、遺跡へ向かう


王都の東門でタオと待ち合わせ。タオは気付いていない様子だが、やっぱりパティは隠れて此方を伺っている。

 

戦闘経験はあるといっても、隠行はまだ未熟だな。

 

音魔術の使い手であるクラウディアだったら即座に気付くレベルだし。

 

あたしでも気付いている。

 

三年前だったら、多分タオも気付けていただろう。

 

タオは腕は上げているけれども。

 

平時が平穏になりすぎた。

 

ある程度鈍っているから、鍛え直さないと駄目だろう。

 

ただそれは、あたしも同じだ。

 

どうにもやっぱり頭の働きが鈍い。

 

三年前のような鋭い閃きがどうしても来ない。

 

そうなると、やはり今のうちに、しっかり取り戻しておかないと危ない。

 

街道を歩きながら、説明を受ける。

 

「王都近辺には、手つかず状態の遺跡がいくつもあるんだ。 何しろ手つかずだから、学者達もああだこうだと好きかって言っていてね。 やっぱり調査をするなら、一次資料だって言っている学者もいるんだけれども、調査だけで命がけだから、みんな尻込みしていてさ」

 

「まあ、戦士達の質を考えると仕方が無いんじゃないのかな」

 

「違いないね。 森を抜けてその先に遺跡が一つある。 前に僕が偵察した所では、殆ど大した魔物は……僕達基準ではいないけれど、妙な壁があってさ」

 

「ふうん。 とりあえず、今日は其処を調査する感じで良いんだね」

 

いずれにしても、手数が足りない。

 

一応レントには、バレンツ商会経由で手紙は出してある。

 

王都に来ているから、来てくれと。

 

クラウディアは忙しいようで、まだ返事がない。

 

リラさんとアンペルさんは消息不明。

 

ボオスはまだ鍛錬の途中。

 

そうなってくると、近場で傭兵でも雇うしかないかも知れない。

 

ただ、あたし達に比肩する実力者があんまりいない事は、昨日今日王都を歩いて見て、良く理解出来た。

 

あの分厚い城壁のせいで、王都の人間は自分が安全な場所にいると思い込んでいる。

 

この近くは遺跡だらけ。

 

もしも遺跡の中に生きている門が一つでもあったら。

 

それこそフィルフサに蹂躙されて、一瞬で王都の城壁は喰い破られ住民は食い尽くされてしまうだろうに。

 

古代クリント王国が滅亡した経緯を、どうして記録に残さなかったのか。

 

三年前のタオですら簡単に読み解けたくらいに、フィルフサの事は石碑や記録に残っていたのである。

 

あれだけしか記録がないとは考えにくい。

 

アンペルさんが破棄したのもあるだろうけれども。それ以外にもフィルフサやオーリムの記録はあったはずだ。

 

一体どうして、王都の連中はこうも危機感がないのか。

 

ともかく、あたし達で出来る事はやるしかない。

 

そういえば。

 

あのクリフォードさんという人、良い腕をしていたな。

 

もしも道が交わることがあるのなら、声を掛けたいところだが。

 

街道を外れて、北に。

 

森にさしかかる。

 

一応、単騎でいける程度の腕は多分パティにはあるから、そこまでは心配はしていないのだが。

 

ただ単騎でいると、どうしても細かいミスで死に直結する確率が激増する。

 

最悪の場合は、助けないといけないだろう。

 

数少ないまともな貴族だ。

 

死なせるのは、この井戸に等しい王都にとって、大きな損失になるのだから。

 

魔物は時々姿を見せるが、あたしがにっこり笑って見せると、すくみ上がって逃げ散っていく。

 

ただしこれは、この辺りの森で掃討作戦が行われているからだろう。

 

若い魔物ばかりだ。

 

ただ。遺跡という奴の方からは、どうにも嫌な気配がする。

 

ともかく、急ぐ。

 

途中、川があって、綺麗なせせらぎがあった。

 

この辺りは、丁寧に調べて見たいものである。

 

いずれにしても、こういう人間の生存圏でない場所で喋るのは避けた方が良い。

 

ハンドサインでタオと連携を取りながら。

 

邪魔そうな魔物は仕留めつつ、奧へ行く。

 

森は鬱蒼としていて。

 

人間を完全に拒むようだが。

 

ある一点で、急に開けていた。

 

巨大な街の残骸だ。

 

これが、遺跡か。

 

タオが顔を上げていた。

 

「ライザ、護衛を頼む。 周囲を調べるよ」

 

「分かった。 それはそうと、タオ、感覚が鈍ってるね」

 

「? まあ、仕事以外で戦闘はしていないけれど……」

 

「駄目だよ、もう少し感覚研がないと。 気付いてるかも知れないけど、あたし少し調子が悪いから、補助がほしいんだよねえ」

 

小首を傾げるタオ。

 

ともかく、調査を始める。

 

タオは入り込むと、周りが一切見えなくなる。これはずっと前から変わっていない。今もだ。

 

ぶつぶつ呟きながら、メモを取り始めるタオ。

 

建物は規則的に並んでいて、殆ど植物も周囲に生えていない。あたしも調べて見るが、床部分の石畳は、非常に強力に組み合わされている。

 

なんだこの石畳。

 

「タオ、これって……」

 

「少し触ってみただけで分かったけれど、これ古代クリント王国よりも古い様式だ」

 

「……」

 

そうなると。

 

門がある可能性は、あまり高くないか。

 

だが、どうにも近辺で嫌な気配がビリビリするのだが。

 

そもそも古代クリント王国の遺跡だけに門があるとは限らない。固定観念は危険だろう。

 

そういえば、例の変な宝石、持って来ている。

 

こればっかりは、一応手元に置いておこうと思ったのだ。

 

タオがよく分からないと言っていたけれども。それでも、値打ちものの可能性がある。

 

アトリエには防爆の結界と、魔術での鍵を掛けてあるが。

 

それでも、悪事を働くとき、人間の頭が一番働く事をあたしも知っている。

 

王都にはそれほど凄い使い手はいない事は分かってはいるのだが。

 

どんな手で、中に入られるか分かったものではない。

 

だから、値打ちものの……国宝に近い価値があるのだとすれば。

 

身に付けておいた方が安全だと判断したのだ。

 

熱魔術で、熱槍を作り出し。此方を伺っていた魔物。小型の鼬だが。容赦なく熱槍を叩き付ける。

 

悲鳴を上げて逃げ散る鼬。

 

まだそれほど年を経ていない個体だ。

 

遺跡の浅い場所だからだろうか。魔物も、それほど大した奴はいない。そのわりには、この気配はおかしいのだが。

 

なんだろう。

 

巨大なドラゴンが、すぐ側で寝ているような、そんな違和感。それがずっと消えてくれない。

 

「ライザ、ぴりぴりしてない?」

 

「うーん、なんだか感覚が鈍いんだよね、ずっと」

 

「急激に成長しすぎたからじゃないのかな。 ライザってあの三年前の夏で、魔力が十倍くらいは成長したよね」

 

「その反動かな。 だとすればいいんだけど。 今も、この辺り雑魚しかいないのに、なんか妙な感じなんだよね……」

 

タオが淡々と調査を進めていく。

 

遺跡は別に迷路じみて複雑な訳ではなく、少なくとも外から見渡すことも出来る。何なら、トレジャーハンターだのが入った形跡もある。

 

金目のものは残っていない。

 

王都の警備をやっている連中よりは、一応出来ると言う事なのだろう。ただ、それでも此処で殺されて。

 

魔物の腹に収まってしまった人だっているかも知れない。

 

油断は、しない方が良いだろう。

 

「感応夢とかはまだ見る?」

 

「……そういえば最近はさっぱり見ないね」

 

「やっぱり急激に強くなったひずみじゃないのかな。 成長期にもの凄く伸びた人間が、その後振るわないって例が此処でも報告されているらしいよ」

 

「へえ……」

 

周囲の警戒を続ける。

 

タオが、壁を何度か叩いている。

 

空はすっかり開いてしまっている遺跡だが。雨風に晒されているというのにもかかわらず、壁が崩れている様子もない。

 

最近の人間が作った煉瓦とかだと、普通に雑草が煉瓦から生えてくる、なんて事もあるのだが。

 

それは起きそうにもない。

 

ただ、この辺りは戦闘の痕跡があって。

 

破壊された石畳は、土が剥き出しになっていて。

 

其処からは、流石に雑草が生えていた。

 

「なんだかうねうね曲がっている遺跡だね、これ」

 

「何かしらの通路だったのかも知れない。 それとも、侵攻を遅らせるための仕組みだとか」

 

「要塞って奴?」

 

「うん。 この辺りにはそういう構造が珍しくもないんだ。 侵攻を遅らせるという事は、何かの施設だったって事だよ。 調べる意味はあると思う」

 

まあ、理屈は理にかなっている。

 

調べているが。

 

パティ、ちょっと気を付けないと危ないぞ。

 

内心でぼやく。

 

必死にこっちを覗き込んでいるからか、たまにツインテールの片側が丸見えになったりしている。

 

気配も消し切れていない。

 

来る途中にいた魔物は全部蹴散らしているから襲われてはいないが。

 

それでも、あの様子だと。

 

もっと危険度が高い遺跡だったら、魔物に襲われていても不思議では無いだろう。

 

「この壁、向こう側があると思う」

 

「あたしが見てこようか」

 

「そうだね、お願いするよ」

 

頷くと、足に魔力を集中。

 

跳躍していた。

 

壁はあたしの背丈の四倍くらいはあるが。

 

その程度跳躍するのは、別に今だったら難しくもない。

 

跳躍して、手をかざして様子を見る。

 

なるほど。

 

確かに壁の向こうに小部屋がある。小部屋の中には、巨大な結晶体があって。何かの実験をしていたのかも知れない。

 

着地。タオが、感心していた。

 

「相変わらず凄い脚力だね」

 

「魔力の操作が上手だといいなさい。 読み通り、向こうに部屋発見。 壁を乗り越えて侵入する?」

 

「いや、多分此処からいける」

 

タオが、足下を示す。

 

隙間みたいなのがある。

 

なるほど、いきなり此処から入るのは危険と判断したからか。

 

頷くと、タオは一人でまずは奧に。

 

しばらくして、何かを砕く音がした。あたしは周囲を警戒。強い魔力が、部屋だった場所から漏れている。

 

程なくタオが戻って来た。

 

ポーチにたくさん入れているのは、魔石だ。

 

魔力というのは結晶化することがある。それを魔石という。

 

地方によって色々と形状が違ってきたり、色が違ってきたりするのだが。

 

それは大気中に満ちている魔力の影響を受けるとか。その地方にいる人間の魔力を吸収するからだ、とか言われている。

 

クーケン島にも魔石は転がっていて、採掘しても減る様子もなかった。

 

魔石は魔力の塊なので、色々と扱える。

 

錬金術でも使えるものなので、回収しておいて損は無いだろう。

 

「ライザが見たって結晶は、典型的な魔石だね。 ちょっと何往復かして、全部砕いてしまうよ」

 

「結構大きめだったけど」

 

「内部に何かあるっぽいんだ。 大丈夫、砕くための道具はもってきてる」

 

「分かった、じゃあ此処で警戒を続けているよ。 部屋の中での自衛は出来るね」

 

大丈夫、と応じて来るタオ。

 

まあ、流石にこの周囲に感じる気配なら、大丈夫か。

 

パティはずっと飽きもせずこっちを伺っている。

 

タオとあたしが親しそうに話しているのが気になる、という所か。

 

まさかのけ者にされているとか、そんな子供みたいな理由でもないだろうし。いずれにしても、声を掛けてしまっても良いのだけれども。

 

まあ、そこまではしなくても良いだろう。

 

魔石を掴んで、一応確認して見る。

 

魔力の密度は高めだ。

 

この辺りは、見つかる素材の品質からも、大して魔力は濃くないと思っていたのだけれども。

 

それは王都から、少し離れると話が違うのかも知れない。

 

以前アンペルさんに教わった龍脈が近くにあってもおかしくはない。

 

もしそんなものがあったら。

 

其処を根城にして、ドラゴンなどの大物がいる可能性もある。

 

ただでさえ、ここに来る途中に、小物では無いバシリスクに遭遇しているのだ。だとすれば、王都近辺に龍脈がないとは言い切れないだろう。

 

タオが何往復かして、魔石を引っ張り出してくる。

 

背が伸びても横には拡がらなかったタオは、女子に受けそうなスリムな体型である。筋肉もあるにはあるのだろうが、それでもこういう場所には入りやすいのだろう。

 

何往復かする内に、荷車に大量の魔石が積まれた。魔力が結構強くて、魔物が寄って来そうである。

 

ほどなくして、タオが戻ってくる。

 

「これが魔石の核になっていたよ」

 

「なんだろこれ」

 

「……解析しないと分からないかな。 後、これも」

 

これは、メモ帳か。

 

魔石の核になっていたのは、多分この良くわからないものだろう。貝のような形状をしていて、ぱかぱか開け閉め出来る。

 

一度此処から離れて、奧に。

 

途中で、巨大な蜘蛛の巣を発見。

 

蜘蛛の巣をどける。抗議するように、掌以上もある大きな蜘蛛がきちきちと顎をならしたけれども。

 

あたしがにこりと笑みを向けると。

 

さっと逃げて。そのまま奧へと消えていった。

 

「助かるよ。 昔ほどじゃないけれど、やっぱり虫は苦手なんだ」

 

「いい加減その辺り克服しなよ。 いつもあたしが遺跡探索に同行できるわけじゃないんだから」

 

「なんとかしようとは思っているんだけどね。 まあ、払いのけるくらいなら出来るんだけど、今みたいなのはちょっと……」

 

「フィルフサなんか、でっかい虫みたいなもんだったじゃない」

 

フィルフサは、大きすぎて逆に平気だったとタオは言う。

 

タオの感覚では、あれは虫っぽく感じなかったと言う事か。

 

良くわからない。

 

思い切り蟷螂な奴だっていたし。将軍だって姿は完全に虫だった。

 

それが平気なら、ちいさな虫なんて全く大丈夫に思えるのだけれども。

 

アーチになっている。

 

魔術の装置だ、これは。

 

確認すると、もう動作している様子はない。動作系が死んでいる。破壊されているわけではないようだが。

 

動力源が、完全に枯渇しているようだ。

 

クーケン島の事を思い出す。

 

クーケン島の動力源は枯渇して、死にかけていた。

 

ここがどんな施設だったのかは分からないが。

 

このアーチは、見た所防御装置だ。

 

周囲の壁をタオが手際よく調べているが。どうやらあたしと結論は同じであるらしい。

 

「この辺りの壁はとにかく分厚く作られてる。 というか、床なんかもそうだけれども、動力源から魔力供給を受けて、防御魔術まで展開する仕組みになっていたみたいだよ」

 

「なんだろ。 まさかフィルフサ対策?」

 

「いや、それは分からない。 もう少し資料とかがないと……」

 

「いずれにしてもこれ、古代クリント王国よりも古い遺跡なんでしょ? 流石にフィルフサの事は、そこまで気にしなくても良さそうだけれど」

 

タオが、腕組みする。

 

考え込んだ後に、答えを返してくる。

 

「実は、嫌な資料を見たんだ。 とても古い古文書だったんだけれども、大いなる悪魔が世界の果てより来るって内容でね。 その悪魔は星よりも多く、古代からの道具を使って大きな犠牲を出してようやく撃退したって内容でさ」

 

「フィルフサと特徴が似ているね」

 

「うん。 その資料が、古代クリント王国が非人道的な実験や、異世界での暴虐を尽くしていた時代よりだいぶ昔に書かれたものだったんだ。 好成績を上げているからって見せて貰えたんだけれど……ちょっと一致点が多すぎる。 決戦の日は雨だったって記述もあって、なおさらね。 勿論全てがたまたま一致しただけって可能性もある。 単体でいうと、フィルフサより強い魔物はこの世界に他にもいるんだから」

 

確かにそれもそうか。

 

一番やってはいけないのは、我田引水だ。

 

そういう風に、アンペルさんも言っていたっけ。

 

何かしらの前提が頭の中に居座っていると、客観的にものを判断できなくなる事があるらしい。

 

自分の田に水を引き込むような行動だから、我田引水。

 

確かに、この世界を滅ぼそうとする悪魔はフィルフサという前提があると、思考が其方に引っ張られる可能性がある。

 

タオに感謝だな。そう思う。

 

三年前だったら、こんな風に安直な思考はしなかったと思うのだけれども。

 

どうにも駄目だな。

 

内心で自嘲しつつ、手分けして周囲を調べる。

 

アーチを抜けてその先に行くと、完全に死んだ魔石があった。魔力が吸い尽くされて、枯渇している。

 

いや、残り香はあるにはあるが。

 

いずれにしても、これは駄目だろう。

 

そして、壁だ。

 

でかい壁がある。壁には壁画があって、タオがそれを早速ゼッテルに写し始めていた。

 

あたしはそれを横目に、ふと気付く。

 

ポーチに入れてきた例の宝石が光っている。

 

またか。

 

タオが、首を伸ばして、それを見た。

 

「宝石が、例の発光現象?」

 

「うん。 いつもより光が強いね」

 

「見せて」

 

タオに渡すと、すぐに光が収まってしまったが。それでも、一瞬だけあたしは見たように思う。

 

この光、内側から発せられていて。

 

中に何か、生き物みたいなのが見えなかったか。

 

だが、一瞬だ。

 

タオは、首を横に振る。

 

「駄目だ、これだけじゃ分からない」

 

「良いって。 それよりも、調査を続行しよう」

 

「うん」

 

そのまま、手分けして調査を続ける。

 

パティは途中で疲れて座り込んでしまったようで。ずっと気配が動かない。

 

まあ、来る途中にいた魔物は全部掃討したし、危険はないか。

 

そう思って、タオの調査につきあった。

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