暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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2、竜の心臓は再び動く

ほぼ一日の残りを掛けて、問題となっていた橋の修復は完了。その間に、あたしは橋の向こう側をパティとともに調査。

 

橋が幾つかあり。その内一つは、更に降っている。

 

地底までは残り半分弱と言う所だが。まずは、この動力を直してしまいたい。

 

橋が直ったタイミングで、あたしはもっとも近い位置から、心臓めいた動きをしている動力を確認。

 

なるほど。

 

ある程度はわかった。

 

観察した後、皆と合流する。

 

レントが真っ先に聞いて来た。

 

「どうだ、分かったか」

 

「任せて。 この心臓、恐らくだけれども根本的なテクノロジーはクーケン島にあったものと同じだと思う。 違うのは生物学的な要素がある事で……」

 

「ええと、それで直りそうライザ」

 

「大丈夫。 昨日のうちに集めたセプトリエン、あらかた使う事になりそうだけれど、それで千年くらいは動力は動くはずだよ」

 

それだけあれば充分だ。

 

ともかく、引き上げる。クリフォードさんは、ブーメランを大事そうに触っていた。この後、手入れするのだろう。

 

一応謝っておく。

 

「地面に刺したりロープ括ったり、すみません。 傷んでないですか」

 

「いつも魔物相手にこいつは大立ち回りしてるんだ。 問題ないぜ」

 

「そうですか……良かった」

 

「むしろ、いつも殺すしかできないこいつが喜んでるよ。 殺すしか出来ない自分が、誰かを助けられたってな」

 

クリフォードさんの固有魔術は、ブーメランの操作そのものだ。

 

だったら、ブーメランの声が聞こえても不思議ではないのだろう。

 

ともかく、遺跡を出る。

 

あと少し動力が持ってくれれば良い。

 

あたしは、鼓動を続けている動力に、直してあげるからねと心の中で呟いて。そして、遺跡を出ていた。

 

 

 

アトリエに到着したのは夕方。

 

とにかく、アクロバティックな調査をして少し疲れた。ボオスが、黙り込んでいる皆を見て、ある程度察したのだろう。

 

呆れ果てた口調で言う。

 

「聞いているだけで心配になる無茶苦茶を本気でやったらしいな。 命が幾つあっても足りないだろ」

 

「それは同感だね。 ライザはちょっとパワフルすぎるよ」

 

「同意する。 俺から見ても、ちょっと力強すぎるな」

 

「まあ最近は、そう言われてもあんまり頭に来なくなってきた」

 

まあ、女扱いされないと不愉快になるのは事実だけれども。

 

ただ、あたしにはどうも性欲が致命的に欠けているらしいと最近自覚してきている。だから、それも良いのかも知れない。

 

そういえば、三年前も。

 

あたしと同年代の女性には、男を作ることに命を賭けているような子がたくさんいて。その気持ちをはっきり言って理解出来なかったっけ。

 

今は、それもまた多様性だと思っていた。

 

あたしは他人に押しつけないし。あたしに押しつけてこなければ、それでいい。それだけのことだ。

 

ただ、もしも人間がこのままではダメだと言う場合。

 

あたしは、改革を図るかも知れない。

 

その時は、押しつけも仕方がないかなと思う。

 

これほど悲惨な事になっている世界。更には隣の世界まで陵辱し尽くした人間だ。

 

もしも何かしらの変革の時が来たとしたら。

 

文句を言う資格はないだろう。少なくとも、この世界の人間に。

 

そこまで考えて、あたしはもう自分を人間とカウントしていないのかもしれないと思って。

 

そして、苦笑していた。

 

苦笑しか出なかった。

 

「それでだ。 遺跡の動力を復活させるんだな」

 

「うん。 それで、橋の修復もこれまでより簡単になると思う」

 

「動力の調合は大丈夫?」

 

「問題ない。 セプトリエンは量があるし、なによりこのセプトリエンはまだ出来損ないで、それだけ調査はしてる。 動力用に調整するくらいは、もう問題ないよ」

 

魔石の王とも言える虹色の鉱石。

 

恐らく、長い時間を掛けてじっくり作られていく究極の魔力結晶。

 

まだ出来損ないだろうそれは、文字通り無限の可能性を持つ。

 

これが此方の世界にたくさんあったら。

 

いや、それでも古代クリント王国の人間は、更に欲望をぎらつかせて好きかってやっただろう。

 

人間は残念ながらそういう生き物だ。

 

「問題はその先だね。 まだ遺跡の心臓部分には近づけてもいないんだよね……」

 

「そうなるね。 でも、少なくとも出入りでの問題はこれでなくなると思う」

 

クラウディアは本音は兎も角、きちんと不安を口にしてくれる。

 

それでいい。

 

イエスマンなんていらないのだ。

 

お気持ちで回すようになると、組織は終わる。

 

あたしが今みんなを引っ張っているけれども。それもお気持ちでイエスマンを並べるようになったら。

 

こんなに柔軟性に富んで、意見を出し合える場所では無くなり。

 

恐らく、此処まで来る事だって出来なかっただろう。

 

「ともかく、進捗についてはアンペルさんとリラさんには伝えておく。 後は、遺跡の奧に何があるか……だな」

 

「……」

 

皆が黙り込む。

 

入るだけでこれだけ大変な遺跡だったのだ。

 

どれだけ危険な仕掛けや、強力なガーディアンがいてもおかしくはない。人はもういないだろう。

 

だが、其処は未知の世界なのである。

 

解散する。

 

そしてあたしは、セプトリエンを惜しみなく釜に投じる。エーテルに溶かして行き、要素を分解する。

 

エーテル内で調整する事で、セプトリエンを解析する。

 

魔力が充填しすぎて、本来だったら爆発する所を、どうしてかそうせずにいられている不可思議な物質。

 

あたしは世界の真理に近付こうとしているのだろうか。

 

それとも、そのつもりになっているだけなのだろうか。

 

そういえば。

 

タオが持って来た本に書いてあったことがあった。

 

古代クリント王国が潰れるまで。神代から、まだ人間の時代だった頃。

 

今とは比べものにならない程宗教がたくさん存在していて。

 

たくさんの人が、自分の正義を担保してくれるそれらに傾倒していたそうだ。

 

まあ便利なものなのだから当然だろう。

 

多くの人間は思考停止してそのまま全てを他者にゆだねるのが楽だし。

 

何よりも、それが正義を担保して。他者への暴力を肯定してくれるというのであれば、なおさらだ。

 

ただ、宗教には思想哲学的な側面も存在していた。

 

それもまた、事実だった。

 

殆どの場合は、他人を煙に巻くだけの、ありもしない理屈をこね回すだけの代物だったようだが。

 

中には面白いものもあったらしい。

 

その一つ。

 

真理に近付いたと思った時。

 

人は、真理になど近付いて等いない。

 

その状態が、魔道に落ちる一番危ない時だとか。

 

なるほど、確かに一利あるのかも知れない。

 

ただ、それはあくまで思考をこねくり回した上で、現実と接してこなかった人間の場合なのだろう。

 

あたしは世界を回って、色々見て来た上で結論を出している。

 

それでも心しなければならないか。

 

其処にあるのは、魔道なのかもしれないと。

 

無言で調合を続ける。

 

フィーは恐らく、セプトリエンの放出する魔力がとても心地よいのだろう。

 

だけれども、恐らくフィーはエサの問題ではなく、何かしらの別の問題で苦労しているとみて良い。

 

それについても、分析を進めないと。

 

途中、軽く休憩を入れて。そして、セプトリエンを更に圧縮していく。

 

圧縮するだけなら簡単だ。

 

魔力を極限まで圧縮していながら、簡単に物理的には圧縮し、調整する事が出来る。文字通り、夢の物質である。

 

ただしそれも純度が低いし。

 

もっと純度が高いものを自然で見つけるつもりなら。

 

とんでもない魔力が満ちた土地。

 

例えば竜脈の上とか。

 

ドラゴンの、それもエンシェント級の体内とかで探しだし。

 

それでも、多くは採れないだろう。

 

あの生物部品で作られた動力炉が、どういう仕組みなのかは概ねは分かっている。

 

あれに更にエサを与える事で遺跡は戻る。

 

そのエサとして。

 

セプトリエンを主軸とした動力が、必要になってくるのだ。

 

勿論一度に全部の魔力が動力炉に流れないように、工夫もしておかなければならないだろうが。

 

調合を続けて行く。

 

三年前も似たようなものを作ったが。

 

今回の方が、やはり手慣れてきている。

 

だからといって、危険なものを扱っている事に代わりは無い。

 

無言で調合を続けて行く。

 

とにかく圧縮を続けて行き。

 

そして、インゴットを投入。

 

ゴルドテリオンを伸ばして、それで覆っておく。

 

ゴルドテリオンもかなり強力な金属で、魔力との親和性も抜群だ。これによって、一気に魔力が漏出するのを防ぐ。

 

形状は球が近いが、表面は複雑に絡み合うように仕上げる。

 

理論上あり得ない図形にメビウスの輪というものが存在しているらしいが。

 

それを摸した形にしていく。

 

そうすることで、魔力の漏出を避ける為だ。

 

調整がかなり難しい。

 

何度も額の汗を拭いながら、調整を続けて。

 

やがて、夜半前に仕上がっていた。

 

嘆息。

 

かなり遅くなったが、夜食を口にする。フィーはうつらうつらしていたので、そのまま寝かせる。

 

あたしは、風呂は明日の朝一に行ってこようと判断。

 

流石にこの時間に、眠りかけているフィーをつれて風呂に行くのはちょっとあまりやりたくはない。

 

伸びをして、体を拭くだけ拭いてから眠る事にする。

 

ようやく、攻略の糸口が見えてきた。

 

後は、遺跡の深部がどうなっているのか全く解らない事だが。

 

それについては、恐怖はあまり感じない。

 

今、あたしの周囲にいるのは、恐らくこの世界で用意できる最高のスペシャリストの集団だ。

 

数百万程度しか人間がいないこの世界で。

 

これ以上のスペシャリストはそうそう揃える事が出来ないだろう。

 

調合で精神を使い果たしたこともある。

 

ベッドに横になると、あとはすとんと落ちていた。

 

夢は見なかった。

 

夢を見る余裕もなかったのが、正しいのかも知れない。

 

 

 

ぐっすりと眠って、翌朝一番に風呂に行ってくる。畑を見に行くと、カサンドラさんがびっくりしているのが遠目にも分かった。

 

セリさんが、なんだか凄い事をしている。

 

植物はもの凄い速度で成長して、畑の栄養を足したり調整したりして。それで研究を進めているようだ。

 

オーリムの浄化に必要としているのだろう。

 

あの植物は、切り札になるのだろうか。

 

ただ、フィルフサを駆逐した後。

 

あの植物そのものが、新しい侵略性外来生物になってしまっては意味がない。

 

プロフェッショナルであるセリさんが、そんな事も分かっていないとは思えないから、大丈夫だとは思うが。

 

一度、それとなしに聞いておくべきかもしれない。

 

余っている薬や爆弾を、カフェにささっと納品しにいき。

 

街道近くで、魔物が出ていないかも確認。

 

出ているようなら、始末しようと思ったのだが、今の時点では問題がない様子だ。

 

カフェのマスターは、いつもの若い女性ではなくて、強面の男性がいた。ほとんど一日いつでも経営しているようだし、ずっと同じマスターがいるわけにもいかないのだろう。ただ、その人を見るのは初めてでは無いし。

 

あたしが別に困るような対応もしてこない。

 

淡々と物資を納入して、それで終わりだ。

 

後は、アトリエに戻る。

 

アトリエの前で、パティとクラウディアが話をしていた。あたしがおはようと言うと、二人とも挨拶を返してくる。

 

そのまま、アトリエに入って、それで軽く朝食にする。

 

既に、作りあげた新しい動力は、荷車に積み込んであるので。忘れる恐れもない。

 

「ええと、それが例の動力ですね」

 

「うん。 これで千年は遺跡が動くはず。 問題は経年劣化で壊れている部分も多い事だけれど」

 

「それは、私達が修理すればいいんだよね」

 

「そうなるね」

 

入口の仕掛けは、奥の方にもあってもおかしくない。

 

更に言うと、橋を降って降りた下の方。

 

其処の方は、昨日気球を使って灯りを飛ばして見たが。多分ワームの巣窟だ。

 

相当数のワームがいるから、それを駆逐する所から始めないといけないだろう。それも、決して弱い個体ばかりでは無い筈だ。

 

クリフォードさんが、珍しくかなり早く来る。

 

おいおい皆が揃っていくが。

 

セリさんが最後だ。

 

セリさんは、土の臭いがした。

 

多分浄化植物の研究が、佳境に入っているのだろう。

 

「それではミーティングを……」

 

「ライザ、先に良いかしら」

 

「おっと、セリさん。 珍しいな」

 

「ええ。 ちょっと重要な事でね」

 

セリさんは言う。

 

毒物を作って欲しいと。出来るだけ強烈で、土に残り続けるような奴が欲しいそうだ。

 

なるほど。

 

浄化能力を確認するなら、毒で試すのが一番と言う訳だ。

 

あたしは少し考えてから、幾つか提案する。

 

「生物毒ではない方がいいですか?」

 

「そうね。 フィルフサの毒は、生物の物とは少し傾向が違う」

 

フィルフサは、土壌を汚染するが。

 

それは、どうもフィルフサそのものを産み出す土地に、造り替えているようだった。

 

これはオーリムで直に見てきた事だ。

 

フィルフサが水に弱い理屈はよく分からないが。

 

フィルフサを産み出すために改良された土地は、何しろその時点でフィルフサの母胎そのものと化す。

 

結果植物は殆ど生えなくなり、水害には極めて弱くなる。

 

フィルフサそのものが水に弱いのも確認しているが、恐らくフィルフサの繁殖に水が邪魔なのも、それが理由なのだろう。

 

だとすると。

 

いっそ、病気の類がいいか。

 

植物をダメにする病気は、あたしも幾つか知っている。

 

多分。畑を探してくれば、そういうのにやられている作物を確認できるはず。それも、集めてくれば良いだろう。

 

「分かりました。 それについては、少し時間が掛かりますが、準備します」

 

「頼むわ」

 

「じゃあ、遺跡攻略の作戦会議開始だな」

 

「作戦といっても、動力を復活させた後は、野になれ山になれじゃないんですか?」

 

パティがずばりというが。

 

その通りである。

 

タオが地図を見せてくれる。幾つかの不自然な架かり方をしている橋が、動くかも知れないと言う。

 

「元々これらの橋に共通して、浮遊という未知の技術が使われているんだ。 動力が復活したら、全てが動く可能性もあるよ」

 

「俺たちが直した橋がその影響で壊れたりはしないか」

 

「可能性はある。 だから気を付けないとね」

 

動力炉を復活させたら、すぐに橋から離れて欲しい。

 

そうタオに言われたので、頷く。

 

そうなると、命綱必須か。

 

まあ、どうにかしてみせる。

 

フィーは少し元気がないか。

 

フィルフサがいつ来てもおかしくない、という事もあるが。

 

フィーにとって空気が何かしらの問題になっているのだとすれば。やはり出来るだけ急いで、オーリムの産物を手に入れるか、もしくはオーリムに行く必要がある。

 

クーケン島に戻れば、そのままグリムドルに行く事が出来るから、それでいいのだが。

 

今はそうもいかない。

 

今回も、光を放つ気球は準備しておく。

 

更に、幾つか橋についての注意事項をまとめたものを、タオが読み上げてくれた。

 

建築用接着剤も補充しておく。

 

何があるか分からないし。

 

本当にそれだけの事が起きてもおかしくない、未知のテクノロジーが使われている遺跡だからだ。

 

ミーティング終わり。

 

後は遺跡に向かう。

 

遺跡に向かう途中、傭兵に守られた商隊を見つける。手を振ると、向こうも返してきた。

 

知っている顔だったか。

 

恐らくは、クラウディアの知り合いだったのだろう。

 

そのまま街道を急ぐ。

 

ともかく、「北の里」の攻略は此処からだ。

 

今までも順調とはとても言えなかったが。

 

ここから先は。文字通り何が起きるか分からないし。気合を相応に入れなければならなかった。

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