暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
先に確認する。
側溝に放り込む汚物は、基本的に一度あたしが焼却処理をする。その後崩して、放り込んでいく。
側溝の出口。下水に入る箇所は、何やら複雑な機構が動いているが。
基本的な仕組みは、見て理解出来た。
人が入れないように格子をつけて。
さらにその奧で、刃物が回転して、汚物を細かくしている。
つまり大きな汚物はそのまま流せない、という事を意味している。
要するに、細かくしないといけないのだ。
ただ、下水の入口付近は他にもいろいろ仕組みがある様子で。人が近付くと、止まるようにもなっている。
これは安全を考慮しての事なのだろう。
とにかく、技術レベルが違い過ぎる。
それは一目で分かるほどだ。
ともかく、一日空けて。そして朝に遺跡に到着して、側溝に水が流れているのも確認できた。
此処からは、作業の質を変えていく。
勿論荷車は活躍する。
あたしはずっと熱魔術で汚物の処理だな。後はシャベルで汚物を細かくする作業もしなければならない。
皆で手分けする。
シャベルも二つ増やしてきた。
ただ、一つは予備だ。
クラウディアは今日も音魔術による支援である。それと、クラウディアはちょっと高い所に避難して貰う。
これはどういうことかというと、今日はあたしが熱魔術で、汚物をどんどん焼いていくからである。
遺跡が呼吸するだろうが、それでも換気が追いつかない可能性がある。
その時の為に、いざという時に備えて、全員が一度に倒れるのは避ける。
代わりに、蝙蝠の数も減ったと判断。
クラウディアには自衛して貰い。
セリさんにも、汚物処理の仕事はして貰う。セリさんは、それを聞いて嫌そうな顔はしなかった。
元々植物のエキスパートだ。
堆肥の扱いには慣れているだけなのかも知れない。
「よし、じゃあみんな行くよ!」
「おう!」
「さっさとおわらせんぞ!」
「本当です!」
クリフォードさんとはちょっと相性が悪いような言動をするパティも、今日は最初から気合がかなり入っている様子だ。
どんどんあたしが汚物を熱魔術で処理して、処理が終わった端から、シャベルで側溝に流れる水に汚物を流し込んでいく。
ワームの死体は、特に念入りに焼き砕く。
ワームの中に骨に相当する部分はないから、焼いて砕くだけで充分だが。それでもしっかり火を通す必要はある。
大きめのワームの死体は既にあらかた片付けてあるのが幸いした。
どんどん、側溝に流し込んでいく。
タオが様子を見に行って、そして丸を指で作った。
「大丈夫、汚水処理は機能してる! このくらいでは、エラーは全く出ない!」
「よし、どんどん捨てるぞ!」
「捨てます!」
パティがヤケクソ気味に叫ぶ。
セリさんは植物の魔術で、大量の汚物をかき集めてくれる。こっちとしても、焼き払う作業が楽になっていい。
何度も遺跡が呼吸する。
今まで貯まりに貯まっていた汚物を、まとめて処分していることに遺跡が気付いたのだろうか。
だとすると、人間なんぞより賢いんだろうな。
そうあたしは思う。
それ、やるぞ。
一気に流すぞ。
そう呟きながら、どんどん汚物を処理。
良いペースだ。
そのまま大量に流し込んでいき、どんどん処分だ処分。側溝の綺麗な水が、途中から汚れていくのはちょっと悲しいが。
それはそれである。
とにかく流して流して流していく。
焼いた汚物は細かくしないと、側溝を一度とめて、汚物まみれの格子とかシステムそのものを掃除しなければならなくなる可能性がある。
そうあたしはさきに釘を刺しておいたので。
みんな目の色を変えて、汚物を目の敵のように叩いて潰して。それで側溝に流し込んでいた。
嫌な作業だ。
だが、これをしっかり終わらせないと、先に進めないのである。
とにかく徹底的に汚物を処理していく。
単に汚いだけじゃない。
病気になる可能性もある、危険な作業だ。
だからみんなには、対破傷風のための薬だって飲んで貰った。一応他にも、汚物がらみの病気対策の薬は作って、先に飲んで貰っている。
額の汗を拭いたいが、処理は頭巾に任せる。
頭巾はしっかり汗を吸うようにしてある。
手袋も取り替えたいくらいだが。
それは、諦めるしかない。
無言での作業を続けるが。遺跡最下部に山のように積み上がっていた汚物が、どんどん処理されていく。
それだけで、大変に有り難い。明らかに処理のペースが上がっているのだ。それを見て、皆の手も早くなる。
とにかく処理を続けて行き。
昼が来たので、一度作業を切り上げる。遺跡は何度も呼吸しているが。
そういえば、外に酷い臭いは来ていない。理由は、ちょっとわからなかった。
食事の時、皆無言になる。
あまり喋りたくは無いのは分かる。
だけれども、此処をどうにかしないと、そもそも先に進めない。封印の場所をしっかり確認しないと、世界が下手をすると滅ぶ。
だから、やるしかない。
そう自分に言い聞かせて、とにかく動く。
ひたすらに動く。
食事を終えると、汚物の処理を急ぐ。遺跡が呼吸するが。心なしか、最初の頃よりも頻度が増えている。
その代わり、風が弱くなった。
或いは、それだけ致命的な空気の汚染ではなくなってきている可能性もある。
あたしは、効果は少しでも出ているし。
進捗も進んでいると自分に言い聞かせて。
そのまま、作業を皆と一緒に続ける。
タオが時々コントロールパネルを見に行き、エラーが出ていないことを確認する。もっと人数を増やしたいが。
数多の目は、アンペルさんとリラさんで打ち止めだと言っていた。
つまりこれ以上は連れてこられない。
アンペルさんとリラさんは、「星の都」の遺跡で調査の最中だ。
そう考えると、この先も協力は望めないだろう。
ボオスに手伝って貰う事も一瞬考えたが。
残念だが、「数多の目」が此処には通してくれない。
それが全てだ。
夕方近くに、一度作業を切り上げる。油紙を焼却処理。手袋、頭巾、汚れ対策の服、全部受け取っておく。
これらは全ていつものように錬金釜で処理。
後は皆の靴も、だ。
とにかく、髪の毛を自由に出来るので、クラウディアとパティはそれだけでも随分と楽そうである。
「なんだか尊厳が何もかもなくなっていく気がします……」
「でも、こういうのが誰かがやっている作業なんだよ。 それを賤業と呼ぶのは、はっきりいって傲慢だね。 生理的な嫌悪感で、必要な事をやっている人間を冒涜するのは、人間の宿痾だよ」
「はい。 それについては……ライザさんみたいな時代を代表する豪傑が率先してやっているのを見ると、何も反論できません」
「まあ、あたしもちょっと辛いのは事実だけどね。 靴も、水で洗っておいて」
雑談でもしないとやってられない。
戦闘でたくさん魔物の命を奪ってきている荒肝の持ち主達ですら、みんな疲弊しきった顔をしているのである。
ともかく、戻る。
「数多の目」は、かなりおしゃべりになって来ていて。タオと何かすごく色々と喋っている。
そして時々笑っている。
これは、タオと完全に友達になったのかも知れない。
魔物も、砂漠では殆ど仕掛けてこなくなった。
というのも、帰路ではみんな殺気立っている事もある。
砂漠にいた大きな魔物はあらかた片付けてしまったし。何よりも仕掛けたらまずいという生物的な本能を感じているのだろう。
ワイバーン達が、あたし達にはかまう様子がないことも、魔物を警戒させているのだと思う。
ワイバーン達は、遺跡の主だったエンシェントドラゴンの子供達だ。
あまりあたしも、無体なことはしたくはなかった。
今の時点では、人間を無為に襲っても来ないのだし。
街道を通って、アトリエに。
まずはみんなの靴を先に錬金釜で綺麗にする。靴を綺麗にしていると、ボオスが来た。皆の目が死んでいる様子を見て、口の端を引きつらせる。
いつものように嬉しそうにフィーが飛んでいって頭の上を占拠するが。
ボイスも、それに何も言わなかった。
「と、とにかくお疲れさん。 進捗は」
「本丸はもう崩したよ。 後はもう一つある側溝と、壁際にたくさんある住居。 それに埋もれている幾つかの場所を調査すれば、きっと先に進む手がかりが見つかると思うね」
「そうか。 その、大丈夫か?」
「大丈夫。 というか、この遺跡の調査のおかげで、今後どんな酷い遺跡に足を運んでも平気になると思う」
タオがそんな事を言うので。
ボオスが絶句して、それ以降は何も言わなかった。
後はミーティングを済ませた後、パティが挙手。皆をアーベルハイムの風呂に案内してくれた。
風呂に浸かって、疲れを癒やす。
交代で風呂に入って、それで随分と生き返った気分になる。
公衆浴場はどうしても知らない人がたくさんいるし、治安も万全とはいえないので。こういうところは有り難いのだ。
風呂から上がって、パティはすぐに宿題を始める。タオも、その宿題を見る事にしたようだ。
二人の仲睦まじい様子を見て、仕事から戻って来たらしいヴォルカーさんも嬉しそうである。
勿論口には出さないが。
「ライザくん。 我が屋敷の風呂はどうかね」
「いやはや、広くて素晴らしいですね。 みんながこんなのを使えるようになったら、生活水準が劇的に向上すると思いますね」
「そうだろうな。 この屋敷も、実の所は以前どういう用途で使われていたのかがよく分かっておらんのだ。 他の貴族の屋敷も概ねそうでな」
そうだろうな。
そもそも、他の貴族の屋敷もだいたいそうだろうと見当はつくのだが。これらの屋敷は、本来では「屋敷」ではなかった可能性が高い。
アスラアムバートは古代クリント王国にとっては別に重要でもなんでもなかった都市で、ただフィルフサとの戦い。その後で錬金術師がいなくなり、古代クリント王国が破綻した数々の戦い。更には大攻勢を開始した魔物との戦闘に、どうにか生き残っただけの都市に過ぎない。
古代クリント王国の前から都市は存在していたようだが。羅針盤で見た様々な情報から判断するに、古代クリント王国は恐らく支配下に置いた土地の資産を全て奪い尽くした事も確定であり。
そういったことからも、屋敷だの王宮だのが残っていたとは思えないのだ。貴族にしても、古代クリント王国の王都にいたのだろうが。そこでもっと無意味に巨大な屋敷に住んでいたのだろう。
だとすると、此処はただの宿泊施設だったのを、貴族の屋敷に変えただけ。
その可能性は、否定出来ないし。
確率としては、極めて高い。
無駄に多い風呂などが、それを裏付けている。
「パティは役に立っているかね」
「はい。 率先して何でもやります。 本当に立派ですね」
「ああ。 貴族の他の子弟とは明らかに浮くほどにな。 だからこそ、私には過ぎた娘だ。 一番大事なときに、かまってやれなかったことも多かったのに」
立ち話もなんだ。
後は、仕事の話を幾つかして、アーベルハイム邸を後にする。
アトリエに戻ると、調合して、足りない物資を増やしておく。そうすると、タオが訪ねてきた。
「タオ、どうしたの」
「うん。 実はちょっと気になる事があってね。 今の遺跡で、もしも都市計画についての資料があったら、僕に譲ってくれないかな」
「図書館に入れるんじゃないの?」
「いや、図書館には入れられないんだ。 下手をすると燃やされる」
そういえば、そんな事を言っていたな。
勿論あたしに断るつもりはない。
むしろ、わざわざいいに来た筋を通すやり方に、感心するばかりだ。
「勿論良いよ」
「ありがとう。 ……これで論文を仕上げられるだろうね」
「そう……」
論文、か。
タオをパティの夫に、という話については黙っておく。
タオはああいう奴だし。
タオは背も伸びたし、パティの話によるとかなり好意を持っている女性は多いようである。
ただ肝心のタオにその気が全く無い。
恐らくだが、パティにも女としての興味なんて持ってないだろう。今の時点では、だが。
逆に、今のうちに外堀を埋めておけば。
或いは利害を提示することで、パティとの結婚を、タオも普通に了承するかも知れない。
その辺りは、色々と面倒な話だった。
タオが帰った後、色々と思う。
あたしもそうだが。
ある程度才能が偏った人間は、恐らく欲求というものがおかしくなる。
あたしやタオの場合は特に性的な欲求が極端に少なくなっているし。あまりこう言う話は口にしないが、恐らくはレントもそうだ。
クリフォードさんは女たらしのようなイメージが外見からはわき上がりそうだが。話していて全くそういう感じはない。
セリさんはそもそもオーレン族である。人間とは繁殖のサイクルも違うし、前にリラさんに聞いたところによると人間に比べて性欲も極端に少ないようだ。
あたし達の中で欲求がまともなのは、秀才タイプのボオスやパティだという事を考えると。
世の中は、色々不可思議だと思う。
まあいいか。
ともかく、もう少しで遺跡の最深部にたどり着ける。
その時には、ガーディアンが出るかも知れないが。あたしはその可能性は低いのではないかと考えている。
そうでなくとも、充分すぎる位大変な遺跡だったのだ。
後は、汚物の中からどれだけ無事な資料を回収出来るか、だろうか。
タオが喜ぶような資料が出てくれば良いのだけれども。
遺跡を空っぽにして去った人々がどうなったかは分からない。
そういう人達が、そういう資料を残していたのだとすれば。
きっと、今汚物を処理している空間ではないだろうな。
そうあたしは思った。
調合終わり。
後は薬と爆弾の在庫をチェックして寝る。爆弾は相応の量がもう揃ってきている。これで、フィルフサとある程度戦える。
水を味方にしないと、まともに勝負は出来ないから、それは先に色々と考えておかなければならない。
だからこそに、敵の居場所をしっかり確かめる必要があるのだ。
作業を終えた後は眠る。
あと少しだ。
疲れは出来るだけ取っておかなければならない。
明日も、魔力をありったけ絞り出すことになるのは、確定なのだから。
フィーはむしろ、「北の里」に通い始めてから生き生きしている。今日も、辛そうな様子は見せなかった。
作業のペースが明らかに上がった。どんどん側溝に汚物を流していく。やがて、彼方此方に山になっていた汚物が綺麗に片付いていき。セリさんが植物操作で、残りをまとめ始めていた。
もう一つの側溝も、掘り始める。
此方も何かあるかも知れないからだ。
それが出来るだけ、余裕が出来てきたという事である。これは今日一日で、大まかな処理は終わる。
そう判断できるほどに、進捗はいい。
とにかく無心に汚物を焼いて。
遺跡が呼吸して、空気を入れ換えるのに任せる。
そのまま、どんどん処理を進める。
レント一人で、もう一つの側溝は処理を終えた。流石のパワーだ。タオが側溝を動かして、そっちも水が流れ。汚水の処理が始まる。
更に、タオが主導で壁際にある住居や、他の構造物の掘り出しも始める。
その間も、あたしは兎に角汚物を焼き。
側溝に砕いて放り込んでいった。
やがて、タオが手を振る。
決定的な何かを見つけたらしい。
それは、汚物に完全に埋もれてしまっていたが。どうやらドラゴンの顔らしい構造物である。
これは恐らく神聖なものだっただろうに。
これを放棄して、しかもワームや蝙蝠の汚物で好き放題になる事を想定していたと言う事は。
この遺跡。
或いは実情は、相当に生臭かったのだろう。
それは何となく分かってきたので。
あたしは何も言わなかった。
「後は細かい所をやれば終わりかな……」
「あと一日でそれは終わるね。 大まかな部分は、ほぼ終わったよ」
「そっか。 じゃあ僕からも、水を安定供給できるようにするよ」
タオがコントロールパネルを操作して、噴水が動き出した。
この辺りには、本来はもっとたくさん家とかがあって。噴水があった辺りは、憩いの場になっていたそうである。
それだけは、今までに見つかった数少ない資料からタオは分かっていたそうだ。
ただその噴水も汚物に埋もれていたので、しばらくは水を掛け流しにしなければならないのだが。
「この水って、結局出所はどこなんでしょう」
「タオ、分かりそう?」
「うーん、なんとも。 ただ、砂漠の中でこの量の水だよ。 地下水を吸い上げているのか、それとも何処かの川から、水を取り入れているのか。 いずれにしても、水をこのまま掛け流しには出来ないだろうね」
「この遺跡はもう死んでいるからね。 もしも新しく誰かが住み着いて、人の拠点にするというのなら話は別だろうけれど。 此処は……どちらかというと、此処を作ったエンシェントドラゴンのお墓のような気がする」
つまり、無闇に踏み荒らして良い場所では無い。
そういうことだ。
後は、細かい部分の掃除について、軽く打ち合わせをしておく。
ワームはもういない。
それは確認が取れている。
レントがタオと連携しながら、家屋の中に詰まっている汚物を掘り出し始めた。汚物が詰まってしまっているような家屋跡は、先に処分をしておくと言う事だ。それらをあたしが焼き尽くして。
セリさんが、側溝に流してしまう。
エンシェントドラゴンの像や骨は見つからない。
これは、恐らくだけれども。
三つある区画の、最後にあるのではないのだろうか。
そう思う。
だとすると、この遺跡の確信は。
ドラゴンの顔の像を見る。
恐らくは、あの奧だ。
汚物に埋もれさせたあの像。
きっと、ろくでもない事が、色々あったのだろう。
今日の作業は切り上げる。
アトリエに戻った後、ミーティングで進捗を確認。ボオスはもう、黙って議事録を採っていた。
「なるほどな。 掃除はもうだいたい終わったと」
「僕は明日、最後の区画に入るための調査を貼りつきでやってみる。 もしも駄目そうなら、ライザ。 羅針盤よろしく頼むよ」
「分かった。 そろそろ、普通に歩いても大丈夫なくらい、安全は確保できたと見て良さそうだしね」
「後はいつものフラフラするライザを護衛しないといけないわけだ。 ちょっと今回は骨が折れそうだな」
今回の遺跡は。
文字通り空中に橋が縦横無尽である。
其処を歩いて調べて回るとすると、確かに危険性が大きい。
出来れば最後にまとめて調査はしたいのだけれども、まあそうもいかないだろう。ともかく、後数日で目処は立てたい。
咳払いする。
「みんな、いよいよ大詰めだよ。 この近くに、フィルフサが出てくる可能性が高い門があって、それが不安定に封じられてる。 今まで彼方此方の遺跡で調べてきたのも、その具体的な位置を調べるため。 フィルフサは魔術が通じない強力な存在で、弱点は水くらいしかない。 初期消火に失敗したら、王都どころか、もう人間にフィルフサを駆逐する力はない」
皆、背筋を伸ばす。
封印がいつ破られてもおかしくないこと。
場所が分からないと対策のしようが無いこと。
恐らくはないだろうが、最悪の可能性として王都の地下に門がある事すら想定しなければならないこと。。
王都の地下は可能性が低いが、しかしながら確定で王都至近に門がある事。
それは、皆知っておかなければならないのだ。
酷い作業を数日続けて、みんなふにゃふにゃになっている。だから、此処で引き締めておかないといけない。
「三年前の戦闘で、フィルフサとの戦闘経験はつんだ。 あたしはその後も、定期的にグリムドルに出かけて、オーレン族の人達と、復興作業と一緒にフィルフサの駆除をしてきた。 分かったのは、フィルフサはやっぱり油断出来る相手では無いって事。 門の状態次第では、それこそ命を賭ける必要だって出てくる」
「……」
「門の場所が確定したら、アーベルハイム伯爵に最悪の事態の避難マニュアルについて話をするつもりだよ。 皆も、最悪の時に備えておいて」
「分かった。 その時は、腕がなると言う奴だな」
以前の戦闘では。大雨で弱体化したフィルフサを相手にして、それでも大苦戦した。
鉄砲水などの手段まで用いて、戦闘よりも水害でフィルフサを葬ったほどだ。
水で弱体化していても、王種「蝕みの女王」は強かった。間違った強さであり、明らかに悪意を持っていて。絶対に相容れない滅ぼさなければならない相手ではあったが。それでも戦闘力は侮れなかった。
今度フィルフサと戦うとして。門があるなら、その向こうにいる王種くらいは少なくとも仕留めないといけない。
ともかく、今のうちに準備はしないといけないのだ。
まずは、皆の覚悟を決めて貰う。
数日以内に、封印の場所がどこにあるか、判明する可能性が高いのだから。
あたしも、リーダーシップを取っているのだから。
そういう事をしなければならないと、しっかり認識はしていた。
皆が引き締まったのを感じる。
汚物との戦いは、本当に精神を削ってきた。それで、みんな色々と参っていたのは分かる。
だからこうして、言葉でも引き締める。
勿論、それだけではただの精神論になる。
「北の里」の調査を終えて、もしそれで完璧に封印を解析できて。門の位置が特定出来。更には封印の状態が、一日で壊れるものではないと判断できたなら。
休憩を一度入れて。
それで、リフレッシュも必要だ。
そうあたしは判断していたし。
皆にも告げた。
「何かあたしが解決できる問題があったらいっておいて。 封印の先には確定でフィルフサがいる。 奴らと戦う前に、直近で出来る事は全てやっておきたいから」
「今の時点では、俺は大丈夫だ」
レントは吹っ切れている。
そうだな。
どうしてもザムエルさんと同じ道を辿ってしまったレントは、それで相当参ってしまっていたが。
それでも、怖がられても平気だと思えるようになった。
勿論、今後ずっと同じように怖がられ続けたら、ザムエルさんと同じ道を辿ってしまうかも知れないが。
今は少なくとも、なんとでも出来る。
他の皆を見回す。
「私は問題なし。 今の研究が終われば、オーリムに戻れる。 少しずつ、確実に復興が出来る」
セリさんはそういう。
あたしが提供した毒は、かなり効果的なようである。
パティは、ちょっと俯いた。
あたしが調合した、勇気を出す薬の件は、此処では言いづらいのかも知れない。
「俺も問題はねえ。 今俺は、人生で一番充実してる。 こんなデカイ山に噛めて、ロマンの極限に来ているからな」
「僕もそれは同じかな。 僕もずっと迷っていたんだけれども、今回の一件で建築も調査してみたいって思って来たんだ。 遺跡の調査は僕のライフワークになると思うのだけれども、建築もやっぱり捨てがたいからね」
クリフォードさんもタオも大丈夫そうか。
クラウディアは。
あたしと一緒にいられるだけで平気。そう顔に書いている。そうか。そう考えてくれるなら、あたしもそれはそれで嬉しい。
ボオスだって問題はなさそうだ。王都に来て、学べるものと作れるコネは作った。それだけで十分という顔をしている。
皆、大丈夫と言う事だ。
問題はフィーだが、「北の里」で調子が回復している様子が確認できている。
だとすると、ドラゴンが関係しているのか。オーリムよりも。ちょっとそれは分からないが。
いずれにしても、皆の心に。
ノイズはないとあたしは判断した。
あたしの心も、確実に鈍磨から抜け始めている。ずっとスランプだったのが嘘のように、今は頭が回っている。
これも、皆と一緒に、切磋琢磨できる時間が来たから。
なのかもしれなかった。
「よし、汚い作業はもう明日には終わらせる。 その後は、一気に敵の本丸に近付くよ!」
あたしは立ち上がって、皆に激励を飛ばす。
後は、パティの提案で、またアーベルハイムの風呂を使わせて貰って。
それで、リフレッシュ。
明日のための決意と覚悟を、また新たにしたのだった。
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