暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
※なお、原作とはかなり扱いが異なりますので、それは注意してください。
これは元々ライザは農家で畜産経験がある、という事から変えています。
遺跡から、一度引き上げる。
メモ帳。それに貝みたいに開閉する丸い変な道具。
後は魔石がたんまり。
得られたのはそのくらいだ。
荷車を引いて引き上げるが。
途中、パティが隠れている柱の前を通ったとき、ちょっと苦笑いしかけた。ハイドの技術があまり上手くないな。
この辺りは、実戦経験が浅い故の弊害なのだろう。
一度アトリエに戻る。
そして、ボオスも交えて軽く話をした。
「遺跡の構造は完全にメモしてきたよ。 あの遺跡の存在は分かってはいたのだけれども、何処の本にも地図とかはなかったからね。 多分これを本にまとめたら、貴重な資料になると思う」
「あー、そうか。 それは凄いな」
気が抜けているボオス。
というか、疲れているようだ。
あたしは、今朝作っておいた薬を出す。
「ほら、ボオス」
「なんだよコレ」
「栄養剤」
「分かった。 いただいておく」
昔に比べれば、味とかも調整はしてある。
パティはあたしがアトリエに戻ったのを確認したからだろうか。一度屋敷に戻ったようだった。
まあ、このまま外で張るわけにもいかないと思ったのだろう。
パティはタオに聞いたところ、頑張り屋で努力家だが、成績はずば抜けて良い方ではないらしい。
特に数学があまり得意ではないらしくて、宿題はそれなりに出しているそうだ。
それを放置して、あまり外を歩き回るわけにも行かないのだろう。
或いは、だが。
ひょっとすると、ヴォルカーさんお墨付きで、あたしの目付役をしている可能性はあるにはある。
ヴォルカーさんは、あたしの作った発破を見て、明らかに驚いていた。
そうなってくると、あたしに警戒している可能性はある。
タオやボオスにも話は聞いたが、あの人は他の腑抜けている貴族と違って、この街を守ろうと最前線で体を張っている人だ。
あたしみたいな危険因子を警戒するのは当然なのだろうから。
「メモ帳は?」
「魔石に閉じ込められていたから、彼方此方かなり痛んでいるけれど……中にはこの地方に伝わる童歌みたいなのが書かれていたよ。 それとひょっとしてだけれども……これを書いたのは、僕の先祖かもしれない」
「おい、どういうことだ」
「僕の先祖には変わり者がいたらしくて、僕の家の本の読み方が失伝する前くらいの世代だったという話なんだけれども。 彼方此方の遺跡を調べて回っていたらしいんだ」
だとすると、タオのこの性格は。
いわゆる隔世遺伝かもしれないな、と思う。
タオの両親は、閉鎖的な性格で、はっきりいってどっちもろくな人間じゃない。
これはタオも時々ぼやいていたし。あたしも知っているからそういう風に思う。
だけれども、親の性格と子の性格は真逆になる事が多い。
もう一世代前の。更に前の世代になると、性格が全く違う人間であった可能性は否定出来ないのだ。
「もう少し解析してみないと何とも言えないけれど……」
「いずれにしてもそれはそれですげえな」
「うん、そうだね。 ただ、あの遺跡で一旦諦めて、先祖は戻ったらしいよ。 メモ帳は、あの扉がどうしても開かないって悲しそうに締めくくられてる」
「そうか……」
ボオスもちょっと残念そうだ。
いずれにしても、次だ。
あの変な貝みたいな道具。
それに対して、記述はないのかと確認して見る。
タオは、それについては、名前が記載されているとある。
「幽世の羅針盤ってものらしいよ、それ」
「ふむ?」
「幽霊、とまではいかないにしても。 その周辺にある残留思念とかを吸収して、それである程度会話とかが出来るんだって」
「残留思念と会話、か」
そうなると。
遺跡に誰か暮らしていたのだとすれば、非常に効率よく調べる事が出来るわけだ。
あたしも感応夢を三年前には頻繁に見たが。
もっと魔力を磨き抜けば見られるだろうか。
いずれにしても、あたしが見ても分かるくらいには壊れている。直すのは、ちょっと情報が欲しい。
「よし。 タオ、まずこの幽世の羅針盤とやらの構造とか、メモから調べて。 調べたら、あたしが直すよ」
「分かった。 やってみる」
「俺は何か手伝おうか」
「そうだなあ。 ちょっとコネを構築したい」
あたしからそんな事を言われて。ボオスは驚いたようだった。
ボオスが王都に来ている理由の三割、もっと多いか。それは此処でコネを創る事だという話だ。
なんでもモリッツさんには、場合によっては嫁を作って来いとも言われているらしい。
ボオスがキロさんにベタぼれしているのが分かりきっているあたしとしては、またはた迷惑なことを言われているなあと同情してしまうが。
それはそれとして。
未来のクーケン島の指導者として、王都にいる金持ちや商会の人間とコネを作るのは必須だ。
そういった人間が学生にいるようなら、交遊しておけ。
それも此処にボオスが、大枚をはたいて来ている理由だ。
ボオスとしては、色々迷惑な話だろうが。
これも未来の指導者としては、必要な話である。
「コネってお前、男でもほしいのか」
「違う違う。 ヴォルカーさんに、街の役に立ってほしいって言われていてさ。 何か困りごとがある人がいたら、聞くよ。 今どうも頭の働きが鈍いけど、だいたいのことは錬金術で出来ると思うし」
「はあ、そうだな。 何人か思い当たる。 とりあえず、学園区であったら声を掛けるから、その時に話を聞いてやってくれ」
ちょっと心配になる。
まさか学園区でもこんな乱暴で横柄なしゃべり方していないだろうな。
まあ、それはいいか。
ボオスの事だから、ある程度要領よくやっているだろうし。
いずれにしても、それで解散。
タオとボオスが戻ると、あたしはベッドで転がる。
此処に最初から置かれていたベッドで、多少埃っぽかったが。掃除はもう済ませてあるし、お日様もすわせてある。
横になってぼんやりしていると、やっぱり宝石が光る。
それどころか、じんわり暖かい。
タオを呼ぼうか。
そう思って、半身を起こした瞬間だった。
宝石が、内側から罅が入り。
そして、粉々に砕けていた。
思わずうえっと声が漏れる。
そこには、なんだろう。
ふわふわもこもこで。
鳥みたいな、そうではないみたいな。
妙な生物が、いたのだった。
生まれたばかりなのに、空を飛んでいる。体は羽毛というわけではないようで嘴もない。足も鳥と違った形状で、どちらかというと獣に近い。
それどころか、翼を使って空を飛んでいるわけではないようで、宝石の中に収まっていたほどの大きさの割りには、羽ばたかなくても浮いている。
ドラゴンは魔力を使って飛ぶというのはあたしも知っているが
この謎の動物も、そうということか。
呆然としているあたしの胸に、その動物は飛び込んでくると。
明らかに、甘えた声で頭をすりつけてきた。
「フィー! フィーフィー!」
参ったな。
これは刷り込みだな。
最初に見た生物を親と思い込む奴。だけれども、こんな生物、あたしは見た事も聞いたこともない。
困り果てているあたしは。とりあえずフィーフィーなくその生物を掴むと、顔を覗き込む。
口はある、か。
いきなり殺してしまうのはちょっと可哀想だ。ともかく、どういう生物か、調べていかないといけないだろう。
これが尋常な生物でないことは、あたしにも分かりすぎるほど分かる。
ブルネン家のバルバトスと言えば、百年以上前の人間だ。それが見つけて来た宝だというのなら。百年以上宝石……恐らく卵だったのだろうが。それに入っていた事になるだろう。
それがどうして、今になって目覚めた。
それに他にも謎は幾らでもある。
まずは餌からだ。
色々見せてみるが、餌として興味を示したものはない。
むしろ、魔石を見ると大喜びで飛びついて、魔石の魔力を吸収しているのが分かった。
なるほど、魔力を餌にするタイプの生物か。
一応そういう生物が存在する事は、あたしも知っているけれども。それにしても、珍しい生物だな。
粉々に砕けた宝石の残骸を、集めておく。
とにかく、まずはモリッツさんに話はしておかないといけないだろう。
宝石だと思っていたものは。
卵でした、と。
フィルフサの卵かも知れないという最悪の予想は外れた。
そもそもフィルフサは、土壌にて繁殖する可能性が高かった。今更卵と言う事もないだろうが。
それでも、常に最悪の予想はしておかなければならないのだ。
ともかく、しばらく様子を見て、それからタオとボオスと話す必要がある。
水は、飲むようだ。
トイレについては、此処。
そう教えると、すぐに覚える。
この生き物、知能は非常に高いらしい。あたしの言葉も、すぐに覚えて、理解していくように見える。
いずれにしても、これは尋常な生物ではないな。
そうあたしは思って、話しかける。
「あたしはライザ。 ラ・イ・ザ」
「フィー!」
「じゃ、貴方はフィー。 あまりセンスはないけれども、その名前でいいかな」
「フィー! フィー!」
明らかに喜んで、周囲を飛び回るフィー。
まあ、喜んでいるのなら良いか。
子供は親の声を聞く事を、何よりも喜ぶという話がある。
いずれにしても、これが尋常な生物ではないことは確かだ。今はいい。だけれども、この魔力を喰らって魔力で飛ぶ生態。
もしも巨大な魔物の幼体だったりしたら。
いずれ、あたしが自分で処分する事も視野に入れないといけないだろう。
あまり、情を入れ込まない方が良い。
それが、事実なのかも知れなかった。
疲れて眠ってしまったフィーを、アトリエに置いて置くわけにもいかないだろう。
懐に入れて、外に出かける。
ヴォルカーさんに言われた通り、カフェの様子を見に行く。案の定薬がほしいとか、魔物を退治してほしいとか。
そういう依頼が来ているので、受けておくことにする。
薬については、今日の遠征でもそれなりに材料を手に入れたので、作るのは難しくはない。
依頼をどう受けるのか、話を聞いて。
そして、薬関係の依頼は一通り持っていく。
見ると、随分前に貼られたっきりの依頼もあった。
要するに、薬師が不足していると見て良い。だったら、あたしがその代わりに薬師になるだけだ。
クーケン島では、現役の医師であるエドワード先生から、医術も教わっている。
そうしないと、的外れの薬を出す可能性があるからだ。
今受けた依頼は、どれも難しい内容ではない。
後は、街道に出る魔物の駆除か。
街道といっても、城壁の外に暮らしている貧しい人達を脅かす魔物の駆除、というのが実際には正しい。
王都の守備隊だか戦士だかを、アーベルハイムが全部把握している訳でもないし。
街道の全てを守って回っているわけでもないのだろう。
守備隊の手が回らない場所の魔物退治が、それなりに依頼としてあった。それの一つを受けておいた。
カフェから出ると、まずは街道に向かう。
城壁を出ると、少し日が傾いていた。今日中に全部依頼は終わらせてしまうつもりだが、それにはまずは魔物の処理からだろう。
フィーはぐっすり眠っている。
まあ、起こさない程度に。
残虐に魔物を殺戮して、処分するだけだ。
街道に出て、少し歩くだけで見えてきた。大型の羊だ。
野生種の羊の中には、人間に対して積極的に攻撃を仕掛けてくる者がいる。非常に大きく成長する者は当然魔物認定。
草食動物は体格が大きくなるケースが多く、羊もそう。
羊と言っても色々で、雑食の奴もいる。
ただでさえ、家畜の牛や馬だって、条件が揃えば肉を食うのだ。
野生化で雑食化した羊も、珍しくは無いだろう。
街道に居座っているアレが、近くを通りがかった隊商に襲撃をかけた。隊商は逃げ延びたものの、馬車の一部が破損して、荷物を派手にぶちまけて。回収も出来なかった。
助けてほしい。
そういう依頼だったのだが。隊商が小さい事もあり、街の警備は動かなかった。
そんな程度の代物だ。
街の警備は、或いは時間を掛ければ退治をしてくれた可能性もあるが。今はその時間もない。
岩陰に隠れていた、商人らしい男性が。あたしを見ると心配そうにするが。
依頼書を見せ。
すぐに片付けると言うと。
こくこくと頷くのだった。
使用人らしいのも、数人いる。羊は単に縄張りに居座っているだけらしく、我が物顔に牧草を喰らっていたが。
あれにしても、周囲の貧しい農民がせっせと家畜のために育てて来たものだろう。
あたしも農家の出だ。
牧畜にも知識がある。
ちいと、許せないな。
あたしが前に出ると、羊が気付く。てか、この距離まで気付けない時点で、すでに実力差は明白。
身を低くして威嚇する羊だが。
その時には、あたしは跳躍していた。
羊が気付く前に、既に詠唱済の熱魔術。
熱槍を二十本束にして、ピンポイントで投擲するもの。更には、冷気で凍結させるもの。
それを連続で射出する。
熱槍が、羊の首を刎ね飛ばすのと。
熱が、羊を焼き尽くす前に。一瞬で冷気が冷やしきるのは、殆ど同時。
これは、魔物を殺したという証跡を残すために開発した魔術である。
鮮血を噴き出しながら、首を失った大羊が倒れる。
もう少し強い魔物だったら、此処まで簡単に首をさっくりとはいけなかったのだけれども。
まあこのサイズだったら、こんなものだ。
すぐに吊して捌く。
フィーは眠っていて起きない。まあ、起きて来ても残虐ファイトを目にするだけなので、寝ていた方が良いだろう。
羊の毛は、これは錬金術で使えそうだ。
モフコットにでもしておこう。
皮はなめして、防具の素材にでもするか。
骨は、魔力が篭もっていて、割と悪くない。何かの素材に出来るかもしれない。
肉は丁寧に削ぐ。
食べる分は燻製に。
それ以外は、これから街に持ち込んで、即座に売ってしまう。
内臓類は燻製にしておく。後で焼いて食べるのだ。腸などは洗浄した後、腸詰めを創る事も出来る。
血は全て受け止めておいて、後で使う。
血は案の定魔力をかなり強く含んでいる。
魔術を誰でも使える世界だ。魔物だって、当然例外ではない。
大きく育つと言う事は、それだけ魔術に習熟すると言う事なのだ。人間よりもシビアな世界で生きている魔物は、その傾向が強いのである。
というわけで、後で活用させて貰う事にする。流石に素材も、一部の切り札的なもの以外は、アトリエから持ってこられなかったのだ。
商人達が、こわごわと出てくる。
「て、手慣れていますな」
「すぐに荷物を回収してください。 もう捌くの終わりますので」
「み、みな急げ!」
捌くのが終わったら、王都に戻ると言う事だ。それくらいは、この商人達も分かっているのだろう。
使用人らしいのが、あわてて踏みにじられた商品を集める。
その中にボロボロの人形があって、頭がはげ上がった商人のおじさんは大きくため息をついていた。
「直しましょうか、それ」
「そんな事も出来るのかね」
「カフェに依頼として出しておいてください」
「わ、分かった。 この場でお金のやりとりをすると、色々と面倒だ。 本当に、助かったよ」
実際には損害は甚大だろうが。
それでも、礼を言えるのは立派だ。
見かねたので、羊の角を切り取って、それを渡しておく。
羊の首は、魔物の退治をした証拠としてカフェに提出しないといけないのだが。角は別に良いだろう。
この角は強い魔力を秘めているので、売ればいいお金になる。
「これを売ってお金にしてください」
「い、いいのかね」
「あたしはカフェで依頼達成の料金を受け取れますので。 依頼してくる人がいなくなれば、あたしも食べられなくなりますからね」
「あ、ありがとう。 今後も貴方を指名して、仕事を依頼させて貰うよ」
名前を聞かれたので、答えておく。
コネとはこうやって作るものだ。
今は貧しい商人かも知れないが、こんな大損害から救助したら、それは恩の一つくらいは感じる。
これで恩を感じないような程度の相手だったら、別にそれはそれで惜しくもなんともない。
ろくでもない商会や商人、与太者の類はたくさん見て来ている。
それくらい、あたしは割切って考えるようにもなっていた。
羊の解体が終わったので、商人と使用人を護衛しつつ王都にまで戻る。其処で解散する。何度も頭を下げられたので、あたしは苦笑いしてしまった。
肉屋で羊の肉を売り、カフェに羊を討ち取った証拠である首を納品する。
なおこういった首は、どうするのかよく分からない。焼いてしまうのか、それとも割って脳でも食べるのか。
それとも、防腐処置をして、警備隊にでも提出するのかも知れない。
速攻での解決と言う事もあって、それなりに報酬金ははずんで貰えた。おっとりした感じのカフェのマスターだが。
こういうのはしっかりしているらしい。
あたしが有望だということを、理解したのだろう。
此方としても、それは助かる。
周囲の傭兵やら戦士やらも、ひそひそと噂話をしている。
まあ、注目してくれれば、それでいい。
そのまま、バレンツ商会の支部に出向く。
そこで、クーケン島に手紙を書かなければならなかった。
勿論相手はモリッツさんだ。
「受け取った宝石の正体は、未知の生物の卵でした。 現在、フィーと名付けて経過観察中です。 危険な生物であった場合は処分します」
手紙の内容はそれだけ。
フィーはぐっすり眠っている。粗相をすることもない。
或いは、ある程度からだが出来てから生まれてくる生物なのか。
それもよく分からないが。
ともかく、今の時点で。
あたしは、フィーを殺すつもりはなかった。
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