暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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資料が圧倒的に少なかった「北の里」の全貌が明らかになります……


1、北の里の真相

とにかく、この里の残留思念は痛みを伴うほどだ。何度か休憩を入れながら、少しずつ彼方此方を見て回る。

 

あたしは脂汗を掻いているのを自覚していた。

 

それはそうだろう。

 

痛みも伴うのである。

 

あたしも痛みには慣れているが。それでもやはり、厳しいのも事実だった。

 

「ライザ、大丈夫か」

 

「大丈夫だよレント。 それよりも、周囲を警戒して。 足を踏み外すと困るし」

 

「分かった……」

 

タオとクリフォードさんは、先に一番奥の辺りを徹底的に調べて貰っている。此処からは分担だ。

 

今は七人だけで行動している。

 

アンペルさんとリラさんがいたらもう少し分業が出来るのだが。

 

今回は七人だけだから、出来る事は限られる。

 

もっと大人数で行動するようになったら、きっとあたしのリーダーシップが試されるのだろうが。

 

それについては、今後クーケン島で磨いていくしかない。

 

今も頭が硬い古老達と時々若い人を集めてやりあうのだ。

 

あたしがどんどん島を暮らしやすくしていることで、特に若い層はあたしの味方になっている。

 

モリッツさんも概ねあたしには政治的には好意的だ。フィーの入っていた卵の調査を依頼してきたくらいには。

 

ただあたしのことは、個人的にはやはり苦手に思っているようで。

 

そういう複雑な状況の中、あたしもリーダーシップを期待されているし。経験を少しずつ積んでいる。

 

万の人間を統率できる人間が、如何に凄いのかはそれでよく分かってきた。

 

今は、たった七人。

 

それでも、皆の事を考えながら動いていると、それなりに大変だったりするのだから。

 

「少し休む」

 

「水です」

 

「ん」

 

パティが差し出してきた水を一気に呷る。

 

この里は殆ど消毒と消臭を終えているので、危険性はほぼない。大量にいたワームも蝙蝠も駆除したし、後は調査をするだけだ。

 

そう考えると気楽だが。

 

そんなときこそ、何が起きてもおかしくは無いのである。

 

無言で座って、しばし考え込む。

 

それも、休憩が終わったと判断したら、体が勝手に動いていた。

 

「よし、次」

 

「本当にタフですね……仮眠くらいとってもいいのに」

 

「ライザは昔からこうなんだよ」

 

「凄いです……」

 

やはり今日も狙撃手として、全域を見張ってくれているクラウディアが、音魔術で遠隔で声を届けてくる。

 

その声はどうしてか自慢げだ。

 

何となく分かってきた事があるのだが。クラウディアは、時々パティに対してあたしとの友情マウントをとっているような気がする。

 

まああたしとしてもクラウディアが子供っぽい事や、あたしの最高の親友がクラウディアである事は疑いないのだが。

 

それはそれとして、パティにあたしが取られると思っているのだとしたら、苦笑いしかない。

 

まあ、それもクラウディアの良い所だ。

 

経済を回すだけの冷徹マシーンになってしまうくらいなら。

 

時々こういう子供っぽい所をどうしても抑えられないくらいのほうが、全然あたしとしても好感度が高い。

 

ただでさえ、あたしは今後人間であり続けるつもりはなくなっているのだ。

 

せめて、人間の友達がいることで。

 

あたしは少しでも、色々な視点を確保したいのだから。

 

羅針盤を開き、周囲の残留思念を見ていく。

 

これは、かなり古い記憶だ。

 

銀色に輝くドラゴンが、女と話をしている。

 

これは、直接話をしているのではなく。恐らく思念を飛ばして意思疎通をしているのだとみていい。

 

エンシェントドラゴンは、人間の言葉を話すことは出来たのだろう。

 

だけれども、より効率よく思念で意思疎通をしていた、ということだ。

 

訴えかけている女に、蹲っているエンシェントドラゴンは応じる。

 

「なるほど、訴えは理解した」

 

「それでは……」

 

「元々お前は……に対して暴言を多数吐いていたな。 それはお前は、自分の方が優れていると思い込んでいたからだ。 それがお前が明らかに立場が劣るようになって逆恨みをした」

 

「……っ」

 

全部見えている。

 

そうエンシェントドラゴンがいうと、悔しそうに俯く女。

 

そうか。

 

ここでもクズみたいな争いが古くからあって。

 

エンシェントドラゴンは、時々それを仲裁していたのか。

 

「挙げ句にお前の訴えに沿って、……を追い出せ等というのは論外だ。 追い出した後に、……はのたれ死にするしかない。 それは死罪と同じだ。 お前が気にくわないからといって、人の命を奪うというのか? それはあまりにも醜い思考だ」

 

「そ、それは……」

 

「人間は習性として気にくわないというだけで相手を殺す。 それは私も知っている。 だが、それは知的生命体のあり方ではない。 猿のあり方だ。 猿になりたいと言うのであれば、お前が里を出て行くがいい。 人間でありたいというのなら、私の指示通りに相手と和解せよ。 その自分は優れているという妄想をまずは捨てよ。 私から見れば、どの人間も大差などない」

 

絶叫する女。

 

歪んだ顔は醜く。

 

そして、凄まじい怒りと恨みを向けて、ドラゴンに何か早口で喋ったが。

 

すぐに静かになった。

 

これは多分、洗脳でもしたのだろう。

 

一瞬で大人しくなった女は、ドラゴンに平伏していた。

 

「私が間違っておりました。 龍神様の言葉通りにいたします」

 

「そうせよ」

 

エンシェントドラゴンが、退屈そうに応じて、女が去って行く。

 

次、という声。

 

エンシェントドラゴンが、呆れたようにぼやいた。

 

多分思念だけで、だ。

 

声には出さなかったのだろう。

 

「成熟に時間が掛かりすぎる我等ドラゴンにも問題は多いが、幼い頃から殆ど性格が変わらない人間にも問題は多いな。 互いの欠点を補い合えばいい文明を構築できると思うのだが、上手くはいかん。 特に人間が持っている不可解な特権意識と、強すぎるエゴについてはどうにかしなければならん。 人間が言う神代の時代にも、それで大きな悲劇が起きたのだ。 かといって、クリント王国の者達は論外であるし……何より私は既に年老いた」

 

ドラゴンの嘆きが伝わる。

 

エンシェントドラゴンは、もう寿命が近かったのだろう。

 

それにしても、ドラゴンがそんな風な悩みを抱えていたとは。

 

光景が変わる。

 

エンシェントドラゴンに、フィーに似た生物がよる。

 

おおと、嬉しそうな声をエンシェントドラゴンが上げていた。

 

「……の精ではないか。 多くが無意味に刈られ殺されたという話であったが、まだ生き残りがいたのか!」

 

「フィー!」

 

「そうかそうか……私の力を少しでも受け取れ。 この世界では、それで少しは楽になるだろう」

 

「フィー!」

 

同じように鳴くのだな。

 

それにしても、なんとかの精。そう聞こえた。

 

フィーは生き物だが。ドラゴンにはそう呼ばれていたのか。

 

ちょっとよく分からない。

 

橋を、いつの間にか降りていた。

 

たくさんの人が、行き交っている。勿論全てが残留思念だ。順番に話を聞いていく。何か、良い情報があるかも知れない。

 

「龍神様はどんな人間にも優しいな。 あそこにいる偏屈ものにも普通に応じている」

 

「あんな老いぼれ、さっさとくたばればいいのにな」

 

「本当だ。 あんな老いぼれに時間を割くくらいなら、私の商売にもっと時間を割いてアドバイスをしてくれればいいものを」

 

「随分と稼いでいるもんなお前。 私も同じように稼ぎたいものだ」

 

ききききと、高い声で笑う二人。

 

どっちも商人のようだが。ろくな人間ではない。

 

この里には相応の数の人間がずっといたようだが。

 

こんなのの思念をずっと聞き続けていたのだとすれば、エンシェントドラゴンもさぞや辛かっただろう。

 

それでも、此処を見捨てなかったのには、訳があるのだろうか。

 

また声が聞こえてくる。

 

「龍神様がかなりの手傷を負ったらしい……」

 

「相手はクリント王国の錬金術師を含む部隊だった。 手傷で済んだのなら御の字だ」

 

「分かっている。 いずれにしても、お年だったのだ。 良くない事にならなければいいが……」

 

「龍神様がいなくなれば、こんな里なんてすぐに瓦解するぞ。 どいつもこいつも勝手な事ばかりほざいていやがる。 内通者だって出るだろうな」

 

なるほど、先が読めている人間もいたのか。

 

多分エンシェントドラゴンが死んだのは寿命なのだろうが。

 

決定打になったのはクリント王国との戦闘か。

 

そして、分かってきた事がある。

 

クリント王国の錬金術師でも、エンシェントドラゴンには遅れを取る事があった、ということだ。

 

そうなると、精霊王を従えるのには、相当な被害を出した筈。

 

連中も無敵ではなかったことは、フィルフサに蹂躙された事で分かっていたつもりではあったが。

 

それでも、こういうのを見ると、少しずつ連中に対する何処かで抱えていた畏怖が消えていくのが分かる。

 

今、やり合えば殺せる。

 

勿論既に死んだ相手だからやり合うことはない。

 

だが、もし何処かに残党がいたら。

 

一人残らず命を刈り取らなければならない事も、あたしは分かっていた。

 

その時勝てるか、何処かに不安はあったのだが。

 

今、それも消えた。

 

嘆息すると、一度羅針盤を閉じる。

 

水を飲んで休憩を入れる。

 

最下層の有様を思い出すと、あまり座りたいとは思えないが。持ち込んだ荷車に腰掛けて、それで可とする。

 

しばらくは無言でぼんやりとして。

 

また調査を再開した。

 

 

 

昼に、一旦調査を切り上げる。

 

北の里の最下層を歩き回って、多数の残留思念を拾った。

 

理想的な指導者であるエンシェントドラゴンは、随分と苦労しながらこの里を管理していたようだ。

 

みんな好き勝手なことをほざきまくる人間達。

 

それに頭を悩ませながら、それでも可能な限り公平であろうとしていた。

 

此処での残留思念は、とてもクリアに見える。

 

だから、ここに住んでいた人間が。

 

何処にでもいる人間と同じで。

 

同じようにろくでもない事は、あたしも充分に理解した。

 

それでも見捨てなかったのは、やはりエンシェントドラゴンが人間と違う思考回路を持っている事や。

 

何よりも、年老いていて。

 

今更別の場所に行こうという考えもなかったのだろうと言う事が理由だと言う事も分かってきた。

 

それだけじゃない。

 

エンシェントドラゴンは、何かの罪悪感を抱えているようだった。

 

残留思念を見るから、どうしても分かるのだ。

 

それにしても、これだけ人々をしっかり導いて。勝手な事をほざく人間にも愛想を尽かさず管理を続けていたエンシェントドラゴンが。

 

一体何の罪悪感を感じていたのか。

 

それがあたしには分からない。

 

まだ情報が足りないと言う事だ。

 

皆で昼食をとりながら、タオが説明をする。

 

「最深部の建物も調べてきたけれど、やっぱりダメだね。 本どころか、何もかもが破棄されてしまっていたよ」

 

「それは厄介だな。 ライザの残留思念をみる羅針盤だよりか」

 

「そうなる。 ライザ、分かってきた事はある?」

 

「あるけれども、まだ封印についてや、門の場所は分からない」

 

事実はそのまま告げておく。

 

あたしだってそうするのはつらいけれども。

 

ともかく、もっと残留思念を調べるしかない。

 

もしも門の位置が分からないようだったら。

 

アンペルさんやリラさんと相談して。何ヶ月か逗留を伸ばし。この辺りを徹底的に調べるしかないだろう。

 

ともかく、最低でもこの里にある封印は見つけ出さないとダメだ。

 

それについては最低条件。

 

それを見つけ出せば、或いは……。

 

ともかく、調査はまだ終わっていない。

 

食事を終えると、あたしは調査を再開する。

 

午後からは、クラウディアもあたしの側で調査をして貰う。セリさんは、タオとクリフォードさんの支援だ。

 

最下層の隅にあった、幾つもの家を回っていく。

 

くだらない残留思念も結構残っている。

 

これだけの人間が暮らしているのだ。

 

どうしても、人間同士は争う。エンシェントドラゴンがこの里にいた年月は残留思念を見る限り二百年ほどだったようだが。

 

赤子だったのを取りあげて。

 

老人として死んで行くまで見守っても。

 

それでも、まったく精神的に進歩せず。勝手な事をほざき続けた人間も、多かったようだった。

 

人間が精神的に成長するなんて大嘘だ。

 

そういう個人もいるかも知れないが、少なくとも人間という種族は違う。

 

それは、エンシェントドラゴンが面倒を見た二百年というスパンで考えると、明らかすぎる。

 

羅針盤が見せてくれる残留思念が、それを明らかすぎる程に示していた。

 

そして何より、此処は他の遺跡と違って集落だったのだ。

 

星の都ですら、集落部分は古すぎて殆ど残留思念が拾えなかった。神代のものだったからだろう。

 

此処はそれよりずっと新しい集落で。

 

それが理由と言う事もあって、ある程度くっきり残留思念が見える。

 

残留思念も多い。

 

だからこそ、そのくだらなさもよく分かってしまう。

 

無言で次に、更に次に。

 

エンシェントドラゴンは普段はこの最下層に蹲って、其処で静かにしていたようだ。人が来ると話をして。

 

それは他愛ないものだったり、訴えだったりしたようだが。

 

それはそれとして、たまに歩き回っては、人々の話を聞いていたらしい。

 

また、健康についても確認をしていたらしく。

 

病気の初期症状は、魔術で治してもいたようだ。

 

あらゆる意味での最高の指導者だったわけで。

 

それは人間が依存するのも納得出来る。

 

だが、そんな最高の指導者を。

 

ずっと苦しませ続けていたのも、また事実なのだろう。あたしがこの場にいたら、此奴らを面罵していたかも知れない。

 

無心に歩き回って、更に情報を集めていく。

 

エンシェントドラゴンが、老人と話をしている。

 

随分とゆっくりとだが。

 

それでも、話している内容についてはしっかりしているようだった。

 

「龍神様。 貴方からすれば、人間は皆くだらない生物に見えているのではありませんか」

 

「それは違う。 あり方は違うが。 我々にしても、欠点は多い。 自我が定着して、しっかりとした知能を持つようになるまで時間が掛かりすぎる。 それが我々の最大の欠点だと言える」

 

「それでも、自我と知能を得てからは、神々に等しいではありませんか」

 

「人間の信仰にある神と言うのは、人間にとって都合がいいものにすぎない。 正義を仮託し、思考を放棄させ、暴力を肯定してくれる存在だ。 私はそういうものになるつもりはない」

 

「そう考えてくださる以上、やはり貴方は神にもっとも近い。 私はそう考えます」

 

エンシェントドラゴンは、随分と謙虚だ。

 

これだったら人間を嫌いになってもおかしくは無いだろうに。

 

罪悪感はどこから来ている。

 

それがよく分からない。

 

周囲に人がいないことを確認したエンシェントドラゴンが、ぼそりという。

 

「私は、大きな罪を犯した」

 

「貴方が」

 

「そうだ。 我等の生物としての営みが、二つの世界に大きな危険をもたらす。 これはずっと生物としてある事だが。 しかし知的生命体である以上、許される事ではないとも考えている」

 

「……そうだったのですね」

 

二つの世界に。大きな危険だと。

 

生物としての営みだと。

 

どういうことだ。

 

ちょっと分からないが、これは大きな情報だ。そのまま、残留思念に耳を澄ませる。

 

「クリント王国と大差がない南の国に力を貸すのもそれが理由だ。 ともかく今は、二つの世界がともに自滅するのを避けなければならぬ。 これも神代にろくでもない事をした連中がいたからではあるが。 その後も、ずっと生物としての営みだからと、何も考えていなかった我々にも責任は大いにある」

 

「それが貴方の罪悪感の居所なのですね」

 

「そうだ。 だから私は最後まで努力をする。 それが最終的に無駄にならないように、幾つでも手を打つ」

 

顔を上げる。

 

これは、最大級の情報だ。

 

あたしは、すぐに皆を呼ぶ。タオもクリフォードさんも来たので、話をしておく。

 

「ドラゴンの生態が、二つの世界に危険を……?」

 

「なんだか意味深だな。 しかも神代の文明がそれに関係しているのか?」

 

「恐らく。 老い先短い老人にエンシェントドラゴンが話していた事だし、多分嘘はないだろうね。 しかも自分がやった事に、エンシェントドラゴンは強い罪悪感を覚えていたようだよ」

 

「……メモはしておくね。 すごく……すごく危険な臭いがする。 ライザ、調査を急ごう。 時間は思った以上にないのかも知れない」

 

タオが此処まで言うのは珍しい。

 

あたしも同感だ。

 

レントは、周囲を見回す。ワームの残党もいない。多分、今の時点では、足を踏み外したりぶつかったりする以外に、あたしに危険はないはずだが。それでも、しっかり周囲は確認して貰う。

 

調査を再開。

 

そのまま、調べて行く。

 

エンシェントドラゴンは気が向いたときに出歩いては、人間と話をしていたようだが。ただその頻度はあまり多くは無かったようだ。

 

圧倒的に強かったと言っても、それでも年が年だったのだろう。

 

人間が思っている以上に。

 

エンシェントドラゴンというのは、年を経ていて。それでかなり生物として無理が出てしまっている存在なのかも知れない。

 

少なくとも不死の存在ではない。

 

それは間違いない所だ。

 

やがて、住居跡はあらかた確認した。

 

今日中に調べ上げておきたいところだが、かなり疲弊が大きい。

 

よし、最後に今タオ達が確認している地点を調べておこう。

 

あたしは、急ぐ。

 

彼処にはエンシェントドラゴンの亡骸もある。

 

何か、大きな事が分かるかも知れない。

 

一応栄養剤も口にしておく。

 

相当に消耗が激しい。だが、もう目の前なのである。

 

もしも封印が今日砕けでもしたら、それこそ一生後悔してもしきれない。

 

フィルフサを侮る訳にはいかないのだ。

 

研究区画に入る。

 

ドラゴンの目の前で、羅針盤を起動。

 

同時に、あたしは。

 

意識を失っていた。

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