暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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2、引見

夕方。

 

薬の調合をしていると、パティが来る。

 

その時間帯には、既にフィーは起きだしていて。あたしが調合をしているのをじっと見ていた。

 

魔力をガンガン食うわけでもなく、また食べただけ大きくなるわけでもないらしい。

 

それだけは安心したが、まだ初日だ。

 

これから蛹になったり、或いは脱皮してどんどん大きくなる可能性もある。

 

ただ。明らかに笑顔と好意を向けてあたしになついているフィーを邪険にするのも可哀想だなとも思う。

 

必要ならば処分しなければいけないのは分かっている。

 

あたしが孵して、あたしを親だと思い込んだ生物だ。

 

「大きくなったら野に返す」なんてのは論外。

 

生物を養う事になったのなら、最後まで面倒を見るのが当然の行動である。それくらいは、農家の娘であり。牧畜も経験があるあたしなら、よく分かっていることだった。

 

パティは、なんか得体が知れない生物がいるのを見て、目を丸くしたが。

 

しばらく固まっていたパティに、フィーが寄りつく。

 

「ラ、ライザさん、この生き物は……」

 

「うん、何だか知らないけれど、あたしが持ってたのが卵だったらしくて、それから孵った。 名前はフィーだよ」

 

「フィー! フィーフィー!」

 

「そ、そうですか。 よろしくね、フィー。 私はパティと言います」

 

フィーにまで礼儀正しく接するパティ。本当に性格が良いんだなと思って、目を細めてしまう。

 

だがそんな子だからこそ。

 

嫌われたくないと思うのも、また事実だ。

 

だから、遺跡に隠れて着いてきていたことは指摘しない。

 

「また、錬金術をしているんですか」

 

「うん。 今は薬を作ってる」

 

「確か薬を作れるという話でしたね。 見せてもらっても良いでしょうか」

 

「どうぞどうぞ」

 

フィーがパティの側にいるのは、害意がないと分かっているからだろう。

 

パティも何だか分かっていないようだが、それでもフィーを傷つけないように気を配っている。

 

あたしは釜に満たしたエーテルを使って、投入した薬草を要素ごとに分解。少しずつ、組み立てて行く。

 

ほどなくして、傷薬が出来る。

 

続いて止血剤。増血剤。強心剤。疫病対策の薬。順番に作っていく。

 

殆どの依頼では、傷薬が要求されていた。

 

そんなものは、この近くに生えている薬草でも作れるが。それでも効果は強いに越したことはない。

 

流石にこの辺りの薬草だと、指が落ちてもすぐにくっつく、くらいの効果は出ることはないのだが。

 

傷口が溶けるように消えるくらいの効果はある。

 

この辺りの薬は、幾らでも作ったものだ。

 

パティが感心して見ている前で、あたしはナイフで自分の腕をさくりと切る。血が流れるのを見て、パティが青ざめるが。

 

即座に薬を塗って、傷が消えるのを確認。

 

ふむ、効果はまあまあか。

 

「パティにも渡しておくね。 荒事で傷が出来る事も多いでしょ」

 

「まあ、それはそうですけれど。 こんな薬、見た事もありません。 普通傷が治るのって、何日もかかるのが当たり前です。 こんな、一瞬で傷が消えるなんて。 回復魔術でも、此処までの効果は……」

 

「錬金術は、魔術よりも強力なんだよ。 効果にもよるけれど、完全上位互換だと思って貰えば間違いないかな」

 

「……」

 

完全に絶句するパティ。

 

なんというか、真面目な子だけれども。

 

一皮剥けば、面白い子だなあと思う。

 

とりあえず、今作ったお薬は、カフェに納入する分。幾らかの傷薬は、ヴォルカーさんに納品する。

 

最初はただでかまわない。

 

使って見て効果が抜群に確認できるのであれば、後はバレンツ商会を経由して買って貰えばいい。

 

あたしもバレンツ商会に納品しておけば、それで商品が普通に行き渡るだろう。

 

クラウディアが悪辣な商売をするとは考えにくいからだ。

 

荷車に薬を積んで、出る。

 

七階にあるアトリエだが、階段を使って比較的簡単に一階まで下りる事が出来る。階段にはスロープもついているので、荷車を降ろし上げするのは難しく無い。

 

パティもなんの躊躇無く手伝ってくれる。

 

この辺りは好感を持てる。

 

貴族は下々と一緒に仕事なんかしない。

 

そうほざいていた外遊中の貴族が、とんだでくの坊で、魔物に震え上がっているばかりだったのをあたしは見ている。

 

助けて貰って、それで最初に発した言葉が助けるのが遅い、だったのも。

 

そんな連中に、敬意なんて払えると思うか。

 

その辺り、パティはだいぶまともである。

 

「今日はタオからの宿題、上手く行ってる?」

 

「はい、もう片付けてしまいました」

 

「真面目に頑張ってるね。 成績は上がりそう?」

 

「お父様と話をして、目標の成績を全教科で設けているんです。 基本的にタオさんに教えて貰うのは、その目標点を下回った学科ですね。 だから現在は数学くらいしか、教えて貰っていません。 それ以外は、自分で教えてくださいと頼む事はありますけれど」

 

そんなものか。

 

そうなると、大まじめに宿題を終わらせて、監視に来たと言うわけだ。

 

なんだか何をするにも大まじめなんだなこの子。

 

そう思うと、ちょっと色々と羨ましくなってくる。

 

多分だけれども、この子は厳しい目つきと表情で、色々と損をしていると思う。見た目で相手を百%決めつけるような相手にとっては、好戦的で攻撃的な人間にしか見えないだろうから。

 

実際には非常に真面目で礼儀正しいし。

 

怒るのも、相手が一線を越えたときだけだろう。

 

アーベルハイム邸に出向くと、納品をする。

 

パティが相変わらず耳元で囁いて、ヴォルカーさんが頷いて納品した薬を受け取ってくれる。

 

「実演をしましょうか」

 

「いや、大丈夫だ。 丁度怪我人が出ている。 今日も街道での討伐で、数名が負傷していてな」

 

「場合によっては、もっと効果が高い薬も作ります。 ただ、今は材料が……」

 

「分かった。 まずは怪我人に試してみたい」

 

戦士が何人か、運ばれてくる。

 

担架で運ばれてきた戦士は、傷だらけになっていた。

 

街を守る戦士が足りないのだ。

 

こう言う人は、どうしても出て来てしまうだろうなとあたしも思う。

 

怪我人に、薬を塗るパティ。

 

本当に溶けるように傷が消えるのを見て、ヴォルカーさんが驚愕した。というか薬を塗るのを躊躇しないパティにもあたしは驚く。

 

本当に荒事には慣れているんだな。

 

それが分かるからだ。

 

「何という効力だ……!」

 

「塗ると同時に体の快復力も高めます。 あまり使い過ぎると、風邪とかを引いている場合は悪化させる事もあるので気をつけてください」

 

「マニュアルはないのかね」

 

「……しまった。 後でタオに用意して貰います」

 

うっかりしていた。

 

こういうのが、まだちょっと自分でも不安だ。

 

呆れ気味のパティを、ヴォルカーさんが手伝う。戦士の鎧と服を手慣れた様子で剥がすと、傷口に薬を塗っていく。全ての傷が、綺麗に消える。

 

まあ、このくらいだろう。

 

殆ど全裸の男性戦士の体を見る限り、打撲傷もある。頭は打っていないようだが、兜が守ってくれたのだろう。

 

打撲傷用の薬も当然作ってある。

 

すぐに薬を渡して、説明をする。

 

薬は十分な効果を示して、うんうんと呻いていた男性戦士は、脂汗を流しながらこっちを見る。

 

「ありがとう、だいぶ楽になったよ」

 

「骨が折れています。 今、処置をします」

 

あたしもエドワード先生の手伝いをしている。パティもある程度は経験を積んでいるのだろう。

 

添え木を即座に持ってくる。

 

あたしは、錬金術師で作った痛み止めを戦士に飲ませる。脂汗を掻いていた戦士が、だいぶ楽そうになった。それにしても、王都の医師は何をしているのか。

 

骨折しているのは、左腕から脇腹の肋骨に掛けてだ。

 

まず左腕の状態を確認。

 

幸い複雑骨折ではない様子である。

 

腕を引っ張って伸ばして、骨をちゃんと接合できるようにし。そして添え木を当てて、即座に包帯で固定。

 

その時、やっと医師が来る。

 

「左腕の骨折を、今処置しました。 添え木と包帯で固定しましたが、もしもギプスがあるなら対応を。 それと左脇腹の肋骨が二本折れています」

 

「分かった。 遅れて済まない」

 

医師は女性医師だ。というか。この様子だと魔術師とみた。

 

鬱血も収まっているのを見て、医師は唖然として。ヴォルカーさんが、あたしを視線で示す。

 

てきぱきと本格的な処置をしているのは、一応は医師だという事か。

 

後は任せて大丈夫だろう。

 

「ありがとう。 早速助かった」

 

「何とやりあったんですかこれは」

 

「走鳥だ。 王都の南部は今完全に魔物に占拠されていて、少しずつ数を減らしているんだが、戦いに出る度に被害者が出る」

 

「……」

 

一応ダイレクトに王都の南に出られる門も職人区にあるらしいのだが。

 

それはあまりにも危険すぎるので鍵が掛けられ。

 

今はさび付いてしまっているらしい。

 

元々は鉱山に直行できる事もあって、わざわざ其処に職人区と工業区を作ったらしいのに。

 

本末転倒も甚だしい。

 

あたしは冷や汗を拭いながら、薬を一通りヴォルカーさんに引き渡す。

 

一応あたしも薬入れに傷薬とか止血剤とか色々書いているが。それだけだとちょっと足りないだろう。

 

タオが呼ばれて来た。

 

タオにマニュアルの作成を頼む。

 

頷くと、即座にタオがあたしの説明に沿って、マニュアルを書き始める。

 

この辺りは阿吽の呼吸で行える。

 

三年前までは、タオとレントとあたしで。ずっと悪ガキ三人組だったのだ。多分タオにとっては、あの両親よりあたしとレントとの方が、息があっている筈である。

 

「ヴォルカーさん、これでマニュアルになります」

 

「うむ、助かる」

 

「これ以上効果が高い薬は、現状手に入る薬草ではまだ作れません。 王都周辺を調査して、それで調べます」

 

「分かった。 もしも作成が出来たら、その時は頼む」

 

タオも、もうフィーには気付いていた。

 

フィーは流石に怪我をした戦士を見て怖がっていたが、文字通りの鉄火場だと言う事は即座に理解したらしい。

 

怖がってはいたが、騒ぐこともなく。

 

あたしの影で静かにしていた。

 

一度、アーベルハイム邸を出る。

 

パティも着いてきたので、軽く話をしておく。

 

「パティ、ヴォルカーさんの負担、かなり大きいんじゃないの」

 

「大きいです。 お父様くらいしか、周辺の警備に積極的な貴族がいませんので、どうしても他は雑多な傭兵や冒険者に頼るしかありません」

 

「古代クリント王国の時代にはアーミーが存在していたようだけれども、此処ではそれを組織する余裕もないんだね」

 

「アーミー?」

 

パティは知らないか。

 

タオが分かりやすく説明する。

 

そんな強力な組織があるのかと、パティは驚き、黙り込んでしまった。そんなものを使って魔物を退治できれば、どれだけ皆の生活がマシになるかと、思ってしまったのだろう。

 

だけれども、あたしはアーミーが必ずしも良い方向にだけ動くとは思っていない。

 

だから、今の状況で苦闘しているヴォルカーさんには、いい意味で貴族らしくは無いと思いながらも。

 

アーミーを作れればとは、思わなかった。

 

「それにしても、ライザさんの薬、本当にとんでもないですね。 発破だけではなくて、薬まで……」

 

「今回作ったのは、本当は錬金術で言うと基礎の部類なんだよ。 もっと優れた薬になると、千切れた腕をその場でくっつけるくらいは可能なの。 死んだ人間を、死んだ直後だったら蘇生させることも出来る薬もあるらしいんだ」

 

「もう摂理を越えていますね……言葉もありません」

 

「そうだね。 ただ、今手元にある材料だと、あたしもあの薬が精一杯かな。 パティ、負傷した戦士の応急処置、手伝ってくれてありがとう。 あの人の分も、あたしからお礼をさせてもらうね」

 

パティは俯く。

 

無力感に包まれているのか。

 

それとも。

 

いずれにしても、話すことはタオの方にある。

 

一度、パティと離れてカフェに歩きながら、フィーの話をする。

 

フィーは血の臭いに昂奮するようなこともない。むしろ、安心したようにあたしの肩にとまって、それで周囲をせわしなく見回していた。

 

「こんな生物は見た事がないね」

 

「あたしも。 まさかあの宝石っぽいものが卵だったなんてね」

 

「詳しい生態を分かっているだけでも教えてくれる?」

 

「うん」

 

てきぱきとメモを取るタオ。

 

やはり手慣れている。

 

また、遺跡調査用のメモ帳とは別のものを使っている様子だ。

 

タオはざっとフィーの事をメモに残すと、頷いていた。

 

「とりあえず調べて見るけれど、普通の魔物とは少なくとも違っていると思うよ」

 

「だろうね。 フィーってば、水は飲むけど、肉にも草にも殆ど興味を示さなくって……」

 

「水……」

 

「とりあえず、カフェで料理を注文して、興味を持つか試してみるよ。 スープとかだったら飲むかも知れないし」

 

そのまま、カフェに。

 

薬などの納品も済ませる。タオにマニュアルをその場でもう1丁書いて貰う。効果については、ヴォルカー邸で見せたとおりだ。

 

とりあえず。今日はここまでか。

 

一度アトリエに戻る。

 

珍しそうにフィーを見ている傭兵や冒険者もいたが。

 

あたしが苦もなく単騎で羊を仕留めてきたのは、既に話題になっているらしい。

 

誰も、あたしにちょっかいをかけてこようとするものはいなかった。

 

料理が出てくる。

 

口に入れてみて思う。

 

味付けが濃いな、と。

 

見た目は兎に角お洒落だけれども、食べ物の全ての味が濃い。そういえば、先に来たときはあんまり味がわからなかった。

 

これも余裕が出てきたから、だろうか。

 

少なくとも今日は、収支は黒字になっている。

 

「フィー、どれか食べて見たい?」

 

「フィー? フィー」

 

「やっぱスープか。 スプーンは流石に使えないよねえ」

 

スープを飲ませてみるが、数口でフィーは満足したようだった。空を飛ぶというのは、ものすごいエネルギーを消耗するとタオに聞いた事がある。小型の鳥の中には、文字通り翼が見えない程の速度ではばたく者がいるのだが。

 

それだけ、消耗も当然激しく。ずっと食べていないと、そのまま餓死するほどなのだとか。

 

だとすると、フィーはやはり魔力で飛んでいるのが正しいのだろう。

 

魔石から魔力を吸収していたり。

 

或いは水だけで殆ど大丈夫なのは、それが理由なのかも知れなかった。

 

スプーンを使えるか聞いてみたが、こっちを見るフィー。

 

この様子だと、流石に無理か。

 

タオは思ったより食べている。

 

頭を使う分、栄養が必要なのかも知れない。背丈を見る限り、流石にもうタオも成長期は終わっているようだが。

 

「タオ、今日は収入があったし、明日からも期待できるから、あたしが払うよ」

 

「え、いいの」

 

「学業に専念してちょうだいな。 あたしはどうせ一季節此処にいれば良い方だし、その間は仲間として支援させて貰うよ。 後、マニュアルを作ってくれた労働分」

 

「悪いね。 僕もお金は結構カツカツなんだ」

 

そっか。

 

まあそうだろうな。

 

とりあえず、一度カフェは後にする。

 

本来だったら動物を入れるのはこういうお店ではマナー違反だ。だから、カフェのマスターには、もうフィーは連れてこない事は説明しておいた。

 

街の外に出るときとかは兎も角、短時間アトリエ離れるだけの時とかは、フィーは外には出さない方が良いだろうな。

 

そう、あたしは思った。

 

 

 

タオと別れて、アトリエへの帰路。

 

後ろから着いてくる輩に気付く。

 

ああ、なるほど。

 

当然王都にもいるか。

 

フィーは気付いていない。

 

ふらつくような足取りで、あたしに接近して来る其奴。ほぼ間違いなく、物盗りの類と見て良い。

 

この手の輩は、あたしは大嫌いだ。

 

容赦も遠慮もする必要はない。

 

あたしは右手に魔力を集中。

 

ぶつかってきた瞬間、相手の腕を焼き飛ばすつもりだった。

 

次の瞬間、ぶつかろうとしてきた奴を。上から飛んできた誰かが、その場に組み伏せる。ぎゃっと、鋭い悲鳴が上がっていた。

 

もう周囲は暗くなりはじめている。

 

王都は夜もある程度灯りがあり、それはどうやら魔術に起因した街灯によるもののようであるのだが。

 

その灯りの下で、物盗りはキーキーわめき散らす。

 

「てめえ、正義気取りのクソ野郎が!」

 

「バカかお前。 お前、そのまま近付いていたら、腕を吹っ飛ばされていたぞ」

 

「……」

 

振り向いたあたしが、とっくに気付いていて。

 

手に、強烈な熱の刃を纏っているのを、物盗りは気付いたのだろう。

 

青ざめる。

 

「正当防衛成立したんだから、余計なことをしなくても良かったのに」

 

「いや、流石にな。 あんたがこの手の奴には容赦しない事は分かっていたつもりだったが、流石にやりすぎだと思ってな」

 

「む、その声」

 

「久しいな」

 

なるほど。

 

この人、王都に来る時に一緒に隊商の護衛をしたクリフォードさんか。

 

このしなやかな動き、どこかで見覚えがあると思った。手際よく物盗りを縛り上げると、クリフォードさんは言う。

 

「王都でのルールをまだよく分かってないだろ。 流石に腕をぶっ飛ばしたりしたら、あんたも何日かは警備に拘束されて、動けなくなるぜ」

 

「なんだ、そうだったのか……。 色々と面倒だね。 場合によっては首を飛ばそうかと思ってたのに」

 

「その様子だとマジでやりかねないな。 命拾っただろ?」

 

「……」

 

物盗りがこくこくとクリフォードさんに頷く。

 

呆れながらも、クリフォードさんと一緒に、警備の詰め所に。まあ今後世話になる可能性もある。

 

一緒に顔を出していた。

 

警備の詰め所は、流石に惰弱な警備の戦士よりも、多少マシなのが混じっているようである。

 

多分ヴォルカーさんの息が掛かっているのだろう。

 

クリフォードさんがなれた様子で証言。

 

あたしもそれを証言する。

 

警備の戦士の長は、またあのフロディアさんに雰囲気が似ている人だ。やっぱり王都中にいると見て良い。

 

「なるほど、この男は既に前科があります。 流石に今回の件もありますし、当面は強制労働でしょう」

 

「そうしてくれ。 というか、反省の色がない時点で無罪放免にするなよなあ」

 

「これも法です。 こういった救いようが無い輩は、正直どうしようもありませんが」

 

「まあ、また法を犯した場合は、このライザお嬢さんに引き渡してやってくれ。 見て分かるかも知れないが、このお嬢さんは超がつくほどの腕利きなんでな。 多分欠片も残さず焼き尽くして処分してくれるぜ」

 

ひっと物盗りが悲鳴を上げる。

 

まあ、あたしが手に収束させた熱の刃を見たからだろう。

 

パティの話を聞く限り、王都の魔術師のレベルは決して高くない。

 

このくらいだったら、出来る魔術師はそれこそ幾らでも辺境にはいるのに。人間が数だけ集まっても、優秀な人間が集まるわけではない。

 

それがよく示されているようなものだった。

 

一応、王都の警備の詰め所で、危険な場所などについての説明は受ける。

 

案の定、夜の農業区は出来るだけ近付かないようにしろ、ということだった。

 

まあそれについては、タオから話も聞いている。

 

あたしが住居を借りている近くも、あまり夜中には歩き回らない方が良いそうである。

 

夜に専門で巡回する戦士までいるらしく。

 

そういう話を聞くと、夜は基本的に寝ているクーケン島の生活が、如何に楽なのかもよく分かる。

 

夜にずっと起きていたら、絶対に体を壊すだろうに。

 

「一応、危険な場所などはまとめておきました。 問題があったら、これを参照してください」

 

「ありがとうございます」

 

「いえ。 それと、街道で処理が追いついていなかった羊を仕留めてくれたのは貴方ですね。 報告が来ています。 不手際、お詫びします。 それと、感謝させていただきます」

 

「こちらこそ。 だいぶ報酬をはずんで貰って、感謝しています」

 

互いに礼をすると、詰め所を後にする。

 

さて、後は帰るだけか。

 

クリフォードさんが、送ってくれるという。

 

「どういう風の吹き回しで?」

 

「まだ王都になれてないだろ。 そうなると、さっきみたいなバカがあんたに仕掛けて、返り討ちで腕くらい吹っ飛ばされかねないからな」

 

「フィー!」

 

「それに、そいつに興味もある」

 

そういえば、この人はトレジャーハンターだった。

 

さっき、ずっと大人しくしていたフィーが、右の翼を上げる。

 

やっぱり知能がとても高いようで、短時間でぐんぐん言葉などを学習しているようである。

 

この様子だと、その内喋るようになるかも知れない。

 

「俺はこれでも、彼方此方の遺跡で色々不思議なものを見て来た。 それでもそんな奴は見た事も聞いたこともない。 それはなんだ?」

 

「変な卵から孵って、調査中です。 名前はフィー」

 

「ふうん。 フィー、どうだ、俺と一緒に冒険に出ないか。 色々と面白いものを見せてやるぜ」

 

「フィー? フイッ!」

 

明らかにいや、という動作をするフィー。

 

あたしよりフィーをナンパするのが、なんというのかクリフォードさんらしい。

 

からからと笑うクリフォードさん。

 

元々、期待はしていなかったのだろう。

 

「ハハハ、ふられちまったな。 それはそうと、あんた手は足りてるか?」

 

「確かに今戦力が不足気味ですけど、人を雇うほどの余裕は無いですよ」

 

「あんた、王都に何をしに来た。 その様子だと、王都で楽な生活をするとか、王都にバカみたいな夢を持っていたとか、そうじゃないだろ」

 

不意に声のトーンが変わる。

 

この人、歴戦の戦士だ。

 

それだけに、あたしが王都に来たのが遊びでは無い事くらいは分かるのだろう。

 

「目的のほとんどは、この子の入っていた卵の調査だったんですけど。 今はこの子の調査に変わってますね」

 

「違うな。 それはついでだろう」

 

「……鋭いですね。 ただ、流石にこの先は言えません」

 

「前にも話したが、俺はトレジャーハンターだ。 そして俺のトレジャーハンターとしての本業は、あくまで俺の生き方であって、それで稼いでいるわけじゃねえ」

 

それは分かっている。

 

実際問題この人は、普段は荒事で稼いでいるのだ。

 

それについては、王都に来る前に、実際に見た。

 

「もし、利害が一致するなら、俺は無賃金で協力するぜ。 俺の戦力は決して無駄にならないと思うが」

 

「……そうですね」

 

確かに、この人ほどの手練れが手伝ってくれれば、それは有り難い。

 

だけれども、それはそれ。これはこれだ。

 

まだ、あたしはこの人を信頼しきった訳ではない。

 

まあ、あたしの尻やももや胸ばっかり見ているような事もないし。

 

その辺りは、ある程度は信頼出来る人間ではあるかなとも思うが。

 

「分かりました。 もう少し、互いに様子見と行きませんか」

 

「ほう。 というと、俺にも利がある事をやっぱりやってるんだな」

 

「ふふ、そうですね。 近いうちに、声を掛けさせて貰います。 その時に、互いに見極めあいましょう」

 

「ふっ、クレバーだねえ。 いいよそういう考え方。 ぞくぞくする」

 

本当にこの人は。

 

何というか、戦士としての力量は、あたしが見てきた中でも上位に入るくらいなのに。

 

オツムは完全に子供だな。

 

だけれども、別にそれは悪い事でもなんでもない。

 

しっかり大人をしている人間なんて、実際にはほとんどいないのだ。

 

クーケン島でも、群れている連中はオツムが殆ど子供だったし。

 

島にたまに来るような与太者も然り。

 

というか、本当の意味で大人なんているのか。

 

自分を大人だと自称しているような人間こそ、むしろエゴイスティックな、恥ずべき人間ではないのか。

 

一応送って貰って、それで今日は宿に戻る。

 

フィーは流石に疲れたようで。あたしの肩で眠り始めている。

 

まあ、寝顔は可愛い。

 

これから山ほど大きくなって、暴れたりしなければだ。

 

それに、あたしを全面的に信用して、体を預けている。

 

その行動が刷り込みによるものだとしても。

 

それでも、不快感は感じなかった。

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