暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
緒戦を終え、押し込み始めたライザ達を見送ると。カーティアは、彼女らが聞いていない事を確認しつつ、通信を入れていた。
耳から口元につけてある装置はインカムと言う。
原理はよく分からないが、同胞達の間でも、重要な作戦の時に使用される。声を共有し、更に指示をリアルタイムで受けられる。
「此方カーティア」
「此方司令部。 感度良好。 戦況は」
「ライザ達はフィルフサ第一陣を突破。 現在洞窟内での戦闘中。 門の占有権を巡ってのつばぜり合いをしている」
「了。 そのままそこで状況の推移を見守れ」
通信を終える。
現在、同胞の八割以上がこの作戦に参加している。各地に散っていた同胞の半数ほどを戻して、待機させている状態だ。
作戦の内容は、カーティアも知っている。
ライザが、負けたときのために打った策も。
見事と言う他無い。
最悪の場合は、此処の自然門を湖に沈めて、それでフィルフサの侵入を永続的に防ぐつもりだ。
幾らフィルフサが。
特にこの自然門の向こうにいる個体が、神代に作られた強力なカスタムタイプであり。その目的が対オーレン族の精鋭特化であっても。
どうしても水に弱いという弱点は変わっていない。
だから、ライザの戦略は正しい。
しかしながら、「母」はこの作戦を通じて見届けろと指示を出してきている。
同胞達の中には、今のうちにライザを殺すべきだという意見を出す者も多いのだが。
カーティアは。
少なくとも今の時点のライザは、暴には寄っているがエゴには遠く。
力で解決する傾向が強いが、それでも世界を優先する事を幾つかの仕事で間近で見ていた。
錬金術師は、神代の頃から力に酔う事が多く。
その結果、自分を神に近い存在だと錯覚することも多かった。
才能がなければ、錬金術はできない。
それが特権意識を産みだし、凶行に彼等を走らせる事がとにかく多かった。
同胞が組織されたのは、母が自我に目覚めてからしばらくして。ロテスヴァッサ王国が出来てだいぶたった頃だが。
各地でそういったクズ錬金術師を次々に仕留めていき。
少なくとも、神代の継承者を気取ろうとする阿呆は、一人残らず刈り取り。そいつらが「神の時代をもう一度」と目論んでいた技術は全て回収、破却してきた。
今ロテスヴァッサを抑えているのは、此処が現状の人類文明にとっての最重要拠点だからだ。
そうでなければ、こんな腐った権力の井戸に、誰がいるか。
ただカーティアはカーティアで。弱き者を守ろうという意思はある。
強い力を持っているのなら、より弱い者を守り盾になるのは当たり前だ。
そう自然に考える事も出来ている。
これはまったくそれとは真逆の。
強い力があるのなら搾取して良いと考える、神代の錬金術師やその後継。今のロテスヴァッサの王族や大半の貴族に対して強い憤りがあるからというのもあるが。
ロテスヴァッサで弱者のために戦い続けて。
自分はこれがあっていると思う。
助けたところで、人間の大半は感謝なんかしない。
それは分かりきっている。
だが、たまに感謝されて。泣いて喜んでいる様子を見ると、少しだけ凍った感情が動くのである。
希望たる存在アインのためにとも思うのだが。
それと同時に、やはり弱者を見捨てる事も、カーティアには出来ない。
暴を振るいエゴのために搾取する輩を斬り捨てることは、なんとも思わない。
むしろ殺せばすっきりするくらいだが。
しかしカーティアは、何もかもを殺せと言われた場合。
躊躇してしまうだろうなと思っていた。
顔を上げる。
指示が来た。
コマンダーから。パミラからだった。
「此方パミラ」
「此方カーティア。 コマンダー、状況に変化でしょうか」
「ううん。 戦闘の推移は順調?」
「気配から感じるに、ライザ達は二度門を潜った様子です。 しかしながら、ごく短時間で戻って来ています。 負傷もしたようです」
そう、とコマンダーは呟く。
コマンダーは良く分からない存在だ。
人間では無いことは分かっている。
肉体はカーティア達と同じものを使っているが、その割りにスペックが高すぎるのである。
だからパミラをコマンダーとする事に同胞の中で異論が出たことは無い。
「母」と友人のように接している事に不満を持つ者はたまにいるのだが。
そもそも肉もない「母」に対して、なんの偏見もなく接しているのも事実だし。
何より汚れ仕事は誰よりも積極的に行う。
それらの行動が、パミラに対する不満を抑え込んでいるのも事実だった。
「最悪の場合は精鋭を募って突入しますか。 事前のオーリム側からの分析の結果、今回の王種はカスタムタイプの中でも特に強力な個体。 多くの同胞が倒れるのは仕方が無いかと思いますが」
「ううん、今回は恐らく歴史のターニングポイントになる。 ライザ達は、きっとあの王種を倒す事が出来るはずよー」
「どうしてそのように断言できるのですか」
「今まで私が見てきた凄い錬金術師……此処で言うのは能力だけではなくて、歴史を変えてきた錬金術師達だけれど。 皆、性格は違ったし、中にはとても獰猛だったり、心が深淵そのものだった人もいた。 ただ共通して、自分の事を世界の事に優先しなかった。 野心を持っている子もいたけれど、それでも絶対に世界を自分の都合で掌握して何もかも自分のものにしようとはしていなかった」
パミラの正体は同胞の間でもよく分かっていない。
神なのではないか、という声も根強い。
肉として同胞と同じものを母から提供されて活動している、高次生命体。だとすれば、パミラの強さにも納得が行く。
パミラが見て来た錬金術師というのは、恐らく神代の存在ではないだろう。
それだけは、カーティアにも想像がつく。
「だから、見守りたいの。 きっと、ライザはうまくやれると思う」
「分かりました。 ただ、最悪の事態に備えて、全ての準備はしておきます。 それに……人は変わるものです」
カーティアにも苦い記憶がある。
まだ若い頃には、輝くような善性を持っていた人間が。
どんどん汚れて荒んで行き。
最後には匪賊にまで落ち、平気で老人や子供を殺戮し、略奪するようになる有様を。
カーティアがそいつを斬りにいったとき。
そいつはカーティア姉さんと叫んで、許しを請うふりをして。そして不意を打とうと斬りかかってきた。
信じたかったが。
それが、結果だった。
首を刎ねて、そして持ち帰った。そいつが手下にしていた匪賊も、みんなその場で斬り殺して、命を刈り取った。
人間は変わる。
ライザだって、変わらないとは限らない。
だから、今なら。
まだ倒せる今なら。そう、カーティアも考えてしまう。
希望たるアインが受けた悲惨な記憶は共有している。
だからこそに、余計にである。
「もしも、ライザが変わってしまうようなら」
「……」
「その時は、私が斬るわ」
「その時は、お供させていただきます」
通信が切れた。
カーティアはため息をつく。ライザは休憩を挟んで、更に仕掛けるつもりのようである。
恐らくは、橋頭堡を構築して。
それから王種を仕留めるべく、戦略的な行動に出るのだろう。
雨でも降らせるのか。
それとも鉄砲水でも引き起こすのか。
フィルフサに汚染されている土地だったら、一度土壌を押し流してしまわないと駄目なケースが多い。ライザはそれを把握していると、既に報告を受けている。だが門の向こうは水があって、フィルフサが母胎にしていない。
さて、どう動く。錬金術師、ライザリン=シュタウト。少なくとも今は善性がある、この世界の歴史でも珍しい善なる錬金術師。
ただ、今は。
作戦に従って、カーティアは待つしかなかった。
(続)
ついに始まった王都近郊におけるフィルフサとの決戦。
数百年前に時間稼ぎが精一杯で、封じ込めるだけが精一杯だった存在と。
今、決着を付ける時が来ました。
※自然門について
原作ではアンペルさんがあっさり閉じる事に成功していますが、そもそも原作では明らかに建物の中に存在していたりと(あの強力なフィルフサ相手に戦闘中に、建物なんかつくれるか?)、3で開示された自然門の設定に照らし合わせると不可解な点が多く見受けられます。
というわけで本作では、自然門があるのは洞窟の中という風に変えています。それも直通路の。
これによって、数百年前にエンシェントドラゴンの西さんが、何を起こしてしまって。それで後悔しているのか、なんとなく分かるかなと思います。
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