暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

131 / 150
圧倒的な戦力を誇る今度のフィルフサに対して、二度、押し戻されたライザ達。

しかしながら、オーリムは相手の土俵で、そこに殴り込まなければいずれは敵の侵攻を許すだけです。

遺跡周辺を湖にして全てを沈めるのは最終手段。王都に甚大な被害が出ることになるからです。

ライザは苛烈な戦闘の中、突破口を探します。


血雨波濤
序、三度目の突入


先にあたしは、皆に説明する。

 

どうやって雨を降らせるか。

 

以前は、オーリム……グリムドルから古代クリント王国の錬金術師どもが奪い取った水を戻し。乾燥。それに大量の粉塵を利用して、上空に巨大な雨雲を作り、其処に水分を供給し続ける事で、文字通りの土砂降りと、水害を引き起こした。

 

それでいいと、グリムドルで戦い続けていたキロさんはいってくれた。

 

フィルフサに汚染されきった土壌は、一度押し流してしまわないといけない。

 

そうしなければ、フィルフサの母胎となった土は、再生しないのだと。

 

今回は、どうすべきか。

 

空気は乾燥しきっていない。

 

地盤は砕いた。

 

水はかなりある。此処に何を加えれば、大雨を作り出せるか。

 

あたしは、持ち込んだルフトを全て取りだして。その上で作戦を説明する。

 

雨は、素の状態でも降るはずだ。

 

だが、それがいつ降るかなんて事は、まったく分からない。

 

だからこそ。

 

雨は無理矢理此方で誘発する。それも、土砂降りでなければ駄目だ。少しだけ交戦しただけでも、今回のフィルフサの群れは、三年前の連中とは比較にならない強さである。しかもまだ将軍とやりあっていない。

 

三年前は、まだ未熟な段階だった皆が、総力で掛かれば将軍を倒す事が出来た。雨が降っていなくても。

 

今回は、皆で掛かれば将軍を倒せる可能性はあるが。

 

これは、厳しいといわざるを得ない。

 

将軍級のフィルフサはそれぞれが個別の能力を持っていることが多く、勿論魔術も使ってくる。

 

ましてや、ちらっとだけ見えた王種は、油断もせず周囲に将軍を侍らせていた。

 

いずれにしても、土砂降りを引き起こさないと、まともな戦闘を発生させることも出来ないだろう。

 

だから、戦いやすいバトルフィールドを準備するのだ。

 

それを淡々と説明して、必要な処置について話をする。そのやり方を聞いて、パティは青ざめていた。

 

「そんな乱暴なやり方で雨を降らせるんですか!?」

 

「今はやるしかない。 向こうの土地が大きなダメージを受ける。 だけれども、生態系はフィルフサに蹂躙されている途中。 このままだと、どうせフィルフサに全て食い尽くされる。 だから、やるしかないんだよ」

 

土砂降りになれば水害になる。

 

特に小型の生物はひとたまりもないだろう。

 

だが、それでもやるしかない。

 

全滅を避けるには、それしかないのだ。

 

こっちの世界に対する被害の事は、此処では考えていない。

 

オーリムの、まだ残っている動植物に対する被害を考えている。

 

既に地形については、二度の威力偵察、更には地盤粉砕での戦闘で、タオが地図に起こしている。

 

地盤を粉砕したことで、沼になっていた元の場所は。更に水が増えているはず。フィルフサがそれを埋め尽くしているとは考えにくく。

 

一度距離を取って、再度の突入作戦を目論んでいる筈だとも。

 

だが、フィルフサに先手は取らせるわけには行かない。

 

先手を取らせたら。

 

その時点でこの戦いは、負けるのだ。

 

とにかく相手は数に優れ、戦力にも優れている。こういう相手とたたかうときは、先手をくれてやらないこと。

 

相手を攻めきって倒しきること。

 

それしかない。

 

昔のアーミーだとどうだったか知らないが、少なくともあたし達にはそれが最善手である。

 

脳筋に思えるかも知れないが。

 

実際問題、他に打つ手はないのだ。

 

セリさんは納得しているようだ。

 

この人も植物を扱ってきた人である。

 

あたしの考えとはにているのかも知れない。

 

あたしも農家の娘だ。

 

どうしても斬り捨てなければならないものがある事は、理解している。

 

その斬り捨てなければならないものを選ぶ基準に、信念はあるが。

 

ただそれだけだ。

 

「大雨を降らして、その後はどうするの」

 

「タオ、三つ目の荷車を準備できる」

 

「うん。 三つ目だね。 確か、拠点構築用の物資を積んで来ているんだったね」

 

「大雨を降らせて、相手を混乱させ次第。 泥の中に荷車に積んできた物資を使って、簡易拠点を構築。 以降は、そこを中心に、フィルフサを叩く。 数を減らしていったら、将軍と王種に仕掛ける」

 

作戦と呼べるほどのものでもないか。

 

ともかく、大雨を降らせないと話にもならない。

 

タオが三つ目の荷車を回収に行く。

 

建築用接着剤、石材、それに強化した木材も詰め込んである。いずれもが、拠点用にあたしが準備したもの。

 

以前から、遠めの遺跡に仕掛けるときのために、拠点構築の手際をよくするべく、工夫は続けて来た。

 

今回はその集大成になる。

 

今後遠征するときには、アトリエを作る事すら可能になるはずだ。

 

ただし、釜は流石にどうにも出来ないから、釜だけは荷車に積んで移動して行く事になるだろうが。

 

いずれアトリエを。

 

ライザのアトリエ出張所を作るときのために。

 

釜を増やすか。

 

今だったら、エーテルに耐えうる釜を作る事は可能だ。ただ、それは今すぐにやる事じゃない。

 

物資を皆で確認。

 

まずは大雨を降らす。

 

そのために、今用意した大量のルフト、更に上位互換のレーツェルフトは使い切ってしまう。それに加えてプラジグ多数も。

 

回復薬を見る。

 

もしもこれで足りない場合は、広域制圧型のグランシャリオをあたしがぶっ放す必要も生じる。

 

また、コレに加えて、クラウディアにも上昇気流を作り出すのを手伝って貰うことになる。

 

あらゆる準備をしていくが。

 

全てが上手く行くとは限らない。

 

だから、可能な限り準備をして、最終的に「上手く行かせる」のだ。

 

失敗があっても、それをカバーできる。それが、一人前というものだ。

 

今、フィルフサは体勢を立て直すのに必死の筈。

 

そこがつけいる隙だ。

 

ともかく、もっと激しい水で奴らを攻め立てないと、戦いにならない。

 

三年前の戦いだって。

 

今のあたし達でも、正面から地の利と水なしでフィルフサの群れに勝つのは無理だっただろう。

 

今回のフィルフサの群れは、個の戦力が三年前より桁外れに上昇している。

 

その分数が少ないが、そもそもゲリラ戦を基本としなければならないあたし達には、厳しい相手であるのも間違いない話だった。

 

此処でミーティングを済ませる。

 

オーリムに突入後、しなければならない事はいくらでもある。

 

リラさんとセリさんに、戦地となる門の向こうはオーリムのどの辺りなのか分からないか、話は聞いてあるが。

 

二人も分からない、と言う事だった。

 

地の利はなし。

 

フィーがずっと心地よさそうにしていることくらいか。救いは。

 

ここのところ、調子が悪そうな日も多かったから。

 

これはあたしにとっては、不安要素が減る事となっていた。

 

クラウディアが、荷車からサンドイッチを取りだす。

 

この場で食べておくには丁度良い。

 

今後は新鮮な食べ物は口に入れられなくなる。保存食は持って来ているが。だから、ここで士気を挙げておくべきだ。

 

それは、あたしも分かっていた。

 

「皆、これを食べておいて」

 

「甘いものはないのかクラウディア」

 

「ごめんなさい、ちょっとお菓子は焼いてくる暇がありませんでした」

 

「そうか。 いや、すまない。 我が儘をいったな」

 

アンペルさんが多少不満そうだが。

 

それでも駄々をこねるほどではないか。

 

アンペルさんも地はかなり子供っぽい事はあたしも知っているが。

 

それはそれ。

 

こう言うときは、きちんとした振る舞いが出来る人だ。

 

皆、戦闘をこなしたばかりと言う事もある。

 

すぐに旺盛な食欲で食べ終えてしまう。

 

戦闘慣れしていない人間は、こう言うときは食べる事が全然出来なかったりするものなのだが。

 

皆、相応に戦闘経験を積んでいる。

 

ボオスもそれは同じだ。

 

まあ、クーケン島で散々色々な事もあったし。

 

そもそもアガーテ姉さんに鍛えられたという事もある。

 

ボオスも、肝が据わっているのは、当然だと言えた。

 

「うまいな。 ただいつもと味が違う?」

 

「今日は長丁場になる可能性があったから、傷まないように酸味があるものを増やしておいたの」

 

「大丈夫だよクラウディア。 ちゃんとおいしい」

 

「良かった」

 

勿論、誰も文句は言わない。

 

立ち上がると、皆頷く。

 

第三次突入作戦開始だ。タオには、先に四つ目の荷車を持って来て貰ってある。それと同時に。

 

現在二度の突入を実施。

 

フィルフサの激しい抵抗にあいつつも、これから橋頭堡を確保。フィルフサの首魁を討ち取る作戦を開始する旨を後方にいるカーティアさんに告げてある。

 

勿論、定時での連絡についても。

 

オーリムと此方では、時間の流れは変わらない。これは何度もグリムドルと行き来したあたしが断言できる。

 

だから、伝令を出し損ねて。

 

最悪の事態にも、此処を湖の底にしてしまう最終作戦を、ミスする事もないだろう。

 

レントが最前衛に。

 

パティはなんどか頬を叩くと、一気に空気を緊張させた。

 

リラさんも、体勢を低くする。

 

相手側が、今の瞬間も逆侵攻してくる可能性があるからだ。

 

GO。

 

あたしが指示を出すと同時に、全員が突入。

 

あたしは先頭の三人に続く。

 

そして、地盤が粉砕された、オーリムの地に出ていた。

 

最初に、ぐしゃっと音がする。

 

沼地の地盤が粉砕された。それだけじゃあない。辺りの地盤が、完全に粉砕されて、フィルフサの一部は、地面に半ば埋まってもがいている。

 

敵は一旦距離を取って、陣列を再編制しているようだ。

 

好機。

 

どうやら、想定通りに動いてくれている。

 

これだけ水浸しの状態だと、地下からの奇襲は警戒しなくていい。前は地下も含む全方向を警戒しなければならなかったが。

 

今回、足下を気にしなくていいだけでも、随分マシだ。

 

その代わり、上空に敵。複数。

 

かなりの数、大型フィルフサが飛んでいる。そして、あたし達の再突入を即座に感知して。凄まじい雄叫びを上げていた。

 

「来るぞ!」

 

「好都合っ!」

 

あたしは即座にルフトと、更には水を吸い出すのに使った道具をセット。

 

これはもう必要ないので、最悪ぶっ壊してしまってもいい。こんな道具は、技術だけでも残してはいけないのだ。

 

だが、それでも時間があるのなら。

 

この作戦では、フルに使い倒す。

 

クリフォードさんが、急降下攻撃を仕掛けてくる飛行型を迎撃。同時にセリさんが、巨大な植物を成長させて、それで迎え撃つ。

 

皆に任せる。

 

「ライザ、急げ! 周りが!」

 

「分かっています!」

 

地盤が悪くて水浸しでも、それでもでかい図体にものをいわせて、フィルフサが一斉攻撃の態勢に入ろうとしている。

 

この間皆に大きな被害を出した砲台型もいる可能性が高い。

 

このフィルフサの群れには。

 

三年前にも、グリムドル近辺でも見られなかった個体が多数いる。

 

フィルフサが殺した生物の特徴をどんどん取り込んで強くなることはあたしももう知っているが。

 

この群れはドラゴンだけではなく。

 

非常に強力な生物の特徴を取り入れて、強くなっている可能性が高い。

 

そうなれば、どんなえげつない能力を持っていても、不思議ではないだろう。

 

ルフトの積み上げ完了。

 

地面は、建築用接着剤で硬化させた。

 

更に、幾つかの爆弾をセット。

 

持って来た土嚢も積み上げる。

 

準備良し。

 

あたしは、叫んでいた。

 

「離れて!」

 

「おうっ!」

 

全員が、統率された動きで飛び離れる。

 

クリフォードさん。

 

飛行型と、空中で格闘戦の最中。だが、セリさんが植物操作で蔓を飛ばし。ブーメランを噛んだ飛行型と空中でやりあっていたクリフォードさんは。蔓を掴んで、その反動を利用して、一気に飛び離れる。

 

ブーメランにかけている固有魔術も利用したのかもしれない。

 

次の瞬間。

 

あたしは、充分と判断し。

 

ルフトを一斉に起爆していた。

 

設置範囲から、文字通りの竜巻が瞬間的に巻き起こる。

 

暖かい地方にいった経験がある行商人が言っていたっけ。

 

暑い中、時々とんでも無い雨が降り。

 

とんでもない竜巻が起きる地方があるのだと。

 

そういう地方では魔物も強く、植物も強いと。

 

浅黒い肌の人は見たことがある。漁師の人達はみんなそうだし。サルドニカを回している人達も、基本的に肌は浅黒い。

 

だが、そういった暑い地域に順応している人々は、更に比べものにならないほど肌が黒いそうだ。

 

ともかくとして、そんな暑い地方に起きる様な。

 

怪物級の竜巻が、その場に発生。

 

とんでもない圧力が、辺りを蹂躙する。それは、設置してある水を噴出する道具による水を、一気に上空に巻き上げ。

 

更には、周囲の脆弱な地盤。

 

それだけではなく、持ち込んだ土嚢も。

 

一気に空に巻き上げていた。

 

クラウディアが、矢を一斉に放つ。

 

それは空中でぐんと曲がって、辺りの地面を更に打ち砕く。打ち砕かれた地面が、空に更に粉塵を巻き上げる。

 

良いだろうと判断したあたしが。

 

上空で、プラジグを。雷撃爆弾を炸裂させる。

 

恐らくは、これが決定打になる筈だ。

 

一気に上空に、雲が広がり始める。まずは上昇気流で水と、雲の核になる粉塵を大量に巻き上げる。

 

三年前の戦いの時と違うのは、土地が乾燥していないこと。

 

三年前は土地が乾燥していたから、クラウディアが全力での射撃で巻き起こした一度の上昇気流だけで、あたしが用意した大量の水と土が空に吸い込まれ。

 

文字通り滝のような大雨が降り注いだ。

 

今回は、それだけではダメだと判断。

 

上昇気流をルフト多数による全力での竜巻に切り替え。

 

更には、それによって粉塵も巻き上げ。

 

元々水分がある所に、過剰すぎる程の水分を追加する事で、大雨を発生させる。

 

だけれども、今回は元々水が相応にあったのだ。

 

恐らくだが。三年前よりも更に短時間で、フィルフサとの決着を付けなければいけない筈である。

 

フィルフサが、明らかに動揺している。

 

全員が集まって、防御陣形を取る。

 

門の辺りも、竜巻の範囲内だ。荷車は、ボオスが引いて先に退避させた。危険な中、良くやってくれたと思う。

 

次の瞬間。

 

雨が降り始めた。

 

最初はぽつぽつと。

 

だが、それが。

 

空で荒れ狂うドラゴンのように踊り回る雷とともに。激しい雨になるまで、ほんの数秒もかからない。

 

辺りに、世界が終わったかのような、土砂降りが。

 

乾期が終わった時に。

 

クーケン島周辺に降るような、とんでもない土砂降りが、降り注ぎ始めていた。

 

フィルフサが、揃って悲鳴を上げはじめる。

 

あたしは、土砂降りと雷が荒れ狂う中。

 

叫んでいた。

 

「突貫! 一カ所から順番に崩すよ!」

 

如何に強くなっていても、フィルフサが水に弱いという事実は変わらない。

 

ましてや足場が駄目になっていて、図体がでかい奴はなおさらダメだ。

 

更にこの状況。

 

空を飛んでいた飛行型は、空中で大量の雨と風をもろに受けている。すぐに墜落していく。

 

だが、分かっている。

 

突貫した先にいるのは、小山のようなフィルフサ。巨大な亀か何かをベースにしているのだろう。

 

口を開けると、魔術による光弾を乱射してくる。

 

豊富な魔力量と、強大な装甲を武器にした要塞型だというのは一目で分かる。

 

雨で装甲が敗れても、火力が健在と言う事だ。

 

リラさんが、上空に躍り出ると。

 

あたしが熱槍を乱射して、敵の攻撃を片っ端から迎撃する。

 

回転しながら、リラさんがフィルフサの装甲に真上から突貫。普段だったらびくともしないだろうフィルフサが、大雨によって装甲が駄目になっていたこともあり。瞬時に大穴を開けられ。

 

更にコアも砕かれたのだろう。

 

地面に力無く伏せる。

 

小型、中型も来るが、まとめて蹴散らす。ともかく、相手が混乱から立ち直る前に、少しでも減らす。

 

そして、タオが言っていた、少し小高い地点を目指す。

 

よし。地盤はある程度無事だ。

 

何度か往復して荷車を運び込むと、あたしはボオスに手伝って貰って、拠点を急いで構築する。

 

その間も、混乱しながらもフィルフサの群れが次々に仕掛けて来る。

 

その迎撃は、皆に任せるしかなかった。

 

これで、やっと戦える状態が整ったのだ。

 

まだ、とてもではないが。

 

勝ったなどとは口が裂けても言えなかった。

本作の次に連載する作品はどれが良いですか?

  • 暗黒!アトリエシリーズのまだ未掲載の作品
  • 真女神転生Ⅲの二次創作(真Ⅴ要素なし)
  • 流行り神二次創作
  • その他二次創作
  • オリジナルの長編
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。