暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
呼吸を整えながら、拠点に戻る。まだ大雨は大丈夫。最悪の場合は、また大雨を降らせる事になるが。
それには準備もいるし。
何度も出来ない。
アーベルハイムだって、ずっと緊急事態として動くわけにもいかない。
雨は、あと二日降り続けば良い方だろう。
どうにかして、勝負を決めなければならない。
あたしは、皆を見回す。
とりあえず動けてはいるが、全員ボロボロだ。
交代で休むように皆に促して。
あたしは、クラウディアと。タオと。話をしておく。
「将軍を倒して、二つ目の群れは瓦解させられた。 でも……」
「うん。 残りの群れは早々に戻って、王種の側で守りを固めているようだね」
「将軍が最低でも二体。 厳しいね……」
「将軍はドラゴンとやり合えるくらいの遠距離戦闘手段は持ってる。 遠距離戦は、分が悪いだろうね」
大雨で、辺りの水没も激しい。
将軍麾下のフィルフサは、かなり数を減らしているはずだが。雨に濡れてなお、将軍は強い。
二体目の将軍とも激戦になって、はっきりいって勝てたのは運が良かったと思っている。それくらいの難敵だった。
レントは無言で横になって、先に休みはじめた。
頑健なレントですら、それくらい消耗したと言う事だ。
あたしは嘆息すると、クラウディアが帰路に調べてくれた地図を、タオと一緒に検討する。
「一度フィルフサの方から堰を切ったことで、この辺りが水没している可能性が高い、という事だね」
「うん。 この辺りを渡るのは無理だと思う」
「考えたな。 遊撃隊と時間差で動いた将軍で、あたし達を殲滅できなかった場合は、水を防壁にして身を守る。 一見戦力の逐次投入にも見えるけれど、王種と将軍二体が一緒にいたら、生半可な相手には負けないことも知ってての動きだ」
小賢しいとは思わない。
単純に賢いのだ。
と言うか、賢すぎる。
雑に攻めこんできていた三年前の「蝕みの女王」の群れとは雲泥の差である。
規模が小さいのが救いだ。
三年前と同様、百万規模の群れだったら、それこそどうにもならなかっただろうとあたしは思う。
ただその場合は、この土地にあった国では、防ぎ切る事がそもそも出来なかっただろうとも思うが。
「それにしてもライザ。 私、不思議に思うんだ」
「うん?」
「此処のフィルフサは強いよ。 将軍だって、他のフィルフサと負けていないと思うし。 それなのに、どうしてこんな劣悪な地形を……フィルフサにとってだよ。 劣悪な地形を突破してまで、人間の世界を狙って来ているのかな」
「知能が高いと言っても、会話まで出来るとは思えない。 だから……それは分からない可能性が高そうだけれど」
既にエンシェントドラゴンの西さんから聞いている。
古代クリント王国は模倣者。
神代に、更に悪辣で邪悪な錬金術師集団が存在した。
そして以前仮説を述べたが。
フィルフサは、生物兵器の可能性がある。
もしも生物兵器なのだとしたら。
ただ、命令通りに動いているのかも知れなかった。
「フィー!」
フィーが懐から出て来て、飛び回り始める。
調子は良さそうだが。
それ以上に、もう休んだ方が良いよと、言われているように思った。
タオもそれを察したのだろう。
苦笑いする。
「俺が見張りに立つ。 先に休んでおきな」
「クリフォードさん」
「ありがとうございます。 先に休ませていただきます」
「おうよ」
最初クリフォードさんに警戒していたらしいクラウディアも、今はもう警戒している様子はない。
気を利かせてくれたクリフォードさんに甘えて、先に休ませて貰う。
横になると、無理を続けて疲れが溜まっているからだろう。
すぐに眠気が来た。
あと一日で、どうにか将軍二体を仕留め。
そしてもう一日で、王種を倒す。
それが出来なければ、多分この群れを仕留めるのは不可能だ。特に王種を逃がしでもしたら。
母胎になる土から手下をわんさか作り出し、また侵攻に来るだろう。
それだけは、許すわけにはいかないのだ。
とにかく、明日中に王種を丸裸にする。
そうするためには。
今は鋭気を養わなければならなかった。
セリは拠点から出ると、じっと外を見つめる。
オーリムに、こんな形で戻るとは思わなかった。
ただ今は、荒れに荒れていて。とても穏やかな土地とは程遠い。
ただオーリムは、そもそも戦力に長けたオーレン族だから生きていける土地だ。生物は基本的に昔から強靭だった。
フィルフサが比較対象としておかしすぎるのである。
この土地に、しばらく留まろうかな。
そう思う。
勿論勝った後だ。
その時には、ライザと連携して、しばらくはこの土地に留まり。緑化を急いでしようとも思う。
オーレン族に生き残りはいるだろうか。
いる可能性はある。
だけれども、この土地に侵攻してきていたフィルフサはあまりにも強大で強靭だ。それを相手に、どれだけ生き延びているか。
屈強な精鋭揃いである霊祈氏族が守っていたグリムドルでさえ、数が多いだけの群れに蹂躙されたのだ。
この土地にいたオーレン族が、どれだけ生き延びているか。
あまり希望的観測はもてなかった。
ただ、希望があるとすれば。
完成した、土地浄化用の植物。
これさえあれば、この近辺にあるだろう。今攻めてきている王種の母胎の土を、そのまま浄化できる可能性がある。
王種さえ仕留めれば、どうせフィルフサは離散する。母胎の土に対して、安全に実験が出来るだろう。
そして上手くいけば、
故郷に凱旋を行う事が出来るかも知れない。
オーレン族にとって最後の砦とも言える土地になっている故郷、ウィンドルにだ。
雨を拭う。
涙も一緒に拭っていたかも知れない。
まだ勝った訳ではない。
此処の王種は手強い。
オーレン族基準でも、そう滅多にいない精鋭を集めたこの集団。更には。歴史上希に見る珍しい良き錬金術師に分類できるだろうライザが加わっても。倒せるかまだ分からないほどだ。
だから、皮算用は避けたい。
それでも希望がどうしても、心を動かす。
ずっと冷え固まっていた心が、少しずつ温まる。
拠点に戻る。
心を乱せば、勝てるものにも勝てなくなってしまう可能性が高いだろう。
今はまだ。
勝った後の事を考えるのは、早い。
そう自分に言い聞かせながら、セリは休憩を取ることにした。少しでも、勝率を上げるために。
(続)
単純に強いだけではなく、知略でも反撃をしてくる異色すぎるフィルフサの群れ。
このような相手との長期戦は文字通り破滅を意味します。
しかしながら、それでも焦れば負けは確定です。
神経を削る戦闘が続きます。
負ければ世界は終わるのです。
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