暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
遠距離制圧型。
そして攻撃特化型。
敵の群れを突破したリラさんが、丸々とした黒い将軍に躍りかかる。丸々としている……恐らく甲虫の要素を取り込みつつ、他にも頑強な生物の特性を取り込んでいるのだろう。そいつはレントから見ても。
レントが今手にしているゴルドテリオンで主体を構成し。更にはグランツオルゲンという超ド級の金属で威力を上げている大剣でも。
苦労するのは、目に見えている相手だった。
リラさんが、立て続けに攻撃を叩き込む。
その凄まじい攻撃は、今見ても凄まじいと言わざるを得ない。レントにとっては師匠に当たる人だが。
今でも、師匠と呼ぶしか無いほどの力量の差がまだある。
ただ、単純なパワーだけなら、もうレントが上だ。
これだけの雨、更にはさっきの強烈な波濤に晒されても、なおも鉄壁を見せつける黒いフィルフサ。
こいつくらいは撃ち倒さないと。
此奴らを束ねる王種には、恐らくは届かないだろう。
リラさんの攻撃が、悉く弾き返される。
続いてタオが、数度斬り付けて、距離をすぐに取る。
巨大な丸っこいフィルフサの将軍は、足を上げると、二人に向けて振り下ろす。地盤が粉砕されるほどのパワーだ。
硬くて重くて。そして力強いか。
分かりやすい相手である。
振動が来る前に、レントは跳躍。
裂帛の気合とともに、大剣を振り下ろしていた。
一撃が入るが、完全に弾かれる。
舌打ちして飛びさがると、ぐっと引いたフィルフサの将軍を見て、即座にガードの体勢に。
シールドバッシュの要領で、将軍が身を叩き付けて来る。
レントも、全身で踏み込んで、一撃を受けて立っていた。
だが、吹っ飛ばされる。
地面でバウンドして、それで必死に立ち上がる。流石だ。舐めてかかれる相手でも、パワー勝負で勝てる相手でもないか。
三年前、雨で弱体化しているフィルフサの群れを、水害で散々流してやった。
だがそれでも将軍は強かった。
雨で弱体化していても、なおも強大な壁として立ちふさがって来た、最後に残っていた将軍を思い出す。
ライザがフィルフサに対しては珍しく、その最後に敬意を払っていた。
あれから、随分腕を上げて、力も強くなったつもりだ。
だが、それでも流石にパワー勝負で勝てない相手なんて幾らでもいる。
頭では分かっていたつもりだ。
しかし、雨で弱体化してこれか。
そう思うと、苦笑いが浮かんでくる。
世界にはまだまだ強い魔物が幾らでもいるはずだ。雨で弱体化していなければ、こいつとはまともにやりあうことすら出来なかったはず。
タオが、残像を作りながら激しい攻撃を浴びせている。リラさんも、それにあわせて次々と体術での一撃を入れている。
「斬撃、ダメだ。 ほぼ通らない!」
「打撃もダメだな。 衝撃がまるごと殺されているようだ」
「タオ、何か攻め倒す隙は」
「分からない! とにかく、攻撃を少しでも入れて!」
情報がなければ倒せない、か。
まあいい。
レントも血を吐き捨てると、再び躍りかかる。
幾らでも来て見ろ。
そう黒い将軍は言わんばかりに悠々としていて、時々猛烈な勢いで足とか振るって反撃してくる。
今まで、数多の敵を殺して、踏みつぶしてきたのだろう。
それが伺える、圧倒的な強者の動きだ。
本来だったら、ある程度好感を持てたかも知れない。
だが、フィルフサとは生き方がそもそも相容れないのである。
此奴は、ここで仕留めるしかない。
そうしなければ、どれだけの被害が出るか、知れたものではないのだ。
雄叫びとともに斬りかかる。
全力を込めた、それもゴルドテリオンの刃だが。それでもがつんと弾き返される。これは、本当に鉄壁か。
だが、僅かに傷はつく。
水がこれだけ弱らせていても、この強度。
一体どうやっているのか。
タオが飛びさがる。
レントは踏み込むと、横殴りに振るわれた足をそのまま弾き返す。
吹っ飛ばされるが、それでもタイミングはあった。リラさんが、それで余裕を持って離脱出来た。
「タオ、何か分かってきたか」
「……僕が手数を増やします。 支援、お願い出来ますか」
「ああ、任されたぜ」
タオが両手にしている剣は、かなり小ぶりなものだ。
ボオスも二刀流にしているが、ボオスの場合は長剣と短剣をそれぞれ使い分けている戦い方であり。
基本的に敵を斬るときは右手に持っている長剣。
左手の短剣は、防御と支援に使っている。
タオの場合は、両手の短剣はどっちも攻めも守りも担当する、変幻自在の剣術である。
昔は槌で体ごとぶつかって行っていたタオだが。
今では、すっかりテクニカルな戦い方が出来るようになっていた。
タオが、凄まじい手数を浴びせ始める。
蹴り技なども含んでいるようだが、とにかく相手が硬すぎる。痛くも痒くもない。そういう風情で、黒い将軍はタオを吹っ飛ばそうとするが。レントが割って入って、一撃を防ぐ。
リラさんも、隙を見て攻撃を入れているが。
リラさんの凄まじい……ライザほどでは無いが、より洗練されていて手数が多い蹴り技を受けても、黒い将軍はびくともしていない。
いや、まて。
タオが随分と早く飛び離れる。
リラさんも、それを見て離れたようだった。
レントが、足を振り上げた将軍に対して、今度はこっちからタックルを入れる。
拮抗。
弾かれる。
また吹っ飛ばされるが、少しずつタイミングが分かってきた。
こういう根比べは。
得意分野である。
「それでタオ、分かってきたか」
「うん、少しずつ。 レント、まだいける?」
「ああ、大丈夫だ」
「切り札、切る」
タオが、コアクリスタルから薬を取りだす。
あれはライザが作った、身体能力を一時的に上げる薬だ。ただ反動が大きいので、ここぞと言うときにしか使うなと言っていたっけ。
タオは元々戦闘力があまり高い方ではないから、切り札としてあれを手にしていたようだったが。
なるほど、分かってきたと言う事か。
薬を飲み干すタオ。
リラさんが、同じようにコアクリスタルから薬を、回復薬を出すと、一気に飲み下していた。
レントはまだいい。
一瞬の対峙。
そして、タオが仕掛けていた。
「せあっ!」
身体能力を強化したタオが、普段は頭の強化だけに使っている肉体強化の固有魔術を、全力で展開しているのが分かった。
速い。
今まで見た、どんな魔物よりも。
おおと、声が上がる。
昔は弱虫で、いじめられっ子だったタオは。もうすっかり背も伸びて、これだけの力を得ている。
これは負けていられないな。
レントは、大剣を構えて、タオが仕掛ける圧倒的な猛攻を見守る。
リラさんが体勢を低くして、詠唱を続けている。
あれは見覚えがある。
精霊の力を借りると言う奴だ。
レント達の世界にいる精霊王とは随分と違う代物のようだが。この状況だと、水の精霊の力を借りられるらしい。
リラさんの全身に、力がみなぎる。
そして、リラさんも、敵に躍りかかっていた。
怒濤の猛攻が二つ。
竜巻のようになって、黒い将軍を嬲る。いや、それほどの手数になっても、なおも黒い将軍は倒れる様子も、傷つく様子もない。
いや、そうか。
何となく分かってきた。黒い将軍は、凄まじい硬い強力な装甲を身に纏っているが。だが、形が一瞬ごとに変わっている。
これは、そういうことか。
「分かったよレント!」
「……全力での一撃を入れればいいな」
「そういうことだ!」
タオとリラさんに、レントは答える。
レントも身体強化の固有魔術だが。これはそもそも、殆どの人間がそうだ。
ライザの熱魔術や、クラウディアの音魔術はレア。肉体ではなく、ものの強化をするパティのエンチャントやクリフォードさんのブーメラン操作もどちらかというとかなり珍しい。セリさんの植物操作なんて、この世界の人間とは魔術の系統が違うと思う。アンペルさんの空間操作も、それに近いものを感じる。
だが、別にレアでは無いからといって、劣っているわけじゃない。極めれば、レア魔術と互角以上の強さを引き出せる。とにかく研究されているから、むしろノウハウは多く伝わっているくらいなのだ。三年、旅をしている間に。他の身体強化魔術使いから、レントは使えそうな技やノウハウを、貪欲に吸収してきた。やることは、やっていたのである。
レントは大きく深呼吸をすると。
文字通り、剣に全てを集中していく。
大雨が降り注ぎ続けている。
足場だって怪しい。
だけれども、それらが全て、遠くになっていく。前で戦っている二人と、そして。
一秒ごとに、形を変えているフィルフサの将軍だけが見えてくる。
横やりは、気にしない。
ボオスもクリフォードさんもクラウディアも、総力で制圧戦をしてくれている筈だから、である。
他二体の将軍は、皆がそれぞれ相手をしてくれているはず。
此方に横やりが入ることは、考えない。
雑念を極限まで絞り。
そして、剣そのものに、全ての精神を集中する。
少しずつ、相手の戦術の詳細が見えてくる。
やはり、黒い将軍は一秒ごとに形を変えている。だから、斬撃も打撃も入らない。だが、それには限界があるはず。
フィルフサはコアを貫けば死ぬ。
コアに凄まじい魔力を秘めていて、それが古代クリント王国の連中が、資源として回収しようとしていたものだったか。
いずれにしても、そのコアの魔力が、魔術を完全に弾く装甲を操作している。
その装甲には水という弱点があるものの。
だからフィルフサは、此方の世界の人間も兵器も、文字通り蹂躙する事が出来たのである。
数が多いから強いわけじゃない。
こっちの世界の人間とは、相性が悪すぎたのだ。
構えを取る。
狙うは、大上段からの一撃。
更に良く見えてきている。相手の弱点も、ついに見えてくる。
フィルフサの将軍は、左右からの猛攻に対して、全力集中している。レントの攻撃に対して、やがて対応できない瞬間が来る。
タオの時間は残り少ない。
あの薬の強化は、多分まだ続くが。
タオの体力が保たないのだ。
そうなると、リラさんだけで攻めきれるかという話になるが。そうなると、多分不可能だろう。
リラさんだけの攻めだと、決定的な隙を作り出すことはできない。
今は、タオを信用するしかないのだ。
鬱陶しいとばかりに、将軍が足を振るって二人を追い払いに懸かるが。
レントが弾くのを見て、二人とも動きのタイミングは見きっていたようである。両者ともに回避。
だが、それで完全に頭に来たのだろう。
フィルフサの黒い将軍は、全力で体内の魔力を増幅させる。多分、周囲全部を薙ぎ払う広域攻撃に出るつもりだ。
その瞬間。
レントは動いていた。
大上段に振り上げる。
踏み込む。
黒い将軍は気付く。だが、タオとリラさんが、危険を承知の上で、更に攻撃を加速させる。
特にタオは、これが最後の最後。
一気に押し込みに懸かる。
黒い将軍は、それでも全域制圧の魔術を発動させようとする。
だが、その時。
踏み込んだレントが。
己の剣技と。
研磨した肉体と。
ライザが作った最強の剣を振り下ろして。
常時装甲を操作する事で、あらゆる攻撃に対応していた黒い将軍に、一撃を叩き込んでいた。
うおんと、音がなる。
それが、空気を置き去りにして振り下ろされた大剣の声だと気付いたのは。
将軍の装甲を、文字通り叩き潰してからである。
将軍が、魔術詠唱をとめる。
何が起きた、と困惑しているように足を動かしていたが。それもやがて、収まっていく。レントの一撃は、装甲を完全に打ち抜き。
そして、コアも砕いていたからである。
ふうと、大きく息を吐く。
全身の力が抜けるようである。
レントも回復用の薬をコアクリスタルに入れている。それを口にして、どっかと座り込んでいた。
リラさんは。まだ余力がある。すぐに残敵の掃討に向かう。或いは、他の面々の手助けだろうか。
レントは少し動けない。
今更ながらに、雨に濡れて、滑り落ちかねない足場が怖くなってきていた。
「タオ、無事か」
「なんとか。 王種との戦闘で、筋肉痛とかが出ないといいけど……」
「あれだけ戦っておいて、良く言うぜ」
「僕は結局の所、戦士にはあまり向いていないのかも知れない。 戦うための力だって、結局は遺跡の調査に必要だから手に入れているんだし」
つまり二足のわらじというわけだ。
二足でこれだけやれれば充分だ。
そう呟くと、レントはともかく座り込んで。
少しでも、体力を回復するべく務める。
まだ、戦いは終わっていないのだから。
多数の小型フィルフサが、わらわらと蠢いている。なんとなく此奴らが、さきの遠距離狙撃を補助したのだと、ボオスには分かった。
とにかく剣を振るって、片っ端から倒して行く。
装甲も脆くなっている。
それに、どうにも逃げ腰だ。
あの凶暴なフィルフサとは思えない。
だけれども、これは凶悪な長距離砲の支援のためだけにいる、真社会性生物らしいフィルフサだと思うと。
刈り取らなければならない。
今、ボオスは。
皆と同じ戦場には立てない。
レント達が戦っている化け物みたいな黒い奴は、残像を作りながら攻めているタオとリラさんに対しても、猛攻を返している。
ライザとパティがやりあっている、蟷螂みたいな奴は。
それこそ、ボオスだったら一瞬で唐竹にされるような攻防を続けている。
砲台型だって、セリさんとアンペルさんの攻撃に対して、必死に反撃を続けているし。
クリフォードとクラウディアは、ずっと制圧戦闘を続けていて。その手際だって、ボオスの及ぶ所じゃあない。
ボオスは奥歯を噛む。
昔。幼い頃、ライザと喧嘩別れしてから、ずっと帝王教育に集中してきた。それには意味があったのだろうが。
先代のブルネン家当主が言っていたように。
今になって思う。
ライザと良い関係を維持して、刺激を得るべきだったのだと。
三年前にやっと仲直りしてから、得るものがどれだけ多かった事か。
それは今、こうして。
明らかに置いていかれている事からも、よく分かる。
ボオスは精々田舎の顔役止まりの人間だ。
それはボオス自身が分かっている。
都会の顔役が有能かというと、それは話が違ってくるが。いずれにしても、ボオスだってそんな大した器があるわけじゃあない。
だが、ライザは。
あれはクーケン島なんかに収まる器じゃない。
錬金術を得て飛翔したライザは、魔物に押されっぱなしのこの世界を、打開しうる。世界レベルの英傑だ。
事実三年前の戦闘では、フィルフサの王種を仕留めて。二つの世界が完全に終わるのを食い止め。
それどころか、問題が大きくなる一方だったクーケン島を。
建て直す事にまで成功している。
そのパワーはあまりにも凄まじい。
どうしても、自嘲してしまう。
タオもレントも。
ライザと一緒でなければ、此処まで伸びなかったはずだ。
今やタオは、世界的な学者に片手を掛けている。
レントは世界最強が見えてきているはずだ。剣士という分野に限って、の話になってくるが。
女としてのライザには、最後まで興味を持てなかった。
というか、ライザ自身が、女としての自分に興味が無かったように今になっては思う。
だから先代がいうように、ライザと婚約だのはしなかった。ボオスがもしもライザに興味を持てても、向こうから断って来ていただろう。
それについては。今は良い思い出だ。
ライザの実力は、既に人間の領域を超えかけているし。
その何処までも飛んでいく翼は。
人間という枠組みに収めていては、もったいないとすら感じるのだから。
大きめのフィルフサが来る。
死にかけているが、それでもボオスから見て、かなり手強い相手だ。クリフォードとクラウディアは、こっちに手を回す余裕は無い。
装甲がドロドロに溶けて痛々しいが。
だが、此処を通すわけにはいかない。
長剣を前に。短剣を引くようにして構える。
二刀流というのは、二刀を同じようにして扱うだけじゃない。それは、自分で研鑽して理解出来た。
理解出来ると実行できるは全く別の話で。
豊富な戦闘経験を積んだレントと組み手をしながら、この剣術を磨き抜いてきた。そろそろ、自分だけで剣術を発展させることが出来そうだが。
それでも、極めたところで。
多分アガーテ姉さんには勝てないだろうな。
そうボオスは内心で思う。
あの人は天才だ。
そういう人はどうしても存在している。
ボオスはあれこれ出来るが、天才にはどの分野でも及ぶことがない。
同年代に化け物ばかりいるから感覚が麻痺しているのかも知れないが。
それを素直に受け入れる事が出来る様になって。
ボオスは。やっと先に進めるようになったのかも知れなかった。
「来いよ。 俺じゃ少しばかり不足だろうが、相手になってやる」
挑発は通じたようだ。
大きな犬型のフィルフサは、体勢を低くすると、文字通り放たれた矢のように突っ込んでくる。
此奴くらいは仕留めきらないと。
ここに来た意味がないな。
そうボオスは考えて。泥濘を蹴って、敵に躍りかかっていた。
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