暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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3、最強の将軍

これだけの土砂降りの中ですら。

 

そいつは、絶対の死の権化に思えた。

 

蟷螂ににた鎌を一対持ち。全体的に他の将軍よりずんぐりとした体の彼方此方に武器を隠し。

 

更に、油断すると魔術まで放ってくる。

 

黒光りするその巨体は、間違いない。

 

以前、「蝕みの女王」を最後まで守ろうとした、あの将軍と同じ。多分、王種直下の最強の将軍だ。

 

構えを取る。

 

今の斬撃。

 

仕掛けようとして、振り下ろされた鎌が、パティとあたしを分断して。地面を派手に抉りぬいて。

 

衝撃波が突き抜けて。

 

泥水の中を走り抜けて。

 

十分の一以下になっていて、なおもこれかと、戦慄させられた。

 

こいつは王種を守るための親衛隊。

 

こいつが前線に出てくることはなかったのだろうが。

 

こいつがもしも最前線に出て来ていたら。

 

門を封印した国の戦士達なんて、それこそなで切りにされていたのではあるまいか。当時の武器が今より進んでいたとしても、とてもかなわなかっただろう。

 

「パティ」

 

「分かっています。 肌にびりびり来ます……」

 

「うん。 周りも……手助けの余裕は無さそうだ」

 

「泣きたいです。 こんな相手と、どうして知らない異界で戦っているのか……」

 

素直なパティ。

 

だけれども、そうはいかない。

 

これより強いのが控えている。

 

ただ、フィルフサの群れはこれで打ち止めだ。此奴を倒せば、孤立した王種と戦闘する事が出来る。

 

今までで間違いなく最悪の相手だが。

 

此処にいる全員掛かりでなら、充分に勝ち目はある。

 

そう言い聞かせて、あたしは顔を上げる。

 

此奴を倒せないと。

 

まずは、そこまでたどり着けないのだ。

 

最強の将軍は、既にあたし達を敵と認めている。だから、躊躇無く動く。顔に当たる部分が左右に展開すると。

 

何かの液を吐き出してくる。

 

それが地面に落ちると、激しく燃焼する。

 

立て続けに周囲を燃やしてくる将軍。そして、同時に。背中から伸びてきた触手と、その先端についている毒針が。

 

振り回され、襲いかかってくる。

 

速い。

 

十分の一以下で、この速度か。

 

それでも、昂奮物質が脳の中でドバドバ出ているからだろう。対応は、出来る。針を蹴り上げる。

 

毒をまき散らしながら、針が蹴り上げられるが。

 

今度は鎌が、同等以上の速度で、横殴りに来る。

 

避けることは不可能だ。

 

体勢を低くして、髪の毛を数本散らせ。低い体勢から。一気に将軍へと間合いを詰める。将軍の吐く燃焼液を回避。振り下ろされる鎌を回避。いずれも紙一重。

 

不意に、今度は突きが来る。

 

バックステップして、さがる。

 

将軍の腋から飛び出しているのは、匕首のように鋭い針だ。

 

なるほど、これらを全て同時に駆使してくると言う訳か。

 

将軍数体分の力。

 

同じような将軍とは、以前やり合った事がある。

 

だがこれは、それよりも更に純粋な力であれば上だ。

 

違う所もある。

 

王種を体を盾にして守ろうとしていない。

 

王種が指示を出しているのか、或いは。

 

それとも、あたし達が王種に対する脅威だと認識していて。先に仕留める事を優先しているのかも知れない。

 

後方至近。

 

犬型のフィルフサが飛びかかってくるが、無視。

 

クラウディアの矢が、其奴を射貫いて。吹っ飛ばしていた。

 

パティも、今の攻防をどうにか乗り切っている。二人で将軍を挟むようにして、ゆっくり移動しつつ、仕掛ける隙を狙う。

 

将軍が、全身を震わせる。

 

呪文詠唱だ。

 

あたしは、手元にあるプラジグを投擲。将軍が即応して、毒針でそれを弾こうとした瞬間、起爆。

 

炸裂したプラジグが、将軍の全身に雷撃を走らせる。

 

流石にこれはどうにもならない。一瞬だけ動きを止めた将軍に、あたしとパティが、同時に仕掛けていた。

 

だが、その時。

 

将軍の詠唱もまた、完了していた。

 

衝撃波が、周囲全てを張り倒す。

 

吹っ飛ばされる。

 

そして、見える。嫌にゆっくり。将軍の腹から、匕首が複数生えて。それが凄まじい勢いで飛んでくる。

 

なる程、この衝撃波で此方を拘束して。

 

そしてこの匕首で、串刺しにすると言う訳か。

 

シンプルだが手強い戦術だ。そしてあたしは、戦術を理解した瞬間に、体が動いていた。

 

匕首一つ目、そのまま足捌きで回避。だが、これは回避させるために撃ったものだとみて良い。

 

そのまま熱槍を炸裂させ、将軍の視界を塞ぐ。

 

そして、その衝撃を利用して、自身も吹っ飛ばす。

 

一瞬前まで自分がいた地点を、四つの匕首が貫いていた。凄まじい殺意だが、相手だって必死だ。

 

熱槍を連続して叩き込んで、将軍の気を引く。

 

その隙に懐に潜り込んだパティが、抜き打ち一閃。匕首の触手を、二本立て続けに切り裂いていた。

 

だが将軍は全くあわてず、そのまま足を振り下ろして、パティを追い払う。飛び退いた所に、毒針を叩き込んで、牽制どころかそのまま殺しに行く。

 

パティも必死にそれを迎撃しているが、迎撃がやっとだ。

 

あたしも前に。接近戦まで挑んでも、あの鎌の速度、尋常じゃ無い。しかもかなりの短時間の詠唱で、衝撃波で全周攻撃をしてくる。

 

手強いぞ、こいつ。

 

今まで戦った、何よりも。

 

今、手元に切り札があるが。

 

それを使うのは、最後の最後だ。

 

敵の手札をまず出し尽くさせる。それからだ。

 

将軍の足下に、熱槍を連射。ただし、それは氷の方だ。

 

ただでさえ泥濘の中で戦っている将軍が、それで動きを拘束される。詠唱しているあたしに気付いたのだろう。

 

無事な匕首を連続で飛ばしてくる。

 

幾つかは熱槍で迎撃。破壊するのは厳しい。魔術に絶対耐性を持つフィルフサの甲殻の一部だ。

 

だが、それでも匕首はその攻撃の特性上、急所狙いの攻撃を外してしまえばそれでいいのである。

 

体を抉るように切り裂かれるが、別にどうでもいい。

 

毒針。

 

体を捻って、回し蹴りで吹っ飛ばす。

 

がいんと、凄い音がした。

 

あたしの靴はゴルドテリオン合金だけではなく、徹底的に強化しているのに。ものすごい感触だった。

 

詠唱完了。

 

連射。

 

熱槍、しかも氷の奴が、フィルフサの足下を次々に固める。何が狙いか。そう考えているのだろう。フィルフサは、足を動かして、凍り始めた地面から引き抜く。こんなもので拘束はできない。

 

そう、あたしも拘束できるとは思っていない。

 

必要なのは、冷やすことだ。

 

上空に、熱槍を出現させる。数は千五百。

 

そんなものが、脅威になるものか。将軍が一瞥だけして、あたしに毒針を再び向けてくるが。

 

再びパティが突貫。将軍は余裕で数度の斬撃を鎌で受ける。あたしから注意を外さずに、だ。

 

パティの大太刀での一撃を、火花を散らしながら弾き返してみせるのは、流石という他はない。

 

体の動かし方、使い方を文字通り極めている。

 

だが、それが故に。

 

これは避けれっこない。

 

「パティ、全力でさがって!」

 

「! 分かりました!」

 

飛び退くパティ。

 

同時に、フィルフサ将軍の足下に、熱槍が全弾着弾する。

 

ちょっとやそっと、冷やして温めたくらいでは、どうにもならない。

 

だがあたしは。別の事を狙っていたのだ。

 

効くはずもない。

 

そう判断したフィルフサ将軍は避けない。直撃弾も完全に無視。だが、次の瞬間。その足下から。

 

将軍がいる場所が、爆発していた。

 

凄まじい爆発だ。

 

あたしも飛び離れると、薬を取りだして、すぐに傷に塗り混んでおく。

 

これぞ、水蒸気爆発。

 

タオから聞いていた。

 

水を一気に熱すると、大爆発を起こすと。

 

水というものは、そもそも蒸気になるときに、質量が千何百倍だかになるらしく。古くはその特性を利用して、動力にしていたらしい。つまり水を温めて、増えた質量を使って。歯車を回し。

 

水車や風車のように、動力として活用していたらしいのだ。

 

今、将軍の足下には氷、だけじゃない。

 

泥濘の中に、たっぷり水が含まれていた。

 

氷を使ったのは、そもそもその水を一時的に閉じ込めるため。

 

そして、収束させた熱槍を叩き込む事で、空中機動に使う時以上の、致命的な大爆発を引き起こしたのだ。

 

すぐに再度仕掛ける。

 

フィルフサは、今のでやはりダメージを受けている。というかそもそも、雨の中での戦闘の経験が殆ど無いのだろう。

 

此奴に勝っているのは、それくらいしかない。

 

だが、それを利用する。

 

蒸気をブチ抜いて、匕首が飛んでくる。あたしは気合とともにそれを蹴り砕いていた。今までにない、熱を帯びた水を浴びたのだ。やはり脆くなっている。

 

衝撃波。

 

蒸気を吹っ飛ばしたのだろう。

 

だが、それで露出する。

 

黒光りする巨体の、彼方此方にダメージが入っている。後は、手元にあるこれを、直撃させれば。

 

だが、それにはまだ手数を削らないとダメだ。

 

「パティ! 相手の手数を削る!」

 

「分かりました!」

 

将軍の体から、更に触手が生えてくるが。

 

大丈夫。

 

今のをモロにくらい。更には、まだ蒸気は足下から噴き出し続けている。

 

この将軍は機動力を武器にするタイプではなくて、足を止めて大火力で対戦する敵を圧倒するタイプだ。

 

今も、足下から断続的に噴き出している熱い蒸気を浴びている。

 

水に弱い装甲が、それでダメージを受けないはずもないのだ。

 

体内に隠し持っている武器もしかり。

 

なんならコアだって危ないはずである。

 

尻尾を叩き込んでくる。だが、やはりだ。速度が落ちている。あたしは毒針を避けて尻尾を掴むと、踏み込む。

 

将軍と力比べ、ではない。

 

踏み込んだところに、多分匕首を放ってくるだろう事が分かっていた。案の場、二発立て続けに撃ってくる。

 

そこへいきなり尻尾を離し、跳躍。

 

体のバランスを崩した将軍。

 

そこに踊り込んできたリラさんが、猛烈な蹴りを叩き込み。将軍の鎌を一つ、蹴り砕いていた。

 

ばきんと恐ろしい金属音がして。

 

蹴り砕かれた鎌が、すっ飛んでいき。地面に突き刺さる。

 

「加勢するぞ、ライザ、パティ!」

 

「ありがとうございますリラさん!」

 

「え……これって……」

 

将軍が、かちかちと顎をならしながら、全身を膨らませる。

 

そうか、頭に来たか。

 

そして、装甲が吹っ飛ぶ。内側からである。

 

今までのずんぐりした形態じゃない。

 

異様にスリムで、しかも体も白い。

 

だが、こう言うタイプの。

 

形態変化するタイプのフィルフサは、戦闘経験がある。前は王種だったが。別に将軍になった所で、変わるものでもない。

 

しかも、水を浴びている事実には代わりは無い。

 

「形を変えた!」

 

「速度重視に切り替えてきた!」

 

「あ、あれ以上速度が上がるんですか!」

 

「来るよ!」

 

残像を作って、フィルフサが動く。

 

足を止めての殴り合いから、速度で圧倒するタイプに切り替えたのだ。だが、これは悪手だ。

 

あたしはぶらんと手を降ろし、目を閉じる。

 

凄まじい勢いであたしの周囲を飛び回っているフィルフサだが。

 

この土砂降りだ。

 

それだけ激しく水を浴びると言う事である。

 

それが何を意味するか、あたしはしっかり理解出来ている。つまり、今度は短期決戦に持ち込まれたのは、向こうだ。

 

リラさんが、パティに襲いかかる斬撃を次々に弾いてくれているのが、音だけで分かる。パティは混乱から立ち直り、必死に反撃へ移ろうとしているが、こういうのは経験がどうしてもものをいう。

 

だったら経験不足のパティは役に立たないか。

 

違う。

 

此処で経験を積んで、次で生かせばいい。

 

今のパティを此処で生き延びさせて。そして次の戦いでは、その経験を生かしてくれればいいのだ。

 

それが、経験を生かすと言うことだ。

 

来る。

 

斜め上から。残った鎌で仕掛けて来る。

 

あたしはその一撃を紙一重で回避。二の腕を派手に切り裂かれるが、それでも急所には通っていない。

 

次。

 

今度は、左下から来る。

 

ももを裂かれるが、それも急所までは通っていない。

 

更に一撃。

 

腹を横一文字に切ってくる。

 

だが、それで最後だ。

 

あたしは、無言で動く。

 

あたしの首筋を狙ってきた一撃を、回避して見せる。

 

なんだと。

 

そうフィルフサの将軍がいったように思えた。その背中には、半透明の翼まで生じている。

 

蜻蛉の仲間には、凄まじい速度で飛ぶ者がいるが。

 

それに近い姿の翼だ。

 

繊細で、美しいとまで感じる翼だが。

 

この土砂降りの中で無理に動かしているそれを、あたしは蹴り砕いていた。

 

体勢を崩すフィルフサ。

 

そこに、リラさんが踏み込む。泥濘を蹴り上げて、全力での奥義に入る。

 

フィルフサの周囲の土が同時に吹っ飛んだように見えた。

 

あまりにもリラさんの動きが速すぎて、同時にそれらの場所を蹴ったように見えたのである。

 

フィルフサが蹴り上げられる。

 

螺旋状にフィルフサを蹴りつつ、リラさんが跳躍する。数十の蹴りが一瞬にして叩き込まれ。

 

最頂点で、拳を固めたリラさんが、手に力を集中させているのが見えた。

 

「喰らえ……」

 

精霊の力、という奴だろう。

 

それを渾身で叩き込むリラさん。

 

奥義の名前とか叫ばない。リラさんのキャラクターではないから、かも知れない。

 

いずれにしても、直撃を貰ったフィルフサが、地面に叩き込まれて、吹っ飛ぶ。その先に飛び込んだのは、パティだった。

 

心身共に、体勢を整えた。

 

今、フィルフサに対して猛攻を仕掛けられているが。体勢を整え直されると、逆に超高速での猛攻を浴びて膾にされてしまう。

 

だから、此処で全力で仕掛ける。

 

良い判断だ。

 

パティの構えは、見た事がない。片手で上段に、しかも敵に刃を向けて。開いた手を敵に向けている。

 

なるほど、多分これは家伝の奥義。

 

ヴォルカーさんから引き継いだ、文字通りの秘技とみた。

 

墜落してくるフィルフサ将軍が、既に体勢を整えようとしている。空中で残った羽根を無理矢理動かし、着地した瞬間、攻撃に転じようとしている。

 

だが、その先手を。

 

容赦なくパティが打っていた。

 

全力で突撃するパティ。

 

そして、体を引きながら、大太刀を旋回させる。なるほど、上段に構えたのは、守りを捨てて全力で体を旋回させつつ、多数の斬撃を叩き込む為か。

 

これは、憶病な人間には使えない技だ。

 

かといって無謀な人間が安易に使おうとすれば、初太刀を入れる前に、逆に膾にされている。

 

パティ、吹っ切れた。

 

そう思うと、なんだか嬉しい。

 

後続にいた人間が、覚醒した瞬間を、今あたしはみたのだ。

 

無数の斬撃を叩き込んで、その場を抜けるパティ。フィルフサの、ただでさえ機動力重視で脆くなっている装甲が、激しい攻撃に彼方此方砕かれる。

 

更にパティは大太刀を鞘に収め。

 

振り返るのをさえ利用して、それで力をため。突貫。全ての動作に無駄がない。そう、全ての動作が奥義なのだとみて良い。ヴォルカーさんが編み出した、必殺の剣舞。それが今、パティがやっている一連の動き。

 

「一刀入魂っ!」

 

高速での突貫。

 

そして、抜き打ち。

 

全力を込めた、最大奥義。そしてこの過剰火力、対人間用じゃない。最初から、対大型魔物用に考案された技だ。

 

「フローレス……」

 

残った鎌を吹っ飛ばされたフィルフサが、凄まじい雄叫びを上げながら、パティの背中を狙うが。

 

抜き打ちや居合いと呼ばれる高速剣技の本命は、二太刀目だ。

 

パティの残像を、匕首が抉る。

 

そいて、パティ自身は、本命の一撃を。滑り込むようにして、大上段からの斬撃を、フィルフサ将軍に叩き込んでいた。

 

「デザイアっ!」

 

大きな亀裂が、フィルフサの全身に入る。

 

貰った。

 

それでもなお、フィルフサは動く。

 

全身から更に多数の足を、新しく生じさせる。

 

更に速度を上げて、今奥義を放った二人。傷を散々つけたあたしに、とどめを刺しに来るつもりだ。

 

その闘志、見事。

 

だけれども、此処で決めさせて貰う。

 

フィルフサは気付いただろうか。

 

既にあたしが、それを投擲していたことに。反撃から、攻撃に出ることだけを頭にいれていたのなら。

 

それが見えていなかったのも当然だ。

 

あたしもパティの動きと、将軍の行動を見て、どちらが見えなくなるかは計算して先に動いていた。

 

だから、それでも。

 

爆弾に気付いた将軍には、素直に感心していた。

 

全力で詠唱する。全力での一撃で、力を使い果たしたパティを抱えて、リラさんが飛び退く。

 

巻き込まれると、判断したのだろう。

 

ありがとう。完璧だよリラさん。

 

そう呟きながら、あたしは。

 

最大級まで火力を高めた、必殺の爆弾。ローゼフラムの。今までで一番良く出来た品。まあ、ジェムで増やしてはあるのだが。

 

それを、起爆していた。

 

薔薇の花の形に、超高熱の爆風がフィルフサの将軍を襲う。

 

やはり、悲鳴としか思えない。

 

凄まじい雄叫びを、将軍が上げる。

 

殺戮の薔薇の中で、将軍がもがいているのが見える。コアを守ろうと、必死に装甲を修復しようとして。

 

それでなお、反撃を考えている。

 

凄い奴だ。

 

だが、此処で仕留める。

 

確かに凄い戦士だ。闘志も、その執念も。だが、その存在そのものが、この世界に対する災いになる。

 

だから、いかしておく訳にはいかないのだ。

 

移動し、爆弾を投擲する過程で、あたしも詠唱を完了していた。

 

上空に無数に出現する熱槍。

 

これは、第三のグランシャリオ。

 

熱槍を制圧射撃に用い、広域の敵をまとめて粉砕するのが通常型。

 

熱槍を一点に集め、あたしの蹴り技とあわせて、目標に投擲し、粉砕するのが収束型。

 

そしてこれはまだ誰にも見せていない、切り札中の切り札。

 

爆弾を使う時に、それを更に火力を押し上げるためのもの。

 

そう熱槍を上空から、一点に敵に収束させ。爆弾を熱のドームと圧力で閉じ込めることにより。

 

確実に敵を焼ききるための、最終奥義。

 

「今日の天気は、雨のち隕石……! グランシャリオ……三式!」

 

一斉に、熱槍がフィルフサの将軍へと殺到する。

 

それは薔薇の花の灼熱を包み込むようにして、まだ必死に抗っている将軍を包み込む。

 

死のブーケ。

 

そう呼ぶのが、相応しいだろうか。

 

今までの比では無い熱量が、重装甲を捨てた将軍を焼き尽くす。

 

これは、直撃していたら。

 

雨で弱体化していなくても、将軍はひとたまりもなかっただろう。

 

将軍は全身から伸ばした足を何度も振るって、激しい衝撃波を巻き起こして、熱を拡散させようとした。

 

それが見えた。

 

だが、それが最後のあがきだった。

 

あたしのパワーが、将軍に打ち克つ。

 

最後の抵抗が潰えた瞬間。

 

将軍はコアごと、文字通り蒸発していた。

 

爆発が撒き起こることもない。

 

爆発が、そのまま圧縮されたからである。爆縮、とでもいうべきだろうか。

 

呼吸を整えながら、将軍が存在していたクレーターを見やる。

 

強かったよ、あんた。

 

だけれども、この世に生まれてきてはいけない生命だったね。

 

そうあたしは、ぼやいていた。

 

「フィー……」

 

懐から、フィーが顔を出す。

 

普段、どうしても危ない時や、あたしが気付いていない時にフィーは警告してくれる。自分の役目をそれだと思っているらしい。でも今回は、本当に怖かったのだろう。将軍が倒れて、やっと顔を出せたという雰囲気だ。

 

皆が、此方に来る。

 

どうやら掃討戦は完了した様子だ。ただ、無傷なのは誰もいない。あたしも、例外じゃない。

 

「即座に戻って体勢を立て直すよ。 後は……王種を仕留める!」

 

皆に、最後の戦いの開幕を告げる。

 

フィルフサの群れは全滅した。

 

後は、その首魁。

 

王種を、倒すだけだ。

 

それでこの土地は、平穏を取り戻す。フィルフサの新しい群れが来たとしても、その時には対応できるくらい、水と緑が増えている。フィルフサは乾燥で簡単に増えるが、この土地はそもそも、そうはならない。本来だったら。

 

ただ、分からない事もある。

 

自然門が発生した経緯にエンシェントドラゴンの西さんが関わっている節があるらしいこと。

 

あの残留思念からは、そういう悔恨が感じられた。

 

それだけじゃない。

 

王種がドラゴンに似ているのは、偶然だろうか。

 

どうにも嫌な予感がしてならないのだ。

 

ともかく、皆で拠点まで戻る。荷車に積んである薬を惜しみなく使って、治療を行う。セリさんが手酷くやられたことは既に聞いていたが。セリさんはもう目を覚ましていて。拠点まで戻ると、あたしにちょっとだけ寂しそうに微笑んで見せた。アンペルさんも先に戻っていたが、既に手当ては終わっているようだった。

 

あたしも手当てをする。

 

結構ざっくりやられていたが、これくらいはどうでもいい。

 

傷が残ろうと気にしない。

 

まあそもそも残らないんだが。

 

「薬は足りそう?」

 

「大丈夫、なんとかなる。 ただ問題は王種だね」

 

「このまま戦闘を仕掛けるのは流石に自殺行為だ。 充分に栄養と休憩を取って、それから仕掛けよう」

 

「悔しいが、それしかないだろうな」

 

アンペルさんがそういうと。

 

リラさんも、本当に悔しそうに同意する。

 

フィルフサの王種を仕留める機会なんて、滅多にあるものじゃない。

 

誉れある武門の氏族、白牙氏族ですら、王種を仕留めた例はなかったらしいし。三年前に続いて二体目を仕留める好機となれば、それはもう即座に飛びついて叩き殺したいだろう。仲間の仇というのもあるが、オーリム全体の問題でもあるからだ。

 

だが、この土砂降りだ。

 

王種がこれ以上強くなることはない。弱体化する可能性はあるが。

 

雨さえ止まなければ大丈夫。ただ、その雨も、恐らくは明日には止む。つまり、明日が最後の勝負だ。

 

問題は王種が単独で逃走を図った場合だが。

 

恐らくは、それは大丈夫だろうと思う。

 

そもそもそんなに簡単に逃走を図るくらいだったら。

 

何百年も、門の攻略を地道に続けていないのである。

 

生物としての戦略が根本的に違うのだ。

 

或いは、生物兵器だから。

 

命令に沿って動いている可能性もあるが、それはもっと研究を進めないとどうにも分からない事だ。

 

「奴が一度空を飛ぼうとして、そして落ちたことは分かっている。 その時に、ダメージが入った事も。 部下を補充するために、母胎にした土に戻る可能性は否定出来ないが……」

 

「その事だけれども、おかしな事を見つけたわ」

 

苛立つリラさんに、セリさんが横になったまま挙手。

 

続けて欲しいとリラさんが言うと。セリさんは、横になったまま説明を始める。

 

「小型や中型のフィルフサ全てに共通していたのだけれども、どうにも妙でね。 恐らく群れの年齢が、殆ど一致しているの」

 

「どういうことだ」

 

「フィルフサも年齢を判断する事が出来るの。 具体的には甲殻に年輪のように模様が出るのだけれども」

 

「詳しくお願い出来ますか」

 

リラさんも知らない話のようだ。

 

セリさんに、あたしも話を聞いておくべきだと判断した。

 

今後もオーリムとは関わるし。

 

フィルフサとは最悪一生戦うのだから。

 

「私がいた場所では、フィルフサとある程度戦えていたの。 正確には、多くの氏族が集まっていたから、研究が出来ていたのね。 少なくとも、古代クリント王国がオーリム各地でフィルフサを大繁殖させる前までは」

 

「その研究成果なのか」

 

「ええ。 少なくともフィルフサの年齢は判別できるようになっていたの。 ただ、各地でバラバラに戦う事になっていた氏族に情報は恐らく行き渡っていないでしょうけれど」

 

「確かに、それを知ったところで、フィルフサをどうにか出来るわけでもないな……」

 

セリさんの話は続く。

 

他にもフィルフサに対する研究は行われていたらしいが。何より古くから存在している危険生物だ。

 

一気に絶滅させたり、追い立てる方法は見つかっておらず。種類ごとに調査して、それで対策を練って行くしかなかったそうだ。

 

いずれにしても、殆どが全て同じ年齢か。

 

要するに何処かしらの繁殖に利用していた土壌から離れて。群れ単位でずっと行動していると言う事になるのだろう。

 

だとすると、数が少ないのは、その過程で色々なアクシデント。雨や水害に遭って、減っていったからなのではないのか。

 

そういう可能性も出てくる訳だ。

 

手を叩いたのはクラウディア。

 

「タオくん、外に戦況の伝令をお願い。 そうしないと、多分みんな沈められてしまうから」

 

「おっと、僕としたことが。 すぐに行ってくるよ」

 

「持ち込んだお肉や保存食があるから、少し料理をしてみるね。 あまり良いものは作れないと思うけれど」

 

「まあ、そのまま食べられるものもあるから。 ともかく食べて、休む。 それで決戦に備えよう」

 

クラウディアの言う通りだ。タオに、ボオスが俺も行くと言って、一緒についていった。この方が良いだろう。バディで動く方が事故になりにくい。

 

今は分からない事を考えていても仕方が無い。

 

皆、横になって休みはじめる。クラウディアは料理をせっせとしてくれて。タオが戻って来た頃には、鍋でぐつぐつと美味しそうな肉が野菜と一緒に煮られていた。

 

皆で分けて食べる。

 

レントはもう成長期が終わっているようで、昔ほど食べないなと思う。パティはもともとそれほど大食いではないのだと思う。まだ成長期だと思うのだけれども。

 

あたしはいつも通りだ。鍋はかなり大きかったけれども、皆で食べるとあっと言う間になくなってしまう。

 

ボオスが頭を掻き回した。

 

「野営にも粗食にも慣れたつもりだったんだがな。 野営で、こういううまいものが出てくると、ちょっと色々調子が狂うぜ」

 

「フィー!」

 

「食ったら横になる。 ……頭はもう我慢するが、顔の上には乗るなよ」

 

ボオスの頭の上に大喜びで乗るフィー。

 

この光景も、いずれ見られなくなるかも知れない。

 

さて、横になって休む。

 

後は。

 

王種を仕留めるだけだ。

 

それだけに、頭を切り換える。

 

追いかけていって、殺す。ただそれだけを、あたしは考え続けていた。




ついに最強の将軍達を仕留めたライザ。

しかし、将軍でこの強さです。

群れの頭である王種はどれほどの実力なのか。

既に、皆は覚悟を決めているのでした。

本作の次に連載する作品はどれが良いですか?

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