暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
王都近郊での。
最後の戦いが始まります。
序、決戦準備
オーリムでの滞在も大詰めに入った。
フィルフサの軍勢は壊滅させた。水害もそろそろ土砂降りが止む。後残っているのは、王種だけ。
三年前に交戦したのとは、個の強さが桁外れの群れだったけれども。
数があまりにも少なすぎた、と言う事もある。
やはり水害に巻き込めば、戦闘での難易度は。
いや、三年前より手強かったとあたしも思う。
ただそれでも、勝てない相手ではなかった。
しかしながら、今後オーリムで戦っていく場合。水害というのは最適解なのだろうかと、あたしも思う。
土地に対する甚大なダメージを与えてしまうからだ。
この土地は、元々それなりに雨が降る。
だからフィルフサに土を明け渡さず。土壌をフィルフサが育つ母胎へと変えなかった。いや変えさせなかったのだが。
そもそもフィルフサに完全に好き勝手にされた土地は、殆ど雨すら降らなくなるようなのである。
汚染された土は押し流すしかない。
三年前の戦場。オーリムの聖地の一つグリムドルで、そういう話は聞いた。
実際に、そうするしかなかった。
だが今後力がついてきたのなら。
それを覆す事が可能な筈だ。
それに、皆の戦力をもっと高めれば。
此処まで限定的な条件にして。
自然に大きなダメージを与えなくても。フィルフサと、戦う事が可能になるかも知れない。
いや、そうする。
今後もあたし達は、オーリムでフィルフサを滅ぼし。
そしてあたし達の世界で、人間を改革しなければならない。
今後仮に人間が魔物に対して攻勢に出たって、五百年なんの進歩もしなかったロテスヴァッサ王国を見ても分かるように。
どうせまた古代クリント王国のような反吐のようなゴミカスが出て来て。
世界を滅茶苦茶にするのは目に見えている。
あたし達の世界だけならともかく。
他の世界にも迷惑を掛けるのは確定だ。
人間は今のままではいけないのだ。
今後の事を考えると。
もっと戦略的に動いていかなければならない。それをあたしは、骨身に染みて実感していた。
「クラウディア、見つかりそう?」
「今、墜落地点から順番に調べているよ。 体を引きずって逃げた痕跡がある。 まだ見つからない……何度か濁流を、無理矢理渡っているみたい」
「好都合だ。 王種でも水に弱いのは変わらない。 弱体化が進んでいるはずだ」
最悪、雨が止んでも、それなら倒せる可能性が高くなっている。
リラさんが言うが。
あたしは懐疑的だ。
昨日倒した三体の将軍は、いずれ劣らぬ猛者揃いだった。
王種がそれより弱いとはとても思えない。
ともかく、レントには最悪の場合壁になって欲しい、ということと。
クリフォードさんには。周囲に最大の警戒をしてほしいこと。
セリさんに、いつでも壁を展開出来るようにすること。これらを、念押しして話しておく。
人間は誰だってだれる。
そうなってくると、絶対に油断する。
その時が一番危ない。
だからあたしは、こうやって何度も口うるさく言う。
面倒くさがられてもいい。
全滅するよりはマシだからだ。
無言で移動を続行。
クラウディアは、足下にも注意して貰っているので、負担が大きい。王種との戦闘前に消耗しすぎないように、注意して貰わないと。
それに、である。
フィルフサほどではないにしても、オーリムにも在来の猛獣はいる。
人間が使っている定義だと、小細工無しで人間を殺せる動物を魔物と呼んでいるのだが。
その定義であれば、どれも魔物である。
セリさんやリラさんに話を聞いて、もしもいるならという形でピックアップして貰ったのだが。
ワニに似て、ワニより何倍も大きいような奴とか。
サメに似て。更に大きい奴とか。
かなり危険なものもいるらしい。
特に虫の類は大きくて危険な種類が多いらしくて。
それらをフィルフサが取り込んでいるとなれば、それは手強いなと言うのも納得出来る。
今の時点で、それらの気配は周囲にないようだが。
ともかく。戦闘を回避するに越したことはないだろう。
ただ、それらの生物は。フィルフサの大繁殖によって、既に姿を見なくなって久しいとも言う。
或いは、真っ先にフィルフサに殺されて。
それで養分にされてしまったのかもしれない。
それはそれで。悲しい話だ。
勿論危険な存在であるのは確かだが。それでも、生態系を維持するためには必要な存在だった訳で。
あらゆる意味で、フィルフサがオーリムを破壊している事が、よく分かってしまうからである。
「クラウディア、以前教えた足跡を使った罠には警戒しろ」
「はい」
リラさんが注意を促しておく。ただこれは、あくまで注意喚起だ。クラウディアも、既にそれは知っている。
動物の中には、途中までつけた足跡をそのまま辿って戻り、茂みなどで横に飛ぶ事で、追跡者を引っかける奴が存在している。
熊などが得意技にしているのだが。ある程度知能がある動物だったら、これはどんな奴でもやる。
猟犬などを使っている狩人も対応しづらい。というのも、犬は臭いの新旧をかぎ分ける事ができないので。
ただ足跡を辿って戻っただけでも、対応が遅れるからだ。
特に人間の味を覚えた魔物がこれをやると最悪で、慣れた戦士でも引っ掛かる事があるため、大きな被害を出すようになる。
フィルフサの王種ともなれば、相当な知能と判断力を有している。
前の「蝕みの女王」もそうだった。
しかも今度の奴は、水害を利用して、此方をはめようとさえしてきた。
相当な知恵がある筈で。
どんなトラップを仕掛けて来ても、おかしくはないのだった。
特に今回の場合、「いる」と思い込んでいる場所にいないケースがある。
水害すら防御に利用してきたような奴だ。
悪辣なだけで部下を使い捨てにしてきたようなやり口を使っていた「蝕みの女王」とは違う。
今度の王種は、何か妙なのだ。
「嫌な予感がするな……」
クリフォードさんが呟く。
次の瞬間、全員が戦闘態勢を取る。
クリフォードさんの勘はこの中で一番鋭い。既にリラさんも、それを認めていた。
「警戒を最大限に。 どこからいつ来てもおかしくないよ」
「そのようだな。 レント」
「おう。 最悪の場合、初撃は俺がどうにかする」
「任せるぞ」
リラさんがレントにそういう。
いわゆるタンクとして信頼してくれていると言う事だ。
リラさんほどの戦士に信頼されていたら、レントも本望だろう。ともかくあたしも、無言で周囲に警戒する。
まだ皆、疲れは完全に抜けきっていない。
荷車をボオスに引いてきて貰っている。残りの物資全てを此処で吐き出すつもりだ。回復薬などもあるから、油紙を被せて土砂降りから保護している状態だが。それも乱戦にでもなればどうなるか。
土砂降りの喧しい音が。
聞こえなくなるくらい、あたしも集中する。
時間がゆっくり流れるように思う。
その時。
不意に、全てが動いた。
「レント、二時方向!」
「おうっ!」
飛来した、それは。
恐らく、倒木だ。
レントが飛び出す。殆ど音に近い速度で飛来したそれを、裂帛の気合とともに叩き落とす。
粉々に砕ける倒木。
大雨で発生した水害で流されたものだろう。
すぐにクラウディアが、倒木が投擲されたと思われる地点を、逆算して割り出していた。
「あっちだよ!」
「レント、まだ守りはいけるか!?」
「大丈夫!」
リラさんに、レントが吠える。
そのまま、全員で走る。泥を蹴立てる。クラウディアが、距離を告げてくる。直後、もう一発。
倒木が飛んでくる。
レントが再び前に出ると、気迫のこもった一撃で弾き返す。
だが木片がバラバラに飛び散って、思わずガードしていた。
「……っ!」
「すまん、距離が近すぎて、次が防ぐのはもっと厳しい!」
「ライザ、何か守りの道具はない?」
「セリさんは温存して欲しいし、今はちょっとこっちも厳しい! とにかく走って!」
全員に叫ぶと。
あたしも走る。
泥を蹴立てる。そのまま、大雨の中。波濤がごうごうと音を立てているすぐ側を駆け抜けていく。
クラウディアは相手の位置を確認しながら、細かく指示を出している。どうやら、相手は此方の動きを察知しつつ。後退しながら、倒木を投げてきている様子だ。
倒木が都合良く転がっているとは思えない。
それはつまり。
倒木を先に集めておいて。
しかも此方が来る方向を事前に想定。
そして何らかの手段で此方が来るのを察知して。さがりながら、正確に投擲してきていると言う事である。
予想以上に頭が回る奴だ。
部下に戦略から戦術まで任せっきりだった「蝕みの女王」とは別物だ。
彼奴から感じたのは、底知れない悪意と、際限のないエゴだったが。
今度のは違う。
相手を確実に仕留め、勝とうという執念。
いや、執念はそれだけか。
どうしても門を突破して、此方の世界に来ようとしている謎の執念が、むしろ不可解だ。
エンシェントドラゴンの西さんが、罪を犯したと言う話をしていた。
そして今度の王種も、遠めにドラゴンに近い形をしていた。
何か関係があるとしか思えない。
三度目。
セリさんが、無言で植物の壁をレントの背後に展開。
レントが、飛んできた倒木を雄叫びとともに粉砕する。
だが、それでも破片が派手に飛び散って、セリさんが作った植物の壁を激しく乱打していた。
これは破片を喰らうだけでも、命が危ないとみて良いだろう。
「くっ! 次は耐えられないぞ!」
「それにしても魔術なりブレスなりではないんだな」
ボオスがぼそりと呟く。
そういえば、それも妙だ。
ともかく、急ぐ。クラウディアの話では、確実に距離は詰められている。音魔術の探索能力は優秀だ。
形状からして、この間少しだけ姿を見た王種で間違いないという。
「古代クリント王国以前の王種だ。 仮称だけでも名前をつけておくか」
「賛成だ。 あの形状、今まで見た王種とは違う。 「蝕みの女王」ともまた違っているし、固有の名前でいいだろう」
「名前は識別できるものでいい。 伝承の古き王でいいだろう」
「分かった。 伝承の古き王、だね」
アンペルさんの命名は直球だが。
今回は分かりやすければ、それでいい。
だから、そのままでかまわないとあたしも思う。
ともかく。急ぐ。
泥濘で足を挫いたりすると最悪だが。今此処にいる面子は、其処までドジを踏むほど間抜けではない。
クラウディアにしても、三年前の死線をくぐり抜けて、今ではすっかりベテランの戦士である。
此処にいる面子で倒せなかったら。
恐らく、この先にいる「伝承の古き王」は絶対に倒せないだろう。
それはうぬぼれでもなんでもない。
単なる客観的事実だ。
見えてきた。
地面に体を固定しているそれは、やはりドラゴンに似ている。土砂降りの中、翼は既に欠損して、飛べそうにもない。
その代わり触手を展開して、それで倒木を掴んで。
投擲してきていたようだった。
「フィー!」
「フィー。 最悪の場合は、あたしから離れて」
「フィー……。 フィー!」
最後まで一緒にいる、か。
分かった。それなら、それでかまわない。
即時展開。
「伝承の古き王」も、すぐに倒木を投げ捨てると、後ろ二本足で立つ。やはり甲殻が黒いフィルフサである点以外は、ドラゴンと形状が似ている。違うのは、生身と思える部分が無い事。
そして胸に変な機械が埋め込まれていることだろうか。
埋め込まれている機械は、あたしが見て来たどれとも違う。
なんというか、高度すぎる技術が使われていて、「系統が違う」としか言えないようなものだ。
雄叫びを上げる「伝承の古き王」。
びりびりと来る。
あたしは思わず、武者震いをしていた。笑ってしまう。とんでもないプレッシャーである。
前に交戦した「蝕みの女王」は、タチが悪い人間を思わせる悪意の塊だった。
此奴は執念の悪魔だ。
だが、それでもかまわない。
ともかく、叩き潰す。
「総攻撃開始! 相手は今まで見てきた、どの魔物よりも……どの魔物をあわせたよりも強いと思って!」
「こんな相手、本当に勝てるんですか……いや、勝てます!」
パティが、弱気になった自分を叱咤する。
ボオスが無言で二刀を構える。
タオが、視線を「伝承の古き王」に向けたまま、あたしに言う。
「やっぱり此奴様子がおかしいよ。 あの機械、最優先で狙うべきだと思う」
「そのようだな!」
最初に仕掛けたのはアンペルさんだ。
空間操作の魔術で、機械を直に狙いに行く。
だが、空間操作がそのまま弾かれる。
今まで、魔力の強弱関係無く、フィルフサの甲殻すら貫いていたアンペルさんの空間切断が。
流石に唖然とさせられる。
「なんだとっ!」
「魔力量が多すぎて、魔術による空間切断が届く前に霧散しているみたいね」
「おいおい……」
セリさんの冷静な分析に。
クリフォードさんが嘆く。
だが、嘆いている暇もない。
体内にあるコアに、とんでもない魔力をため込んでいると言う事が分かった。それを使って、生半可な魔術なんて通用しない防御を展開していると言う事だ。
前足を振り下ろしてくる「伝承の古き王」。
全員散開。
正面はレントに任せて、あたしは右に回る。
敵の巨体は、標準的なドラゴンとほぼ同じ。エンシェントドラゴンの中には山ほどに大きくなるものがいるらしいが、こいつはそこまででは無く。今二本足で立っている背丈はあたしの十倍。
全長は、あたしの歩幅二十五歩ぶんと言う所だろう。
だが、背中には複数の触手が蠢いている。
ドラゴンがしてくるような、大火力ブレスや、高度な魔術攻撃以外にも、手札を色々隠していると考えるのが自然だ。
タオが、ボオスとともに躍りかかる。
尻尾を振るって、豪快に二人を近づけんとする「伝承の古き王」。その尻尾も、よく見ると傷ついている。
落下時にダメージを受けたのだ。
そして、今わざわざ攻撃を遠ざけた。
つまり、撃墜した時にダメージは入ったとみて良い。
それに、である。
撃墜出来たと言う事は、恐らくだがあたしのフルパワー級の魔術だったら、通るという事である。
魔力の壁は無敵ではないし。
装甲も既に完全ではない。
ましてやずっと土砂降りを浴びているのだ。
倒せる。
あたしは、叫ぶ。
「接近戦主体に挑んで! アンペルさん、そのまま空間切断を続けて! 消耗が一定を超えたら、絶対に通る!」
「分かった! どうやら戦士としても、既にライザに超えられたか」
「弟子が師匠を超えるのは、むしろ誉れだろう?
「そうだったな!」
王種「伝承の古き王」が吠え猛り。全身から光の魔術を放ってくる。
全周を爆破して、距離を取らせて。そして今度は、レントに体勢を低くして突貫してくる。
それと同時に触手が伸び、辺りを滅多打ちにする。
まだまだ戦闘開始したばかりだが。
これはまだ、相手は本気など全く出していないと見て良かった。
まずは、相手の手札を出し尽くさせる。
此方も切り札を全て切るのは、その後だ。
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