暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
一月前だったら、パティは見た瞬間硬直し。次の瞬間には、赤い霧にされてしまっていただろう。
それくらいの圧倒的な化け物。
皆、それに怖れずに挑んでいる。
巨体なのに動きがとんでもなく速い。
尻尾が飛んでくる。
斬撃を叩き込んで相殺と行きたいが、そうもいかない。なんとか斬撃で威力を殺して、反動も使って跳び避ける事を狙う。
だが、擦っただけで吹っ飛ばされて。
泥濘の中に叩き付けられていた。受け身はとれたが、それだけで全身が痺れるようだ。泥濘で、かなり衝撃は緩和されている筈なのに。
早い。
少し前に戦った、あの恐ろしい将軍よりも、速さという観点だけでも此奴の方が上だとみていい。
それだけじゃない。
ほんのちょっと擦っただけでこの威力。
まともに攻撃を貰ったら、多分一発で赤い霧になる。
この、ライザさんの手による神域の装備で身を固めていてもだ。
鎧が衰退した訳だ。
フィルフサによって古代クリント王国が滅びたという話は聞かされた。
フィルフサはどうにかオーリムに追い返すことに成功したらしいが、その後は各地で魔物に人間は追い立てられるようになった。
魔物の圧倒的なパワーに対して、基本的に人体急所を守るための鎧は相性が悪く。
以降、鎧というものは、どんどん衰退していったのだ。
何とか立ち上がる。
体力回復の魔術が、身に付けている装備で常時掛かっている。それなのに、回復なんてとんでもない。
呼吸を整えながら、大太刀を鞘に収める。
大暴れする王種「伝承の古き王」の顔には幾つもの目があって。
それはパティが苦手な、昆虫と同じように複眼になっているようだ。
ワイバーンの目とはまたかなり違っている。
それが不気味で、前だったら身が竦んでいたかも知れない。
だけれども、今は臆病風に吹かれているだけのつもりはない。
このまま、パティも役に立つ。
突貫。
即応した巨大な「伝承の古き王」が、此方に対して光の魔術を放ってくる。詠唱している様子もないのに、即時で魔術が発生して。着弾までもとんでもなく早い。しかも、パティをろくに見もせず、片手間に放って。片手間に当ててくると言う感じだ。
必死に走って、着弾点から回避。次々に泥濘が炸裂する。パティはぐっと奥歯を噛みしめながら、鞘に手を掛けたまま走る。
セリさんが展開した、植物の壁。
それを、鬱陶しそうに「伝承の古き王」が踏み砕く。
凄まじいパワーだが。
一瞬だけ、視界からパティが消えたはずだ。
仕掛ける。
むしろ「伝承の古き王」の足下に、最大限の速度で飛び込みつつ。抜刀。甲殻に、一撃を入れていた。
「一番槍はパティか!」
「ありがとうございますっ!」
レントさんが、そんな事をいう。
槍じゃなくて大太刀だけれども。
これについては、古くからの言葉らしい。だから、そのまま有り難く受け取っておく。
甲殻には弾かれて、ダメージをあまり入れられなかったが。
しかし、なんとなく分かった。
即座に足を振り下ろしてくる「伝承の古き王」。衝撃波だけで、ちいさなクレーターが出来る程だ。
一撃を当てて、即座に飛び退いたのだが。
それでも泥濘が衝撃波とともに飛んできて、思い切り吹っ飛ばされて。泥濘に受け身を取らなければならなかった。
泥だらけになりながら、立ち上がる。
「ライザさん!」
「ん!」
「今の手応え、重かったです! 装甲が分厚いんだと思います!」
「ふうん……ありがとパティ!」
再び走る。
暴れまくっている「伝承の古き王」だが。恐らくライザさんが、今のだけでも、対応策を考えてくれる筈だ。
そのまま、敵の注意を少しでも惹く。
此方の数は十人。
敵は、放置しておけば、此方の世界に侵攻してきて。世界をまとめて蹂躙しかねない怪物の中の怪物。
一人でも生き残り、此奴を倒しきれば勝ち。
勿論パティだって生き残りたいが。
それでも今は。
腐っていたとしても。
王都を。
正確には王都にいる三十万人の人間を。
何があっても守りきらなければならなかった。
雄叫びだけでも、物理的な圧力をともなってくる。
タオは何度か快足を生かして仕掛けているが、それでもそもそも、相手の基礎的な身体能力が違い過ぎる。
土砂降りでなければ、もう既に何人かやられていた筈だ。
それくらいの凄まじさである。
タオは無言で、なんども仕掛ける。
パティが一撃を入れてから、確実に攻撃が少しずつ通るようになってきた。此方はとにかく手数を生かす。
だけれども、皆分かっている。
相手はまだ本気なんて微塵も出していない。
まずは手札を暴くことから。
だから、ライザも爆弾を全く使っていないのである。
ここは、タオが。
あまり戦力で役に立てない者が、それを為さなければならない。
戦闘はそんなに得意じゃない。
頭に身体強化魔術を重めに回して、それでこれだけの動きを実現できているのだが。それでもなお、相手の方が速い。
これは生物の差を感じてしまう。
人間と同じくらいの大きさの猿は。人間でもっとも力が強い者よりも、普通の個体ですら力が強い。
生物の差という奴だ。
魔術による強化で上回る事も出来るが。
そういった猿は、殆どの場合身体強化の魔術を使いこなしている。
要するに、ただでさえ差がある力に。
更に力の差が出ると言う事だ。
これもまた、種族の差という奴である。
だから人間は、武器と集団戦を使いこなして、相手に立ち向かわなければならない。
今、タオがやるのも。
そういった人間の基本戦術である。
そうしなければ人間は他の生物には勝てないのだ。
情けない話だが。
だが、情けないなりに、タオは前に出る。両手にしている短剣を振るって、とにかく仕掛けて、様子を見る。
装甲が回復している様子はない。
パティが言った通り、一撃はとにかく重く感じて。装甲がとても分厚いのがよく分かる。
だけれども、装甲が全体的に分厚いのだとすれば。
魔力を使い切れば、多分まともに動く事すら出来なくなるはずだ。
一撃を入れる度に、こいつの桁外れの魔力は消耗する筈で。
それが好機になるとみた。
腕を振るって、タオを追い払いに掛かる「伝承の古き王」。
此奴はまだ様子見の段階だ。
というよりも、ライザの大火力攻撃を警戒しているのかもしれない。
だとすれば、むしろ今。
タオは仕掛けるべきか。
大きめに飛び退く。
尻尾を振り回して、周囲に全域攻撃を繰り出し。背中の触手を振り回し。更に光弾を放ってくる「伝承の古き王」。
どれも基本的な攻撃だが、大威力だからそれだけで脅威になる。
だが、そんなものだけでは無い筈だ。
タオは距離を取って、コアクリスタルから薬を取りだす。魔力を消耗するが、それは仕方が無い。
昨日だけじゃない。
要所で使って、効果は確認済み。
いきなり攻撃のペースが変われば。
これほどの怪物だって、ペースを乱すはずだ。
全身の力が炸裂するように上昇する。
ライザの薬はどんどん効能が上がっている。このままいけば、死者を蘇生することも可能なのではあるまいか。
体勢を低くする。
大きく息を吐く。
気付いたか。「伝承の古き王」が此方を見ると、光弾を乱射してくる。詠唱もなしに。立て続けに着弾する。
しかし着弾点にもうタオはいない。
タオは既にその時。
「伝承の古き王」の上に出ていた。
旋回。
両手にある剣を、思う存分振るう。
ちいさな竜巻となって、ただでさえ傷ついている「伝承の古き王」の体中を滅多切りにする。
巨体だが、見える。
頭に掛かる強化魔術も、かなり短時間だがブーストされているのだ。この薬、反動が大きいからあまり使いたくないのだが。
それでも、やってみる価値はある。
鬱陶しがった「伝承の古き王」が、尻尾を縦一文字に叩き付けて来るが、そこにももうタオはいない。
距離を取りながら、剣を十字に交差させる。
二刀流は幾つか流派がある。
両手にそれぞれ剣を持てばたぶん強い。
誰だって考える事だ。
だが、実際にやってみると、即座にそれが意味を成さない事を理解出来る。
というのも、魔物相手に戦うのが基本の今。
魔物の分厚い装甲に、片手での軽い剣では、ダメージを与えられないからだ。
乱打しても鬱陶しがられるだけ。
反撃での一撃で、それだけで体を打ち砕かれてしまう事が多いのだ。
或いは、鎧を纏っていない人間が相手だったら効果が高いのかも知れないが。残念ながら、今は人間よりも対魔物を考えなければいけない時代なのである。
それでも、実戦に使えるまで二刀流を鍛えた人間もいる。
そういう人間の技を、タオは研究して覚えた。
多くの場合、実戦に耐える二刀流は二派に別れる。
二刀の速度を極限まで上げて、相手に手数と速度で勝負する場合。
これは剣に何かしらの付加価値がついている場合に、行う事が多い。
基本的に利き手の長剣をメインに戦い、奇襲としてサブの短剣を用いる場合。
こっちの方が実用的だ。
ボオスはこっちをやっている。
タオは、前者。
というのも、今の体格では。昔のように槌で体ごとぶつかる戦術はどうしても採りづらいからだ。
手足が無駄に伸びたから。
だから、速度を極めることにした。
分かっている。
タオはどうしても戦闘ではライザ達にはとても及ばない。対人戦だったらそこそこやれる自信はあるが、どうしても対魔物戦ではそうもいかない。
今は魔物との戦いが基本だ。人間と戦っている余裕なんて本来はない。勿論必要とあればやるが。
それは最後の手段にしたいと、タオは思っている。
だからこそ。
十字に構えた後、突貫。
敵の懐に飛び込むと、乱撃を浴びせる。
装甲が見る間に削れていくが、少し表面が削れたくらいどうでもいいと思っているのか。
とにかく鬱陶しそうに、タオを追い払いに掛かってくる。
なるほど、そういうことか。
踏みつぶしに来た足を回避して、更に切りあげながら離れ。
突貫して、反転しつつ、更に斬撃を入れる。
この技を編み出した人は、こう名付けていたらしい。
朧月と。
振り返りながら、剣を振るう。
雨粒と同時に、フィルフサの装甲が飛び散る。やっぱりだ。
呼吸を整えながら、更に距離を取る。
「ライザ、「伝承の古き王」の装甲は再生しない! 本来は、魔力で極限まで強化した装甲で、圧倒するタイプなんだ!」
「土砂降りでその前提が崩れたと」
「うん。 本来だったら、難攻不落の要塞だった筈だよ! でも今は……」
「それが分かれば充分っ!」
タオは飛び退く。
ライザが、何か投擲するのが見えたからだ。
それは空中で炸裂すると、一斉に二次爆発を引き起こす。
たしかクラフトだったか。
それを凶悪に凶悪に強化したもの。
炸裂と同時に小型爆弾が分散し、一定時間後に一斉に爆発するという凶悪な代物である。全身に爆撃を受けた「伝承の古き王」が、片膝を突く。
そこに、レントとボオスが仕掛ける。
レントの大剣が、傷ついている翼を斬り飛ばす。
ボオスの剣が、顔面に食い込む。
だが、全身から光を放った「伝承の古き王」が、二人を衝撃波で吹っ飛ばす。だが、続けてリラさんが、「伝承の古き王」の顔面に飛び膝を入れ。更に頭を掴みつつ体を捻り。後頭部に強烈な膝を叩き込んでいた。
ぐらりと、巨体が揺れる。
そこにセリさんが展開した植物が絡みつき。
クリフォードさんが投擲したブーメランが。更に腹に叩き込まれる。それで、巨体が不自然に揺らぐ。
アンペルさんの放った空間切断の魔術が、何度も奴を貫いているが。コアに届いていないのか。
だったら、奴の装甲に、穴を開けるだけだ。
クラウディアが放ったバリスタ並みの矢。それも、立て続けにたくさん。
一気に「伝承の古き王」を横倒しにする。
足がへし砕けるのが見えた。
悲鳴を上げながら、泥濘を巻き上げ。伝承の古き王が横転する。そこにライザが、更に爆弾を投擲。
あれはローゼフラムだ。
「全員離れて!」
皆飛び離れる。
次の瞬間。
殺戮の薔薇が、「伝承の古き王」を蹂躙していた。
破壊を思うさまに堪能した薔薇型の爆発が収まる。
ただ、この火力でも倒し切れないだろう。まだまだ敵は本気を出していない可能性が高い。
熱風が吹き付けて来る中、あたしは叫ぶ。
「距離を取って、攻撃に警戒!」
「足はへし折ってやった!」
「そうね……」
レントの声が聞こえる。
まずい事に、雨が少しずつ弱まっているのが分かる。これは恐らくだけれども、想定よりも早く雨が止む。
勿論、雨が止んだところで、いきなり「伝承の古き王」が十倍強くなることは意味していない。
辺りの湿度は凄まじいし。
フィルフサに取って死毒に等しい泥濘を散々浴びているからだ。
だが、想定より短時間で勝負を付けなければならないかも知れない。
更にプラジグを叩き込んで、炸裂させる。同時に、直上へ。光の一撃が、撃ち放たれるのが見えた。
思わず、顔を手で覆う。
とんでもない魔力。
ドラゴンのブレスでも、ここまでの火力は。いや、エンシェントドラゴンのブレスだったら、これくらいの火力はあるのかも知れない。
空へ放たれた一撃は、文字通り雲を吹っ飛ばす。
空に巨大な穴が穿たれ。
紫に濁った空が見える。
膨大な水がその途上で爆発し。水蒸気が辺りを蹂躙する中。それは、ゆっくりと立ち上がっていた。
足は確かに砕いた。
だが、そこにいるドラゴンに似たフィルフサは。確かに両の足を持っていた。
それだけじゃない。
更に足が二本増えている。
翼、両前足。それに加えて四本の足。
追加された足はフィルフサのような、虫に近い形態だ。色も白い。そして、翼が新たに展開される。それはドラゴンの皮膜の翼ではない。
虫のものに似た、透明な美しいものだった。
この凄まじいプレッシャー。さっきまでの様子見と違う。様子見で勝てる相手ではないと、相手も判断したのだ。
どうやら、本気になったとみて良い。
お手柄だタオ。
恐らく、今後の戦闘のペースを考えて、タオは手札を切ってくれたんだ。そうあたしは悟る。これ以上戦闘を長引かせて、無駄に被害が出ないように。
だけれども、藪をつついてドラゴンが文字通り出て来たな。
雄叫びを上げて、更なる異形になった「伝承の古き王」。
更に全身の装甲を突き破って、触手が増える。
その触手の全てに、鋭い棘がついているのが見えた。
「どうやらここからが本番みたいだよ」
「へっ、上等だ」
「分かっていると思うが、雨が止んだ。 すぐにまた雨雲が拡散するとは思うが、それでも……」
アンペルさんが、皆に警告を飛ばす。
分かっている。
「伝承の古き王」が、残像を作って姿を消す。
現れたのは、タオの後ろだ。
タオは反応できない。
無数の触手が、タオに襲いかかるが、間一髪セリさんの植物の壁が間に合う。だが、稼げたのは半瞬も良い所。
タオは全身を抉られて、それでも必死に回避した。
背中の翼を震動させて、「伝承の王」が地面をさがる。
なるぼど、飛ぶわけでは無く超高速移動をあの翼で行う、というわけか。
更に。
再びかき消えた「伝承の古き王」。
狙って来たのは、あたしだ。
全力で飛び退いて、触手による連撃を回避する。地面が吹っ飛ぶほどの火力。直撃を貰ったら、ミンチも残らないだろう。
更に、かっと声を出してくる。
それだけで、衝撃波が全身を強打。あたしは吹っ飛ばされて、泥濘に受け身を取るのが精一杯だ。
「くっそ、はええっ!」
レントが、あたしに追撃で放たれた尻尾……これも鎖状に変化していて、間合いが根本的に変わっている……を、大剣で弾く。
だが、この速度を手に入れた「伝承の古き王」だ。しかも装甲は、まだまだ健在なのである。
下半身は装甲をかなり失っているが、それでも四本の足が新しくはえ。
しかも雨が一時的に止んでいる状態だ。
泥濘をかき分けて高速で進んでいるから水は受けているが、土砂降りの中よりも、ダメージは小さいとみていい。
飛び起きると、あたしは見る。
セリさんの植物の壁を文字通り吹っ飛ばす「伝承の古き王」。
リラさんが仕掛けるが、残像を抉るだけ。
いくら何でも速すぎる。
更に上空に出た「伝承の古き王」が、触手を振動させる。
触手の先端に、多数の魔術が宿る。
まあ、そうだろうな。
同時多数詠唱、それくらいはやってのけるだろう。
クリフォードさんが投擲したブーメランが、「伝承の古き王」を横殴りに直撃したのは、次の瞬間。
それが奴を揺らして、魔術の雨が逸れた。
だが、爆発が立て続けに引き起こされ、彼方此方で悲鳴が上がる。
クラウディアが矢を放つが、全てが空を切る。
嘲笑うように着地した「伝承の古き王」が地面に伏せる。口に、見る間に光が集まっていく。
ブレスだ。
あたしが、その時に動く。
奴の口に、クライトレヘルンを投擲。
奴がブレスを放つ一瞬前に、起爆。
顔面が完全に凍り付いた「伝承の古き王」。ブレスを投擲するのが、一瞬遅れる。
その隙に、全員が飛び退く。
ブレスが。
さっき、雲を消し飛ばしたブレスが。
泥濘に満ちた土地に、巨大な溝を、地平の先まで穿っていた。
原作では形態変化しなかった「伝承の古き王」ですが。
せっかくですので本作では形態変化機能搭載です。
本作の次に連載する作品はどれが良いですか?
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暗黒!アトリエシリーズのまだ未掲載の作品
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真女神転生Ⅲの二次創作(真Ⅴ要素なし)
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流行り神二次創作
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その他二次創作
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オリジナルの長編