暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
ブレスが放たれた瞬間、前に出たのはあたしだけじゃない。パティもだ。
全力で、泥濘を蹴って前に出る。ブレスの火力は凄まじく、擦っただけで致命傷だと分かる。
薙ぎ払いに来る「伝承の古き王」だが。
クリフォードさんが、既に奴の上に跳んでいた。
「やらせるか、このドラゴンもどき野郎っ!」
もう余裕も無いのだろう。
ブーメランを全力で叩き付けた後、クリフォードさん自身が、体ごと「伝承の古き王」にぶつかる。
殆ど二撃にタイミング差はなく。
立て続けの二連撃に、流石の「伝承の古き王」も、ブレスを口の中で誘爆させていた。
クリフォードさんが吹っ飛ばされ、転がるのが見える。
同時に、頭の半分を失った「伝承の古き王」が、鬱陶しげに頭を振るう。
フィルフサはコアを失わないと死なない。
頭が半分吹っ飛んだ所で、ダメージにはならないのだ。
だが、ブレスの正確なコントロールは無理。しかも、視界をこれで殆ど失った筈である。頭がなくても死なないかも知れないが。
五感は、これで鈍るのだ。
パティと左右に分かれて、躍りかかる。
泥濘を踏み込むと、こっちに向けて振り下ろしてきた前足を迎撃。
相手は当てずっぽうで振り下ろしたのに対して。
こっちは全力で、完璧なタイミングで横薙ぎにした。
そうなれば、パワー差があっても関係無い。
文字通り、前足の一部が、装甲ごとふっとぶ。
そのまま、踏み込んで立て続けに蹴りを叩き込む。
パティも、向こう側で猛攻を浴びせているはず。
五月蠅そうに距離を取ろうとする「伝承の古き王」だが。今の一瞬、動きを止めたのがまずかった。
クラウディアが放った矢が、それもあの音魔術での分身体と一緒にはなったバリスタみたいな巨大矢が。
立て続けに、薄い美しい羽根に直撃する。
勿論破壊まではいかないが。
それでも、確実に傷つけていた。
レントもボオスも、リラさんも来る。
セリさんが、クリフォードさんを庇う。手当ては任せる。タオは、遠くで呼吸をまだ整えている。
アンペルさんが、また空間切断の魔術を使ったようだが。やはりまだ装甲を貫くには至らない。
そもそも此奴のコアは、何処にあるのか。
跳躍する「伝承の古き王」。
そのまま、ボディプレスを仕掛けて来たので、あわてて飛び離れる。
どんと、衝撃波が迸る。
泥濘を吹っ飛ばしながら、「伝承の古き王」は、更に形状を変える。
全身から更に触手が伸びると、破損した顔や前足をそれで補い始める。棘が突いている触手が、無理矢理装甲を補うように食い込む様子は、ぞっとさせられる。
全身が白い触手のせいで黒白のマーブル模様になった「伝承の古き王」が、再び雄叫びを上げる。
ボオスが、そらっと叫んで引いてきた荷車をこっちに走らせる。泥濘を蹴立てて、荷車が来る。
良い判断だ。
ちょうど手元で止まったので、爆弾を取る。
そして、飛び離れる。
また視力が回復したのだろう。触手を大量に展開して、辺りを薙ぎ払いに掛かってくる「伝承の古き王」。
なりふり構わずだが。
前に戦った「蝕みの女王」とはやっぱり違う。
此奴を動かしているのは悪意じゃなくて執念だ。
だが、その執念は何処に向かっている。
どうして、此方の世界なのか。
そもそも、こんなフィルフサには向いていない土地を無理矢理突破してまで、何をしようとした。
いずれにしても、此処からだ。
第二形態になってから、明らかに「伝承の古き王」は脆くなっている。
その体は。やはり。
雨に蝕まれているし。
なんなら、この水が多い土地に長らくいて、それでずっと弱り続けていたのだろう。こいつはフィルフサの王と呼ぶに相応しい存在。
それであったのは、恐らく間違いない。
だが、王がこのように呆けているというのも。
また、それはそれで呆れた話ではあった。
連続して炸裂する光弾をかわす。高速で動こうとする「伝承の古き王」だが、案の場翼のダメージがあって、さっきほどの速度は出せない。
いや、それを察知した瞬間、触手を大量に地面に突き刺す。
移動補助か。
だが、その時。
弾丸のように、パティが飛ぶのが見えた。
文字通りのなで切りで、触手を数本吹っ飛ばすようにして斬る。
体勢を崩す「伝承の古き王」。
レントが雄叫びとともに、大上段からの一撃を頭に入れる。はじめて、明確なダメージのある声を、奴が上げていた。
「なんだ。 触手へのダメージが、明らかに……」
「そういうことかっ!」
アンペルさんが、空間切断を展開。
触手の一本を打ちきる。
更に、のけぞる「伝承の古き王」。
それで、あたしも理解した。
こいつのコアは、この多数展開されている触手そのものだ。なるほど、この形態は、文字通り捨て身の形態。
コアを触手そのものにして全身を覆い。
生半可な魔術などでは通らない防壁と、攻防に生かす。
コアそのものから展開するから、魔術の展開も早い。
その種明かしをすると。
忌々しそうに、飛び退く「伝承の古き王」。
更に触手を多数展開すると。
一斉に光弾を放ってくる。
レントとセリさんが壁を展開するが、一瞬ごとに貫通される。恐らく奴も此方の言葉を理解したのか。
それとも決定的な弱点を見抜かれたことを理解したのか。
それならば。
タフネスを生かしての、殴り合いを行い。タフネスにものを言わせて、押し切るつもりになったと言うことだ。
だが、それだったら。
あたし達は負けない。
爆弾を投擲。
いずれも残った爆弾。それも小ぶりなものばかりだが。それにあいつは対応しなければならない。
中途で撃墜する。
だが、その間にクラウディアが、どんどん矢を叩き込む。こればっかりは、全てを迎撃する訳にもいかない。
しかもあたしが投げる爆弾の方に気を取られている。
それだけ、さっきのローゼフラムの火力が高かったと言う事だ。
だから、被弾する。
レントが前に出る。同時に、ボオスが続く。レントが魔力砲を弾き返しながら、前進。それにも気を取られ。
ボオスの接近を許す「伝承の古き王」。
ボオスが。気合とともに触手数本を斬り刎ねる。
更に、それがとどめになって、クラウディアの連射が、次々に着弾。ボオスを追い払おうと必死に光弾を乱射する「伝承の古き王」だが。
その時。
ざくりと音がした。
詠唱して、時間を掛けて魔術を練り上げたアンペルさんが。
横薙ぎに、空間切断をしたのだ。
触手数本が、それで消し飛んだ。
絶叫しながら、竿立ちになる「伝承の古き王」。
その足下に。
既に、今の攻防を見て、突貫したパティがいて。大太刀を鞘に収めていた。
昨日見せてくれた奥義。
上段に剣を構え。開いた手を敵に向け。そして、敵に突貫する。
「フローレス……」
悲鳴を上げながら、光弾を無茶苦茶に乱射する「伝承の古き王」。だが、パティはその全てを、大胆すぎる足捌きで避けきる。勿論さんざん掠めるが、多少の傷はもう気にもしていない。
深窓のお嬢様とやらには真似できない事だ。
彼女は、元々庶民だった騎士の父親と。庶民だった母親の子。
だけれども、何百年続いた王族だの貴族だのよりも。ずっとそうである立場に相応しい事を、行動で見せている。
血筋などというものが如何にくだらないか。
パティはそれを、身を以て見せつけていた。
「デザイアっ!」
乱撃で触手十数本を斬り下げ。その後の突貫と抜き打ち。更にはとどめの大上段からの一撃で、ほぼ同数の触手を屠るパティ。
背中から、泥濘の中に倒れる「伝承の古き王」。
だが、あたしはとどめを投げ込もうとして。即座に悟る。まずい。更に魔力が。「伝承の古き王」の中で膨れあがっている。
まずい、逃げて。
叫ぶ。
クリフォードさんが、叫びながらブーメランを投擲する。
「掴まって離脱しろパティ!」
「! はいっ!」
ブーメランに飛びついて、その場を離れるパティ。様子がおかしいと判断したのだろう。ボオスも必死に走って逃れる。
全員を、後ろから追い打ちするように。
爆発同然の、魔力の奔流が、炸裂していた。
煌々と輝く白い体。
欠損もない。
大きさはかなり縮んでいて、人間より二回り大きいくらい、だろうか。
それが、ゆっくり立ち上がるのが見えた。
あたしは何度か咳き込む。
肋骨が折れた。
文字通り爆発のような圧力の前に、撃ち倒されたのである。すぐに薬を入れる。荷車は、少し距離がある。
まだ相手は。
「伝承の古き王」は脱皮直後。
今仕掛ければ、一気に倒せるかも知れない。だが、それよりも回復を取るべきだとあたしは判断していた。
戦えそうなのは。
パティは倒れていて。タオが引きずって後方にさがっている。タオもダメだ。手酷くやられている。
リラさんが、あたしの側に降り立つ。
かなり手傷が酷いが、まだやれそうだ。
レントも、何とかギリギリ。
ボオスは、セリさんを担いで後ろに下がっている。クリフォードさんは、パティを助けるためにかなり無理をしたようで。
フラフラのまま、後退を選択していた。
クラウディアは距離があるから平気か。アンペルさんは、恐らく魔力切れだろう。さがることを選択している。
リラさんが、体勢を低くしたまま聞いてくる。
「ライザ、いけるか」
「大丈夫です。 それよりも……」
「見た目ほどでは無い。 相手も、最終手段を採ったと言う事だ。 つまりもう後はないとみていいだろうな」
頷く。
さっきまで、コアそのものを触手として戦っていた「伝承の古き王」。
弱点を展開して、それをむしろ武器にするという大胆な戦い方だが。そんな寿命を縮めるようなやり方が、本来の戦い方の筈がない。
普段は、最初の形態で、そのままパワーで圧殺するのが、あいつの本来の戦い方だったのだろう。
コアを使うのは奥の手。
更なる奥の手が。
今見せている、あの輝く形態という事だ。
人型……いや違う。シャープな姿は、二本足で立ったドラゴンに近い。多数の生物の強みを取り入れているフィルフサの、それも王種。
だが、どうにも妙だ。
二本足の生物は、出力がどうしても四本足の生物に比べると落ちる。
あの姿が、合理的に強力な生物だとは思えないのだ。
翼を拡げる「伝承の古き王」。
勝負は、一瞬になる。
あの姿、さっきまでの戦い方の更なる延長上。
つまり、コアを外殻に纏うことにより。
戦闘力を極限まで上げていると判断して良いだろう。
つまりそれは、全身全てが弱点だと言う事だ。
手元にある切り札。
最後にとってある爆弾を見る。
当てられれば、勝ち。
だが、当てる余裕を、与えてくれるか。
「来るぞ……」
「クラウディア、出来るだけ近付いて!」
「! 分かった!」
今のあいつの速度。
クラウディアまで、一瞬で到達出来る。だったら、距離を取るよりも、支援可能な位置にいた方が良い。
「伝承の古き王」は、多分此方が纏まるのを待っている。
あの姿、奴も長時間は展開出来ないという事だろう。
それに、である。
さっきブチ抜いた曇天が、再び戻り始めている。雲が、集まって来ている。
此処だけ晴れになったのだ。だが、周囲は相変わらず土砂降りである。
浸透圧だったか。
それによって、単純に雲が均一化しようとしている。あの全身弱点みたいな状態で、水を浴びたりしたら。
それだけで致命傷になる。
かといって、あの姿。「伝承の古き王」は、雨にもある程度耐えられる通常形態にまた戻れるとも思えない。
あたし達に勝つためだけに、あの姿を選択した。
その後長くは生きられないだろうに。
つまりは、執念そのものが、あの姿だ。
だから、此方も、全力で答える。
唐突に。
状況が動く。
時間が消し飛ぶようにして、事態が動いた。此方に来る。残像を複数作りながら、「伝承の古き王」が迫ってくる。
レントが前に出ると、体を旋回させながら放ってきた尻尾の一撃を、どうにか全力で食い止めて見せる。
だが、衝撃が弾き合い、わずかに動きを止める「伝承の古き王」。
同時に吹っ飛ばされるレント。
あたしとリラさんが、左右にそれぞれ散る。クラウディアは、速射に切り替えて、同時に多数の矢を放つ。
奴の至近まで矢が迫る。
だが、「伝承の古き王」は、残像に抉らせて。その全てを回避して見せる。
流石だな。
そう思いながら、あたしはしかし見抜く。
クラウディアの本命の矢が。
地面を激しく爆裂させる。
吹っ飛んだ大量の泥濘。雨が止んで、苛烈な戦闘の場になったからとは言え、いきなり土が乾くわけでもない。
「伝承の古き王」が、何か投擲する。それが奴の右腕だと気付いて、流石に戦慄した。クラウディアが、速射して対応するが。「伝承の古き王」の右腕はクラウディアの脇腹を深々と抉る。クラウディアが文字通り吹っ飛ぶ。速射で逸らさなかったら、内臓を直撃、即死だっただろう。
リラさんが仕掛ける。
踵落とし。残像を抉る。
踏み込んでの、回し蹴り。残像を抉る。
だが、背中から、もろにクラウディアが巻き上げた泥濘に、「伝承の古き王」が突っ込む。
速度が異常なのだ。
水と泥濘が、煌々と輝く全身を撃ち抜く。
それで、動きが鈍る。
体を二度旋回させると、クローでリラさんが、「伝承の古き王」の体を抉り抜く。腹を丸ごと抉られて。しかしそれでも「伝承の古き王」は止まらず。逆に撃ち抜くような鋭い蹴りをカウンターでリラさんに入れ。
リラさんはガードしつつも、両の腕の骨を文字通りへし折られ、空中に投げ出される。
更にその動作と同時に、尻尾を振るってくる。あたしはなんとか跳躍して逃れ。更に泥濘に当たって半ば砕けながらも、撃ち抜くように叩き込んでくる蹴り技を。空中機動で地面に体を叩き付け、回避。
だが、それを待っていたように。
無理矢理壊れている全身を立て直した「伝承の古き王」が。
地面に踏み込み。尻尾を跳ね上げて。口に凄まじい烈光をため込む。
既にあたしはその時、切り札になる爆弾を投擲済。
「伝承の古き王」とはいえ、これを回避するのは無理だ。
だがあたしも、ブレスを避けられそうにない。
相討ちか。
だが、此奴と相討ちになれるのなら。
その時。
「フィー!」
不意に、フィーが叫ぶ。
鳴くでは無く、叫んだ。
あたしの脳裏に、声が響く。
それは、間違いなくフィーの思念だった。
何かをなだめる声。
違う。
そういった感傷的なものじゃない。
何かをする時に発生する災害を、少しでも抑えるような声。それを聞いて、ほんの、ほんのわずかだけ。
「伝承の古き王」が動きを鈍らせる。
その瞬間、あたしは悟る。
エンシェントドラゴンの西さんが、どうしてフィーを知っていたのか。
その罪とは何なのか。
そしてこのドラゴンにそっくりな「伝承の古き王」が、何故此処に固執していたのか。
だが、だからこそ。
この勝機は、逃すわけにはいかない。
起爆。
それは試作型の爆弾。
レヘルンで冷気を炸裂させ。フラムでその冷気を一気に蒸気にし。ルフトで壁を作って蒸気を閉じ込め。更にプラジグの雷撃を、その中で爆発させる。
特に対フィルフサのために作りあげた、究極の爆弾。
あまりにも作成難易度が高すぎるために、これ一つしか作れず。ジェムで複製したものは、簡単には作れないと言う事もあってアトリエに残してきた。それだけの、切り札のなかの切り札。
一瞬だけ、見えた。
ブレスを吐こうとして。
それでも、どこか遠くを、懐かしそうに。或いは嬉しそうに眺める「伝承の古き王」の最後の姿が。
だが、その姿が、空気の壁に遮られ。
蒸気と雷撃と、何より蒸気が発生する際の凶悪な爆圧と、フラムによるそれの後押しによって。
粉々に砕け散る有様を。
破壊力は想像以上で、上空に巻き上げられた泥濘が、雲の浸透を更に後押しする。
そして、皆が動けずぼんやり見ている中。
雨がまた、降り始めていた。
爆弾の猛威が収まると。其処には、既に全身がぼろぼろになって、それでもはや動けずにいる「伝承の古き王」の姿があった。胸についていた機械は、既に粉々に消し飛んでしまっていた。
機械の回収は出来なかったが、それでも破壊できた。それが致命傷になったのが分かる。
終わりだ。
あたしも、全身が限界に近い。
深呼吸すると、王種に近付く。
「フィー……」
悲しげにフィーが鳴いた。
分かった。
フィーの役割も。
だから、それを果たせないと言う事が、どれだけ悲しい事なのか、理解出来てしまったが。
それでも、ここはやらなければならなかった。
王種、「伝承の古き王」に。あたしは歩み寄りながら告げる。
「三年前に戦ったフィルフサの王種「蝕みの女王」は、人間のクズの煮こごりみたいなどうしようもないゴミカスだった。 自分を守るために必死に体を張った将軍を見捨てて、自分は最後まで正しくて、何よりも理不尽に攻撃されていると本気で思い込んでいるようなどうしようもない奴だった」
もう雨の中、溶けていくしかない「伝承の古き王」の至近で、あたしは足を止める。
そして、告げた。
「あんたはあいつよりはずっとマシだったよ。 ただ、悪いけれどあたし達とは相容れる存在じゃない。 だから、敬意を持って、首を取らせて貰うよ」
「……」
意思が伝わってくる。
執念の根元。
この「伝承の古き王」の、根元となる思考。
あたしが理解した通りのもの。
「渡りたい」。
あたしは頷くと。
全力での蹴りで、最後に残っていた「伝承の古き王」の全身を、打ち砕いていた。
死闘決着。
ライザの切り札は、やはり蹴り技です。
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