暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
一度拠点まで戻る。薬は、案の場使い切ってしまった。セリさんの薬草にも頼る事になった。
とにかく深めの傷は、薬でなんとかし。
擦り傷はセリさんの薬草で応急処置をする。
アトリエまで戻れば。残ったジェムをフルにつぎ込んで、どうにか回復出来るだけの薬は作れるだろう。
ともかく、タオには歩けるようになってもらって。
最初に伝令で戻って貰う。
あたしが砕いた時、残っていた「伝承の古き王」の首。
それを持ち帰って。
そして、告げて貰うためだ。
我等、勝利せり、と。
雨は止みつつある。一度、此処は離れなければならないが。
仮にすぐ近くにフィルフサの別の群れがいたとしても、此方には近寄らないだろう。水害の跡が色濃く。
よほど強靭な群れでもない限り、突破は不可能だ。
そして、今は時間が出来ている。
「アンペルさん、これからの事ですが」
「門の制御装置だな。 「聖堂」の解析は出来ている。 それを再現して、作る事は可能だ」
「お願いします」
「ああ……」
自然門だろうが、制御装置は時間をおけば作れる。
あの強力な「伝承の古き王」とその配下の群れがいるから、そんな余裕が無かった、ということだ。
皆、しばらく休んで。
タオとボオスが戻ってきた後、しばらく雑魚寝する。
もう、何も喋る余裕もなく。
今は、ただ休むしかなかった。
数刻休んで、外に出る。大きめの傷は全部治して、それでもまだ体中が酷く痛むけれども。
それでも何とか動けるようにはなった。
雨は止みつつある。
やがてこの土地は、水が溢れ緑が豊かな美しい場所に戻るだろう。
問題は破壊された緑だが。
セリさんが、隣に並ぶ。
「この土地の再生は、私がやるわ」
「しばらくは王都に滞在するので、手伝います」
「そう……」
「それに、恐らくそれほど遠くない場所に、「伝承の古き王」の群れの母胎の土もある筈です。 そこで、例の植物の効果も試せるはずです」
頷くセリさん。
いずれにしても、全てが終わったのだと分かる。
セリさんは、何度か目を擦っていた。
まさか、こんな日が。
フィルフサの王種を仕留め。群れを撃滅して。オーリムの土地の一部でも、奪回できる日が来るなんて。
思っては、いなかったのだろう。
今回も、半ば決死の特攻作戦だと、セリさんは思っていたようだ。
それがこの完全勝利である。
それを思えば、感慨も深いのだろう。
セリさんは何百年も生きているのだが。それでも、人間とオーレン族では時間の感覚も、年齢の感覚も違う。
だから、或いは。
みずみずしい感性が、感情を昂ぶらせているのかも知れなかった。
拠点に戻ると、皆起きだしていた。
まだ包帯が痛々しいレントも、起きている。
あたしは、話をする事にする。
大事な話だ。
「王種「伝承の古き王」との戦闘中、フィーや「伝承の古き王」の思念があたしの中に流れ込んできました」
「詳しく聞かせてくれるか」
アンペルさんも、学者としての心が騒ぐようだ。
この人は戦闘向けの魔術師ではないし、錬金術師としても自己評価が高くないようだが。
やっぱり学者なのだと思う。
こう言う話をすると、興味を見せる。
それも、とても楽しそうだ。
やっぱりタオの師匠でもあるのだなと思う。あたしは咳払いすると、順番に説明をしていく。
「経緯はよく分かりませんが、あの自然門。 恐らくは、「北の里」にて果てた、エンシェントドラゴンの「西さん」が作ったものだと思います」
「なんだと!?」
「ドラゴンの習性なんです多分。 ただ、どうして門を作ったのかまでは分かりませんが……」
「なんということだ……」
アンペルさんが呻く。
タオは無言でメモを取っていた。
あたしは続きを話す。
「状況証拠ばかりなんですが、「西さん」はずっと己の罪がと言う事を言っていました。 だから、古代クリント王国と大して変わりもしない国に協力したと。 北の里の民を大事に思っていたから。 それ以上に、この世界に愛着だってあったんでしょう」
「つまり、エンシェントドラゴンとして、意識がしっかりする前に行ってしまった習性と言う事か」
「恐らくは」
「……」
リラさんが考え込む。
セリさんは、じっと話を聞いていた。
「セリ=グロース。 其方では、何か聞いたことはないか」
「いえ。 私もドラゴンについては殆ど知識がないわ。 オーレンの古老達は、何か知っているかも知れないけれど。 ただ古老の中で今間違いなく健在な方は、聖地の中の聖地にいるから、簡単に会いには行けないわね……」
「そうか……」
まだ、話す事がある。
あたしは続ける。
フィーがどうも、それに関わっているらしいこと。
今、あたしの懐で眠っているフィーだが。
最後に「伝承の古き王」に、何か呼びかけて。
そして、「伝承の古き王」も、それに対して反応していた。
最後の瞬間。
「伝承の古き王」は、フィルフサよりもドラゴンとしての性質が、表に出ていたのだと思う。
恐らくだが、フィルフサとしての性質よりも、ドラゴンとしての強さが、あの時求められたからだ。
つまり、ドラゴンは。
「門」に何かしら関わっている、という事である。
そしてフィーも。
ドラゴンに、特に門を作る時に、何かしらの役割を果たすと言う事だ。
「そもそもとして、オーリムの空気よりも、エンシェントドラゴンの西さんの亡骸の側にいる方が、フィーは気楽そうだったんです」
「ふむ……」
「リラさんやセリさんを見る限り、此方の世界の空気と、オーリムの空気で、それほど違うとは思えません。 やはりドラゴンが、何かの鍵になっているんだと思います」
「なるほどな……」
アンペルさんは、何度も頷く。
タオが、メモを取り終えて。そして言った。
「僕が調べた限り、エンシェントドラゴンの目撃例は、ここ数百年で数例しかないそうなんだ。 ドラゴンそのものが、そもそもあまり多く見られないらしくてね」
「確かに俺も、実際にドラゴン狩りだと聞いて行ってみたら、ただのワイバーンだった事が何度もあったな」
「ワイバーンの成体がドラゴンなのはほぼ暗黙の了解だけれども、だとすると両者の境は本当に曖昧なんだろうね」
「うん。 いずれにしても、エンシェントドラゴンなんて滅多に見られるものじゃあないし。 それに……」
タオは、少し言葉を切って。
仮説だけれどと、付け加えた。
「「伝承の古き王」が此処に引き寄せられたのは、或いは「門」を作る為か、それとも先に門が作られた場所が、安易に通りやすい場所だったから、なのかも知れない」
「ふむふむ?」
「例えばだよ。 エンシェントドラゴンが簡単に門を作れるなら、それこそ好き勝手に門を造れば良い。 あの「伝承の古き王」だって、魔力量にしても戦闘力にしても、エンシェントドラゴンに劣っているようには思えなかった。 ましてやフィルフサが母胎として作った土から生まれたのだとしたら。 同じように門を作れなければおかしい。 だけれども、先にエンシェントドラゴンが開けた門に、あのフィルフサの王種はこだわっていた。 これが示すのは。 決まった場所にしか門を開けられないか、それともエンシェントドラゴンでも、何百年も門を開けるのには時間が掛かるのかも知れない」
なるほど。
確かに、それなら話も納得出来る。
あたしは頷くと、意見を周囲に求めるが。
特に異論はないようだった。
アンペルさんが、大きく嘆息した。
「門の発生のプロセスは、私の生涯の研究だった。 だが、まさかこんな形で、それが明らかになるとはな……」
「まだ全てが明らかになったわけじゃありませんよ。 それに、フィーが何かしていましたけれども、それがなんだったのかもよく分かりませんし」
「私のしたかったことは、門を好き勝手にさせないことだ。 今までの話を総合するに、恐らくエンシェントドラゴンといえども、勝手に門を作る事はできない。 つまり新しく門が勝手に開くことはまずないということだ。 それは私が危惧していた、新たに門が開いて、フィルフサがなだれ込んでくる事態はそうそう起きないことを意味する。 私は今後、古代クリント王国が彼方此方に無作為に開けた門を、全て封じていく事に余生を使う事になるだろうな」
そんな。
アンペルさんのせいじゃないのに。
ただ、少しだけ悲しくなった。
アンペルさんは咳払い。
あたしも、それで理解する。
「ともかく、一度戻ろう。 此処はもう大丈夫。 一度アトリエに戻って、薬での根本的な治療。 そして食事。 後はベッドで寝る」
「あ、私が屋敷を提供します。 これほどの事を成し遂げてくださった英雄の方々ですし、それくらいはさせてください。 お金を持っている人間の、最低限の責務です」
「アーベルハイム邸って、寝室がたくさんあるんだっけ」
「お風呂もあります。 ライザさんも、たまにはうちで寝ていってください」
パティの有り難い提案。
そうなると、食事もアーベルハイム邸で。
いや、まて。
アーベルハイム邸での食事よりも、多分バレンツでの食事の方が美味しいだろうな。腕の問題じゃない。
仕入れとして、そもそもアーベルハイムも王都の上流階層ということだ。
つまり素材が塩漬け、砂糖漬け、香辛料漬けということである、
あたしの懸念を即座に理解したか、クラウディアが両手を合わせる。
「食事はうちで用意するわ。 せっかくだから、ヴォルカーさんにも食べて貰いましょう」
「あ、いいですね。 でもクラウディアさん、お怪我もあるので、お菓子は……」
「ふふ、そうね。 流石に今回はお菓子なしだけれども……」
「別にかまわないよ。 いつでも食べられるんだし」
アンペルさんが、ものすごく残念そうにしていたのを一瞥だけした。
まあ、師匠にもそれは我慢してもらうしかないだろう。
ともかく、疲れている体にもう少しだと言い聞かせて。
フィルフサの群れを駆逐する死闘の拠点となった、土まんじゅうを引き払う。潰す事はしない。
此処がそのまま、セリさんの活動拠点になるからだ。
それと、撤退前に。
水を吸い上げる装置を壊しておく。
これは残念だが、悪用される可能性が高すぎる。
だから、徹底的に破壊して、原型も残らないようにしておいた。
後は、凱旋だ。
遺跡の、扉の前に。
カーティアさんと、同族らしいメイドの一族が何人かが、陣地を作っていた。いずれも凄い使い手ばかりだ。あたしの顔を見ると、カーティアさんは頷いて、敬礼していた。
「よくぞ戻りましたね」
「ええ。 見ての通りボロボロですので、最優先で休憩をします」
「分かりました。 後始末は此方でしておきます」
「みんな、先にアーベルハイム邸に。 あたしは、仕掛けておいた爆弾の処理だけして戻るよ」
皆には先に引き上げて貰う。
最悪の場合、此処を湖底にするために、何カ所かに大きめの爆弾を仕掛けておいたのである。
戻る前に、それだけは排除しなければならない。
ただ、それも大した手間じゃない。ヴォルカーさんと合流。パティは無事だと告げると、ヴォルカーさんは、大きなため息をついていた。
「そうか、良くやってくれた。 タオくんが持ち帰ってくれたあの首は、後で王都近郊で倒した強大な魔物のものだとして、王に見せるつもりだ」
「分かりました。 武勲にしてください」
「ああ……」
その後は、立ち会って貰って、爆弾の処理を行う。
あたしが作った爆弾だ。
そもそもセーフティを解除しなければ、火に放り込もうと爆発する事はない。
軽く、最後の決戦の流れについて話をする。
フィルフサの王種も、将軍も。
パティが奥義を完全にきめて、決定打になった事を告げると。ヴォルカーさんは、本当に嬉しそうに目を細めていた。
「あの技は、使い手に勇気と判断力が求められるものだ。 それを完璧に決めたというのであれば、パティは既に王都の騎士の中でも最強だと判断して良い。 私を既に超えただろうな」
「まだ戦闘指揮などの経験は浅いので、其方を教えるべきだと思います」
「そうだな。 それについてはまだまだだ。 もう少し直情的なところをなんとかしないといけないな」
「そうですね」
パティはかなり抑え込むタイプだが。
だから、以前のような爆発もしたのだろう。
本質的には直情的なのだ。
だから、あんなに外まで怒鳴り声が響くほどにキレていたというわけだ。
それをヴォルカーさんは知っている。
だからこそに、こんな事を言ったのだろう。
爆弾を全て引き上げると、借りていた三台の荷車を返す。あたしの使っている荷車に、爆弾やら、使い終わった後の包帯やらを詰め込んでアトリエに戻る。
アトリエにてコンテナに整理するが。
ちょっと体から力が抜けそうだ。それくらい。最後の戦いはギリギリだったと言う事である。
フィーがいなかったら死んでたな。
そう思って、あたしは苦笑い。
薬をジェムを使って増やして。それで、後はアーベルハイム邸に向かった。
皆の傷を治してから、それからやっと風呂に入る。
文字通り、その場で落ちそうだった。
疲労は理解しているのか、メイド長が控えてくれている。まあ、風呂で落ちて溺死なんて醜態はさらしたくないし、こればかりは仕方が無い。
傷は薬で全部治したし、湯が疲れに染み渡る。
ぐったりと湯で体を伸ばして。
その後に、クラウディアが用意してくれた食事を、楽しませて貰った。
なんというか、今までで一番美味しかった。
それはそうだろう。
あれだけの戦いの後だ。
食事を皆でわいわい楽しむような事もなく。無言で皆がっついていたのは、それだけ戦闘が苛烈だったことを意味する。
テーブルマナーに厳しそうなクラウディアもパティも。テーブルマナーを最大限に駆使して、がつがつ食べているのを見ると。
本当に総力戦だったのが分かる。
ヴォルカーさんもそれは同じで。
メイド長が、側で見ていて呆れていた。
後は、食事を終えた者から、順番に寝室に。パティが事前に手配してくれていたらしく。メイドや下男が案内して、それぞれ寝室を使わせて貰う。
まあ、今日くらいはいいだろう。
枕が変わると眠れない、なんて事は流石に今日もない。
フィーはずっと眠っている。
或いはだけれども。ドラゴンの力を間近で吸って、それで体調を完全に戻したのかも知れなかった。
いずれにしても、フィーの体調不良を回復する方法は、はっきり分かった。
ただ、それだけでも。
あたしは嬉しかった。
ほぼ丸一日寝てしまったが。
逆に、その程度で済んだのも、体がまだ若いから、なのかも知れない。いずれにしても、体の老若はもう関係無くなる。
既にあたしは。この年齢に縛られる体について、拘りを持っていない。
起きだすと、トイレを借りる。
流石に丸一日寝た後だ。
生理反応は、どうしようもないのが現実だった。
起きだして、食事を出して貰ったので、有り難くいただく。まだ頭がはっきりしていないが。
ボオス、それにパティとタオは既に起きだして、学園に向かったそうだ。
レントは最初に起きて、アーベルハイム邸を出たらしい。
まあレントとしても、こういう上品な家での生活は、あまり慣れていないだろうし。仕方が無いと言えば、仕方が無い。
それはあたしも同じである。
セリさんは、少し前に起きだしたらしく、食卓で一緒になる。
なんでもリラさんが少し前に出ていくのを見たらしく。アンペルさんもそれに続いたそうである。
まああの二人は、マイペースだ。
それに、多分だけれども。
アーベルハイム邸にいると、この後色々面倒だと言う事を理解しているのかもしれなかった。
「セリさんは、これから門の向こうに行く感じですか?」
「ええ。 クリフォードが護衛をしてくれるそうよ」
「へえ……」
「パティが提案してくれたの。 しばらくは近場に宝もないだろうし、オーリムを探してみては、ってね」
まあ、あたしは男女の機微には疎い。
それに、セリさんにその気があるとも思えないし。クリフォードさんも、セリさんと特別仲が良さそうには見えなかった。
だいたい、あたしもこれからオーリムの復興には協力する。
当然の話だ。
水害で、フィルフサを倒すためとは言え、被害を出したのだから。
アンペルさんとリラさんは、門を制御するための装置を作るのに忙しくなるだろう。
あたしは。
王都の機械をなおしつつ。
オーリムの復興を手伝いつつ。
それに門の制御装置のパーツを作る、になるか。
王都周辺の魔物で、手強いのは全部片付けておきたい。ただでさえ、人手が足りていない様子なのである。
パティが大人になった頃には、今の役立たずの王族も貴族も全部掃除できていると良いのだけれども。
忙しすぎると、どうしても隙が出来る。
その隙を作らないようにするためにも。
あたしが出来る事は、しておかなければならなかった。
食事を終えて歯磨きして、顔を洗って。
それで、ヴォルカーさんに呼ばれる。
まあ、案の場と言う奴だ。
幾つか、話をしなければならない。
執務室で、話をする。
メイド長が、議事録を取ってくれるのが助かる。これは本当にあたしとしても苦手な作業なのである。
字も下手だし。
「というわけで、門の向こうにいたフィルフサの王種は仕留める事ができました。 かなりきわどい戦いでしたが、死者はなし。 此方の完勝と言えると思います」
「うむ、本当に良くやってくれた。 話を聞く限り、もしもその群れに王都に乱入されていたら、一日ももたずに全滅だっただろう。 その後は、人類も続けて滅びてしまっただろうな」
「……」
そうだろうな。
実は、少し気になる事がある。
カーティアさん達だ。
あまりにも統率が採れすぎている動き。何より全員が揃いも揃ってそっくりなこの一族である。
たまに男性もいるそうだが、それはレア中のレア。
更に話を聞くと、例外なくハイスペック。
人間と子供を作れるようなのだが。
これもまた妙な話で。普通の人間になる事はなく、みんな同じような姿になるという事なのだ。
何かあると思うのが当然だろう。
フロディアさんの異常なスペックを見ていた頃から、おかしいと思っていた。クラウディアと幼なじみだということだが。
金持ちや権力者の側に色々な形で入り込んでいて。
そして恐ろしい程の統率が採れている。
今の時点で、敵対する要素が一つも無い。だけれども、何か絶対にあると、あたしは思っていた。
「それで、これからどうするのかね」
「まずは王都の壊れた機械を全て直します」
「うむ……助かる」
「同時並行で、門の向こう側の復興と、門の制御装置の作成をします。 門の向こう側の復興がある程度目処がついたら、制御装置を使って門を閉じます。 此方ではそれをやっておきますが、念の為アーベルハイムの権限で、遺跡への立ち入りを禁止してください」
オーリムに人間が立ち入っても。
絶対に碌な事はしない。
オーレン族だって、人間を見次第殺しに来る可能性が高い。
グリムドルでは何度も何度も起きた。
キロさんが理性的だったから、話が出来たというだけで。
オーレン族には、今の此方の世界の人間を、どれだけでも恨む権利がある。それについては。あたしも分かっている。
「後は王都を調査して、上水と下水について確認します。 ひょっとしたら、神代の装置があって、それが何かしらの問題を起こしている可能性がありますので」
「そこまでしてくれるのか」
「そこまでしか、できないです」
「いや、充分だ」
それが終わったら、クーケン島に引き上げる。
ただし、それはあくまで飛翔のために力を蓄えるため。
あたしはアンペルさんと連携して、世界中の門を閉じたり。
或いは、可能な限り門の向こうにいるフィルフサをぶっ潰して回るつもりだ。
それだけじゃない。
まだオーリムの各地から奪った水が、彼方此方で眠っている可能性がある。
それらについても、解決が必要だろう。
オーリムから古代クリント王国の鬼畜どもがどれほどの水を。たかが資源採掘のために奪い取ったのか、知れたものではない。
連中にとっては、利権は人命なんぞより遙かに重かったのだろう。
理解したくもない。
そしてアンペルさんが見たように。
ロテスヴァッサの王族も貴族も、同じ穴の狢だ。
何もかも精算するためには。
あたしの寿命は、足りなさすぎるのだ。百年やそこらでは、とてもではないが無理だろう。
だからあたしはクーケン島に戻ったら、人間を止めるための研究を本格的に行う。
その後は、二度と人間が同じ事をしないように。
場合によっては魔王になる研究を開始する。
それも、いずれもが此処では話せない事だが。
ともかく。
膨大な金貨を報酬として貰う。
ありがたい話だが。
まあ、これはヴォルカーさんの心遣いなのだろう。更に、今借りているアトリエは、幾らでも使って良いと言われる。
以降、宿代はタダだそうだ。
「ありがとうございます。 助かります」
「君のような英傑が、王都で活躍してくれる期間が長ければ長いほど助かる。 此方では、君の邪魔をする蠅が出ないように出来るだけ手を尽くそう」
「分かりました。 全力で動きます」
「ああ、頼む」
後は最敬礼して、執務室を後にする。
皆に、この報酬は分けておこう。
あたしだけで独占しても、それは決して良い結果にはならないのだから。
アーベルハイム邸から出て、アトリエに戻るライザを、パミラはじっと見ていた。気付かれる可能性が高いので、もはや肉眼ではなく、衛星からだが。
紅茶を口に運びながら、報告を聞く。
カーティアが。戦闘の経緯についてはまとめてくれていた。
「ライザは今後、王都の機械の復旧、更にはオーリムの復興を終わらせた後、クーケン島に戻るつもりのようです」
「それだけじゃないわねー、あれは」
「恐らく今後、世界中にある門の封印をあの面子で行って行くのでしょうが」
「……多分それだけでもない」
ちいさな部屋。
だが、この時代とは完全に文明が隔絶している部屋。
神代のまま残っていた部屋を、そのまま接収。
使っているものだ。
王都の地下深くにあるコントロールセンターの一角である。
この王都は、神代に作られた都市だが。
その残骸を、この土地に新しく来た者達が再利用した。だからある程度インフラが整っている。
今は、そのインフラの残骸を利用しているに過ぎないのだが。
「同胞」ほか僅かな者が、此処の存在を知っていた。
「コマンダー。 ライザは有益だと判断していましたが。 何かあの者が目論んでいる事を察知しているのですか」
「……私が見て来た優れた錬金術師はね-。 みんな、ある程度の一線を越えると、以降は人間の領域を踏み越えた考えをするようになっていったのよねえ」
「それは欲望が強く、あの外道どものようにということでしょうか」
「すぐにそう考えない。 あの者達と、ライザは違うと言う話をしたでしょう?」
ふふと、パミラは笑い。
そして、プディングを食べる。
実に甘い。
そして美味しい。
これだけは、本当にそのまま残っていて助かる。元々プディングという料理は、料理しだいではとてもまずくなってしまうものなのだが。
砂糖の作り方が失われなかったのも、或いは大きかったのかも知れない。
ロストテクノロジーだらけの中で暮らしていて。
疑問さえもてない。
この世界の人間は、それくらいまで零落してしまっているとも言えるのだが。
まあいい。
ともかく、ライザはしばらく監視だ。
この世界の錬金術師達は、結局どいつもこいつも人間という枷から解き放たれなかった。
だからその優れたテクノロジーをエゴのためにしか使えなかった。
神代の者達からしてそうだ。
「同胞」の根拠地であり。パミラの友人の住まうあの場所にしても、その夢の跡だとも言える。
人間の領域を超えられなかったから。
宝の持ち腐れになってしまった、ということだ。
人間は万物の霊長である。
そういう妄想は、何処の世界でも。どの宇宙でも、生じた人間が捕らわれてしまう最悪の毒である。
人間という生物が、それほど素晴らしいか。万物の霊長という言葉は、人間を錯覚させる。正当化させる。
だが現実問題として、人間は別に素晴らしくなどない。
パミラはそれを知っている。少なくとも、大半の人間の本性はケダモノ以下だ。だからこそ、少しでもよくあろうとし続けなければならない。
その少しでもよくあろうとする努力を。
一から否定するのが、万物の霊長という妄想である。
万物の霊長であるから、全てに勝っていて、完全に正しい。
だから何をしても良い。
そう考える。
少なくとも、大多数は、である。
この万物の霊長という妄想は、人間が捕らわれている呪いに等しい。それも種族単位で、である。
これから脱しない限り、人間に未来はない。
パミラが見て来た、輝かしい文明へと昇華した人間達は。みなこの妄想から解き放たれていた。それには一つの例外もない。人間こそ至高の存在という思い上がりが、あらゆる世界で人間に枷を嵌めてきた。場合によっては破滅にさえ誘ってきた。
それを思うと、パミラには。
ライザにも、この妄想の軛から離れて欲しいと思うし。離れてくれなければ、その時は殺すだけだ。
今のライザの能力で、人間至上主義なんてものを掲げたら。今度こそ世界を滅ぼす要因になる。
それは見逃す訳にはいかない。
世界を見守ってきたパミラは、基本的に世界を見守る事だけに力を費やしてきたが。
この世界は、来たタイミングで滅びつつあった。
だったら、それを崩すために。
少しでも、自身で動かなければならないのだ。
「あの子の話によると、もうライザのセーフティは砕けている。 そして遅くとも一年もすれば、例のものが発動するそうよ」
「!」
「勝負はそれからねー。 最悪の場合は、そのタイミングでライザを討ち取る。 だけれども……もしもライザが、神代のあの者達と違う錬金術師になれるのなら。 貴方達の希望になれるでしょうね」
その時には、パミラが動く。
ライザという存在を、見極めるために。
苦く、そして辛い戦いの末の勝利。
そしてライザは、その後にするべき事を、全て決めているのでした。
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