暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
アトリエの外に出て、あたしは伸びをする。晴れ空の下。朝早くだが、もうすっかり陽が照っている。
それから、体を軽く動かす。
朝早くから活動しているのは老人ばかりだ。
あたしは元々農家の出なので、朝早くの行動は全く苦にならない。そうしているうちに、パティが来る。
「おはようございます、ライザさん」
「おはよう。 んー、少し背が伸びた?」
「そうですか? だとすれば嬉しいんですが……」
いや、物理的に背が伸びたわけじゃないな。
多分自信がついたんだ。
今まで見た中でも、桁外れの魔物。フィルフサの王種。それと戦い、生き延びた。最終形態を倒したのはあたしだけれども、それでもパティは善戦して、最前線で頑張った。そして、死なずに生き抜いた。
引くべき時に引く判断だって出来た。
それだけで、充分過ぎる程だ。
良質な戦いは戦士を成長させる。
パティはどちらかというと秀才型だが、それでもあれだけ良質な戦闘を重ねれば、伸びる。
戦闘をこなした上で、生き延びて。
適度に失敗もして。それでいながら、奥義もかっつり決めて。
それが、いい経験になったのだ。
今のパティは、酒場でくだを巻いているような、既に盛りを過ぎた騎士よりも。経験を積んだ戦士だろう。
十代半ばでこの領域に到達した戦士だ。
ただ、戦士として強くても、指導者として優れているかはまた話が別。それについては、ヴォルカーさんから薫陶を受けなければなるまい。
どうせ学園では、その辺りまともに学べないだろう。
タオやボオスから聞いているが、あそこは箔を付ける為の場所だ。
貴族の子弟がバカみたいな権力闘争ごっこをしているとも聞くが。
そんなものは、近いうちに瓦解する。
元々、五百年ももったのが不思議なくらいな貧弱な都市国家なのである。
無能な王族や貴族には、そろそろご退場願うのが筋というものである。
今のアーベルハイムにはそれが出来る。
問題は実質上王都の権力を背後から握っている可能性が高い、あのメイド長達の一族だけれども。
その動向は、ちょっとあたしには読めなかった。
それだけだろうか。不安要素は。
「おはようライザ」
「おはよう」
タオやレントが来て。他の皆もおいおい集まってくる。
今日からまた、アンペルさんとリラさんは別行動だ。二人には、例の門の制御装置を作ってもらう。
それには、門の制御装置を操作し慣れて、仕組みも知り尽くしている二人が最適だ。
もちろん素材などが足りなくなる可能性があるから、その時はあたしも協力する。
最後にクリフォードさんが来たので、朝のミーティングを行う。
「今日はオーリムに出向いて、周辺の偵察と、物資の回収、後は水害の出来るだけ早くの解決が出来るかの調査をするよ」
「やれやれ、フィルフサに遭遇しないと良いんだが」
「その可能性は低いでしょうね。 そもそもフィルフサは群で個、個で群の存在。 担当地域をそれぞれ守る生態がある。 要するに、あれほど強力な王種の縄張りに近付こうとする王種がいるとは思えないわ。 少なくとも数年はね」
「そうか……」
セリさんに、ボオスが答える。
まあ、納得が行く理屈ではある。
ただそれでも油断は禁物だ。ただ敢えて水だらけの場所に、ドラゴンの要素がないフィルフサが近付くともまた思えなかったが。
午前中に作業を片付ける。
あまり確認は出来ていなかったが、それなりの素材は取れる筈だ。あれほど強力なフィルフサがいたのだから、ひょっとしたら高濃度のセプトリエンもあるかも知れないが……それはあくまで高望みだろう。
タオが挙手。
「ごめん、僕は今日は学校に出るよ。 それと、午後からヴォルカーさんから話があるっていう事でね」
「えっ……」
「前から僕には期待しているらしくて、推薦状を書いてくれるらしいんだ。 まあ多分来年になるだろうけれど、博士課程の論文を書く時に、相応の伝手が必要らしくて」
馬鹿馬鹿しい話だよと、タオが苦笑い。
だけれど、あたしとパティは笑わなかった。
多分、タオはその裏にある話を告げられるはずだ。
パティは俯いていて、顔を上げない。
真っ赤になっているのかも知れない。
それを、あたしは笑うつもりはなかった。
タオはこういう奴だ。
だから、しっかり話をしておくつもりなのだろう。ヴォルカーさんの方から。
まあ、これでタオは逃げられなくなった。
年貢の納め時、という奴だ。
それにタオに意識している異性がいるとも思えない。
利という点でも、悪くない話なのである。
とりあえず、そのまま荷車を引いて、遺跡に向かう。まだしばらくは遺跡への出入りは自由だが。
その内アーベルハイムで此処はがっちり管理して、立ち入り禁止とする。
歩きながら、クラウディアが話す。
「機械の修理の件だけれどね」
「うん。 順番はそっちで決めて。 しばらくは、大急ぎで片付けなければならない用件もないしね」
「分かった。 じゃ、王宮秘蔵の機械からにしようかな」
「面白そう。 どんなのが秘蔵されているやら」
ふっとあたしが笑って。
クラウディアも苦笑い。
王宮の権威なんてものはない。
王都の壁の内側にはあるかも知れないが。そんなものは、既に此処には届かないのである。
クリフォードさんに、遺跡の壁の操作は任せる。既に水は引いているから、辺りはひたひたじゃない。
ただ、五感干渉は健在だ。
皆に、それだけは留意して欲しいと、注意喚起はしておいた。
奥に行くと、既にアンペルさんとリラさんが作業をしている。てきぱきと組み立てをしている様子は、流石にたくさんの門を封じてきただけの事はある。
軽く話をするが、やはりフィルフサの気配はないらしい。
門の向こうの雨も、既に止んでいるようだった。
門を抜けて、向こう側に。
フィーが嬉しそうに飛び立って、周囲を飛び回る。
やっぱりこれが自然門だから。それも、ドラゴンが関与した。それ故に、嬉しいのだろう。
オーリムの空気云々は関係無い。
そういうものだ。
「フィー。 何がいるか分からないから、もどっといで」
「フィー!」
すぐに懐に戻ってくる。
もう、完全に言葉を理解していると言う事だ。
辺りを調べて行く。泥濘の地になってしまっているが、場所によっては既に水が引き始めている。
土を調べていたセリさんが、頷く。
やはりこの辺りは、フィルフサの母胎にはなっていない。
なら。後は復旧作業をしつつ。
水を豊富に蓄えられる土地に整えて。フィルフサがそもそも近づけないようにしてしまえば終わりだ。
元々古代クリント王国が水を奪わなければ、フィルフサの異常繁殖がなかったくらいだ。奴らは水にとても弱い。
これだけ水が多い地形だったら、問題は無いだろう。
辺りをクラウディアの音魔術で丁寧に確認しながら、物資を回収していく。
不意に、レントが手を振って来たので、そっちにいくと。
おっと、声が出ていた。
「どうしたんですか、ライザさん」
「見て」
パティに、あたしは満面の笑みで答える。
芽だ。
それも、かなり育っている。
植物の中には一日で人間の背丈くらい伸びるものもあるけれど。これはその類なのかも知れない。
こういう植物が、どんどん育てば、土地の保水力を上げていく。
元々水はけが良くない土地なのだ。
こういう植物は、そもそもこの土地に適応しているのかも知れない。
「ライザ、こっちに鉱石らしいのが結構散らばっているぞ」
「ん、今見に行く!」
「魔物は近くにはいないね……」
安心したようにクラウディアが言う。
辺りの泥は水をどんどん失い、土になりつつある。後は川の状態を整えて、そして森を作っていけば。
セリさんが、手で窓を作って、辺りを確認している。
もう、この辺りをどう緑化するかの、絵図が出来ているのかも知れない。流石、この辺りは専門家だ。
とりあえず、まずは地図作りからだ。
同時に資源も回収していく。
鉱物は、恐らく山の方から流されてきたものなのだろう。かなり尖っていて、大きいものが多かった。
割ってみると、かなり良質の金属がみっちり詰まっている。宝の山と言っても良いだろう。
内容を確認しながら、回収していく。
やがて、王種がいた丘に出た。
其処からかなり離れた地点まで、川が伸びている。クラウディアが、目を細めていた。
「多分、あの川の向こうが王種の根城だった、母胎だと思う。 土の様子が、最初に足を運んだときのグリムドルそっくりだよ」
「……そっか。 じゃああの辺りは、一度押し流さないといけないかも知れないね」
「例の水を奪う道具を使うの?」
「いや、堰を切るだけでいけるよ。 それに……フィルフサは少なくともいないし、王種がいない以上、ろくな抵抗もできないだろうから」
其処を処理してしまえば、後は終わりだ。
クーケン島に戻る日の事が見えてくる。
勿論、その前に。
やるべき事は、全てやらなければならなかった。
(続)
かくしてライザが関わった二度目の世界の危機はどうにか収束しました。
王種は倒れ、オーリムにはフィルフサなき土地が戻ります。
しかし、それで終わりではありません。
皆と別れる前に、やっておくべきことが幾つもあるのですから。
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