暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
王都の機械の修理。できる限り全て。
オーリムでのオーレン族の生存者の捜索と、その生活の支援。
そして門の封印。仮であっても、少なくとも人が入れないようにしなければなりません。最低でも今は。
やることは、幾つもあるのです。
序、後始末の始まり
門を抜けて、オーリムに出る。
ボオスも、学園での勉強が遅れていない時は、一緒に行動するようになっている。
この間のフィルフサの軍勢との戦いでは、基本的に前に出すぎないようにだが戦ってくれたし。
その時の技の冴えは、皆には劣ったが。
はっきりいってその辺に十把一絡げでいる戦士達よりも優れているとあたしは判断していた。
ボオスも少しずつ自信をつけているようだ。
いずれ、フィルフサを倒し。
門を閉じる作業に、あたし達と一緒に出られると思う。
ただ。その作業は恐らく果てしなく続く。
ボオスはいずれクーケン島の顔役としての仕事に、全力で向かう事になるだろうとあたしは思っている。
だから、いつまであたし達と一緒に戦えるか。
それは、分からないとしか言えなかった。
ともかく、水害の後始末をしていく。
セリさんが、水害の被害が小さかった地域から、どんどん苗を見つけて来るので。それを皆で運んで、指示通りに植えていく。
根付きやすいように肥料を作り。
更には川の形なども、整えていく。
時には爆弾を使い。
時にはゴルドテリオンによる錆びない合金を使い。堰を作って。
治水工事を行って、水が豊富な土地を、本来の豊かな場所へと変えて行く。
動物というのは逞しいもので。
ちいさな動物は、既に戻って来始めている。
パティはまだ虫はある程度苦手みたいだけれども。
それでも前みたいに、恐怖で真っ青になるような事もなくなってきていた。
それに、だ。
周辺を探していたクラウディアが、見つけてくれた。
リラさんと、セリさんと一緒に出向く。
この辺りに雨を降らせていた要因となっていた山の中腹に、いたのだ。
洞窟に集落を作って。
十人ほどのオーレン族が、身を潜めていた。
勿論あたし達をみて、鋭い敵意を向けてきたが。
リラさんが前に出て、白牙氏族のものだと名乗り。そして事情を説明してくれた。王種も倒した事を説明すると。
彼等彼女らは、おおと声を上げていた。
「武名高い白牙の者がいうならば……」
「それに緑羽の者が、緑化作業を支援してくれるというのか」
絶望に沈んでいた彼等の中に。希望が宿る。
一番背が低く、幼く見える男性が。咳払いをしていた。
「私が長老をしている。 貴殿がその良き錬金術師か」
「気恥ずかしいですが、王種の撃滅作戦を指揮したのはあたしです。 ライザリン=シュタウトです」
「そうか。 もはや此処にいる者達は、それぞれの氏族すらも失ったオーレン族の残存戦力にすぎぬ。 私はイム=フォレイロス。 もとの氏族の者はすべて失ってしまった。 敗残の者をまとめて、此処で必死に命をつないでいた存在だ」
「可能な限り、麓で暮らせるようにあたし達で支援をします」
リラさんが、耳打ちする。
非常に高齢な方だ。
長老達ほどではないだろうが、千年はどう見ても生きている、と。
オーレン族の見た目は人間とかなり違っている。特に老体は、人間の子供みたいに見えるそうである。
まあ、そういうものだというのなら。
そう対応するしかない。
まずセリさんと相談して、麓で暮らすための住宅を作るところから始める。
流石に敗残であろうとオーレン族。
皆身体能力は優れているし、何より魔術もとても強い。
あたしが持ち込んだ建築用接着剤と石材を用いて、てきぱきと家屋を作ってしまう。レントが舌を巻いている程だ。
それに覚えも速い。
建築用接着剤の事をすぐに把握して、使いこなしてくれた。
この土地で古代クリント王国の人間が直接狼藉を働いたわけでは無いが、やはり人間がオーリムで何をしたか知ってはいるのだろう。どういう手段で知ったのかはわからないが。ともかく、此方に警戒の目を向けているオーレン族の人もいたが。リラさんとセリさんが根気強く説得してくれている。
今は任せるしかない。
手際の良さを見て、レントが言う。
「オーレン族は種族として、明らかに俺たちの上位互換だな」
「うん。 人間が最高の種族なんかじゃないいい証明だね」
「だが、繁殖力に劣る。 見た所、この様子ではすぐに数を増やすことも出来ないだろうな」
リラさんがぼやく。
確か妊娠から出産までも、十年以上も掛かるとかいう話だ。それもちょっとだけ小耳に挟んだだけの話。
実際にはもっと掛かるかも知れない。
オーレン族と人間は非常に種族が近いように見える。
だけれども、仮に混血が起きるとしたら。
どっちが母親になっても、母胎に対する影響は大きく、命を縮めるのではないのだろうかとあたしは思う。
それに現状では、本当に限られた人間でなければ、オーレン族と手を取り合うことは出来ないだろう。
それもまた、事実だった。
「フィルフサによって恐怖をもたらされていた土地に光が戻った。 闇の中にも生き残りがいて、そしてともに再建を始められるか。 くー、ロマンだぜ!」
「これはロマンなんですね……」
「おうよ! 少しは分かってきたじゃねえか」
「はい……」
クリフォードさんが昂奮しているのを見て、パティが呆れる。でも、別に有害な考えでもない。
クリフォードさんは、今後アーベルハイムにほぼ専属で雇われることになる。
関係から言って、タオとも組む事が多くなり。当然ヴォルカーさんがとても頼りにする戦士になる。パティとも連携することが増えるはずだ。
特にタオの遺跡調査では、二人の連携が大きな成果を上げる事になるだろうと思う。
戦闘力では若干劣るタオと。
逆に戦闘力は優れているが、タオほどの知識がないクリフォードさんは。良いコンビになる筈だ。
そのタオはというと。
ヴォルカーさんに、パティとの婚約や、今後の事を告げられたようだが。
あっさり了承したそうだ。
オーレン族の人達と話しながら、必要なものを聞いているタオを見て、ちょっとだけ呆れる。
タオとしても、今後の遺跡調査のことなどを考えると丁度良いと答えたらしい。
それにタオは、はっきりいってあの実家のことを良く考えていなかったようだし。
良い機会だと思ったのだろう。
パティの事を異性としてどう思っているかは、タオには恐らくどうでもいいのだろう。そういう奴だ。
パティはそういう奴を好きになった。
パティはその話を聞くと、ちょっとだけむくれていたが。まあ、自分がそう判断したことなのである。
決めたことをしっかり完遂するのは立派だ。
それにタオはああいう奴だが。同時に浮気もしないだろう。
いずれは、パティが望むような関係になれるかも知れなかった。あたしの興味の範囲外だから、よう分からない。
タオが来る。
パティは、少し恥ずかしそうにしているが。タオは全く気にしていないようで。ちょっとその辺は、恋愛に疎いあたしでもイラッと来るが。あたしが怒っても仕方が無い事である。
もうみんな。
責任がある大人なんだから。
「ライザ、必要な物資は聞いて来たよ。 肉なんかはリラさんに聞いておくとして、後は医薬品だね」
「分かった。 リストアップして。 準備しておくよ」
「うん。 それと……」
タオが言うには、山の方にまだ幾つか、孤立している少数の集団がいるという話だ。そうなると、リラさんとセリさんのどちらかには、その人達の救援を頼みたい所である。生きているかも分からないし、山の状況が厳しいこともある。
山の中腹より上の方になると、高い湿度でしょっちゅう霧が出ていて、フィルフサも流石に近付かなかった筈だ。
あたしも見た事がないほど高い山である。
どれだけ好き勝手にオーリムを侵略して回るフィルフサでも、流石に猛毒である水が空気に充満している其処にはいけなかったと言う事だ。
「孤立している少人数となると、出来るだけ救出は急いだ方が良いね。 そうなると、リラさんにメンバーを選抜して貰って、そっちを手伝って貰おう」
「それがいいと思う」
「こっちはセリさんが必須だね。 後は……」
既にクラウディアが、「伝承の古き王」の母胎にしていた土を見つけている。
そこに、セリさんは何人かのオーレン族と一緒に、例の植物を植えに行っている。どうやら効果は申し分ないらしい。
驚きの声が上がっていた。
「強力なフィルフサの群れに汚染された土が、回復していく……!」
「これは、オーリム中に広めないと」
「いや、見た所繁殖力が強い植物のようだ。 この植物だけで、下手をするとオーリムが埋め尽くされてしまうだろう」
「取り扱いが難しいな。 何世代も掛けて、この植物でフィルフサの母胎となる土地を浄化していくしかあるまい……」
口々に話し合うオーレン族の人達。
オーレン族で何世代というと、何千年だろう。
そう考えると、この世界に古代クリント王国や、更にそれを上回る邪悪だという神代の一部錬金術師がもたらした惨禍の大きさがよく分かる。
今は、一つずつやる事をやっていかなければならない。
此方は大丈夫だ。
セリさんはそう言うので、護衛にレントだけ残しておく。
そしてあたしは。
水害の残りを排除するべく、泥濘の土地で、作業を続けた。
王都でも仕事は多い。
ただ、それでも以前のように、一秒を争う事態ではないのが救いか。
クラウディアが、順番に持ち込んでくるのは、機械の修理についてだ。
王宮に伝わっていた機械とやらは。それほど大きくもなかったので、そのまま持ち込まれたのだが。
なるほど、そういうことか。
「これ、多分今ある活版印刷機械のもっとすぐれた奴だよ」
「本当!?」
「うん。 ただ今の文字に対応していない。 そこを修正しないと使い物にならないだろうけれど」
「そっか。 直せる、ライザ?」
クラウディアが、大きな箱みたいな機械を前に聞いてくるが。
もちろんとあたしは答える。
さっそく分解して、部品を一つずつ修理していく。
どの部品も傷んでいて、満遍なく壊れているが。
仕組みさえ理解していれば、錬金釜の中で分解して再構築していくだけ。部品に使っている金属類も、今のあたしなら再現は難しく無い。
淡々と修理を続けて行き。
途中でタオも呼んで。現在の文字に内容を切り替えて貰う。
ついでにマニュアルも、光学式コンソールに入っていたので、それも修正して貰った。これで使えるはずだ。
組み立て直す。
動力については、これも魔力吸収型だ。
だが、空気中の魔力だけでは、ちょっと足りないかも知れない。竜脈の近くにでも置けば或いは。
少し悩んだ後。
オーリムから回収してきたフィルフサの残骸。その中でも、溺死したフィルフサのコアを解析してみる。
解析してみて分かったのは、それが非常にセプトリエンに近いものだ、ということだ。
前はよく分からずに使っていたが。
セプトリエンに極めて近いものであったのなら。
強欲で残忍だった古代クリント王国の連中が、資源として回収しようと考えたのも納得出来る。
だったら、こんなまがい物では無く。
劣化でもいいから。セプトリエンを使うべきだ。
トラベルボトルに入って、すぐにセプトリエンを回収してくる。
そして、それを加工して、動力源に埋め込んだ。
後は、すんなり動く。
操作して、色々な文書をあたしが作ったゼッテルに印刷してみる。本を作るのも自由自在である。
此処まで二日。
クラウディアが、本を作る様子を見て、絶賛していた。
「今生きている僅かな活版印刷の機械は、どれもとても扱いが難しくて、とても危ないの。 本を作るときにいちいち閉じるのだけれども、勢いがつくから、手指が切断されかねないのよ。 これは指定のこの溝みたいな所に表紙と紙を入れるだけで、製本までしてくれるのね」
「先に製本用の紐とか入れて置かないといけないし、表紙を指定通りに加工しておかなければいけないけれどね」
縦長の溝は、スロットとか言われていたらしい。
いずれにしてもこれは神代の、それもかなり古い時代のものだとみて良い。
王家の連中が秘宝扱いするのも納得だ。
そして、直せる訳もないとたかをくくっているだろう。
そこに現実を叩き付けてやるのは、痛快というものだ。
後は扱いをクラウディアに任せる。
ちなみに乱暴に扱った場合は、防御機能が作動するように加工しておいた。それについては、先に納入時に説明するようにも。
納入した後壊して、難癖をつけてくるような事があるかも知れない。
だから、追加で機能をつけておいたのだ。
なおクラウディアも、操作はすぐに覚えてくれた。
後は王宮にもいるらしいメイドの一族に引き継ぎを行っておけば、何の問題も起きないだろう。
あの一族は大きな裏があると思うが。
それでも、少なくとも人間に敵対しているようには思えない。
人間に敵対しているのなら、カーティアさんが命がけで街道を脅かす魔物や、フィルフサと戦ってくれなかっただろう。
そうやって、順番に持ち込まれる機械を直していく。
その過程で、神代の技術がもりもり頭の中に入っていった。
雑なあたしだけれども、こういうのは多分頭を使っている場所が違うのだと思う。覚えると、もう忘れない。
錬金術に関連する分野だから、だろうか。
それに、何より技術そのものに罪はないのだ。
使っていた連中がクズだった。
それだけだ。
淡々と機械を修理していく。
少しずつ目処が立つ。
王都を離れる時期の目処だ。
実家にも、手紙を送っておく。バレンツが、すぐに手紙を届けてくれた。
手紙には、王都で色々な仕事をしたこと。
たくさんの壊れてしまっていた機械を直したこと。
多くのすてきな人と仲間になったこと。
極悪人を成敗もしたこと。
まあ極悪人についてはフィルフサも含むので、正確にはちょっと違うが、分かりやすい方が良いだろう。
それに王都のカス貴族の幾らかが、あたしの関係するところで滅んだのも事実だ。
嘘は、ついていない。
そして、更に新しい技術を手に入れて。
クーケン島や、その周辺でも役立てられることを書いて。手紙として送った。
後は。残務整理をしていく。
ヴォルカーさんに頼まれていた薬や爆弾やインゴットについては、今後バレンツに供与を頼む。
あたしがクーケン島に帰るので。
ヴォルカーさんとしても、それで問題ないようだった。
少なくとも、王都近辺のバレンツの商務をクラウディアがやっている間は、これで問題は起きないだろう。
クラウディアの次の世代くらいになってくると話は別になってくるだろうが。
その時はあたしも人間を止めているだろう。
クラウディアは大親友だが。
その子孫まで、あたしと仲良くなれるかは話が別。
パティについてもそれは同じ。
アーベルハイムがずっとまともな家かどうか何て分からない。
そんなことはあたしも理解しているので。
その辺りは、今後クレバーに立ち回ろうと思っていた。
農業区に出向く。
かなりの人が農業をしていて。その中には、最貧民も多かった。黙々と働いているのは、例のあの令嬢だ。
結局救貧院に拾われて、此処での仕事を命じられたらしい。最初は嫌がっていたらしいが。
義賊の三人組に拳骨を貰ったそうで。
それ以降は、文句もなく農業をしているらしい。
今は、普通に農婦である事を受け入れているようだ。
憑き物が落ちたのかも知れない。
カサンドラさんの畑では、例のミラクルフルーツの生産の研究をしているようだ。あたしが顔を見に行くと、カサンドラさんだけじゃない。
以前、植物を納品した学生。カリナさんがいた。
彼女は植物関連で幾つか論文を書いた後、農業区での技術、知識関連での指導に回る事にしたらしい。
此処で経験を積んで、故郷に様々な作物を持ち帰り。
故郷を豊かにするつもりだそうだ。
特にミラクルフルーツを持ち帰れれば、特産品として多くの外貨を獲得できる。
そういう意味では、カリナさんもある意味とてもタフだった。
工業区にも出向く。
デニスさんは、今日も話しかけないと気付けないくらい集中している。これで泥棒が入らないのは、この人の腕が兎に角良いから、なのだろう。
デニスさんには、色々と世話になった。実はデニスさんの加工技術を見て、これは役立ちそうだと思ったものは学ばせてもらった。今後錬金釜でエーテルの中で要素を調整するときに。参考にさせて貰う。
デニスさんは、礼をあたしに言う。
そして、握手した。
きっと、デニスさんにも、あたしが持ち込む素材は刺激になったのだろう。
あたしは、笑顔で握手を受けていた。
後は、カフェに出向く。
カフェのマスターは、相変わらずの笑顔で迎えてくれる。
帰る日の目処が立ったことを伝えると。
寂しくなると言ってくれた。
順番に、残務整理を済ませていく。流石に、これ以上封印されている自然門もないだろうから。これでいい。
オーリムと此方をつないでいる自然門も、やがてアンペルさんが聖堂を完成させて、それで封じることが出来るようになった。
後は、あたしの残務が終わったら。
帰るだけだ。
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