暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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2、荷物をまとめて

オーリムに足を運ぶ。

 

既に聖堂は完成していて、アンペルさんが操作を何時でも出来るようにしてくれていた。同時に、アーベルハイムで遺跡の管理を開始。

 

立ち入り禁止にしてくれた。

 

ついでなので、上水と下水のコントロールセンターも、同じように立ち入り禁止の措置をしてもらう。

 

彼処には動力炉がある。

 

バカが盗んだりすると、王都が破綻する。

 

それもあって、しっかり守りを固めなければならない。

 

勿論あたしも防犯用のシステムはしっかり組み込んでおいたけれども。

 

悪知恵を働かせるときに、人間が通常以上のスペックを発揮する事を、あたしも良く知っている。

 

だから、徹底的に処置はしなければならなかった。

 

ましてやロテスヴァッサは、近々大改革が起きる可能性が高いのだ。

 

その時のどさくさで。とんでもない事が起きたら、たまったものではなかった。

 

オーリムに足を運ぶと。

 

あの子供みたいな姿をした長老。イムさんが来た。

 

笑顔を浮かべると、手を伸ばしてくる。

 

握手だ。

 

あたしも、喜んで応じていた。

 

「良き錬金術師ライザよ。 良く来てくれた」

 

「此方で困っていることはありませんか?」

 

「今の時点では大丈夫だ。 セリ殿が持ち込んでくれた植物のおかげで、フィルフサ共の母胎も順調に浄化が進んでいる」

 

「後は、他のフィルフサの群れからの自衛ですね」

 

頷くイムさん。

 

他のフィルフサの群れの斥候は、今の時点では姿を見せていないという。

 

この辺りはそもそも水が多く、王種「伝承の古き王」が姿を現したとき。多くのオーレン族が逃げ込んできていた土地だったのだという。

 

だが、自然門が出来た後。

 

王種はこの湿地帯に攻めこんできた。

 

それで、生き残りは山に逃げた、と言う事だった。

 

山にて散り散りに生活していたオーレン族は、最初に見つけたイムさん達含め合計で三十七人。なんとか全員が、此処に戻って来ることが出来た。手足を失っている人も多かったが、あたしが義手や義足を作った。いずれも、もとの手足と劣らない。アンペルさんが使っている古式秘具ほどの精度ではないが、日常生活には支障ないものを、今はあたしにも作れる。

 

リラさんとセリさんから、オーレン族の状況をこの人達は聞いている。後は、此処でどうにか拠点を構築していくしかない。

 

「川の安定はもう大丈夫でしょう。 後は、緑を復活させて、保水力を上げていくだけですが……見ての通り、セリ=グロースが的確に緑化作業をしてくれています。 来年には、ここもきっと美しい密林地帯に戻るでしょうな。 そうなれば、フィルフサなど此処には近付かないはずです」

 

「念の為に、フィルフサの群れを押し流せるように堤防を作っておきます。 それが終わったら……あたしは此処から離れ、故郷に戻ります」

 

「おお、何から何まですまないな……」

 

「あたし達の過去にいた人間が、オーリムにかけた迷惑に比べれば些細なつぐないです。 以降は、良い関係を構築できる事を祈ります」

 

幾つか、他にも細かい打ち合わせをする。

 

パティは特に、たまにここに来て、アーベルハイムの名代として、色々と打ち合わせをすることが決まっている。

 

また、近隣地域でフィルフサに脅かされているオーレン族に、此処への移住を促すかも知れない。

 

その時には、支援が必要になるはずだ。

 

その時も、パティが顔役として動く必要が生じてくる。

 

イムさんと、パティが打ち合わせをしているのを横目に、あたしは堤防を作成していく。

 

ちょっと地形が歪むことになるが。それでもフィルフサが攻めてきたときに、一網打尽にするための必要な戦略兵器だ。

 

ここに住む生物たちには、我慢してもらうしかない。

 

数日で、堤防は作りあげられる。

 

元々雨が多く、あたし達が作業をしているときにも数度スコールがあったくらいだ。

 

川の水量は多く。タオが何処に作れば効果的に鉄砲水を起こせるか計算してくれたので、すぐに爆破すれば即座に敵を押し流せる堤防は作る事が出来た。

 

問題は一つではダメだと言う事である。

 

山側からフィルフサが来る可能性はない。

 

あれだけ強力な「伝承の古き王」の群れですら、山には手出ししなかった。それだけフィルフサに条件が悪いという事である。

 

しかし、堤防一つで起こせる鉄砲水で、守りきれる方向には限度がある。

 

このため、同じように数日を掛けて、また別方向にも堤防を作らなければならなかった。そしてタオは、興味深々でオーレン族の言葉を学び。

 

オーレン族の言葉でマニュアルをしたため、イムさんに渡していた。

 

ちなみに言葉そのものは通じる。

 

リラさんもセリさんも、翻訳の魔術を使う事が出来るからだ。何でもオーレン族は言語こそ共通なものの発音がまちまちである事もあって、皆翻訳の魔術は使えるのだそうである。

 

だとすれば、話は早くていい。

 

もっとも、専門用語になってくると翻訳がかなり難しいようだが。

 

「うむ、これならば、即座に対応は出来るだろう」

 

「爆弾は千年はもつようにしてありますが、いずれ補修に来ます。 その時まで、子供とかが悪戯で動かさないように気をつけてください」

 

「うむ、分かっておる。 これだけ安定した状況なら、いずれ子供も出来よう。 数組夫婦もいるし、これから夫婦になる者もいるだろう」

 

「それは良かった……」

 

少しだけ、気も楽になる。

 

その後は、周辺を見て回る。

 

やはりというか、川の流域から外れると、フィルフサの斥候がいる。実力は、グリムドル近辺でみた奴らと同じ程度だ。

 

此奴らにつけいる隙を見せずに、見つけ次第に狩る事が必須だろう。

 

周辺の地図をタオが作っている間に、オーレン族の戦士と一緒に斥候は見つけ次第始末してしまう。

 

クラウディアが、先に音魔術で、敵の本隊がいる辺りを調査。

 

その辺りには、近寄らないようにもイムさんに話をしておいた。

 

どうやら、この辺りを中心にして、大きく囲むように三つの群れが存在しているらしい。ただそれらの群れは非常に遠くに本拠地を構えているようで。

 

基本的に水が多い此方には、あまり興味を持っていないようだ。

 

念の為に、情報を収集しておく。

 

リラさんにアドバイスを受けながら、この辺りのフィルフサの習性を確認する。

 

やはり別の群れと遭遇しても、攻撃行動を取る様子はない。

 

何かしらの情報交換をしているようだが、それだけだ。

 

水を枯らしたフィルフサに都合がいい土地を母胎にして増えているのだろうが。それも、規模はそれほどではないように思う。

 

この辺りにはやはり古代クリント王国は来なかったのだろう。

 

それだけで、充分過ぎる成果だ。

 

将軍を仕留めておきたいが、今の時点でフィルフサは此方の土地に興味を持っている様子もなく。

 

将軍を倒すとなると、敵の配置からして数日はオーリムを歩かなければならないだろうと、クラウディアが結論。

 

それは好ましくない。

 

今は、オーレン族の人達が守りきれるように、打てる手を全て打つべきだ。

 

そうして、あたしは王都とオーリムを行き来しながら、可能な限りの支援をする。

 

周辺の地図は出来て。

 

堤防も完成し。

 

更に周辺に潜んでいた、オーレン族も数名追加で見つかった。

 

よくぞ生き延びていてくれたものだと思う。

 

やはり湿地帯が元々拡がっていた事や。

 

何よりも、門に「伝承の古き王」の群れが集中していたことで。周辺に興味をあまり持っていなかった事。

 

他のフィルフサの群れが、この近辺に近付こうとしていなかった事。

 

それらが、大きな要因となったのだろう。

 

やはり手足を失っている人が多かったが。

 

それでも、生きているだけで充分だった。

 

後は、大丈夫だ。

 

母胎になっている土の浄化に成功したセリさんが、そう告げてくる。

 

リラさんも、後は此処で守りきれるはずだという話をした。

 

二人とも、それぞれに目的がある。

 

セリさんは、浄化を出来る植物の種を、オーリム中にまくこと。

 

ただし、フィルフサがいる場合は、当然植物を刈り取りに来るだろうし。水を奪われている土地では、まずは水を獲得しないといけない。

 

リラさんは、各地にある門の封印。

 

古代クリント王国が資源の略奪のために作った多数の門が、未だに放置されている。封印が半端になって、いつ開いてもおかしくないものも多いそうだ。

 

それらをアンペルさんとともに封印する必要がある。

 

古代クリント王国の版図から考えて、まだ半分以上が残っている可能性があり。

 

クーケン島にあったような、非常に危険な状態になっている門もまだある可能性が高いそうである。

 

だから、二人とも此処を離れなければならない。

 

此処はアーベルハイムに引き継ぐ必要がある。

 

だから、パティの案内で、ヴォルカーさんにも一度足を運んで貰った。

 

ヴォルカーさんは門に驚嘆し。

 

そしてオーリムを見て、更に驚いていた。

 

信頼出来ると判断したから、此処の状態の引き継ぎをした。

 

裏切ったら殺す。

 

当たり前の話だ。

 

それについては、ヴォルカーさんもしっかり理解出来ている筈。

 

イムさんと話をして、此処に対する支援を約束。

 

そして、門の管理方法。

 

合い言葉などを決めて、それで引き上げる事となった。

 

門を閉じる。

 

以降は二年に一度門を開けて、状況を確認する。

 

門については、制御装置である「聖堂」を最初から作る事が出来た事もあって、オーリム側からも制御出来るようにアンペルさんが調整してくれた。

 

二年に一度、人間の世界とオーリム、両側から指定の操作をし。

 

その際に合い言葉を使わないと、門を開く事は出来ない。

 

これで何かしらの問題が起きて、ならず者が遺跡や、更には壁の奥に入り込んだとしても、簡単にはオーリムにはいけない。

 

セーフティは二重になっている。

 

それで充分だ。

 

やるべき事は、全て終わった。

 

後は、それぞれが。

 

順番に、引き揚げて行くだけだった。

 

 

 

ヴォルカーさんが、戦士を多くつれて遠征に出る。

 

家を預かるのはパティ。

 

既に其処まで成長したと、ヴォルカーさんが判断したという事なのだろう。

 

その遠征に、クリフォードさんも参戦することになった。

 

此処で、お別れだ。

 

あたしがお別れを言いに行くと。

 

クリフォードさんは、餞別だと言って鍵開け用の装備一式をくれる。これはありがたい。あたしの方でも解析して、調合できるだろう。

 

「悪用はしないでくれよ」

 

「しませんよ。 絶対に」

 

「そうだな。 フィー」

 

「フィー?」

 

クリフォードさんは、またフィーを口説き始める。

 

ドラゴンの幼体。

 

つまりワイバーンと遭遇する事もあるかも知れない。いずれにしても、時々あの遺跡には警戒のために足を運ぶ。

 

だから俺と一緒に来ないか、と。

 

あたしではなくフィーを。

 

まあ、其処はクリフォードさんらしいか。

 

「フィー……フイッ!」

 

そしてフィーの反応も同じだった。

 

からからと、クリフォードさんは笑う。

 

「またふられちまったか。 ライザ、何かあったら、いつでも声を掛けてくれ。 ヴォルカーの旦那と相談してだが、それでもいつでもどこにでも駆けつけるぜ」

 

「ありがとうございます。 本当にクリフォードさんの勘と歴戦の経験は頼りになりました」

 

「そうだな。 いつまでも良き錬金術師でいてくれよ」

 

「それはもう、当然です」

 

悪を見た。

 

悪を知った。

 

だから、そうはならない。

 

弱い人間は、簡単に誘惑に転ぶ。

 

古代クリント王国を利用して、二つの世界を我欲とエゴで滅茶苦茶にした古代クリント王国の錬金術師も、最初は違ったのかも知れない。

 

だが、錬金術の圧倒的な力と万能感は、簡単に人間を狂わせる。

 

それはあたしでも分かる。

 

いや、あたしだからこそ分かると言うべきなのだろうか。

 

あたしはどうもエゴの類が極端に少ないらしい。

 

恋愛ごとにも興味を持てなかったし。

 

まあお金はあれば良いけれども、それでも他人よりわんさか蓄えようとか、そういうことは思わない。

 

知識に対する欲求はあるが、それはあくまでそれ。他人を不幸にしてまで得ようとは思わない。

 

多分あたしは、世間的には変人の部類に属するはずだ。

 

だがそれは、別に恥じ入るようなことではない。

 

「おうライザ」

 

「ん? レント?」

 

「しばらくは王都周辺で過ごす事にしたんだよ。 アーベルハイム卿に口説かれてな」

 

レントも来る。

 

そうか、レントも王都周辺の魔物討伐に加わるのか。

 

それで良いかも知れない。

 

レントはずっと、人間に怖れられる苦しい思いをしていたはずだ。だが、ベテランであるクリフォードさんが側にいれば、それで大丈夫だろう。

 

それに、だ。

 

「筆無精、少しは直しなさいよ」

 

「分かってる。 皆からの手紙は、みんな目を通してはいたんだ。 今後、少しずつまっとうに手紙を書くよ」

 

「まったく……」

 

「そろそろだ。 行くぞ」

 

クリフォードさんが、声を掛ける。

 

レントは、片手を上げて、戦士達の中に。

 

もう、多くの言葉は必要ない。

 

血縁も恋愛感情もないが、レントは家族だ。そしてレントはスランプを乗り越えた。あたしと同じように。

 

だから、それだけでいい。

 

手を振る。

 

多数の馬車に物資を積載した戦士の集団が、王都を離れる。

 

これから、各地の街道付近にいる強力な魔物を仕留めてくるのだ。あたしが用意したインゴットから、見違えるように強力に装備した戦士達が、ヴォルカーさんに付き従っている。

 

調査する限り、遅れを取るような魔物はいないだろう。

 

だとすれば、大丈夫だ。

 

二人が、これであたしの側からいなくなった。

 

 

 

アンペルさんとリラさんが、アトリエに来る。

 

オーリムの状況が安定して。

 

門の聖堂も完成して。

 

やるべき事はした。

 

そう判断してのことだそうだ。

 

最後に、アンペルさんの義手を微調整する。調合をしていると、どうしても超微細な動きが必要になる。

 

この古式秘具は、まだあたしの技術でギリギリ作れない。

 

古式秘具の中には、再現が可能だったり。調整とかカスタマイズが出来るものも増えてきているのだが。

 

これは調整は出来るが、製造は流石に不可能だ。

 

「どう、アンペルさん」

 

「ああ、悪くない。 この手はもう感覚もなくなってしまっているから、ずっと諦めていたんだがな」

 

「更に難しい調合にも挑戦できると思いますよ」

 

「そうだな……。 私も、才能の限界までやってみたつもりだったが。 今のこの義手なら、それ以上の事が出来るかもしれん」

 

アンペルさんに、どっさりお菓子を渡しておく。

 

クラウディアから、日もちがいいものを貰っておいたのだ。

 

アンペルさんは、声には出さなかったが、露骨に目の色が変わる。大きくリラさんが咳払いしていた。

 

「分かっていると思うが、一日で全部食べるなよ」

 

「分かっている。 これは、流石にもったいない」

 

「私が管理する」

 

「ちょ……それは……」

 

ひょいと取りあげてしまうリラさん。

 

それを見て本当に悲しそうにするアンペルさん。

 

人間は、子供の頃から根本的な精神はあまり変わらない。大人になっても性欲が追加されるくらいだけれども、それも影響は人次第だ。

 

アンペルさんも、エゴが薄い人間だったのだと思う。

 

だから、百年前。

 

ロテスヴァッサの周囲の錬金術師に迎合せず、陰謀に巻き込まれて腕を失ったのだろう。

 

だが、それは恥じるべき事ではない。

 

多分だけれども、この世界の錬金術は。

 

エゴ多い人間や、権力を指向する人間は、手を出してはいけないものなのだ。

 

それをあたしは、多数の失敗例を見て判断している。

 

今後、錬金術の才能を強く持つ人間が出て来たとしても。

 

その人間にエゴが多いようだったら。

 

残念だが、錬金術を即座に取りあげ。

 

場合によっては、首を刎ねなければならないとも。

 

「多少は連絡に返事をくださいよ、アンペルさん、リラさん」

 

「そうだな。 たまにバレンツに足を運ぶのは運ぶんだがな。 どうしても筆無精でいかんな」

 

「それどころか、暗号めいた手紙を書くからなアンペルは……」

 

「こればかりは習慣だ。 錬金術師としてのな……」

 

苦笑い。

 

リラさんは、なんだかんだでアンペルさんの事を良く理解していると思う。そしてこの二人は、ボオスとキロさんと同じく、希望だと思う。

 

古代クリント王国が不幸をまき散らした。

 

いや、エンシェントドラゴンの西さんの話によると、もっと古くから不幸がまき散らされていた可能性が極めて高い。いや、ほぼ確定だ。

 

そんな中、二つの世界の人間が仲良く出来るかも知れないと、周囲に示す希望。

 

それは、何よりも貴重だ。

 

ただ不安もある。

 

オーレン族の生態を聞く限り、やはり人間との生殖には大きなリスクが伴うと思う。

 

それについては、今のうちに研究をしておきたいと、あたしは考えていた。

 

そういえばグリムドルの方でも、夫婦がいたな。

 

グリムドルはかなり安定してきているので、ひょっとすると子供が、という話が出始めるかも知れない。

 

もしもそうなったら、研究用の資料がほしい所だ。

 

そうすれば、或いは。

 

両世界の間の子供が、いずれ見られるかも知れなかった。

 

二人を見送り、そして嘆息する。

 

これで合計四人が、あたしの側からいなくなった。

 

 

 

セリさんの様子を見に行く。

 

まだカサンドラさんの畑の近くで、例の植物の調整をしているようだった。

 

オーリムでの試験は済ませた。苗も種も渡してきたという。

 

だが、セリさんがいうには、まだ改良をしたいそうである。

 

出来ればオーリムでやりたいそうだが。

 

オーリムの土は既に持ち帰っているし、此処でも出来る。

 

何より、完全に改良をするには、安全が保証されている場所がいい、ということだった。

 

「ライザ」

 

「セリさん、しばらく此処にいる感じですか?」

 

「そうね。 次のタイミングでオーリムに戻ろうかなと思ったのだけれど、研究もあるから、あと一年は最低でも此処にいるわ」

 

「そうですか」

 

セリさんは、黙々淡々と、育った浄化用植物を手入れしている。

 

強力な固有魔術で成長を促進したり、強い株どうしを交配させたりしているようである。

 

周囲には、畑がどんどん増えてきている。

 

厩舎も。

 

この農業区は、アーベルハイムの手によって、一気に蘇りつつある。

 

まだ差別はある。

 

農業区は負け犬の行く場所、という心ない言葉は、まだ時々耳にする。

 

だけれども、カフェの食事が明らかに美味しくなってきている今。

 

その馬鹿馬鹿しい差別は、いつか解消しなければならないだろう。

 

「実はね、ライザ。 あたしは此処とは違う大陸から来たの」

 

「違う大陸ですか」

 

「そう。 違う大陸にある自然門。 オーレン族の強者達が守る、中心地」

 

「そんなところがあるんですね……」

 

感心しているあたしを見て、ふっとセリさんは笑った。

 

少しずつ、笑みが増えていると思う。

 

「もしも、各地に旅をすることがあったら呼んで頂戴。 更にこの植物の品種改良が出来るかもしれない」

 

「そうですね。 もしもまた、大きな危機があるときは、戦力として当てにさせて貰います」

 

植物の種と引き替えに。

 

フィルフサ案件の時は手を貸して貰う。

 

二人の間では、この会話で、それだけの内容が通じる。

 

そういう仲になった。

 

フィーを呼ぶセリさん。

 

フィーが側によると、何か、古い言葉みたいなのをかけていた。フィーは小首を傾げていたが。

 

既にすっかりフィーは元気だ。

 

「古い古いおまじないよ。 貴方たちが、いつまでも一緒に、平和でいられますようにって」

 

「……ありがとうございます、セリさん」

 

「私の感覚で言うとすぐ、また旅に出るかも知れないわね。 良き錬金術師のままでいなさいライザ。 もしも堕落しているようだったら、差し違えてでも首を貰うわ」

 

「分かっています」

 

そうだ。

 

あたしだって、堕落するかも知れない。

 

常に気を付けていなければならないだろう。

 

そしてその時は、セリさんにはあたしの首を取る権利がある。それだけの不幸が、あったのだから。

 

アトリエに戻る。

 

最後は、あたしだ。

 

準備を終える。

 

旅の支度は、既に整っていた。故郷に戻るだけの、些細な旅の支度は。

 

フィーが、頭をすり寄せてくる。

 

すっかり元気だ。

 

それに、確認も済ませてある。

 

北の里で貰ってきた、エンシェントドラゴンの西さんの体の一部。荼毘に臥す前に、研究素材を少しだけ貰ったのだ。

 

それでトラベルボトルによる世界構築をした時。

 

明らかに、フィーが別の反応をしたのだ。

 

凄く嬉しそうに飛び回って。

 

明らかに元気になったのが分かった。

 

フィーはもう、あたしの言葉を完全に理解出来ている。後は、意思疎通のための道具でも作れば。

 

会話も出来るかもしれなかった。

 

「さ、帰ろうフィー」

 

「フィー!」

 

クーケン島に、フィーの卵はずっとあった。

 

フィーがどういう生物なのかは、良く分からない。エンシェントドラゴンの西さんが、何かの精だとは言っていたが。つまりエンシェントドラゴンと関係がある事しか分からない。

 

ただ関係は浅くないはずだ。

 

「伝承の古き王」との対決の時、フィーが叫んだことで、明らかにあの冷酷非情なフィルフサの王が。

 

正確には、その中のドラゴンの要素が。

 

動きを止めた。

 

それは、明らかに影響があった、という事を意味している。

 

あれほどの強大なドラゴンに影響を与えるというのは、それだけ重要な生物だった事を意味する。

 

本当に、どうしてクーケン島にその卵があったのか。

 

数代前のブルネン家当主のバルバトスが、塔から持ち帰ったのだとすると。

 

古代クリント王国の連中が、宝として運び込んだ可能性が高い。

 

その理由も、出来れば調査はしておきたかった。

 

このアトリエは、ずっと使って良いと言う事だ。

 

だから、いつでも再度使えるように、最低限のものは残しておく。

 

後は釜から何まで、全て持ち帰る。

 

それなりに大所帯になるが、それは来た時も同じだった。

 

一度だけ、振り返る。

 

此処でも、一夏の冒険があった。

 

そう思うと。

 

王都には最後まであまりいい印象を持てなかったけれども。それでも、この場所や、たまたま巡り会えたまともな人達にだけは。

 

色々と、郷愁を感じるのだった。

本作の次に連載する作品はどれが良いですか?

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  • 真女神転生Ⅲの二次創作(真Ⅴ要素なし)
  • 流行り神二次創作
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  • オリジナルの長編
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